今章、夏編の最終番
さりげない日常の中で起こる小さな成長の章になるかな
夢うつつに、曖昧な景色が流れる。
そこは何処だったか……いや、分かっている。いつもの部屋だ。俺とテイオー、そしてウィングが集うコンクリートの檻で出来たトレーナー室。
把握が遅れたのは、ぼやけて見える12枚あるモニターに映る数々の文字の羅列が不透明なものばかりだったからか。
いや、もっと根本的なものが原因だと。そう直感する。
「…………」
椅子に座っているであろう、俺の目線。
その下には座椅子に体育座りをしているウィングがいる。
特徴的な青の髪飾りを
……いや違う。その眼には活力が灯っていない。そんなウィングは既に過ぎた過去のものだ。
「……また負けた」
目の前の少女から、そんな言葉が放たれる。顔を膝に乗せながら呟いたその一言には、余りに覇気がない。
――いや負けたって。……ああ、そうか。
これは、俺が見てるのは本当に昔の景色なのか。
『ああ、随分と痛快な負け方だったな』
「わざわざ言わないでよ」
『いやつってもな、逃げ一手で体力根性不足からの敗走の上、吐きそうになりながら帰ってくる姿は大分滑稽だと思うが?』
「うっさいっ」
口を開いてもいないのに聞こえる俺の声。
どうやら夢うつつとかではなく、ガチめの夢らしい。記憶の回想とでもいうのか、確かにこれは俺とウィングが交わしたことのある会話なのだろう。
『……で? 次のレースはいつにするよ。いつもながら、要求があれば合わせるが』
「……一番近いレースは何?」
『言うと思ったよ。――半月後、1600m GⅡのローズステークスが最速だ。お前の怪我の可能性も考慮してな』
また懐かしい。ウィングが初めて出たGⅡレースの話じゃないか。
これまでのウィングではGⅢが限度だと判断していたが……行けると思ったのは
他にも触診や色々診たりしたと思うが……夢だからか記憶の掘り出しがうまくいかない。
まあ、今のアイツが五体満足なのは確かだしあの時の俺の判断は良しとしよう。
……確か、このレースも負けたと思うがね。それでもいい経験値にはなったはずだし、よし。
「うん、分かった。じゃあそれでお願い」
『へいへい……ったく初のGⅡだってのに反応も無しか。少しは喜べよ』
「勝てなきゃどのレースでも同じだよ。私は一位にこだわるタチだから」
『
……あー、そういえばこういう感じだったなコイツ。
こんなウィング、今や見る影すらないんだが。はっは、随分と丸くなったもんだ。いや、俺が丸くしたと言っても過言ではないんだけどさ。
結果第一、その他廃絶。なんて性格に手を焼いていたころが懐かしいや。
――と、いきなり眩暈のような感覚が俺を襲う。
灰色の景色にノイズが走る。それと同時に俺を動かす不可解な浮遊感。
……なんか寝てる時たまにあるよなぁ……こーゆう階段踏み外した時みたいに無重力になる感じ。
「ねえ、トレーナー」
数秒の間を開けて、また同じ視点に戻された。
さっきまでと同じ灰色の檻だ。……いや、さっきと違うとなればモニターの電源はついてないし、ウィングではなく俺が座椅子に座っているところか。
……ん? 待て。俺が座椅子に座ってんなら今のウィングの声はどこからだ?
「ねえってば」
下からの声。……下?
目線を向ければ横になっている様のウィングが目に入る。
――そう、丁度俺の膝を枕に横になっているウィングの姿が。
『おー、どうした』
「どうしたはこっちの台詞。トレーナー、私が膝で横になってるのに何も反応しないんだもの」
『いや、お前がそーゆうことするのは初めてだし、ちょいと戸惑っただけだ』
「……少しは顔くらい赤くしてよバカ……」
『無理な注文だっての……』
あー、
コレあれだ。ウィングがまだ俺にイチャつくの慣れてない頃の記憶だ。
今でこそサラッと添い寝やら膝枕やら色々してるが、昔はまだこんな純情だったよな。
ちな、俺は相も変わらず平坦な反応具合。羞恥心消え去ってらぁハハっ(乾いた笑い
そうして流れる無言の時間。
ウィングはウマホでSNSを眺めてるし、俺は俺でウィングの頭を優しく撫でながらトレーニング表の再確認をしていた。
会話など挟まず、ただ自分のやりたい事をやっているだけの自由な時間。
気まずいなんて感覚は当然無く、身を投げるようにお互いがお互いに甘える。そんな他愛ない、いつもの時間。
「そういえば」
夢の中だというのにもかかわらず、そんな空気に慣れ浸しむ中。
ウィングがウマホに目を向けながら口を開いた。
「今日、見るからに偉そうな人と話してたみたいだけど、何の話をしてたの?」
『いやお前、それどこで知った。情報源は?』
「トレーナーが見覚えのない人と喋ってるのを直接見たの。確信とかはなかったけど……その反応だとホントに重要な話?」
『……まあ、おう』
『……愚痴になるが、最近お偉いさん共からチームの発足を提案されてな』
おい、待て俺。なんつー話をいきなりぶち込んでやがる。
いや事実だが、事実だったがな? 今コイツの前でそんな話をするな!
