合宿の荷物は筋トレグッズになりうる話
7月も少しを過ぎた。
俺は俺とて、仕事を10日分前処理して余裕を作ったり、俺の担当らであるトウカイテイオーとアストラルウィングは必死こいて夏の課題を終わらせることに勤しんでいた。
正直、クッソめんどくさかったわ。普通のトレーナーがやって10時間以上かかる仕事が十数件以上。それを俺が処理するとかブラック企業かよ。……いやブラックっちゃブラックか。
まあでも、それもこれも全て、この時期から行われる「夏合宿」があるからなので仕方ない。割り切ろう。
トレセンにおける夏合宿とは、ウマ娘の能力を全面的に向上させるための行事だ。
普段とは違う環境、トレーニング、これらのすべてを活かし、励む。
その過程の上に勝利の冠が待っているのだ。
無論、この機会を逃してたまるか、と学園に配属しているほとんどのウマ娘とトレーナーが積極的に参加をする。皆々共も、目指す夢の為に必死なのである。
最も、彼女らのお目当てが副次的についてくる「思い出」だという娘も数人いるだろう。そんな思い出には、まるで恋愛漫画に出てくるような「甘い思い出」を狙う娘もいるとかなんとか……
卑しい者も少なからずいるということだろう。人間、我慢しようが欲に忠実になってしまうこともあるということだ。俺は青春らしくていいと思うがね。
卑しかばい卑しかばい。
さて、説明した上で言ってなかったが、この夏合宿を行う場所は基本的に「海」である。
というか大体ここが一択で決まっている。
なんでやねんって話だと思うが、俺がトレセンに配属される前から、ずっと合宿場が変わっていないことからそれが校風として引き継がれているのだろう。
事実、うちの店にて。
『夏合宿、海以外にどこか行くつもりは無いんで?』
『? 無いが、それがどうかしたか?』
と、あるトレーナーに聞いてみたところ返答はNOとのこと。
行事だから、疑問すら持ってないとこからも校風の流れのようなものも感じられた。
ほら、学校の修学旅行とかずっと同じ場所なのに気にしない奴っているじゃん。あーゆ感じよ。
俺としては毎年同じ場所じゃつまらんと感じるんだが……まあ、行事のことは上の指示だし。と勝手に納得していた。
あと、トレセンに属している宿泊施設が海辺にあることも、場所を固定している理由の一端なのかもしれないな。知らんけど。
が、しかし2年前。
テイオーがまだ俺の担当になる前。
つまりは、現役だった頃のウィングと俺が栄光に励んでいたころだ。
俺たちはそんな固定意思に反するように「山」を合宿場所に選んでいた。
試しのつもりで選んだが、どうやら提案書と事前書類さえ出せば、海以外の選択もできるらしかったんだよな。それを聞き、さらに海の選択率が異常なことに疑問を持ったことは、今でも記憶の隅にしまってある。
つっても、あの時はいろんな理由ありきで選んだ。
主な理由はウィングの身体強化に適切な場所がどこになるか、ってとこだったが……
ま、終わった話だしな。その話は省いて置いとくとして。
「よし、決めるぞ」
今年、だ。
今年はどうするかって話になった。
ちなみに、話ってのは、現在進行形で進んでいる。
もちろん『ウマ小屋』でだ。
目の前のカウンター席座るは、現担当であるトウカイテイオー。その隣には補助役を担っているアストラルウィング。
「「「…………」」」
緊張が走る一瞬。
それもそのはず。
この夏の運命――
もとい、夏の間に遊ぶ場所を決めるターニングポイント。
それがこの瞬間に詰まっているのだ。緊張もするだろう。
はてさてその選択は……
「海! 山! どっちだッ!?」
「海!!」
「私も」
「よし、行くぞ海!」
海に決定!!!ってことで。
わーい!! と、店内ではしゃぐテイオー。
よし……! と、見えずらい位置でガッツポーズをするウィング。
結局、迷い無い彼女たちの遺志により、あっさり決まったのだった。
……まあ、俺の意志を押し殺しただけなんだが。
「貴方……どうして涙を浮かべているのかしら?」
「……これは嬉し涙です理由は聞かないでください東条先輩」
「?」
…………遺言として、俺は山派だったことをここに残しておく。
北海道の民は山が恋しくなるんだよ……。
子供のささやかな願いには勝てないよな。うん。
はっきりわかんだね。
「
真夏の海。
「ちょ、おい待て! お前砂浜出るんならせめて着替えてからにしろ!! あと準備運動ォ!!」
「元気だねぇテイオーちゃん」
「もう、テイオーったら」
青と白、薄橙色で塗りつくされた光景の中を走り回る
