トレセン学園の隠れた名店   作:[]REiDo

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長くなったんで2話構成になるマス



少しの心配と沸き立つ高揚

「チーム合同夏合宿、っすか?」

「ええ、昨年の秋辺りから計画されてたのよ。貴方の耳には?」

「いや全く、噂すら聞き届いていませんでしたけど」

 

 

 今年の夏合宿が始まる、ほんの半月前の話だ。

 

 晴天の光が閉ざされた午後8時の夜。

 小さな拠り所『ウマ小屋』の店主である俺は、目の前で晩酌をする先輩の「東条トレーナー」の言葉に耳を傾けて、その内容に興味を引いていた。

 ……同時に拒絶感も増しマシなわけだが。

 

 

「今年そんなのやるのか……。トレセンでそういう行事は物珍しいっすね。提案者は誰なんです?」

「私……と言いたいところだけど、実際は学園上層部の提案よ。私は実行役として指名されたの」

「ほー、あの意地張った爺さん婆さんらのねぇ……」

 

 

 一言説明を挟み、東条トレーナーがグイッとワインを呑み、晩酌を再開する。

 今日は他の客はおらず、この店にいるのは彼ら2人だけだ。

 ウマ娘などの未成年はいない為アルコールの類が解禁されている。

 

 ワインを一煽りして少しの間を開けたいいタイミングで俺は一つ問う。

 

 それはそれはスーパーに投げ売りされているであろう魚のような死んだ目で。

 

 

「で、何でそんな面倒くさい行事に俺を巻き込む気になったんで?」

「見事なまでに作り笑顔な引きつった表情ね」

「逆に聞きたいんすけど、いきなり誘いたいことがあるって言われてうちの予定が崩された時にどういう表情すればいいんで?」

「……それに関しては本当にすまないと思っているわ」

 

 

 HAHAHA 何言ってるんですか。誠心誠意(憎悪)を込めた完璧な表情でしょう?

 こちとら、うちの担当らと既に予定組んでたんじゃい。

 

 ……今年は山に合宿行こうと思ってたんだが!(おこ

 まだうちの担当らにはどこ行きたいか聞いてないけど!!(怒

 アイツらの選択が決まるまでは俺は山に行く気満々なんだよ!!!(激怒

 

 ……話を聞く限り、先輩が行く合宿場所は例年通りの海岸沿い。これはもう決定事項らしい。

 

 戦況は俺の有利に見えて不利。なんせ先輩と後輩の立場。

 しかも日常的な頼み事ならまだしも、業務的な誘い――加えてトレセン上層部の間接的な命令ときた。この地点で詰み。やっぱ仕事ってクソだわ。

 

 ということは、だ。誘われたら最後、今年の夏合宿が海行きになるのは自明の理。

 仕事だからという仕方なさで納得するのは慣れてるし、もうしてるが。

 趣味の内――ワクワクしてた予定を外されるとなれば、そう簡単に拒絶感は拭えない。そういう話なのだ。

 

 とまあ、一旦思考終了。話を進めよう。

 

 厨房にポツンと置いてある氷砂糖の袋からブツを取り出して口に含む。

 

 

「……なんで。なんで俺なんですか。誘うならお似合いの沖野先輩とか候補はあるでしょうに」

「さらっとあの男を引き合いにするのはやめてほしいのだけど……」

「どんだけ嫌なんですか」

「飲みに行くたびに、金欠だからと私に奢らせに掛かるあの男を誘いたい理由があると思う?」

 

 

 さらっと吐かれた事実に絶句する。

 

 あの人俺の店以外でもそんな状態だったのか……。

 まさか、会計ついでに店の皿洗いでもしてたりして……。いや流石にないか。

 

 実際にあったことを思い出したのか頭を抱える先輩。

 それを振り払うかのようにアルコールの塊を口に含んだ。

 少し見ると頬が少々赤く染まっていた。

 

 

「……まあ正直、職業面で語るならあの男を誘っても良かったのだけれど」

「仮にもチームを組んでて優秀ですからねあの先輩」

「ええ。それでも結果的には貴方を選んだわ」

 

 

 どうして、と聞く間は無く続けて告げられる。

 

 

「個々のトレーナーの中で、貴方が一番私に近い育成方法を持っている。それが貴方を誘うに至った一番の理由よ」

「……なるほど」

 

 

 自由で放任主義で、感覚で担当の身体機能を把握する沖野先輩の育成法。

 それに対し、各担当に対して厳格、そして()()()()()()()()()()を行っている東条先輩。

 

