ほのぼの日常空間に戻るぞ~
レース狂いっ娘に合わせるのは先が長い
なんか、ちょっと昔の話をしてた気がする。
(……?)
冬場の寒さがきつくなってきた12月のある日のこと。
いつものトレーニング御用達のタブレットを持ち、テイオーのサポートをしてるウィングの横顔を見ながら俺は何となくそう思った。
なんていうんだろうな……気が飛んでたとかそういうのじゃないんだがな。ホントに何となくだが、昔話染みたようなものを思い返していたような気が……?
「トレーナー、どうしたの?」
眉をひそめている所にふと、一つの声が差し込んだことで現実に思考が切り替わる。
そうだ、今は<アトリエ>の集団トレーニング中だったわ。
「ん~?」
目の前の少女が俺の様子を下から覗いて
俺のチーム、<アトリエ>の明るい娘top3に入る「メルトステイ」だ。
いつものようにパッチリと開かれた眼から分かる通り元気満タンなご様子だった。
……マジで元気だな。チムメン全員、トレーニング終わりだから後ろでぶっ倒れてんのに。
ふむ、明日メニュー調整するか。主に増やす方向で。
こんだけ元気余ってんならまだいけるだろコイツ(鬼)
「ん、あぁいや何でもねぇ。ちょっと気が抜けてただけだ」
「そう? なにか遠い目をしてた気がしたんだけどなぁ~」
「まあ、偶にはそういう時もあるだろ」
覗いてくる視線を避けながら、俺は余計な心配をさせない為にあやふやな言葉で誤魔化しを入れてみる。
別に体調が悪いとかそんなんじゃないんだがな。念のためだ。
そう? と納得したのか俺の話を聞いて去ろうとするメルト。
「あぁメルト、戻るついでに他の全員に伝えてくれ。今日は早めに解散してから、支度して俺の店で集合ってな」
背を向いてチームメンバーの元に戻ろうとする時。
思い出したように、俺は外してはいけない用事を去り際に伝えた。
それを聞いて振り返るメルト。
疑問符を浮かべた彼女は当然、俺にその理由を聞いてくる。
「いいけど……全員って、何かするの?」
「おう。チーム活動に慣れてきた頃合いだし、ここらで一旦チームメンバー全員の食生活を見直したくてな。最近何喰ってるかを一通り聞いておきてぇんだよ。
調整だなんだかんだは後で俺がやるから時間は取らせねぇ、ってのも追加で伝えてくれると助かる」
頭を掻きながら、俺はその理由を端的に話した。
トレーニングの一環でもないが、まあ体調管理や体つくりに関する用事だ。走るというスポーツをしている限り、重要な位置役を担うこの内容は流石に外せない。
チーム結成から早1ヶ月。
彼女たち、元々慣れ親しんだ『元』教官付きという関係にしろ、チームという団体となれば色々問題が起こりそうだから今まであえてこういう体に対する繊細な内容は流してきたが……どうやらその必要は無かったようで。
関係は円満。俺以外に対する不満が無い事からメンバー同士仲良くできてるのは遠目でもよく見えた。
だからそろそろ頃合いかと、俺は今この話を持ち掛けたのだった。
(……あ?)
のだが、おい。
メルトお前、何で若干俺を睨みながら顔赤くしてやがる?
あと、何でお前腹をさすってんだ。
そう思ったのも直後、すぐさま爆弾が俺目掛けて投げられた。
「…………私たちのお腹周りでも触るの?」
「触らねぇよアホかッ!!
お前らの腹をわざわざ精査するわけねぇだろ。あとご時世と俺の立場的にんな事してみろ、即刻ブタ箱にブチ込まれるっつぅの!」
食生活=体重とでも捉えたのか、頬を少し赤らめて身を引くメルト……に対して俺は大声で速攻否定の異を唱えた。マジ爆弾発言もいい加減にしろよ、お前ら俺を何だと思っていやがる……!
