トレセン学園の隠れた名店   作:[]REiDo

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あけおめことよろ!(遅い)

みんな! 無料100連はどうだった!?
俺は☆3 SSRは1枚も出なかったよ!クソったれ!!(日頃の行い)



耳にはすげぇ神秘が詰まっているらしい

 

 カタカタ、と何かを(つづ)る音がそこに響く。

 

 

「…………」

 

 

 サラサラ、と何かを記す音がそこに広がる。

 

 

「…………ふぅ」

「むぅぅ……」

 

 

 一息をつく少女の吐息と、紙の束を眺めてペンを持つ少女の苦痛の声が部屋の一室に鳴り渡る。

 そして。

 

 

「……お、もう昼か。ウィング、テイオー、良い時間から一旦休憩だ」

「ん。もうそんな時間?」

「ふあぁ……ボクも疲れてきちゃったよ」

 

 

 その空気を途切れさせるように、俺のPCに設定しておいたアラームが静寂していた空間に弛緩を与えた。

 小柄なテイオーが足をテーブルの下に伸ばして寝っ転がり、ウィングは思い出したかのように背を伸ばして体をほぐす。

 

 

 

 てなわけでこんにちは、トレーナーだぞ。

 時間は昼時、場所はトレーナー室で俺は俺とて仕事中。

 同じく滞在しているウィングとテイオーはそれぞれ学園から与えられた宿題に取り組んでいる最中だ。

 

 俺はご自慢のデスクの前で10枚ほどあるモニターとの格闘。

 学生の少女らは俺が設置したテーブルの上で紙との死闘を繰り広げていた。

 

 あぁ、あとさっき紙束見て唸ってたのはウィングの方な。コイツはテイオーと違って天才タイプじゃないから課題にも一苦労する普通の娘なんだよ。

 それとは逆にテイオーの方はスラスラ解いてる。迷いがない。頭がよろしいようで。

 

 

 学生が歓喜する時期である夏休み。

 ブラックもブラックに染まった社会人には到底縁がないその連休に、うちの担当らは体を漬からせていた。

 

 ――が、普通の学校には程遠いトレセンではあるが学園は学園。学び舎であることには変わりなく、例に漏れず生徒には夏の宿題が渡されているのだった。

 そして、夏休みということで宿題という課題を片手間に暇を持て余した俺の愛バらがトレーナー室に押しかけてきて今に至る。こいつらホント俺の部屋好きだな。

 

 

「ほい、これ弁当な」

「わーい! ありがとうトレーナー!」

「ありがとね」

「おう」

 

 

 そして、今から昼飯という休憩に入る。

 重い腰を上げて部屋に設置している保温機から弁当を取り出し、俺はテイオー達に渡した。

 

 因みに弁当の献立は、ニンジンの塩漬けに小粒のハンバーグ。だし巻き卵に加えて、ちょっとこだわった豚バラの肉巻きとその他諸々といった感じである。

 ハンバーグについてはこの間の料理回で作ったような野菜混ぜ混ぜの物だ。

 

 

「ん~おいしい~!!」

 

(…………よし)

 

 

 既にいただきますの礼を済ませて、それにがっつくテイオーを眺めた俺はさぞかし安堵の表情をしたことだろう。

 

 あの料理回から1ヶ月。

 その期間、テイオーはハンバーグを見ただけで警戒をしてしまう体になってしまったのだ。どうやら相当野菜を食わされたことに対するトラウマが根付いていたらしい。

 野菜不摂取の自業自得と言えばそれまでなんだが、流石にここまで長かったのは予想外だった。子供の癇癪は長い、という孤児院の先生の雑談はしっかり聞いておくべきだった……。もう後の祭りだが。

 

 

「トレーナーの仕事は順調?」

「ん? おお、順調だな。このペースなら合宿前には終わりそうだ」

「おー、さっすがトレーナー!」

「テイオーはどうだ? 課題、何とか終わりそうか?」

「ふっふ~ん。ボクは完璧無敵のテイオー様だからね! 余裕をもって終わらせるのだ~!」

 