 確かに相容れない。むしろ反発的なまでの方針の差。

 

 

「合同練習に異色的な育成方法を紛れ込ませたくない、と。そういう解釈でいいですか」

「ええ。私としては、彼女達の走り方に()()が生じる事は極力避けたいのよ」

 

 

 ふむ、真面目な考えだことで。

 まさに東条先輩らしい合理的に徹した解答だ。

 

 

「……まあ、そっちの理由は分かったんですけど。俺が聞きたいのはもう一つの方で」

 

 

 だが、俺はその解答に一つ待ったをかけたい。

 誘うに至った理由は分かったが、俺が今知りたいのはその前提の事。

 

 

「……まず大前提に。俺チーム組んでないんですが、そこの所は完全に無視でいいんで?」

 

 

 まず、なんでチームを作っていない俺が候補の内に入ったのか。それが分からない。

 チーム合同って言ってるんだから、そりゃ誘われる方も何らかのチームを発足していなきゃいけないのが道理ってもんだろう。

 

 

「……それに関しては私も悩んだのだけど……大丈夫だと判断したわ」

「ほう、それはまたどうしてです?」

 

 

 やけに自信をもって言う先輩。

 片手に持ったワインの器を俺の方に傾けて答えを言った。

 その一言を。

 

 

「教官付きのウマ娘達」

 

「………………あぁ、そういうことですか」

 

 

 一言で十分。理解もできた。

 花丸満点までは行かないが、ある意味赤点スレスレの答えだ。

 道理は通るし、納得もギリギリできるが、俺としてはややめんどい解答。

 

 

「そうよ。貴方が『趣味』だと、()()()()()()()()()()()()()()。確か、人数で言えば10人を超えてたかしら? 彼女達を一時的に受け入れれば、チームとしての定義は成り立つはずよ?」

「……まあ、条件的にはそうっすね」

 

 

 専属契約はしてないが、教えは受けている。

 担当ではないが、複数人に指導している。

 思い違いでなければ、慕われているという敬意を感じている。

 

 どれもギリギリのラインだ。他のトレーナーに言ってしまえば反感を食らいかねない程の。

 

 

「それ、上の人の意見は?」

「秋川理事長から正式に許可をもらったから心配しなくていいわ」

「そうすか。それなら……何とか道理は通りますね」

 

 

 一つ頷いて先輩が再び酒を呷る。

 

 

「というより、貴方の他に居ないのよ。私以上に徹底した分析と処理能力を持っているトレーナーは」

「でしょうね。はぁ……」

 

 

 頭を抱えてため息をつく。

 そりゃそうだ、大ベテランの東条先輩以上にトレーナーとしての能力が勝っている人間などそういまい。

 俺だってトレーナーとしては4年目に入った一端のトレーナーだ。とてもじゃないが、長年少女たちを支えてきた東条先輩には程遠い。

 

 ただ、分析……は微妙だが。処理能力に限って言えば通常の人より以上に秀でているだけ。

 とはいえ、一片でも東条先輩より勝っているのは確かであることには間違いはない。だから。

 

 

「分かりましたよ」

「そう」

「ですが」

 

 

 先輩の目を見て了承の意思を伝える。

 断る理由はいくらでもあるが、それは業務で上司の願いを断る行為と同等。なので断らない、というより断れない。……クソが。

 

 ただし、断らないといってもこちらにも譲れないモノもある。

 頼んできたのは相手側だ。これくらいの融通は有ってもいいだろう。

 

 

「それは、俺個人の了承です。うちの担当らの意思を聞き届けるまで、この一件は保留にさせてください」 

「ええ、構わないわ。……貴方も大概キッチリしてるわね」

「俺の育成方針に関係するんで。あ、ワインのつまみです」

 

 

 酒のつまみとして、鶏もも肉を少量の油で揚げてポン酢で味付けしたものを先輩の座るカウンターに出す。さっきの会話中にこそこそと作っていたものだ。あっさり目の揚げ肉だから酒に合うと思うが……。

 

 

「ありがとう。……うん美味しいわ」

「どうもです」

 

 

 どうやら口に合ったようらしい。よかったよかった。

 

 ……さて、アイツらにも今日の事話さんとな。

 明日あたり、東条先輩また店に来るだろうからその時に聞くか。

 

 

……

…………

………………

 

 

 翌日

 

 

『よし、決めるぞ』

『『『…………』』』

 

『海! 山! どっちだッ!?』

『海!!』

『私も』

『よし、行くぞ海!』

 

