トレセン学園の隠れた名店   作:[]REiDo

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テイオー編
前編になります




回想 潮味の今と雨色の昔

 

 ボクにとっての始まりは『憧れ』だった。

 

 無敵の3冠を制した菊花賞。

 

 初めて見たレースの輝き

 初めて聞いた栄光を祝う歓声

 

 初めて――自分でなりたいと思った『理想』

 

 カイチョー……いや、ちがうか。

 【皇帝】シンボリルドルフに憧れたボクは、その『憧れ』を抱いてトレセン学園に来た。

 

 

 入学した当初は、とにかくカイチョー……ううん、この頃はカイチョーが『カイチョー』だってことを知らなかったんだっけ。

 まあ、それでもそんなことは関係なしに、ボクはただカイチョーを探して

 そして言ったんだ。

 

『ここまできたよ!』

『すぐに追いついちゃうからね!』

 

 ビシッー!ってエアグルーヴ副カイチョー達がいる生徒会室でピースしてボクは宣言した。

 

 ……今思い返すと、チョット恥ずかしいことをしたかなって思う。

 …………いや恥ずかしい!恥ずかしいよ!! なんでボクあんなことしちゃったのさぁ!!

「わっ、重いよアスウィーぃ……」

 

 う、うん。まあ昔のことは昔の事ってことで割り切る感じにしよう。

 

 今思っても恥ずかしいことをした後、ボクは入り居るように生徒会室にお邪魔するようになった。どこに居ても見かけたらカイチョーに飛んでいくし、たくさんお話もした。

 副カイチョーにはよく呆れられるけど仕方ないよね。

 だってボクの夢がそこにいるんだもん。

 

 

 そこからはカイチョーを追いかける日々だった。

 カイチョーに追いつくためにトレーニングを頑張って、勉強もいっぱいして、時間が経って。

 

 

 ――ボクは、目指していた夢の前で膝を着いた。

 

 

 

 

 

 慢心って呼べるものはあったと思う。

 

 走るのが速い自信があった。

 ボクが天才っていう自覚があった。

 周りから『テイオー(帝王)』って呼ばれて満足しているボクがいた。

 

 それを全部重ねて、ボクは――『トウカイテイオー(ボク)』が無敵だと思い込むくらい気が緩んでいたんだと思う。

 「自信の有り様はあるだけ全然良い」ってトレーナーは言ってくれたけど、今思うとあれは自信でも何でもないただの慢心だったのかなって感じるよね。なにやってたんだろボクってば。

 

 

 ――そして、そんな日々を過ごしていたある日、ボクはカイチョーと模擬レースができる機会を得た。

 

 最初はただの好奇心。

 今のボクで、どのくらいカイチョーに近づけているのかなって思ったのがきっかけだった。

 安易な考えで、夢との距離を測りたかったんだ。

 

 うん? それからどう行動したかって?

 

 ただカイチョーにお願いした。

 ずっと。

 毎日のように。駄々もこねた。

 その成果があってか、最後にはカイチョーが折れてくれてレースができるようになったんだ。

 

 ……トレーナーに言ったら引かれちゃうだろうなぁ。ぜっったいに言わないでおこう。うん。

 

「アスウィー大丈夫?」

 

 とにかく、ボクはカイチョーと戦った。

 

 全力で戦った。今のボクがどのくらい夢に追いつけているのかを確かめたかった。

 「此処まで届いているんだ」っていう自信が欲しかった。

 カイチョーと戦って、ボクの(皇帝)を追いかけて。

 

 そしてボクは――当たり前のように負けた。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 分かってはいたはずなのに。

 今のボクで届かないのは分かっていたはずなのに。

 それでも好奇心は止まってくれずに、夢との距離を確かめた。

 

 でもさ

 

 その影すら踏ませてくれないってなっちゃうと、流石に心が折れちゃうよね。

 

 7バ身差。っていう大差。

 

 その現実が突き付けられてからのボクは、ただただがむしゃらになってた。

 走って勉強して、走って、朝も夜も雨の日も走り続けた。

 

 選抜レースでは優秀なトレーナーが何人もボクを誘いに来ていたけど、自分の力で夢を証明したかったから頼らなかったし、断り続けた。

 

 そうやっているうちにいつの間にか、走ることが楽しいなんて思えなくなってて――

 

 辛くて苦しい気持ちだけが、胸をいっぱいに埋めていたんだ。

 

 

 

 

 ザァザァって降っていた、ある大雨の日の夜。

 

 ボクは、いつもように学園のターフで走りこんでいると、ある視線に気づいた。

 こんな日の夜に一体誰だろうとふいにターフの柵を見たら、そこに一人の男の人が立っていた。

 

