トランセンドに脳を破壊されたんでサブとしてトラン回です
夜が更けた時間帯。
「さぁて、ゲームゲームとっ……」
いつもと変わらぬ日常をテイオーとウィングと一緒に過ごした『ウマ小屋』のトレーナーは、当たり前のようにトレーナー室に居座っていた。
……まあ、今やここは彼の家としてあるようなものだから、そこについてはこれ以上触れないでいいだろう。本当に今更な話だ。
跳ねた声色の独り言通り、トレーナーは今から深夜の
デスクに座ってすぐ傍のPCを起動。トレセン配布のPCではなく、私用のPCを使おうとする所はしっかり……というかホントにちゃっかりしている。普段はあんなに不真面目なくせに。
因みに余談だが、この
まさにその銘にふさわしい性格だろう。普段の奇行を眺めている担当やその他トレーナーが聞けば、納得するように首を縦に振るに違いない。
と、トレーナーに関する罵詈雑言はこの辺にして。現実の話に戻ろう。
ウッキウキな気分で周辺デバイスを取り出すトレーナー。
普段PC関連の店に寄ったり、バカでかモニターを12枚も並べるだけあるのか、デバイスも中々こだわったもので性能が良く値段が付くものが多い。
大体が白か黒の色合いながらも、しっかりとした作りや重厚感は素人目でも分かる程だ。
「えーと、待合の
スタンドマイクやイヤホンを付けて準備万端。
さてゲームの時間と意気込む前に、トレーナーは一つコミュニティーアプリを起動した。
普段はソロでのゲームが多い彼だが、今日に限ってはマルチでのお誘いがあったのだ。
そういう訳で、早速その人物たちがいるグループチャットを見つけたトレーナーであったが。
(1人だけ……? 早入りしすぎたか)
待合の場にまだ1人分の表示しかいないのを確認して疑問を浮かべる。
今日はトレーナーの彼を含めて3人での趣味活だ。後1人足りない。
残りの2人は、時間にルーズな人物ではない筈なんだが。
(まあ、入っとくか。後で来るだろ)
とはいえ、既に待ち時間は迫っている。
しょうがないからささっと、カーソルをUIの上に持ってきてワンクリック。VCにインする。
ポロンッ♪ と入室を知らせるSEが鳴ったと同時に、見知った男の声がした。
「どーもー」
「お、ウィントレさん。どもです」
画面の奥、イヤホンの向こう側から聞こえてくるのは彼が知り合ったあるトレーナーの声だ。
冴えない声。深夜帯の時間だからか緩い声色で挨拶を返すその声には張りが無かった。
一応、ウィングのトレーナーの方が仕事上先輩ではあるが、それを気にしないような、友人同士の軽い挨拶であった。
「お、アスちゃんのトレーナーじゃーん。なになにトレちゃん、今日の助っ人ってこの人の事だったのー?」
その間に割り込む、女性にしては低い声色。
こちらも先と同様に緩い声がイヤホン越しに聞こえてくる。
彼女の名前は「トランセンド」
サブカル好きで、ガジェット好きな、トレセンに学籍を置いているウマ娘である。
そしてその娘が「トレちゃん」と呼んでいる男こそ、その名の通りトランセンドのトレーナーだ。
「まあね。すみませんウィントレさん、今日急にトランとのゲームのお誘いしちゃって」
「気にすんな。俺も元々このMMORPG*1には手を付けてたからな」
「いやー、ウチもホントはトレちゃんと2人でするつもりだったんだけどねぇ」
「3人フルパ限定のID*2が実装ってなったからね。まあ、こうして珍しい面子でゲームできるんだからいいんじゃない?」
ゲームにおける専門用語を交えながら、軽い会話をする3人。
口を動かしながらマウスとキーボードを操作する流暢さには、幾度とない慣れを感じさせる。
「ん?」
と、ゲームを起動させる前にトレーナーは違和感に気づく。
何かといえば、コミュニティアプリに表示されているVC人数の数だ。
そういえば、トレーナーが入ったと同時になるSEの音が無かった。それに、表示人数も変わらず1人。彼を含めれば2人のまま。
だというのに、実際には3人の声がする。
「なあ、そっちVCの状況どうなってんだ? こっちの表示バグか知らんが、人数が2人分しかないんだが」
疑問をそのまま投じてみるトレーナー。
その返しは割と軽く、そしてすんごい惚けたものだった。
「あーそれね。ウチとトレちゃん、今同じ部屋でゲームしてるんよ」
