トレセン学園の隠れた名店   作:[]REiDo

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着せ替え人形の気分はマジで『無』

 

 

 この日、とあるショッピングモールで渦が発生していた。

 

 渦、と言っても本当に小さいものだ。

 それは人が見れば偶にざわっと騒がれるくらいの、小粒の規模並みでしかないものでしかない。

 

 男の青年と、その男の左右の手を片方ずつ繋いでショッピングモール内を歩く少女が2人。

 放っておけばすぐに消えるだろう――と思うほどのたった3人の親子のような集団。

 なのに。

 

 

「ねえあれって……」

「嘘、本物かしら?」

「何あれ、モデル?」

「綺麗な髪だわぁ……」

 

 

 行き交う人々が、たった3人の親子(?)に視線を集める。

 いや、目が離せなくなっているというのが正しいか。

 

 立ち往生する人々の反応は様々。

 驚愕、疑問、恍惚。

 これらの感情が込められた視線が目先を歩く親子のような集まりに注がれる。

 

 さらに、それらが少しずつ、少しづつ建物という箱に入った者達に伝染してゆく。

 

 それはまるで、周りを巻き込む渦の様に。

 

 

 

 ……さて、このような事態になったのは偶然には程遠く必然じみたものなのだが。

 明確な理由はやはり存在するのだった。

 

 

 まず1に【希少性】

 

 成人男性──20代後半に差し掛かる男が持つその頭髪。

 空に浮かぶ雲のような、薄く頑丈なガラスのような、真っさらで透明な『白』の髪。

 それが、多人数大勢に美しいと言わせるほど、煌びやかに揺れていた。

 

 齢60を超えた白髪なら──あるいはウマ娘の芦毛のようなものであるならば納得がいくのだろうが、違う。

 その男がなびかせるのは本物の、生まれてこの方変わりのない地毛であった。

 

 年齢にそぐわない『白髪』と、染色等の加工が無い純度100%の透明感が放つ謎の異質感。

 それらは、視界の端に写るだけで注目を集めるには十分すぎる理由だった。

 

 はい、まず1アウト。

 

 

 その2に【知名度】

 

 これは男にとっては関係が無いことだ、が。

 その両隣を歩く少女たちには大きく関わる。

 

 ──忘れてはないだろうか。

 彼女らは、栄光とも言えるレースを駆ける存在だと言うことを。

 

 まして、片や引退済みではあるもののターフを駆け人々を湧き上がらせたアストラルウィング。

 片や、今を輝くウマ娘ことトウカイテイオー。

 ダメ押しに、彼女らは一切何の変装などの行為をしていない。これは自然体でお出かけをしたいと言う、男の愛バであるテイオーの要望からだった。

 

 ここまで言えば後の説明は不要だろう。が、あえて一言語るなら『世間体を考えろバカ』とだけ。

 この地点で2アウト。チェンジは近いね。

 

 

 3に【容姿】

 

 これについて、平均的に美人とされるウマ娘のウィングとテイオーは言わずもがなだが。

 

 それに加え、男の方について説明がいるだろう。

 

 端的にまとめるとこの男、

『普段の性格と行動が常識的にオワってるだけで、それさえ抜きにすれば普通に美男子』なのだ。

 

 美男子と言うが、特に顔がいいとかではない。なんだったら男の顔なんて、どこにでもいる青年のようなものだ。

 だが、先も話した『地毛の白髪』の希少さ。

 それに加えて、『平均以上の身長(174cm)』

 いつものような着崩れしたパーカーではない、しっかりとコーディネートされた服装。

 しかもこの趣味活野郎、料理まで得意ときた。

 

 こう、全体を見れば、異性にモテる男の範囲内に入るのだ。

 もっとも、条件として特段行動もせず、自然体で()()()()の話ではあるが……

 見た目のプラス点を性格と行動でマイナスしているので、点数的には0、いやマイナスまで振り切っているかもしれない。

 

 ちなみにこの内容、ウィングのお墨付きである。流石に付き合いが長い分理解が深い。

 

 

 ……さて、ここまで語ったところでだ。

 今一度、【容姿】が注目を集める点になるかを説明するとしよう。

 

 テイオーとウィングは言わずもがな、美少女の為注目を浴びるとしてだ。

 男の方は、見た目は良いとして性格等がオワっている。

 

 しかし、傍から見る者としては『そいつの性格など分かったものではない』だろう。

 棘を含んだ薔薇、という表現が正しいだろうか。『内面』なんて、探ることをしなければ人は『外見』で判断するしかないのだ。

 

 ――つまりはこういう流れになる。

 

 テイオーの子供っぽい仕草に目を惹かれ。

 ウィングの乙女な仕草に注目して。

 そして仕上げに、男が持つ異質な容姿が周囲の視線を引き留めてしまっていた。

 

 これにて3アウト。チェンジ。残当。次のバッターの方どうぞー。

「かっとばせですわー!」

 

 

 

 で、そんな渦を生み出し、パンデミック並みの動揺をバラ撒いている当人たちであったが……

 

 

(どの店でトレーナーを着せ替えしようかな~♪)

(あー見られてる……まあやっぱそうなるよね。仕方ない仕方ない)

(……めっちゃ視線感じるな。まあそれがどうしたって話だが)

 

 