 ボクも嫌になるくらいの大雨の中、傘も差さずに。

 

 ただ、ボクの事を見ている。

 

 

「ん? ああわりぃな。()()()()()()()()()()()()()だったんだ。俺に遠慮しないで続けてくれ」

 

 

 気になって何をしているか聞くと、男の人は気楽な風にそう言う。

 胸元には、トレーナーを示すバッジがあって止められるんじゃないかなって思ったんだけどそうじゃなかったから、ボクは遠慮なく走り込みを再開した。

 

 

「……脚は、流石にいいな。ルドルフが推すだけはある。特に脚首すげぇなあれ、なんだありゃ。うちのウィングよりよっぽどしなやかじゃねぇか。あ、でもその分壊れやすそうか……?」

 

 走った。

 

「……精神が不安定なのは確定だな。いつぞやのウィングみたいだし、全然楽しそうじゃねぇや」

 

 走った。

 

「……あぁあぁ、そんながむしゃらに走りやがって……どこ鍛えるのかも不明慮じゃねぇのかあれ。もったいねぇ」

「……ん~、でもまあいい感じに()()()るか」

「聞いた通りなら『子供っぽくて、脚も速いし、()()()』」

「…………いい。良いな。絶妙に尖ってるじゃねぇか」

 

 

 ターフを一周するごとに、男の人のボソッとした声が聞こえる。

 わざと聞こえるように言ってるのかな? なんてあの時のボクは思ったけど、今はそう思わない。

 

 だって()()()()()()()だもん。

 

 趣味人で、娯楽主義で、自分に嘘もつけないボクのトレーナーなんだから。絶対自然に出た言葉に違いない。

 

 まあ?でも? そんなことも知らないあの時のボクには耳障りでしかなくてね?

 

 

「うるさいなぁ!! ボクの邪魔するのが目的ならどっか行っててよ!!」

 

 

 ボク自身を見透かされたような言葉に苛立っちゃって、反発的に叫んじゃったんだ。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「それはまた……変な出会い方をしていますわね?」

「ボクもそう思う……。あぁいう出会いってもっと綺麗なものだと思っていたんだけどなぁ……。まあ、トレーナーにそういうの求めても無駄なのは分かってるんだけどさ」

「テイオーさん……目が……」

 

 

 みなまで言わないでよマックイーン……僕だって夢を見ることぐらいあるんだよ。

 海岸の砂浜に座りながら、ボクは串焼きの肉にかぶりつく。すこ~し落ち込んでいるメンタルに肉汁が潤いをくれる。美味しい。

 

 あぁ~もう懐かしく感じるなぁ、トレーナーと会った時の事。

 あれかな、ほとんど毎日一緒にいるからかな? 一人で頑張ってた時期が眠っていたみたいに短く感じるんだよね。

 

 え? 目が遠いって? 気のせいだよ多分。うん。

 

 

 

 

 

 満開快晴のお昼時。

 

 今日は練習は休みで、早朝のランニングだけやって1日中お部屋でゴロゴロする予定だった……んだけどね?

 

『ジャァマするぞ~』

 

 トレーナーの膝上でゴロゴロ寝っ転がっている時、扉をバァン!って開けられた。

 急に誰かと思ったら<スピカ>のゴールドシップでさ。

 

『肉食いに行こうぜ~』

 

 なんて言いながら、トレーナーに「海岸で待ってるからな~絶対来いよ~!!」って去り際に叫んでどこか行ったんだよね。

 

 いきなりの出来事で茫然としちゃったボク。

 トレーナーはいつも通りプロファイリング解析?とかレース映像見ながら物理演算したりしてて、アスウィ―は何かの勉強を普通にしてた。

 

 慣れてたのかな? あーあ、って感じで見送ってたけど。

 肉食べるー、とか言ってたのにお魚を獲るやりを担いでたのは全然理解できなかったけど。

 

 でまあ、気分屋のトレーナーがこんな面白そうな出来事を見逃すわけなくてさ。

 

 

『……お前ら、腹減ったか?』

 

 

 ニヤッって笑いながらボク達に提案してきたんだ。

 

 返答? お腹の虫が答えてくれたよ。

 

 

 

 

 ということで、<スピカ>と一緒にBBQを始めた今日の昼頃。

 

 

「先輩、次の肉どんどん入れていいっすよ」

「お、良いのか? ……ってコレ精肉店の肉じゃないか!? お前さん、こんな普通の店すらない場所でどうやって用意してきたんだ!?」

「飯屋の店主を舐めてもらっちゃ困りますね。5km離れた精肉店まで走って買ってきましたよ」

「プライドか?」

「こだわりって奴ですよ」

 

 