「……あ? ってことはなんだ。もしかしてスタンドマイクにそっち2人で声通してんのかコレ」
「そそ。だから表記は1人だけ。実際にはなんも問題ないから大丈夫よん」
なるほど、と納得する
さりげなく、当たり前のように同室でイチャコラとゲームしてるぞ案件をぶつけてきてるのだ。……普通は驚け。夜に男女が一緒の部屋にいることを当たり前のように思うな。
しかもこんな深夜帯に寮生活の彼女がトレーナーと同室で居ると言うことは、わざわざ外泊許可を取ってまでの凶行である。
「ガジェット店見て回ったついででねー。寮に戻るのも面倒だったからそのままトレちゃん
「俺は寮に帰ってもあまり変わらないって思ったんだけど」
「いいじゃんよー、減るもんじゃないんだし。むしろ麗しい乙女が来てトレちゃん嬉しいでしょー? このこの~」
「ちょ、脇腹つつかないで……」
さらに聞けば、トレーナーの家に突撃してると言うではないか。
画面の向こう側では意地悪な笑みと共に、両手で脇腹をつつくトランとそのトレーナーが乳繰り合っている。
「楽しそうだなお前ら」
声越しではあるが。
砂糖も過剰だというくらいマシマシで口中ジャリジャリ、吐き出しそうな空気感が形成されているが、そこはこの
声色も跳ね上がっていて実に楽しそう、だとしか思っておらず微笑ましい笑みを浮かべるだけであった。
……ていうか、コイツもコイツで普段からウィングとテイオーで作ってる空気感が
前日の『ウマ小屋』でもあった話だが、アレを見たトレーナーが総じて羨まし気な視線を投げてくるのだ。しかも殺気という形で。
いい加減、自覚しなければタヒ傷者が出かねないだろう。
まあ、被害者はウィントレ本人だが。
さて、イチャコラは落ち着いてゲームの時間である。
「トレちゃーんウチのデバフ解除ついでにヒールお願い。アストレちゃんもヘイト稼いでちょー」
「了解。オラこいや獣風情がっ」
「獣風情って……。あぁトラン、ヒールヒールっと」
「ん~、ありがとトレちゃん。アストレちゃんこっち準備かんりょ。頃合いでスイッチねー、ウチがトドメ行くから」
「おう」
カチカチッ、というクリック音とコールの声が部屋に響く。
忙しなく動作する指と手。それに冷静に落ち着いたゲーム内の
ウィントレが
それぞれが決められてた
「うりゃトドメじゃ」
随分と軽い宣告。
ズガァンッ! という効果音と共に、モニターの画面には淡い光と共に消えゆくエネミー。
そして同時、ボス討伐のファンファーレが鳴り響く。
言わずもがな、勝利した瞬間だった。
「ふぃー、トレちゃん2人ともお疲れぃ」
「おう」
「トランお疲れさま。いい火力だったよ」
10数分における激闘を終え、集中を切ってから互いを称える。
ゲーム内、戦場から町中に戻って駄弁る3人はまるで歴戦の戦士の様だ。
「にしても、トレちゃんとは普段からゲームしてるから実力分かってるけど、アストレちゃんも中々上手いねぇ。スキル回しも手馴れてたし結構遊んでる感じ?」
「程々だけどな。普段は将棋とかチェスとかをメインにやってるから極めてる訳じゃない。つか、それ言ったらトラントレも中々のモンだろ」
「まあね~。トレちゃんにはいつも支えて貰ってますから。ありがたやー」
「トランと一緒にMMOする時は大体ヒーラーだからね。慣れっていうかなんていうか」
「うぇへへ」
デスクチェアの上で力を抜いてだらけるウィントレ。
因みに画面の向こう側では、トランセンドが隣に座るトレーナーを崇めるように両手を合わせているのを、苦笑しながらトレーナーが彼女の頭を撫でていた。
撫でるまでに
まさに自然な成り行きだった。物を言わす暇も与えない惚気だった。
いい加減、他のトレーナーがこの光景を見たら発狂しそうだ。主に嫉妬の念で。
「ん?」
ピンポーン、と。
その前にイヤホンの向こう側で救いの手……ならぬ救いの音が鳴った。
「あ、ウチが頼んだウー〇ーイーツだ」
「こんな深夜帯に何頼んでんだよ……」
どうやら、深夜の栄養補給がてら出前を頼んでいたらしい。
ウィントレが深夜の食事に対し「体に良くないぞ」と言いかけたが、言葉を飲み込む。
何せ、あっちにもちゃんとしたトレーナーが居るのだ。栄養管理も何もトラントレーナーの管轄だし、口出しをするのは余計なおせっかいというものだ。
