トレセン学園の隠れた名店   作:[]REiDo

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バレンタインデーに追われながらも連日更新



小話 甘党用のチョコレートは砂糖マシマシの方がいい

 

 バレンタインである。

 

 スレに顔を出せば「血のバレンタイン」やら「ヴァレンティヌス司教の名前だぞ」だとか素直に「タヒね」などが流れてくる、例年のアレである。

 

 あそこの民は――というか俺がよく作るスレの住民共は、大抵が非リアだとか言っているから余計荒れに荒れている始末だ。

 まあ、ここ数年は過激な奴がいないことが救いではある。それか、たびたびスレに出現するウィングで心を癒している奴が穏やかになっているだけなのか。真実はチョコレートの中に紛れているかもしれない。

 

 つっても、相も変わらず俺が顔出したら蹄鉄を投げられたんだがな。

 何が「糖分過剰摂取で地獄に堕ちろ」だ。

 甘党舐めんなよ、そんな問題なんざ対策済みだわ。(論点の相違)

 

 

「先輩ってチョコレートをもらう機会あるんですか?」

「貰うどころか今作ってんだよ。甘い匂いで察しろ」

「あ、すみません。って、え?なんで作ってんすか」

 

 

 と、現在進行形で板チョコレートを湯煎(ゆせん)していた俺に対して後輩Aが問い詰めてくる。

 

 現在時刻は2月13日の午後6時。

 そんなバレンタインの前日、ウマ小屋にて俺は固形チョコレートを作っている。

 その量なんと1kg超。リア充も鼻血を出してぶっ倒れるほどの量を相手していたのだった。

 

 てか久しぶりの登場だな後輩A。ポテサラ大量摂取から何か月経ったよ?

 

 

「いや、自分あれからちょくちょく来てたじゃないっすか」

「メタ的な話に突っ込むな。本来なら出番無かったはずなんだよお前」

「よく分からないんですけどなんか扱い酷くないですか!?」

「うるせぇ、俺も最近テイオー達からの扱いが雑になってきたんだ。お前も道連れに堕ちやがれ」

 

 

 えぇ……とドン引きする後輩には目を向けず湯煎していたチョコレートをヘラを使って掬う。

 さてさて、溶け具合はどうか……よし、これなら十分だな。ササッとキャラクター形状の型に入れて、と。これでよし。

 

 

「流石に手際がいいですねぇ」

「まあな。これでも毎年作ってるから。慣れるもんだよ」

 

 

 ドロドロのチョコレートを入れた型を冷蔵庫に入れたら、あとは待機で完成だ。

 

 

「聞きそびれたんですけど、それ誰用のチョコレートなんです? いや先輩なら渡す相手とか色々居そうですけど」

「誰用って言っちゃあれだが……強いて言えばみんな用だな。子供にあげる物だって思ってりゃいいよ」

「へぇ……そんな一面もあるんですね先輩って。てっきりテイオーちゃん達にあげる物かと」

 

 

 目を細めてチョコレートを入れた冷蔵庫を見つめる後輩A。

 そんな意外か? 言っちゃなんだが、俺奉仕の精神は持ち合わせているつもりなんだがな。

(興味あるものにだけという限定付き)

 

 あと、いかに甘党なテイオーにもチョコレート1kgは流石にテロ行為だと思うが。

 そこんとこどう思うよ後輩Aよ。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 てなわけでやってきました翌日のバレンタインデー。

 

 昨日のうちに作ったチョコレートを袋詰めして、早朝に街を駆けて、俺がたまに面倒を見ている孤児院のガキどもにバレンタインデーとしてチョコレートを渡す。

 例年通り喜んでくれたようで、結果としては俺としても満足。

 ただ俺に突進してきたウマ娘の少女。お前にはあばらの骨が悲鳴を上げた礼として、今度野菜が大量に入った弁当を作ってやる。震えて眠れ。

 

 と、ここで1日を終えても良かったのだが、生憎今日は休日ではない。

 のでしっかりと仕事をこなし、時々サボり、テイオーのトレーニングに付き合い背中に抱き着かれ背骨が軋みかけた1日を過ごした。

 

 そして今日この日、俺がチョコレートをもらった個数は36個に上った。

 

 一応、詳細を述べよう。

 

 36個の内25個は孤児院のガキどもから。

 1個は俺個人の古い知り合いから。

 あとの10は俺がたまにアドバイスをやっているトレーナーに属してないウマ娘たちからだ。

 

(去年より8個ほど多いか……?)

