トレセン学園の隠れた名店   作:[]REiDo

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長くなっちまった。けど後悔はない。
今回、ウィング視点が多くなるよ。



正直になってみた気持ちは

 

 

 今更、思えばなんだけど。

 私って、ずっとレースの事しか考えてなかった。

 

 何をするにもレースの事ばっかで、走ることを何がなんでも優先してきたような……。

 

 うん。そうだね。

 勉強は普通なくらいの成績で――いや、ちょっと下の方かな……?

 そ、それに友達付き合いも少なくて……なんだったら休日もトレーニングで脱水症状寸前まで走ったりしてきたし……。

 

(あれ、私ってホントにレースバカって奴なんじゃ……)

 

 何度もトレーナーに言われ続けてきた私の本質(?)に、ちょっとだけ冷や汗。

 

 

 今更こんなことを思い返してるのは……ちょっと深くない理由があってね?

 

 つい最近、レースで脚を壊しちゃってさ。

 そのせいでトレーニングは中止。

 レースももちろん出れないし、今こうして右足にギブスを巻いてベッドに横になり続ける休日を過ごしているんだけど。

 

 やっぱり、そうなると暇ができちゃって。

 だから偶には、こうして自分を見つめ直す事にしてみたんだよね。

 

 で、見つめなおした矢先にちょっと冷や汗をかいてるのは、ね? あれだ。

 あのレースより前の自分、ちょっと……いや、大分ね? 楽しそうに生きてないなーって、思ったわけなの。うん。

 

 なんていうか、最近ちょっと視点が変わったっていうか、広がったっていうか。

 

 あのレース中に、ただ走るだけの楽しみを思い出してからか『勝つことだけが目的』っていうつまらなそうなレースに思い込まなくなって。

 心に余裕みたいなのができてさ。

 だからこう……色んな事に対して、目が届くようになったんだよね。

 

 友達同士の会話にも楽しみが生まれたし、偶にスイーツ巡りくらい時間を謳歌するようにもなった。

 

 ……これ、女の子なら当然かもしれないけど、私全然なかったからねこういうの。

 たまに、クラスの娘が誘ってくれたけど……それ全部蹴ってレース場に直行ダッシュした私を引いた眼で見てたあの娘たちの気持ちが、やっと分かった気がした。

 

 まあ、それもこれも、全部レースばかりな頭になってたからではあるんだけど。今思い返すだけで、ホントに女の子な経験ってしてこなかったんだなって顔を赤くしてる。

 

 

 ――まあ、それ以外の理由でも、今ちょっと顔を赤くしてるんだけどさ。

 

 

 さっき言った通り、私やっと女の子らしい趣味……ていうか感性? ができてね。

 色んなことに目がいくようになったから、レース以外のモノに対して楽しいって思う事が多くなったわけで。

 それをちゃんと楽しみたいって気持ちもあるから、自分の気持ちには正直になるようにもなってね?

 

 ……で、その()()()

 

 ちょっと、なんていうか。

 

 ずっと認めずに、誤魔化してた気持ちに正直になっちゃって、ね?

 

 

 

 

 ……ちょっと、トレーナーのことが好きすぎる自分に気づいちゃったみたい。

 

 

 

 



 

 

 

 

 思えば、こうして誰かの見舞いに行くのなんざ、人間20数年やってきて初めてだと思う。

 

 いや、別に見舞いすること自体が初めてというわけじゃない。

 ガキの頃は、よく殴り合ったヤクザバカの喧嘩の成れ果てを見に医務室に行くこともあったし、何ならその逆もあった。

 ……が、そりゃ見舞いの意図とは程遠い、ただの敗北者煽りをしに行ったりが多かったのだ。労いの気持ちが塵一つもないアレを、見舞いといっていいのかもよく分からんからよ。

 

 だからまあ、あれだ。

 ウィングへの、()()()()()()()()()は今回が初めてということで。

 

 レースでの故障から約半月。

 ようやく退院して、現在は松葉杖生活を送っているウィングを労いの念を込めて、俺は見舞いに行こうという気になったのだ。

 

 ……んだが。

 

 ただ、それと同時に、ちょいと迷う事態が発生しててな?

