トレセン学園の隠れた名店   作:[]REiDo

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テイオー、出番だぞ



娯楽と目的への歩みの調節は慎重に

 

 

『ブライアンから話を聞いて付いて来たが……本当にあるとは』

『姉貴、座る場所はどこがいい? テーブルとカウンター席があるが』

 

『……おぉ、珍しいのが来たな』

 

 

 


 

 

 

 

 

「さて、と。始めるぞー」

 

 

 ウマズキッチンなう。

 

 もうこの場面説明も言い慣れたな。まあ一応補足で説明すると、時刻は午後3時の土曜日とだけ説明をば。立ち位置としちゃ、カウンター席にウィングとテイオー。厨房に俺と()()()()が立っているという感じだ。

 

 

「「はーい」」

「よし。いい返事だ」

 

 

 席に座っている愛バ達から返事が返ってくる。 

 実に間の抜けた良き返事だ。うんうん、中々リラックスしているようで。

 俺は前日に洗っておいたボウルを片手に持ちながら、担当2人の顔を眺めた。

 

 

「ねえアスウィー。トレーナー、今から何するんだろ」

「……さあ? 私も急に呼ばれたからわかんないよ」

 

 

 はっはっは、白々しいなウィング。お前には説明してやったから事情は分かってるだろうに。テイオーを逃がさないためにわざと知らないふりをしてやがるな。

 

 ……さて、これから何を始めるかについてだが。これに関しては今日の来店者に関係している。

 それがこの娘だ。

 

 

「すまないな。付き合わせてしまって」

 

 

 顔が埋まるのではないかと思うほどに前後左右に伸びた頭髪に加えて、大きい頭

 そして、着慣れているらしいエプロンを付けて俺と一緒に厨房に立つ少女。

 

 彼女の名前は「ビワハヤヒデ」

 

 つい数日前に知り合って、料理の知識などで意気投合した新しく興味の沸いた知り合いである。

 

 

「なに、事情を知ってる以上俺も無関係じゃいられないからな。店主としてもだが、一人のトレーナーとしてもナリタブライアンの野菜嫌いを何とかしなきゃいけない義務があるさ」

 

 

 俺個人の興味ってのもあるしな。っと、だべる時間じゃないか。

 んじゃ、経緯の説明といこう。

 

 

 ナリタブライアンとビワハヤヒデ。

 きっかけの原因は、数日前にこの2人の客が来店してきたことから始まった。

 

 様々な事情があるものの、曲がりなりにもうちは飲食店。

 トレーナーに限らず、色んな人が来店することだってある。上司だったり、事務業の後輩だったり、それこそウマ娘達だったりだ。

 その例に漏れず、トレセンの生徒会のメンツが来店することもあるのだ。

 ……まあ、隠れた店って(てい)でやってるからあまり人は来ないが。

 

 と、それは良いとしてナリタブライアンとビワハヤヒデの話をしよう。

 

 まずはナリタブライアン。

 彼女とは生徒会の副会長であることから、職員の俺と少しは知り合いの仲である。

 というか、生徒会メンバーとは業務の関係上全員知り合いだ。経理処理を任されることがあるからな。

 

 そんな彼女は生徒会のメンツということもあり、俺の店を設立当初から知っている数少ない一人だ。硬派な性格故か、あまり店に顔を出すことはないが、それでも大事な客として扱っている。

 

 

 次はビワハヤヒデ。

 彼女とは、初顔合わせかつ俺の店の初見さんだった。

 冒頭の会話であった通り、俺の店を知ったのは妹(?)のナリタブライアンからの紹介らしい。

 

 そして、彼女が今日の集まりの提案者である。

 

 理由等とかは口頭で説明するのもなんだし、数日前の会話を元に説明しよう。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 数日前『ウマ小屋』にて

 茜色の空が夜の帳で閉じかけた時間帯。

 

 

『……おぉ、珍しいのが来たな』

『久しいなトレー……いや、今は店主か』

『おう、久しぶりだ。つか、そこまで呼び方を気にしなくていいっての。どっちも俺を指す名前なんだからよ』 

『そうか、ならトレーナーと呼ばせてもらう。生徒会との関わり上、こっちの方が呼びやすい。

姉貴、カウンターの方に座ろう』

 

 

 口に枝を加えながら、ブライアンはカウンター席に座る。

 隣の頭がデカい少女――()()()()()()も、それを見てブライアンの隣の席に座った。

 そして、初見さんである彼女は、俺の店を眺める様子を見せて俺に問う。

 

 

『キミがここの店主ということでいいのか?』

『ん? ああ、そういうことだ。姓は東八尾(ひがしやつお)、名は 多良(おおい)。まあ名前は長いから店主とかそっちのブライアンみたいにトレーナーとかで呼んでくれて構わねぇよ』

