歓声が響く。
鼓膜が揺れるそうなほど、耳が割れそうなほど鳴り響く震源に立っている俺は、しかしその音に耳を通している。
観戦する客が声を上げるなど当然のこと。そしてその席の一番前に、埒の際に立っているというならなおさら。
そして、その中に俺の愛バの応援があるというのなら。
トレーナーとして、アイツの友人として。耳を塞ぐことは許されない。
例え、本当に鼓膜を破ろうとも俺は、この歓声を一片たりとも聞き逃しはしないだろう。
歓声が増す。
遂にゲートの前へと立つ少女たちの姿が見える。
遠目から見える、2人のウマ娘。
シービーとウィングは、なにやら一言二言ほど語り合っているようだった。
すれ違うほどのほんの数瞬の出来事だったため、多くは語らなかっただろう。
しかし、ウィングから話しかけたその一言は、シービーをきょとんとさせた。
何かと思って、俺は双眼鏡を片手に様子を見ようとするが、口の動きまではよく見えなかった。
だが、急に笑い出すシービーを見たことで、問題はなさそうだと確信して。
――次には、雰囲気を猛るモノに変えたシービーが現れたことで、今度はウィングの顔が強張る。
勝負の宣言だろうか、それともシービーを奮い立たせる何かの一言でも発したのかは分からないが、とにかく彼女の闘争心を燃やしたのは間違いない。
対するウィングは、負けじと踏みとどまっていた。
逃げ出したくなるようなプレッシャーに怯えながら、怖がりながらも、この勝負だけは逃げだすわけには行けないと、その脚を前に出す。
そして一言、すれ違い様にゲートに入っていくウィングは何かをシービーに伝えていた。
数秒の間。
そして、それを聞いたシービーは、楽しそうに、獰猛的な笑みを浮かべた。
……何を聞いて、何を思って、アイツらがライバルと呼ばれる関係になったかは、俺とて定かではない。
知っている限りでは、偶然俺の店中で会ってから、そこから関係を築いたということだけ。
学園内で、それこそあの2人のプライベート内で何が起こったかなど、俺が知る由もない。
だが。
アイツらが、真剣に互いを想って、勝負を挑もうという気迫は伝わってきた。
なら、それだけで十分だろう。
……アイツに初めてのライバルが出来たという事実さえあれば、それでいい。
競う相手がいるのなら、アイツらはどんな結果だろうと――
互いを認め合い、その意思をきっと受け止められるはずだ。
ゲートに各ウマ娘達が入っていく。
勝負の瞬間。歓声が鳴りやみ、来るべきその瞬間を待ちわびる。
横一列に並んだウマ娘達は、この一瞬だけは平等だ。その誰も彼もが、互いを追い越し合う実力を持っているのだと、驕りもなく自分達の胸にそう響かせている。
そして。
そして。
「…………っ!」
言葉は無く、ただ風がなびく音が降りしきる中。
ゲートが開く。
『各ウマ娘、揃ってスタートを切りました!』
まず、開幕速攻全力でエンジンを回して駆けだしたのは3人。
予測した通り【逃げ】の戦法を取るウマ娘が、矢のように前に出た。そこには、もちろんウィングの姿もあった。
出遅れはない。後続がもたついている様子もないが、しかしコンマ数秒という遅れは生じた。
その隙を逃さんと、各ウマ娘が良いポジションを取り切ろうという中、先頭3人はただ前を駆けぬく。
考える力を使わない、ただ誰もいない光景を独占する走法。
それが【逃げ】
ウィングがかつて、他者を下に見ていられるからと言ったその走り方は、今の彼女にはどう見えているのだろうか。
……考える間もなく、レースは続く。
思考を閉じ、再びまみえた光景はまさに停滞だった。
既に、ポジションは決まり切ったようで、各々がそこからの脱却を狙おうと必死に脚を、そして頭を回している。
この2000mという距離を、駆け抜けようと必死なのだ。
後方を確認。
ライバルであるシービーは、俺の予想通り【追込】の形で攻めていく寸法の様だ。
順位は現状14番手。しかし、後半からの追い上げに警戒しなければいけない以上、あてにはならない。どの道、当たらなければいけない壁として立ちはだかるだろう。
一通りの現状観察を終える。
歓声の勢いが増していく中、担当の姿はどこだと、先頭に視界を移動させる。
小さいレンズ越しに見渡す怒涛の光景の中。
そこにウィングの姿は――なかった。
恐らく、序盤の先頭争いに出遅れたのだろう。
そんな思考に至るまでには、さして時間はかからなかった。
順位的には2と4のほぼ間だろうか。
3すくみの中、1バ身程話したその距離はウィングにとってはとても長い距離に見えているかもしれない。
「…………クソッ」
双眼鏡の先で見えた、全力で脚を踏み仕切るウィングのその表情は悲痛に見える。