 

 

「見舞いの品……どんなもんがいいか」

 

 

 目を瞑って頭を回転させる。

 

 ちゃんとした見舞いということで、トレーナー室のPCを使い、通販の画面を眺めてしっかりとした見舞い品を吟味している最中なんだが。

 いかんせん、初の試みなもんで品物選びに躊躇いを覚えている俺であった。

 

 

「んむ……アイツが喜ぶモノねぇ……。果物、いや日用品……? アイツの事だし、それかもっとレースに関係する何かとか……蹄鉄もアリか……?*1

 

 

 いまいち固まらない思考。

 ウィングがモノを貰って喜ぶ姿が想像つかないのもそうだが、決定的なのは今まで贈り物などしてこなかった俺の経験不足からくる戸惑いだろう。

 

 ()()()()()()()()()というのは、割と悩みがちということが分かった今日この頃。

 

 腕を組んで、椅子に座りながら珍しい経験に目を細める俺。

 

 数分の思考の末、最終的に思いついた考えとは……

 

 

「……三人寄れば文殊の知恵ってな。スレに頼るか」

 

 

 結局、いつもの他人頼りであった。

 

 

 

 


 

 

 

 

187:サボりの達人トレーナー ID:saborima1

というわけで平日の昼から安価だ

ポマエラ、いい案を出してくれ

 

188:サボりの住人 

キチャァ!

 

189:サボりの住人 

久しぶりの安価じゃ!

 

190:サボりの住人 

この日を待ち望んでいたぞイッチィ!

 

191:サボりの住人 

>>187 てか結局自分で考えてなくて芝

 

192:サボりの住人 

文殊の知恵って言うかただのくじ引きじゃねぇか

ウィングちゃん涙目だろコレ

 

193:サボりの住人 

それはそれ

 

194:サボりの住人 

これはこれ

 

195:サボりの達人トレーナー ID:saborima1

いや、一応考えたは考えたがよ……

 

196:サボりの住人 

ほう

 

197:サボりの住人 

一つお聞かせ願おうか

 

198:サボりの住人 

どうせイッチの事だからロクでもないだろうけど

 

199:サボりの達人トレーナー ID:saborima1

蹄鉄って流石にアウトかね?

 

200:サボりの住人 

「」

 

201:サボりの住人 

「」

 

202:サボりの住人 

「」

 

203:サボりの住人 

……絶句しかできない模様

 

204:サボりの住人 

そりゃそうだ

 

205:サボりの住人 

頑張った教え子の見舞い品に鉄の塊送るバカがいるってよ。どんな新人類?

 

206:サボりの住人 

ワイ、人外って言われても信じるぞ

 

207:サボりの達人トレーナー ID:saborima1

……反応で察してるが、一応聞いておく

判決は?

 

208:サボりの住人 

ハハハ……アウトじゃボケがッ!!

 

209:サボりの住人 

良い訳ねぇだろうがクソイッチがッ!!

 

210:サボりの住人 

あれだけ頑張ったウィングちゃんがいたたまれんわッ!!

 

211:サボりの住人 

いっぺんその腐った脳みそ分解して再構築してこいやこの趣味人野郎ッ!!!

