トレセン学園の隠れた名店   作:[]REiDo

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トレーナー含め、テイオーとウィングの夏収めです。



まともなお祭りは常人向き

 

 

 えー、本日の天気。

 ()はまっ天天な快晴。

 

 そんで現在、午後8時をまわった夜の空。

 曇り空無く星が舞う、見事なまでの環境になっている。

 移り替わり無いいつも通りの夜空で、いつも通りの日常。

 

 

「お祭りだ~!!!」

「わーい」

「人混みには気を付けろよー」

 

 

 ただ、いつもと違うというならば。

 それは上空から見た俺たちの立つ場所が、数多くの淡い光で埋まっているという点か。

 あとは目の前ではしゃぐ彼女達の容姿。

 

 青く光る可憐(テイオー)と黒く輝く艶美(ウィング)

 そんな言葉が最も合うであろう美少女の浴衣姿は通りゆく周囲の目を奪っていた。

 

 

「アスウィー! あっち行こ!おいしそうな焼きそばとかいっぱい!」

「ハイハイ。トレーナー?」

「ああ、行ってこい。なんかあったら俺の携帯番号に連絡(TEL)な」

「うん、分かったよ。こら~待てテイオー!」

 

 

 脚速(あしばや)と人混みの中を笑顔で駆け抜けていくテイオーとウィング。

 そんな少女らを俺は「浮かれてんな~」と思いながら眺めている。

 

 屋台の明かりが照らす橙色の光は、夜景のように楽しそうなテイオー達を迎えていた。

 

 

 

 てなわけで、今日は夏の合宿最終日。

 炎天隠す夜の闇の中。まあ、つまりは夏の夜空の中なんだが。

 俺らは頑張ってきたご褒美だと言わんばかりに、宿泊施設の近くで開催していた夏祭りに足を運ばせているのであった。

 

 予定通り……てなわけじゃないんだがな。何せ急遽行くぞってなったもんだからよ。おかげで身支度の用意に時間がかかったわ。俺、こういうイベント事にはちゃんとした格好で行く人間だから。

 

 しっかりと服装を決めてきた()()か、周囲の目がすごい。

 ホント。めっちゃ寄って来てんのが分かる。目を閉じながらめんどくせぇなぁと思うが、全ての元凶は俺の容姿が悪いんだろう。

 

 灰髪に甚兵衛(じんべえ)姿。顔もそこそこ良いとなったらコスプレか何かと疑うのも無理ないし。

 

 ……はぁ。視線の無視は地味にくすぐったいからダルいんだよ。

 ま、それよりももっとお若く麗しゅう美少女の大行列があるから、そっちに目がいってくれてるのはありがたい。

 

 

 

「あれ、テイオーのトレーナーさんは行かないんですか?」

 

 

 と、不意に横から聞きなれない声。

 誰かと思えば、すぐ隣には<スピカ>のダイワスカーレットが立っていた。

 前言に則りコイツも美が付く少女である。あぁ、俺を見る目が逸れていく感覚が良き……。

 

 

「その前にアイツらが屋台に突っ込んでいったからなぁ。まあ、後で合流するつもりだよ。

 それまでは他の奴の引率(けん)安全確認役になるかね」

 

 

 こっちも浴衣姿。ふくよかな胸部は今にもはち切れそうなのだが、俺としてはどうでもよいので無視。普通なら目が寄るらしいのだが。万乳引力が何とかどうとか。

 

 

「他のっていうと……あの教官付きの()たちのことですか?」

「ああ。というかお前ら<スピカ>の面々もだぞ? 先輩に任せられてんだからな」

 

 

 そう言うと、ダイワスカーレットはキョトンとした顔になる。

 ……あの先輩のことだ。どうせそういった話は共有していなかったんだろう。

 所々適当さがにじみ出るのがあの人らしいが。……いや俺も人のこと言えねぇか。

 

 少しため息。

 んで軽く頭を掻いてから俺は素っ頓狂な表情をしているダイワスカーレットに言う。

 

 