そして、俺も俺とてしくじったかと唇を噛み、顔を歪めた。
別に、先に先頭を取ることが、勝利の絶対条件というわけではない。ウィングの走り方の都合上、この先の巻き返しの可能性も大いにあり得る。
だが、それでも、少しでも有利を取れるだろう条件を勝ち取れなかったことは、あまりにも痛い。
この結果は物理的にもだが、精神的にも大きいダメージになり得るのだから。
先頭を駆けるという走法は逆に言うと、
そして、精神のブレは、思ったよりも勝負の刹那に大きく作用する。
足が緩み、無駄な気の張りを感じさせ、やがては大きなミスを招くのだ。
『おおっと!? ルベーユライトが失速! 開幕に集団から抜け出せなかったことが影響かぁ!?』
絶叫に近い実況と歓声が入り混じる。
その原因はターフ内で起こる追い越し合いにあった。
最序盤、先頭争いに参加しようとした【逃げ】の3人の1人。そのウマ娘がポジションミスにより囲まれ、逃げきれず、大幅に失速を許してしまったのだ。
【先行】するウマ娘が次々と追い越していくのが遠目で見える。立ち位置も悪く、急な失速によってスタミナの貯めも遅れている。あれでは、巻き返しも到底厳しいだろう。
残り1000mを、切る
後続が迫る中、ウィングが負けじと何とか食らいつく。
先の失速したウマ娘とほぼ同じ状況下にある中で、ウィングはその場を何とかしのぐことに成功していた。
それを成しているのは、アイツが持つ精神力が影響しているのだろう。……伊達に、俺はアイツを『頑固者』などと呼んではいない。
毎日がオーバーワークの日々、限界だと崩れ落ちてもなお、勝ちたいという想いだけで立ち上がってきたアイツの強さは、特等席で見続けてきた。
――だから、ここからだ。
ここからが、ウィングの正念場。
未熟なりに培ってきた力量と、最後まで諦めない精神力。
刹那の一瞬も気を抜くことすら許されない、そんな切迫し続ける状況にどれだけ耐えれるかが、アストラルウィングの勝敗を分けるだろう。
そして。
アストラルウィングは、その領域へと、一歩を踏み出した。
『なんと!? アストラルウィングが加速した! 残りは800m、あまりに早い末脚だ!果たしてゴールまで体力が持つのかぁ!?』
驚愕の声、動揺の声が辺りに響く。
ウィングの急激な加速。それを見た観客と実況陣のモノだった。
俺がウィングに教えてきたことは、主に2つだ。
1つ。
単純ながら当たり前だが、走りにおける正しい体の動かし方。
特段ソレを応用したモノなどではなく、運動における基礎中の基礎ともいえる内容に過ぎない。
――だが、単純とはいえウィングにとっては重大なファクターだ。
何せ戦術と呼べる行動が一切取れない以上、その分割かれるリソースは「前に出る」という一択に縛られる。
ならば、余計な思考は閉じるべきだと、俺は判断した。
通常、相手が使ってくるだろう、レースにおいて必要とされる基本戦法を教えることなく除外。
その分の練習期間を全て肉体強化に当てることによって、凡人ながらGⅠという大舞台に通用するまでに鍛え上げる事にしたのだ。
加えて、これには故障率の低下を施す作用もある。
……ただでさえオーバーワークを意図して行い続けるウィングなのだ。
だからこそ、俺は戦術という手段を捨てて、肉体の補強に勤め続けた。
『予想外の加速に先頭は面を食らっている! 1番枠ヴィジランテが後方を確認した末に負けじと脚を前に出す! ただペースを乱されているのか、その踏み込みには迷いが見えるぞ!?』
そして2つ目。
それは、加速のタイミングだ。
現状、見ての通りウィングは有り得ないタイミングでの加速を開始している。
それも序盤に先頭を譲ってしまったことによる、その場しのぎの加速ではない。
――最高速力、スタミナをフルに使っての全力の末脚を見せつけていた。
……もう分かってると思うが。
ウィングの持ち味は、諦めない精神力。つまりは『根性』と呼ばれるものだ。
ゴールに手が届くまで脚を運ばせ続ける強靭な意思
だから。
俺は、それが続くだろう限界距離を把握し、その距離に達したタイミングで加速を始めることをウィングに伝えた。
根幹距離である800m。
それが現状、ウィングがゴールまで持たせることができる気力の限界距離。
万が一、途中で気力が尽きれば……
それがたとえ、残り30mというわずかな距離だろうが、スタミナの限界を超えた反動として大幅に失速。抗うすべもなく、流れるように敗北を喫するだろう。
それほどまでに危険な賭け。
まさに刹那の一瞬も気を抜くことすら許されない、そんな状況にウィングは立っている。
だが。
『視界に捉えたアストラルウィングがヴィジランテを追い越す! そして……おおっと!?