『貴方……どうして涙を浮かべているのかしら?』

『……これは嬉し涙です理由は聞かないでください東条先輩』

『?』

 

 

 えー、以上が顛末である。

 ていうかあれだな。茶番だな。だってもう来てんだもん合宿場所。

 答え合わせも何もない、普通に事後。クソがよ(泣)

 

 今、こんな前語りを思い出してんのは、ほとんど現実逃避からだ。

 

 

「カイチョーとアスウィーの勝負見てみたい!!」

 

 

 炎天下、丁度昼時、弁当を食おうと愛バらに合流した直後。

 なんか知らんけどテイオーがウィング……【飛翼】と【皇帝】の戦いを見たがっているんだよ。

 俺がいない間に一体何の話をしていたんだか……おいテイオーそんなに服引っ張るな、伸びる。興奮してるのは分かったから、とりあえず落ち着けもちつけ。

 

 つかあれだ、最初から予測すべきだったのかもしれない。

 

 

『あの、東条トレーナー』

『何かしら』

『ルドルフ……シンボリルドルフは、彼女も夏合宿に参加する予定ですか?』

 

『もちろんよ。ただ、直近にレースの予定はあるから無理はできないのだけれど』

『……! いえ、それだけで十分です。ありがとうございます東条トレーナー』

 

 

 ウマ小屋の中でこんな会話をして。

 すっげぇ嬉しそうな顔をしているウィングを見て、少しはこうなる可能性を考慮すべきだったと。

 

 

「ねえ~いいでしょトレーナぁ~」

「あ~……」

 

 

 グワングワンとテイオーの手で体を揺らされながら、俺は途方に暮れるのだった。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「いやもう……なんかすまんなシンボリルドルフ。うちの天才無邪気破天荒(クソガキ)テイオーが無理言って……」

 

 

 そう言って謝る私のトレーナー。

 頭を下げている相手は<リギル>のメンバーで【皇帝】の名を持つ、()()()()()()。ルドルフだ。

 

 

「はは、いやいいんだトレーナー君。艱難辛苦(かんなんしんく)、それを経験し落ち込んでいたテイオーがあそこまで目を輝かせて私にお願いしたんだ」

「ふふっ、ルドルフ嬉しそうだね」

「ああ嬉しいとも、私の夢は前にも話しただろう? アストラルウィング」

「全てのウマ娘の幸福、でしょ?」

「そう、幸福だ。以前のテイオーには見ることのできない()()が、今は遠くから眺めるだけで感じられる。これほど喜ばしいことは無いさ」

 

 

 声色から嬉しさが溢れ出ているルドルフを見て私は微笑する。

 確かに、初めてテイオーを見た時は明らかに覇気みたいなのが無かったからね。今でこそお昼に入る前の会話みたいにはしゃいだりしてるけど、たぶん私のトレーナーと契約するまではそういう子供っぽい振る舞いは少なかったんじゃないかな?

 

 うちに入って3か月あたりだったっけ? テイオーの遠慮がなくなってきたの。

 それまではなんか「昔のウィング見てるようだったわ」ってトレーナーが言うくらいの悲惨さだったらしいから。……私ってそれくらい酷かったかなぁ。酷かったか。酷かったね。うん。

 

 まあ、それはそれとして。

 

 

「トレーナー」

「おう。()()()()()()

「やたっ!」

 

 

 小さくガッツポーズ。

 簡潔にそう伝えられて私は素直に喜んだ。

 ルドルフはそんな私を見て苦笑している。いいでしょ、久しぶりにルドルフと走れるんだから。

 

 

「東条トレーナーはなんて言ってたかな?」

「とりあえず、併走扱いで走りを魅せろ、ってだけは伝えられてるよ。あとは怪我しないようにってな。シンボリルドルフ、お前近いうちにレースが待ってるんだろ?」

「ああ。にしても『魅せろ』と……」

「この併走の目的は、トップクラスの走りを後輩に見させることだからな。逆にその目的がなかったら走らせちゃくれなかっただろうよ。つか俺も走らせんわ」

「目、死んでるよトレーナー」

 

 

 まるでスーパーに投げ売りされているような魚の目で愚痴るトレーナーに苦笑の笑みを返す。

 珍しいな、と思う。仕事のスイッチを入れたトレーナーが、こんなにも私情をここまで表に出すなんて。

 

 

「ったりめぇだ、お前仮にも引退済みのウマ娘だぞ? それがいきなり現役相手しますってなったら怪我の心配もするわ」

 

 

 呆れ顔のまま頭を掻いて私の頭にポンと手を置くトレーナー。

 

 …………あ、うん。ちょっとそれは予想外かな。

 心配かぁ……まあそうか。

 怪我するかもしれないってなったら流石のトレーナーでも気を遣う、よね。

 

 ちょっと――いや、だいぶかな?