 

 おお、すごいすごい。

 流石テイオーだ。この様子なら予定した日程までに終わらせられそうだな。安心安心。

 ウィングは……目を逸らしてんな。どうやら相当苦労してるらしい。後で見てやるとするか。

 

 あ、テイオー。口にケチャップついてら。どれ、拭き取ってやろうとテイオーの口元にティッシュを運びそれを拭う。トレーナーくすぐったいよ~、と言いつつもその場から動かずにテイオーは俺に身を任せてくれた。

 

 

「……トレーナが長期休暇分の経理処理までするって言ったときは、流石の私でも冷や汗をかいたけどね。ホントに死んじゃうんじゃないか心配で」

 

 

 さらっと物騒なことを言いながらジト目で俺を見るウィング。

 

 

「しょうがねぇだろ、テイオーの夏合宿の期間分俺は仕事が出来ねぇんだ。その間に他のトレーナーが抱えてるもんを消化させとかねぇとすぐに山詰みになる」

「だからと言って10日分を1日で消化するのは色々おかしいと思うよ?」

「それはボクも思う」

「だからしゃぁねぇ(しょうがねぇ)んだって。仕事なんだから」

 

 

 そう、仕事だから仕方がないんだ。

 こうやって朝5時に起床して働き続けてるのも、ファイルの容量が120GBを超える経理を全部処理するのも。

 全部仕事だからな。

 仕事だから!仕方が!ないんだよ!なっ!*1

 

 ……とまあ、文句を言っても仕事は減らないわけで。

 

 やるしかないのだ。

 そうしなくては給料が入らない。

 俺の『目的』である趣味に使うお金が手に入らない。

 

 あくまで、仕事は『手段』に過ぎない。

 それを成し、代価として俺が得たいものは『目的』としている趣味への"お金"という片道切符。

 

 だから死ぬ気で終わらせるしかないのだよ。

 俺の人生って趣味に全振りだからな! その道が閉じたらマジで俺の人生終わるんだよ!

 

 

「でもトレーナーはいいよねー、夏休みの宿題とか絶対苦労とかしなさそうだもん」

 

 

 と、卑屈めいた思考に(ふけ)っているとテイオーがテーブルに顎を乗せながら言葉を飛ばしてくる。

 俺の仕事の速さがいろんなものに生かせるのか、とかそんな考えからだと思うが……。

 

 

「いや、普通に苦労したんだが。なんだったら最後まで残しておくタイプだったからな俺」

「え、なんで? トレーナーならいつもの仕事みたいに1日で終わるんじゃないの?」

 

 

 ありえないでしょ、といった具合に目を開くテイオー。

 いや、そんな目をされてもなぁ……。答えは一つなもんで。

 

 

「テイオー……人間の手は2本しかないんだ。同時思考ならともかく、パソコンを使うような同時並行の作業なんかできないんだよ」

「…………あーなるほど? なんとなく分かったよーな……?」

 

 

 ゴロンと今度はテーブルに頬をつけて、テイオーは疑問と納得が混ざったような表情をした。

 

 まあ、そういうことである。

 

 もう語ったかもしれんが、俺の特技は”同時思考処理”と”同時作業処理”。

 要は【マルチタスク】というものだ。

 精度はともかく、コレに関しては一般人よりとてつもないほど逸脱した特技だろう。事実スレ民には引かれたし。

 

 俺は電子機器――モニターなら10の資料を同時に見ることができるし、それを頭の中で全部見て思考処理できる。ちなみに、俺の同時並行処理の最高記録はモニター12枚分な。

 

 んで、だ。

 

 対して、夏の課題というのは基本”紙”での出力だろ?