その先、先頭に立つ3番枠のヤエノアカリを標的として捉えたか!? アストラルウィングの加速が止まらない! 無限の動力でも持っているのでしょうか!?』
それを成すだけの成果があった。
1バ身を離した距離を瞬時に詰め切り、その先にいる先頭を追い越さんとするウィングの姿。
迫る脅威に、先頭の娘は焦る様子を見せている。後方を確認したとたん、追い抜かれてたまるかとリミッターを外す。
再熱する先頭争い。
意地と、意地の比べ合い。
誰一人として譲らない思惑の中、先頭の娘の表情が歪むのが見えた。
ただ、恐らく少女にとっては予定外の加速だったのだろう。
ほんの少し、数瞬の間に見せた迷いが。
前に出す脚を遅れさせた。
その偶然が、遂に。
『そして今……追い、抜いたぁ! アストラルウィング、先頭を追い抜きそのまま独走! しかも、追い抜いてなおも加速が、
ウィングは、その意志の強さを示し先頭に立つことを許された。
ワッと、割れんばかりの歓声が鼓膜を響かせる。
どこもかしこも声を荒げる人の波。体を揺らし、針のように刺すそれは、痛みを感じながらも不快感は無かった。
むしろ、心地良い程に充足感を得る。育てた娘が、このように人々を魅了しているというのだから、悪い気分になるわけがなかった。
ただし、それもつかの間の感情だった。
残り500mを切る。
それが、その事実が俺の心臓に冷や水を垂らす。
そう。
ここからは、ウィングが。
――先頭に立つ者が、その地位を剥奪される番なのだから。
最初に動きを見せたのは【先行】していた集団だ。
逃げウマ達の様子を見て、後半に追い込みを掛けるのが最善と判断したのだろう。ウィングが動きを見せた直後ではなく、先頭を追い抜いたすぐ後に4番手の娘が速力を上げた。
それを見た後続が同時、発破をかけたように他の娘もギアを上げ始める。
既に、逃げウマとして争っていた3人の内2人の娘はいない。
1人は失速をきっかけに、そしてもう1人はウィングに追い越され、ギアを上げ始めた後続の集団に飲み込まれつつあった。
続いて【差し】を狙う数名。
彼女たちは先行が動くにつれ、刹那の隙も逃さない観察眼で差し込むタイミングを見計らっている。
一種の油断もできない状況は、前を走る娘達にとっては蛇に睨まれる感覚に近いだろう。
それとも、脚をすくう死神でも迫ってきている気分なのか。
そして【追込】をかけようとする最後方。
前半に貯めたスタミナと末脚は、その脅威を見せつけようとしている。
最終直線までもう少し。
残り300mに迫ったその時、彼女たちの本領は大いに発揮されるだろう。
――そして、その中にはウィングの
耳かぶさった小さい帽子、脚の襟とベルトのような布地。
長い後髪を大胆に揺らして脚を溜めるミスターシービーには、恐ろしい程の余裕が見える。
双眼鏡のレンズからわずかにちらつく彼女の瞳には、熱が灯っているのが分かった。少し遠くから見えたその表情には、獰猛的な笑みが浮かんでいた。
総じて、怪物どもの巣靴がウィングというただ一人に対して牙を剥く。
逃げるウィング、それを追う他全て。
先頭を駆ける者と、それを許さないとする者。
互いに対極。彼女たちの交わした
『中山の直線は短いぞ! うしろの娘たちは間に合うか!』
今、始まった。
「…………っ!」
遂に300mを切った。
舞台は最終直線に突入。
それぞれが全力を振り絞った末脚を見せつけるこの数秒が、惜しみもなく経過してゆく。
加速する過激な展開。次々と順位が変動していく中、ウィングはなんとか先頭を押さえていた。
約2バ身というわずかな距離を縮めてたまるかと気力を振り絞る。
計算上、ウィングに残されたスタミナは限界値に近いはずだ。それが尽きた瞬間、彼女は己の精神力を削りながら走ることになるだろう。