 

 こうやってウマ小屋に帰って、もらったチョコレートを並べてみると、思ったより多く貰ったなと感じる。

 テーブル上を埋め尽くすチョコレートを見ながら。

 

 

「…………ま、ちょくちょく食ってりゃそのうち減るだろ」

 

 

 そう呟いて、もらったチョコレートを一口、口の中に放り投げる。

 うん、甘い。ミルクチョコレートだなこれは。しかも俺用に砂糖マシマシで激甘。MAXコーヒーとタメを張れるくらい。

 

 これをくれたのは……ああ、突進してきたウマ娘の少女か。

 チョコくれるときに遠投で豪速球気味に投げてきたから、割れないように優しくキャッチしたのは記憶に新しい。

 見たところ手作りみたいなんだが……せっかく形もきれいなのに全力投球で渡すとか正気か? もしかしたら俗にいうツンデレだったのかもしれない。デレがあったのかはわかんないけど。

 

 

「あ゛~!トレーナー先に食べてる!」

 

 

 と、甘さに思考を飛ばし耽っていた午後6時。

 バンッ!! と、いう音とともに。

 平穏にはまだ早く、最後の使者(テイオー)がやってきた。

 

(……さらに1個追加、と)

 

 おい、来るのは良いが扉を思いっきり開くな。立てつけが悪くなるだろ。

 

 

「? テイオー?お前なんでここに?今日はもう解散しただろ?」

 

 

 ()()()、だ。

 寮の門限ギリギリになってまで、テイオーがウマ小屋にやってきた理由など百も承知。

 今日がバレンタインで、世話になっている人は誰か? と、言えばバカでも察しが付く。

 

 だが、「あー、チョコくれるのか」などと指摘してガッカリなんてさせたくない。

 てことで、わざといつも通りの俺を演じて知らないふりをしている。

 純粋に喜ぶ姿を眺め見るのも、これまた楽しいのだ。

 

 

「一応、私もいるよ。テイオーそんなに走っちゃ崩れちゃうから」

 

 

 そして、それは隣に立つウィングにも言えることだ。

 つっても、こいつは毎年くれるから俺の発言を察してくれてるだろうけど。

 

 めっ! と、テイオーの口に人差し指を当てて注意するウィングを眺めて、もう一つチョコレートを口に放り投げた。

 良い塩っ気が口の中に広がる。おぉ、これは塩チョコか。

 

 

「あ~!! だから先に食べちゃダメだってトレーナー!」

「あはは……。トレーナー、一応聞くけどそれ誰からもらったチョコ?」

「ん? これは確か……あれだ、教官付きのウマ娘の――」

「それより、それよりさぁ? こっちのも食べてみてよトレーナー!」

 

 

 俺の言葉を遮ってピョンピョンと可愛らしく跳ねながら、何か入った箱を厨房前のカウンターに置く。

 白と茶色の模様が入ったきれいな箱だ。

 

 

「これは?」

「わたし――」

「ボクが作ったんだよ! 見て見て!」

 

 

 興奮冷めやまぬまま、箱を開封するテイオー。

 その中身は。

 

 

「ほーん、チョコケーキか」

「うん。せっかくのバレンタインだから、ね? わたし――」

()()()丹精込めて作ったの! だからトレーナー、一緒に食べ「テ イ オ ー?」

 

 

 ……おい、ウィングの奴すげぇ顔してるぞ。

 笑顔のまま怒髪天間際って感じなんだが、テイオーお前何した?