下を向けば若干、不機嫌気味なウィングの表情が目に入る。
ぷくッと膨らみかけている頬がその証拠だ。
「…………ふーん?」
ほら見たことか、ウィングの不機嫌具合が目に見えて分かるだろ!ウマ耳もヘタレせてるって!つか下をよく見ろ俺!トレーニング表なんて見てる場合じゃねぇ!
「メルトたちを見てくれないかって事……?私がいるのに?」
コイツ意外と嫉妬深いんだぞ、マジで!根を引くタイプってわけじゃないけど、色々めんどくせぇんだ!
つか、後が怖ぇえのが分かんねぇのか!?
……あ、いやそうか。この頃は
ならあの時の俺の言動も納得だわ!クソっ!恐れ知らずが!(自虐)
『あのな、結論から言うが
「……本当?」
『ああ。今のとこ、そんな気は少しもねぇよ』
俺の言葉を聞いたウィングが気を張っていた雰囲気を少し弛緩させた。
……全く、あの時の俺はバカなのだろうか。
膝枕まで要求する年頃の娘の好意に気づかないとは。ましてや、その間に誰かを入れるなど自殺行為もいいとこだってのに。
いや、そもそも
『それにな、今の俺はお前に一筋を決めてるんだ。他のことなんざ考えてる暇はないんだよ』
……おお、そんなことも言ったっけな。
覚悟ガンギマリだな俺。まあ、初の担当だったから気合も入ってたんだろう。
「……そ、そう? 好感度上げたいのか下げたいのかどっちなのっ……!」
そう言い切ったであろう俺の膝下には、頬を赤くして俺から目を背けるウィングが。
若干身をもじらせながら、次には切れの良い言葉で俺に言う。
「もうっトレーナー? それ終わったら、私の髪、ブラッシングしてよね」
『……俺は良いが、お前そういうのは自分でやるんじゃなかったのか?』
「いいから。私がしてほしいの、トレーナーに」
『へいへい……たくっ、我儘お嬢様がよ』
軽口を叩けば、仕返しのようにパンッと軽い衝撃が背中を叩く。
どうやらウィングが尻尾を俺の背中に向けて叩いたらしい。
客観的視点でモノを語ったのは、俺の意識がぼやけて、不透明に、覚めてきたのか……
夢の時間は終わりだということだろう。意図しない浮遊感が俺を揺らす。
最後に見たその光景は――
そして次に、俺が目を覚ました時に見るのは――
「またお前かよ……」
「え、なに。なんで私トレーナー起こしに来ただけで怪訝な顔されてるの」
またまたウィングでしたと。はい。出オチ乙。
相も変わらず、寝起きの目で周りを見てみれば灰色の壁ばかり。俺のトレーナー室で、俺は床に敷いてある布団の上。
見知った天井どころかうちの愛バで朝チュンかよ。どんな恋愛ドラマこれ?
と、俺が放った単語が分からないと首をかしげるウィングが。
「朝チュン? 何それ?」
そんな疑問を俺に投げる。
「……あー、ネットスラングの一種。朝目覚めて隣に好意的誰かがいる状況をだな……いや待て、調べるな。おい、携帯でググるな。事実はもっと卑しくめんどくせえぇ奴だからやめろおい」
「えーなになに~?」
とてつもない蛮行をしようとしてるところを、俺は何とか携帯を奪い取って阻止しようとする。
……が、無駄! 額を手の平で押さえつけられて身動きが取れねぇ!力押しで勝てねぇし!