 胸の中に幸福感みたいなものがポンポン生まれてくるのを感じる。

 シャボン玉みたいにフワフワ宙に浮いているような、そんな感覚。

 

 

「……偶にそういうこと言ってくるのずるいと思うよ」

「あ?」

 

 

 トレーナーは、興味の無いものにあまりにも無頓着だ。

 だけどそれは逆に言うと、興味のあるものに対して固執してるわけで。

 

 ……いや、私も長年トレーナーの担当だったからその対象であることは理解しているだけどね!?

 

 それでも。

 なんていうか、仕事のスイッチ入れて私情を表に出さない状態でもさ。

 

 私の事を想ってくれてるのは流石に照れるというか……。

 あぁもう!顔赤くなってないかな? なってるか。なってるだろうね!だって熱いし!

 

 

「顔赤いがどうした? 照れてんのか?」

「そうだよ、もう!」

 

 

 相変わらず気にしてなさげなトレーナーの様子を見て、私は頭に置いてくれてた手を退ける。

 ていうかトレーナー、私が照れてるの理解してたってことは、さっきのセリフ私がこういう反応するの分かってて言ったんだね!

 

 私が渡した少女漫画見て勉強でもした?

 だとしたら完璧だよ、私を口説く方法!!もう堕ちてるけどさ!!!

 

 趣味人!恋愛興味なし人間!

 あんぽんたん!もう、ずるい!!!(語彙力消失)

 

 

 

……

…………

………………

 

 

 

「……君も大変だな、アストラルウィング」

 

 

 隣に立つルドルフが小さい言葉で私に言う。

 ……それどんな感情が込められてるの? すっごい哀れみとか悲壮感がありそうなんだけど。

 

 

「分かってくれる? トレーナーったらいつもあんな感じでさ、私もテイオーも少し困ってるよ」

「まあ、私も生徒会の書類業務を任せる時には世話になっているからね。文句は言えないが、彼の性格に一難ありというのは同意せざるを得ないな」

 

 

 その言葉に「矯正は難しいと思うけどね~」と諦め半分で私は返した。

 難しいていうか無理だね。これについてはトレーナーの生い立ちが関わってるし。

 トレーナー自身もそんなこと望んでないだろうし。

 

 とまあ、その話は別に良いとして(良くない)

 私は両手を合わせる。

 

 

「さぁ、それはそれ! これはこれ!」

「そうだな。今は目の前に置かれたレースに誠心誠意の全力を尽くすとしよう」

 

 

 地に足をしっかりとつけて、意識を切り替える。

 

 目の前に広がるのは、緑に敷かれた道。

 そして、今から私達が()()場所。

 鋼の檻に入ると同時に、その景色を見て懐かしさと高揚感が高ぶる。

 

 久しぶりのゲートだ。トレセン御用達というだけあって、しっかり整備してあるのを手に触れて感じた。

 

 

『分かってると思うが、くれぐれも『飛翔(ひしょう)』までは行くなよ? 今のお前の脚じゃ――』

 

 

 ここに入る前に何かを言われた気がしたが、忘れちゃった。

 楽しみが心の中を埋め尽くしているのを感じる。

 早く走りたいと脚が呻きを上げる。

 

 ……まずい、ちょっと冷静じゃないかも。

 

 

「はぁ~……ふぅ……」

 

 

 一つ深呼吸。落ち着け私、レースは逃げないんだから。

 

 そろそろ始まる。

 旗が振り下ろされると同時に、目の前を覆う鉄のゲートが開く。

 止まらない高揚。疼く脚。それを開放できるその瞬間が。

 

 

「♪」

 

 

 ガコンッ、という音と共に迎えた。

 

 

 

 





「ねえねえトレーナー、何それ? マイク?」
「ああ。ホテルから外付けのスピーカーを持ってきてPC経由で繋げたんだ。まあ、簡易的なメガホンって奴だよ」
「ふぅ~ん? なんでそれがいるの?アスウィ―の応援用?」

「…………それだけで済んだらいいんだけどな」


次の1話は早めに更新しま(早く書け)


メジロの男装(?)めっちゃ好きマン
そのままの姿でもめっちゃ好きマン

他ウマ娘との絡みもっと欲しい?

  • くれ
  • いらん
  • どうでもいいからイチャイチャ見せろ
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