トレセン学園の隠れた名店   作:[]REiDo

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前回のあらすじ
トレーナーにガチloveか聞きに来たモブウマたちであった



閑話 女子会のオチは爆弾放り投げと決まってる

 

 

 

 

「で、私の部屋に来たと」

「ごめんねウィング……うちのバカのせいで」

「私のせい!? そっちも乗り気だったじゃん!?」

「あはは、いいよいいよ。ていうか、そっちの部屋でそんなことしてたなら、私も最初から呼んでほしかったな。面白そうだし」

 

 

 そうしてアストラルウィングの部屋を訪問しに来た一同。

 他の合宿生と変わりない部屋。2人1組を示すシングルベッドの数。

 なので正確には、アストラルウィングとその同居人であるトウカイテイオーとが泊まっている部屋だ。

 

 

「あれ? 先輩、いつもの髪飾りはどうしたんですか?」

 

 

 ある一人が、ウィングの容姿に違和感を感じ問いかける。

 いつもの青い翼の形をした髪飾り。

 肌身離さずいつも付けているそのアクセサリーが無いことに、メルト含む一同が疑問を覚えた。

 

 

「ん? あー、今はちょっと外してる……ていうか()()()()()。まあ気にしないでよ」

 

 

 笑いながら濁した回答に一同は再び疑問を感じざるを得ない。

 よく見れば、若干湿っている髪の毛が目に入った。

 部屋を訪れる際に、若干返しが遅かったのはシャワーを浴びていたからもしれないな、と。そんな予想をしながら一同は勝手に納得して部屋に招かれる。

 

 

「テイオー、今寝ちゃってるから声は抑えめにね?」

「あれ、こんな早くにですか?」

「私との併走で疲れちゃってね。次のレースも控えてるし、最近はトレーニングに精を入れてるんだよ」

 

 

 片目でウィンクをしながら、ウィングが白の布地がある方へ指先を向ける。

 言外に「見てみるといいよ」と言われた一同がシングルベッドの片方を覗けば、そこには安らかな表情で眠っているトウカイテイオーがいた。

 

 トレーナーが関わっているウマ娘の中で最も子供っぽい性格と背丈。

 同じ性格なメルトよりも、残念系じゃなく。もっと純粋寄りで可愛らしい美少女。

 そんな彼女の寝顔。まるで赤ん坊のようで、優しい表情で安眠をとるテイオーの寝顔を見た一同は思わず――

 

 

「「「可愛い……」」」

「でしょ?」

 

 

 そんな簡潔な感想が出てしまう少女達であった。

 

 

 

 

 

 

 ウィングが引っ張り出した座布団の上に座るメルト一行。

 テイオーが寝ているベッドから大分離れたベランダ辺りでガールズトークをしよう、と提案したウィングには相当の気遣いが出ていた。

 

 

「ごめんね? ホントはお茶でも出そうかなって思ってたんだけど、昨日で切らしちゃっててさ。おもてなしが出来ないんだ」

「いえいえいえ!私たちが寄ってたかって来ただけですから! そんな気を使わなくても大丈夫ですよ!?」

「え、でも後輩をもてなさない先輩ってなんかダメじゃない?」

「「「真面目ですか先輩は!?」」」

 

 

 さらなる気遣いに焦った一人が、ウィングの言葉に謝罪する。

 

 実は、この中でウィングと同期の娘はメルトとその友人、さらにローランを含めた入った順に言う1番2番と4番だけ。

 他は全員後輩の位置にあたっており、その全員がウィングを『大先輩』として慕う心を持ち合わせている。 

 

 そも、学年的にも先輩でもあるのは当たり前ではあるが、それ以上に彼女が残した戦績に憧れを持っており。

 そして先ほどの気遣いと言い、しっかりとした先輩らしい立ち振る舞いもさることながら、この面々に限らず多くの現役生の目標点になっているのだ。

 

