トレセン学園の隠れた名店   作:[]REiDo

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遂に書ける



EP.1 パーカー男と頑固少女
暇人とモブウマの新しい居場所


 

 さて宴もたけなわ。

 うちのチーム<アトリア>が設立されてテンションが上がっているところで悪いのだが。

 

 少々ここで小話ならぬ、昔話を挟みたい。

 

 <アトリア>の面々? ああ、最近は割かし順調に育ってきてはいるよ。まあ、ほぼ負け続きで勝率なんざ2割に満たないが、全力でやりたいことに向き合ってるってことは報告しておこう。

 本気で頑張っているが、まあ努力と結果は必ずしもイコールってわけじゃないってことで。誰もが知ってる現実だろ?

 

 ……悪い、話が逸れたな。

 

 さて、昔話を。求めてるかは知らんが、とある2人が歩んだ軌跡の物語を語るとしたい。

 語り始めとして切るには何というか……そうだな。

 

 くだらない『才』持って生まれた単なる趣味人の俺と、『才』を持たずしてそんな俺に付いてきてくれた愛バの話だ。

 

 アストラルウィングと俺が歩んだ、栄光の話。

 

 勝って、負けてを何度も繰り返した、そんな2人の足跡を辿る物語だ。

 

 

 

 ――ああ、そんな身構えなくていいよ。

 こんなん、ほぼ後日談みたいなモンだしな。

 

 気楽に……酒の肴にでもしながら聞くといい。

 

 

 

 

 



 

 

 

 

 

 時がキングクリムゾンしてびっくりするかもしれないが、現状報告といこう。

 

 ウィングと知り合って1()()()6()()()が経った。

 

 今は冬を感じかけている10月の中旬。凍える寒さにおびえながらパーカーを羽織る時期である。

 いやマジきつい。全身冷え性気味な俺からしたら冬はホントに天敵だ。指先は乾燥するしよ……良いことがねぇ。

 あ、でも雪は綺麗だから良し。地元で死ぬほど見たし、寒いの象徴として植え付けられてるが、それでも綺麗なもんは綺麗だからいい。

 

 と、また話が逸れた。

 

 現状報告の続きだな。

 結論から言うと、アストラルウィングの戦績は()()()()()()()()()()()()()、と厳しく言えばそんな感じだ。

 

 

 3()0()()1()1()()

 

 

 1年半、今に至るまで、ウィングが出走したレースの数と勝利数だ。

 3ヶ月の間で平均4~5戦の参加率。と言えば、多少知識がある人でもその異常さが理解できるだろう。

 何故なら、普通の娘でこんな無茶な出走なぞすれば、問答無用で故障しかけないローテーションだからだ。

 

 ――無茶には根性を、凡夫というなら狂気じみた努力を。

 

 ここ1年、俺はアイツの長所を伸ばそうとしようにも、肝心の長所がロクに無かったからこそ、思いついた謳い文句。

 作戦がどうとか、体の出来がどうとかの問題ではなかったのだ。

 

 半年で出走した約10戦。その勝率は2勝――数値で言うと3割未満。

 

 正直に言おう。死ぬほど思い悩んださ。

 伸ばせるところが無い。身体を強化しようにも目的のタイムまでには程遠く届かない。

 ――限界が来たように留まった成長期を見て、俺は頭を抱えた。

 

 アイツが自分で言った通り、間違いなく平凡だった。

 

 本当に、ただの平凡でどこにでもいるようなモブの一人だった。

 本当にどうしようもなく『才』の無いウィングを見て。

 『才』を持っている俺は諦めの心を片隅に浮かべていた――

 

 

 

 

 ……ものの、頑固者らしく諦めが悪かったのはまたウィングらしく。

 頭を抱えてた俺に対し、控えめに言って、まあなんだ。

 

 活を入れられた。

 

 正確には、尻尾で顔面を数回往復ビンタされた。

 日頃の不満だとか、思ってることだとかも、全部叩きつけられた。

 

 

『私を楽しませるんでしょ……っ! 無茶でも何でもやって見せるからっ、私もトレーナーに付いて行くからっ!

