消しては書いてを繰り返し
なんとか書き上げた
小粒と大粒が混ざり合った水滴が、そこら中に降り注ぐ。
地面はぬかるみを覚え、視界は不良になっていて、とてもじゃないが運動に適した天候ではない。
――それなのに。
降り注ぐ雨を邪魔だと振り払うかのように、走り続ける少女が一人。
ボロボロのジャージに泥にまみれた全身。今にも限界を迎えそうな脚。
俺は、そんな様子の彼女を雨が降る中、傘をなげて眺める。
元々低い体温がどんどん下がっていくのを体感する。体調を崩すのは俺の信条じゃアウトだが、今は目の前の少女と同じ状態でいたかった。風邪を引いたらその時考えるつもりだった。
……因みに、これを後先考えずともいう。これ伏線な。
結局、俺は目の前の少女が
練習というにはあまりにも大雑把で、無難で、無邪気すぎるものではあったが。
それでも目の前の少女が全力でやりたいことやっている風景を見るために、俺はそれをただ黙って眺め続けた。
もちろん、練習の際にマジでヤバイと思ったときには止める気満々だ。重大な怪我は見逃さねぇよ。
ま、結果的にはそこまでの事態には至らなかったが。
さして、その途中で吐かれた激昂の言葉は数十回を超え。
走るたびに跳ね返る泥を身に受けることを何度か繰り返し。
――そして、2000mのターフを6周と半マイル程走ったのち。
「はぁ、はぁっ……! ぐっぅ……!!」
とうとう限界が来たのか、ふらふらとした足取りでトウカイテイオーが失速し始める。
表情は目に見えるほど辛そうで、今にも倒れそうだった。
「おーい、大丈夫かー?」
「うる……さい……っ!!」
返事にもキレはない。さっきまでとんでもない怒声上げてきてたというのに。
……少女の様子を見て、俺は明らかに気力が尽きてきていることを確認して、これ以上の練習は怪我に繋がると判断。
放っていた傘を拾い、埒を乗り越えターフに侵入し少女に向かって歩く。
「…………なにさ?」
一つ歩を進めるたびに、怪訝な顔が深くなる少女の顔。
もはや敵意に近い……
そして、一歩進めば体が当たる距離に近づき。
行動する。
「無帽に頑張ってるとこ悪いが、こっから先は目に毒なんでな」
「……え、なにをっ!?」
有無を言わさず、少女の体を担ぎ背中に乗せた。いわゆるおんぶの状態になる。
「ちょっ! ねえ!なにしてるのさぁ!?」
「目に毒って言ったろ? 悪いが強制連行だ。なに、トレセンの職員にチクったりはしないから安心して寝てろ」
「そういう問題じゃないよね!? いや、ちょ、離してよぉ!!」
背中に乗る少女が何とかして離れようと、ぐいぐい体を引っ張ったり俺の頭をポコポコ叩くが、
仮にも、ウマ娘の力量で叩いているはずなのにだ。
「ウマ娘のお前が、人間サマの俺の拘束も振り切れないで何をするってんだ? いいから寝てろ」
無理に離れようとしないのは、俺を傷つけてしまうかもしれないという遠慮か、優しさか。
それとも疲労が体の力を奪っているのか。
いずれにしろ、こいつは俺の背中から離れることはできない。
なら、俺がトレーナーとして
怪我をしないよう優しく運び、介護する。
「なに言って……キミは一体……」
少女の言葉の羅列が曖昧になっていく。
それと一緒に抵抗する力も微弱ながら抜けていき――。
「ボクはま、だ…………」
トンッ、という背中に何かが落ちた衝撃と共に、力が抜け背中に身を預けた事を理解する。
途切れた言葉の続きが無く、雨音と一緒に聞こえる小さな呼吸が聞こえた。
そろそろと予測してた通りで、寝てしまったらしい。
今にも倒れそうな疲労の山を、持ち前の集中力と気合で何とか支えていたのだ。それが切れたなら、支えていたものが崩れ落ちてくるのは道理。気を失うのも致し方ないというものだ。
「自分の体のことも顧みない精神性……ねぇ?」
体から力を失った少女の様子を把握。
俺は怪我をしないようきっちりと、優しく担ぎ直した。
そして、他愛もない独り言をつぶやく。
「あんま良しとは思わんけどな……コイツもまあ、ウィングによく似てるもんで」
ウマ娘ってのも難儀だな。とか考えながら。
倒れ伏した少女をおんぶして、足取り迷いなく歩き出した。
目的地は当然のごとく、俺の店まで。
「テ イ オ ー ?」
「アスウィ―怖いってぇ!! しょうがないじゃん!あの時はもう、ホントになんか自暴自棄とかそういうのだったんだからさぁ!!」
「だからって怪我する一歩手前まで走るって……いや私も人の事言えないけどさ。……はぁ、トレーナーが私以上にテイオーに気を遣う理由がもっと分かった気がする……。後でトレーナーにも色々聞いておかないと。あの日の事、一部分でしか把握してないし」
「テイオーさん……」
「マックイーン? ナンデそんな目でボクを見るの?ねえ、引かないでよォ!?」
まどろみの意識の中だった。
目を閉じて、ものすごいぐったりとした倦怠感を、ボクは身に染みて感じていたのを覚えている。
『――――まあ、ウィングに――似てる……』
言葉が聞こえるたびに、途切れていくボクの意識。
声の持ち主は、さっきボクを背中におぶったトレーナー。
あの時のトレーナーの変な行動に対してボクは驚いちゃったから、反発的に抵抗しちゃったのはいい思い出だ(?)