 

212:サボりの住人 

わお、情けよう者の無い罵倒の連続

 

213:サボりの住人 

この前の祭り騒動みたいだ

 

214:サボりの住人 

>>214 物によっちゃこっちの方が酷かったり

 

215:サボりの住人 

>>215 それもそうだな

 

216:サボりの達人トレーナー ID:saborima1

……まあそう言うことよ

俺の感性が狂ってるのは俺も分かってるからよ

アイツを悲しませんのもあれだから、()()()()()()()ポマエラの知恵を借りに来たってわけだ

 

217:サボりの住人 

>>216 ……言い方にトゲがあるがまあいい

 

218:サボりの住人 

むしろ良く頼ってくれた

じゃなきゃウィングちゃんを悲しませるところだった

 

219:サボりの住人 

イッチに贈り物の選別はできない、と……

ハイコレ分析班行きね~

 

220:サボりの分析班 

りょ

役立たせてもらうわ

 

221:サボりの住人 

とにかくイッチよ、ワイらを当てに安価するってことでおk?

 

222:サボりの達人トレーナー ID:saborima1

おう、頼んだ

 

>>230

 

223:サボりの住人 

無難に行こうぜ

 

224:サボりの住人 

ヨーグルト

 

225:サボりの住人 

可愛い系で攻めるのありか?

 

226:サボりの住人 

なんかの髪留め

 

227:サボりの住人 

ランシュー

 

228:サボりの住人 

花束

 

229:サボりの住人 

婚姻届

 

230:サボりの住人 

チョコレート

 

231:サボりの住人 

日用品

 

232:サボりの住人 

……なんかヤベェのいたぞ

 

233:サボりの住人 

婚姻届w

 

234:サボりの住人 

贈り物は俺自身だってか

 

235:サボりの住人 

クッソワロスw

 

236:サボりの達人トレーナー ID:saborima1

笑えねぇわ! 普通にあぶねぇよアホ共っ!!

なんてモン投げてきやがる……

 

237:サボりの住人 

この際だ、籍入れっちまえよイッチ

 

238:サボりの達人トレーナー ID:saborima1

入れるわけねぇだろうが

たくっ……とりま決まったな

 

239:サボりの住人 

チョコレートか

 

240:サボりの住人 

今12月だぞ?

バレンタインにはまだ2ヶ月ほど時間が開くけど良いのか……

 

241:サボりの住人 

バレンタイン……雌に雄にカカオ豆の加工食品を投げつける日か

 

242:サボりの住人 

>>241 芝

 

243:サボりの住人 

>>241 言い得て妙だが否定できない例えだな

 

244:サボりの住人 

>>241 バレンタインに恨みでもあんのか

 

245:サボりの住人 

でもまあ、蹄鉄よりかはよっぽど良い見舞い品だとは思うな

 

246:サボりの住人 

な。蹄鉄よりかはな

 

247:サボりの達人トレーナー ID:saborima1

そんじゃ、チョコってことで

 

248:サボりの住人 

『形状』はどうするんだイッチよ

 

249:サボりの達人トレーナー ID:saborima1

は? え、そんなんも決めんの?

 

250:サボりの住人 

当たり前だろ

 

251:サボりの住人 

むしろ形が大事

 

252:サボりの住人 

ほら、もう一回安価白

 

253:サボりの達人トレーナー ID:saborima1

はあ、ほんじゃま >>260

 

254:サボりの住人 

掛かったなドアホがッ!!

 

255:サボりの住人 

コレを待っていたんだぜぇ!!

 

256:サボりの住人 

チョコの贈り物といやあの形に決まってんだろ!

 

257:サボりの住人 

ハート

 

258:サボりの住人 

ハート

 

259:サボりの住人 

 

260:サボりの住人 

ハート形

 

261:サボりの住人 

ハイ決定~、おらさっさと見繕ってこいやイッチィ!

 

262:サボりの住人 

ちゃんとラッピングしたモノ渡せよ?

じゃねぇと安価達成扱いにしねぇからな?

 

263:サボりの住人 

しっかりとハート形でなぁ!

 

264:サボりの住人 

告白まがいなことしてウィングちゃん照れさせてこいやぁ!

 

265:サボりの住人 

そんでその姿撮って後でワイら見せろ!

 

266:サボりの住人 

コイツ等欲望駄々洩れでターフ生える

 

267:サボりの達人トレーナー ID:saborima1

テメェらマジで……いや別にいいがよ

ウィングに後でどやされんのは俺なんだぞ?