これだからウマ娘ってのは……くっそ、身体機能じゃ勝てねぇのが悔やまれる。
あ、ついに調べ終わったのかウィングの動きが完全に静止しやがった。
ピタッ、じゃねえんだよピタッじゃ。文字が浮かんで見えたぞ今。ゲッダンでもしてたんか。
「へ、へぇ? 朝チュンってそういうことなんだぁ?」
「声が震えてんぞお前。……ったくネットスラングは地雷だらけで困る。要らねぇ知識を意図せず渡しちまうしよ……」
そう言って頭を抱えながら俺は布団から起き上がる。
今日は朝早くから予定があるしな。ウィングもそれに付き合う形で起こしに来てくれたわけだし、ササッと準備をば。
と、その前に心の中で謝罪文を書いておこう。
――拝啓、ウィングの祖父様お母様へ。
早朝六時から娘様に年相応らしくない知識を与えてしまい、心の底から申し訳なく思います。
これから娘様に全身全霊の土下座をかましますのでどうか許してくれると幸いです。
あと、珍しく赤面しているところが可愛いと思った俺の煩悩も無視してくれると助かります。
「…………私は、いつでもバッチこいだからね?」
「……冗談は俺と夫婦にでもなってから言え」
この軽口の吐き合いも気にしないでください。はい。
そうして、身支度をしてやってきたのは校内のターフ上だ。
何故ここかって?そりゃランニングを今からするからだよ。早朝のトレーニングというものだ。流石に毎朝とはいかないが、週4のスケジュールでこの体作りは徹底している。
因みに、ウィングは俺のランニングが終わるまで俺の店でお留守番である。
元々今日はアイツの勉強を見てやるつもりでな、それで昨日トレーナー室の合鍵渡してたんだが……あんな朝早くに来るとは思わず惨事が起きたってわけで……。
……いや、この話はよそう。
とにかく、今はランニングに集中するとしよう。
その前に準備運動をっと。まずは簡単なストレッチから……
「挨拶ッ! おはよう多良トレーナー君!朝早くから元気で何よりだっ!」
「おはようございますトレーナーさん。今日も朝のランニングですか?」
不意にかけられた、俺に対する声。
誰だ、と朝寝起きな若干寝ぼけた思考を働かせながら、ゆっくりと声の主に振り向く。
さっきの謝罪文で軽く言ったかもしれないが今は朝6時、子供が起床するには早すぎる時間帯である。いや、起床する子供もいるかもしれないが。
だがしかし、それに加えここは生徒らが住んでいる寮と、距離的にだいぶ遠い校内のターフだ。
基本的にトレセンの生徒が寄ってくることはほぼ有り得ない。コンマ1%だと断言してもいい。
あと、普通こんな朝早くにスポーツウェアで走ろうとしている大人なんて不審者だ。話しかける理由がねぇ。
その範囲に割り得てられず、この時間帯にわざわざ不審な俺に話しかけてくる人物と言えば……
「理事長にたづなさん……? どうしたんですかこんな朝に」
左を見ればロングヘア―に白の帽子、そして頭に猫を乗せたロリ少女。
右を見ればショートヘアに緑の帽子、隣のロリ少女とは違い身の丈に合った大人。
言わずと知れた中央トレセンの上層部に位置する人たち。
秋川やよい理事長と、その秘書である駿川たづながそこに居たのだった。
準備運動の手を止めないまま、俺は2人の方へ体を向ける。
訳もなく、こんな早朝にターフに来る人間などそういない。特に常忙しい上司となればなおさらだ。
とりあえず、用件を聞く前に挨拶くらいはするか。
「どうも、おはようございます。理事長の猫はなんかすごい眠たそうですけど」
「夜行型の子猫ですからね。朝に弱いんですよ」
「肯定ッ! 最近だと怠惰具合が悪化してるせいか少し体重も増えている始末だ!」
あ、はい。それは大変ですね。
はきはきとした声で、うちのペット事情を語る理事長。笑いながらいつもの携帯しているだろう扇子を開けば、そこには『重い!』という3文字が目に入る。どうやら猫の全体重が頭に乗っかってるのを気にしているらしい。
……いやあの、だったら頭に乗せないで地面を歩かせればいいんじゃ。
なんて言葉は野暮みたいなもんか。好きでやってんなら俺も何も言うまい。
――例え、身長が伸びない原因がそこにあるのだとしてもだ。
