トレセン学園の隠れた名店   作:[]REiDo

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あ、ブクマ200ありがとうございます(正気)



ファッションセンスなんてそこらの川に捨ててきた

 

 

 パーカーこそは正義である。

 

 春に着ればかっこいい、夏に着ればかっこいい、秋と冬に関してはかっこいいに足して暖性まで付いてくるというおまけ付き。

 家中、屋外などのいかなる環境であろうとも着用してさえいれば四季の全てに適応し人々の心に幸福を与える正義のアイテム。

 

 それこそが全人類No.1ファッション(俺調べ)であるパーカーの魅力である。

 

 そしてまた、今日ここに王道を行こうとするものが――

 

 

「先輩っていつも灰色のパーカー着てますよね。飽きないんですか?」

「ははは、おい後輩A君よ。それは全人類にマヨネーズの味が飽きるのかっていう至極当然の質問をしているのと同義だぞ?」

「飽きるよ?」

「飽きちゃうよ!?」

「いや、飽きるじゃないっすか。あと自分マヨネーズ苦手です」

「……確かに飽きるな」

 

 

 いなかった。俺の周りには同調する奴がいないらしい。テイオーは厨房前のカウンターから身を乗り出す勢いでツッコミを入れてきたし、ウィングは呆れ顔してやがる。俺の味方どこ???

 

 夕日が沈みかけている午後6時半あたり。

 俺は今日も『ウマ小屋』にて、数少ない来店する客の応対をしていた。

 今日の来客は、俺の後輩にあたる職員で名前は……まあさっきの通り「後輩A」ってことで。

 

 ……さっきの話、確かによく考えてみると、マヨネーズ入りの料理を10日くらい連続で出されたら俺でも飽きそうだし、なんならブチ切れそうだな。反省。

 あと俺マヨネーズ信仰派じゃねぇし。ケチャップ最高。

 

 好きな調味料を気づかせてくれた後輩Aにはお礼としてマヨネーズ入りの料理を出してやろう。有難く顔面で受け取りやがれ。

 

 

「今の流れでポテトサラダを作り始めるあたり、ホント性格悪いですよね先輩」

「この程度ならまだ甘いわ。本気で行くとマヨネーズオンリーで料理作るからな」

「それはもう食事に対するテロじゃないすか??」

「あ、ウィングー。今から飯作るから()()()仕込み終わってるキュウリとジャガイモを取って来てくれー(棒)」

「うんわかった。ボウルごと持ってくるよ」

「ボクも手伝うよ~!」

 

 

 後輩の訴えを右から左へ流しながらウィングに食材を取りに行くよう頼む。

 ウィングが厨房に入り、床にある秘密基地のような扉を開けその先に続く階段を下りて行った。それを見たテイオーもトテトテと一緒についていく様はまるで家族の一コマのようだ。

 

 パタン、と扉が閉まる音を立てて残ったのは俺と後輩の2人だけ。

 俺は厨房に立って調理の準備を始める。作るのはもちろんポテサラ。

 

 

「ポテトサラダを作るのは確定なんですね……自分マヨネーズ苦手って言ってるのに……」

「他のも作ってやるから安心しろ。なんだったらこれを機に好き嫌い直せ」

「好き嫌いがない人間っているんですかね?」

「存在すらしないだろそんなもん。いたとしたらそりゃ人の皮被ったナニカだわ」

 

 

 カウンター席に座りながら「じゃあ勘弁してくださいよ~」と苦笑い気味に許しを請う後輩A。

 悪いな、俺は嫌がらせをする時は絶対に手を抜かないんだ。全力を尽くして美味いポテトサラダを作ってやる。大人しく審判の時を待っていやがれ。

 

 

「んで、話戻るんですけど実際どうなんですか、四六時中パーカー生活って。夏とか着苦しくないです?」

 

 

 厨房であろうがターフに居るときだろうが、いつもと変わらず灰色のパーカーが目に入ったのか、後輩Aが思い出したように先ほどの質問をぶり返す。

 そういやこの後輩、結構衣服には気を使ってるって言ってたっけな。店来るときも毎回違う服だし、俺みたいな常時パーカーマンの事情が気になるのかもしれない。

 

 

「暑がりじゃないのが前提なのと、あとは慣れるかどうかだな。夏場だとフードがあるから日差しを遮ったりできるし結構便利だったりするぞ」

 

 

