看板がない店ってなんかかっこいいよね(ロマン)
小さな拠り所『ウマ小屋』(看板は出してない)
トレセン学園。
ここは数多くのウマ娘を育成し、眩い未来へと導いていくことを目的とした施設だ。
世界中を熱狂させる栄光あるレースに【トレーナー】と【ウマ娘】たちがマンツーマンで立ち向かっていく――
…………めんどくせぇなこの喋り方、やめるか。5秒で飽きたわ。
最初はやっぱ自己紹介から行こう。そのほうがノリいいし。
俺の名前は「
おっと、年齢は聞くなよ。抹殺のラストブリッドを食らいたくなけりゃな。
そしてそこのお前ら、今名前長いって思っただろ、そうだよなげぇんだよ俺自身認めてやるから思った奴は早く出てこい一人ずつビンタしに行ってやる。
苗字が意味不明なほど長いから身内では漢字の頭文字ひとつずつ取って「ヒヤオ」って呼ばれる苦しみがお前らにわかんのかああぁん!?!?(過剰)
……まあ、トレセン学園に身を置く都合上最近は「トレーナー」って呼ばれ方のほうが多いが。
正直クッソありがたいわ。マジ感謝トレセン学園ここに就職してよかった。
少し感情に身を任せちまったが、そこはご愛敬。
あと普段はこんなテンション高くないからそこんとこもよろしく。
さて、先に言ってしまったが俺のトレセン学園での立場は【トレーナー】というものになっている。
どういう役割かというのは言うまでもないだろう。
輝ける原石【ウマ娘】を育て、レースを勝利へと導く役目。それがトレーナーだ。以下完結。
そんなことで、現在時刻は夕方を回り6時。
律儀に働く普通のトレーナーなら、業務終了時刻に近くウッキウキで帰宅路へつくのが普通なのだが、かくいう俺こと多良トレーナーは。
「はいはーい、開店ですよぉッと」
トレセン学園の大裏手、日の光が入ることも目立つことすらマジで滅多にないこの場所で。
一つ屋根ぽつんと置かれた小さな小屋の扉に『現在開店中』という板をくくり付けたのだった。
そういや言い忘れていたな。
俺はトレーナーで、飯屋 小さな拠り所『ウマ小屋』の店主だ。以後よろしく。
ちなみに看板は立てないぞ。だってそのほうが隠れた名店って感じでいいじゃんか。
そうでもない? こういうのはロマンでいいんだよロマンで。
小屋の中はいたってシンプル。
入ってすぐに確認できるのが厨房の前に設置されたカウンター席が4席ほど、そして入口の左右にはテーブル席が一つずつあり収容人数は最大で20人、広さ的には1LDKくらいになっている。
飲食店のような感じではなく、どことなく大人のBARをイメージさせる配置だ。
「今日の定食は何にしようかねっと」
顎に指を当て考える。何をって? 出す定食の内容だよ。
食材の仕込みはトレーナーの仕事をしているときにできる空きの時間に終わらせているので問題はない。
ちなみにうちのメニューはすべてその時の俺の気分次第で変わる。しかも出す飯は1品のみ。
ほらなんかさ、毎回メニューが違うと客側はわくわくするじゃん。あんな感じにしたかったんだよね。(語彙力)
あ、言っとくけど酒の類も一応出せるようにはしてる。
ここに来店してくるの大体トレーナーが多いからね。大人だからね。深夜にパーリーピーポーすんだよ。
ちなみに荒い客の場合は同期だろうが誰だろうが外にぶん投げる。柔道有段を
稀にそのトレーナーが担当しているウマ娘とくる奴もいるけど、その時は酒はNGにしてるぞ。泥酔したトレーナーをウマ娘たちに見せるわけにはいけないからな。学園側の配慮でもある。