 紙として出された書類をいつもの様に同時に処理するにはスペースの問題で限界が来る。A4用紙の紙束なんかそこらに広げたら余裕で一部屋が埋まってしまうのだ。まあ、それでも目に映ってる範囲内なら同時に思考処理はできるんだが。

 

 問題は記入方法なんだよな。

 だって、わざわざ腕一本使って一つの書類に書いていくんだから。面倒くさいし時間がかかるったらありゃしない。

 それに対してPCのキーボードなら指2本で文字が書けるんだぜ? 人の指は10本あるんだから単純計算で効率は5倍以上だ。

 

 つまり処理方法の問題で俺は苦労したのだ。中学から高校の課題はよ。全部紙製だったからな。

 それと同様に、今俺がやっている仕事ももし紙での出力だったなら……それはまあ苦労することだろう。多分いつも3()()()で終わらせる作業が2()()くらいに伸びる。

 やっぱ物は使いようだわ。特技も活かし方次第。マジで電子出力で助かった……。

 

 以下結論、文明の利器。万歳。以上。

 

 ちなみに俺の学校はそういう電子機器が流行る前の学校だったのでそういう手段は使えなかった。チクショウ。

 

 なんか今の学校ってすごいらしいな。授業も遠隔だし、宿題も電子資料で出していいって話をニュースでよく見る。時代の流れはすごいわ。(小並感)

 

 

 

 


 

 

 

 

「いきなりだけどさぁ。ヒトミミって改めて見ると複雑な作りだよね~」

「……なんだなんだ、いきなり人の耳をジロ見しやがって」

 

 

 課題中。

 対面に座るテイオーからそんな言葉が掛けられる。クリッとしたその目には俺の耳が移っているのだろう。

 いや、いきなり何? 休憩中の話題にしちゃ随分と突発的過ぎるが。どうした?課題で動かした腕の疲れで思考力が吹っ飛んだか?

 

 

「いやだってさ、ウマ娘の耳ってすごくシンプルな作りでしょ?」

「んなもん見りゃわかるが」

「うん。だけどヒトミミってすごくこう……なんか、まるくてグニャグニャーって感じでしょ?トレーナーのを見てたら気になっちゃってさ~」

「いやお前俺の耳を見る前に課題(現実)見ろよ。今午後6時超えたからな?マジで終わんねぇぞ?」

 

 

 テイオーのすっげぇくだらない発言にジト目で返す俺は何も間違っていないだろう。

 

 分かってるよぉ~、と足を机の下でバタバタさせながら駄々をこねるテイオー。

 脚が俺の太ももにダイレクトアタックしてライフダメージ6000くらい食らってるので是非ともやめていただきたい。やめて?ねえ?なんで加速するの?

 

(……クソッ、ストッパー役のウィングを俺の店で夕飯を作らせに行かせたのは失敗だったか)

 

 足の痛みに耐えながら自身の悪手に言葉を吐き捨てる。

 気分が他に移った時の子供といったら、それはそれは対応がめんどくさい。

 簡単な方法は――まあ、その気分をささっと発散させる事、か。

 

 

「はぁ……少し休憩にするか。俺もお前らのとこの寮長に遅くなることを伝えなきゃだしな」

 

 

 そう言って、目の前に広げていた課題らを一旦片す。あと、携帯で寮長への連絡、と。

 

 どうせそろそろ夕飯の時間にするつもりだったのだ。多少時間が速くなっても問題なし。なんだったらウィングが飯を作って戻ってくるまでの準備に当てよう。

 

 ……うん。そうしたい。

 行動に移したいんだけど。

 

 

「……お前ホント俺の耳を見すぎだろ」

 

 

 さっきから。

 俺が休憩って言った時からずっとだ。

 テイオーが俺の顔をめちゃくちゃ凝視しにきてる。針みたいに尖った視線というか、そんな感じのじーっとみられるような視線。

 

 張り付くようなそんな感覚に耐えかねて俺がテイオーに言うと、今度は逆にテイオーから。

 

 

「ね、ね、ね、トレーナー?」

「あ?」

 

 

 テーブルから身を乗り出して。

 まるで肉親に甘えるように。

 

 

「ちょっと。……ほんのちょっとだけでいいんだけどね?」

「おう」

 

 

 ちょっとだけ申し訳なさそうにでもあったが。

 確かに楽しそうに。興味本位全開な、そんなキラキラした目でこう言った。

 

 

「ヒトミミ、触らせてくれない?」

 

 

「は?」

 

 

 …………は?

