一応、前編のつもり
前回のあらすじ……とまではならないが。まあその後の話といこう。
トレーニング終わり、沖野先輩と駄弁ってそろそろ解散するか、となった時の事だ。
「ああ、そうだ。お前さんに渡すもんがあってな」
「何です?」
「ほいよ、これなんだが……」
去り間際を引き留められ、急に何かを手渡される。
手触りはザラザラ、薄くペラペラとした何か。そうまるで紙のような……
「なんすかコレ、手紙?」
「おう。職員の■■からな」
「ああ、あの人……確かにあの人、度を越したアナログ派でしたね。だからわざわざ一報に手紙を……」
受け取り物の差出人は、俺も知る一職員からであった。
確か、学園の方でサポート課の教員をやっている人だ。偶に財務処理のお願いをされる関係ではあるが……俺主観だとあまり友好は深めって訳じゃない。
それなのに、俺宛の手紙を寄越すとは……何か緊急の頼み事でもあったのだろうか。
と、この時の俺はそう気軽に考えていた。
「大分古臭いとは俺も思うがよ。まあ、とにかくソレ渡したからな」
「どうも。後はこっちで処理しときます」
「おう、任せた」
そんな経緯で、今のデジタル時代に全く見合わない、封のちゃんとした手紙を受け取った俺であった。
そして夜。
<スピカ>の晩餐も終わり、店の戸締りをして、ウチの担当共を寮に送り返してさあ趣味時間だ。と意気込んでいた時である。
ふと、この時に手紙の存在を思い出し、俺は中身を開封したのだが……。
その内容が問題だった。
「【教員代行の願い】って……なんだこりゃ」
何やら、ただならぬ要件があったようで。
ご丁寧な文章に綴られた文字を読みながら、俺は開口一番大きく書かれたその文字に疑問を抱くのであった。
突然なんだけど。
えー私こと、現役引退生のアストラルウィングは皆から尊敬の目で見られています。ハイ。
いきなり何言い始めてるの? って変な人を見る目やめてね。私もこういうのあまり言いたくないんだから。説明のためだから仕方なくだよ。うん、仕方なく。
とにかく、私は身に余るような尊敬の念を押し付けられてるわけなんだけど。
……なんででしょうね? 私そんな目で見られようと意図してなかったんだけど、いつの間にかこんなことになっちゃったんだよね。
気ままに全力で走って、楽しんで、あー満足だー。ってレース人生を満喫してただけなんだけどさ。誰が言ったのか、私の事を『頑張り屋』って言い始めて止まらなくなったんだよ。
その結果……なのかな?
元々小心者の私があり得ない程強くなっていったのを美談化する人が増えて、なんか多くの娘に尊敬のまなざしを受けるようになっちゃったって訳。
トレーナー談だと、こういうのを『有名税』って言うらしいね。後に聞いた例えだけど。
……別にそういう視線が気になるってわけじゃないんだけど……どうもむず痒くて。
だって私、確かに昔は勝ちたいのもあって頑張ってたけどさ、根底にあったのはただレースを楽しみたいっていう一心だったから。
そんな気持ちで走ってきただけなのに、頑張ってた所を後輩ちゃんとかにただ尊敬されるってなったらどうも……ね?
だって私、ただ楽しく走りたいだけのレース廃人だったからさ(汗)
なんか、かっこいい理由があるのかって思われてると勘違いさせてるようで……たまーにギクシャクしちゃうってわけ。
『当然の流れだな。あんだけ戦績立てて、いざ満足気に引退ってなったんだ。経歴だろうが何だろうが、お前の事を好印象付けて美談化するのは当たり前だろ』
ふと、引退してから間もない頃のトレーナーとの会話を思い出す。
『いや分かるけどさぁ……こう、改めて後輩の指針になっちゃったってなるとどうも……』
『なんだ、柄じゃないってか?』
『それ。私、ただ走りたかっただけのウマ娘だよ? あそこまで頑張ってた理由がそれだけって、今更言うのもあれだしさぁ……』
相談事って言うかなんというか、他愛ない話の中でふと出した話題だった記憶はある。
備え付けのソファに隣同士で座って、肩枕してもらって甘えながらの会話だったはずだ。
『ねえ、何かアドバイス無い?』
『あ? アドバイスぅ?』
『うん。私、こういう尊敬されたりとか慣れてないからさ。いい感じにいなす方法何かないかなって』
『はあ……んなこと言われてもな』
顎に指を当てて、本気で考えてるトレーナーを横目で見てるのは……結構幸せな一幕だったりもしたけど、まあ今は置いといて。
トレーナーは私のそんな無茶難題に答えてくれた。といっても返答はすごく簡潔だったけど。
『別に、堂々としてりゃいいと思うがな』
『……堂々って、それでいいの?』
『いいんだよ。勘違いも何も、お前がここまで頑張ってきたのは周知の事実だろ?
