はい(疲労)
あれから休み時間にクラスメイトの皆から詰問され続けたアストラルウィングだよ。
なんでそんな目にあったかって? そんなのトレーナーのせいに決まってるじゃん。私をだしにして一人だけ注目の的から逃げてさ……。
仕返しに授業中、しっっかり背中をジト目で睨み続けたけど効果は期待できそうにない。だってトレーナー、そういうの気にするような性格じゃないし。
まあ、トレーナーについては明日にでも問い詰めるとして。
「あぁ……やっと終わってくれた……」
私は机の上で、今日何度目かのうつぶせ態勢を取った。
――ほんっと疲れた……もう。
正直、体のけだるさがすごい。ここ最近で一番疲労感を感じてる。
授業終わりのチャイムが鳴った瞬間に皆して寄ってたかって私の席に殺到してね、新手のゾンビ映画かと思ったよ。
聞いてくることはどれも同じ、私とトレーナーについての事ばっか。いやあんな振り方したら気になるのは当然だと思うし、私もできるだけ答えようとは思ってたけどさ。
それでも……もうちょっと遠慮はしてよ……。
そんな複数人で一気に質問されても全部聞き取れるわけないんだって。私は聖徳〇子じゃないんだよ?
「おつおつー。ってありゃ、ウィングもう満身創痍じゃん」
「んー、そりゃもうあれだけ大勢から押しかれられたらね~。……本気で窒息するかと思った」
「あははっ、ご苦労様」
「ん」
クラスメイトの一人、というか私の隣の席に座るウマ娘から声をかけられる。
あと因みに補足だけど、トランセンドじゃないよ? だて眼鏡もかけてないしね。
この
……は置いといて、横に座る彼女が教壇へ視線を向けてるのを見て、私も一緒に見る。
視線の先にいるのは、当たり前のように私のトレーナーだ。
「にしてもウィングのトレーナーってすごいねぇ。休憩時間、クラスの皆あの人に殺到してたのにささーって軽くいなしちゃうんだもん。一応様子見てたけど、3人くらい同時に質問に答えたりしてなかった?」
「あぁうん、普通にしてたね……」
口から出てくるのはトレーナーを褒める言葉。
私が四苦八苦している間、トレーナーもトレーナーで質問攻めにあっていたんだけど……。
やっぱりマルチタスクっていう能力が強いのか、私よりもずっと多くの娘たちを相手にしていなしていた。……羨ましい能力だと思う反面、ちょっと妬ましい。あんな能力あればちょっとは楽できただろうに。
……ああもう、思い出しただけで頭が痛くなってくる。
「……さっきの例え、聖徳太子の他にトレーナーも含めるの忘れてたかな……」
「聖徳……え?」
頬杖を突きながら独り言をつぶやく私に、困惑する友人。
実際どうなんだろうか。
一度に10人は聞き分けられるって言うのが偉人さんの伝説らしいけど、トレーナーは本気を出したら一体どれくらいの人を相手に出来るのかな。いつもモニター12枚くらい見てるし……12人くらい?
出来たら出来たで、それはまあドン引きするけど……。
ジト目で教壇にいるトレーナーを見ていると、トントンと隣から肩を叩かれる。
「ねえ、話に聞いてたのはあるけどさ。ウィングのトレーナーってやっぱり結構すごい人?」
ここ数ヶ月、散々問われた質問だった。もう何度目かすら数えてない。
いやまあ、事あるごとにトレーナーを話題にした話をする私も悪いには悪いんだけどさ……惚けじゃないよ? ホントだよ?
能力が優れているのは確かで、周りからも良い人だとか優秀だとか言われてるから、結局すごい人ではあるんだけど。
でもね……うん。
私は何度も、質問にこう返すのだ。
「うん? あーうん、そうだねすごい人だよすごい人(棒)」
「なんで気持ちがこもってないの?」
秒にして1に満たない返答だった。簡潔で棒読みだった。
気持ちがこもってない?
