デビュー戦なり
ちょっと真面目ゾーン
長くなるから前編と後編になるよ
照る日差しがまぶしい。
快晴な空。初夏の始まりが担う気温が俺を包む。
「あいつら遅いな……何かトラブったか?」
体内時計で計った現在時刻は昼前の11時ほど。
俺はとある広場で2人を待っていた。
ただ、予定の集合時刻よりも少し遅いことに俺は多少、焦りと不安を感じている。
――今日は待ちに待ったテイオーのデビュー戦だ。
出走は昼過ぎの14時。レースでの枠番は4番、人気順だと1番を得た。
勝敗の予想としては、枠番と昨日見たテイオーのコンディションを含めて、テイオー側に有利なレースだと確信している。
そんなレースの前、俺たちは待ち合わせすることにしていた。
朝の地点では別行動。
予定としては、テイオーとウィングはコンディションの最終調整。そして俺は、一足先に会場のターフに向かい、情報収集と枠番の抽選をする。
俺の用事は順調に済ませることができた。
ジュニア級メイクデビュー・距離は2000m。芝の調子は良。気温26℃。湿度30%。降水確率10%。レース出走時の天候不良の可能性は無し。
そして事前に
そんな用事を済ませて集合場所に到着したまでは順調だったが、肝心の担当が遅刻している。
(テイオーが単独で遅刻するのはわかる。だが、ウィングと一緒にいて遅刻するってのはどういうことだ? 昔から俺と一緒のアイツが遅刻なんて
暑さとは関係のない汗が頬を伝う。
長年の信頼というかなんというか、ウィングの時間管理能力を信じ切ってる俺は疑問を感じざるを得なかった。
アイツの時間管理能力は、現役の頃、俺のサボりから生まれたボッチのトレーニングで鍛えられたものだ(誇るな)
走り込みや筋トレ、その他諸々のトレーニングを、俺が時間指定していたといえど一人で管理し実行してきたウィングの正確性はバカにできない。
伊達に理由なく、テイオーのトレーニングの目付け役など任せちゃいないのだ。あれができるのはその能力があるのも理由の一つなのだから。
そして、そのウィングが珍しく……いや、絶対に無いと言えるほど断言して遅刻をしている。
不安になるだろう。焦りもするだろう。何か
当たり前の思考に、心の動揺は俺を強く締め付けた。
と、同時にピコンッと懐から鳴る一つの機械音。
意識が今の焦りに向いていた俺に、その音は敏感に感じるのは当然で懐からすぐさま
メッセージには1件のみ。差出人はウィング。
内容は――
『ごめん、少し遅れる。トレーナーのことだし、多分焦ってるよね。
テイオーは大丈夫。怪我とかじゃないしコンディションにも……多分問題はないと思うから。
もう少しで、そっちに着くから待ってて』
俺は肩の力を抜いて近くにあったベンチに腰掛ける。
ふぅ……どうやら、俺の心配は杞憂だったらしい。
高速回転させた頭を覚ますために、ズボンのポケットから飴玉が入っているような缶を取り出す。中身? もちろん氷砂糖だが? 飴玉とか糖分が足りんわ。砂糖振りかけて出直してこい。
まあ、何がともあれこれでテイオーの心配は消えた。
唯一気になるのが、メッセでウィングが言い淀んだ『コンディション』だけだが……もし問題があるなら俺が何とかするしかあるまい。大丈夫だ。体の仕上がりと枠番を考えればレースではまだ有利の盤面なはず。
多分、きっと、大丈夫(自信あり)
あ? 待ち合わせの理由を教えろ?
