トレセン学園の隠れた名店   作:[]REiDo

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頭が悪い()



小話 ハロウィンに反省を促す変人野郎

 

 ハロウィンである。

 

 スレに顔を出せば「諸聖人の日の前夜祭」やら「全人類仮装大会」だとか遠回しに「Trick or Die」などが流れてくる、例年のアレである。

 ていうかDieってなんだ、いたずらかタヒか選べと?無情すぎやしねぇかこの文化。

 

 いたずらじゃ足りんな、とっととタヒね。じゃねぇんだよスレ民のクソども。お前ら普段からどんだけ俺に殺意マシマシなんだよ。因果応報とか今のうちに普段の行いを清算しとけとか知らんて。

 

 ――ウィングとのイチャつきでタヒ人が出てる件についてだぁ?

 

 知らんわ、それこそ求めてくるアイツに言えよ。

 つかお前らもお前らで供給不足と言って求めてくるだろうが。清算食らうならお前らも一緒に食らえよ。あ、おい逃げんじゃねぇっ!

 

 

 

 ……まあともかく、今宵はそんな日である。

 

 かくいううちの店『ウマ小屋』もイベントに伴い、内装をハロウィン限定仕様に変えている。

 所々に典型的な顔型に中身をくり抜いたカボチャを置き、テイオーとウィングにも手伝ってもらい、コウモリの形に作った折り紙やらを壁面に飾ってあったりする。

 

 イベントというのは、サービス業的には繁盛する日だ。

 

 隠れた飯屋と言えど、ここの存在は知れる者には知れ渡っている。各トレーナーや、偶然見つけたウマ娘、紹介で来た者も含めてだ。

 その数は30にも満たないが……うちの店の利用者は時々来る程度のもので、まあ1日に3~5人程度が目途くらいである。

 

 ただイベント事というのは、謎の魔力を発しているというのか。ただ単に、外出ついでに寄ろうという気を起こさせようとするのか。

 

 

「ウィング、パンプキンとにんじんのクリームシチューが出来たぞ。3つ置いとくから番1のテーブル席に運んでくれ」

「はーい」

「テイオーはその会計終わったら、片付けよろしくな―」

「うぇぇ……大変だよ~」

「頑張れテイオーちゃん! あ、ウィングちゃんそれ私のね」

 

 

 年に何回かある繁盛日と言えばいいのか。

 今日も今日とて『ウマ小屋』は繁盛……いや、日に20人も来店するという大繁盛ぶりを発揮していたのだった。

 

 

 

 


 

 

 

 

「ふぇぇ~疲れた~……やっと落ち着いたよ~」

「お疲れ様テイオー」

「うん、アスウィーもお疲れ~」

 

 

 げんなり顔でカウンターにうつぶせるテイオーと、俺と一緒に食器を洗うウィング。

 ひらひらと、手のひらをパタパタさせるテイオーに思わず俺は苦笑する。あとでにんじんジュース作ってやろう。

 

 来店ラッシュが過ぎ、食事の提供の嵐も落ち着いて、店内に残ったのは俺の知り合いでお馴染みの後輩AとBや、他数名のトレーナーとウマ娘。東条先輩とか、有名税を抱えてる娘もいたりしたが既に退店してしまっている。

 

 

「……この光景だけで店に来た価値があるってもんだよなぁ……」

「何言ってんだお前は」

 

 

 なお後輩Aだが、コイツが何を見て心を癒されてるのかは知らん。俺はただウィングと隣り合わせで皿洗いをしてるだけだが。

 

 

「尊いって奴ですよ先輩。家族ぐるみの一面を見て心を癒されてるんです。余計なことは考えずに、どうぞそのままでいてください。勝手に成分を供給してるんで」

「せっかくのハロウィンに、んな危なそうな成分供給するためだけにうちに来るなよ」

「何言ってるんすか。こういう時だからこそ癒し成分が欲しくなるんですよ」

「どこに因果関係結びついてんだ。理屈が嚙み合ってねぇじゃねぇか」

 

 

 ハロウィンに脳を焼かれてるとしか思えない発言に、思わずツッコミが止まらない。

 なんだ? ついに頭パンプキンにでもなったか?そこに置いてるカボチャをかぶせてやろうか?