 

 

「それ、私も、一緒に、作ったんだからね??」

「ピエ!?」

 

 

 おーおー、怒ってる怒ってる。あんだけ怒ってるウィング見るの、現役にサボりまくった俺に激高した時以来だな。懐かしい。

 

 怯えまくってるテイオーを横目に、俺は箱の中に入ったチョコケーキを見る。

 見た目の完成度は非常に高い。味は……食ってみないと分からないが、ウィングも同伴して作ったものなら高品質なものだろう。

 確信はある。何せコイツにはたまにうちのウマ小屋で手伝ってもらうこともあるからな。

 

 

「と、トレーナー! アスウィーがこわいよぉ……」

「あーはいはい。ウィング、まあ許してやれ。こういう日なんだし舞い上がるときもあるだろ」

「……まあ許すけど」

 

 

 背中に引っ付くテイオーの頭を撫でながら、俺はウィングの機嫌を宥める。

 むすっとしたウィングを見るのは久しい。初日の出を見た気分だ。

 

 ――とまあ、話は戻してチョコケーキの話だ。

 

 量に関しては食えるっちゃ食える。

 ホールケーキ1つ分だが、甘党なテイオーと俺で2~2.5人分。いかんせん普通なウィングで3人ちょい。腹も多少減っているからめ一杯詰め込める。

 

 が、現在時刻は6時。

 寮の門限はギリギリ。今連絡しても伸ばせて7時か8時だろう。

 ……う~む。

 

 

「……寮の門限はあと1時間だ。それ以上は取らねぇぞ」

 

 

 結局、余裕を持った選択を選ぶことにした。

 これ以上は譲れない。だって後でどやされるの俺だし。めんどいし。

 だが、一緒に食えるということが分かったようで、テイオーは顔を明るくさせて喜びを表現するように飛び跳ねた。

 

 ……小皿の準備するか。

 あと飲み物……俺とウィングはコーヒーでいいけど、テイオーはコーヒー飲めるのか?

 

 

「わ~い! 食べよ食べよ!」

「ごめんねトレーナー。あとテイオー、明日のトレーニング覚悟しといてよね♪」

 

 

 小柄な少女の悲鳴が小さく鳴り響いた。

 

 どんまいテイオー。骨は拾ってやるよ。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「じゃあねトレーナー!」

「おー、ケーキ旨かったぞ!」

「えっへへ! また明日ね~!」

 

 

 午後7時。

 

 すでに夜の帳は降りきっている。

 星は夜空を照らし、走り去るテイオーを淡く映していた。

 

 

「……満足?」

「おう。旨かったぞ。聞き忘れてたけど味付けはお前が?」

「うん。私は味担当、テイオーは見た目の方を作ってもらったんだ」

 

 

 隣に立つのは、俺の愛バであるウィング。

 なんでコイツがまだいるのかは……まあ分かっている。

 いつものことだ。まだ、()()()()()()からな。

 

 

「テイオーって器用だよねー。やり方覚えちゃったら、すぐ上手に型取りとかできるんだもん。ちょっと嫉妬しちゃった」

 

 

 羨むように、テイオーの去った道を眺めるウィング。

 

 

「…………」

「…………」

 

 

 静寂。

 ウィングの視線は天と宙を彷徨い、時々俺を見る。

 対して、俺の視線はウィングに固定したまま。

 

 

「っ……あ、ぅん」

 

 

 ()()()()()()()。だっていつものことだから。

 ここには俺とウィングの2人だけ。

 

 だから遠慮は無しだ。俺は俺らしくここに立っている。

 それも約束。そして、ウィングが望んだことだ。違えることはない。

 

 ……んだけど、じれったいなぁ。門限あるんだぞお前には。そんな感じでもじもじしたままじゃ、門限に遅れるんだけど。

 もういい、俺から声掛けるか。寮長にドヤされんのは俺もごめんだ。

 

 

「くれるんだろ? チョコ」

「……あーもう、なんでそっちが言うかな? 雰囲気台無し」

「むくれるなよ。俺が()()なのは理解の上だろ」

「…………はあもう、ほんとズルい」

 

 

 ……すまんな。まだ学べてないんだ。 

 

 ウィングは落胆したような顔を一瞬見せたら、ほんの少し微笑んで俺の正面に立つ。

 

 そして――

 

 

「はい、トレーナー」

「おう、ありがとな」

 

 

 ────手渡されるのは、言わずかもがな、ウィングからのバレンタインチョコ。

 

 長方形……ではない。

 しっかりとしたハート形。

 梱包の丁寧さ、デコレーションの付け方。

 

 どれを見ても、俺に対する思いが込められたそれだと分かる。

 

 

「……全く、ハート形って。恥じらいはねぇのかお前には」

「あるに決まってるよ!! 無い女の子がいないわけないでしょ!?ていうか、トレーナーが言えたぎりじゃないでしょその台詞」

「そりゃそうだ」

 