「でも、よく脚とか触るじゃん」
「アレはお前らの許可を取った上だし、メニュー表作成に必要だからやってんだよ。他意はねぇ」
「それはそれでダメだと思うけど……」
メルトが言ってるのは、普段行っている触察での経過観察の事だ。
直接脚に触れて(ついでにマッサージ)筋力やらなんやらを測定する行動が、コイツは何やら卑しいモノがあるんじゃないかと言ってるのだろう。
だがそこは俺。そんな卑しい考えなど微塵も無いことを明確に伝えてやった。
返せばそれは男としてどうかとジト目で見てくるメルトだが、俺も負けずにジト目で返す。
ざけんな、お前ら強くするための行動に卑しいだとかそんな思考があると思うなよ。
「むぅ……まあいいか。それじゃ戻るから。さっきのやつ伝えてからお店集合でいいんだよね?」
そんな男としての煩悩が欠如した俺をジト睨みしたメルトだったが、遂には諦めたようにため息をついて背を向けた。こういう話題に対して、俺に対するダメージを与えられないのを察したのだろう。
はは、ウィングもよく通った道だ。別に自慢げに言うことではないが。
「ああ頼んだ。あと腹も空かせとけってのも言っとけ。時間取る代わりに飯ぐらいは全員分作ってやる」
「いいの!?」
「おう。どうせ俺の店来るなら、何か作ってやらんとな」
「ホントに!? やった~! みんな~トレーナーがご飯作ってくれるって~!!」
「脚はっや」
ジト目で帰ろうとしたメルトの機嫌を少し回復させたろうかと、飯作ってやる宣言をしたところ大喜びで戻ってく腹ペコ少女1名。
末脚を発揮させてまで、爆速で戻って行ったところを遠目で見送ってから5秒ほどタブレットに目を通している隙に大勢で「わ~い!」という歓声が聞こえてきた。……どうやら腹ペコ少女が増えたらしい。
トレーニングで疲れてたのもあるだろうが……俺の飯好きだなぁアイツら。
チーム結成から1月というもの、たまーに俺が店で飯を作り続けているといつしか<アトリエ>の名物となってしまった俺の飯。
指をくわえながら物欲しそうにしているスぺ公の幻惑が見えるくらいには、彼女たちの好物になってしまったようで……。
ターフの中央ではそんなウッキウキの少女らが、早々に軽い足取りで部室へと向かう姿が見えた。
そんな光景を眺めていると、ふと横から上司の声が。
「……程々にしておきなさいよ」
「あ、はい。なんかすみません東条先輩」
「はぁ……」
通りすがりの東条先輩の忠告を受ける俺であった。
いやそんな神妙な顔をしなくても……あと眉にしわ寄せると老けますよ?(ガチ失言)
「厳しいねぇおハナさんは」
「ん、沖野先輩ですか」
いつもの飴棒を咥えて俺に声をかけてきたのは、一緒に東条先輩と行動してたらしい<スピカ>の沖野先輩だ。相も変わらず軽い笑みでなにより。
「おう、今日そっちの店は開いてるか?」
開口一番、俺の店が開店するかの確認をしてくる。
どうやら来店する気満々なご様子だ。
「開いてますよ。ただ、うちの面子も大勢くるんでテーブル席は埋まりそうですけど」
「いや開いてんなら十分だ、今日は俺一人だからな。カウンターで構わんよ」
「そっすか、それじゃ一人予約と……。あ、もちろん酒は出しませんからね? 未成年が大勢来る手前なんで」
「おう、了解だ店長」
そんじゃあな、とそんな確認と予約だけとって立ち去る沖野先輩。
流石、後輩Aに続く常連その2なだけあってスムーズに済んだ。
……ただ、今月でもう給料の4分の1くらい吹っ飛ぶ勢いで店に来てるはずなんだが、ホントに大丈夫なのかあの人は……?
やだぞ、また来店するたび皿洗いして帰ってく先輩の面倒見んの。
「…………一応、今日一言いっておくとして」
予定を一つ追加して、俺はタブレットのカレンダーに印をつける。
そして、タブレットの電源を落としてから。
「さて、テイオーの様子でも見に行くか」
俺はすぐ傍で、別のトレーニングをしているテイオーとウィングの元へ向かうのだった。
「おーい、ちゃんと頑張ってっかー?」
歩を進めながら俺は手を振って、芝に転がる少女2人に声をかける。
ぐでーっ、と大の字になって寝っ転がっているのがテイオー。女の子座りで俺が渡したトレーニング表を眺めているのがウィングだ。
2人とも休憩中だったようだ。
気を抜いている所に突然俺の声が聞こえたらしく、耳をピンッと反応させてから彼女らは振り向いた。
「あ、トレーナーだ」
「トレーナー! ねぇトレーナートレーナー!聞いてよ~アスウィーってばスパルタでさあ~!?」
「おぅ、どうどうテイオー。落ち着けもちつけ」
――と同時に、飛び上がって俺の胸元に抱き着いてくるテイオー。
コイツが根を上げるとはまあ珍しい。しかもトレーナー三段活用で有無を言わせない勢いだ。つかよく受け止めれたな俺。
てかちょ、コイツトレーニング終わりで汗でびしょびしょなんだが! おい待て抱き着くな、額を胸元に置くな服が蒸れるぅ!?
疲れて甘えたがってんのは分かるがせめてシャワーとか浴びてからにしてくれ! じゃねぇと俺の一張羅が犠牲になるだろうが!