 

 

「あはは……」

 

 

 隣では頬を少し上気させて苦笑するウィング。

 恥ずかしがっているのか知らんが、少々照れくさそうにしているのが見える。家族みたいだな、と指摘されたのが効いているのだろう。うちの店に来た奴大体言うからな。

 

 毎回そう言われて顔を赤くしてるのは、もはやテンプレ展開みたいなものになってきつつある。お前もいい加減慣れろよウィング。

 

 

「むぅ……」

 

 

 ふと呻き声みたいなのが鳴いてると正面を目を向けたら、その音源はテイオーだった。

 なんか恨めし気に俺を見てる。そんなに皿洗いがしたかったのだろうか。

 

 そう問いかけてみると、もっと頬を膨らませて不機嫌になりやがった。

 なんでや。

 

 

 

 

 

「今更だけど、テイオーちゃんの衣装いいね~。すっごい可愛い」

 

 

 閉店まであと1時間前といった頃合いだった。

 客の一人、ある女のトレーナーがテーブルを拭いているテイオー向けて話しかける。

 

 そう。これまた初出し情報なのだが、ハロウィン仕様なのは店の内装だけではないのである。

 

 

「ふっふ~いいでしょこれ~。トリックオアトリート! お菓子くれなきゃいたずらしちゃうぞ~!」

「わーい! テイオーちゃんにいたずらされちゃう~」

 

 

 白色のパーカーに白フード、薄めの生地で動きやすく膝下まで伸びてるダボダボの衣装。

 フードにはオバケの顔模様が描かれており、かぶることで全身白コーデのオバケに成り切ることができる。

 そんな、満面の悪戯な笑みで女トレーナーに迫るオバケコーデのテイオーがいた。

 

 ……というか待て「わーい」ってなんだ。トリックされること喜んでんじゃねぇか。

 

 M気質な女トレーナーの一面を垣間見た瞬間であった。実に役に立たねぇ情報である。

 

 と、カウンターに座る後輩Aから皿洗いを続けている俺に対し向けられた言葉が。

 

 

「先輩、これ先輩のコーデじゃないでしょ」

「……なんでそう思う」

「いや、だって先輩にこういうセンスとかあると思わないですから」

 

 

 実に辛辣な一言だった。

 うるせ、否定はしねえが余計だ。年中パーカー人間にこういう趣向やセンスがあると思うなよ。

 

 

「実際、誰の案なんですか? テイオーちゃんの衣装とか抜群に似合ってるんでお金払いたいんですけど」

「推し活かよ」

「そうとも言います」

「胸張って言うなよ……。あと俺の案じゃないのは確心かい」

 

 

 事実だが。()()が無けりゃ、今日は普通に営業する気だったからな。

 

 ていうか、そもそもテイオーとウィングを働かせる気なんざ毛頭なかったことは先に断っておきたい。

 アイツらが自分から手伝いたいって俺に迫ってきたんだよ。働かざるもの食うべからずとか、そんな理屈コネてな。本来は俺の仕事みたいなもんだから、あまり気が向かなかったんだが、アイツらやる気満々だったから断るにも断れなかったんだ。

 

 んで、()()()()()()()に報告した結果が、この惨状ってわけで――

 

 

「――安価だよ」

 

 

 ガタッ、とテーブル席で他のトレーナーと雑談していた後輩Bが、いきなり崩れ落ちる。

 いきなりの奇行に、心配する同席者。なんか笑いをこらえるように見えたのは気のせいじゃないだろう。

 

 ああ、そういやお前もスレの民だったな。納得。

 

 

「安価……? ああ、なんか安価は絶対。みたいなワードは聞いた覚えはありますけど」

「それが原因の発端だ。せっかくのハロウィンなんだから、仮装して接客しろよって話になってな。バカどもがそれぞれ出した案が見事引っかかって、俺らはこんな格好しなきゃいけない羽目になったってわけだ。笑えるだろ?」

 

 

 死んだ目で答える俺に、哀れみの目線と感謝の目を向けてくる後輩A。

 

 マジで、ホント余計な事した。深夜に安価なんかするんじゃなかったわ。

 何がひでぇって、安価内容に意外とノリノリだったウィングとテイオーなんだよ。ハロウィンの仮装ってのはいい思い出になるとか、可愛いくていいじゃんとか。そんな感じで、アイツらも年頃の女の子だって再確認した一件だった。

 

 んでまあ、その授業料代わりに、俺は全力ダッシュで衣装探しに色々回る羽目になったわけだ。

 

 