 そして今、トレーナーは皆のためにお肉を焼いてる最中だ。

 ていうかトレーナー、いつの間にかゴールドシップと一緒にどこか行ったと思ったらお肉買ってきてたんだ……。

 

 アスウィ―は<スピカ>のサイレンススズカって娘と一緒におしゃべりしてる。

 なんかすごく気が合うらしい。走りたがりのよしみだーとか言ってた気がする。普段から連絡も取り合ってるとか。

 

 ボクは、ボクのライバルのマックイーンと座っておしゃべりをしていたとこ。

 いつの間にマックイーンったら<スピカ>のメンバーになっていたらしくてね。

 その話を元に話題を広げてたら、ボクの方もトレーナーとの出会い方について語ってたってわけ。

 

 

「ほれ、焼けたぞスぺ公」

「ありがとー、ヒヤお兄ちゃん!」

「なんも」(訳:どうも)

 

 

 ボクの隣に座りながらトレーナーの方を見てたマックイーンがボクに聞く。

 

 

「テイオーさんのトレーナーさんは、その……そんなに無遠慮な方ですの?

今のところ、そこまでそんな感じはしないのですが」

「う~ん、どうなんだろ。そっち(<スピカ>)のトレーナーと比べるなら……どっこいどっこいじゃないかな?」

「ホントですの? 私の方のトレーナーも相当なものだと自負しているのですけど」

 

 

 あはは、マックイーン、ボクのトレーナーを舐めちゃいけないよ?

 ボクのトレーナー、デリカシーとか気にしてる類のものが全くないからね。

 今からイチャイチャするよー、って言ったら「あ? おう」って返してくるぐらいには無関心だから。人とは思えない感性だから。

 

 ……まあ、その性格を使ってイチャイチャしに行くことは多いけどね。

 さっきもここに来るまではトレーナーの膝上で遠慮なく寝てたし。頭撫でてくれたし。

 

 

「親しくなってきたらトレーナーの異質な所に気づきやすくなるかな。まあ、私の体験談だけどね」

「あ、アスウィ―」

「あら、貴方が」

 

 

 いつの間にかアスウィ―がボクの隣に立っていた。

 片手にお肉が刺さった串が4本持っていて、そのうちの2本をボクとマックイーンに渡してくれた。

 ボクもマックイーンも流れるようにそのお肉を受け取る。

 

 

「マックイーンだったね。うちのテイオーがよくお世話になってます」

「ちょっとアスウィー!?」

 

 

 渡されたお肉にかぶりついていると、突然アスウィ―がマックイーンに頭を下げてボクは困惑する。

 ていうかちょっと待って!? その言い方だと普段から僕がマックイーンを振り回しているように聞こえるんだけど!?

 

 

「お気遣いありがとうございますですわ」

「マックイーン!?!?」

「あはは! いや、ごめんね?テイオーったらよくお転婆娘になりがちでさ」

「ええ、よく分かりますわ」

 

 

 すっごく共感したようなことを言ったそばから話を広げていくマックイーン(ライバル)とアスウィー。

 どうやら、分かり合えるものがあったようで。

 

 

「ねぇ! ボクの話を聞いてよー!!」

 

 

 不名誉な称号をもらう前に、ボクは2人の話を遮ることに躍起になったのだった。

 

 

 

 

 

 



 

 

 

 

 

「うるさいなぁ!! ボクの邪魔するのが目的ならどっか行っててよ!!」

 

 

 怒られた。

 

 理由は間違いなく俺が凝視していたからだろう。

 何か一つに全力を尽くし過ぎる奴は大体、周りが見えずらく、短気的で、ネガティブになりやすい。長年の人間観察から得た知識だ。収入元にウィングが居たりするが。

 

 ――まあ、()()()()()()()()()()()()

 

 目の前で吐かれた大喝を、心の浅い所で切り捨てながら俺は彼女を見る。

 

 悪天候の雨中。

 全身泥まみれ、ボロボロの足、今にもくじけそうな表情をした少女を見る。

 

 トウカイテイオー。

 

 ルドルフから得た情報が間違っていなければ、目の前の彼女がそうということに違いないと。

 感でも本能でもなく、実際に見てわかった分析結果から確信を得ることができた。

 

 

 

 

『私は……また同じ苦しみを与えてしまったのかもしれない』

 

 ふと思い出す、ここに来るまでの生徒会室での会話。

 シンボリルドルフとの、会話の一片。

 

『あの子の――トウカイテイオーの憧れは、いつか私に対して牙を剥く。【皇帝】の私を超えてくるだろう。だからこそ、ここで折りたくはなかった』

 

 渋い顔で語り、窓越しから流れる雨粒の水滴を眺めながら、俺はシンボリルドルフの独り言を黙って聞いていた。

 

