トレセン学園の隠れた名店   作:[]REiDo

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祭りの始まりだ(迫真)
あと今回、トレーナーの自我丸出しです。



終わった後の……【祭り】が始まる

 

 あれから、みっともなく自身の担当に泣きっ面を晒してから時間が経った。

 

 今からあの後の流れを言うから聞き逃すなよ?

 

 まず、うちの愛バのウィニングライブ*1を見届けて、終わった直後に即タクシーで病院連行。

 検診を終え、()()3()()()という宣告を受けてからウィングを病煉(びょうとう)にぶち込み、あれやこれよと口にするウィングを看護師さんに全任せにしてから放置。

 俺は俺とて用事の為に現在、レース会場に戻るためタクシーを逆走させている所だ。

 

 この間にかかった時間は僅か1時間に満たず。俺は迅速に、開幕から全力疾走でこの一連の流れを終わらせたのだった。

 

 

「だあぁ~……疲れた」

 

 

 タクシーの後部座席で気だるく脱力してみる。

 マジでもう……クッソ疲れた……。

 手足を含めた何もかもが溶け落ちる虚脱感、俺今ならスライムにでもなれそうだ。ならねぇけど。

 

 

「お客さん、大分お疲れの様ですね」

「そっすねぇ……どこぞの手間かかる教え子のせいでこのザマですよ。まあ、手間がかかる分可愛げがあるんですけど」

「あら、お客さんお仕事で学校の先生でも?」

「似たようなものを生業に、とだけ。ついでに趣味も兼用ですよ」

 

 

 座席でめちゃくちゃ溶け落ちているところを、運転手の人に苦笑交じりで笑われてしまう。

 ……そういや、俺の今の恰好スーツ姿だったな*2。見た目で先公と間違えられたか。

 ついでに、問われた内容には、俺は仕事気分を抜かして正直に答えといた。

 

 目的地の中山レース場まで戻るには、まだ数キロほどの余裕がある。

 俺はその間を休憩がてら、運転手の人も割と口寂しかったのか、他愛ない世間の会話とやらを楽しんだ。

 

 

 

 

 

 …………さて、そうこうしてレース場に舞い戻ってきた俺。

 用事と言うのは、まあレースに勝った者の特権と言うのか。俺としては非常にめんどくさい事この上ないんだが。

 

 待っているのだ。

 ()()()()()()()()が。

 

 今こうして、扉を開いた奥には、カメラの山がずらっと並ぶインタビュー会場があるんだよ……。

 

 

 

「はぁぁ……」

 

 

 一息に大きな嘆息を吐く。

 

 今まで受けてきたインタビューとは比較にならない設備と注目度。

 それもそのはず、今回ウィングが勝ったのはそこんじょそこらのレースなどではなくガチのGⅠなのだから。お茶の間に流れるんだぞコレ。

 

 

「だっる……」

 

 

 隠す気すらない倦怠がマシマシだ。マジで。一思いに頭を抱えたりもしてる。

 

 ウィングは、別にインタビュー受けるくらいどうでもいいとか言ってたけどよ。

 俺に限って言えば、一体誰が好き好んで世間に身を晒したいと思うのかと思うわけよ。個人情報を晒すのはいつものスレの中だけで十分だってのに。

 ウィッグ被って変装してるとはいえ、今からあの大勢集まったカメラの中心に映らなきゃいけないと考えると……あぁ、俺の秘密主義が崩れていく音がする……。

 

 

(クソッ……だけど、これもトレーナーとしての責務の一つだ)

 

 

 そう言い聞かせて、何とか気を保たせる。

 長年積み上げてきた、俺の都市伝説染みたロマンを切り崩しながらでも、俺はウィングの為に体を張るって決めたんだ。

 スレの方にも、()()()があった時用の保険も置いてきたし……もう後戻りは出来ねぇんだ。

 

 

「うっし! 気ぃ入れろ俺」

 

 

 周囲に誰も居ないことを良いことに、気合の一喝を自分に向けて放つ。

 そして願わくば、何事もなく終わってくれと心の片隅で思いながら、俺は両頬を叩いて足を前に出したのだった。

 