 本当に、ホントーに、あのサボり癖全開で日頃から超不真面目トレーナーの担当なのかを疑うほどいい先輩なのである。

 

 

「偶に不真面目にはなるけどね~。ね~ウィング?」

「それはそうでしょ? 常に真面目なんて気を張ってるようでつまらないからさ。だから今だけは私の後輩の前でカッコ良くしていたいの」

「うわっ決めてくれるね~。何それ、トレーナーから学んだの?」

「ふふ、ただの受け売り。ちょっと真似してるだけ♪」

 

 

 このこの~、と同期として軽くじゃれあるメルトとウィング。

 それを遠目で見ている後輩は、余りにも眩しい先輩像に思わず感動しているさまである。

 無論、感動しているのは後者の方にだ。前者には色々足りてない。残念な所が全てを引っ張っている。

 

 

「あ、そうだ。皆<リギル>との練習は順調そう?」

「? はい。意外と何とかついていけてます」

「ローランとかは?」

「オレたちもなんとかな。それがどうしたウィング」

 

 

 唐突な質問に戸惑う後輩と、慣れた具合に言葉を返す同期生のローラン。

 

 

「いやね、私も心配性だから。そろそろ選抜レースもあるし大丈夫かなって」

「……あーそういえばありましたね。練習に夢中で忘れてた……」

「まだ私達、そこからなんでしたね……」

「いや、チームに入ってないのに合宿に付いて行ってるこの状況がおかしいんだよ……本来なら私たちトレセンで毎年恒例の教官の鬼連だからね?」

「「「そうだわ」」」

 

 

 言葉の綴りに、本来どんな存在なのかを思い出して顔を青く染める一同。

 そう、彼女たちは特例であのトレーナーに付いて行っているに過ぎず、本来は教官付きという肩書でレースにもまともに出れない身分だ。

 ましてや、チーム合同の合宿なんて言語道断。つい1月前の偶然が無ければ、彼女たちはこんな珍しい経験を積み重ねることなどできないのだ。

 

 それぞれが多様な表情を……しかし明るい表情などしていない中。

 大先輩であるウィングが口を開く。

 

 

「……ねえ。もしさ、いきなりレースに出れる!ってなったらさ。皆はどうしたい?」

 

 

 その言葉に、ぱちくりと目を開く一同。

 

 

「……どういう意味だ?」

「いや、変な意味とかは無いよ。ただ皆だったらどうするかなって気になったの。今このままで、()()()()()()()()()()()()()。それとも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 その言葉に、一瞬静寂が起き。

 メルト含むその教官付きの彼女たちの心の内に、見えもしない熱が灯る。

 

 それは、一種の前向きな煽りだった。

 真剣な目で、ウィングはこう言ったのだ。

 

 ――もし、勝てるか分からないレースに出れるとしたら。

 ――教官付きという、未熟な身から抜け出せるチャンスがあるとしたら。

 ――それに脚を向ける覚悟があるのか。それとも無いのか。

 

 

「まあ、本当にもしもの話だけどね。君たちの場合だと、その前に選抜があるからそこを通過しないといけないけど」

 

 

 ごめん、ちょっと真面目な話になっちゃったね、と。

 先刻の問いを忘れてくれと言わんばかりに、苦笑しながら話を流そうとするウィング。

 そうして、このまま話を濁してこの話題はおしまい。と思っていた。

 

 だが。

 

 

「私は、やってみたいかな」

「……メルト?」

 

 

 それを逃がさないとする少女が一人。

 メルトステイ。

 教官付きの歴が、ウィングが現役であったころと比例している少女。

 

 この中で()()()()()()()()()()()()()を持った少女の言葉。

 

 

「ウィングはさ。私の走りを知ってるでしょ?」

「ん。まあね」

「はは、みんなもさ知ってるでしょ? 私のこだわった走り方」

 

 

 問に、その場にいる皆が頷く。

 教官付きならだれもが知っている、メルトの走り。

 

 