お前はその理由がしょうもないモノって言うだろうが……。まあそれは置いて。
誰かの指針になるってのは、本質的にそいつの
尊敬も何もかもひっくるめて、向けられてる視線に対して胸張って堂々としてりゃ、そいつの為になるってもんだよ。なんせ、追いかける側はお前のそういう所を見てぇんだからな。
それに、お前は元々それだけの事をしたんだ。
そういう点から育て切った側としての願望を言うと、存分に胸張っててもらいたいもんではあるがな』
長々とアドバイスを語るトレーナーはすごく楽しそうで、嬉しそうだったのを覚えている。
私の頭を撫でて笑いかけてくるトレーナーを見て、思わず不意打ちで猛大にド赤面したのも……まだ覚えてる。
今思い出してもカッコいい言い切り方だなって思うし、好きになったのがこの人で良かったなってなる助言だったなぁ。
ふふっ、ホントに大好き♪
……んんっ、とにかくそんな助言もありきで、私は今も尊敬の視線に何とか順応出来てるの。
サポート課のとある教室、私のクラスは今日も今日とてにぎやかだ。
「でね~? あそこのお店がさ~」
「ふむふむ」
クラスメイトと他愛ない話をする昼休憩。
4人で固まったその集まりの中に、私も一人佇んでいた。
ふふん、今日も気になった集まりに乱入して、会話を楽しんでいる最中だ。
あれから、トレーナーのアドバイスを元に向けられた視線に堂々としてるうちに、私はいつの間にか尊敬できる人に加えて、関わりやすい先輩って雰囲気も付いたらしい。
だからこうして、会話の間に途中で挟まっても自然に混じれている。
元々、人と話すのが苦手って訳じゃないし、私も変わって他愛ない会話に花を咲かすのを楽しむようになったから。
まあ、ヘリオスとパーマと比べるほど陽なキャってわけじゃないんだけどね。
一通り、会話に混じれるくらいのコミュニケーションはできる自信あるんだよ、私。
「そういえばさ~」
と、集まりの1人が話題を切り出す。
私を含めた3人は当然その娘に顔を向けて次の言葉を待った。
なんだろ、さっきの続きなら何か新しいお店でもできたのかn
「今日午後の授業、いつもの先生じゃないらしいんだって」
「へぇ~珍しいね。何かあったの?」
「なんか一昨日から風邪に掛かっちゃったらしいよ? アタシも詳しくは知らないんだけど、職員室で噂が流れてきてね~」
……なんてタイムリーな話だろうか。
その話、丁度朝にトレーナー室で聞いたモノと同じじゃないですかー。あはは。
思わず笑みのまま表情を固めてしまう私。その様子が気になった、集まりの1人が私に問いかける。
「ねえねえウィング、そっちは何か知らない?」
「あ、え? さ、さあねぇ~? 誰が来るんだろうね~?」
「?」
音程の外れた返しをしてしまった私をどうか見逃してほしい。
だって知ってるんだもん。
全然。事情10割、もうバリバリ知ってる。
いつもの■■先生が一昨日から急病で寝込んでることも、代わりの先生が来る事も、そして
だって当の本人から聞いたんだから。
変な返しをしてしまったのもあってか、思いもよらず注目を浴びてしまう私。
まっずい。不審がられてるよこれ……!
「……もう一度聞くけど、知ってる?」
「……し、知らないよーって言ったら?」
もう、なんかタヒ刑宣告みたいな問いかけだった。
私が事情を知ってることを察してる感じだ。他の全員、ずっと私の事ジト見してるし。
……え、ちょっと待って。何そのワキワキした手の形は。何その意地悪そうな笑みは!?
「そうだねぇ……とりあえずウィングを全員でくすぐりの刑に掛けてから尋問かなぁ?」
「ゴメン知ってる。私知ってるから。とにかくニヤッて笑いながらくすぐる手にするのやめよ?