なんせ大人の世界だからな。子供にはまだ早い。
「うっし、決めた。今日はゴーヤチャンプルーで――」
「おー、やってるかー?」
「お邪魔します」
ガチャ、という音とともに入ってくる男女2人。
見た目は高身長で顎に無精ひげがちらほらある棒付きのキャンディを口に咥えた男。まあいわゆる職場の先輩だ。見た目チャラいけど。
もう一人は礼儀正しくお辞儀をして店内に入る……栗毛のウマ娘。
「いらっしゃい、沖野先輩。んでそっちの子は確か――」
緑色のウマ耳カバーには覚えがある。俺的には惹かれなかったからうろ覚えではあるが、確か最近のレースで出てた……
「ああ、紹介する。うちのチーム<スピカ>の」
「サイレンススズカです」
よろしくおねがいします、と再びお辞儀。丁寧ねあなた。(誰目線)
「あー、"大逃げ"のスズカだな。……ってあれ?確かサイレンススズカってチーム<リギル>のメンバーでしたよね。なんで沖野先輩と一緒に?」
「お前じゃスカウト出来なそうですよね、みたいな顔で言うのやめろよ。俺だって結構苦労したんだぞ」
いやぁ……だって先輩ですし。
月7でうちに寄って酒カスになるあの先輩がこんな原石を拾えると思ってなかったし。
「今さっきオハナさんのところから引き抜いてきたんだよ。あっちは嫌々渋りに渋ったけどな」
「うへぇ……笑い事ですかそれ? 俺絶対あの人にメンバーの引き抜きとかしたくないんですけど。ていうか対立すらしたくないですよ」
さらっと放たれたその言葉に俺は苦虫を潰したしたような顔にならざるを得ない。
よくもまあこの人は
もはや感動ものだわ。拍手喝采送ってやれる。
俺は怖くて無理。酒を出すときに手が震えるくらいには無理。威厳ありすぎだよあの人。強豪チームのトレーナーだから当たり前かもしれないけども。
「よく言うぜ。お前さんだって、昔はよく他のトレーナーのウマ娘に勝手にアドバイスしてただろ」
「……人前で言うのやめてくださいよその話。いまだにそれ話題にしたら目の敵にされるんで。あと、今はアドバイスはトレーナーがまだついていないウマ娘にやっているだけにしてますよ、後々尾を引くんで」
あれはたまたまウマ娘がうちにやってきて飯食っていったからアドバイスをしただけであって、店主としてのコミュニケーションの一部だったんだよ。
あんなさりげないアドバイスで走法まで勝手に変えるとは思わなかったわ。マジで。
しかもそのウマ娘が<リギル>のメンバーって知ったときは卒倒したからな。東条先輩がうちの店来たときなんかマジで胃が擦り切れると思ったわ。
……ったく、話終了! これ以上は過去の問題を根掘り葉掘り掘り出しかねん。
「……それで? 注文は何ですか先輩? 定食決める前だったんで今なら好きなもの出せますけど」
「お前のお任せでいいさ。2人分頼む」
「わかりました。ゴーヤチャンプルーですけど苦手なものはないですか?特にそっちのサイレンススズカとか」
「俺は大丈夫だ。スズカは?」
「私も大丈夫です」
さっきの話をごまかすように切り替えて、先輩とサイレンススズカの注文を了承して俺は厨房に立つ。
さっきも言ったが俺は基本、朝のうちに
ちなみに余った食材は次の日の俺の飯にする。あと担当のウマ娘に弁当として渡す。
これぞエコ。
調理している途中、ふと先輩の座っているカウンターを見てみると、そわそわしているサイレンススズカが目に入った。