 

 

 

 

「それではインタビューを始めさせていただきます」

「よろしくお願いします」

 

 

 そうして始まった質問応答合戦(インタビュー)

 

 数人を超える記者を目の前に、冷静を保つ。

 緊張なんざ的外れだし、そもそも俺はこういう場には慣れている。伊達に周知の目を気にしない性格やってねぇんだよ。

 

 ()()()()も切り替え、しっかり大人らしく、いつものような砕けた発言はもちろん無し。きちんとした丁寧語で答えていk……おい、ちょフラッシュ眩しいっ。目潰しでも仕掛けてんのか。俺の視力落とす気かおい。

 

 …………と、内心では砕けつつもだが。表面上は決して仮面を崩さない。

 

 会議室の外には興味本位で寄って来たらしいウマ娘達も大勢いる。

 今やこの場は、ウィングに何かしらの関心やらを持った人が集まる場になりつつある。

 

 ――そして、その中にはアイツのレースを見て()()を持った者も居るのかもしれないんだ。

 

 ……まあ、その本人不在がというのは申し訳ない気持ちでいっぱいではあるが。

 それでもそんな子供達がいる中で、普段の様なはしたない真似なぞ出来はしない。

 まして、んなことをしでかせば、それはアイツが走って得た栄光に泥を投げるような行為と同じだ。

 

(それだけはやっちゃだめだからな。頑張ってきたアイツへの誠意と言うかなんていうか、ウィングが頑張った分、俺もしっかり頑張ってやらねぇと)

 

 最もしてはいけない行動として、俺はソレを胸に刻みつけ次々に雪崩来る回答に答え続けた。

 

 

 

 インタビューといっても、内容自体は割とありきたりなモノばかりだった。

 実際に勝った感想は? などの質問はジャブみたいなもので、随分と速い末脚でしたね、だとか最後の加速についてとか……なんつーか言及とかの内容が多かった気がする。

 後はあれだな。今まで注目されてこなかったからか、連続出走の件についても色々詰められたりしたな。

 

 

「彼女の無謀なまでの出走に心を痛めたりはしないのですか?」

 

 

 確か、こんな質問も食らった気がする。

 ひじょーに際どい質問ではあったが、まあ聞かれるのは予め予想できたことだから一応流してやったが。

 ……ったがよ、普通なら有り得ない出走数だったり走法だったから聞きたくなるのは当然の流れだとは思うがよ……。

 

 お前らもうちょい頑張ったアイツに対して労いの言葉ぐらい吐いてやれよとは、少しだけ思った。

 

 けどま、そんな文句はすぐに飲み込んだ。

 別にそういう言葉が無かったわけじゃないしな。開幕早々「すごいレースでしたね」とか称賛めいた事も言われたし、それでチャラにしておくことにした。

 

 

「全然。自分はアストラルウィングの脚と、それを支える彼女の精神を信じているので」

 

 

 ついでに、質問の返しにはこんな感じで言葉を返してやったわ。

 

 間を置かずに放ったことで質問してきた記者は「そ、そうですか」と若干きょどっていたな。はは、笑える。

 迷い無しの否定は、俺がアイツの能力と頑張りを認めている証だ。ちょいと目を開いてカメラに向けてキメたりしたが……それがお茶の間でどう思われてるかは知らん。

 

 ……あ、てかウィングの奴、病棟で寝てんだろうな?

 俺、結構遠慮なしで色々喋ってんだが。アイツ、もし寝てないんなら絶対この中継見てるだろうし……。

 

(……ヤベっ、ウィングが居ないことを良いことに色々喋り過ぎたか。いや、褒め散らかしてる内容が大半だから後ろめたいモンは無いが……帰ったらアイツにそこらへん言及されそうだ)

 

 内心で遠い目をしながら、俺はこれが終わった後の想像をした。

 尻尾ではたかれるぐらいは覚悟するか……と、不機嫌なりかけのウィングの姿を瞼の裏で幻視しながら。

 

 俺は、流れてくる質問の内容を耳に通していたのだが。

 

 

「ところで、今世間を騒がせているアストラルウィングのドーピング疑惑の件についてはどうお考えですか?」

「……どう、とは?」

 

 

 記者が放ったその一言に、俺はピクリと反応する。

 ところで、ってなんだ。言及するにしろ今はGⅠ勝利インタビューの最中だぞ、タイミングを考えろNoob記者がッ!!芝に埋めてやろうかこの野郎ッ!?