まあ、すごいぐったりしてたから、抵抗虚しく身を任せるしかなかったんだけどね。
とにかく、ボクは背負われるトレーナーにされるがままだった。
されるがまま、ボクはどこかに連れてかれて。
されるがまま、どこか分からない場所で
「……知らない天井」
気が付けば、どこかもわからない場所の布団の中だった。
「ここ、どこ……?」
気だるい体を無理に起こして、ボクは周りをぐるりと見渡す。
石の壁に窓の無い部屋。
段ボールに詰め込まれてる雑貨とか、とてつもない数で存在感を出しているモニター群。
蛍光灯で白く照らされているそんな部屋で、ボクの思考は困惑していた。
なんかもう、ワケワカンナイ……って感じで。
「服もなんかブカブカ……誰のだろコレ」
ボクよりも二回りくらい大きいサイズのパジャマ服。
袖ものびのびで、軽く振り回せば額に布生地が激突。
何やってんだろボク、と換気扇みたいな音が響く部屋の中で思わず失笑する。
狙ってやったわけではない奇行と混じって、何か虚しい――虚無感のようなモノが心の中で蠢いた。
こんなとこに来るまでの最後の記憶は、ボクがただ無茶をして、倒れて、誰かに運ばれてきたっていう……なんかもう、今思い出してもすっごい腑甲斐ないモノ。
事実、ボクは場所も分からない所で寝かされていたんだから、辿った記憶に間違いはないことを確信していた。
すごい嫌な気分で、悲しい気分で、薄ら笑いしか出ない状態だったかな。
だって、ボクが勝手に無茶をした上に、トレーナーの世話になっちゃったんだからさ。元気なんて出ないよ。
そこから数分かな。
ただ何も考えずに、俯きながら布団に隠れてるボクの脚を見ていた所だったね。
「あ、起きてる」
うん。アスウィーが。
アストラルウィングが、
ボクのジャージ服を入れた籠を持って、扉を開けて部屋に入ってきた。
……ねえ、思い出し笑いしないでよアスウィー!
分かってるから! ボクがすごい反応してたのは覚えてるから!
マックイーン!? 気になった風にアスウィーに聞きにいかないでよぉ!?
知りたいって何さぁ! 秘密だよ秘密!ボク絶対に言わないからね!!
あー、思い出したらすっかり笑い疲れちゃった。あはは、ごめんって。
そんな拗ねないでよテイオー。後でジュース奢ってあげるからそれで勘弁して。
……さてと、ここから先は私が話した方がいいかな?
確か……ああうん。テイオーと初めて顔を合わせた所だったね。
「ごめんね? 君のジャージを乾燥機にかけててさ、部屋を開けちゃってたんだ」
その日私は、トレーナーの部屋で勉強に集中してた。
……んだけど、お昼ごろにトレーナーがルドルフに書類を渡しに行くからって、セキュリティの都合上で部屋から出なきゃいけなくなったんだよね。意外と厳しいんだよ、トレーナー室の入室制限って。私とテイオーはいつも軽く出入りしているけど。
で、部屋から出て『ウマ小屋』に入ったんだけど、勉強道具を部屋に忘れちゃってさ。
仕方ないから、私はお店の中で食器を洗ったり店内の掃除をすることにしたんだ。
その1時間後くらいかな。
いきなりトレーナーがびしょ濡れのまま、子供一人背負って戻ってきたのは。
驚き? 私は特になかったかな。まあ、長年あの人の隣に居ればああいう奇行には慣れてくるっていうかなんて言うか……。うん。いや、君とテイオーの反応が正しいんだろうけどね。私が絆されただけだからさ……。
と、とにかく。
誰かもわからない子をいきなり連れてきて、私はすぐにトレーナーに聞いたよ。
ああ、背負ってる子が誰か~とかじゃなくて、なんで連れて来たのか~とかそんな感じのね。
『めっちゃ
そしたらまあいつものように――ううん、
あ、尖ってるっていうのは気にしないで。あの人の主観的な好みみたいなものだから。
『とりまタオル用意してくれるか? 背負ってる子供の介抱は俺がやると……まずいよな?』
『当たり前でしょ……。タオルでこの子の体を拭けばいいんだよね』
『ん。あと、トレーナー室開けておくから拭き終わったら布団に寝かしつけといてくれ。体を冷させるわけにゃいかねぇからな』
『いいの? トレーナー本人が部屋に居なきゃ誰も入れちゃいけないんじゃ?』
『非常事態だし、本人の同意があれば後で何とでも言い様はあるわい』
テキパキと、そんな会話をしながら私はトレーナーはささっと行動を始めた。
トレーナーの様子はどこか高揚感があって、どこか緊迫感があった。きっとテイオーに風邪を引かせたくない一心だったんだと思う。
ていっても、絶対この状況も楽しんでたに違いないけど。