勝負の前には飯を食ってエネルギー補給するのが常識だろ。今から早めの昼飯だ。
見ろよ、俺の左手にズッシリぶら下がってる弁当袋を。3段弁当だぜ。実に重量3kg。ここまでくればもう軽い筋トレだわ。
数分経って口に含んだ氷砂糖が解ける頃、待ち人は駆け足でやってきた。
「待たせてごめんトレーナー! 少し遅れた!」
「おぅ、そんな待ってないから安心しろ。それより汗拭け汗を」
直前まで走っていたのか額には汗がびっしょり浮かんでいる。ウィングの傍をついてきたテイオーも同じ状態だ。
タオルはあいにく持ってこなかったので、懐からハンカチを2つ取り出して手渡した。
「ほら、これで拭け」
「ありがと。明日には返すよ」
「おう。ほらテイオーも」
右手でハンカチを受け取ったウィングが汗を拭くのを見て、俺はテイオーにもハンカチを渡す。
「…………」
「テイオー?」
「――あ、うん。ありがとトレーナー。ハンカチ借りるね」
若干、反応の遅れがあったものの、テイオーは左手でハンカチを受け取った。
薄く浮かべる笑顔の内には、昨日の上機嫌はどこに行ったのかと思うくらい、俺にはテイオーがどうにも元気がないように見える。
その様子に、俺は内心で眼を細くした。
(こりゃぁ、何か
やはりウィングが懸念した通り、テイオーのコンディションに何か予定外の事態があったようだ。様子を見るに身体ではない、精神面の――恐らく『心』の方に問題があるか。
(レース出走までは3時間残っている。解決まではいかなくても解消まではなんとか行けるか……? ……いや、考えるのは後にしろ。俺は俺の――『トウカイテイオー』のトレーナーとしての最善を尽くすまでだ)
高速で思考を回転させ、俺なりの答えを出す。
決めたとなれば善は急げ。
俺はすぐさま問題解消ための行動に移ることにした。
ピッ、と。
ウィングだけに見える様に時を見計らい、右手の親指以外の4本をまっすぐに伸ばす。
これは、もしも不測の事態が起こった場合、テイオーに余計な心配をかけないように決めた『2人だけの話し合い』をする――いわゆる俺とウィングだけが分かるように作った、
「っ!」
それに気づいたウィングが小さい足取りで俺の隣に立つ。もちろんテイオーに変だと思われないよう、ごく自然に、普通に俺の隣にスルっと立った。
……何を聞かれるか予想がついているのか、ウィングの表情は少々強張っている。
どうやら当たりらしいな。と俺はテイオーが抱える何かに確信を得た。
『テイオーに悟られるわけにはいかない。ウィング。簡潔に、俺がいない間何があったか教えてくれ』
そして、小声で、テイオーに聞こえない程度にひっそりと、俺の一言から2人だけの話し合いを始めた。
『悟られたくないのは、テイオーに心配させたくないからでしょ?』
『元からそういう取り決めだろ』
そう茶化すウィングに俺は真顔で答える。
普段なら、ツッコミを入れるか茶化し返しをするかしていただろう。
だが今はそんな状況じゃない。
一つでも多く情報がいる。アイツに楽しく走ってもらうために、いらない枷を取り除く。
『……トレーナー、もしかして何とかしようとしてる?』
『最善は尽くすってだけ言っとくさ。……時間が長引けばそれだけテイオーの不信を買っちまう。理由はいい。実際に起こったことだけ言ってくれ』
あとは、俺がそうなった理由の仮説を立てる。と早口で伝えると、ウィングは安心したように固まっていた表情を少し緩める。
口が開く。
『……テイオーが
『止める時に言い合いになったってとこか。……ちなみに、お前主観ではどうだ? レースに影響を与えるくらいに、
吐き出すように語られた俺の知らない事情を話すウィングの顔は、どこか虚ろげだ。
だが事情は分かった。そこまで知れたらテイオーが抱える『心の鎖』にも予想が立てられる。
が、問題はここ。もしも影響を与えるほどの
それ次第で、俺の対応が変わるだろう。
『そう、だね……。うん。正直に言うと浅くはないと思う。自分が頑張るところを止められるのって、すごくこう……なんていうんだろう……』
『いや、そこまででいい。すまんウィング。少し重い話をさせた』
遮るようにその先の言葉を閉ざす。
その先の言葉はウィングに新しい『心の重し』を付ける可能性があるし、何より必要がなかったからだ。
努力をするなと言われた時の『怒り』と『不快』、それらの感情が制御なく浮き出るのは流石の俺でも想像がつく。
『ううん……大丈夫。私はテイオーのお目付け役だもん。これくらいの責任は背負いたい』
『――――!』
その言葉に、俺は不意を突かれ思わず隣の少女を見てしまった。
まっすぐ前を向いてテイオーを見るウィングの眼には、迷いなどない芝色の輝きがあった。
……ったく、言うようになりやがって。無気力なお前だった頃が懐かしく感じるよ。
まあ懐かしいんだけど。結構昔の話だし。
でも、コイツにだけに言わせておけねぇよなぁ……(ニチャァ)(暗黒微笑)
『そうか。……ならその責任、俺も背負わせてもらうからな』
『え……?』
その責任は本来、俺も背負うべきものだ。お前にだけに背負わせるほど俺は無責任じゃない。
テイオーの担当をすると共に決めたあの日から、俺とウィングは一蓮托生だ。絶対に一人で背負い込まないし、背負い込ませない。
――ということで、まずは一言。
テイオーにも聞こえるくらいに、こう叫ぶとしよう。
「ウィングー? 飲み物買ってきてくんねぇ!?」
トレーナーは朝7時起きで弁当を作ってた
あと3段弁当は量にもよるが相当重い。
次回、お悩み相談と決意
他ウマ娘との絡みもっと欲しい?
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くれ
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いらん
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どうでもいいからイチャイチャ見せろ