 

 

 

 

 

 

 

 誰かが言ったっけ……「憧れは止まらねぇんだ」なんて言葉。どこの奈落のケモミミが言ったのかは知らんけど言ってたなぁ……。

 

 まあ、それについちゃ割と理解できるがね。

 憧れも趣味も『自らが定めた人生の目的』という終着点である以上、止まることはまずないからな。稀にだけど楽しみながら進むやつもいるくらいだし。

 まあそういう奴に限って大体、視野が狭いって特徴があるわけだが。

 

 昔のウィングがまさにそうだ。アイツはレースに憧れを求めた分、自身の内面を見ることが出来ていなかった。簡単な言葉で言うと、自己理解みたいなものになる。

 まあ、それができなかったからこそ、ウィングは挫折した時に立ち上がる事が難しかったわけで……いやいいか、この話はまた今度にしよう。長くなる。

 

 ……あ、俺? もちろん例に当てはまるぞ?だって完全な趣味人だし。他のことなんて基本どうでもいい思考な人間だからな。長所と短所は表裏一体ってこと。

 

 

 話を戻そう。

 憧れは止まらねぇんだ、の話に。

 ここまでの話を要約すると、「憧れに執着するほど、視野が狭くなる」ということだ。

 

 さて、ここで『視野が狭くなる』という言葉だけを覚えてちょっと今の俺の現状を見てほしい。……憧れの部分?ああ、適当な雑談だと思って流してくれていいぞ。

 

 

「あー、テイオーよ。俺の耳触るのは別にいいんだけど」

 

 

 目の前に映る視界にはピコピコと動く直立したウマ耳と頭部。

 鼻に香る優しい甘い匂い。おそらく柑橘系のシャンプーの香り。

 胴体には子供1人分の重み。……といっても結構軽い。抱き上げれば赤ん坊の様に担ぐことが出来そうだ。

 そして、肩にはテイオーの顎が乗っかっている感覚。

 

 どういう状況か?

 んなもん見りゃわかるだろ。

 

 

「なんで抱き着く?」

 

 

 えー現在、()()()で座りながらテイオーを抱っこしている状況でっさ。

 肩に顎を乗せられながら耳をペタペタぐいぐいちょんちょんと触られてる。ちょっと、いや結構くすぐったい。

 

 さて、状況を説明したところでだ。

 さっきの「視野が狭くなる」という言葉に乗じてちょっと言わせてほしい。

 

 …………コイツなんか俺の耳に対する興味に夢中で視野狭くなってね?(ハズレ)

 (テイオーは狙ってやってる模様)(確信犯)(甘え)(クソ雑魚読み間違い)

 

 

「えー?いいでしょトレーナー、減るものも無いんだしさぁ」

「いや別にいいけどさ、理由の方を聞いてんだよ」

「……そうしたかったからだけど?」

「…………まあ、ならいいか」

 

 

 とまあそんな感じでちょっと疑問を吐いたが、別に気にしているわけではないのだ。

 何せ俺は趣味人。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()――

 

 というより、考えることができない思考な人間だからだ。

 

 だからこうやって抱き着かれようと別にどう?ということはない。よくウィングから進められる漫画で見たテンプレ展開だと困惑する主人公の様子が度々映されるが、残念ながらそういう反応は俺にはできない。

 ていうか、()()()()()()()()()()()()()

 

 ……こんなのだからスレ民に変人って言われるんだろうけどな!うん知っている!!クソがよ!!(卑屈な笑み)

 

 排他的な思考を浮かべながら目の前の少女に目を向ける。正確には頭部だが。

 んで、さっきからテイオーがずっとペタペタ耳を触ってくるから、俺も対抗してテイオーの髪をサラッと撫でる。

 