「ボク疲れたよ~! アスウィー、ボクと併走する時怖いし!なんか笑いながら距離詰めてくるし!」
「いつもの事じゃねぇか」
「うっ……」
内心で早く離れろコイツ……、と言いながらではあるが。
テイオーが駄々こねて抱き着いている理由の一片を聞いてから、俺はいつもの事だと即答する。
それを受けて若干ダメージを受けたウィングがいるが自業自得だ。いつも言ってるもんな?お前その狂争癖で獰猛的に笑うの何とかしろってよ?
長年培ってきたレースでの経験上仕方ないかもしれんがな、今のテイオーにはお前が持つ本来の
併走ゆえ、実力を何とか抑えても、感情と表情で表に出してりゃ怯えるのも当然だ。
こればかりはコイツの経験値……いうなれば『気迫』ってもんが違うんだからよ。
「それ以上に疲れたの! だって今日、ほとんど休ませてくれなかったじゃん!」
「……あ」
「あ?」
抱き着きながら大きな声で言うテイオーその台詞に、俺はピクリと反応。
そして、細い目をして俺はすぐ傍の少女を見る。
……ほう、休憩ほぼ無しと。
テイオーの脚は見た目以上に大分繊細だ。そうじゃなくても、体を動かす運動という以上少なからず休憩は必須のはずだ。
そう、俺がよく言い聞かせてたはずだよなぁ?
なぁ? そこで目を明後日の方向に向けてるアストラルウィングさんよ?
「……おいウィング。俺、休憩は程良く取れって再三言ってるよな?」
「い、いやね? テイオーって、近いうちにレースあるでしょ……? だからその為に、そう追い込みとしてね?こう頑張ってもらおうかなぁって思ってさ……」
「…………」
「……ごめんね?」
「よろしい」
言い訳を述べるだけ述べる所をジト目で見続けたのが効いたのか、すぐさま謝罪の意を込めるウィング。
可愛く首を傾げても、手をアワアワさせてもダメだ。指摘するところはしっかり指摘しないといけねぇからな。
特にウィングに至っては、自分からテイオーを任せてほしいって言った身だ。ミスははっきりさせとくべきだろう。
……まあ気持ちは分かるがな。
お前が現役の頃はレース前の追い込みを掛けてたから、その感覚が残ってるってのはあるのだろう。こればかりは時間と経験がモノをいう問題だ。だから深くは追及しないでおいた。
「ねえトレーナー。アスウィーってどんなトレーニングしてたのさ。……今日ホントに休み無くてキツかったよ?」
ほぼ涙目で、俺に抱き着くテイオーが問いてくる。どうやら冗談じゃなくマジで疲れているようだ。
いや、どんなって……そりゃコイツの場合だからなぁ……。
「私? 私はもう、休み無しでずっとトレーニングの日々だったけど?」
懐かしめな遠い目をしていたら、口を開いたウィングがその答えを言い始めた。
――クッソ早口で。
「……ていうか
「
「うわぁ……」
爆速で現役時代の経験を語るウィングに、抱き着いてるテイオーはドン引いてた。それはもう、抱き着く場所を胸元から背中に変えるくらいには引いてた。てか怯えてるしコイツ。
おかけで手を回されてる首が苦しいです。はい。
てかおま、その激長台詞笑いながら言うのは普通にこえぇよ。ホラーだよ。戦闘狂、あるいはレース病だよマジで。俺は知ってるけど。
そう苦言を呈してやると、今度はウィングから細い目で見られる。
「えー、でもこんなのやらせてたのトレーナーじゃん。私が引かれるのって結構心外だよ?」
「……トレーナー?」
「テイオー、痛い目で俺を見るな。確かにアレを考えたのは俺だけどな、嬉々としてやってた実行犯はコイツだっての……!」
言い訳じゃねぇ。マジな文句だ。
ふざけんな。なんで俺が喜んでウィングを痛めつけてるドS人間判定されなきゃいけねぇんだ。
それに、アレはウィングだからできた芸当だっての。
常人が引くレベルの根性とソレを支える脚が無ければやってはいけないモノなんだ。
だからウィングよ。お前が引かれるのは割と残当*1なんだぞ?