……先に言っとくと、私は背負ってきた子供が誰かなんて気にしてなかった。
ただ、びしょ濡れで寝たきりの子なんて相当な無茶をしたんだろうな、なんて思ってたよ。
ああ、ダメな娘だなーって。
……いや「ひどい!」って……それテイオーが言えたきりじゃないでしょ? あれだけ無茶したテイオーも悪いんだからね。そこはしっかり反省して。
――うん、よろしい。
話を戻そっか。
ここまでが説明パートってところ。
私はテイオーが目を覚ましてから、現状報告として今さっき話したことを簡単に説明していた。
「で、君の体を拭いた後は濡れてるジャージを乾燥機に出しに行ってたの。流石にあのまま布団に寝かせることはできなかったから……って聞いてる?」
「…………」
「え、何その顔」
で、説明してたんだけどさ? テイオーってば私を見た途端に驚いてフリーズしちゃったらしくて。
まあ私、立場上そういう反応はよくされるけど、テイオーはすごい露骨で分かりやすくてね?
顔? それはもう面白おかしく子供っぽくてつい笑っちゃうくらいの変g――
ちょっ、テイオー!?肩叩かないで!?
痛たたたっ、分かった分かった! 言わないから!
はは……ふう、ま、まあそういうわけで。数分くらいはテイオーの反応がすっごい薄かった。
「大丈夫?」
「う、うん。大丈夫」
で、何拍か間を開けて。
何回か目をゴシゴシ擦って、私を何度か見て、それでやっと現実に追いついたらしく、テイオーが私の説明に反応してくれた。
「えっと、アストラルウィング――で合ってるよね?」
「うん」
「カイチョーと戦ったっていう、あの」
「カイチョー……ああ、ルドルフのこと?ならその認識で合ってるよ」
私がそう答えると、テイオーはまた少し戸惑った表情を見せた。
なんだか、先生に怒られる前の子供みたいな雰囲気だったことをよく覚えてる。
あれ、実際どんな感情だったの?
……感動と動揺が混ざった感じだった? カイチョーと一緒に走ったアスウィーの事を知らないはずがないでしょ、って?へぇ~テイオー、ルドルフと同時に私にも目を向けてくれたんだ。
ふふ、弄ってるつもりはないって。ありがとテイオー。
「なんで私がここに、って表情だね」
「……! それは……うん」
疑問全開と、どこか落ち込んだ雰囲気でテイオーが私の言葉に肯定する。
「男の人に運ばれてきたでしょ?」
「え、うん」
「あれ、私のトレーナーなの。だから担当の私が君の介抱を手伝いに来た。それだけだよ。あ、これ君のジャージね」
私はそんなテイオーの問いに対して簡潔に答えて。
それと同時に、乾燥機にかけて持ってきたテイオーのジャージを手渡す。
戸惑いながらそれを受け取ったテイオーは再び私に対して疑問を放つ。
テイオーは依然この状況に困惑している最中で、現状を受け入れようと頑張っている。
のなら、トレーナーが居ないこの場では、私が問いに答える義務があった。
「!? あ、ありがとう。……でもどうして? アストラルウィングの――」
「トレーナーの身なりの事でしょ?
一つ一つ、丁寧に答える。
……と言っても、まさかそれを早めに聞かれるとはね。
この様子だと私のインタビューとかも見たことあるっぽかった。
一つ苦笑して言葉を返す。
苦笑したのはなんていうか、思い出し笑いみたいなものだった。
「それはまあ……あの人、世間じゃ違う顔で通ってるから」
「違う顔!? え、もしかしてあの灰色の髪も」
「あ、いやそれは普段からその色だから気にしないで」
「それもおかしいよね!?」
驚く事が多くてテンションが上がったのか。
その質問を機に、テイオーとの会話がヒートアップした。
さっきまでの落ち込んだ雰囲気は無くなって、友達同士のような会話が始まったのだった。
一応その後
「
「――あっはは!!」
等、都市伝説気味なものを含めて色々聞かれたけど笑いながら否定しといてあげた。
でもまあ、あまりにも奇天烈な内容が多かったからさ。
掲示板で皆がよく使う用語を借りて言うけど、すっごい芝生えたね。うん。
他ウマ娘との絡みもっと欲しい?
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くれ
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いらん
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どうでもいいからイチャイチャ見せろ