「まあ、俺もそんな深入りはしないから自由に楽しんで来いよ」

「いいんですか?」

「良いんだよ。真面目に不真面目にだ。楽しむときは全力で楽しんどけ。何かありゃその時の責任は俺がとる」

 

 

 と、少しかっこつけたか? なんて考えながら言いきってたところだ。

 背後から複数の声。

 後ろを見れば<スピカ>の面々が勢ぞろいでこっちに向かってきていた。

 

 おー、ナイスタイミングじゃん。

 

 

「ほら、お前の迎えだ。存分に遊んで来いよ」

 

 

 同時に<スピカ>の面々に体を向けたダイワスカーレットの肩を押した。

 少々驚いたのか、体を一瞬こわばらせたが俺の気遣いだと悟って彼女達の方へ走り出す。

 

 ……去り際にさらっと綺麗なお辞儀をしていったな。

 

 確か、同期のウォッカだったか。あの娘とよく喧嘩しているイメージがあったが、意外と内面は礼儀正しい性格なのかもしれない。

 テイオーにも見習ってほしいもんだ。まあ、あれはあれで面倒の見がいがあるのだが。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 生徒らの安全確認をしながら屋台の通り道を歩き進む俺。

 目は常に周囲へ傾ける。生徒の外見はほぼ覚えているので見逃すことはないだろう。

 

 視界の端には射的で狙った景品が取れずに悔しがってる娘、金魚すくいをしようとしてあまりの眼力に金魚が大暴れしてびっくりしている娘、りんご飴を丸々1本頬張って地獄を見ている娘、と多種多様だ。はは、ろくな光景がねぇやなんだこれ。

 

 ……今見た奴全員、俺が面倒見てる教官付きってマジ?(失笑

 

 

「あ、あの!!」

 

 

 と、またまた背後からの声。本日3度目である。

 

 振り向いた先に居るのはウィングぐらいの背丈をした女の子。

 常にソワソワしている様子の少女。祭りということで若干赤みを含んだ浴衣姿を着ており、部類から見れば可愛いという感想が浮かぶ。

 因みにこの()も教官付きのウマ娘である。その証拠にウマ耳がピコピコと……してねぇな。下にふにゃついてる。

 まあ、この娘に関しちゃいつものことなんだが。

 

 

「こっこれ、受け取ってください! いつもお世話になってるので!」

 

 

 弱気な声、だが、めいっぱいの声を出してる少女が一本の綿菓子を俺に手渡してきた。

 

 

「……おう。あんがとな。あぁ、あとその浴衣、すげぇ似合ってるぞ」

「…………!」

 

 

 俺は少々戸惑いながら、笑顔で感謝を告げ頭を撫でてやった。

 そしたら満足したのか表情を緩めて駆け足で俺に背を向けて去って行った。

 

 ……正直言うと、大分驚いている。

 

 あの娘、俺が2年前くらいから面倒を偶に見ている娘なんだがな。

 ……まあ一言でいうと、非常に弱気なんだよ。それこそ他人とのコミュニケーションも()()()()くらいには。

 

 あれはいつだったか、何かの模擬レースだったか。

 8人くらいでやってたレースだ。入学したての娘の試験だったらしいが、その中にあの娘はいた。

 入学時期真っ盛りの少女らの列におどおどしながら紛れ込んでてな。周りの奴が心配する中いざゲートが開いたときだ。

 

 この娘、ゲートの中で両手抱えて震えてうずくまってたんだよ。

 後から聞いたら、どうも周りの娘の威圧に耐えきれなくなったんだとか。

 

 で、癖強な奴が好きな俺だからよ?