『そうか、なら私は店主と呼ばせてもらおう』

 

 

 微笑を浮かべながら、彼女は長い後髪を手で払う。

 スレ民なら瞬で惚の字が浮かぶような美顔だが、生憎(あいにく)そういうのはウィングで見慣れてる俺は平然と座る2人に()()()()()

 

 いつもなら、既にメニューを決めて提供するのが俺の店ならではのスタイル。

 ――なのだが、この日は何も決めずに要望された料理を作りたい気分だった。

 

 慣れない注文をされたブライアンは少し考えてメニューを決めた。

 初見さん故か、そういう形式なのだな、と理解したビワハヤヒデは食べたいものを決めてたのか悩む様子無く注文をした。

 

 前者がハンバーグ

 後者が野菜炒め

 

 ――野菜炒めと聞いたブライアンが顔をしかめたその一瞬を、俺は見逃さない。

 が、そんなことは知り合いであることから分かっていたこと。

 

 何も思うことなく厨房に向かい、慣れた手つきで調理を開始。

 野菜炒めは定番の調味料やらを使ったものを。

 ハンバーグはトッピングの野菜無し――のように見せかけて()()()()したものを作る。

 

 もちろんウマ娘サイズということもあり、超大盛で。

 

 そしてその最中、思い出すように俺はビワハヤヒデへと確認を取る。

 

 

『――ところで()()()()()()。アンタ、この店を知ったのはブライアンの紹介からって感じでいいんだよな』

『そうだが……ん? ちょっと待て、私はまだ()()()()()()()()()()()はずだが、なぜキミは私を知っている?』

『いろんなところで有名人だからな。名前も顔もよく覚えてるよ(頭がデカいこと含め)』

 

 

 俺の言葉に疑問を持ったビワハヤヒデだが、その理由を聞いて納得したらしい。まあ、ただ入学してきたウマ娘たちの顔は一通り頭に入れてるだけなんだけど。思い出し記憶って奴だ。常には覚えてられない。

 

 その後、俺は彼女からブライアンからの情報源であることを確認。

 調理の手は止めないまま、俺は心の中で「よし」と拳を握る。

 

 

 俺の店は隠れた店。

 そう言う体で経営している以上、俺の店の情報の出所は初見さんに毎回聞いているのだ。

 知り合いの紹介か? 偶然見つけたか? とか。

 

 そういう質問に対して、肯定ならセーフ。否定なら一応の声掛け。

 

 噂が出回る程度ならいいのだ。そんな店があるという噂が無いと人も来なくなるからな。

 だが、もしそれが確信となった時だ。

 俺が作り上げた、隠れた店という名の『ブランド』は消えてしまう。

 流石にそれは全力阻止だ。だからこその声掛け。

 

 看板無き店の実態は守り通す。これ俺のこだわり。おいウィング苦笑すんな(幻覚)

 

 

『ほいよ、ハンバーグと野菜炒め。お待ちどうさん』

 

 

 と、そんな思考とウィングのワンシーンが垣間見えた所で、雑談をしていた姉妹(?)2人に完成した食事を出す。ブライアンに姉がいるのは知らなかったが、さっきビワハヤヒデのことを姉貴って呼んでたから多分姉妹なのだろう。知らんけど。

 

 そうして出した巨大な2つの皿には、レコードディスク顔負けの巨大なハンバーグとエベレスト顔負けの山のような野菜炒めが盛り付けてあった。

 ……あ、そうだ。これも出しておかねぇと。

 

 

『……? 店主くん。私はハンバーグなど頼んでは無いのだが』

 

 

 野菜炒めと同時に出した小皿一つ分のハンバーグを見たビワハヤヒデが俺に問う。

 

 

『ああ、それはサービスだ。作ってる途中で材料が余ったってのもあるけど、ビワハヤヒデはうちの初見さんだからな。ま、今後ともご贔屓にって意図だと思ってくれ』

『……会長もよく言ってることだが、なぜお前はそういう気遣いをいつもできないんだ』

 

 

 うっせぇブライアン。それもうここ最近で3人くらいから言われたわ。

 それに、これは他にも意図がある行動だ。影響を与えるための、だ。

 

 

『ふ……。とはいえ、野菜を入れていないとは、お前も私が分かっているな』

 

 

 特にブライアン。お前にな。

 

 

『ビワハヤヒデ。そのハンバーグの感想を食べた後でいいから聞かせてくれ。俺はちょっと厨房の片づけをしてくる』

『あ、ああ。わかった』

 

 