なのでウィントレは代わりとして、現在時刻は12時を回っているはずなのに今も働いている出前の兄ちゃん(姉ちゃん?)に労いの言葉を心の中で唱えたのだった。いつもお疲れ様です。
「ま、丁度終わったとこだしな。どうする、一旦休憩にするか?」
「ウチは賛成~。小腹空いた~」
「それじゃ一旦休みで。トラン、出前取りに行っておいで」
「ほいほーい」
ゲームの時間は一段落ということで。
黒のチェアでくつろぐウィントレの耳に、多少の衣擦れ音とガタゴトとした物音が聞こえてくる。
どうやらトランセンドが出前を取りに行ったようだ。
残ったのはウィントレとトラントレの2人だけ。
「……時になんですけど」
「ん?」
だらけているウィントレの耳にトラントレのどこか神妙な声が入ってくる。
「ウィントレさんって、担当の娘とすごく距離近いですよね」
「ウィングと? まあ遠くは無いが。それがどうした?」
「いえその……そんな関係を築いてるウィントレさんにちょっと相談がありまして……」
「?」
力の抜けた声で言われ、ウィントレが首を傾げた。
彼からは見えないがトラントレは多少顔を赤くして頬をかいている。何やら気恥ずかしい相談の様だ。
「端的に言うと……最近トランが俺の事好きすぎるんじゃないかって感じてですね……」
「はあ。良い事じゃねぇか」
「確かに良い事ではあるんですけど」
別に悪い話じゃないだろと、当然の様に言葉を吐き捨てるウィントレ。
だが、対称にトラントレの方は割と深刻な声色だった。
「その、なんていうか。俺、そんな思考が芽生えたせいか、ちょっとトランとの距離感を掴みずらくなってきたんですよ」
「掴み……なんだって?」
「要は、友達としての距離感が分からなくなってきたってことです」
「あーなるほど?」
「例えば、どんな時に?」
「そうですね……あ、トランよく俺に膝枕してくれって要求してくるんですよ。で、速攻頭を乗せてくるわけですよ。その時とかが一番感じますね、あーこの娘俺の事好きすぎだろって」
「ほう」
「あと、つい先日にB級映画をトランと見に行ったんですけど」
「ああ」
「鑑賞している最中に、いきなりトランから恋人繋ぎされた時は流石にビックリしましたね。めちゃくちゃ恥ずかしかったし、俺もトランも顔赤くしてたんですよ。で、何でそんなことしたのか聞いたら「なんとなく」って返したんですよ? 流石に勘違いしそうになるって言うか……」
「なるほど」
「はい」
「…………なあ、俺の素朴な疑問なんだが」
「なんですか?」
「
「……まあ、自分もトランに頼まれたらしますね。恥ずかしいのはありますけど、別に躊躇もないですし」
「あー、とりあえず相談ってあれか。距離感が掴めないだっけ?」
「ええ」
「俺主観から結論を言うとだな……それ、全然友達の範疇だから気にしなくていいんじゃね? 正味、これくらいしか思いつく言葉無いんだが」
「むぅ……」
「……ついでに一つ言わせてくれ。お前、相談相手間違えてねぇか?」
「俺もそう思ってきました……。なんか俺とウィントレさんって似たところがあるっていうか」
「同じ趣味人たる故って奴か? 同族同士には抱えてる悩みが解決できないってホントなんだな」
以下、大人のお悩み相談会の会話である。
各自、色々ツッコミたいところがあると思うがどうか抑えてほしい。
膝枕は『恋人』とやるもんだろうがッ!とか、私生活でイチャつくなッ!だとか、距離感バグり散らかし過ぎだろうがッッ!! 等の文句は数多くあるだろうがホント、どうか抑えてほしい。
感性がぶっ壊れてはいるものの、彼らは至って大真面目なのだ。
お互い遠い目をしている中。
ふと、悩んでいる彼ら……というかトラントレの傍から横入りの声がする。
誰かと思えば、さっき出前を取りに行ってたトランセンドの声だった。
「トレちゃーん、ごめん財布どこ? ウチの手持ちじゃ足りなくてさ〜」
「ああ、私室の机に置いてるよ。なんだったら俺の財布から全部払っちゃっていいから」
「え、奢り!? いえーい、トレちゃん大好き〜♪」
言葉足らずでもこの以心伝心感。
あっさりとした会話に満面の笑みで喜ぶトランセンド。ついでに大好き宣言ときた。
こんな一幕ですら、砂糖を吐き出しそうな絵になってしまう。