――何度も繰り返してきた走り方を見て、思わず俺は下唇を噛んだ。
精神力が勝負を決めるという不安定要素がある以上、彼女の勝利は絶対ではない。
そもそも、常勝には程遠い凡人ではあるものの、先頭を取っている安心感すら得られないというのは、割と心臓に悪いモノだ。
……それでも、前を見る。
この心臓が割れようが構わない。
意思を投じて、一世一代の勝負に挑んでいる彼女から目を逸らすなど、それこそ無礼の極みだ。
そして、俺はアイツのトレーナーだ。
彼女を支える者として、彼女が起こすだろう結末から目を離すわけにはいかない。
『さあ、最後の追い込みだ! 先頭アストラルウィングを全てのウマ娘がその背中を狙っている! 4番手ハレルヤミライが脚を伸ばす! しかしそれを許さない! 後方8番メーティオンが差し込んでいく! その隙に狙いを外れたアストラルウィングが前を進む、が……おっと!?
来る、最後の追い込み。
各ウマ娘が、培ってきた全てを賭けて1番を狙うこの一瞬に目が離せない。
息継ぎすらできないだろう実況に、会場のボルテージが最高潮に上がってゆく。
除夜の鐘すら優しく思える大音量を身に受けながら、俺は先頭のウィングを見た。
最高速には達しておらず、既に減速気味な脚。
遂にスタミナが切れたのだろう。彼女の表情には苦痛が前面に押し出されていた。
……しかし、その内に秘められた固い何かを俺は見逃さなかった。
が、意志だけでどうにかできるかと問われればそうでもない。
そして、その現実を逃さない集団を相手にしているわけでもない。
『その隙を見たか、後続の集団がアストラルウィングを目掛けて走り出す! 辛い辛いぞアストラルウィング! 減速したと同時に距離はどんどん縮められていく!』
容赦もなく来る勝負師たち。
目をギラつかせて、攻寄るバラの棘たちにウィングは為すすべもない。
一度棘に刺されば、敗北は必須。その瞬間、ずるずると落ちていく感覚に見舞われよう。
残りは200m。
そして先頭との距離が1バ身を切り。
ウィングが、精神を削って抗おうとする中で。
『おおっと!? 大外からやってくるミスターシービー! 華麗なステップを見せ、後続から抜け出してきた彼女が先頭のアストラルウィングに狙いをつける!』
遂にやってきた、彼女のライバル。
ミスターシービーが、後方の包囲網を抜けて大外から全速力で向かってきていた。
『速い! 速いぞミスターシービー! ターフの風に導かれながら1人、2人と、どんどん追い越していく!』
大外からごぼう抜きをかましていくシービー。
最も警戒されていたであろう彼女は、まさか取り囲まれていた包囲網を抜け出してきたのか。
思わず冷や汗をかく俺。
しかし、それほどの驚きもない。そんな展開は予想しきっていたことだ。
分かっていた。分かっていたさ。アイツがとてつもない強者なことくらい。
ウィングがかつての
「…………ウソだろッ」
だが問題は、想定よりもその速力が異常だということ。
前日にシュミレートした予測よりも、遥かに――速い。
既に後方5番手まで追い抜かされている目の前の現状に、思わず拳を握る。
確かに、予想はしていた。
彼女ならば、包囲網を抜けてウィングとの一騎打ちに持って行くだろうと。交わした約束を果たしに、追いかけてくるだろうということくらい。
だがこれは……レベルが違う。
今まで対決してきた誰とも違う圧、力量、速力が。
ウィングが戦ってきた、全てのウマ娘の常識を超えている。
確実に想定範囲外。頭がそう割り出したシービーの力を見せつけられ、俺の顔が険しく歪む。
アレはもはや、大地を蹴ってなどいない。
彼女を元に、走りやすいように、地面が――大地が弾んでいる。