『それでも、手加減をすることはできなかった』

 

 矜持か、それともただの負けず嫌いか。

 いずれにせよ、シンボリルドルフはトウカイテイオーを叩きのめした。

 完膚なきまでに、徹底的に。

 

 自身を超えていくだろう存在を相手に、その成長を止める気持ちは一体どうだったのだろうか。

 

『……彼女の夢は、【皇帝】の私そのものだ。私の軌跡に見惚れている。そんな憧れを持った彼女に、手を抜いた私の走りは魅せたくなかったんだよ』

 

 悔しそうに、そして一筋の希望を持ちながら、目の前の小女は拳に力を入れる。

 希望は、トウカイテイオーが【皇帝】の走りに相対しても、立ち上がる事に賭けているのか。

 

 ウィングがそれを乗り越えたのと同じような。そんな可能性に希望を見出しているのか。

 

『――っ! 君はどう思う?ウィングのトレーナーくん。かつて、()()にしてしまった行動を再び犯してしまった私を、君はどう見る?』

 

 窓際から振り返り、ソファに座る俺に問うシンボリルドルフ。

 

 ……正直そう問われても、俺にはそういう対抗心などは微塵も持ち合わせていない。

 返答に迷う質問ではあるんだが……まあ、彼女がその状況で()()()()()()()()()()とするなら、その問いに対する答えは1つしかないかった。

 

 

()()()()()()()()()()()()

 

 

 簡潔にそう伝える。

 そう伝えることしかできなかった。

 この答えしか、俺は持ち合わせていなかったから。

 

『そうか……。いや、君ならそう言うだろうな』

 

 その一言を聞いたシンボリルドルフは、納得するように目を瞑る。

 ウィングとまでは行かないでも、彼女は俺との付き合いは仕事関連で意外と長い。書類系でな。

 俺に対する理解力の高さから、返答の意図をくみ取ったのだろう。

 

『……トレーナーくん。君に頼みたいことがある』

 

 そして、一拍の間が空いた後。

 シンボリルドルフは覚悟を決めたように俺に目を向けて、そう切り出した。

 

 

『――彼女を、トウカイテイオーを担当ウマ娘にする気はないだろうか?』

 

 

 世にも珍しい、他人から進められた担当契約の催促。

 それも、生徒会長であるシンボリルドルフからの提言。

 

 あまりに突然の提案に笑ってしまった俺を許してほしい。それほどの珍事だ。

 彼女が掲げる、「全てのウマ娘を幸せにする」という、夢とプライドを俺に一欠片ほど(テイオーごと)託すのは、相当の覚悟がなければできないのだから。

 

『――ふっ』

 

 理由は聞かなかった。

 その問いは、彼女が決めた覚悟を揺るがせる可能性があったからだ。

 俺としては、今はただ、固めた覚悟のまま突き進む少女を見ていたかった。

 

『いいぞ。但し――その娘が俺の興味を沸かせてくれるなら、だがな』

 

 返答は決まっていた。

 そいつに対して、興味があれば俺はとことん執着する。

 例外はない。俺の生き方だ。

 

 そう――かつてのウィングに惹かれたように。俺の生き方に迷いはない。

 

 

 

 

 そして。

 

 

「聞いた通りなら『子供っぽくて、脚も速いし、()()()』」

「…………いい。良いな。絶妙に()()()()じゃねぇか」

 

 

 口角が上がる。

 いかにもシリアス全開な雰囲気だってのに、高揚が止まらない。

 

 そう、見事、泥まみれの少女は俺の好奇心を刺激してくれた。

 決めたからには、興味を惹かれたからには、後はやるべきことは一つ。

 

 

 コイツと一緒に、全力で遊ぶ。

 

 

 ただそれだけ。

 そんな単純な、子供のような感情が、俺の心の中で渦巻いた。

 

 

 

 

 






「そういえば、マックイーンってどんな感じで<スピカ>に入ったの?」
「そうですわね……。まずゴールドシップに泣き落とされまして」
「泣き……え?」
「そこから<スピカ>の人たちに袋に積められまして」
「まってまって!? え、ボク今すっごい闇深い話聞いてない!?」
「大丈夫ですわ。最終的には自分で加入を決めましたから」
「死んだ目で言われても説得力ないよ!? ねえ、マックイーン!?」
「ダイジョウブデスワー」


紫猫侍さんからタイトルイラストをいただきました!

【挿絵表示】


ROAD TO THE TOPを見るたびに湧き上がる執筆欲がすごい。
とりあえず前編はこの辺で。次の更新は早めに頑張ります。


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他ウマ娘との絡みもっと欲しい?

  • くれ
  • いらん
  • どうでもいいからイチャイチャ見せろ
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