 

268:サボりの住人 

いいんだ

 

269:サボりの住人 

さすが恋愛感情に疎いイッチ!

そのにしびれる憧れないぃ!

 

270:サボりの住人 

>>269 憧れないんかい

 

271:サボりの住人 

こんな人間になりたくない人物と

微妙になってみたい人物ランキングだとイッチは上位に入るからね、仕方ないね

 

272:サボりの達人トレーナー ID:saborima1

ひでぇ言われようだ……

まあ、とりあえずハート形のチョコレートな

そんじゃ買ってくるわ

 

273:サボりの住人 

ほーい

 

274:サボりの住人 

行ってラー

 

275:サボりの住人 

太陽神がいるな

 

276:サボりの住人 

ララララー、ララララー

 

277:サボりの住人 

イッチ、後で、報告求む

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 そんなわけで、やってきました美浦寮(みほりょう)の前。

 

 何故ウィングの部屋の前じゃないのかって?

 そりゃお前、トレセンの寮ってのは基本的に、原則上ウマ娘以外は立ち入りを禁止されてるからだよ。

 しかも、これはソイツの担当だろうと適応されてな。そういう理由ありきで、俺はしゃあなしに寮の前でウィングを呼び出して、こうして待っているってわけだ。

 

 ……因みに実を言うと、別に侵入ができないわけじゃない。

 

 ガキの頃には、神社やら知り合いの家やら勝手にお邪魔した経験もある。それ故この程度、部屋にお邪魔すること程度なら簡単にできるのだ。

 

 知ってるか? 窓ガラスってガムテープ張った上からブチ割れば音がほとんどしないんだぜ?

 こう、パリンッじゃなくてパキャンって感じに割れるんだ。

 

 ……まあ、そういう知識は持ち合わせているから、やろうと思えばできなくない。

 が、今日に限ってはそういう気分でもない。

 それに、急に不法侵入などすればウィングをびっくりさせてしまうだろう。

 

 ちょっとした良心が働いたのもあって、俺はこうして真面目に待っていることにしたのだった。

 

 

「お、来たか」

 

 

 そうして待つこと数分。

 

 

「お待たせトレーナー。ゴメンね、ちょっと時間かかっちゃって」

「いや、別に急用ってわけでもねぇからよ。気にすんな」

 

 

 やってきたのは松葉杖を片手に、痛めた右脚をちょこちょこと地面に着けない様に歩く学園服姿のウィング。

 

(……化粧? ウィングにしちゃ珍しい)

 

 ふと目立つのは、やけに頬の赤い見た目と、若干のリップが施された唇。

 さっきまで何かやっていたのか所々に化粧をした様子が見える。

 時間がかかった原因は、その化粧にあったのだろうか? などと考えてみるが推測に過ぎないし、別に俺が気にする程の事でもない。

 

 考えは隅に置いといて、俺はウィングに話しかける。

 

 

「脚はどうだ? まだ痛むか?」

「ううん、今は別になんにもないよ。ていうか、定期的に報告してるじゃん」

「そりゃそうだが、俺も心配性なんでな。大事にしたいモンに何か一大事でもあったら嫌なんだよ。だからこのくらいは許せ」

 

 

 正直な心配を表して伝える。

 

 あの故障以来、ウィングには何の異常もない。

 医者のお墨付きな上、元気にやっているウィングが見れるとこは喜ぶべきだが、されど俺は現実主義な人間だ。可能性などを考えてしまうと、ふといらぬ心配が浮かんでしまう。

 

 それ程、コイツのことを大事に思っているのはあるから……まあ、この程度の手間かけは許してほしい。

 

 

「だ、大事に……? そ、そう……ありがと」

 

 

 真面目な感情込みでそう伝えると、顔を赤くするウィング。

 

