トレセン学園の隠れた名店   作:[]REiDo

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ちょっと学園側の設定を捏造した


平和なお茶会ほど楽しいモンは無い

 

 ……ウィントレのあれこれが弄りつくされているのと同時刻。

 

 一方その頃、学生諸君にとっては放課後の開放される時間帯であった。

 

 学生の本分である勉強が羽休みとなり、各自各々が羽を伸ばして身も心も自由になることができる最高の時間。

 そんな時間に、青鹿毛の髪と翼の髪留めを揺らすアストラルウィングはなんとも軽い足取りでとある場所へと赴いていた。

 

 正確には遊びに来た、が正解か。

 

 左手はブラブラと、右手には一つ小さな箱が入ったビニール袋を持ちながらゆったりと歩く。

 そうして目的地の前に付いたウィングはもはや見慣れた、木造の重厚な扉の前に立った。視界の端には『生徒会室』というご丁寧な表札が貼ってある。

 まるで屋敷にあるような親子タイプの扉を左手で開けてから。

 

 

「やっほールドルフ、久しぶりに遊びに来たよ~」

「おや、ウィングか」

 

 

 ゆるりと、かつてのライバルに挨拶をするのであった。

 

 

 

 アストラルウィングとシンボリルドルフの関係を示すならそう……。

 元ライバルであり、そして今になっては互いにレースを走り抜けた大切な友人である。

 それ以上でも以下でもない関係柄だが、変にトゲも無く良好な友好関係を築いていると言えた。

 

 

「エアグルーヴも久しぶりだね、ブライアンも」

「……ん」

「ああ、ウィングも相変わらず変わりないようで安心したぞ」

 

 

 ついでに、しっかりというかなんというか。

 ルドルフとの関係も別に、生徒会室に住まう彼女達ともいい関係を築いていたのだった。

 軽くそっけない反応を見せるブライアンと、微笑んで歓迎するエアグルーヴの反応を見てウィングも笑みを浮かべる。

 

 なお、2人ともため口なのはウィング本人の要望だ。

 

 同じ生徒なのに硬い口調で接せられるのは慣れない、との理由で知り合ったものには全員そうお願いしているのである。

 いつも砕けた口調のトレーナーを相手にしているのがよっぽど響いているのか。それとも、現役の頃にかさんだ有名税に未だ体が慣れないのか……。

 尊敬と敬意。多人数から向けられるそんな感情が込められた敬語。それを向けられる側の感覚として、どうもむず痒いウィングはとにかく堅苦しい敬語をやめてほしい気持ちでいっぱいなのであった。

 

 

「すまないが先にソファに腰を掛けておいてくれ。エアグルーヴ、この書類を整理したら休憩といこう」

「分かりました会長」

 

 

 お言葉に甘えソファに座ったウィングは右手に持っていたビニール袋入りの箱をテーブルに置く。

 

 

「それは?」

「ささやかな手土産だよ。トレーナーがこっちに遊びに行くなら持ってけって」

「…………」

 

 

 置かれたモノに疑問を投げるルドルフ。

 それに対し、ウィングは問いを返しながら箱の中身を取り出そうと手を動かす。

 ついでに、ウマ耳をピクリと動かしたナリタブライアンの様子も見逃さなかった。彼女は既に『ウマ小屋』の常連だ、彼の作るものは基本美味しいというアンテナが反応したのかもしれない。

 

 様子を視界の端で捉えたウィングは少し微笑みながら、その箱を開いた。

 

 

「それは……シフォンケーキかい?」

「そそ、トレーナーってば趣味で作ってたら気が乗り過ぎて材料が余っちゃったって頭抱えてさ。だから、私に材料の処理がてらお土産渡して来いって頼まれたんだよ。あ、味は心配しないでいいよ。ちゃんと美味しく作ったらしいから」

「味の心配はしてないんだが……」

 

 

 見た目は黄色のスポンジケーキ。

 円形でシンプルながらも、柔らかすぎず固すぎずな見た目は遠目で見ていた彼女達にも分かった。それに加えて鼻に香る砂糖の甘い匂いとケーキの上に乗せられたミントのさわやかな香り、もはやそれだけでこの部屋にいる少女たちの食欲はそそられる。

 

 女の子はいつになってもスイーツというものには目が無いのであった。

 

 フッと、緩んだ笑みをしたルドルフが書類をトントンッと片付ける。

 そうして少し苦笑気味で、隣に立つエアグルーヴへと声をかける。

 