物理的な距離感ならまだしも、会話のやり取りまでも距離感バグで尊みを生み出している。もう手遅れだろう。この2人はさっさと付き合っとけばいいのに。
何度も言うが、いい加減他のトレーナーがこの光景を見たら発狂しそうだ。
割と平然としている距離感バグトレーナー2人は、間違いなく刺される対象になるだろうが自業自得だ。避けたかったらさっさと担当との距離感を自覚したほうがいい。築いている関係の把握と、己の安全のために。
「……まあ、気の合う奴と一緒に居たいってんなら、今はそのままの関係でいいんじゃね? 別に友達として見れなくなったからってトランセンドと離れたいわけじゃないんだろ?」
「それはもちろん。トランとは永遠の友達枠……だとは思ってるんで」
「なら離さない様に傍で見守っとけよ。お互いにな」
「ん~、どしたのトレちゃん。なんか話してた?」
「……いや、何でもないよ」
相談内容に無理やり結論付けて、会話を終わらせるウィントレ。
画面の向こう、トラントレはどうしたのと表情を窺ってるトランセンドの頭を撫でていた。
一つ、ウィントレは一つあくびをして、頭を回す。
既に愛バであるアストラルウィングを人生の隣に置くことを決めている彼からすると、先の台詞は自分に向けても言える事でもあった。
(まあ、そんな心配しなくても大丈夫だろ)
と、ウィントレは軽く画面の向こうにいるだろう2人の事を考える。
とあるゲームを経由し知り合い、交友関係もそんなに深くない2人だが、遠目で見ている限りあの2人を分かつような確執は生まれないと、彼は確信している。
理由は単純。あれらと自分自身が似ているからだ。
正確には、ウィントレとウィングが。トラントレとトランセンドが互いに関係を築いている理由が似ているから。
どっちも『好きな人といたいから』もしくは『気の合う奴と一緒にいたいから』という理由が根底に存在するからである。
……単純かもしれないが、それだけで十分なのだ。
だから互いに離れないし、譲歩し、近づくことを許せる。
ある種の愛情、とも呼べる感情を向けうる相手に持ち続けている限り破局は有り得ない。
少なくとも、そういうモノを持って己の愛バと接しているウィントレはそう確信している。
故に、そんな自分たちと似ているトラントレたちは大丈夫だと、彼は安心しているのだ。
恐らく画面の向こうで微笑ましい光景を作ってるだろう2人の事を考えて、ウィントレは言葉を発する。
「こういうのってなんだっけか、
「ぶっ……!! ウィントレさん、それ結婚する時とかに使う言葉……!」
「お、アストレちゃん良いこと言うねぇ~、ウチとトレちゃんそんなラブラブに見える?」
「まあ、仲良くて良いなとは思うぞ。あれだ、新婚さんもびっくりするだろうってくらいにはな」
「…………へへっ、だってさートレちゃん」
「……あーうん。ありがとう……?」
そういう知識にまだまだ疎い彼が、少女漫画で見た言葉を調子に乗って面白半分で投げた結果がこれである。
……相変わらず、突拍子も無くバカでか爆弾を放り投げるウィントレ。
それをまともに食らったトランたちは、お互いに相手の表情も見れない事態に発展してしまう。
赤面してあちらこちらと視線を逸らすトラントレに、伊達眼鏡を外してニヤリと微笑むトランセンドがいる光景。
まるでラブコメめいた一コマが出来上がってしまったのであった。
おまけの一幕
ウィントレとのゲームが終わった後の事。
「トレちゃーん、ウチ今日泊まっていい?」
「え、いいけど。トラン終電は?まだ間に合うよ?」
「今から乗ろうとしたら走って汗だくになっちゃうって~。いいっしょー、ウチとトレちゃんの仲だしさ~?」
「うーん……ちゃんと外泊許可も出してるんだよね?」
「モチのローン。大丈夫よぃ」
「ならいいか。先に布団出しておくからシャワーでも浴びてきたら? ゲームして疲れたでしょ」
「おけー。先に貰っちゃうよん」
「着替えはどうする?」
「トレちゃんの上着借りるよー。下着は持ってきてるから」
「おー……って最初から泊まる気だったんじゃないか」
「あは、バレた?」
さらっとトレーナーの家にお泊りする気満々なトランセンドであった。
他ウマ娘との絡みもっと欲しい?
-
くれ
-
いらん
-
どうでもいいからイチャイチャ見せろ