 

 と、瞬で暴言交じりな思考がよぎったが、それは一旦後回し。

 まずは放たれた質問についての思考に集中する。

 

 こういう質問をされるのは、可能性の一部として考えてはいた。

 考慮深く、と言うか俺の現実主義故か、そういう問題が起こり得るだろう、という懸念を捨てきれなかったのだ。

 

 特にウィングに至っては、既に今までの連続出走で悪い噂が流れつつあった。

 そして今回、注目されなかった大穴からの勝利だ。その分、名声みたいなものが得られたと同時に、そういう噂を流していた輩の声にも目が届いてしまったという所だろう。

 

 

 ……まあ、総括してだ。

 とにかく一言。一言だけ言わせてくれ。

 

(……ホント、ゴミみたいな噂を流す奴ってのはどこにでもいるもんだな)

 

 内心で嘆息をつきながら、この記者を含め、風に紛れてる噂を垂れ流したどこぞのクソ共を侮蔑する。

 悪いが、俺はこういう奴らに対しての言い方に遠慮は無い。

 この手合いのクソ共は大抵、他人が成した成果と努力を、蚊ほども重く考えずに発言するのだ。……ベラベラと道化みたいによ。

 

 現に、目の前でそんな質問を投げてきた記者はそういう手合いだということが分かるだろう。

 あの全てを捻り出したレースを見て、そんな質問を取れるのは明らかにそういう敬意やらが足りない証拠だからだ。あ、足りないのは小さい()()()もだな。

 

 

「どうも何も、先ほど挙げた件についてあなたはどう思っているのかを聞きたいのですが」

 

 

 同じことをわざわざ聞き返すのも脳みそが足りない証拠か?

 それとも難聴か? 若そうなのに大変なことで。

 

 

「……世間を騒がせている事については、自分からは何も言うことはありません」

「考えを聞かせる気は無いと? あなたの担当が疑惑をかけられているんですよ?」

 

 

 冷静に、内で暴言を吐きながらも、俺はできるだけ角が立たないように質問に答える。

 

 

「自分の言葉では、その流れている疑惑とやらを納得させるだけの説得力がないので。噂は噂で、それぞれの想像にお任せします」

「随分と無責任ですね。あなたの担当であるアストラルウィングが、その噂に心を痛めたりなどとは思わないのですか?」

 

 

 あーいえばこーいう、とはよく言ったものだ。

 世間の民衆を身寄りの盾にしたと思えば、今度は俺の愛バを攻撃の対象に含めると来た。しかも手前が出した話題で傷をつけた上、それを棚に上げてだ。

 

 ははっ……

 

 はは…………

 

 ざけんなゴラ。

 

……決めた。この記者だけは()()()()()()()()。泣いて謝ろうが必ずぶっ潰す。

 

 今の俺がどんな目をしてんのか見て見てぇ。

 こんだけグツグツと沸き立つ怒りを感じたのは珍しい。

 マジで久々にキレちまったよ。ガキの頃なら屋上連れてってるところだぜ、これよ。

 

 いい加減、ブチ切れたくなる憤怒でいっぱいになるところだが。

 それを冷血に、冷静に怒る。

 

 そして、ホントに冷静に。

 いつものように分析し、先ほどの質問への回答を考える。

 

 なるほど、腐っても組織を代表してこのインタビューの場に立っているだけはある。大胆に質問を押し付けるわけでもなく、チクチクと回答者を責め立てるその仕草。百歩譲って立ち回りが上手いことは認めよう。

 

 が、残念だな。

 その問いへの回答は、既に出来上がっている。

 

 

「――自分は()()()()()()で、彼女の脚を止められるとは思っていませんから。

 そして多分、彼女も……アストラルウィングも走ることをやめはしないでしょうね。何せ、あぁ見えてレースの事しか頭にない娘なので」

 