 

「えへへー、くすぐったいよトレーナー」

 

 

 すると尻尾を振りながら身をよじらせてさらに密着してきた。

 

 ……話を戻すが、まあ、そんな理由ありきだからテイオーが抱き着いてようと何ら問題なし。

 孤児院のガキらに複数人抱き着かれるよりかは全然負担ないし、鼻に香る甘い匂いはいい気分にさせてくれる。

 

 あと、テイオーが()()()()()()()って言うんなら止める気なんてないな。

 俺は他人がやりたい事やるって言うんならそれを尊重する主義だし。

 

 

「…………あ」

 

 

 と、ふとテイオーの髪の毛。正確に言えばポニーテール辺りに視線が向いたらそこには……

 

 

「テイオー」

「んー? なに~?」

「枝毛、ちょっとはねてるぞ」

「え、ホント? トレーナーの家に来る前、ケアしてきたんだけどなぁ」

 

 

 目に見えて数本ぐらいだが、まああったのだ。

 綺麗な一直線を描いているポニテからはみ出した髪の毛が。

 

 

「どうする? 俺個人としちゃケアしてやりたいんだが」

「あー、じゃあお願いしちゃおっかなー」

「ん。任せろ」

 

 

 そう言ってテイオーが俺の耳触る事に集中できるように、出来るだけ体を動かさず傍にある棚に手を伸ばした。

 

 上から2番目の引き出しから取り出すは、1本のハサミとブラシを2本。

 ブラシは頭髪用と尻尾用をそれぞれ用意。

 準備は万端、いつでも行動可能状態だ。

 

 あとは抱っこされている当人の許可だけだ。

 

 

「枝毛を切るのと同時に()()()けど、いいか? 後ついでに尻尾も」

「うん。トレーナーに任せるよ」

「おう、了解」

 

 

 抵抗感なく告げられた許可を確認したので俺はテイオーの髪を遠慮なく触る。そして、手慣れた手付きで髪の毛のケアを始める。

 

 

 

 ていうか、相変わらず思うんだが。

 ウマ娘ってヒトよりケアするところが多いよな。主に尻尾なんだけど。あと耳な。

 んで、そんなヒトよりもケアするところが多いウマ娘なんだが、どうしてこうヒトよりもクオリティが高いんだろうか。俺の主観だと美人も多めだし。事実髪の毛サラッサラだし。

 

 そういうものなんかね?(謎)

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「…………えーと、どういう状況なのコレ?」

 

 

 夜飯をお盆で運んできたウィングが室内に入って疑問を放つ。

 疑問の視線はまあ、俺が胸に抱えている女の子に対するものだろう。

 

 

「お、ウィング。良い所に来た。ちょいとテイオーを運ぶのを手伝ってくれ」

「あ、うん良いんだけど。なんでこうなってるの? 抱っこしたまま寝ちゃって」

 

 

 すうすうと、小さい寝息を立てるテイオーに視線を向けて、俺はウィングの問いに答える。

 

 

「おぶったまま髪の毛と尻尾をとかしてたら、気持ちよさげに寝ちまったんだ。布団まで連れてくのも良かったんだが……こうも気持ちよさげに寝てると起こすのも気が引けてな」

「トレーナーが気が引けるくらいって…………あぁ確かに」

「……だろ?」

 

 

 俺が気が引くレベルと聞いてさらに疑問を浮かべたウィングだったが、テイオーの顔を覗き見てそれは一瞬で晴れたらしい。

 まあ。

 

 

「トレぇなぁ……お日様の匂い……むにゃ……」

 

 

 柔らかな顔をして気持ちよさげな寝言をつぶやくテイオーを見ればそんな疑問なんざ吹き飛ぶわけで。

 

 

「こんなん起こせねぇよな」

「だね」

 

 

 あまりにも軽快な寝顔に、眺めている俺らの方が笑みを浮かべてしまう。

 