 そう言って俺は厨房へと足を運ぶ。

 去り際に聞こえた「これは……っ!」という声を聴いて計画が成功したことを確信しながら。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「あのハンバーグには、細かく刻んであった多種多様な野菜が混ぜてあったんだ。しかも、食べている当人に分かり難いように色んな工夫もしてあるように見えた。……事実、あの野菜嫌いのブライアンが気づかずハンバーグを完食していたからな」

 

 

 正直ブライアンを見て驚いたよ、とビワハヤヒデが語る。

 回想は終わり、時間は現在に戻って店の中。俺はウィングたちに今日何をするかに至るまでの経緯を話していた。

 

 

「へぇ~、トレーナーってそんなのも作れるんだ」

「結構苦労はしたがな。レシピとか見たり実際に工夫したりで1日が潰れたこともあったぞ?」

「大変そ~だね」

「まあ、大変ではあったが作ってる最中は楽しかったぞ? 感覚としちゃあれだ。お前、テイオーのトレーニングメニューを作んのと同じ感じ」

「ボクのトレーニングメニューは料理を作るのと同じものだと思われてるの……?」

 

 

 判明した衝撃の事実に落胆の表情を見せるテイオー。

 ……自分で言っといてなんだが、感覚とかそういう例の類だから。あんま気にしなくていいぞ……?

 

 

「ま、とにかく俺は知り合った当初からブライアンの野菜嫌いは目に余っていたからな。ずっと前から何とかしたいと思ってたんだ。で、どんな手段を取ろうか考えてたんだが……」

「そこに姉妹のビワハヤヒデが来たっと」

 

 

 ウィングの言葉に俺はああ、と肯定する。

 

 

「姉妹となりゃ好き嫌いの把握くらいはできてると思ってな。……つってもまさか直々に教えてほしいって流れになるとは思わなかったわけだが」

「私としても、今後ブライアンの食生活を改善できるチャンスだと思ったからな。無理を言わせてもらった」

 

 

 話を聞く限り、ビワハヤヒデはブライアンの食事を作ることが多くあるらしいのだ。姉妹というからにはそういう機会も多いのだろう。

 そんな姉妹の姉であるビワハヤヒデ。面倒見がいい性格か、ブライアンの食生活には目も当てられない日々が続いていたのだという。なんでも、肉や肉や肉や肉を食べる生活だとか。偏り過ぎだ。痛風になるぞ。

 

 と、彼女がどうしようかと心の片隅で悩んでいたところに、俺の料理というアイデアが出てきたというわけだ。まあ、ただただ肉に多くの野菜を触感とか分かりずらい様に詰め込んだ料理だけどね。

 

 んで、そこからビワハヤヒデは俺に料理の教授を受けに来た、と。

 

 

「……てことで、一度集まって教授でもしようかって話になったんだがよ」

 

 

 さて、ここで本題。

 今日、なぜこの場に、話とは関係のないウィングやテイオーを呼んだのかだ。

 

 

「味覚ってよ、人それぞれで好き嫌いが違うだろ?」

「え? うん」

「料理って参考になる意見があれば、また良さげな改善案が生まれるかもしれないだろ?」

「う、うん……」

「その為には人がいるわけだよ。旨いかどうか味見をしてくれて、良い意見を言ってくれる人が」

「…………」

 

 

 テイオーが静寂を貫く。

 ウィングが軽い笑みを浮かべる。

 ビワハヤヒデが困惑顔で俺たちを見る。

 

 そんな中、俺は誰からか放たれる次の言葉を待った。

 

 そして数秒の間。

 静寂を破ったのは、やはり俺の担当だった。

 

 

「……え、待って!? じゃあもしかしてボクが呼ばれた理由って……」

 

 

 俺の言葉に動揺し、目に見えた困惑を見せるテイオー。

 

 そう、俺はテイオーに何の用事でここに集まってきてほしいかを()()()()()()

 なぜなら、理由を話せば十中八九こいつが尻尾巻いて逃げ出すからだ。物理的に。

 

 さぁ、テイオーが苦虫を潰した表情になったところで答え合わせだ。

 最近の俺に対する扱いの仕返しだと思いやがれ。

 

 

()()()。お前も野菜嫌いが激しいからな。これを機に慣れさせてやる。ついでに必要分の栄養も取らせる」

「ウ"ェ!?ヤダ!!」

 

 

 ガタッ!っとテイオーは座っていた椅子から思いっきり立ち上がり踵を返そうとする。

 が、しかし。それは瞬で。刹那の一瞬で止められた。

 

 

「逃がすなウィング」

「わかってるよ。はいはいテイオー、今日は付き合ってもらうからね~」

「ハナシテー!! イヤダー!! アスウィ-ノウラギリモノー!!」

 