「そういえば、その子ここ来るの今日が初めてですよね」
「あ? まあそうだな。スズカには俺のおごりで飯食わせてやるってことしか言ってないし」
「……説明なしで未成年の女の子を見知らぬ店に連れて来たのかよ……」
材料を炒めながら俺は呆れ顔で先輩を見る。
そりゃあ落ち着かないわな。先輩は
「お前に言われたかねぇよ! 稀代のサボり魔トレーナー!!」
「……あれ? 今声出てました?」
「普通に出ていましたよ……」
サイレンススズカに苦笑されながら言われてしまった。
マジか、つい本音が。
「サボりって……俺は雑務こなした後の空き時間を自由に使っているだけですよ。最近はいいウマ娘と担当契約したんでそっちのトレーニングにも時間割いてますし」
「お前が
「……? ターフではあまり見かけないですよね?」
「まあな。トレーニングメニューぶん投げてあとは任せてるって感じにしてる」
え゛という声が聞こえた。
付きっきりっていうのも疲れるしな。俺、他の趣味に時間を使わないといけないし。
「相変わらず週2でしか顔見たことないぞ……。一体その余った時間何のために使ってんだよ」
「趣味」
「そんな自信満々で言うことじゃないと思います……」
何とも言えない表情をする2人を眺めながら、俺は料理を皿に盛り付ける。
いいんだよこんなもんで。仕事はしっかり終わらせてからやりたいことやってんだし。
理事長とかのお偉いさんからは『もうちょっと勤務態度よかったらいいんですけどね……』というくらいには呆れられているが、俺はこんな感じでいいのだ(強心臓)
「はい、できましたよ。ゴーヤチャンプルーお待ちどう」
皿に盛り付けたゴーヤチャンプルーを2人が座るテーブル席へ持っていく。
「お、相変わらずいい匂いだな!」
「美味しそうです」
いただきます、と言って料理に手を付ける2人をカウンター席に座りながら眺める。
店の所在が出回っていないからホントに、ビミョーな程の風のうわさではあるが、うちの飯の評判は「普通にうまい」って感じらしい。
俺自身、料理はたしなみ程度の趣味なのでそこの評価については、まあ妥当なラインだろう。
「サイレンススズカにはにんじんを多めに使っているからな。よく味わって食べてくれたまえ」
「お前のその気遣い、もっと他の所に活かせないのか?」
「あはは……。お気遣いありがとうございます」
にんじん多め(比喩なし)
にんじんという野菜を好むウマ娘にはそれ用の量を必ず用意する。これはトレセン学園の常識だ。ちなみにウマ娘が一回に食う量は一般男性の5倍、大食いの類に入る奴だとさらにその2倍は絶対に食うから注意が必要だ。主に食費に対してな。
ウマ娘のにんじん好きはもはや異様だ。
例えば、3段重ねになったレコードディスク並みの馬鹿でかいハンバーグににんじんをぶっ刺したり。
今俺が出したゴーヤチャンプルーに微塵切りのにんじんを顔が埋まるぐらい山盛りにしたりだ。
相変わらず意味が分からんし頭痛もする倫理観だ。しかもどんなものにでもにんじんさえ入れれば食いきるんだから料理を作る側としては逆に困る。
「…………」
「………………?」
黙々と山盛りに積もったにんじんに手を付けるサイレンススズカからどことなく視線を感じる。かれこれ5分以上。
おかしいな、にんじんの山で顔が隠れてるはずなんだが。眼力が強いのか? そもそも俺何かやったか?