だってトレーナー優秀な分、人間性が終わってるからとしか……。口では言わないけどね。
隣の友人が頭の上に疑問を浮かべてるけど、まあうん。
「ほら座れ座れ。さて、今日の授業はこれで終わりなわけだが……ここで一つ、提案がある」
ほら来た。
質問攻めをしていたクラスメイト全員を着席させてから、開口一番何か意味深な切り出し方をするトレーナー。
教室内の視線がトレーナーに集中する。好気的な視線と訝し気な視線が混じっていることを私のトレーナーは分かっているだろうか。分かってるか絶対。そんな鈍くないし。
ただ、トレーナーは相も変わらずそんな目を気にすることなく。腕を組んで、ニヤケ面で楽しそうに。
その提案を放った。
「今日の放課後。俺のチーム<アトリア>を通しての『トレーナー体験会』を開こうと思ってな」
その一言で、教室の空気が一瞬にして止まった。
それはそうだ。今日初めてやってきたばかりの――それも教師でもないトレーナーがそんなこと一言を放ったのだから。
でもトレーナーは待たない。
言いたい事だけ先に行って、反応すら待たず意味不明な提案を告げる。
「人数制限は無し。詳細は現地で直接話すが……ここで簡単に言うと、数人でウチのチームメンバーのサポートを実体験してもらうことになるな。
ま、気まぐれで1日限りの『課外授業』だとでも思ってくれ。
因みに、お前達の任意しだいだが、誰でも参加は可能だから遠慮はいらねぇぞ」
話は終わり。
そんじゃ、集合場所は黒板に書いとくからな。遅れるなよー、などと。
去り際にそんな台詞を言って教室から出ていくトレーナー。
そして制止するクラスメイト。呆れかえる私。
「…………」
「はぁ……ホントに言いたいこと言って終わっちゃった」
頬杖を突きながら頭を抱えた私は周囲を見渡す。
もう……みんなして呆けてるじゃん。ワケワカラナイヨー‼って混乱が顔に出ちゃってるんだけど。
……いけない、思わずテイオー語になっちゃった。
そうして静かな時間が数秒過ぎ……
「「「「「ぅえええええ~~~~~~!?!?」」」」」
あ、やっと動き始めた。
野球の応援団かなってくらい大きな叫びが教室内を埋める。いい加減、隣の教室から苦情が来そうだ。……来たらトレーナーのせいって言おう。
あちらこちらで「どうしよう……!」とか「い、いいのかな……!?」なんて心配と興奮染みた声が多数ある中。
私は私で、頭を抱えてたらトントンと隣から肩を叩かれる。今日2回目だ。
誰かと思えば、もちろん隣席に座る私の友人で。
「……ねえウィング」
「なに」
「ウィングのトレーナーってさ、もしかしてすっごく
私はそんな問いに対して、当然肩をすくめていつもの反応を示すことになった。
「そうなの……! ウチのトレーナーってホントに色々おかしいんだよ……!!」
「気持ちこもり過ぎじゃない???」
気持ちがこもり過ぎてるのは……うん、気にしないで?こればかりは彼に近しい人じゃないと分からない感覚だと思うから。
場所は変わって放課後のターフ上。
随分と見慣れた走るウマ娘の姿と芝色だけど……今日はちょっと見慣れない光景がいくつかある。
「えーと、コレをこうして……」
一つは、普段来ない筈の……ていうかターフに用もないはずのウマ娘が10を超える人数くらいいる事。
二つは、そのウマ娘達がいつもターフで併走とかトレーニングをしてる娘たちと切磋琢磨してる事。
「こ、こうでどうかな?」
「ん~おけ、それでやってみるよ。それじゃ見ててねー」
「あ、うん」
「さっきの走りなんだけど、途中からなんか脚の動きが――」
「ああ、それはだな――」
「はぁ、はぁ……。どうだった!? 私の走り!」
「あ、えーと……メルト? やっぱりわざと出遅れで走り出そうとするのはどうかと……」
「? 無理だよ?だって私がしたい走り方だから!」
「いやだから……」
三つは、いつも以上にターフが騒がしい事だ。
あれやこれやと行きかう応対の数々。トレーナー志望の私のクラスメイト達が、必死に実体験を糧に色々と学んでいる。
あと、うん。メルトに関しては諦めてほしい。
アレはホントに、モノの見方によっては私よりも『頑固者』だからね。走り方の矯正はできないと思っていいよ。
と、それは置いといて。
「――で、トレーナー。これってただの気まぐれでやってみた感じ?」
「んぉ?」
私は、隣で氷砂糖を片手に弄んで口に含んだトレーナーにそんな問いをかけてみる。
物を含んで膨れた頬から、すごくとぼけた反応の声。ふふっ可愛い。
まあ、別に真剣な話ってわけじゃないんだけどね。気分屋な彼の事だし、こういう突発的に面白そうな事に付き合わされるのは私も慣れっこだから。
ただ、そこに何かの狙いがあるなら私も私で知ってはおきたいのだ。ただの好奇心として、ね?