 

「……運ぼっか?」

「いや、布団の用意を頼む。俺はテイオーをおぶるのに手が離せないからな」

「分かった」

 

 

 俺の頼みに応え、ウィングはお盆をテーブルに置いて、押し入れにしまってある敷き布団を取りに行く。

 

 

「ぅうん……トレーナー……」

 

 

 その時だ。

 ウィングを引き留める様に、テイオーが寝言を語る。

 

 寝言。

 もとい()()()()、だろうか。

 

 

「明日ぁ……お出かけ……しよぉ……」

 

 

 デビュー戦の前、約束したからな。

 仕方ないとはいえ、あの時から数か月も待たせてしまったのだ。遠足に行く前の子供のような楽しそうに眠るテイオーを見て俺は頭をさらりと撫でた。

 

 

「トレーナーの"()()()()()()()"*2 使うの大分遅くなっちゃったね」

「まあ、な。レースに集中させた結果というかツケというか」

「仕方ないと思うよ。あれだけ成長につながりそうなレースが多くあったんだから。ほら、テイオーにも理由を説明したら納得してくれたでしょ?」

「渋々だったがな」

 

 

 布団を用意しながらウィングが俺を慰めるように言葉をかける。

 それは有難い、が。

 

 

「…………楽しみを取っておくって考えはよく分かる。分かるが……流石に長引かせ過ぎた。これは俺の生き方に反した行動だ。楽しみにしていたテイオーには顔が上がらねぇよ」

 

 

 その言葉があってなお、珍しく俺の顔に雲がかかる。

 理由ありきとはいえ、人の――それも俺自身が世話をかけてる娘の楽しみを棒に振るい続けてきたことの罪はあまりにも大きい。そんな誰にも理解されないであろう罪悪感が俺の心を締め付ける。

 あの日から時間が経つたび、ずっと。

 

 

「ならさ」

 

 

 布団を用意し終えて、隣に座ったウィングが俺を見る。

 俺の目を見る。

 

 

「それまで長引かせた分、テイオーには楽しんでもらっちゃお? 思い出として残るくらい。忘れられないくらいにさ?」

「…………」

 

 

 悩んでいた考えが一瞬だけ晴れた。

 まあ、すぐに埋もれたが、ウィングの言葉が少しだけ救いになった。ような気がした。

 

 

「……そうだな。あぁ、俺らしくもなかった。楽しんでもらうことが俺が生きる上での最優先順位だってのに。まさか()()ウィングに言われて気づかされることになるなんてな」

()()は余計だって! 昔の私は視野が狭かったんだから仕方ないでしょ!?」

 

 

 俺の言葉に反応したウィングが若干赤面して俺の肩を軽く叩く。いや待て、今テイオー抱えてんだからちょっと待ってから叩いてくれ。揺れで起きちまうだろ。

 

 

「むにゃ……」

 

 

 いや、起きねぇなコイツ。めっちゃ安心して眠ってやがる。

 

 ……まあいい、とにかく明日だ。

 ウィングが助言してくれたように、長引かせた分はテイオーに楽しんでもらえるよう努力しよう。

 ファッションとかマジで分からんが。(年中パーカー人間のセリフ)

 

 

 

 ……髪、一日だけ地毛に戻そうかね?

 そっちの方が印象良いぞって親父にも言われたしな……考えてみるか。

 ファッション受けがどうかは知らんが、テイオーには楽しんでもらえるだろ。

 

 

 

*1
コーヒー涙目のブラック度合い

*2
6話を参照





次回、お出かけ。

補足:トレーナーの髪はいつも灰色
   ついでにパーカーの色も灰色


ウマ耳をじっくり触ってみたいと思う今日この頃。というか正月いっぱいこのことで思考埋まってた。ヤバイ奴じゃね俺?ヤバイな(自己解決)


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他ウマ娘との絡みもっと欲しい?

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  • いらん
  • どうでもいいからイチャイチャ見せろ
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