 どうやら、何度も言ってるはずの俺の宣言に照れているようだ。

 頬を上気させて、目線をあらぬ方向に向けているその仕草は実に可愛らしい。

 携帯を取り出して写真に残したいところだが、んなことをすれば俺の携帯は即座に踏みつぶされてゴミクズと化すだろう。

 

 スレ民には後で謝るとして、俺は自分の瞼に可愛らしいウィングの姿を焼き付けた。

 

 

「んんっ、それでトレーナー。急に呼び出して何か用?」

「ん? ああ、そうだったな」

 

 

 分かりやすく咳で空気を誤魔化し、本題に入ろうとするウィング。

 俺も俺で、これ以上ウィングの日常生活を侵害するわけにもいかない為、ササッと用事を済ませることにする。

 

 ガサゴソと、懐からソレを取り出す。

 

 スレの安価通り、ハート形のチョコレート。

 ラッピングもちゃんとした少しだけ値段の高めのミルクチョコレートを。

 

 

「ほらよ、見舞い品だ」

「え」

 

 

 躊躇なく、ウィングの前へと差し出したのだった。

 

 

 

 そうして、少々戸惑いながらではあったが、それを受け取ったウィングが寮の中に戻るのを見てから、俺もトレーナー室へと帰る。

 

 脚に問題もなかったし、ウィングも退院後に元気にやっていたことも確認できた。

 顔を赤くした可愛い教え子の姿も見れたことだし、今日も報告を待っているスレ民共にこの経験を教えてやるとしよう。アイツ等泣いて喜ぶだろうよ。

 

 ……ていうか、ウィングの奴めちゃくちゃ大事そうにチョコを抱えて戻っていったな。

 

 見舞い品にチョコって結構喜ばれるのか……なるほど。今後の経験に活かすとしよう。

 

 

 

 



 

 

 

 

 ハート形。

 

 ハート形って。

 

 

「うぅ~……」

 

 

 よりによって、贈り物にハート形のチョコレートって。

 なんなの私のトレーナーってば。女の子にそういうの送ることがどんなことなのか分かってないの……?

 

 いや、分かってる。

 絶対百も承知で、分かったうえで、トレーナーは私にこんな贈り物をしたんだ。

 多分、その考えの中には私に対するやましくない好意だけを込めているんだって。

 

 子供みたいにバカ正直な、私を大事に思っている気持ちがあるって。

 

 そう分かった途端、もっと胸の中で熱いものが込み上げてくる。

 

 

「うぅ~~!!」

 

 

 ベッドの上で痛んでない左足をパタパタさせる私。

 トレーナーの前では羞恥を隠しきってたけど、部屋に戻った瞬間もう無理だった。ダメだった。

 今の私、絶対恥ずかしさで真っ赤になってるに違いない。

 

 

「あんな……慣れない化粧までしてさ」

 

 

 ただ数分、会うためだけにそんな事に時間を使ったことも、今となっては恥ずかしい。

 

 だって、急に「会うからな?」なんて連絡着てさ? けど、なんかすっぴん見られたくないって急に思って……すごく焦ったんだよ?

 だからちょっと……なんていうか気合を入れてみたんだよ。

 

 そしたらもう、トレーナーのあの目がさ。

 可愛いものを見るようなあの目を見てさ。

 その上、大事にしてくれてるって言ってくれてさ。

 

 そして、こんな贈り物をしてくれて。

 

 ――うん。嬉しかった。

 

 私が慕う彼がくれた()()が。

 

 ……ううん。もう誤魔化さない。

 レースだけじゃない。自分の気持ちにも正直になることが楽しいって分かったから。

 

 だからもう、ずっと覆っていたこの気持ちを誤魔化したくない。

 

 

()()()()()、トレーナーが贈ってくれた気持ちがこんなにも嬉しかった」

 

 

 正直に、そんな気持ちに答えを出す。

 多分、分かっていた答えだった。

 

 あの花火を見上げた日から……?

 それとも、あの河川敷で泣きながらトレーナーの胸に抱かれた日から……?