……さすがに気になるし、好奇心がてら聞いてみるか。
「あー……サイレンススズカ? さっきから俺の顔見てるような気がするんだがなんか付いてる?俺の顔に」
「いえ……。あなたに似た人をちょっとどこかで見たことがあるような気がして。……一応トレーナーさんなんですよね?」
サイレンススズカが視線を向けるのは俺の左胸元。いや、正確にはそこに着けられたトレーナーバッヂだろう。
「んぐんぐ……、こんな目立たない学園の裏手で店を出してるし、ターフにも顔を出さないからほぼ都市伝説化してるが、スズカ。多良は一応トレーナーだ。も一回言うけどサボタージュ全開のな」
「余計なこと言わないでくださいよ……。あと飯食いながらしゃべるのは汚いのでやめてください放り出しますよ」
「ああ、悪い。だがサボりは事実だろ?」
「…………そっすけど」
頭を掻きながら渋々肯定する俺。
事実です認めますよくそったれ(敗北)
伊達に掲示板に『サボりトレーナーの日々』なんていうスレッドを立てちゃいないのだ。
たださっきも言った通り、俺は絶対に仕事を終わらせてから全力でサボることにしている。なので常識のラインで測ったらギリギリってとこだろう。根拠はないが。
……まあ、実際の所は俺の就業体制が原因で
だって、俺のトレーナー職って副業みたいなもんだし。本業はまた別にあるし。なんだったら俺がいないと、トレセンの業務がもっとブラックになるし。
そういう強制力が働かないから、ギリ認可状態って感じだろう。こっちについちゃ確信ありだ。
「まあ、俺を見たことがあるってんならそりゃ多分レース後のインタビューとかじゃないか?」
「インタビューですか……? あ、確かに思い返してみるとテレビに映っていたような気が……」
「2回しか映ったことのないインタビューで印象に残るわけないだろ……」
そりゃごもっとも。
ていうか俺がわざとインタビューに出ていかなかっただけだ。あの時は事情が事情だったし、それ以降は変に目立つ可能性を考慮したうえで、意図してインタビューに応じてこなかったのだ。
むしろ2回だけしか出なかったインタビューを朧気ながら覚えていたサイレンススズカのほうがすごいと思うわ。
俺の元担当は別としてな。
「ごっそさん、また来るぞ」
「ごちそうさまでした。また機会があったら来ます」
「おう。お粗末さん」
――あの後、いろいろ駄弁りながら先輩とサイレンススズカはゴーヤチャンプルーを完食して帰っていった。
俺は食器を片付けて、厨房前に置いているノートPCに先輩たちが食った飯の代金を打ち込んだ。
当然、店なのでもちろん金は取る。娯楽には対価を、当たり前の事だ。ここは奉仕する店ではない。
会計については、基本的にトレーナーは給料から自動的に引き落としされるようになっている。昔は定食屋さながらの手渡し会計だったのだが理由ありきで変わったのだ。
相も変わらず沖野先輩はトレーナー業にすべてを投資しているため、年がら年中金欠らしい。あの先輩、レースの賞金とかのでかいボーナスとかあるくせに、なんで毎回金がない状態で店に来るんだろうか。
初めてこの店に来て会計しようとした時にドヤ顔で『皿洗いさせてくれ』なんていうもんだからマジでビビった思い出。まあ、それが原因になってそれ以降は学園側に提案し、今の会計方法にした。というわけだ。
後は、同じトレーナーとしてのよしみ? てなことでサイレンススズカの足を触って意見を出し合ったりもした。
俺が今担当しているウマ娘ほどではないが、個人的な感想だと『脆そうな足』という感じだ。最近は走法を逃げに変えたらしいから、故障には重々注意してほしいもんだ。
それと、サイレンススズカ? 沖野先輩が足触ったとき、微弱ながら恍惚とした表情したの俺は見逃さなかったからな。
まあなんだ、ほどほどにしとこうな。ウマ娘の身体能力でヒトミミ勢が弄ばれたら、俺たちトレーナーは病院送りという名の人生生命を剥奪されかねない。
ちなみに、俺は過去に一度敗北している。