 

 あまりにも気になって迫ってみたら……そりゃぁまあ逃げる逃げる。トレーニングでも見せない全力ダッシュで俺の脚を振り切ろうとすんだコイツは。

 やっとのことで追いついて、その少女に色々事情を聴いてみたら……ものすげぇ弱気な奴だって分かってな。思わず萎んだ風船を相手にしてるみたいだったよ。

 

 そんな娘が今、誰の助けも借りずに俺に感謝の気持ちを伝えに来たとは……。

 いやぁ、成長ってするもんだな。

 

 

「そういや、最近他の教付きとも話してるとこ見たっけな」

 

 

 このまま心を開いてくれるといいんだが。

 喋りが苦手とかコミュ障とかは良いが、他人との関わりをまんま拒絶するのはトレーナーとして、というか人を育てる者として見過ごせないのだ。

 

 何事も関わってから感じる事もある。

 良くも悪くも、その積み重ねが人を成長させるんだ。持論に過ぎないが。

 

 

 ……と、そんなことを感傷深く思い出しながら、屋台の道を歩き続ける俺。

 もらった綿菓子を口に頬張れば、砂糖の網がほどけて濃厚な甘味が広がった。

 

 うん、ウマい。

 

 

 

 

 

 

「トレーナーじゃねぇか。丁度射的の景品が取れたからこれやるよ。大事にしてくれよな?」

「……落とすのに何十回もかかったのn ぐふっ……!?」

「なんでもねぇ。気にするなトレーナー」

「い、いきなりみぞに肘打ちは卑ky」

「ふんっ」

 

「トレーナーぁ! ちょっとこのりんご飴貰ってくれない!? もうお腹いっぱいでさぁ!」

「丸々一本頬張るアンタが悪いんでしょうが! トレーナーさんすみません……そういうことで……」

「でも美味しそうだったから仕方ないでしょ!?」

「アンタは一回黙ってて!」

 

 

 道中、数回に及ぶ教官付きの子との遭遇は、上記の会話から言うまでもなく。

 揃いも揃って「世話になってる礼」と(てい)のいい台詞を上げながら、祭りの景品やら食品やらを俺に渡してきたのだった。

 

 ……いやもう俺、腹いっぱいなんだが。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「あ、トレーナー! こっちこっち!」

 

 

 屋台の群れから外れた細道。

 そこで、ウィングとテイオーが俺に向かって手を振る。

 

 街灯が少ないからか、少し薄暗いが足元が見えない程でもない。ので、ちょいと小走りで向かうことにした。

 一歩一歩と近づくたびに、テイオーらが持ってるものが鮮明に見えてくる。

 えーと、風船にお面、りんご飴、焼きそば……その他諸々etc…

 

 

「……満喫してんなぁお前ら」

「うん!」

 

 

 そんな少女らの目の前に到着して最初に出た言葉が、思わずこんなだったのをどうか許してくれ。流石に縁日品を複数持ったテイオーの阿修羅状態はツッコみたくなるわ。

 右手にりんご飴と水風船持って、左手に焼きそばを持ったまま、一体その食料をどうやって食べるというのか。是非とも聞いてみたいものだ。

 

 ……まあ、持ちづらそうではあるから焼きそばくらいは俺が持ってやろう。

 

 

「あ、持ってくれるの? ありがとー!」

「ん。つかウィング、大分疲れてるが……どうしたよ」

「色々と連れられて少し疲れたの……。ちょっと休ませて」

「あ、おう。お疲れさん」

 

 

 そう言って、脇道から外れた岩に腰を預けるウィングであった。

 遠目で見た脚は少し張っている。相当歩いたのだろう。いったい何件の屋台に寄ったのやら。

 面倒見てくれた詫びにあとでアイスでも奢るか。

 

 

「トレーナーも大分疲れてない?」

「ん、顔に出てたか?」

「いや、出てはないけど……なんとなくかな。調子が悪そうに見えたから」

「そうか。ならまぁ、そりゃ()()()()()

 

 

 ポーカーフェイスは崩してないつもりだったんだが、さらっと体の不調を見抜かれる。

 ……端的に言うと、普通に食い過ぎの胃もたれなんだが。

 

 が、ここで不調を示せばテイオーらに要らない気を使わせてしまう。

 今は祭りの最中だ。楽しいことに集中してもらいたいのが俺の一心なので、このままポーカーフェイスを続けさせてもらう。

 

 すまし顔で何でもないと言い切った俺に対し、ウィングは苦笑して。

 

 

……全くもう

 

 

 そんな独り言をつぶやいた。

 ……どうやら、俺の意図はバレバレらしい。ダメですね。

 こうも察しが良いと、こっちとしても困りもんだ……。長年の付き合いもバカにならねぇな。

 