「へぇ~、テイオーとウィングちゃんの衣装もその掲示板にいる人の案ってことですか」

「まあ、そういうことだ」

「そうですね~。私は結構気に入ってたりしますよ♪」

「すっごく可愛いでしょボク! へへんっ!」

 

 

 いつの間にか、女トレーナーにいたずらをし終えたテイオーと隣で皿洗いをしていたウィングが、にこやか笑顔でくるっと見せびらかす様にその衣装と体を回す。

 

 説明を終えたオバケ姿のテイオーは言わずもがな。

 

 黒色のロングケープコートに、同色のブリーフスカート。いつもの青翼の髪飾りは付けたまま、とんがり棒を乗せた姿。

 案外、様になっている身のこなしをする魔女姿のウィングがそこに立っている。

 

 俺が言うのもなんだが、滅茶苦茶可愛い。

 テイオーは子供っぽいのを活かして、無邪気なオバケに成り切れてるし。ウィングは妖艶な雰囲気を醸し出して、魔女っぽさを演出出来ており。両名も、安価で決まった衣装を完全に着こなしている。

 

 逆に、可愛くないなんてほざく連中を見てみたいくらいだ。

 

 

「両方ともすごく良いと思うよ。……先輩ホントにお金払っちゃだめですか?」

「頼んだ食費で我慢しろ」

 

 

 放っておいたら万札でも投げそうな後輩Aに指摘を入れて、俺は最後の一枚の皿を洗い切った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「お疲れ様~。やっと店仕舞いかな」

「おう、お疲れ。テイオー、ウィング今日は助かったぞ」

「へへっ~お疲れトレーナー! ボクも色んな人と喋れて楽しかった~!」

 

 

 閉店時間も過ぎ、掃除諸々も終わった時間帯だ。

 

 疲れたと、体を伸ばすテイオーとウィングを横目に、俺は傍から氷砂糖を取り出して口に……放り込めねぇし。くそ、()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「ほらトレーナー、それ外してあげるから」

「ん、ああすまねぇな」

 

 

 俺の様子を見ていたのか、ウィングが俺の傍まで寄ってくる。

 そして、俺の顔に――かぶっているソレに触れる。

 

 

「ほらほら、しゃがんで」

「へいへい……」

「んっしょ……、意外と硬いねこれ。抜けないんだけど」

「まあ、一回割ってから瞬間接着剤で外れない様にくっつけてるからな。正直、割った方が速いと思うが」

「ん~、そうだね。ちょっとトレーナー室からハンマー持ってくるよ。ちょっと待ってて」

 

 

 俺がかぶっているソレを取るのが困難だと分かったのか、俺の部屋から工具を持ってくると店を出ていくウィング。

 

 おう、と見送って俺は一つため息。

 ……なんせ、俺が安価なんざしなきゃよかった理由その2が、今俺がかぶっているコレに詰まっている。

 

 

「トレーナー、今日お店開いてからそれだったんでしょ~?」

「……ああ。正直視界が全然ねぇ。早く外してほしいわ」

「安価って言うんだっけ? 絶対にやらなきゃいけないって言っても、その『()()()()()()()』はすごい面白……じゃなくて大変だと思うんだけどな~」

「面白いつったか今お前」

 

 

 そう、今日店を開店してから1日、俺はずっとこんな珍妙な恰好でいる羽目になっている。

 

 その名も「某反省を促す変人野郎」

 マジのカボチャお面に黒タイツ姿。不審者まっしぐらなクソ衣装である。

 これでに加えミームで流行ったあのダンスを踊れば、俺もウマッタートレンド入りの仲間入りだろう。実に不名誉でしょうもない有名税の獲得である。

 

 

「あのクソスレ民共……テイオーとウィングには可愛い衣装よこして、なんで俺にはこんなクソ衣装なんだ……マジでホント……」

「珍しく泣きそうになってる!? そんな辛かったのトレーナー!?」

 

 

 がくっし、と肩を落とす俺を励まそうとしてくれるテイオー。

 

 ありがとう。ありがとなテイオー。

 でもな、お店に来てくれた人が揃い揃って俺の姿を見て笑ってくれたわけじゃねぇんだ。中には超神妙な顔で俺を見てたのもいるんだよ。主に東条先輩とかだが。

 

 羞恥心とか無いから、着ること自体に抵抗が無かったのはあるが、それはそうとしてあんな反応が薄いと、俺も傷つくってモンでな……。

 

 しまいには、総勢揃って俺の恰好を無視する気全開な空気よ。

 触れづらいのは分かるよ。分かるが! 少しは笑ってくれたら、俺の献身も晴れたんだがね……。 

 