 俗にいう『肌荒れしたくない勢』には結構合うんじゃないのだろうか。俺は昔から冷え性な故、暑さは気にしないから常人に合うかは知らんけど。

 

 俺の回答を聞いた後輩は一瞬、顎に手を置き再び俺に問う。

 

 

「他の服とか着ないんです? 例えばテーラードジャケットとか、似合うと思うんですけど」

「俺はまずそれを知らん」

「先輩のファッションセンスどうなってるんですか」

「そんなもん地元の川に捨ててきた」

 

 

 いや別にファッションが趣味ってわけでもないから。興味ないことは知らないし実践する気もないし覚えてない。知識として保管してないんだよ。

 俺がパーカーを信仰してるのはシンプルなかっこいいデザインに加えて、機能性の良さと手入れが楽だからに過ぎない。普通の服みたいな機能性を抹消してデザイン特化した衣服など俺には合わないのだ。手入れもめんどくさいし。

 

 

「先輩って、スタイルと顔()いいんですから……持ち前の武器を活かさないのは勿体ないですよ」

「活かそうと思ったことないから日頃パーカー着てんだ。宝の持ち腐れって言っても『宝』そのものに興味がなきゃ魅力も感じねえだろ」

 

 

 ――例えば、だ。

 

 レースの才能があるウマ娘が、レースそのものに全く興味が無いとしよう。

 そいつは自身が持つその才能を、全く興味のないものに活かそうと思うだろうか?

 

 断言しよう。思わない。

 

 他人に強制されるなどの、余程の理由がなければそういった事はまずしないだろう。人を動かしたる動機は、一番最初に感じた感情からなのだから。

 

 初見のゲームのPVを見て「やってみたい」と思うように。

 類まれなる天才を見て「憧れる」ように。

 

 『好奇心』という純粋な感情がなければ、始まる物も始まらない。

 

 …………ま、らしくないことを語ったがともかく。俺にとってファッションは趣味の管轄外だ。

 俺にオシャレさせたけりゃそれなりの理由を持ってくるんだな。

 

 

「えー、そんなんじゃウィングちゃんが可哀そうじゃないすか」

 

 

 は? なぜそこでウィングが出てくるんだ。アイツと俺のファッション問題は関係ないだろう?

 と、言い返そうと思ったが唐突な咳払いで言いよどめられた。何が狙いなんだこの後輩。

 

 

 

 

「おまたせ~。食材持ってきたよ~」

 

 

 ガチャリ、と俺の近くの床にある地下に繋がる扉が開き、ウィングとテイオーがキュウリとジャガイモの入ったボウルを持って出てきた。

 

 

「お、待ってたぞウィング、テイオー。おつかいの駄賃に俺特製のはちみードリンクをごちそうしてやろう」

「やった~! トレーナー!ボクのは『固め濃いめ多め』でお願い!」

「あ、私は薄めでね」

「おう」

「休日の親子か」

 

 

 ツッコミご苦労後輩A。あと別に親子じゃない。現担当と元担当だ。

 

 ひらひら~と手を振りながらカウンターに座るウィングと、ぴょこんと地下から飛び出してきたテイオーを横目に、俺は小型冷蔵庫から特製はちみードリンクの原液を取り出した。そして大きめのタンブラーに入れて味と硬さの調整をする。まあ、工程的にはカル〇スの原液を水で薄めているものと考えてもらっていい。

 

 ちなみに紹介すると、今作ってる『はちみー』とはその名の通り、蜂蜜を凝縮したドリンクのことである。

 蜂蜜まんまなので糖分も高く、スイーツ性も高いからか女性にかなり人気があるようだ。かくいう俺もその甘さに惹かれて最近よく飲むようになった。教えてくれたテイオーには感謝なり。

 

 ちなみに俺のおすすめの調節は『普通濃いめ多め』だ。固めとか無理、あれ全っ然吸えん。

 ほら聞けよテイオーが今ストローで吸ってるはちみーの音を! ズッゴゴゴッ!ってなんだよ! 液体のしていい音じゃねぇだろ!