そんな少女を「怪我させてたまるかっ」という思いで止めるべく追いかける
だが悲しきかな、全力疾走で追いつこうにも人間がウマ娘の走力に適うわけがない。それがたとえ、健康のために体を鍛えてる趣味人だとしてもだ。
必然的に、トレーナーのスタミナ切れにより勝者はイキイキとはしゃぐテイオーに決まったのだった。
そして、そんな光景をいつもの団欒だと微笑ましい目で見守る
「あっちは楽しそうにしてるし、僕らは車に行って荷物をまとめよっか」
「ですね。……あ、トレーナーこけた」
おぼつかない足取りのまま走り続けるトレーナー。
限界が来たからか、ついに砂浜に顔から突っ込んだトレーナーを見たウィングは
「トレーナー! 先に私たちホテルに荷物持って行っとくからね!!」
できるだけ簡潔に、大声でそう伝える。
「了解……!! こっちはテイオーをひっ捕らえたらすぐ向かう……!!」
上げた顔から見えるのは実に躍起な目だった。プライドというものなど欠片もないトレーナーなのだが、こうもコケにされると少しはピキる。意地っ張りな子供か。
そして、そんな目を見たウィングは「長くなりそうだなぁ……」と思いながら、彼女は合宿用の荷物を置いている車のもとに走っていった。
去り際に、ちらりと彼女が見たものは。
「待ちやがれテイオー!!!」
「イッ!?」
鬼神のオーラ溢れるトレーナーが全力ダッシュする姿と。
その様子にビビったのか、追いつかれまいと全力とは言わないまでの走りで距離を離すテイオーだった。
(タオルの準備しておこうかな……?)
車に向かう道中でウィングがそう思ったのは、彼女なりの優しさなのだろう。
「ぜぇ……はぁ……」
「お疲れです先輩。テイオーちゃんは捕まえられました?」
「無理だったっての……。結局20分くらい炎天下の中で走りまわされたわ……」
ホテルの玄関先で、疲労に屈しまいと足腰に力を入れるトレーナー。
苦節20分。全力ダッシュの果てにトレーナーが得た景色は、
なお、テイオーはじゃれ合えたことが楽しかったのか、満足げな表情をしてウィングが向かっているであろうホテルへと戻っていった。それはもう軽々なスキップをしながら。
結局、炎天下の中ただ疲れた上にテイオーを止められなかったトレーナーであった。
やっぱり人はウマ娘には適わないってね。
「ありゃ、それは大変でしたね。あ、これウィングちゃんからです。どうせ汗だくになって帰ってくるだろうから、って準備してくれてましたよ」
「おう、悪いな」
トレーナーが後輩Aからタオルを受け取る。
どこかにあった蛇口で濡らしたのか、冷たい濡れタオルになっている。
ありがてぇ、とウィングに感謝を告げながらトレーナーは手に持つタオルを顔に当てた。
熱された体温が冷やされた布に吸収されてゆく。
「ていうか、このホテルすごい大きいですね。こんなところでトレーナーの人は毎年合宿してたんすか」
「まあな。設備もすごいぞ。ほとんど最新性だ」
「へぇ~……。 自分、基本事務業なんでこんなとこに関わることないと思ってましたよ。
いやぁ
「なに、俺も合宿中の話し相手が欲しかった所だったからな。部屋に一人篭りきりってのも合宿の思い出としちゃつまんねぇし」
後輩Aが両手を合わせて一礼するのを見たトレーナーは、会話の内容を気にすることなく濡れたタオルで額から流れ出る汗を拭き続ける。
担当のウマ娘とトレーナーは別室。
つまり彼の場合、テイオーとウィングが同室となり、彼自身は一人で部屋に入ることになる。
それを良くないと思った人生謳歌トレーナーは、わざわざつまらない時間を過ごすことになってしまう独り身を回避するためにトレーナーでもない後輩を誘ったのである。しかも自費で。
まったく幾ら払ったのだか、と思うところだが彼はこれを思い出費用と割り切って必要経費と思うことにしている。良い思い出とは、要する費用に比例することもあるのだ。
因みに話し相手は誰でもよかったことから、タイミング良く『ウマ小屋』に訪れた後輩Aは幸運と言えるだろう。時間を開けさせるためにも数日分の仕事を手伝ってもらったりもしたようだ。
「…………せ、せんぱぃ……」
「?」
と、トレーナーが濡れたタオルの温度に浸っているところに、一つの声がする。
今にもぶっ倒れそうなカッスカスの声だったので、トレーナーはその声がどこから聞こえたのか把握できなかった。が。
「も、もう無理で…す……」
ドスンッ、と何かが地面に落ちたような鈍い音がしたことにより、今度こそどこでなった産声か気づく。
なんだ? と思いながら音のした方にトレーナーが体を向ければそこには――