 

「エアグルーヴ、すまないが紅茶の準備を頼む。せっかく彼女が用意してくれたんだ、休憩に茶会でも開こう」

「はい。……おいブライアン。貴様も手伝え、客人の前だぞ!」

「チッ……」

 

「あ、私も手伝おうか?」

「ウィングは客人だろう……?気遣いには感謝する。しかし働かざるものは食うべからずだ、客人をもてなさない者にそのシフォンケーキを食べる権利などない。ほら分かったら貴様もサボってないでさっさと動け!」

「面倒な……」

 

 

 気だるげに紅茶を出す準備を始めるブライアンをジト目でこき使うエアグルーヴの絵。

 もはや見慣れた勢力図にウィングは、あははっと苦笑する。友人のルドルフを見れば同じように呆れているのが見えた。

 

 かくして放課後のひと時。

 放課後ティータイム、とも呼べるただのお茶会が始まったのであった。

 

 

「カイチョー! 遊びに来たよー!」

 

 

 ……若干1名も追加で。

 

 

 


 

 

 

 

「でねでね~? アスウィーってホントすごいんだよ。この前の併走でも追いつける気がしなくてさ~……」

「ふふ、ああ知っているとも。彼女の走りは全身全霊を持って見てきたのだから」

「もう2人ってば……」

 

 

 さて、テイオーも緊急参戦したお茶会であったが、急に来たからといって特にこれといったことも無く、全員平和に(なご)んでいた。

 

 ……というか、テイオーが急に生徒会室に遊びに来るのはもはや恒例行事のようなものだった。因みに呆れ顔でそう説明したルドルフに対して、ウィングは肩をすくめた。日頃近くにいてコミュニケーションを取ってる身としては、そんなテイオーの突飛な行動も()()()と思った感情表現だった。というか慣れてる。

 

 そんなウィングは現在、現役の頃の話を蒸し返され少々顔を赤くしているところだった。

 

 

「ねぇカイチョー、昔のアスウィーってどんな感じだったの?」

「ん? そうだな……私が一緒に戦った時だと、まさに猪突猛進といった印象だったかな。いつも休まずレースに出てばっかりだったからね」

「ちょっとルドルフ。否定はしないけど。けどさ、今更だけど私に対する印象ってそんなのだったの……??」

「ほう、興味深いですね。ウィングの現役の話ですか」

「エアグルーヴまで……もうっ」

 

 

 生徒会室を漂う紅茶のハーブと砂糖の甘い香りが会話を盛り上げる。会話の花を咲かせるのは甘味といったところだろうか。ウィングとルドルフは少し前の思い出を懐かしみ、テイオーとエアグルーヴは当人たちの話を興味深く聞いていた。

 ……なおブライアンは若干甘味に夢中で話をあまり聞いていなかった。

 

 

「おや、もう紅茶が冷めてしまったか」

 

 

 そうこうしてる内に、カップに残った紅茶は冷めてしまっていた。

 会話に興が乗り過ぎたか。ルドルフが壁時計を確認すると早1時間が経過していた。

 

 

「冬場だからね、熱いのもすぐ冷えちゃうよ。ていうかもう冬も大詰めかぁ……今年もあとちょっとで終わっちゃうや」

「アスウィー、すっごく細い眼してる」

「まあねぇ……私もあと1年で卒業だからさ」

 

 

 感傷深くもなるよ、とウィングが思い出したかのようにそう呟く。

 と、事情を知らなかったのかエアグルーヴが問いを投げる。

 

 

「ウィングは引退した身とは聞き及んでいるが、卒業まで視野に入れているのか?」

「ん、まあ視野にっていうか……予定かな。少なくとも来年の春には私学園を卒業するから」

「…………珍しいな」

「そう? 結構いると思うけど、私みたいな()

 

 

 疑問に答えながら、カップに残る冷めた紅茶を回すウィング。

 

 すました表情で言うが、割とそうではない。

 アスリートへの道……つまりトゥインクルシリーズへの道を選んだウマ娘は、基本的に学園の卒業が遅れがちだ。

 理由は多々あるが、最大の理由としてレース関連の道を長く進む点からある。

 

 トゥインクルシリーズよりさらに先あるレースの道。ドリームシリーズ。

 彼女達を支える者として、トレーナーへの道を選びサポート科で長く勉学を積む学生だっている。

 それにサポートと言ってもトレーナー職だけではない。蹄鉄の調整専門、勝負服の作成、ターフの整備その他諸々……。

 