 

「ただいまー、ってなんで膝から崩れ落ちてるの?」

 

 

 ガチャっと扉を開くウィングが目に入った。どうやら持ってきたらしい。

 その手にはゴム製のハンマーがある。……魔女姿にハンマーってこれまた世界観ぶち壊しな感じがすげぇな。

 

 

「いや……なんでもねぇ」

「安価ってすごいんだねアスウィー。トレーナーをここまで追い詰めるなんてさ」

「あぁ……うん。そうだね。あそこの住人ってすごいのしかいないから……」

 

 

 それに関しては同意しかない。

 

 

 

 

 

 コンコンコンッと、カボチャのお面を叩いて割ろうとする音が店の中で響く。

 

 ヒビ入れの工程。今は優しく叩いて切れ目を深くしている最中だ。

 叩いた衝撃は直接俺の頭に響くが……まあしょうがない。こうでもしないと本当に取れないのだから。

 クソ、どこのどいつだよ料理中でも外れないように固定させとけとか言ったバカは。((掲示板

 

 

「……すっごいシュールだねぇ~」

 

 

 テイオー。それを言ったらこの状況自体が既に奇妙すぎんだよ。

 

 椅子に座ってあしたのジョーな格好しながら、愛バにカボチャの被り物を割ってもらってんだぞ? シュールどころか異様だろ。もしくは滑稽。

 

 

「おっ」

「そろそろ割れるかな。トレーナー、ちょっと響くよ」

 

 

 ヒビ入れが終わったのが、ピシッという亀裂が走った音で分かった。

 最後に、ちょっと力を入れて割る算段だ。なので俺は少し頭にくるであろう衝撃に構える。

 

 直後、ゴンッ!と今までよりも強い鈍痛が走った。

 それと同時に顔を覆っていた殻が落ちる感覚。

 

 久しぶりに、視界が開けた。

 

 

「おー、やっと割れたよ」

「おかえり~、でいいのかな? とにかくお疲れトレーナー!」

「おう。迷惑かけてすまんかったなテイオー。この埋め合わせはまた今度やらせてくれ」

 

 

 ようやくカボチャの面が取れたことを、視野の確保で身に染み込ませる。

 あぁ……生きてるって感じがするよ……。

 

 

「ウィングも悪かったな。色々世話をかけた」

「ふふっ、いいよ。私も面白かったし。<アトリア>の娘たちに良いお土産話もできたから」

 

 

 そう言って俺の頭から手を放すウィング。

 それを見越して、俺も椅子から立ち上がる。

 

 

「でもまあ? 実際トレーナーの安価で無駄な力仕事したのは確かだし?」

「は? いやお前、結構乗り気だったじゃ――」

 

 

 と、俺の目の前に回り込んでそんなことを言い出すウィング。

 

 そして俺は見逃さなかった。

 ウィングが浮かべた、そのいたずらな笑みと、恍惚が混じったその表情を。

 

 

「だからまあ……これで許してあげる」

 

 

 ふと、両の頬に当たる柔らかい感触。

 俺の頬を、ウィングの両手が優しく包んでいる。

 正面を見れば、久しぶりに見た俺の顔を、もっと眺めたいと言うかのような目があった。

 

 そして。

 

 ハロウィンの夜、魔女の姿で俺を惑わそうとする少女は言い切った。

 

 

「トリックオアトリート♪ ハッピーハロウィン♪」

 

 

 満足気に、頬を桃色に染めながらそう言ったウィングの表情は、今日俺が寝るまで頭を離れなかったことを白状しておく。

 

 だってめっちゃ幸せそうに言うんだし。忘れるにはもったいなかったからな。

 

 

 

「あ~! ずるーいアスウィー! ボクボクも!

 ハッピーハロウィントレーナー! あと、トリックオアトリート!」

 

「ぐぶぉ!?」

 

 

 

 まあ、次にテイオー(オバケ)に顔面丸々抱き憑かれて鮮明な記憶が一つ増えたわけだが。

 おまけで首に肉体的疲労が走った。軟弱ですまん。

 

 あと一つ言わせろ。

 

 ――お前ら、トリックしかしてねぇじゃねぇか。トリートはどうしたトリートは。

 

 

 

 

 

他ウマ娘との絡みもっと欲しい?

  • くれ
  • いらん
  • どうでもいいからイチャイチャ見せろ
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