「……? 後輩B?なんでお前荷物持って潰れてんの」
成人男性1人分の大きさがある鞄を背負った、彼の後輩に当たるトレーナーが地に伏せていた。
「……あ、そういえば車からの荷物運び、まだ終わってないのがありましたね」
「あ? そりゃ一体誰の――」
……はて、誰の荷物だろうか。
荷物運びに貢献せずに、自身の荷物すら放って、担当とじゃれついてた誰かの荷物。
「…………もしかして俺の荷物かそれ?」
「やっぱり東八尾先輩の荷物だったんですねこれ……。めっちゃ重いんで持ってもらっていいですかお願いします僕もう動けないんです」
「お、おう」
恨めしや恨めしや。
若干、呆れと憎悪の篭った視線をその身に受けたトレーナーは、文句なく後輩の担いでいた荷物を両手で持つ。
そして、冷房の効いた室内に避難するように、彼らは一緒にホテルのエントランスへと入っていく。
「……腰が折れるかと思いました」
ようやっと炎天下から解放された後輩Bが、腰を押さえてエントランスに設置されたソファに座る。どうやら痛めてしまったらしい。
原因はすべてこの趣味活バカにあり。
「すまんて、てっきりうちの担当らが持ってってるかと思ってたんだよ」
「ていうか、
「東条先輩に持ってくるよう言われたんですよ。断れると思います?」
「「無理だな。すまん」」
起こった出来事を簡潔に語った後輩Bに対して楽をしてた男ども2人が素直に謝る。
人生、どうしようもないことを避けられない時も来るのだ。
非情にも不幸の星に遭遇してしまった彼に対して、バカ2人は心からの謝罪をしたのだった。
「不躾な質問で悪いんですけど……その鞄に一体何が入っているんですか? ウマ娘用のトレーニング器具とか入ってても納得な重さですが」
謝罪を受け入れ、腰を抑えながら後輩Bが問う。
負傷の原因になったものを持ってきた本人がいるのだ。当然の経緯といえる。
ちなみに、ウマ娘のトレーニング器具は通常で100kgを優に超えるものが多い。トラックのタイヤ数個分と言えば想像もしやすいだろう。
そしてその言葉を逆にとって解釈すれば。
そんな人間破壊兵器を持っていてもおかしくないと思うほどの重量が、トレーナーに背負われている荷物にあるということだが。
たとえ
「流石にそんなもん入ってねぇよ……俺を人外かなにかと勘違いしてないかお前?」
「人外一歩手前みたいなものでしょう、先輩は」
「後輩A、お前今度ポテサラの刑な」
「ポテトサラダを刑罰に使うのはやめません!?」
「なんでポテトサラダ……?」
事情を知らない後輩Bが困惑。ポテサラを提供されることに果たして罰の要素があるのか。
まあAの方に関しては悪夢として出てくるほどのトラウマ要素があるのだが。
因みに、材料は用意してあるので刑の執行は明日にでも可能だ。震えて眠れ。
「何が入っているか、ねぇ? 必需品だけ持ってきたから別に特段おかしいもんは入ってないと思うんだが」
そう言って、トレーナーが鞄を下ろす。
そして、放たれた最初の一言。
「まず……記録用のノートPCが
「はいはい…………はい?」
たった最初の一言で、後輩トレーナーの動きと思考は
その理由は問うまい。もう序盤から意味不明なのである。
何故? 確かに現代人に電子機器は必須だし――トレーナーの一部にはPCを使用する者も多くいるが、なぜそれほどの量を、3台も持ってくる必要があるのか。後輩トレーナーの頭脳では理解ができない。
が、相手は常識外れ、異質、店主に加えてサボり魔な、先輩に当たるトレーナーだ。
理解不能は当たり前。他人が困惑する行動など、彼にとっては日常茶飯事。
そんな総合的に【変人】の名を関するトレーナーは、困惑する後輩トレーナーを置いて言葉を続けて放つ。
だって、説明が欲しいって言ったんだし。
「んで、物理演算用のデスクトップPCが1台に、PC接続用のキーボードも付属で2つずつ……ああ、マウスだけ1つか、ノートじゃ使わねぇからな。それから保存食の食料が3日分ほどあって、糖分補給用の氷砂糖が2袋。――宿泊施設にキッチンついてるだろ? それ用に小型の調理器具が一式、調味料は……こだわろうと思ったが全部持ってくと結構かさばるからな、ジッパーに入れて最低限だけ持ってきた。あとは髭剃りだとか髪染めとかの日用品、それと合宿用の着替えな。うちの担当らの分も詰め込んでるから――」
「ストップ!ストップ!! もう大丈夫です!お腹いっぱいです!!」
このままだと思考がパンクすると察した後輩トレーナーが、止まらない蛇口の水をせき止める様に会話の最中に割り込んだ。