 そう言った少女たちが、揃いも揃って学園には存在しているのだ。

 そしてトレセンはそんな夢を長くサポートする学園だ。故に、卒業までの猶予は大幅に設けてある。

 

 だからこそ、しっかり通常の卒業年――つまり高等部を最後に卒業を決めているウィングのような少女は意外といないのだ。

 それに、重賞レースを複数取っている彼女となれば、稀ともいえる。

 

 

「独立独歩。私も卒業すると初めて聞いたときは驚いたが、ウィングは自分で選んだ道だという。なら私たちはそれを応援するしかないだろう」

「……そうですね」

「そんな大げさな……。ただ卒業するだけなんだって」

 

 

 カチャンとカップ置いて凛々しい顔で言うルドルフに、ウィングは思わず苦笑せざるを得ない。彼女の考えとして、学園を卒業するのはいつか通る道でしかない。長く在籍した学園を去ることに悲しみの一つも沸かないのか、と問われれば即座に否と返すが……居場所を去ることに惜しみはするけど、応援までされるとどうも受け取り方が分からなかった。

 

 

「あーもう、辛気臭い話やめ! もうちょっと楽しい話しよ?」

「ほう? 例えば?」

「え? あ、あ~そうだね~。年末前の休みに何するとか?」

 

 

 場の空気を換気するため、楽しい話題へと強制的に移すウィング。あのままだと卒業してからの事だとか根掘り葉掘り聞かれるに違いない、と予想した故の言動だった。

 

(……一応、卒業するのに目的があるのは確かだけど。今は内緒にしとかないと)

 

 して、その心は?

 

(サプライズで暴露する方が皆に驚かれるし楽しそうだからね♪)

 

 ……なんともまあ、楽しみたがりな彼女らしい動機であった。

 はて、一体誰に似たのだろうか……というより、()()()()()のだろうか。

 

 

「ざっけんなぁぁぁ!!!」

「「「?」」」

 

 

 ふと遠くから聞こえた悲鳴を聞き取ったウィング達。

 当然、現在進行形で実験動物にされかけているウィングのトレーナーの事など(つゆ)知らず。疑問を抱いた一同であったが、せっかくの茶会を前にそんな小さい悲鳴はどうでもいい事であった。

 

 

 

 


 

 

 

 

「――と、私は年末の予定はこんな所かな」

「へぇ……やっぱ生徒会長だと色々大変なんだね」

「それなりには、かな。どちらかといえば<リギル>の練習の方が大変な気がするが」

 

 

 話は変わって、茶会の話題は年末の休みについてとなった。

 

 生徒会に籍を置いている3人は誰も彼も忙しそうだという。仕事に練習、その他諸々……の予定を共有するウィング達。

 手に持ったカップの紅茶は温かさを取り戻しており、それは茶会がまだまだ続くことを示していた。

 おかわりもう1杯、という奴である。

 

 

「練習で予定が埋まる、かぁ……もう久しく味わってない感覚だなぁ」

「ふふっ、そう昔話でもないだろうに」

「えぇ? だって引退してから1年だよ? この前もテイオーとの併走で鈍ってるの自覚しちゃってさ」

「……カイチョー。アスウィーの全力怖いんだよ? 後ろ見たらすっごい顔で笑いながら追いかけてくるんだもん」

 

 

 昔語り、今語り、ハーブの香る紅茶の匂いを肴にしながら盛り上がる会話。

 

 

「ウィングって、そんな怖いのか?」

「ブライアン!? いや、そんな怖くない……はずだけど」

「……ウィング。君が後ろから獰猛な笑みで差し迫る情景を想像してみてくれ。追いかけられてる側は、危急存亡(ききゅうそんぼう)な思いだと思うが?」

「…………そんなに怖い?」

 

「恐怖は感じるな」

「正直怖いよアスウィー」

「見たことは無いが……想像に難くない」

 

「そんなに怖い!?」

 

 

 急ないじられにウィングが悶絶する。

 確かに現役の頃……今もさほど変わらないが、走っている最中に高揚した時思わず笑みを浮かべてしまう癖は残っている。ウィングとて自覚している癖ではあるのだが……まさか身内にすら怖いと思われている、とカミングアウトされてしまいショックを受けた。