 だから――諦めない私より先に、諦めたりしないでよ』

 

 

 ……そうして、吐き出されたウィングの台詞が見事ぶっ刺さった俺は、少しばかり冷静になってから考え直してみた。

 今の俺で、出来ることは何か。

 アイツにどうすれば尽くせるか。楽しんでもらえるか。

 

 使えるモノも、使える人も、全てを手探りで頼って使って、自分の答えが出すまで繰り返した。

 

 

『親父か、夜遅くに悪い』

『……こんな時間になんだバカ息子』

 

 

 元トレーナーらしい俺のクソ親父に頼んでアドバイスを貰ったり。

 

 

『最近担当を持ってな……』

『おい母さん起きろ!! バカ息子に女ができたぞ!!!』

『ほんとー!?』

『ちょ、待て! 止まれ母さん!!ああぁぁぁっ!?!?』

 

 

 その担当だった母さんにも助言を貰って……ってなんだ今の回想は。確かにウマ娘の全力疾走を親父が受け止めたのはビデオ電話で見てたが、今そんなのはどうでもいい。親父の腰は数日逝ったらしいけど。心底どうでもいい。

 

 とにかく、使える伝手を頼ったりしてたわけだ。

 

 そして答えを出した。

 あるじゃないかと、今更ながら思い出したんだよな。

 

 アイツ、異常なほどレース出て故障1回もしてねぇじゃん、と。

 

 てことは、逆説的にそれはアイツの脚が頑丈すぎることを裏付けていることであって。

 精神論とかじゃなく、ちゃんと長所らしい長所があったことを、今更ながら理解したんだ。

 となれば、後はさっき言った通りのことを実践するだけである。

 

 ――無茶には根性を、凡夫というなら狂気じみた努力を。

 

 すなわち『常人では耐えられない努力をする作戦』を。

 

 頑丈だからと言って、その身体能力が上がるわけでもなし。強くなるわけでも速くなるわけでもなし。策を弄したところで、それを実行できる技量があるわけでもなし。そもそもアイツ逃げの一手しか知らねぇし。

 なので、それがどうしたと言わんばかりに実践で鍛えることにした。

 もちろん通常のトレーニングも組み込んだうえでの、先の出走ローテである。

 

 んでまあ、その無茶が功を奏したのか。

 

 最近出始めたGⅡ戦、5回出走の3勝。

 ――まさかの勝率5割越えという戦績を叩き出しやがったのである。

 

 

 

 因みに小言だが、ウィングの出走記録があまりにも多すぎる為、最近はアイツに【奮励の化身】だとかいう異名が付いてしまった。主に掲示板での出来事である。

 羞恥からかは知らんが、事を知った際にいつもの河川敷で横になっている時にふて寝してしまったウィングは記憶に新しい。

 なおその様子が可愛くて、俺は自然とウィングの頭を撫でてしまったのだが反射的に避けられてしまった。

 

 ……嫌われてはないはずなんだがなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 と、現状報告としてはこんな所だ。

 

 その他を詳しく掘ろうとすれば、トレーニングの方法だったり、トレセンでの本業がどうとか色々あるが……まあそこまで言ってると長くなるので割愛。

 ……あぁ、いや。ただこれだけは話題にあげとかないといけないか。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 レース一心、勝利に貪欲、諦め嫌いで頑固者のアイツに、ちょいと変化が見られている。

 より正確には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。レース後の問いかけだったり、常日頃の印象だったりが張り詰めたモノでなくなってきているのがその証拠だ。

 最も、それは物事を楽しむための第一歩でしかないのだが……

 

 とにかくいい傾向であることには間違いないだろう。

 

 ――人間ってのはそんな簡単に変わりはしない、トランスフォーマーじゃないんだから。

 だが、長い年月さえあれば変わる可能性はある。

 変われる可能性を誰もが秘めている。

 

 ……まあ俺の実体験付きでの持論だがな。

 

 その変化が、ウィングにとって良い方向に向かってくれることを俺は密かに願っている。

 

 

「……あのね、そんな事今どうでもいいんだけど」

 

 