……そういえば、俺を文字通り病院送りにした元担当のアイツは今何をやっているんだろうか。
俺がスカウトした時は中等部の2年目であれから3年経っているから、今は高等部2年になる。
両手を腰に回し抱きつかれた結果、あばらに数本ひびが入るという痛々しい事象を起こした張本人は、現在はレースから身を引き、事実上の引退という形になっている。
そろそろ進路相談についておかしくない時期だ。本人はどうやらすでに道を決めているらしいが。
「トレーナー。ちょっと時間貸してほしいんだけどー」
なんてことを考えていたら、突然店の扉が開かれた。
「……どしたよウィング。お前、まだテイオーのトレーニングに付き合ってたはずだろ?」
「いやー、ちょっとテイオーが拗ねちゃって。今は少し休憩中」
店内の空冷が
空冷の涼しさが気に入ったのか、引き付けられるように空冷の下へと足を運びウィングはその場を陣取る。
おい、風を浴びるのはいいがせめて汗拭いてからにしてくれ。まだ店は開店してんだよ。匂いが充満したらどうすんだ。
「拗ねたっておま……、何が原因でそうなったんだよ」
呆れ顔のまま、俺はウィングの所にカウンターの椅子を持っていく。ついでにタオルも。
突然店内へ特攻して、文明の利器に溺れた彼女は、俺の元担当だ。
名前は「アストラルウィング」
辛苦を共にしてレースで戦った、俺が初めて選んだウマ娘になる。
たださっきも話したが、こいつは既に引退済みだ。現在はトレセン学園のサポート科にていろいろ学んでいるらしい。
「ん~? そんなの決まってるでしょ~」
ああぁぁぁぁ~~……と、空冷の冷風で溶けた顔になりながらウィングは問題の原因を俺に突きつける。
「トレーナーがテイオーのトレーニングに顔を出さないからだよ。5日くらい? 様子も見に行かなきゃ当然でしょ。あ~……気持ちいぃぃ……。わっぷ」
汗ぐらい拭けという意図を込めて、俺はウィングの顔面にタオルをかぶせた。
にしても理由下らねぇ……いやまあ、普通に考えれば指導者がその場にいなきゃいけないんだろうけども。
……確かに、最近やりたいことやりすぎてトレーニングに顔出せてなかった。それは認める。
つっても、トレーニングメニューはしっかりとしたやつを渡してるし、俺がいない分ウィングがテイオーのトレーニングに付き合ってくれてるおかげで確実に強くなっているはずだ。
甘いものが欲しくなり、近くに置いていた氷砂糖を口に放り込む。
話を戻すか。まず拗ねる原因についてなんだが。
「俺がいないだけでトレーニングを中断するほど拗ねてんのかよ……」
「そういうものなの。私はトレーナーのことを一番分かっていたから一人でトレーニングできてたけど、ほら。テイオーって人懐っこい性格でしょ? 信用してる人が一緒にいないとやる気が上がらないの」
「えぇ……いや、お前いるじゃん。別にお前とテイオーの仲が悪いとかじゃあるまいに」
「私とトレーナーとじゃ感じ方がいろいろと違うの。いいから時間貸してよ。店番はしてあげるから」
「だりぃ……」
指を差されながら叱られるように言われてしまった。
いやでも、店開いてるし。人あまり来ない店っつても来ないとは限らないし。料理出す店主がその場にいないと飯屋として成り立たないだろ。
それから数分。
めんどくせぇな。とか、色々と渋々言い合っているうちにジト目もままウィングが「仕方ないなぁ……」と突然呟きはじめた。
……なに? ちょっと嫌な予感がするんだけど。
「テイオーからの伝言ね」
それを口切りに、ウィングはある一言を放った。
俺を動かすに足るある一言を。
「もし来なかったら、普段より多めにトレーニングしてオーバーワークするよって」
「あのクソガキはどこだッ!!! ああ、ターフにいるんだな!?そうだな!? 今すぐ向かうからやめろってメッセで伝えてくれ、店番頼んだぞ!!」
あんのバカウマが! ただでさえ脆い足だってのに無理に追い込んだら問答無用でぶっ壊れるだろうが!