 

 

「……そういえばトレーナーってさっきから何の話してたの? ファッションがー、とかスタイルがー、とかこっちにも少し聞こえてきたんだけど」

 

 

 テイオーとは違い、スーと抵抗なく『やわめ薄め普通』のはちみーを吸っているウィングに話しかけられる。どうやら俺らの会話が意外と聞けていたらしい。

 ポテサラを作る手を止めないまま俺は口を開く。

 

 

「あー、それはな――」

 

 

 かくかくしかじか。説明なり。

 

 

「トレーナーのオシャレ問題かぁ……」

「深刻そうに頭抱える程のものなのかいウィングちゃん?長年の付き合いの君なら先輩のパーカー以外の服装を見たことあるかと思ったんだけど」

「うーん、見たことはあるけどそういうのは大抵お祭り事とかのイベントくらいだし……まずないかなぁ」

「……そういえば、ボクもトレーナーがその服以外を着てるの見たことないや」

 

 

 ポテサラを作りながら横に目線を向けると、ウィングが片手で頭を抱えている光景が目に入る。はちみーの入ったタンブラーを机に置いてかもしだす雰囲気は、深刻というよりも悲痛じみたものだった。

 

 

「ねえねえトレーナー。普段からあの服なのはわかったけどさ、他にも持ってる服ってないの?」

「無い。クローゼットの中は全部パーカーで埋まってる」

 

 

 疑問を頭に浮かべたままのテイオーがポテサラを作る俺の隣に立ってパーカの裾を摘まみながら問う。

 ありえないこと言ってるかもしれないが、事実である。俺のクローゼットは、基本的に灰色のパーカーですべて埋まっており、他の種類の服などは一切入ってない。

 

 

「味気ないな~」

「ほっとけ」

 

 

 ムー、と呆れた感じでジト目のまま俺を見てくるテイオーは非常に不満そうだ。

 …………不満ね。ちょっと不味いか? 今の時期に不機嫌になってもらっちゃ困るんだが。

 テイオーには()()()()()()()が待ってるわけだし。

 

 

「オシャレをさせたいなら理由を持ってこい……か。ねえトレーナー」

「? なん……」

 

 

 カウンターで思い込むような言葉を発するウィングの元へと、俺は目を向けた。

 そして俺は今日、自身の不幸を呪うことになる。なぜなら――

 

 そこには"ニヤリ"と、顎に指を当てながら悪戯な笑みを浮かべるウィングがいたのだから。

 最近、何かと活発かつトラブルメーカーになりかけている俺の元担当が()()()()()してたのだから。安心できる要素が何もない。

 

 ……てか思えば俺、今日に至るまでマジで不幸まみれだな。テイオーのトレーニング強制出社が最近始まったし、昨日ソシャゲで50連してSSR0枚だったし。良いことねぇなコイツいっつも。なして?()(訳:どうして)

 

 と、思考をねじらせたのもつかの間ウィングから放たれる問い。

 

 

「テイオーの明日のデビュー戦さ、トレーナーは絶対に勝たせたいよね」

「おっおう……そりゃぁな」

 

 

 そりゃそうだ。育てたる者、その努力が報われてほしいのは当たり前の感情である。

 ましてや『デビュー戦』――テイオーの人生を大きく踏み出す一歩目なのだ。トレーナーに関係無く、勝利を願わないのは人としてまず無いだろ。

 

 

「え、先輩!? 明日がテイオーちゃんのデビュー戦って、自分それ初耳なんですけど!?」

 

 

 どうやらテイオーの出走を知らなかったようで目を見開く後輩A。 

 

 

「焦り過ぎだろ後輩A。……別に言いふらしてなかっただけだ。職員の(あいだ)は知らんが、トレーナー(かん)だと情報は出回ってるって話は聞いたから、単にお前が知らなかっただけだろ」

「えぇ~ちょっと、そういう重要なことは言ってくださいよ。とにかく、テイオーちゃん頑張って!! 自分応援してるから」

「よかったなテイオー。お前のファン第一号だぞ」

「えっへへ~ありがと! よーし!ボク絶対負けないもんね!!」

 

 

 はちみーを飲み干して、ニッコリ笑顔でピースサインを前に掲げるテイオー。

 よし、不機嫌は治ったな。ナイス後輩。お礼にポテサラは大盛りにしておいてやろう(ゲス)

 

 

「で、トレーナーさっきの話の続きなんだけど」

「ん、おう。なんだ?」

 

 

 肘をつきながら、テイオーを微笑ましく見ていたらしいウィングに話を戻される。

 

 

「明日に控えてるテイオーのデビュー戦に全力を尽くす。トレーナーにその気持ちがあるのはよくわかった」

「言われるまでもない質問だったな。てか、お前もわかってるだろうに」

「うん、まあね。……で、ここから本題なんだけど」

 