「……ボク、アスウィーが強い理由少し分かった気がするよ」
背中に乗ってるから見えてはないが、恐らく遠い目で空を見つめるテイオーを幻視する。
そだなー。お前も
「あはは、まあ誰でもはできないけど……でも、頑張り続ければいつかできるようになるから。
出来るようになるまで、一緒にがんばろテイオー?」
「わ、わーい……」
棒読みで、嬉しくもなさそうな声を発する背中乗りっ
それに対し、追いついてくれるのを待ち遠しそうに微笑むレース狂いっ
想像した過酷が、あまりにも遠い光景だったのかテイオーが若干、細い声色だったのは言うまでも無かった。
がんばれテイオー。
かつてのウィングに付いて行けるようになるまで俺は応援するからよ。
「ねえ疲れた~お腹すいた~!」
「おっと、暴れんなテイオー」
「あはは、テイオーってばご乱心だ」
トレーニング終わり、ターフから部室までの帰り道。
両肩に少女一人分の重量が乗っている感覚……に加えて、頭髪を両手で抑えられる感覚を味わいながら俺とウィングはその道を歩いている。
なんでテイオーが歩いていないのかって?
――いやまあだってコイツ今、俺に肩車されてるから。
疲れた疲れたーって、歩きたがらねぇし背中から離れねぇしで、しょうがなく肩に乗せてやったのだ。コイツなら重くないし、汗でパーカー犠牲にならないし俺も丁度良かった。
因みになんか好評らしい。
やっぱクソガキたる所は時間が経っても消えないのか、子供らしさ満載な感性の様だ。俺は良いと思うがね。
「トレーナー、いつものアレ無いの?」
「アレ? って俺の氷砂糖か?」
「そうそれ! 甘いモノならなんでもいいからほしいんだよ~!」
「そんなか……いやまあ持ってるが」
んな口寂しいか……、と。
俺はポケットから氷砂糖が入ったドロップ缶を取り出そうとして……それをウィングに止められる。
何かと思って向き合ってみると、顔を横に振るウィング。
「ダメだよトレーナー。この後皆にご飯作ってあげるんでしょ? それまでお預け」
「え~!? アスウィーのケチンボー!」
「言われてんぞ」
「はぁ……テイオー? 間食は体に良くないんだから。体悪くするよ?」
「むぅ~……」
おかんかお前は。
母親みたいな台詞を吐いて、テイオーの間食を止めようとするウィングにそんな感想を抱いたのは俺だけじゃないだろう。
てか、最近マジでコイツおかん味が増してる。
テイオーが俺の担当になってから、あるいはトレーニングの世話を焼いてる内にだろうか? 子供のあやし方というか、そんな技術が増してる気がするんだよなぁ……。
「て、こらおいテイオー。ウィングに手ぇ出せないからって俺にやつ当たるな!髪の毛引っ張るな!叩くな!」
「むぅ~!」
頭上で不機嫌そうな唸りを上げているテイオー。
ポコポコッ、と叩かれる頭髪を気にしながら、俺はテイオーの太ももをタップする。でもやめねぇ。ダメだこいつやっぱまだクソガキだ。手癖が悪りぃ。
果たして、俺には何をしてもいいと思われているのだろうか?
それはそれで心を許されてる証拠で非常に温かみのある事だとは思うのだが……いかんせんこれでは家族の一幕ではないだろうか?
テイオーが子供で、ウィングが母親、んで俺がその父親という立場。
そんな、傍から見たら家族のようなやり取りが幻視できる。
「……ご苦労をかけまして」
「ホントだよ。お前が落ち着けてくれよコイツ。もう実質母親だろ?」
「母親……ふふっそうだね。私、これじゃトレーナーの母親だね」
「……おいなんだその笑みは」
まるで幸せそうに微笑むウィングを見て、俺は怪訝な目を向ける。
別に、と結局その言葉の答えを聞くことはできず受け流されてしまったが……まあ楽しそうだからいいか、と放っておくことにした。
母親ねぇ……コイツ俺の隣に一生いるつもりだろうしな。いつの間にかその枠に入ってきそうだ。
「まあ、良いけどよ」
「?」
「何でもねぇ。ほらテイオー、いつまでもいじけんな。今日の飯お前の好物多めにしてやるから」
「ホントに!? わ~い!トレーナー大好き!」
頭上で不機嫌極まる
そうすると素直に喜ぶテイオ―。ウィングはやれやれと肩をすくめている中、俺は今日の飯をどうするかと頭を悩ませた。
日が沈む夕日の中を3人、仲睦まじく進みながら。
今日も今日とて、他愛ないこんな日常を満喫したのだった。
やっぱ最近真面目回ばっか書いてたから、こういうの書くと筆が進むや。
イチャイチャが一番。これ最強。
ついでにまだ見てない人用に挿絵貼っとくわ。
ウィングの勝負服だぞ。
【挿絵表示】
久々のテイオー見れて嬉しい人用評価ボタン
家族ぐるみな光景をもっと見たい人用の感想ボタン
他ウマ娘との絡みもっと欲しい?
-
くれ
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いらん
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どうでもいいからイチャイチャ見せろ