 ……そんな感傷に浸っていると、すぐ隣から聞こえるため息交じりの可愛げのない声。

 青鹿毛(あおかげ)の毛並みと、少々光の灯りかけた草原色の瞳。

 ジト目で俺を睨んでるウィングが目に入る。

 

 聞き捨てならない一言に俺は思わずツッコむ。

 

 

「いやおい。そんな事ってなんだ、そんな事って。お前の成長を願っていてだな――」

「それは嬉しいけどっ。そういうことじゃなくて……ああもうっ!」

 

 

 事情を説明してほしいんだけど! と、俺の隣から求める悲鳴が上がった。

 

 実は今、俺とウィングは、とある目的地に向かって歩いている。

 午後の夕暮れ、日の出が落ちかけた景色を背後に脚を進める。

 その場所はすぐそこにあった。

 

 トレセン学園の大裏手。夕日すら差し込まない影で埋まったその一帯。

 誰も来ないであろうそんな場所に、2つポツンと建てられたその建造物が目的地である。

 

 ウィングがその一つ、1DK程の大きさの建物。コンクリートで四方を固められた建物を見てから言う。

 

 

「いきなりトレーナー室が移動になった? まあそれは良いよ。あの部屋狭かったし」

「んなこと思ってたのかよ」

「思春期女子の欲求舐めないでよね」

「言葉が強えぇよ、そんな嫌だったんかい」

 

 

 そしてもう一つ。

 げんなりとソレを見たウィングが、怒号を上げて俺に吐き捨てる。

 

 ソレは木造で外観を作られた建物。

 レンタル倉庫よりも広そうなその建物は、一端の店でも開けそうな大きさで……

 

 ――というより、店を開く予定なのだが。

 

 

「トレセンで飲食店を開く!? そんなこと私一切聞いてないんだけどっ!」

「そりゃ、休日開ける2日前に決まったことだからなぁ……」

 

 

 

 


 

 

 

 

 トレーナー室――俺の仕事部屋が移動するという件については上の方で既に出ていた。尤も、ウィングのように仕事場が狭いとか、そんな幼稚な理由じゃなくしっかりとした理由を並べ立てての上だが。

 

 しかし、問題はその場所にあった。

 俺の本業上、セキュリティー関連に難があるというか……生半可なモノではいかないのだ。それこそただ部屋に鍵をかけるだけでは済まない程、厳重な設備が要求される。

 

 他の職員と同じような配慮ではいけないとのことで、上の人、理事長やたづなさんも頭を抱えていたのだ。当然、現状打破の為に動いていた俺も。……自由スペースが欲しいからという邪な思いもあるが。

 

 そうして、頭を悩ませているときだった。

 

 

『……なんだこりゃ』

 

 

 ……きっかけはなんてことない。俺が暇な時間に学園を散歩しているときに見つけたのだ。

 日も当たらない場所で、ボロボロのまま放置されていた一つの倉庫のようなものを。

 見た目はほんとに脆く、壁面に至ってはカビすら生えていた有様だった。

 

 要約すると、だ。

 人目に付かなく、ボロボロで、放棄されていて、改造しがいのある倉庫。

 

 ――それが、子供心輝く俺には秘密基地のような魅力が詰まった建物に見えたわけで。

 

 即時即決。

 俺はこの倉庫を改造――もといDIYすることにしたのだった。

 ここを新たなトレーナー室にでもするかー、などという考えで。

 

 

『トレーナー室の件、学園の裏手に誰も使っていない小屋があるんですけど、あそこを使っても構いませんか?』

『あそこはトレーニング機材などの倉庫だったものですけど……』

 

 

 まずはたづなさん方に相談して。

 

 

『すみません理事長。たづなさんから聞いてると思うんですが、倉庫改造の配線工事の件なんですけど……』

『承知ッ! 私の伝手を紹介しようッ!』

『どうもです。流石に電気関連は知識が無いもので』

『無用ッ! 要らぬ心配だトレーナー君ッ! むしろ現状解決をしてくれようとする心意気に感謝だッ!』

『あ、はい』

 

 

 上の人にも、そして理事長にも話を通した。

 ……因みに、善意満タンで俺に頭を下げてくれた理事長に罪悪感があったことを、今更ながら後語らせてもらう。

 