 

 ズーン……と気落ちするウィングに周りの反応は苦笑ばかり。

 

 ふてくされたのか残っていたシフォンケーキを手元のフォークで刺してから口いっぱいに頬張る。むきゅむきゅと動く頬は彼女のトレーナーが見ていたのであれば揶揄われること間違い無しだろう。

 

 

「あ!そうそうカイチョー! ボク達の休みの予定なんだけどさ~」

 

 

 その様子を見て苦笑していた一同の中で、テイオーがいきなり元気よくルドルフに話しかけた。

 まあ、そんなのはいつもの事だとばかりに、どうした? と冷静に問い返す生徒会長。

 

 ……ついでに、話の聞き耳を立てているウィングがピクリと反応する。

 

 

「あのね、ボクのトレーナーが温泉に連れてってくれることになってね」

「ほう? 旅行ということかな?」

「そうそう。年末にアスウィーとボクで行ってくるんだ~」

 

 

 尻尾を揺らして上機嫌に語るテイオーはどこかご満悦だ。

 遠足を楽しみにしてる子供……と言ったら確実に拗ねるだろうから、せめて修学旅行を楽しみにする娘といった表現にしておこう。

 

 

「ウィングも付いて行くのか?」

「んー、まあね。保護者兼っていうか、私も慰安旅行にっていうか。ある意味帰省旅行っていうか……

「?」

 

 

 糖分補給によりどんより目から回復したウィングがエアグルーヴの問いに返す。

 テイオーはカイチョーとの会話に夢中で、残った当人に事情を聞いてみたかったのか。

 

 

「テイオーも頑張ったからね。そのご褒美ってことで」

「ああ、なるほど……。となれば<アトリア>のメンバーはどうするんだ? 置いてくのか?」

「流石に大人数で旅行するわけにはいかないからねぇ……。でもトレーナーがその分の埋め合わせを彼女達と約束してるってさ。帰ってきたら、多分デートとかに連れ去られるんじゃないかな?」

 

 

 色っぽい話題にシフトチェンジすると、エアグルーヴが何とも言えない表情をする。

 

 

「で、デート……。あの人数をか……?」

「まあ、こればかりは私とテイオーを連れてきたいっていうトレーナー本人の要望だったから。その辺も分かって<アトリア>のメンバーと約束を取り付けたんだろうね。デートの約束」

 

 

 まあ、その分私も楽しんでくるけど♪ といやらしい笑みを浮かべるウィング。

 

 外泊許可を取って旅行に行くトレーナと担当の話はよく聞き及んでいるが……色気の話が無い真面目なチーム<リギル>に所属しているエアグルーヴは、少し難しい表情をした。

 何せチームのトレーナーは女性の東条トレーナ。故に男性に縁が無いことからか、デートという恋バナっぽい用語に少々戸惑いを見せてしまったのである。

 

 

「どうかした?」

「……いやテイオーと一緒に存分に羽を休めてくればいい、と思ってな」

「あはは、まあそのつもりだよ」

 

 

 そうして<アトリア>の男女事情(なお男女比)に疑問を覚えたエアグルーヴであったが、正直に言葉に出すことも無く話題はお流れとなった。

 

 隣では会話に花を咲かすテイオーとルドルフ。

 会話を余所に、残っているシフォンケーキを吟味するブライアン。

 

 三者三葉な茶会は夕日が下りるまで続き、それぞれが楽しむ日常となった。

 

 

 

 ――そうだ。言ってなかったが。

 

 ウィングとテイオーが向かう旅行先。つまりは宿泊先になるのだが。

 ウィングたっての要望、ということでその場所は――

 

 

 トレーナーの実家、ということが決まっている。

 

 

「ふふっ♪」

 

 

 トレーナーにとっては、確かに実家への帰省旅行で。

 ウィングにとっては、確かに思いを寄せる彼との慰安旅行――というだけではなく。

 

 ()()()

 ウィングが現役の頃。

 右足を故障したとある時期にも、()()()()()()()()旅行の再来となる。

 

 夕日が沈む中、テイオーにも負けず劣らずな笑みをウィングが浮かべる。

 何せ2年ぶりの顔出しだ。

 

 ご両親へのあいさつを待ち遠しく思いながら、彼女は心を躍らせるのだった。

 

 

 

 

 

 





てなわけで、次回から旅行編。

なお2年前の追憶編も同時進行で更新していくよ

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