 

 ううん、多分もっと前。

 あの日に、木の下で石ころだった私を見つけくれたあの日から。

 

 多分、私は。

 

 私の心は、トレーナーに寄り添っていた。

 

 

「~~~~!!!!」

 

 

 声にならない悲鳴を上げてから、咄嗟に両手で体を押さえる。

 

 ずっと気づかないフリをしていた私の気持ちを自覚した途端、紅い何かで胸がいっぱいになる。

 ベッドの上で身を悶えさせて、枕を抱きかかえてこの気持ちを晴らしてみようとするけど……ダメだ。もっともっとあふれてくる。

 

 恥ずかしいとか、切ない、とか色々あるけど、なんていうかその……。

 

 ……~~っ!

 

 ダメだ。言葉にできないや。

 それほど、私はトレーナーのことが好ましく思ってるって。証拠が生まれちゃう。

 

 

「す、好き……? 私が、トレーナーのことを……」

 

 

 疑問符を立てて、本当に自分の中に渦巻く気持ちがホントなのかを確かめてみるけど。

 

 

「……~~~~!!!!」

 

 

 1秒後には、ベッドにうずくまって尻尾を叩きまくる自分が出来上がってしまったことで、事実証明されてしまった。ていうか、このチョコをもらって喜んでいる地点でダメだ。

 むり。おさえられない。花びら1枚数える時間も無く認めちゃった。

 

 ……そうして数分の間、私は絶え間なくベッドの上で悶え続けた。

 

 何度も同じ問いをして、同じ答えが返ってくるのに、若干心地いい気分を感じながらも、私はこの恋心を抱きしめるようにうずくまったのだった。

 

 

 

 落ち着いて深呼吸を1回入れる。

 

 少し冷静になって、いやもちろん顔は熱いままだけどさ……。

 私はトレーナーの事をどうして好きになったのか考えてみる。

 

 あの所々ダメダメで、肝心な倫理観が欠けていて、子供みたいな性格のトレーナーのことがどうして好きになったのか……

 

 考えてみる。

 みる、けど。

 

 ………………

 …………

 ……

 

 

「全部好きっていうのは……違く……ないよね?」

 

 

 結論、トレーナーだから。

 

 待って、答えが出ちゃった。違うって、確かに全部が好きってことには間違い無いかもしれないけど、それじゃ私ダメな人が好きっていうとんでもない一面があるってことになっちゃう……!

 それは違う。流石に私は、そんなダメ人間全肯定みたいな女の子じゃないはず……!

 

 そう思ってもう一回考えてみる。

 

 今度はトレーナーの良いところを、ちゃんと考えたうえで好きになった理由に答えを出してみる。

 

 …………

 ……

 

 

「ま、まあ。偶にかっこいいところはある、よね」

 

 

 ホントに、偶にだけど。

 子供みたいな性格を抑えて、やるときはやるのだ私のトレーナーは。

 

 この前のインタビューだって、真剣に私のことを想ってくれてあんな台詞と堂々と言ってくれたのは記憶に新しい。

 ……その後に、勝手に何言ってるの、とかちょっと恥ずかしかったって言い合いになったけど。

 

 正直、私はあんな大勢の場で、私のことを考えてるって宣言してくれたのはすごくかっこよかったと思ったし、うれしいと思った。

 

 

「それに、私みたいなのをずっと支えてくれたのもあるし……」

 

 

 石ころだったはずの私を、あの日木の下で見つけてくれたのも好感ポイントだ。

 ていうか、そもそもあれが無きゃ、私はトレーナーと歩んでこなかったし、こんな幸せな気持ちを自覚することもなかったはずだから。

 …………まあやっぱり、トレーナーだから。こんな好きになったんだなぁって。

 

 

「あとは、そうだ」

 

 

 次に、もう一つ。理由を見つけた。

 というか、これが決定的だった。

 

 

「やっぱり、私の全部を認めて、受け止めてくれたとこが……好き、なのかな」

 