……分かった!わかった!白状するからその手近づけないで!?」
結局、私は迫りくる脅威に屈したのち、この後来る
そして当然の流れで。
計3人とも、乙女らしい黄色い悲鳴がクラス中に響いてしまうのであった。
「あー、てなわけで、病欠の先公に代わって任された
一応そこのアストラルウィングの元担当ってことになってる。まあ、短い間だがよろしくな」
短い挨拶をして、俺は気楽に教壇に立つ。
思えば、こうして大勢の前に教える者として立つのはトレーナーの役割以外では初めてだ。
少しの高揚感を感じながら、俺は授業で教える範囲の再確認を頭の中で整理する。
事情等はもう説明しなくていいだろう。先の台詞通りだ。
……ああいや、前言撤回。
経緯だけをつけ咥えて説明するとな。俺にこうして白羽の矢が向いてきたのはただの偶然だ。
ここはサポート課で、まあ教える内容が内容だからな。トレーナーについてだとか、レースについてだとかそういう知識があれば誰でもよかったんだよ。
それでも俺に矢が向いたのは……なんだ、日頃の行いが良くなかったんだろ。知らんけど。
結局、そんな経緯を通し、俺はこうして教壇に立つ羽目になったわけで。
……まあ仕事だからよ。ちゃんと業務を全うしているのである。
で、何だ? さっきから教室内がずっと静か何だg
「「「「~~~~~!!!!!」」」」
うるさ。
俺が教室の中に姿を見せた瞬間、空気の時間が止まったはずだが。挨拶したとたん、思い出したようにいきなり稼働し始めやがった。
きゃ~!じゃねぇよ。なんだ? これが俗にいう黄色い悲鳴って奴か? 悲鳴は悲鳴でしっかり耳に響くようで。
歓声を余所に、俺は授業の準備を始めようとする。が。
元気いっぱいで手を上げたウマ娘の1人を俺は見逃さなかった。どうやら何か質問があるらしい。
教員としてここに立っているからには見て見ぬふりなどできず、俺は元気なウマ娘に視線を返した。
「お、どうした?」
「ウィングとはどんな関係なんですか!?」
「いきなりド直球だなオイ」
聞いてみたらみたでドテンプレみたいな質問がツッコんできやがった。そりゃもうプロ野球選手もびっくりの剛速球具合で。
元気があるのは良いことだが、有り余って目がバッキバキなのはどうかと思うぞ。興奮してんのかお前。
いやまあ、少なからず好奇心はあると思うがな。
なんせいきなりクラスメイトの元トレーナーがやってきたんだ。質問の1つや2つ、当然あるだろうよ。
ただ内容がひと括りで集約され過ぎだ。どんな関係つっても一言では言えんだろ。
「どんな関係ねぇ……。質問に質問返すようで悪いが、逆にお前らが知ってる情報って何があるよ?」
一応、情報をまとめるためにクラス内全員に聞いてみると。
「愛しの元トレーナーって聞きました!」
「将来を約束した仲だって言うのも聞いてます!!」
「情報丸裸じゃねぇか。晒し過ぎだろ俺らの関係」
大声で返ってきた返答に俺は思わず頭を抱えた。
おいどうなってんだウィング。バレバレだぞ俺とお前の関係。さてはテメェ色々言いふらしたな?
てか知ってんなら質問の意味ねぇよな。ただの再確認じゃねぇかさっきの質問。
「…………」
……などとジト目でウィングの座る席に訴えてみるが、当の本人は机の上に顔面うつぶせのまま動いていない。反応すらなし。何があったってんだアイツに。
俺が教室に入った時からずっと体ビクビクさせてんだが。痙攣してるみたいに。
もしかしてあれか、これが授業参観の感覚って奴なのか? 親に授業受けてるところを見られるのが恥ずかしいっていうアレなのか?
「あ、ウィングはさっき皆でくすぐりの刑に処したから疲れてるだけだと思いますよ?」
「何されてんだお前」
「……クラスの皆から尋問されたの」
「ホントに何されてんだマジで」
少しの心配返せ。
グダってた理由が心的なモノじゃなくて肉体的なモノかよ。
弱弱しい呟きを吐くウィングとは反対に、クラスのウマ娘達は大盛り上がりだ。さっきからキャーキャー盛り上がってるわ。
「それでそれで! ウィングの言ってたことってホントなんですか!? 将来の約束とか!!」
流れるように、さっき元気いっぱいに手を上げたウマ娘が俺に問いかけてくる。
両目ともパッチリ大開きで今にも目ん玉が飛び出そうだ。
同時、教室内の全員から向けられる『好奇心』な視線の数々。各々、実に楽しそうである。
その視線に当てられたからか、はたまたうつぶせになってるウィングを見て悪戯心が湧いて出たのか。
俺は一つ、ニヤリと意地悪な笑みを浮かべて。
「ま、否定はしないとは言っておこう。
詳しくはそっちで寝てるウィングに聞いてみな。多分だが、色々と拍のついた経験談でも語ってくれると思うぞ?」
「え゛」
ウィングの座る席へと視線を向けてから、教室にいるウマ娘全員にそう答えた。
瞬間、キャー!などの俗にいう黄色い悲鳴とやらが教室の半分を埋めた。耳が痛い程の大歓声。いい加減、隣の教室から苦情が聞こえそうな音量であった。
そしてそんな中、ウィングに向けられるギラリッとした目がまた半分を占める。
まるで獲物を定めた獣のような視線がウィングへと殺到する。
等の本人は、うつぶせの身体を反射的に上げて、俺の台詞の意図を察したのか顔を青くしていた。この後自分がどんな目に合うのか想像したのかもしれない。
まあ、クラス内ほぼ半数から奇怪な視線向けられりゃ不安がるのは当然だろうが。
「と、トレーナーぁ!?」
「はは、いや悪い。ついな」
若干頬を赤く染めて抗議してくるウィングに俺は一つからかって苦笑する。
ははっ、悪戯心が働いたのはあるが、おかげで丁度いい会話の区切りはできただろ。
これで気兼ねなく授業に入れるってもんだ。
満足気に俺は教本を手に持ってから、黒板へと視線を向けて口を開く。
「そんじゃ、雑談も終わったことだし授業始めんぞー。全員教本開けー」
声掛けと同時に授業を開始する。
なお、授業中ウィングの睨めしい視線を受け続けたのは言うまでの無い事だった。
他ウマ娘との絡みもっと欲しい?
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くれ
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いらん
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どうでもいいからイチャイチャ見せろ