トレセン学園の隠れた名店   作:[]REiDo

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トレーナーのお仕事編。(本業)



"ほうれんそう"って重要らしいぞ

 

 某中央トレセン学園のある通路にて

 

 

「…………」

「…………」

 

 

 カツカツカツ、と。

 日の出る時間帯、学生が活発な昼時に、僕はある2人の方々と通路を歩いていた。

 というか、丁度買ってきたコンビニの弁当を食べようとした瞬間に呼ばれたのだ。お腹が減って仕方がない。今日は忙しくて、朝ごはんも食べてないのに。

 

 お腹が減っては活力も沸かない。

 ……僕は流石にトレーナーには貴重ともいえる昼ご飯の時間を取られる理由を知りたくて、僕を呼んだ少し斜め前を歩く女性の人――東条ハナ先輩に問いかけた。

 

 

「えっと……あの、東条先輩? これって一体どこに向かっているんですか?」

「現地に着くまでは秘密よ。あえて言うならそうね……トレーナー室かしら」

「は、はあ……」

 

 

 しどろもどろながら問うと、返ってくるのはそんな不確かな回答だった。

 トレーナー室……? いやでも自分はすでに与えられてるし。一体何のために……というか、誰のトレーナー室に向かうつもりなんだろうか。

 

 と、勝手に思考していると次は東条先輩から問われる。

 

 

「最近、担当の子が決まって忙しいらしいわね」

「え、あぁはい。書類整理だったりトレーニング決めだったりで時間が……。……というか書類整理が一番辛いですね。何ですかあの量、施設一つ借りるだけで紙の山が出来るんですけど」

「新人のトレーナーならだれもが通る道よ。慣れなさい」

 

 

 わぁ辛辣……

 正直あの量は1日2日ではどうにもならない気がしてならないんですが……

 

 

「…………当分は紙とのにらめっこになりますね」

「あー。大丈夫ですよ? 今から行くところはそういうのを何とかする場所ですから」

 

 

 不意にもう一人。

 僕の隣を歩いている少女から話しかけられる。

 

 青鹿毛(あおかげ)の頭髪に華奢なスタイル。

 学生服を身にまとい、ウマ娘特有の大きな左耳あたりに青色の翼の形をした髪留めを付けている女の子。

 

 

「すまないわね、アストラルウィング。貴女まで一緒に」

「いえいえ、私も丁度トレーナーの所に(遊びに)行こうとしてたので」

 

 

 話し方からもわかる礼儀正しさの少女の名は『アストラルウィング』

 トレーナーとしては知らない事すら失礼に当たる娘だ。

 

 現役からはすでに引退しているが、当時の活躍は多くのトレーナーと民衆に壮大な印象を与えたという。同期であった【皇帝】シンボリルドルフとはまた違う、ある種の伝説が彼女そのものなのだ。

 

 正直、こう平然と対面しているが、少し震えが止まらない。

 何せ、彼女の在り方は僕のような凡人からしてみれば『理想』に近いのだ。

 ただの平凡から駆け上がったあの光景は、トレーナーを目指して奮闘していた僕の記憶に、未だハッキリと残っている。

 

 GⅠレース5冠バ。

 当時【飛翼】や【翼星】などの二つ名を飾られた彼女。

 そしてもう一つ、忘れてはならない称号。

 と言っても、一部のネットの民の間でしか語られていない名前がある。

 

 【奮励の化身】

 

 どこから広がった情報化は分からないが、当時の彼女のトレーニング風景やレースへの執着を語られた話が、ネット上にてあったのだ。

 平凡が駆け上がるための頑張り、思いは、その情報を知った者の心に深く刺さったという。

 もちろん、僕もその一人だ。昔からのスレ民の出身だからね。

 

 そして、いつしかその話は広がり、アストラルウィングというウマ娘は平凡への脱却を図るものにとって『指針』とも呼べる存在になったのだった。

 他の人がどうかは分からないが、少なくとも僕はそうなったと信じている。

 

 …………ん?

 

 待って、何かが引っかかる。

 さっきの会話。東条先輩とアストラルウィングが交わした言葉の中に何か、重要な言葉が……

 

『いえいえ、私も丁度()()()()()()()に行こうとしてたので』

 

 多分これだ。

 で、東条先輩の話だと今から行く場所は誰かのトレーナー室……のはず。

 …………え、コレ、アストラルウィングのトレーナー室に行くっていうことなんじゃ……?