 

「トレーナートレーナー!」

 

 

 呼ばれて、体を声のする方に向ける。

 そこにはウィングが肩で息をする羽目になった元凶を作ったであろうテイオーが立っていた。

 ……いや、立っていたっていうか。

 

 

「どうどう? 似合うかな、この浴衣!」

 

 

 なんか回ってた。

 あれだ、モデルみたいに服装を見せる感じで綺麗に一回転して、これでもかと俺に浴衣姿を見せようとしてくるテイオーがいた。

 

 俺は思わず品定めするような目でテイオーを視る。

 ふむ……。

 

 

 基本は青色ベースの布地に黄色の帯はまさに彼女のイメージカラー通り、さらに2割程度の割合で混入している白色の花模様。月明りで照らされた煌びやかな光沢と、活発で満面な笑み。そして彼女が持つ特徴的なポニーテール。これら全ては『トウカイテイオー』という人物像を残したまま、祭りに適した姿恰好になっていると断言できよう。

 

 まさに綺麗、というより可愛いに特化した容姿。100点満点中120点だ。コレが歩いていて目が引かれない人間がいるわけがない。

 仮にだが、100人にこの容姿に対して文句があるか聞いてみるならば、だんまり静寂待ったなしに違いないだろう。

 

 以上の点から考えうるに、一言でまとめるとするならば、だ。

 

 ――いやマジで可愛いなおい。

 

 

 ……さて、俺主観の採点は終わり。

 フリフリと振られる尻尾を見るに、テイオーは今にも俺の答えを聞きたいのだろう。

 

 ならば答えよう。それが俺の義務だ。

 

 

「一言で済むか分からんが……いいか?」

「え? うん。いいよ?」

 

 

 お許しも出たことだし。

 

 

「そんじゃまずは――――」

 

 

 俺はとりあえず、さっきの極長な感想を10倍くらいに誇張したものを。ついでにプラスでさっき書き切ってなかった分を盛り乗せして、全部テイオーにぶん投げることにした。

 

 評価はしっかり伝えなきゃいけないだろ? 例えば小説の評価とか、しっかり感想を投げてこそ作品って周りに強く光を放つじゃん。そゆこと。

 

 

 

 

 

 



 

 

 

 

 

 私ことアストラルウィングは、現在絶賛足休め中である。

 テイオーに色々連れられてね。10……からは数えきれないくらい多くの屋台を歩いて回っていたのだ。

 いやぁ……結構疲れちゃった。テイオーったらホント元気いっぱいだよ。

 

 そして現在、見回りをしていたトレーナーと合流して、近くの岩場で私は脚を休めていた。

 トレーナーもだいぶ疲れている様子だけど……まあ私たちに心配かけないためか、表面には出してない。多分帰るまではずっと仮面をつけたままだろう。祭りだけに。

 

 

 

 

 そしてちょっと唐突なんだけど。

 人を褒めるって行為って、どんな状況が多いと思う?

 

 頑張った時? 良い事した時? まあ、色々あると思うんだけどさ。

 つまりはその人にとって、好印象なことだって受け取った時が多いわけ。

 

 

 そしてさ……ちょっと目の前見て? いや私のトレーナーとテイオーの事なんだけどね?

 

 ……私は今何を見せられているんだか。

 いやね、今日に限ったことじゃないんだけど。トレーナーの変人で歪で大真面目な性格はわかりきってることだしね。

 

 

 

「だからお前は――」

 

 

 かといってこれはない。ないよ。

 

 

「フェエェ~…チョトットレ」

 

 

 女神とか、天使とか、最高の愛馬だとか。

 とにかくまるっきり好印象なフレーズを乗っけたまま、テイオーの浴衣姿を褒め散らかすトレーナー。

 よっぽど良いと思ったんだね。あんな饒舌に感想いうトレーナーは久々に見た気がする。

 

 ……で、そんな元気いっぱいなトレーナーに対してだ。

 

 

 ――見てあのテイオーの慌てた様子! すっごく可愛いでsy……じゃなくて

 

 