ただ、頭に乗せてる猫についての私生活については一つ、忠告を入れておこう。
「偶には運動させることも大事ですよ。動物っていうのは、楽することを覚えたらそこに甘えたくなる生き物ですから。別に怠惰が悪いとは言いませんけど、行き過ぎると毒になりすぎますしね」
「感謝ッ! 忠告痛み入るぞ、多良トレーナー君っ!」
「ありがとうございますトレーナーさん。私も最近目に余っていたので……ですよね理事長?」
たづなさんの一言が理事長に恐怖のデバフを与える。
おーこわ、目が笑ってるのに笑ってねぇや。うちの母さんが親父に怒った時と激似だ。
笑顔を引きつりながら、青ざめる理事長にはご愁傷さまとしか言いようがないな。普段の行いが生んだ結果です、諦めろ。おっと、思わず敬語が抜けてしまった。
心の中で訂正して置いてと、さっさと本題を聞こうか。
膝を震わせてる理事長の助け舟を出すかのように、俺は2人に話しかける。
「それで、自分に何か用ですか? こんな朝早くにってことは、急な要件か人目に付きたくない話でも?」
俺がかけたその言葉で、職務を思い出したのかきりっとした大人の顔になる2人。
……いや、若干1名まだ震えてたが、まあ良しとしよう。
「か、解答ッ! たづな、本題に」
「はい。トレーナーさん、まずは先週の合同合宿お疲れ様でした」
「ん、どうもです」
準備運動をしていた手を止める。
とりあえずは、たづなさんからの労いの言葉を受け取る。
しかし、これだけでは終わなかった。
「そして本来なら、チームとして成立していないトレーナーさんを巻き込んでしまったことも、正式に上司として謝罪させてください。申し訳ありませんでした」
さらに、と言わんばかりに丁寧なお辞儀をするたづなさん。
それはしっかりとした謝罪の言葉だった。合同合宿に本来関係ないであろう、うちの面々に対しての。
先週から行っていた合宿は、確かに上司命令でやっていたもの。それに意図しない形で強制参加させてしまったことに対する負い目でもあったのだろう。
深く前に下げられた頭と体。その謝罪を受けるのは容易い。
――ただ、それは俺が迷惑と思っていた場合に受け取るものだ。
故に――
「いえ、自分はその謝罪は受け取れませんよ、たづなさん」
「――! ですがっ」
「いいんです。そもそもこの一件にたづなさんの意思が関係ないことは分かってますし。まあ、それを無しにしても、確かに本来の予定が崩されてしまいましたけど……それ以上に、うちの
俺は、その
「むしろ感謝してると思いますよ、うちの面々らは。仮にも第一線で活躍してるチームと一緒に特訓できたんですから。――ですからそんな気に悩まないでください、たづなさん」
「それでも申し訳ないって気持ちがあるなら……そうですね。今度うちの店に飲みに来てくださいよ。貸しを一つ作ってしまったお礼として、飯くらいは奢りますから」
伝わるほどに感じる謝罪の意を、俺はたづなさんにそのまま返す。
顔を上げたたづなさんが、息を飲んで言葉を飲み込む様子が見えた。理事長がそれを見て大きくうなずく。
善意や悪意の問題ではない。これは損得という、大人な世界の話だ。
俺は確かに予定という時間を奪われたが、それを対価にアイツらの経験を積ませることができた。それも多くの経験を、だ。
加えて、俺はアイツらの
分かるか? この一件は損得で言えば、俺ら側の得が多いのだ。
金銭で言えばお釣りをもらっている状態、かっこよく言えば『借し』を作っている状態だ。
その状況で謝罪を受け取る? バカか、上司方にこれ以上恥を乗せるつもりもないし、そもそも俺は恩知らずってわけでもない。
――借りたものは、大人として必ず返す。それが責務だ。
……まあ常日頃、子供の心にスイッチしてる俺が言っても説得力が無いがね。
「『ウマ小屋』ですか……」
「ええ、美味しいもんを提供することを約束しますよ」
「……ふふ、ありがとうございますトレーナーさん。では、また今度お邪魔させてもらいますね」
円満に話は終わった。
笑顔で微笑むたづなさん。それは憑き物が落ちたようで、ほっとしていた。恐らくこの
肩の荷を落とした上司を見て、俺も準備運動の動きを再開した。