 

 

「あのー、先行っちゃいますけど」

「え? ああすみません!!」

 

 

 結局考える間もなく、僕は先輩とアストラルウィングに付いて行く事しかできなかった。

 急いで足並みを合わせようとすると、ぐぅ~とお腹の虫が鳴る。

 

 そして、学園のスピーカーから休憩時間が終わる鐘の音もなった。

 

 嗚呼……お腹減ったな……

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 そうしてやってきたのは、トレセン学園の大裏手。

 地には芝、隣を見るとコンクリの外壁が連なっている。

 

 ……いやもう、本当に裏手過ぎる。日中にも関わらず日差しが建物の陰に隠れて入ってこないし、そもそもこんな分かりづらい場所なんて誰も来ないだろって言うくらい人気がない僻地(へきち)過ぎる。

 

 そんな場所に、だ。

 

 

「…………あれですか」

「ええ、あそこよ。用があるのは」

 

 

 2つポツンと立ててある建物が嫌でも目に入る。

 周りに芝生しかないことから、存在感がすごく強い。うん。すごい。(語彙力)

 

 

「えーと、アストラルウィング? 自分が今から行くのって、君のトレーナー室ってことでいいのかな」

「? そうですけど? ……え、もしかして聞いてないんですか?私のトレーナーから何も?」

「うん、聞いてないよ……何も……」

 

 

 目を細めてどこか遠くを見る。

 うん何も聞いてない。なんだったら会ってすらいない。

 だってお昼ご飯食べようとしたらいきなり呼ばれて困惑したのは当の僕自身なんだから。……おかげで、お腹の虫がそろそろ限界だとうねり始めている。

 ああ、お腹減ったなぁ……

 

 と、僕の言葉が予想外だったらしく、隣の東条先輩が頭を抱えていた。

 

 

「はぁ……まったくあの男は……。()()何も言ってなかったのね」

「すみません東条トレーナー……。私のトレーナー、最近また何か趣味に再熱していたのでそれが原因だと思います」

「分かってるわ。貴女に責任は無い。問題はあの不真面目男よ」

「あはは……。いつもは真面目なんですけど、仕事上での人との関係になると途端にやる気をなくす人なので……。大目に見てあげてください」

「そうするかはあの男次第よ。……そろそろ胃痛薬買おうかしら」

 

 

 眉間を指でつまむ東条先輩と、その姿に頭を下げるアストラルウィング。

 その姿はどこか、疲れ切った社会人のようだった。

 

 ……ていうか僕、今からそんな人に会いに行くのかぁ……。

 

 

 

 

 2棟ある内の1棟に、僕らは入室した。

 普段は、扉前のインターホンで呼びかけて許可が無い場合、入室は(物理的に)できないとのことらしい。

 なのだが、今日はこの部屋を持つトレーナーの担当、アストラルウィングが代わりに許可を取ってくれたようなので、彼女が持っている室鍵を使って扉を開けたのだった。

 

 ――ゴゥン……、ガコガコ、ウィイイン、と。

 

 とても扉にあってはいけないような重厚な音が止まり、扉を手に駆け僕はその一歩を踏み出す。

 

 

 ――目の前に広がる無数のディスプレイ。カタカタと鳴るキーボードの音。

 ――一筋の光を通すことも許さない、窓の無い異質な部屋。

 

 トレセン学園とは思えないような隔離されたその光景に、自分は目を奪われていた。

 ――そう、その暗闇の中で一人座る男のような体格をした後ろ姿の人物に。

 

(あれが、アストラルウィングのトレーナー。【童心】なのか?)