 

 私みたいな娘に、寄り添ってくれて、知ってくれて、そして全部を認めてくれた。

 そんなトレーナーをずっと見てきた。

 だから好きになった。

 

 時に、喧嘩したりして、他愛ない話もしたりして。

 私が真面目な時は、真面目に考えてくれたトレーナーを。

 

 

「…………大好き」

 

 

 改めてそう表現してみた。

 

 胸の上で抱きしめた枕が、締め付ける私の心臓を表してくれる。

 キュンと締まるこの気持ちが、こんなにも正直に心の隙間を埋めてくれる。

 

 心地良いと、ホントに少し前の自分なら要らない気持ちだと放っておいたはずの気持ちが。

 

 こんなにも、幸せだなんて思いもしなかった。

 

 

「……ずっとあったはずなのに。あはは……私ってば、レースバカなんだから」

 

 

 失笑しながら、机の上に置いたハートのチョコレートを見つめる私。

 

 レースバカ、なんてトレーナーによく言われたものだ。

 頑固者だとか、その他にも色々言われたし、実際自分を見直した上だとそんな評価に否定はできない。

 乙女には……ていうか子供っぽくない私の性格は、普通の人は引いて見る様なものだろうけど。

 

 でも、トレーナーは、そんな私を見てくれた。

 

 

「……うんっ」

 

 

 覚悟を決めたように、スッとベッドから松葉杖片手に立ち上がる。

 そうして、すぐ横のチョコが置いてある机の椅子に座って、私はそのチョコを両手で持ち上げた。

 

 

「だったら、私も」

 

 

 私も、見つめなおすべきだ。

 この気持ちに、正直になって。

 この幸せな『好き』って気持ちに、目を背けないで。

 

『俺は、お前がやりたいことを存分に楽しめてるなら、それで満足だ』

 

 いつか言ってくれた、いつも言ってくれた台詞を思い出す。

 それが、トレーナーにとって一番幸せになることだっていうなら。

 

 今度は私が、トレーナーに満足だって言わせたい。

 

 やりたいことを楽しいって言える私になって、トレーナーにそう伝えて。満面の笑みで満足だって、言わせてみたい。

 

 

 そしていつかこの気持ちを。

 

 

「ふぅ……覚悟してよトレーナー」

 

 

 この正直で大好きなトレーナーへの好意を。

 あの、羞恥心が消え去った彼に()()()()()、驚いた顔にさせてあげる。

 

 日頃、あれだけ羞恥心を覚えたり、からかわれたりしたんだもん。

 ちょっと意地悪だけど、私は私らしく強引に『頑固者』らしく、トレーナーの有無を言わせずぶつけてみたく()()()()()()

 

 だから、これは私がやりたい新しい事。

 

 私は正直に、私自身のやりたいを決めて。

 トレーナーがくれたハートのチョコレートを持ち上げて、それだけを見ながら。

 

 

「私の気持ち、すっごく溜めて。

 

 ――――思いっきり伝えてあげるんだからね♪」

 

 

 私は、こうして初めて。

 子供みたいに正直に、この好きって気持ちを口に出してみたのだった。

 

 

 

 

 

 

*1
アリなわけねぇだろ





ようやく、現在のウィングに追いついた感じがするね。
……まあこれでスタートラインみたいなもんだけど。今のウィング、コレをバカ正直にゾッコン宣言してるんだぜ……?(震え)

まあとりあえず、これにてウィングの恋心自覚ということで。ステップが進んだね♪

追憶編はあと1話でいったん区切り。
次も愛読よろしくお願いします(お辞儀)


ようやく恋心を自覚したウィングにヒャッホウな人評価ボタン
この上で羞恥心皆無なトレーナーとの歩みが気になる人用の感想ボタン

他ウマ娘との絡みもっと欲しい?

  • くれ
  • いらん
  • どうでもいいからイチャイチャ見せろ
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