「知っての通りだと思うけど、私の走りって無駄しかなくてさー。教官には『その走り方やめろー!』なんて言われるし、疲れるし、勝てないし」

「選抜にも大体下位で落ちるから、当然レースになんか縁がないわけだよ私ってば」

 

 

 いつものように明るく語ろうとするメルトだったが、その声色には悔しさという感情がにじみ出ている。

 

 

「理想と現実って言うのかな」

「私がやりたいって思った走りが、普通を極めてる子には通用しない。勝てないって分かってても、私はこのこだわった走り方をやめられないし」

「もし、レースってなると多分1位なんて届かない」

 

 

 メルトが語る言葉に、静かに唇を噛む娘が増える。

 ここにいるのは、そんな経験をしたものばかりだ。

 特別な才など縁がなく、ただひたすら愚直に走り――

 それでも届かない。そんな経験をした夢を目指す少女ばかり。

 

 

「でも」

 

 

 でも。

 

 

「やってみないと分からないし!」

 

 

 それでも、手を伸ばす少女がいる。

 両手をいっぱいに広げて、普通な彼女は……いいや。

 

 ()()()()()()()()()、特別を背負った彼女は夢を語る。

 

 

「負ける戦いってことは、分かり切ってるけどね。それでも今の自分を試してみたい!」

「だって、私たちはあのトレーナーに教えてもらってるんだから!」

「結構、あの人には恩とかあるんだし!」

「だからまずは、長年付きまとってきた教官付きなんて肩書を無くしたい! まだできないけど!こんなもしもの話だけど!!」

 

 

 笑って、まず一歩を踏み出そうとする少女の覚悟。

 

 

「だからまずは、自分が持つ全部をぶつけてみたい」

「それでもだめだったら~……まあ、もう一回ありったけを集めてぶつけてみるよ。で、出来るまで何度もやってみる!以上!」

 

 

 そんな、大言を吐いた少女から出た締まらない言葉。

 周りの同期生は静まり返って、メルトの言葉に耳を傾けていた。

 

 当然のように起こる、数秒の沈黙。

 

 そして、最初に口を開いたのは――

 

 

「メルトの癖に、偶には良いこと言うじゃねぇか」

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 

 一同が目を剥く。

 れきっとした男性の声。ローランとは違う、もっと聞き慣れた人の声。

 そこには。

 

 

「トレーナー!?」

「おう。悪いが聞こえてたぜ、今のやつ。扉の前までな」

 

 

 声の先には、部屋の扉を開いた彼女たちの、今までずっと世話をかけてくれていたトレーナーが立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ~……恥ずかしい……最悪だぁ……」

「メ、メルトさん……」

「カッコよかったよ~、さっきの言葉!」

「ホント、メルトの癖に良い言葉吐いてたな」

「やめてぇ! 慰めになってない!逆にダメージを貰ってるからぁ!!」

 

 

 先の発言から間が空き、落ち着いたころ。

 メルトステイは、ウィングのシングルベッドの上でふて寝していた。しっかり掛け布団を体に巻き付け、枕を涙で濡らしながら。

 

 羞恥心全開で、体を震わせる少女を他数人で慰めるという珍現象が起こっているのであった。

 

 

「そういえば、トレーナーさんはどうしてこの部屋に?」

 

 

 その様子を見ていたメルトの友人が、苦笑しながらトレーナーに問う。

 

 

「確か、こことは結構離れた場所にトレーナーさんの部屋があるはずじゃ……?」

「ん?ああ、それはこっちに用があってな」

 

 

 問われたトレーナーが懐から何かを取り出す。

 青い翼の型をしたそれを。

 

 

「それは、ウィングの髪飾り……? ああ、なるほど」

「察しが良いな。もう分かったのか」

「ええ。彼女のことですから。どうせシャワー上がりの髪を()かしてもらうために、トレーナーの部屋に行ったんですよね? やけに彼女の髪の毛が濡れ気味でしたし。で、その髪飾りを忘れてしまったか何かでトレーナーが届けに来た、と」