 

 ただ単に、その存在感の大きさに僕は委縮しかけていた。

 

 

 

 アストラルウィングのトレーナー。

 伝説を育てたそのトレーナーの情報は、ネット上のどれを取っても信憑性が薄く、アストラルウィングが引退した今になっても情報量が少ない。

 それは何故か。

 

 答えは簡単、当人の情報統制が徹底しているからだ。

 

 極端に世間に情報を載せないとする行動力はすさまじく、過去にネット上に当人の情報を載せようとした者を、何らかの方法を用いてBANしたらしい。ちなみにそのアカウントは現在凍結されている。噂では彼に挑んだ大バカ者とどこかのWikiに記載されているだとか。

 

 ――曰く、そのトレーナーは正規のトレーナーではない。

 ――曰く、そのトレーナーは神出鬼没でありネット上に至ってはどこにでも現れる。

 ――曰く、そのトレーナーは不適切な行為を犯したマスコミの会社を潰せるほどの人物である。

 などetc……

 

 たった二度しか出ていないインタビューから、()()()()()()()()と声質が男性であること以外、これらの情報はほぼ全て噂となり果てているのだ。

 

 とはいえ、【飛翼(ひよく)】アストラルウィングを育て上げたという事実には変わりなく……

 

 その都市伝説性と、噂の数々を統合させネット上ではそんな彼の事を、敬意と疑念と不可思議さを持ってして【童心】と名乗られるようになったのだった。

 

 そして、そんな都市伝説の真実が……

 

 

(今、僕の目の前にいる……っ!)

 

 

 萎縮と同時に、僕は高鳴る高揚感を隠せないでいた。

 トレーナーを目指していたあの頃、ネットに住んで居た者として――

 いや、男の子として生まれたからには【都市伝説】という『伝説(あこがれ)』に近い概念には、どうしても反応してしまうのだ。だって僕男だし。

 

 あの情報を知り、歳を取ること3年。新人トレーナーになって1年になっても、僕は彼への興味は尽きないでいた。いや、同じ【トレーナー】という立場になってからもっと深まったかもしれない。

 

 3ヶ月ほど前に、初めての担当を持った。 

 

 初めて育てるウマ娘。

 トレーナーとして、彼女を勝たせるために切磋琢磨することの過酷さ、大変さ。

 その経験は常に僕の体を叩き続けている。

 

 そんな中、僕の目の前に『伝説(あこがれ)』が現れた。

 

 そんな伝説を育て切った人に、是非とも助言を、と。

 そう思った瞬間、僕の口はいつの間にかひとりでに開いていた。

 

 

「……あ、あの!じ、自分は!」

「無駄よ。そこに座っているのはあなたが考えている人ではないわ」

「ぁ、って……はぃ?」

 

 

 途切れ掛けの言葉で東条先輩の会話に何とか追いつく。

 ……どういうことなんだ?

 あそこにいるのはアストラルウィングのトレーナーではないとでもいうのだろうか。

 

 そんな僕の思考は他所に、東条先輩は眉間を再びつまみながらアストラルウィングに問う。

 

 

「はぁ……、アストラルウィング。すまないのだけど、彼がどこに(ひそ)んでいるかわかるかしら」

「う~ん……」

「え、潜む?」

 

 

 会話の流れが分からず困惑する僕。

 対して、隣をウロウロと歩くアストラルウィングはなんかいつも通りという感じだった。

 彼女は「最近は色々やってたし……」とか、「だとしたら」とかブツブツ言って……

 

 そして。

 

 

「ここ!」

 

 

 ほぼ仁王立ちの体制で、その場所の前に立ち止まった。

 

(段ボールが積みあがってるだけの場所にしか見えないんだけど)

 

 そうやって疑問に染まった思考があったが、それはまた新しい疑問へとすり替わる。

 詰みあがった段ボールの隙間。

 その隙間から、何か毛布のようなものが覗かせている。

 

 制止する僕を気にせずにに、アストラルウィングが積みあがった段ボールをテキパキと退かしてその奥にあるものがお見えになる。

 ディスプレイの光だけが灯る室内の中、僕は凝視して……確認した。

 

 その奥に置いて――いや、()()()あるのは一枚の布団だった。

 

 

「………………ん?」

 

 

 思考が止まる。

 

 いや、布団があること自体はまだわかる。僕も忙しいときはトレーナー室に泊まり込むこともあったし。それが置いてある理由は全然理解できる。

 

 ――だが何故、その布団が昼間というのも関わらず、中心が盛り上がっているのだろうか……?