情報量の洪水で吐きそうになる。ていうか実際、若干頭痛気味で気分が悪くなってきていた。
頭を落ち着かせて、情報の処理が終わったところで再び後輩Bが問う。
「……興味本位で聞きたいんですけど、それ鞄は何キロほど……?」
「あ? あー、そうだな。別に測ったことはないが……まあ50~60kgくらいじゃないか? デスクPCが5割くらいあるとは思うが……それがどうした?」
「ろ、ろくじゅ!?!?」
今度は顎が外れそうなほど驚愕する後輩トレーナーである。
60kgだ。
スーパーで売れられているような米袋、それの約3袋分の重量。それが目の前に置いてある荷物の質量だというのか。
無理、いやウマ娘でもないと無理でしょ!? と、彼が思うのも無理はないだろう。なんなら、よくここまで持ってこれたな、と自身の体を褒め称えた。人体ってすごい。
なお、そこまで考えたところで幻痛が彼の体に走った。
ていうか、この趣味人野郎が例外というだけである。
日々の運動とは、こうも人を強靭にしてしまうものなのか。さらにこの変人は、この常人破壊兵器を筋トレグッズとしか思っていない。ここまでくると強靭ならぬ狂人の類だ。元からではあるのだが。
そんなクソサボり野郎に常識感覚などあるはずない。というより、誰でも頑張ればこのくらい持てるだろと思っている程度だ。
後輩トレーナーが驚愕した理由など見ず知らず「?」と、この趣味人は当たり前のように疑問で返した。
「い、いえ、気にしないでください。……ちなみにそれ、持つのに手伝ってもらったりとかは? ほ、ほら、せっかく力持ちな子もいるんですし……」
「? 自分の荷物だし自分で持つに決まってるだろ。アイツらも個人の荷物があるんだし、わざわざ手伝ってもらったりはしねぇよ」
「そ、そうですか……」
「先輩それさっきまで荷物の存在ごと忘れてた本人が言います……?」
引きつった笑みで提案をしてみれば、至極当然のような言葉の返し。
まあそりゃ常識的に考えればそうだろうが、それは人間の強度に死傷をきたすレベルの持ち物を持っているときに吐く台詞ではないだろう? と後輩トレーナーは心の中で思う。
常識のズレというかなんというか、とにかく目の前に立つ『憧れの先輩』がまともな常識感覚が無いことを改めて後輩Bは理解した。
言わなくてもいいと思うが――すでに後輩トレーナーはドン引き状態だ。
もはや先輩がどうとかの問題ではない。同じ人間として引いていた。ドン引いていた。
同業者であるトレーナーとしての敬意と尊敬こそあれど、人としての尊敬は薄れかけていた。
そんな思いを心に浮かばせる後輩がいる中、トレーナーはこの後の予定の事を考えながら、ポケットに入れたドロップ缶から氷砂糖を取り出し口に放り込む。
カラコロ、と転がる音と共に甘い香りが口内を埋める。
(……さて、そろそろウィングらは<リギル>の面子と合流したころかね)
すでに荷物を持って向かったであろう担当達の様子を想像する。
夏合宿。
本来なら、各個人での、もしくは各チーム内での行事なのだが。
今年は『<リギル>との合同練習』も計画されているのであった。
(さっさと荷物置いて俺らも合流しに行くか。……先輩にどやされんのもごめんだしな)
トレーナーが雑談中の後輩に一言声をかけ、我颯爽とホテルのエレベーターへと向かう。部屋番は予め聞いているので問題なし。
階層を上るエレベーターの窓を眺めれば、雲一つない晴天から差し込む白の光。
彼、彼女らにとってのひと夏が始まろうとしていた。
2周年!!CB実装 ターボ師匠実装!!来たぜ!ずっと待ってたんだお前らをよぉ!!
みんなもう手に入れたかな?俺はもう手に入れたぞ!(犠牲諭吉1枚)
あ、先に行っとくとこの小説CB出る予定あるからね。
ターボ師匠も……出そうかな?
あと、前回のバレンタイン回の一部分を加筆しました。
トレーナーが冷え性のとこですね。ちょっと重要な部分を入れ忘れてたので。気になったら読み返してみてね。
CB実装待機勢だった人評価ボタンポチ
ターボ師匠実装待機勢だった人感想ボタンポチ
他ウマ娘との絡みもっと欲しい?
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くれ
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いらん
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どうでもいいからイチャイチャ見せろ