 

 

 余裕の微笑みを見せるメルトの友人。

 それを見て思わず目を剥くトレーナー。

 理解力で言えば、どっこい比べできるほどにウィングのことをよく分かっていることをトレーナーは確信した。

 

 

「正解だよ。お前すげぇな推理力」

「伊達に彼女と3年も同期をやってませんから」

「……そりゃまぁ、()()することで」

 

 

 一連のやり取り。

 ウィングが同期とよい関係を築けていることに安堵したトレーナーは、立ち上がってメルトが泣き寝入りしている布団に近づく。

 

 

「ほら、いい加減起きろメルト。それ以上枕濡らしたらウィングが寝るとき可哀そうだろうが」

「私の心配はぁ!?」

「してるよ。だからこうやって慰めようとしてんだろうが」

「うぅぅ……ト、トレーナー? 一応確認だけど他の部屋の人には聞こえてないよね? 部屋を貫通して私の声が響いてたとか無いよね!?」

 

 

 必死だった。それはもう惨めなくらい必死なメルトがそこにはいた。

 

 

「聞こえちゃいねぇよ……。あんな湿っぽい会話なんざ扉の前でしか聞こえなかったっての。だからいい加減大声でわめき散らかすな。テイオーが起きるだろ」

「だから私の心配は!?」

「安眠と元気な奴に気を遣うなら、俺は前者優先だ」

「ひどい!?」

 

 

 再び泣き寝入りを始めたメルトを叩き起こすのに、また数分かけるトレーナーだった。

 

 

 

 

 

 その後、先の会話に至るまでの全ての事情を聴いたトレーナー。

 一体何をどうやったら、バラ色真っ盛りなガールズトークがあんな湿った会話になるのか、逆に聞いた結果その原因にウィングがいることが判明。

 

 彼は、そんな彼女に向けてものすごいビミョーな表情をしながら。

 

 

「おま……そういう話をすんならもうちょいタイミングってのあるだろ……温度差すごかったぞ?マジで」

「ごめんって……私もちょっと深入りしすぎたと思ってるし。ていうかトレーナーにも言われたくないんだけど」

「……それもそうだ」

 

 

 咎めるまでは行かないが、反省を促す言葉を肩を落とすウィングに向けたのだった。

 だが、放った言葉がブーメランして跳ね返ってくる始末。ダメだこいつら。

 

 と、そんな反省会の中、いきなり跳ね上がる少女達がいた。

 意図しない煮え湯を飲まされたメルトと、その他諸々だ。

 

 

「んむぅ~、せっかくだからトレーナーもこの女子会に参加してけ~!」

「そうだそうだ!」

「メルトだけ恥ずかしい思いして帰れると思うな~!」

「むしろ聞かせろ~!」

 

「お前たちこういう時の団結力すごいな……」

「ただ巻き込みたいだけでしょうに……」

 

 

 メルトの駄々こねにツッコむローランとその友人。

 止めることをしないのは、少しばかり聞き耳を立てていたトレーナーに対して邪な気持ちがあるのか。

 それとも、それとは他の別の思いがあるのか。

 

 

「……まあ、トレーナーの恋愛事情に興味が無いって言ったら嘘になるな」

「……そうね。せっかくだし、ウィングと同時に聞いてみるのもいいかもしれないし」

「わ、私も少し……気になったり……」

 

「え、あ、そういう流れになるんだ!?」

 

 

 そんな話題の焦点(ウィング)のツッコミも思わず炸裂。

 ウィング自身は望んでこのガールズトークに参加したにしろ、トレーナーに関しては完全にただの巻き込まれである。

 そんな完全不憫野郎の反応だが……

 

 

「ふっふ~、逃げれると思わないでよねトレーナー!」

「……いや別に逃げるつもりなんて無いんだが」

「あれ、意外と乗り気」

 