 

 目を細めながら言葉を返せば、両腕を引き締めて俺に立腹するウィングの姿。

 

 ふむ、そういうもんか。

 てっきり俺と関わっていく内に羞恥心が消し飛んでしまったのかと思ってたんだが、やっぱそう簡単に感情の気質ってのは薄くならないようだ。

 

 まあ、これに関しちゃ俺が特殊なだけか。

 

 

「ふ……。んじゃ改めて」

 

 

 それが分かったなら、俺も改めて礼を言う義務がある。

 

 俺らしく、ほんの少し笑顔を浮かべて。

 恥じらいがある分、心を込めて。感謝を込めて。

 

 俺の隣にいてくれる、お礼を胸に込めて。

 

 

「ありがとな、ウィング」

 

 

 最高の愛バに、俺が今持つ最大限の感謝の意を伝える。

 

 寒く、冷えていそうなウィングの両手に手を伸ばし、添える。

 

 

「……!」

 

 

 それにウィングは、拒絶することなく合わせてくれる。

 冷たいと思っていた両の手は、意外にも温かさを残しており逆に俺の手を暖めてくれているようだ。

 

 数秒。

 誰も居ない空間で、そんな温かい体温を堪能していた。

 

 

「…………っ! あー、なんかいい雰囲気になっちゃったね」

「なんだ、悪かったのか?」

「いーや? すごくドキドキしたよ?でもいい気分だから」

 

 

 途中から気恥ずかしくにでもなったのか。

 バッ! と、瞬で手を放して、俺から距離を取るウィング。

 

 今日はよく眠れそうかな~、と手を後ろで組みいつものウィングに戻る。

 恋愛的な展開、とでもいうものなのだろうか。

 そういうことに疎く、興味の無い俺でも、なにかその場の空気に流される強制力があったように感じた。

 

 これもまた学びだ。

 リア充空間には、何か濃度の高い空気感が浮かぶって感じで覚えておくとしよう。

 

 後で経験談をスレで語るか(タヒ刑確定)

 

 

「なーんかまた変なこと考えてない?」

「さあな? 気のせいだろ」

「ふぅん?」

 

 

 目を細め、疑惑てんこ盛りな感じで俺を見つめるウィング。

 ……流石に覚り過ぎなのは俺の気のせい?コイツ俺の心読めるとかない?

 

 

「まあいいか。渡すものも渡せたし、今日は帰ろうかな」

「ん。おお、気を付けて帰れよ」

 

 

 そういって、走り去っていくウィング。

 その顔は満足気味な笑顔で、この夜道を駆けていく――

 

 

「あ、言い忘れてた!」

 

 

 と思っていたのだが、なんか途中で立ち止まった。

 何? これ以上なんかあるの?

 

 

 

「それー!! 私の本命だからね~!!!」

 

 

 

 大事に食べてよ~! と、学園に響くほどの大声で言って走り去っていくウィング。

 あ、うん。いや()()()()()

 

 だから今日渡してくれるって分かってたし。……なんか今更だな。

 

 

「おう、お前も帰り道コケて怪我するなよ!」

 

 

 それに対して、俺はいつも通り片手を振って見送った。

 彼女の頬は遠目では見えなかったが、おそらく朱色に染まっている……のかもしれない。実際に見えたわけじゃないからな。

 

 真実はまあ、チョコレートの中ってことで。

 

(……?)

 

 少し体温が高い、か?

 チョコレートの発汗作用か?

 食い過ぎたら体調を崩しかねないしな……。1日に2袋を制限に消化するか。

 

 変な感覚だが……悪い気持ちじゃない。

 

 なんなんだろうか、これは?

 

 

 違和感を感じて頬に手を当ててみる。

 いつもと変わらない、冷え性な俺の手が――

 

 ――いや、ウィングの手の温もりが残っていたのか。

 少し暖かい温度が、冬の風に当たった頬を温めてくれた。

 

 

 

 

「甘いな」

 

 

 

 

 翌日、ウィングからもらったチョコレートを食べた。

 普通においしかったことを、ここに残しておこう。

 

 

 

 

 

 





バレンタインだからどうしても書きたかったと弁解する作者の姿ココにあり。

なお、昇天し力尽きた模様。


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