 目の前でテイオ―は、ものすっっごい赤い顔をしてトレーナーの暴走に慌てふためいている。

 わたわた、ぴょんぴょん、ふりふり、くねくね。と擬音化したらこんな表現が待っているに違いない。すっごい落ち着きのなさ。

 

 いや~実に愛らしい。あんな可愛い()が私の後輩だと思うと誇りたくなっちゃう。

 

 初めの1分でりんごみたいに赤くなったかな? 3分で落ち着きをなくして、すぐに膝を抱えてうずくまっちゃったよ。尻尾ブンブン振っちゃってさ、どうしようかどうしようかってオロオロしちゃってね? 正直すっごく可愛いからすぐには止めなかったんだけど――

 

 

 ……と、話は変えよう。このままじゃ先に進めない。可愛すぎて。

 

 

 閑話休題。

 てことで、また唐突なんだけどさ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って言ったら、みんなできる?

 

 ……いや、からかってるとかじゃなくて。いたって真面目。私、真面目に聞いてる。

 まあ、普通出来ないよね。恥ずかしすぎて。

 普通の告白ですら心臓が張り裂けそうなんだし。緊張とか羞恥心とか入り混じる感じがしてまともにできないはずなんだよ。私もそうだったし。

 

 

 ――まあ、私のトレーナーはホントに例外なんだけど。

 

 

 まあ、うん。そういうこと。

 お顔真っ赤で今にも爆発しそうなテイオーとは反対に。

 ……というか普通の感性を持ってる人とは反対に、って言った方が良いかな。

 

 私のトレーナーって、羞恥心が無いんだよ。

 

 口に出す言葉、全部が素直。戸惑いなんかないし、それは日常生活でもいえること。例を挙げるなら、いきなり私が抱き着いても平常心で入れるくらいに。年頃の女の子がわざわざ好意100%で密着してるんだよ?もうちょっとドキドキしてもいいと思わない?

 

 まあ、それを逆手にとって私も日ごろイチャイチャさせてもらってるけど(まんざらでもない

 

 ……とにかく、トレーナーには恥ずかしいって概念が存在しないの。

 人の目線なんか「どうでもいい」の一言で一蹴するし、やることなすこと人の目気にしながら行わない。というより、()()()()()()()()()()()()()()。そんな人なの、彼は。

 ……恥じらいが無いのは偶に美徳だって私も思うけどね?

 自分が恥ずかしいって思わないのは別にいいと思うよ。トレーナーに関しては気にもしないから問題にもならないし。

 

 なんだけど……問題は、それが他の人に対して向けられた時。

 

 人に告白するかのように、その人を褒めてくださいって言ったら、みんなできる?って

 そんな問いを投げたと思うんだけどさ。

 

 ――トレーナーはね。それが当たり前のようにできる。

 何の抵抗もなく、求められてるなら普通に、平常心のままそんな言葉を放てる。

 

 

 そんな砂糖を煮詰めたような感想の数々をテイオーに投げつけているのが、私が見ている今の光景。

 

 ほら見てよ、テイオーったらもう耐えきれずに頭から煙吹き出しちゃってるって。今にも爆発しちゃいそう。あ、ポニテを口元に引っ張って照れを何とか隠そうとしてる……。可愛い!

 

 トレーナーは……うわぁ、満足そうに口を回してる……

 何がタチ悪いって、あれ下心ゼロなんだよね。ホントにただ心から思った事を話してるだけなんだよ。

 子供みたいに素直なくせして、善意と称賛を満タンに積めてあんな歯の浮くような台詞を堂々と投げてくるんだよ? しかも大人っぽく台詞のレパートリー豊富だし。

 

 普通に照れるでしょ。あんなの。耐えれないって。

 赤面しない女の子がいたら、多分その子乙女の感情切り取ってると思う。

 

 私はどうかって?