 

 以外にも否定的反応はしていないのである。

 嫌味すら感じていないその理由なんて、まあいつも通りで。

 

 

「何度も言ってるが、俺はお前らが望んでることならできる限り叶えるって決めてんだ。俺もそれをやってるお前らを見るのが好きなわけだし。恋バナって奴だっけ? やったことは無いが、俺でよけりゃ何でも話すよ。あんまりタメになるモンは無いと思うがな」

 

 

 若干渋々ながら、用意した座布団に座ってそんなセリフを吐くトレーナー。

 本懐というべきか、信条というべきか。

 目の前でさらっとそんな言葉を放てる男にとって、彼女達に求めているのはそれだけなのだ。

 

 

 ……さて、恥ずかしげもなく言ったその台詞だが。

 

 

 それを聞き届けた周囲の反応は一体どんなだろうか?

 先の台詞を簡単に要約すると、だ。

 

 ――お前らの一切合切許容して叶えてやるし、それを楽しんでやってるお前らが大好きだ、と。

 

 さも当たり前のように、当然のように、そんな遠回しのプロポーズみたいな歯が揺らぐ台詞を言ったのだ。この羞恥心皆無クソ野郎は。

 そして、不意打ち気味にそんな砂糖マシマシな言葉を放たれた当の本人たちは、一体どんな反応でいれるのか。

 

 

「…………」

「どうした、お前ら」

 

 

 ……まあ、言わずもがなって感じであった。

 赤面が大半を占め、恥ずかしい姿を見せないように俯く娘たち。慣れているウィングを除き一名の例外もなくウマ耳をへたらせて、落ち着かないように尻尾をパタパタ振っているのは、ウマ娘ならではのお約束。悲しきことに、感情表現は自動的に浮き出てしまう生き物であった。

 

 身をよじりたくなるような、数秒の静寂。

 そして、その場にいるウマ娘の気持ちを代表してメルトがトレーナーに向けて言った。

 

 

「いや、うん。もうその言葉だけで恋バナ的にお腹いっぱいだなって……」

「あ? ってうぉ!?」

 

 

 その言葉に全力で同意したのか、首を縦に振り続けるメルト一行。

 

 ブンブンブンッ! と快音染みた擬音が聞こえるほどに上下に振られていた首を見たトレーナーは思わず驚き、遠目で眺めていたウィングは苦笑していた。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「もうこんな時間か……そろそろ解散しねぇと」

「えー? まだもうちょっといけるでしょー!?」

「飲み屋の面倒くさいおっさんかお前は……」

 

 

 メルト一行の赤面事件から数時間。

 明らかに混じってはいけないガールズトークに強制参加されていたトレーナーが、ウマホで時間を確認してからそう言った。

 

 夜も更けてきた。

 楽しい時間は終わり、思い出を惜しみながら寝る時間という頃合い。

 が、それを良しとしない少女たちがいることも、また確かなのだった。

 

 

「ふっふっふ……夜はこれからだよトレーナー!」

「逃がさないよ!」

「トレーナーが女の子を振ったっていう高校時代の事、もっと聞かせてもらうまで私たちは寝ないからね!」

 

 

 不敵な笑みでトレーナーを囲むメルト一行。

 彼女たちにとって、恋バナとは娯楽ともいえる花の蜜。

 それを易々と手放すほど、大人な心は持ち合わせていなかった。

 

 わがままをこねる少女たちを見て、トレーナーは呆れながら言葉を放った。

 

 

「ざけんな……見回り担当のトレーナーにドヤされんのは俺なんだぞ? それともあれか、お前ら()()()()に正座で説教食らいたいのか。そうしたいなら止めやしないが」

 

 

 ――ピクリッと、囲んでいた少女たちの動きが目に見えて止まった。

 次の瞬間には顔を真っ青にする者と、目を瞑って口惜しそうにする者がちょうど半分の割合で分かれる。

 そうして2秒にも満たない時間を経て。

 