 

 多少の笑いどころを取りに、そして少しの皮肉を加えた台詞を吐き出した。

 ハッ、元々こういう問題が起こることを考慮していた身だ。そういう質問への答えを考えていない訳がねぇだろうが。

 

 

「…………」

 

 

 世間の受けが良さそうな前向きな回答に。

 そして一瞬の笑いが生んだ事で緩んだ空気に、質問者の記者が顔を分かりやすく歪める。

 

 ……ふう、ここまでだな。

 今の一手で、この記者は話の出どころを失ったはずだ。

 世間が聞きたいだろう答えが出た以上、これより先の質問は蛇足に等しいモノになる。そしてそれは、必ず組織全体の利にはなり得ない。

 

 後は、この記者が愚かしく無駄に突っ込んでこなければそれで終わりなのだが。

 

 だが……。

 

(この行き場のない怒りはどこへ向けようか……)

 

 内で沸き立った血をどうしようかと悩む。

 目の前の記者に対する怒りは相も変わらずだ、コレに関しては後で確実に潰すことは確定なのだが。

 

 ただ、そのタヒ刑執行は、しっかりと結果を出したことを侮辱されたアイツの分の怒りだ。

 

 俺が今ここで受けた。

 俺の愛バの成果を。

 アイツの頑張りを、一蹴したことに対する怒りは含まれていない。

 

 そして俺は、その怒りを我慢できるほど人間として出来てはいない。

 むしろ、俺は今ここでこの怒りを発散したいと思っている。()()()()()と考えている。

 

 だとしたら。

 う~む……。

 

(…………すまねぇウィング。俺も我慢の限界だ)

 

 一考だけして、俺は()()()()ことを決めた。

 

 割と迷いは無かった。

 ここから先は俺の我儘になるだろう。

 勝利を決めた当人が居ないことを良いことに、俺が勝手をすることを内心で謝る。

 

 そして、一つ手を上げてから俺は一言をつぶやいた。

 

 

「記者の皆さん」

 

「ここで今この場にいないアストラルウィングについて、重大な発表をさせてください」

 

 

 ここから先は、俺の鬱憤晴らしだ。

 なに、別に怒り狂うとかじゃない。ただ言いたいことを言って逃げ帰ってやろうってだけだ。

 

 勝手だがその間、付き合ってもらうぞ記者諸君。

 

 

 

「先ほど、自分の担当であるアストラルウィングが、全治3ヶ月の故障を言い渡されました」

 

 

 静寂の中、最初に切った台詞がやけ響いた様な気がした。

 

 口に出したと同時に部屋を埋めるフラッシュの光。

 それを鬱陶しいと感じながらも、俺は今起こした行動が、記者の心を掴んだ完璧な証拠だと良しとする。

 まあ、どうせいつかは公表する内容だ。先だろうが後だろうが、今話すことでこの状況を利用できるなら存分に発表させてもらうとしよう。

 

 内心で少しほくそ笑みながら、俺はその続きを語り始める。

 

 

「見る目を持っている方なら察しての通り、故障時の原因は2度目の加速が発端でした。そして自分は、その瞬間をこの目でしっかり見ていました」

「本来なら、その地点で止めるべきだとは分かっていました。……なにせ、自分はトレーナーですから。担当の全責任を負うものとしては、そして育てる者として当然の帰結でした」

 

 

 苦笑交じりで、自傷の念を込めてそうカメラに語り掛ける。

 そう、あの時。俺はアイツを止めるべきなのが最善だった。誰に言われるまでもなく、現実主義な俺が考えた当然のことだった。

 

 

「……ですが。あの瞬間アストラルウィングは、そんな壊れた脚で3度目の加速を成しました」

 

 

 ただ、それでも俺は人命優先よりも、アイツの意思を優先した。

 俺らしくもない答えだったが、それでもその選択に後悔は無かったと断言できる。

 

 

「身に余る激痛を、今にも倒れそうな意識を、それを全て振り払ってまで走ったんです。ただ、諦めたくないという一心で」

 

 