 

 人差し指を一本上げて、片目を(つむ)りウィングは提案する。

 

 

「テイオーが、勝ったときのご褒美を用意したらどうかな。そうしたらテイオーのレースに対するやる気も、少しは上がるでしょ?」

 

 

 ……ほう。何かと思って心配してしまったが、良いことを思いつくじゃないかウィング。

 後先の報酬のことを考えさせテイオーのやる気を上げることで、レースの勝率を少しでも上げる。

 

 これ以上ない程良い提案じゃないか。俺としても賛成の一票だ。

 

 

「ふむ、テイオーはどうだ? なんか、そういう報酬みたいなもん欲しいか?」

「う~ん……ボクはそういうの欲しいっていえば欲しいけどs「テイオーちょっとこっちに」え、アスウィ? わっ!!」

 

 

 テイオーが思考を練らしている最中、ウィングが引っ張る形でテイオーをグイッと、椅子の隣へ引き込む。

 そのまま小声で耳打ちをし始める担当ら。一体何を話しているのか。まあ、テイオーも初めてのデビュー戦だしな。初めてのレースを後引くやましい思いで出走するのはどうなのかと悩んでいるのかm

 

 

「欲しい! 絶対欲しい!! トレーナー、ボク、ごほうび、ほしい!!!」

 

「おい、ウィング。お前何言いふらした」

「別に~、何も~♪」

「元気だねぇテイオーちゃん」

 

 

 嘘こけ。テイオーを見てみろよ。さっきまで悩んでうなっていた表情から一転して、キラキラ目ェ見開いてんぞ。あとカウンターから身を乗り出すな危ないから。

 

 

「はぁ……、まあご褒美が欲しいのは分かった。で、何が欲しい?」

 

 

 その言葉を聞いたテイオーとウィングが、視線を合わせて笑った。

 

 あまり高いものは勘弁してほしいものではあるが……まあ、勝利への投資と考えたら仕方ないな。すまん孤児院の先生ら、ちょっと仕送りの量が少なくなるかもしれないわ。可愛い教え子の為だと思って許して()

 

 ただ、物々の問題なら多少は安心できるな。最近は無茶ぶりの連続だったから、俺の貯金を崩すだけで解決できる問題なんて取るに足りん。

 流石に大丈夫だろ――

 

 

「「トレーナーの()()()()()()()をテイオー(ボク)のご褒美にする♪(!)」」

「――――」

 

 

 一瞬、息が詰まる。

 テイオーの先ほどの上機嫌、ウィングの悪戯な笑み。俺の中でピースが嵌る音がした。

 

 ――そう、だ。

 俺は何を安心してたのだろうか。阿呆なのか俺は。本っ当に馬鹿じゃないのだろうか。5秒前の俺をぶん殴ってやりたい。

 

 ウィングだぞ? 最近――ていうか引退してからというもの、何かと悪戯な笑みを浮かべるようになったウィングだぞ? 先日、仕事を控えた身で一緒に添い寝する羽目になった経験を全く生かさずに何を学んだ気になってたんだ俺はよぉっ!!!

 

 …………えー、お察しの通り詰みの盤面です。俺はこの提案を受け入れるしか道がありません。

 理由?テイオーが不機嫌になるからだよ畜生が。添い寝の時もこの展開だったな、学べよ俺()

 

 てことで、つまりだ。

 

 

「あぁ……わかった。勝てたらな」

 

 

 俺は、テイオーに勝ってほしいという気持ちもありつつ、何処か心の中で圧倒的敗北感を感じながら了承するのだった。

 敗北を認めるのは早いって? ばっかお前、俺の磨いた【テイオー(帝王)】が負けるわけないだろう。絶対勝つわコイツ。

 

 

 

 少女らの喜びの声で埋まる俺の店内。

 そんなはた微笑ましい光景の中、俺はポテサラを作る手を止めず、ため息気味にジャガイモを潰すのだった。

 すまん後輩Aよ、八つ当たりにポテサラ超大盛にしとくわ。絶対食いきれよ。(無慈悲)

 

 ――さて、明日はついにデビュー戦だ。

 

 弁当は何を用意してやろうか。

 

 

 





ポテサラはウマい。
同意のものは挙手を!!

後輩A「自分もう当分ポテトサラダはいらないっす……」(倒れる音)


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