 なんかすんません。あそこ作りたかったのは、ただ俺の自己満足みたいなもんなんですよ……。

 

 

『それはそうとトレーナー君ッ! 一つ相談があるのだがッ!』

 

 

 そして、理事長からのふとした話題――理事長が個人的に抱えてたにんじん畑の運営についての話題に合わせて、気まぐれに『俺が飯屋を開きでもして、そのにんじん畑のにんじん使うことで、運営を合法的に認めさせましょうか?』なんて返したのが全ての始まりになった。

 

 トレーナー室は、小屋の隣に設置となり3重のセキュリティーロックで厳重に整備されることになる。

 そして、当初自由すぺー……トレーナー室になる場所だった改造倉庫は、飲食店『ウマ小屋』として経営されることになったのだった。

 

 俺としては文句はない。

 絶対侵入不可なトレーナー室、もとい自由スペースを手に入れられた上、目を付けていた倉庫を飲食店として使えるというのだから。

 

 提案をしてきた理事長の取ることに、一切の躊躇は無かった。

 

 これが今日、『ウマ小屋』が出来上がる2日前の出来事。

 すなわち、()()()()()()の話であった。

 

 

 

 


 

 

 

 

「…………だから、休日を満喫している私に気を使って何も言わなかったって事?」

「……おう。流石にお前の日常を侵害してまで、俺の事情話すのもあれかと思ってだな――」

「そ・の・せ・い・で。私のストレスはマッハなんだけど」

 

 

 叩きつけられた言葉にバツが悪くなり、俺は思わずそっぽを向いた。

 ついでに冷や汗ものである。こういう時、俺のせいで不機嫌になった時のウィングは怖いのだ。主に物理的ダメージの懸念が――

 

 

「ごがっ!?」

 

 

 と言った瞬間にダメージ発生。エマジェンシー。助けて―。

 何かと思えば、俺の右足をウィングが踏み潰していた。もちろんウマ娘の本気で踏まれては、マジで俺の足はこの世から消し飛ぶため加減はしてあるが。

 

 それでも、痛いものは痛い。

 

 右足の小指に爪が割れたかのようなとてつもない痛みが走ったことで、思わず濁点のついた悲鳴を上げてしまった。いや、もう死ぬほど痛いんですけどあの。

 

 

「なに?」

「……いやなにも」

 

 

 痛む右足をしゃがんで抑える俺に、見下されるウィングの視線。

 こういうのをご褒美とでもいうのだろうか。俺には全く理解できない、助けて(ヘルプミー)スレ民。

 

 ……まあ、今回に限っては俺に情状酌量の余地はないだろう。100の割合で俺がウィングに情報を通達していなかったのが原因だからだ。故に、俺は鈍痛を与えてきたウィングへの抗議の言葉を飲み込んだ。この痛みも受け止めるつもりである。

 

 視線を外された次に聞いたのは、ウィングのため息だった。

 

 

「あのさ、私もトレーナーとは1年ちょっとの付き合いだからさ。そういう奇想天外で自由奔放な行動については大抵許容するよ」

「お、おう」

「でもね。一言は何かくれない? トレーニング中にいきなり『あ、俺店開くことになったから』なんて言われたらびっくりするんだよ。ホントにっ」

 

 

 ああ、準備運動で前屈してる時に言ったからすげぇグデーってなってたs……いや、余計なことを言うのは止そう。

 

 左足を振り上げるウィングを見た俺は、即座に開きかけてた口にチャックをする。

 触らぬ神に祟り無し。

 これ以上の身体的ダメージを避けるため、俺はウィングの怒気に屈するのだった。

 

 

「次からはちゃんと私に一言入れる事」

「……お前は俺のおかんか」

「…………っ」

「分かった! 分かったっての! んな顔赤くして足を振り上げんな!」

 

 

 

 

 

 





本格的な追憶編の始まり始まりー。
やったねみんな。ウブウブな頃のウィングが見れるよ喜べ。
ただその分テイオーの出番がががが……ごめんな? 終わったらイチャコラさせたげるから……

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  • いらん
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