俺は不真面目ではあるが、流石に担当の選手生命ともいえる【脚】を放っておけるほど無慈悲かつ無関心なわけではないのだ。安全第一、これ重要。
ドガンッ!!と、店の扉をぶち壊す勢いで飛び出して俺は走る。ほんとに扉が壊れたかもしれんが別にいい。その時はその時で作り直せばいいだけだ。
時間は午後7時。外は既に夕日に包まれており、夏の始まりを告げるような暑さと夜の涼しさが俺の体を取り巻くが、そんなことはどうでもよかった。
とりあえず俺がしなきゃいけないことは、さっさとテイオーの所へ走ってイカレた考えをやめさせることを最優先に考えた。
「あーあ、行っちゃった」
一人残された小屋の中で、彼から押し付けられたタオルで汗を拭きとりながら私はつぶやく。
トレーナーのサボり癖に不満があるのは、一度は通る道なんだよね……。わかるわかる。私もそうだったから。
「それにしても、テイオーって意外なところで頭が回るね」
いやはや、テイオーもいい作戦を思いつくものだ。自身の足の保証をうまく使ってサボり中のトレーナーを動かすとは。
テイオーの携帯にメッセージを送りつつ少し後悔する。
昔の私は思いつかなかったなぁ、やっておけばよかった。
『ほい、今日のトレーニングの分な。わかんないとこあったらビデオ通話掛けろよ』
『……ねえ、今日は一体どこに行くつもり?』
『ん~? まあ予定としちゃ都心のショップあたりをぶらぶらーってな。ついでに業務に使うモニターとアームも探してくる』
『10枚もあってまだ足りないの!?』
……もうずっと前に感じる会話を思い出す。あれから3年だ。
相も変わらず、トレーナーのサボり癖は治りやしない。
この一件で何とかなってほしいんだけどね。
「ん~、さて。テーブルの掃除でもしておこうかな」
空冷の風にあたりながら背伸びをして気分を少し入れ替える。
厨房にある使用済みの食器を見たところ、今日は早くにお客が来ていたらしい。珍しいね。
私のトレーナーが開いている店はトレセン学園の大裏手にあって夕方には日陰に隠れるから目立たず、そうそう人は来ない。看板も立ててないし。
『ウマ小屋』っていう店の名前まで決めているんだから作ればいいのにとは毎度の事ながら思う。まあ、あの人の事だから絶対に作らないだろうけど。ロマン的に。
1日にくるお客は大体3、4人といったところだ。
例外として、レースの勝利祝いとかで丸々貸し出されることはあるけど、その場合は予約制になるから指定の時間以外はお客が来ない。
「だからちょっと暇になるんだよねぇ……」
「ごめんくださーい」
…………前言撤回。今日は繁盛する日らしい。
開店2時間以内に3人訪問してくることなんて3か月ぶりじゃなかったっけ?
「こんにちはアストラルウィング。あれ、多良先輩はどこに?」
見たところ、店に来たのはトレーナーの後輩? なのかな。
「えーと、トレーナーは今――」
店番として店主であるトレーナーが急用で不在の事を伝えると、帰ってくるまで待つことにする、と決めたようなので私はカウンター席へと案内する。
スーツを着用したいかにも平凡そうなその人は私のトレーナーの先輩の紹介でこの店に来たらしい。
初見さんの人は大歓迎だ。この店の評判が広がるのは元担当としても嬉しい。もちろん私個人としても。
最も、トレーナーはそんなこと望まないだろうけどね。(苦笑)
――とりあえず、私は店番として初見さんの応対でもしてようかな。
あ、自己紹介がまだだったね。んん゛(咳払い)
私の名前は「アストラルウィング」
トレーナーと一緒に戦って、主役の座に手を伸ばした元脇役。
今はウマ娘の本分である走ることをやめちゃってるけど、代わりに
ん? それってトレーナーの事って?
ふふ♪ それは秘密だよ♪
栄光を駆け抜けた趣味人共の後日談です
以下、簡単な紹介
主人公
ゲーム、料理、DIY、宝石細工、トレーナー業 etc……などが趣味の、人生が常に全速前進に極振りされた趣味特化人間。
常軌を逸したほどのマルチタスカーであるが、趣味にすべて極振りしているため普通の人とは何処かずれており、サボり癖も半端じゃない。
アストラルウィング
中等部2年の頃に初めて主人公が選んだ、少し大きいだけの普通の石ころ。
今は、ある夢を目標に頑張っている。
ちなみにスカウト前の性格はもう少し物静かだった模様。
因みに、この娘の過去辺を見たいって人は目次から『追憶』とEP1って書かれた話を追っていけば詳細が分かりますよ
トウカイテイオー
まだ出てきてないが、主人公のスカウトを受けた2人目の担当。
最近は様子すら見に来てくれないトレーナーにしびれを切らし、らしくもない作戦を立ててトレーナーを引っ張り出すことに成功した。
次回登場。
見てくれてありがとうございます
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