 だから止めなかった。

 

 

「一番に。

 そして、ただ一人のライバルと走りたいと。

 胸に秘めた思いを込めて、まるで飛ぶような――『飛翔』という大きな一歩を踏み出しました」

 

 

 止めたくなかったから、止めなかった。

 回帰する想いを胸に、俺はただバカ正直な言葉を吐き出した。

 

 

「自分は、そんな彼女が掲げた覚悟と硬い意志を誇りに思います。

 例え、その考えがトレーナーとして失格であっても。

 あの瞬間、ただ前に走ろうとする彼女の姿を、ずっと傍に寄り添ってきた人として見過ごすわけにはいかなかったんです」

 

「ご理解いただきたい、とは言いません。

 こればかりは、全てを承知で通した自分の不手際とミスです。責任も重圧も、全てあの娘を支える者(トレーナー)である自分が受けましょう」

 

「ただ、願わくば……どうか自分の、()の担当を長く温かい目で見てあげてください。

 彼女は――アストラルウィングは、ただ走りたいだけの無邪気な娘なんですから」

 

 

 そう言って、俺は立ち上がって頭を下げた。

 単なる願いもそうだが、打算込みで言うなら、こうすると()()()()()からな。印象深い一面にするならこういった行動もいるのだ。

 

 静寂が奔る。

 

 カメラのフラッシュだけが場を占める。記者たちは誰一人として言葉を発することなく俺の唐突な表明に耳を傾け、言葉を失っていた。

 そんな中、俺は俺とてーもスッキリした気分になっていた。

 

 ようやくといった所か、少なからず溜まっていたウィングの心配やらその他憂鬱とした気分をこうした形で晴らせたんだ。まあまあ爽快な気分である。

 

(…………?)

 

 頭を上げ、席に座ろうとすると、ふと乾いた音が耳についた。

 何かと思えば、肌と肌が当たる音。つまりは、普通の拍手だったわけだが。

 少数ながらあの……あれだ、月間トゥインクルの()()()だっけ? その人から広がっていくように伝染する拍手の喝采に、俺は内心で疑問符を浮かべまくっていた。

 

(なんで拍手……?)

 

 そう、疑問に思わざるを得なかった。

 おかしいな、今俺がしたことといえば、ウィングの故障報告と俺の単なるお気持ち表明程度なはずなんだが。

 

 それが一体、何をどうやったら拍手に繋がるのか。分からん。

 

 

 

 こうして、よく分からん雰囲気で終わったインタビューであったわけだが。

 

 ……いや、別に不平不満みたいな感じじゃなかったけど。なんていうか、俺のお気持ち発表の後、記者たちがなんかすげぇきょどったり謙虚な感じだったんだよ。

 終わった時も、問題なく流れるように場を離れられたし、誰も俺に近づいてこなかった。

 ……というより、近づきづらそうにしてたような……?

 

 まあいい。

 それはそれとして、現状報告をば。

 

 現在、俺は待機室で帰りの準備をしているところである。

 

 こんの着苦しい黒スーツとなっげぇ灰色ウィッグをいち早く脱ぎたかったってのもあるが、何よりの目的はウィングの荷物を纏めに来たのだ。

 終わった後、病院まで即直行だったからな。荷物をかき集める暇が無かったんだよ。

 

 

「うっし、これで全部か……」

 

 

 滲んだ汗を手の甲で拭きとってから周りを見る。

 取りこぼしは無し。纏められるものは纏めて鞄にぶち込んだはずだ。

 

 

「ったく……衣装のせいでやけに(かさ)張りやがって。帰ったら速攻捨ててやろうか……?」

 

 

 さっきまで着ていた黒スーツとウィッグが入った鞄を睨んでそんな言葉を吐き捨ててみる。

 吐いてみるが……この先、ウィングとインタビューに出る可能性が無いとは言い切れないしなぁ……。流石に捨てるのは無い、か。はぁ……。(ガチ溜息)

 今すぐ忌み物として投げ捨てたいが、世間から見た俺のトレーナー像はこの衣装で固定されてしまったし。

 

 チクショウめ、後の祭りって奴か。

 