トレーナーは口に含んだ氷砂糖を急かす様にバリボリ噛んで、飲み込んでから私の問いに答える。いつものように、楽観的に。
「んにゃ、どっちかって言うと頼まれごとの延長線って感じだな。あの教室の場で突発に思い付いたってわけじゃねぇよ。理事長とたづなさんにも事前に許可を貰っておいたしな。こんな大掛かりな事、俺の独断で出来ねぇし」
「ふぅん……ってことは、あの娘たちの為にわざわざ成長の機会を整えてあげたんだ?」
「おう。トレーナー職はまあ……年々人手が少ねぇからなぁ。ここらで若木に水を撒くのも、良い一手だろ?」
百聞は一見に如かず、
少しはにかんでトレーナーがそう言い切る。
つまり――トレーナーの言い分としてはこう。
体験でも何でもいいから、モノを教える立場に立たせることで私のクラスメイト達に経験を積んで欲しい。
そしてあわよくば、良いトレーナーになってほしい。というのが彼の考えのようだ。
彼の視線は私じゃなくて、今頑張っているあの
楽し気な視線は、今切磋琢磨している私のクラスメイトの未来を想像したのか。
温かい視線は、頑張っている子供を眺める事で癒されているのだろうか。
いつか実力を張り合うほどの強敵として――なんて、他愛ない事を考えてしまう。
うん、行動した狙いは分かった。でもまだ満足じゃない。聞きたいことはまだ半分だ。
だから私はもう一つ、分かってはいるはずの問いを投げてみる。
「打算ありなのは分かったけど……それだけ?」
「はっは、まさか。そんだけな訳ねぇだろ」
「知ってるよ。どうせそんな事だろうと思った」
短い返答だったけど、それが答えになってるから良しとする。
いつもと変わらず、楽しいって思ったことばかりをやってるトレーナーに、呆れたように嘆息を入れたら――
「ふふっ♪」
そう優しく、少しだけ笑う。
変わらないよね、本当に。
大人みたいな考えを持っているくせして、いざとなれば楽しいか楽しくないかだけで行動しちゃう思い切りの良さ。私もよく振り回された彼の性格は、3年前から何も変わってない。
トレーナーはいつまでも子供みたいで、それでいて少し大人だ。
「まあ、それがいいんだけど」
「?」
芝上で隣同士座る私とトレーナー。
普段はしようともしない距離を置こうとする態度に、私は彼が気を使ってくれていることを確信した。
持ちつ持たれつな距離。見た目は遠そうな距離だけど、どうしてだろうか。私には彼との距離はそこまで離れていないように感じた。
むしろ、私の事を想ってこうしているから、どっちかというと幸せな距離感って感じだ。
……まあ、私さっき教室ですっごくからかった扱いをしたのは全然許さないけどね♪
「……なんだ、さっきから笑顔になったり睨んだりしやがって。百面相か」
「いや別に~? これ終わった後トレーナー対する仕打ちをどうしようかなって考えてるだけだよ?」
「物騒だなおい!?」
「ふふっ♪」
含んだ笑いで誤魔化す私。
教室でからかった事を思い出し、顔を青くするトレーナー。
距離はあっても、言葉の投げ合いは止まらなかった。
いつものように会話を交わしたり、笑顔でからかったり茶化し合いを続ける私とトレーナー。
「……でた、ウィングのイチャイチャだ」
「先輩のイチャコラだ」
「惚けだ」
「あっま。口の中あっまいんだけど。ジャリジャリなんだけど」
「コーヒー欲しい。無理。尊タヒする」
「……体疼いてきた。ちょっと走ってくる」
「えちょ、キミ教える役でしょ!? 待って~!?」
「あぁもう……なんであの2人はあんな物理的距離があるくせに
なお、その様子を眺めていた少女たち約数10名は。
色々と頑張っている中、揃いも揃って顔を赤面させてたりしたのであった。
えっと……なんかごめんね? そっちはそっちで頑張って?
「ウィングって、確か来年で卒業でしょ? <アトリア>のメンバーって、これあと1年見せつけられるの?苦行かなにか?」
あ、うん。来年で卒業するけど。
その分、私トレーナーとのイチャつきを自重する気ないからさ。
だからもう一回、皆には先に謝っとくよ。……ゴメンね?
一説によれば、イチャコラは万人を幸せにする薬らしいね
なおイチャコラ振りまく当人たちはそんなの関係なしに薬をばら撒くとか
……あれ、てことはイチャコラ続けさせておけば万人どころか世界を救う可能性が微レ存……?
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他ウマ娘との絡みもっと欲しい?
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くれ
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いらん
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どうでもいいからイチャイチャ見せろ