 

 と、そんな僕の思考を現実に戻したのは、無邪気な「せーの」というかけ声だった。

 誰かと言われればアストラルウィングのものだが。

 

 そして。

 

 

「え~い、やぁ!!」

 

 

 バサリッ!!と、まるで布団をベランダに干すかのような勢いで、手にかけた布団を剥がした。

 はてさて、その中身は……

 

 

 

 

 

 

 

「ほらトレーナー! 起きてったら!!」

「う~……ん……、あと、気分、寝かせてくれ……」

 

(気分って時間の単位だったっけ……? ていうか親子のやり取り?)

 

 

 桃の中から桃太郎ならぬ、布団の中から現代人……?

 いや、当たり前か。ていうか何を考えてるんだ僕は。思考がおかしくなってるぞ。

 冷静に、そうだ冷静になって目の前の現実を見よう。うん。

 

 

「ダメだって! お客さんがいるんだから早く起ーきーてー!!」

「あぁぁぁ~~揺らすなあぁぁぁ~……」

 

 

 わあ~、仕事に遅刻しそうな父親を起こしてる娘の一コマが見えるなぁ……って違ぁう!

 

 ダメだやっぱり冷静になれない。全て理解が追い付かない。

 

 疑問1、なぜトレーナーと呼ばれる人が業務中にも関わらず堂々と就寝しているのか。

 疑問2、隣でとてつもない威圧を放っている東条先輩を前にしてなぜ目の前の人は委縮する気配すらないのか。

 

 疑問3…………え?この人が都市伝説の正体……?

 

 その他で呼ばれた理由や体を揺らされて今にも反動で首が外れそうな灰色パーカーの人に疑問を寄せれば数えきれないほどあるんだけど……。あーなんだろう……頭痛くなってきた。

 あ、胃もなんか……いやこっちは空腹痛かな。

 

 

 数分後。

 

 

 「あ"あ"あ"ぁ」と寝起き特有の掠れた声で布団から体を起こしたトレーナーらしき人が、東条先輩を見て思い出したように語りかけた。

 

 

「ふあぁ……ん……あぁどうも東条先輩。何か御用です?」

「…………具体的には私ではないのだけどね。用があるのはこっちの新人トレーナーの方よ」

「え。はぃ!?」

 

 

 急に話題をこっち振られて挙動不審になってしまう。

 いやいや、僕この人とは完全に初対面なんですけど!? 用があるも何も、僕分からないんですけど!?知らされてないんですけど!?

 

 

「貴方、昨日の業務スケジュールの中にあった【共有サーバーへのデータ保存】は終わらせているかしら?」

「え? あ、はい」

「そう。なら後は受け取るだけね。多良トレーナー? 貴方、それだけ堂々とサボタージュしているということは、しっかり仕事を終わらせているんでしょうね?」

「そりゃもちろんですよ。午前の内に終わらせましたから。ていうか寝てた理由は8割それの疲労です」

「残りの2割は?」

「一昨日のダンスの弊害です」

 

 

 ストレッチみたいに体を伸ばしながら、東条先輩と話をする灰色パーカーの人。

 

 ――いや多良トレーナーって東条先輩が言ってたな。ていうか怖い怖いです東条先輩。その威圧感は一体どこから出てるんですか。後なんで多良トレーナーはそんな平然としてるんですか。あなたに向けられている威圧ですよね。鋼の心臓でも持ってるんですか。(ガクブル)

 

 

「用がある……ああ、そういえば経理資料を俺に任せるのが初めての人がいたっけ」

「今頃思い出したのね……。そうよ。新しく担当を持った新人トレーナー」

「ふーん、それがアンタか?」

 

 

 腕を後ろに伸ばしながら僕を見る多良トレーナー。

 それと同時に視線が僕の方に集まる。

 

 ……そろそろ胃が痛い。なんで何も知らない僕がこんな風に話題を振られなきゃいけないんだ。

 とりあえず会話は成立させよう。うん。受け答えはしっかりしておかないと。

 

 そうして、多良トレーナーの問いに答えようと口を開こうとした時。

 

 

 

 お腹の時計がグゥゥー…と、問われた答えに応じてくれた。

 

 

 

 ……違う。誤解なんです。いや誤解じゃないんですけど。お腹減ってますし。ご飯食べてないし。

 だからその……苦笑しないでください……。一番効きますその反応。

 

 

 

 

他ウマ娘との絡みもっと欲しい?

  • くれ
  • いらん
  • どうでもいいからイチャイチャ見せろ
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