様子を見るにまだ一件くらいはありそうだが、こっちもウィングとの勉強会という予定がある。ランニングも早く終わらせたいものだが。
「えっと、要件は以上ですか? そろそろ自分走りたいんですけど」
「あぁ、すみませんあと3つほど……」
「ん、分かりました。えっと、準備運動しながらで悪いんですけど、そのまま言ってくれませんか?」
「いいんですか?」
「生憎、動きながら人の話を聞き取れないような耳は無いんで。いや、止まってほしいって言うんでしたら止めますけど」
「いえ、気を使わないでも大丈夫ですよ。ではこのままで」
たづなさんが携行していたボードを見始める。
確認するような目つきだ、多分アレに要件の全てが書いてあるのだろう。
「まず、トレーナーさんが合宿にいた時に出来た追加の仕事ですね。これは明日、学園の全体サーバーに乗せておくので確認していただけると」
「……追加、ですか。10日分くらいは各トレーナーの分、前置きに終わらせてたんですけど」
前屈をしながら気だるげに俺は言う。
仕事の要件なのは分かり切ってるが、まさかあんだけの量にプラスされていたとは。
流石、コーヒーもびっくりのブラック具合だ。どれだけの量かは知らんが、俺に投げてきた地点で一人一人の手に負えない案件だぞコレ。
「すみません……これに関してはトレーナーさん方
「ふむ……分かりました。通常の業務に加えてそっちも処理しますよ」
「いつも申し訳ありませんトレーナーさん……」
「はは、本業はこっちなんですけどね。それに、自分がこれやらなかったら他のトレーナーさんはホント死にそうですから……マジ冗談抜きで」
「遺憾ッ! 君の上司として面目が無いっ!」
スーッと、遠い目をした俺の反応は間違ってないだろう。
まあ、適材適所って奴だ。
俺がこの業務に向いているってだけで、他のトレーナーさん方には荷が重い。だから適した奴に出来ることを渡す、それだけの話だ。
苦手な業務渡して、ウマ娘の育成って言う本来やりたいことに着手できないトレーナーの姿を見るのもあれだしな。
俺がそれを最速で終わらせられるなら、肩代わりしてやるのは道理ってもんだ。
人情的にも、仕事的にも。
「それで2つ目なんですけど、これは……生徒会からですね」
「? シンボリルドルフからって事ですか?」
「はい。どうやら合宿に行っていたことで溜まっていた書類整理に手間取ってしまっているようで……トレーナーさんが良ければ、それを手伝ってもらえないかという
あー、そういえば。トレーナーの方の仕事は終わらせてたが、そっちの方面は気にしてなかったな。
ははっ、あのシンボリルドルフがわざわざ上司宛に言伝を残すとは、相当参ってると見える。
「ふっ、分かりました。その件も了解ですよ」
「そうですか。ではシンボリルドルフさんに直接お伝えしておきますね。それで3つ目なのですが……」
ついに最後の要件。
……なんだが、たづなさんがちょっと言い淀んでいるように見える。
なんだ? 重要な一件か何かか?
そんな間をストレッチで埋めていたところだ。
「発言ッ! たづな、私が言おう」
いきなり理事長がたづなさんの言葉を遮って、独特なはっきりとした声で言った。
……ていうかあの、大声を出したからか頭の猫が驚いてアンタの帽子をぺしぺし猫パンしてるんですけど。
そこらへん無視したほうがいいんですかね。その『痛い!』って書いてる扇子にも。
「無用ッ! 最近、私に辛辣なのでな!スキンシップみたいなものだと思ってくれ!」
あ、はい。
「報告ッ! では3つ目の要件なのだが」
あ、ほんとに続けるんっすね。
ストレッチを終えた体で、理事長と対して向き合う。
その手には『お願い!』と書かれた扇子を広げられていた。
そして、次に放たれた一言は――
「トレーナー君!君にはチームを結成してほしいのだっ!」
トレーナーにとって、一大イベントと言っても差し支えないそんな指令だった。
はは。
――
そんな思考を回していた俺の口角は、少し上がっていたかもしれない。
他ウマ娘との絡みもっと欲しい?
-
くれ
-
いらん
-
どうでもいいからイチャイチャ見せろ