 

「……あぁ、後の()()といえば」

 

 

 ふと、思いだした様に俺は携帯を取り出す。

 淡く光る画面。白の背景と黒の線で作られたその掲示板では……。

 

 

「おお、いいねぇ。死ぬほど荒れてらぁ」

 

 

 ページを更新すればするほど作られる惨状に、俺は表情を歪め死ぬほどほくそ笑んだ。

 同時に沸くのは「ざまぁみやがれあの()()()()()()」という、最低で高揚な感情。

 

 白い背景に並ぶ文字。

 

 それはどれも俺が怒りを沸かせた記者と、ソレを含む組織に対する批判の掲示板(スレッド)だった。

 

 俗にいう、大炎上という奴である。

 

 

「くっはは! 喧嘩売る相手間違えやがって、あのクソ記者、今頃頭抱えてるかぁ?」

 

 

 歪んだ笑みから出てくる最低な台詞。

 画面に目を通せば、どんどん出てくるインタビューについての批判コメ。

 今頃、あのクソ記者がクレーム対応で徹夜マッハなのを想像してみると……愉悦が止まらない。

 

 わりぃ、もう止まらねぇわ。罵詈雑言がなんぼのもんじゃい、こちとら愛バを傷つけられてキレてんだっての。

 

 微妙な雰囲気で終わったインタビューはそれとして、俺言ったよな?

 

 ()()()()()()()()って。泣いて謝ろうが必ずぶっ潰すってよ。

 

 そんなわけで有言実行。

 インタビューが終わって裏方に回ったと同時に、俺は板へとスレ立て、開幕早々ブチギレレスを投下。

 

 予め、俺がインタビューに出るかも知れないという()()を立てておいたのが功を奏したか、うちのスレの民は真っ先に現状を把握してくれた。ついでに現地民や生中継を見ていた奴も居たようで、怒りを沸かせている状態からこの抗争はクラウチングスタートを切った。まさに万全な状態である。

 

 総員、舐めたマネしやがってと、臨戦態勢バッチバチ。

 ネットに住まうイカレタ奴らの数の暴力を見せつけてやろうと肩をグルングルンぶん回し続けていた。

 

 そうして、マグマのごとく沸騰した怒りは、もちろんその対象にぶちまけられた。

 

 スレの勢いが指数関数的に加速し、報復の方法をこれでもかと計画している愛すべきバカ共(スレ民)

 今にも実行しかけ、しかし躊躇の面が見られていた中。

 俺は、そいつらに向かって一つ、こう言ってやったのだ。

 

 

 ――――とりまあの会社のWebサイトに田代砲*3ブッ放して来い。話はそれからだ。

 

 

 問答無用のタヒ刑執行(ブッコロ)宣言。

 

 同時に、俺が一度はやってみたかった『祭り宣言』をした瞬間であった。

 

 

 

 そこからはもう、坂道を転がる石ころの様だった。

 田代砲の砲撃開始から始まり、電話ワン切りでの嫌がらせ、各々やりたいように怒りの炎を燃え広がらせていく。

 

 

「明日が楽しみだ」

 

 

 これほどまでにウィングが愛されていることを誇りに思いながら、俺はこの惨状が翌日にはどれ程のモノになっているのかと、最低に下卑た笑みを浮かべる。

 

 

「願わくば、これ以上立てないくらい再起不能になりますように、と」

 

 

 そう、最低で最高な感情を胸に掲げながら。

 俺は携帯を閉じ、荷物をまとめ、ウィングが待つ病院へと足を運ぶのだった。

 

 

 

*1
脚ぶっ壊してるから棒立ちと歌のみでのライブ

*2
灰色貞子ヘアー含め

*3
Webサイトやサーバーに対するサイバー攻撃ツール





祭りの開始を宣言しろ!磯野!

トラップカード発動!
喧嘩を売る相手を間違えた記者クンを生贄に、俺は伝説の祭りを召喚!
ターンエンド。

……あ、追憶編は次に掲示板回と後日談を書いて一段落になるかな。


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他ウマ娘との絡みもっと欲しい?

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  • いらん
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