 

 

 遠目で苦笑しながら、赤面してる私の顔見る? ちゃんと乙女だからね私も。

 

 

 

 

 



 

 

 

 

 

 

 テイオーを褒めていたらウィングに頭をはたかれた俺だぜ。

 

 5分くらい経った頃だろうか。

 饒舌にテイオーの浴衣姿を褒め散らかしている最中だったのだが、不意に肩を叩かれて滑らかに動いていた俺の口が止められてしまった。どうやらやり過ぎだとか。

 

 ……いや、何がやり過ぎなんだろうか。

 

 俺はただ正直にテイオーのことを褒めていただけなんだが。多く褒めるに越したことはないはずだろ、人のいい所ってのは。

 

 で、そんな台詞をウィングに言い放ってみたら「……もうちょっと私が貸してる少女漫画ちゃんと読もうか。私も色々教えてあげるから」と、ジト目と哀れみ全開で返された。アイツもなかなかに言葉が鋭い。

 羞恥心について知れとかなんとか言ってたが……まあ、そこら辺は勉強しなきゃいけない部分だろう。生憎、恥ずかしいなんて感情は微塵も感じたことが無い身だし。

 

 

 

 とまあ、場面はあれから変わってだ。

 今俺らは、辺鄙な芝の上で寝っ転がっている。周囲には俺らと同じようにそこで座るものも多数いる。皆々共、今宵一限りの光景を見に来ようと絶好のポジションを確保しに来たのだ。

 

 ほら、今にもくるぞ。

 期待するかのような周囲の歓声。そして――

 

 

「「た~まや~!」」

「か~ぎや~」

 

 

 ドンッと。

 空に打ちあがる火の花と爆音が俺たちを叩く。

 

 小難しい言い方だったが、要は祭りの花火を見に来ただけだ。

 この瞬間だけは、誰もが天を仰いでいた。あの綺麗に咲く火花の数々を、眩いほどに輝く数輪の花が、遥か下に映る俺たちを魅了する。

 

 隣で横たわるテイオーとウィング、そして俺自身もその例外ではない。

 火の花が咲いた瞬間、俺たち3人はソレを歓迎するかのように大声で誰もが知ってる屋号を叫んだものだ。

 因みに、前記が両隣の愛バらで後が俺な。

 

 

「綺麗~!」

「ホントだね~。景色も良いし、良く見えるし」

「早めにポジション獲っといて正解だったな」

「うん! ありがとートレーナー!」

 

 

 感謝を言いながら左腕に抱き着いてくるテイオー。

 

 

「あ、テイオーずるーい。私も片方貰う!」

 

 

 対抗(?)してウィングが右腕に以下略……。

 左腕に俺の愛バ、右腕にも俺の愛バが満面の笑みでくっついてきている。ホント楽しそうに。

 こういうのを両手に花とでもいうのだろうか? いやこの場合だと両腕に花か。

 

 まあ、いやな気はしないが。自分の好きなものがすぐ傍にあってむしろ幸福な気分である。

 

 

「へいへい、俺は動かねぇから。遠慮なく抱き着け」

「そこは恥ずかしがるところだよトレーナー……」

 

 

 ……え、そうなんかい。

 

 

「トレーナーってやっぱ色々ズレてるよね~。さっきボクにもあんな……あんなすごい事ばっか言ってたのにさぁ」

 

 

 テイオーが思い出したかのように俺の歪な部分を指摘してくる。つか暑い……いや熱っ!? ちょっ腕!俺の腕に冷えピタの逆バージョンみたいなん引っ付いてるんだが!?なんだコレ、テイオーの額か!?

 

 

「あーテイオー、思い出しちゃダメって言っておいたのに」

「何をだ!?アッツ!熱いわ!また煙吹いてんぞ頭から!?」

「プシュゥ~……」

 

 

 夏の夜。

 両腕には可憐で幼げな2輪の花。花火が空に舞う最高の景色。

 

 そんな中、俺は1輪の花に火傷を負わせられかけて……なんかわちゃわちゃしていた。打ちあがる花火すらガン無視で。もう、すっげぇゆるい雰囲気で。

 どうにも締まりの悪い夏の越し方であった。

 

 

 

 …………おい、これでいいのか俺の今年の夏は。

 

 

 

 

 

 

 





 締りの悪い夏とはこれいかに。
 日常だからね。そんな劇的な展開なんて無いからね。こんくらいがちょうどいいのよ。


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