 

 唐突な半角カタカナ叫びは腹筋に来るからやめてくれ(笑)(ゲス)

 

 

 走って外に逃げ出そうとするテイオーの行動パターンが分かっていたのか、一足先に後ろに回り込みテイオーを羽交い絞めするウィング。

 笑いを堪える俺。事情を知らず困惑するビワハヤヒデ。

 俺の店内に、そんな混沌とした状況が奔る。

 

 てか別にウィングは裏切っては無いだろうに……。いや、白々しい嘘つきではあるだろうけど。

 

『ねえアスウィー。トレーナー、今から何するんだろ』

『……さあ? 私も急に呼ばれたからわかんないよ』

 

 記憶から掘り起こされる数分前の会話。

 テイオーが何をするのか聞いてきたときに、知らないふりををしたのは間違いなくこういう反応をアイツが見たかったからだ。実に性格の悪い。

 

 だがテイオーよ。これはむしろ善意の行動だぞ。

 ついこの前、テイオーに最近の食生活を聞いてみると結構偏った結果だったからな。いくらレースで強かろうが、栄養不足の体調不良でレースに出れません、てのじゃ話にならないだろう。

 

 トレーナーとして、後は知り合いとしてこれは見過ごせない、いただけない。

 

 てなわけで、さっそく始めようか。

 

 

「ビワハヤヒデ、そこの食材から何か選んでくれ。普段ナリタブライアンが食べなさそうな物を」

「ふむ、ブライアンは基本野菜なら何でも食べないが…………そうだな。最近はこれかな」

 

 

 テイオーがウィングの腕の中で暴れているまま、顎に指を当て、思考するビワハヤヒデ。

 長考の末、そうして手に取ったのは――

 

 

「ピーマン!? お願いトレーナー!それだけは勘弁してェ!!」

 

 

 ……ああ、そういえばテイオーは特にピーマンを毛嫌いしていたっけな。

 遅帰りの時に夕飯を作ってやったら、ピーマンを入れるかどうかよく聞いてきたし。

 まあ必要になったら無理やり食わせたけど。

 

 

「と、トレーナー……?」

 

 

 分かってるよな? と信じるように、泣きそうな目をしながら俺の目を見るテイオー。

 分かっているとも。お前が嫌なことにとことん拒絶感を感じる性格というのは。

 どことなく俺と似たような感性を持っているのは分かっているとも。それは俺とてよーく分かっている。

 

 だからこそ、俺は笑顔でこう言うのだ。

 

 

「よし。使うか」

「トレーナァ!?!?」

 

 

 はっはーw!!

 最近の仕返しだテイオー!!自由時間を奪われに奪われ続けた俺の私怨を思い知りやがれぇ!!!(クソ野郎)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう……もうどうにでもしてェ……」

「あ、テイオーが溶けてる」

 

 

 2時間が経過。

 味見組が楽しみにしてたり溶けたりしているその間、調理組は試行錯誤を繰りかえす。

 

 数回の試食で分かってきたのは、テイオーは苦いものが特に苦手の部類に入るというものだった。

 子供の味覚は敏感だから、苦いものに拒絶反応があるっていうのはよくある話だし、まあ納得。後は甘党の弊害になるのかね。

 

 

「うーん……焼く時間をもうちょい増やすか。あと水も足そう」

「む、どうしてその必要がある?」

「野菜特有のシャキッて触感が残ってるから。野菜嫌いの大半は触感と臭いで好き嫌いを分けるからな」

「ふむ、ならばもう少し温度も上げてみるとしよう。5℃ほどで十分だろうか?」

「焦げ目がつかない程度に調整すりゃ十分だ」

 

 

 ……まあ今言った理由はこじつけみたいなもんだけど。

 だってハンバーグなのに肉感が無かったら美味しくはならないだろ?

 『目的』と『娯楽の潤い』の調整はしっかりしないと、いつか食事って行為そのものに目的の偏りが生まれるかもしれないからな。

 

 大胆に、たまには慎重に。趣味人には必要な技術だ。

 

 忘れないように人生を謳歌しよう。

 

 

 

 

 

 

「ところでウィング。お前、何でテイオーの反応が見たかったわけ?」

「ん? いやぁ、かわいい子供の狼狽える姿も偶には見たいなーって♪」

「……いい性格してるよお前。誰に似たんだ」

「少なくとも、私が今目の前で見てる人だとは思うけど?」

 

 

 

 





テイオーの出番。(不憫枠)
出番はあるって言ったからね。嘘じゃないし。

テイオーにピーマンを目の前に掲げて苦言した顔を両手でウリウリしてみたい。
めっちゃ癒しになりそう。


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