 

「……さぁさ~早く部屋に帰ろ~」

「そうだね。子供は寝る時間だからね。早く、早く寝ようかなっ……!」

 

「お前らマジで……」

 

 

 ――手のひらドリルとはまさにこのことか。

 

 瞬時に踵を返してから一つしかない扉へと前進していくメルトたち。

 そんなに東条先輩が怖いのかと、呆れ目で見ながら見送るトレーナー。

 そう思うほど、まるで移動教室が始まったかのような、機敏な動きであった。

 

 

「……あ、そうだ! ねえメルト、あれ聞いておかないでいいの?」

「ん?」

「ほら、トレーナーとかの話ばかりになって聞けてなかったけど、私たち本当はアストラル先輩に用があってきたじゃん」

「…………あー!そうだ! 確かに聞くの普通に忘れた!」

 

 

 思い出したように扉の前で止まるメルト一行。

 その目線の向け先はトレーナーの隣に座るアストラルウィングに向けられている。

 

 

「どうしたの?」

「いやね、本来の目的っていうか、完全に忘れたたんだけど。ちょっとウィングに聞きたいことがあってさ」

「? それって恋バナ関係?」

「そうそう」

 

 

 ふーん、と首を傾げて用件を聞くウィング。

 相も変わらず平常心。その横にいるトレーナーも然り。

 

 

「いいよ~。なに?」

 

 

 そんな反応を崩そうか、と言わんばかりに若干いたずらな微笑を浮かべてから。

 メルトはクッソデカい爆弾を放り投げる。

 

 

「ウィングってさ、トレーナーの事って好きなの? こう、love的に?」

 

 

 ……

 …………

 

 きょとんと、ウィングのそんな反応がメルト一行を待っていた。

 

 赤面なんてもってのほか、自身の恋愛事情を当人の前で質問されたのにも関わらず、あまりに微妙な反応。

 さらに好意を向けられているトレーナー当人など、顔色表情一つ変えない様だ。

 

 メルトたちが「あれ? そんな微妙な反応する?」と思うのも無理はなかった。

 

 

「……ふふっ」

 

 

 と、そんな間の開け方があってから。

 ふとウィングが微笑する。

 

 

「いいよ、答えてあげる」

 

 

 その微笑は、とても乙女らしく。いじらしく。

 一端の恋する乙女がする笑みで。素直な恋心を現したようで。

 

 

「私はね――」

 

 

 その笑みを見たトレーナーが、悪戯感があってやばそうだと予感する。

 こういう時のウィングは、ロクなことをしないと本能が直感しながらも――

 

 次の瞬間、反応が遅れたトレーナーは彼女の術中にはまった。

 

 とても甘い声色で。

 腕に絡みつく、女の子の体温を感じながら。

 

 

「私はね、この通りゾッコンだよ♪」

 

 

 ウィングは、そんな脳を叩くような台詞を言った。

 男の腕に抱き着いて、尻尾を腰に巻きつかせて、甘えるように頬を二の腕に寄せてから、目の前の少女たちに見せつける。

 

 自慢の恋愛対象だと、浮かべた満面の笑みは誰もが見惚れるほどで、メルトたちを逆に魅了する。

 

 

 ――実に恋バナ。まさにガールズトークにふさわしい甘々さ。

 

 

 好意を向けられた当人がその場に居ること以外は、あまりに夏の思い出を締めくくるにふさわしいオチであった。

 

 

 

 

 

 その夜、とある女生徒らの黄色い歓声がホテル中に広まったことは言うまでもない。

 そうして東条トレーナーに叱られる事もあったのだが、それもまた思い出としてのオチには相応しいのだろう。

 

 

 





 恋バナでウィングに勝とうなど10年は早い(戒め
 イチャイチャを要求するのは毎回ウィング側だからね、経験値が足りませんよ経験値が。

 あ、モブウマはこれからも度々出てくるよ。


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