 テイオーは楽しみな感情の方が大きいためか気づく素振りすらなく。

 ウィングは予めこうなることが分かっていたのか、呆れて妥協するに至り。

 男は周囲の視線を感じとれているにも関わらず、()()()()()()()()()()()()()()にシカトを決め込んでいた。

 

 

 本日の天気予報は『晴れ』なり。

 ただし『渦』の発生に注意せよ。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 ……なんかやたら長い前書きですげぇ罵倒された気がする。

 気のせいか?いや気のせいじゃないよな。多分罵倒された。一体誰だクソったれ。(被害妄想)

 

 

「トレーナーまだ~?」

「ん、あぁもうちょい待っててくれ。着慣れない服だからどうも手間がかかってな」

「できれば手際よくお願い。もう次の服用意してるから」

「いや早えぇよっ!」

 

 

 虚空へ飛んでた思考を現実に引き戻した。

 

 テイオーとの合流から数分が過ぎ。

 俺は今、ショッピングモール内の服屋にて、試着室の中に立っている。

 

 合流直後は、テイオーが俺の容姿を見てめっちゃ驚いてたり動揺したりしてた。あの様子、見る側としちゃめっちゃ面白かったわ。まあ、すぐ慣れられたけど。適応能力すごいね君。

 

 んで、モール内を歩き回りながらいろんな店を見ていって。

 明るい笑顔のままテイオーに連れられた服屋に入ったと思ったら、速攻試着室送りにされたのだ。なにやら時間が惜しいらしい。店内を回ってる時間があるなら俺にいろいろ着せた方が楽しいとかなんとか。

 着せ替え人形にされた気分だ。マジでなんの感情も沸かないぞ。まあ俺はよくあることだけど。

 

 薄い布越しからはテイオーとウィングの声。高揚とした声質から聞くにめっちゃ楽しそうにしているんだろう。うん、良いんだけど。それが狙いだし。

 

 ――……だが待て。いや待ってほしい。

 

(……待て、待て待て!! なんだその山積みされた衣服ッ!?)

 

 薄い布越しから見える黒の影を見て、俺はゾッと背筋を凍らせた。

 カーテン越しの影から見るに俺の身長くらい積んであるんだが! まさかそれ全部試す気じゃないだろうな!?

 

 

「いいんですか? こんなに試しちゃって」

「いえいえ! (わたくし)達としてもぜひ試着をしてもらいたいな、と思いまして!あと、お客様の知名度がお店の評判を後押ししてくださるかもしれないので!」

「わお、すごい正直」

「ここまでボク達を堂々と宣伝に使うお店初めて来たよ……」

 

 

 おい店員!? アンタの仕業かよ!!

 ていうか宣伝のためにうちの愛バらを使うなんていい度胸してんな! 逆に気に入ったわ!

 つか、ついでの様に「お店の為」なんて言ってるけど、それただ俺を着せ替えしたいだけの口実じゃねぇのか!? 店長ー!ヘループ!!店員の独断専行でーす!!

 

 

「あ、店長にも許可は取って来てあるのでお気になさらず」

「クソッ!ストッパーが誰も居ねぇ!!」

 

 

 この店員、布越しでも分かるようにサズムアップしやがって……! ニッコリ笑顔が透けて見えるぞ……!

 これ全部試着する身になってみろよ、これ絶対めんどいし大変だろうが……ッ!

 

 

「…………チクショウ、まともなのは俺だけか……」

 

 

 諦めが肝心なことを悟った俺は、ハンガーに掛けられた服に手を伸ばした。

 

 文句タラタラ、死んだ表情のまま山積みの衣類を見て独り言を吐き出す。

 さて……一体どのくらいの時間を使うことになるのか……。考えただけで倦怠感が……。

 あ、また追加された。

 

 

「カーディガン、だっけか。こっちはまだ着やすい方かね……」

 

 

 手に取った服をチラ見して、記憶を探る。

 

 一応、服の種類については数日前に少しは調べておいたのだ。

 得た知識としては、オシャレってのは奥が深そうなのと、めんどくさそうなのと、時間と金がかかりそうってことだけが分かった。

 結局、調べれば調べるだけ俺の趣味の範疇からどんどん離れていった。やっぱり時間がとられるのは流石に容認できねぇ。他の趣味事もあるんだし。

 

 

「ねえねえアスウィー! こっちのなんかどう?なんか似合いそうじゃない?」

「へぇ……いいね♪ もしかしてテイオーこういうのにセンスあるのかな?」

「ふっふ~ん! ボクはテイオーだからねっ!色んな事が得意なんだ!!」

 

 

 閉じられた箱の外で、わちゃわちゃしている2人を見る。

 

 ……けどまあ、楽しそうにしているこいつらを眺める分には俺としても満足だし。

 たまには、付き合ってやってもいいかもな。うん。

 

 

「さて、着せ替え人形の時間だなぁ……」

 

 

 影しか見えない愛バらの楽しそうな動きを見て少し微笑みながら。

 俺はそう呟いて着ていた服に手をかけた。

 

 

 

「あ、これも追加で」

 

 

 

 ドドン! と効果音付きで追加されたであろう服に対して若干のけだるさを感じながら。

 

 …………別に付き合うのは良いが、ここまで遠慮無しにやりたい放題やられるのは癪だよなぁ……

 

 

 

 





今回は短めかな。
ちなみに次回もお出かけ編は続くよ。お楽しみに。


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