そう思わされるほどに、シービーの走りは美しく圧倒的だった。
『ミスターシービー! 後続をごぼう抜きだぁ! 残るは先頭のアストラルウィングのみ! 飛躍した彼女の翼は、ここで落ちてしまうのか!?』
大外からやってくる死神の鎌。
ライバルの脚がすぐそこにあるという事実に、ウィングは果たしてどのような感情を生んでいるのだろう。
焦燥か、畏敬か、絶望か。
今までのウィングでは、敗北の度に持ちえたという感情を想像する中。
「ウィング……?」
ふと、見えた彼女の表情からは。
口角を上げた歓喜と。
獰猛な笑みから生まれる、赤熱した草原色の瞳が。
『な!?』
「…………おい、マジか」
2度目の。
――さらなる、加速を生んだ。
『アストラルウィング、再び加速!? 尽きたと思ったそのスタミナが、落ちかけた翼が再び空を羽ばたたこうと動きを見せた! ミスターシービーは急な再加速に驚愕を隠せない! そして……なんと!縮まろうとしていた距離が止まったぞ!? 残るはたった100m!このままゴールを決めるのか!?』
ありえないと、己の心にそう結論付ける。
限界を見せたと思ったとたんの再加速。恐らくアレは最初から狙ってやっていない。……否、ウィングにそんな思考をよぎらせるほどの余力はない。
1番を取るためのリソースなど、とうの前に吐き出している。
既に切れたスタミナ。アイツの足を動かしている動力元は、諦めたる彼女の精神力のみのはずだ。
ただし、俺が想定していたのはそれをゴールまで維持するシュミレーションのみだ。
だから、あの場で再加速するなどありえない。
あってはいけない。
「だが……これで」
そう、それでも。道ができた。
更に予定外の再加速。その加速は大外から追い込んでくるシービーを寄せ付けていない。
何かを削りながら走るウィングの姿に不安を覚えながらも、俺はその事実を飲み込んだ。
……手を、脚を、芝に縫い付けられるような感覚だと。
かつて、ウィングが根性だけで走りきる感覚を、そのように表現したのを覚えている。
すでにアイツは、一度目の加速を終えた直後だ。
ならば、二度目の加速は、一体どれほどの苦痛と虚脱感をアイツに与えているのだろうか。
歯を食いしばる数瞬。
大地が鼓動し、芝が踏まれ揺れ動く。
歓声の爆音がピークに達したその瞬間。
(……ちょっと、待て)
俺はふと、時間が止まる感覚を覚えさせられた。
ウィングのスタミナは切れている。何度もトレーニングという観察を経て、把握できている限界値を迎えているのは間違いのない事実だ。
だから今精神を削りに削りながら、アイツは今戦っている。
だが……
だが。
それは通常通り、今まで通り、
ご都合主義な展開などありえない。成果を出すには何かを消費するはずだ。
単に動くのなら体力を、限界を超えるにはそれに等しい何かを、必ず削りながら迎えるはずだ。
……だとしたら。
アイツは今、2度目の加速という不可能を経たことで、
走ることができている?
アイツが今、持ち合わせているものは……
「おい、まさか……!?」
――削ってはいけないモノを。
――限界を超えるために、アイツが持つその身を。
――削っているとしか思えない。
次の瞬間。
俺が目にしたものは、あまりに非情な現実だった。
――それは、体制を崩しそうになるウィングの姿。
脚から零れ落ち、まるで目の前の崖から転落するような。
意識を失ったように、脚を崩すウィングが視界に入り、息が詰まった。
想像するに最悪の展開だ。
限界を超えようとした代償。
……それは、急激な脚への負担による、故障だった。
他ウマ娘との絡みもっと欲しい?
-
くれ
-
いらん
-
どうでもいいからイチャイチャ見せろ