トレセン学園の隠れた名店   作:[]REiDo

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出会い編の後編

ちょっと長いんで時間に余裕あるときに見ていただければと

あとブクマ500いってました。感謝なり



追憶 そして彼女は前に進む

 

 

 拝啓、親愛なるバカ親父と母さんへ。

 俺、最近クッソ面白いウマ娘を見つけました。

 今日からコイツと全力で遊んでいきたいと思います。

 

 ひやお。

 

 

 


 

 

 

 俺がその娘――アストラルウィングに興味を持ったのは、出会って間もなくといったところだった。

 

 まず前提として、ウマ娘ってのは、誰もが栄光っていう一番星に向かって走る生き物である。

 だというのに、彼女はまるで「一着なんて諦めた」なんて目をしていたこと。

 それが最初、彼女という存在に興味を引かれた原因だった。

 

 まあ、一番星とかの勝負心なんてのは俺に全く遠い話ではあるが。

 とにかく、興味を引かれるには十分すぎたのだよ。

 

 そこから日は立ち、その時間に比例して俺はどんどん彼女に興味を引かれていく。

 

 偶に独り言を言ったかと思えば、自分を卑下するような内容を吐いていたこと。

 一度だけ見ることができた模擬レースでは、結果が良くなかったためか自分に落胆する様子が見れたり。

 

 そしてなにより、その言葉と、行っている行動が()()()()()()ことが俺の興味と好奇心を増幅させていたのだ。

 

 

 

 

 

 ある日、いつもの気分任せで俺は自分から彼女に話しかけた。

 詳細は一つ前の話を読んでくれ。(他人任せ)

 

 結論を簡単に言うと、俺は彼女の脚質を知りたかった。

 いや、もっと話を大きくすると、彼女――アストラルウィングの『ウマ娘』としての能力を知りたかったのだ。

 

 理由? 俺は(肩書きは)トレーナーだぞ?スカウトする気があるからに決まってるだろ。

 

 コイツがどういう人間性についてかは、ここ数週間でよーく把握した。

 だが、ウマ娘としての能力面に関しては、数日ほど前に行われた模擬レースと日頃行われている教官とのトレーニングでしか確認が取れていなかったからな。

 だから行動に移した。それだけの話だ。

 

 担当にするなら相手の情報ぐらいなんだって要るだろ?

 

 ……まあ、正直なところで言うとスカウトしたいっていうのは、俺自身が持つ立場を利用したいがために過ぎないが。

 

 何せ寝る時間も惜しんで、苦労して取ったトレーナー資格だ。

 バカ親父にも『新しい趣味探しと思ってやってこい』って言われたくらいだし【トレーナー】というものがどれほど面白いものなのかを試してみたかった。趣味人たる故の行動なのだ。

 決して、決してだ。「はよ働け」というパワハラ上司からの催促を真に受けたとかではない。

 

 ああ、もちろんコイツに対する好奇心も尽きやしないが、本命は今さっき言ったとおりだ。

 

 

 ――だから、これは長い時間をかけた暇つぶし。

 

 

「アストラルウィング」

「お前は、その翼でどうしたい?」

「他の誰でもない。お前だけが持つその翼で、一体何をやってみたい?」

 

 

 俺は、その暇つぶしの先にあるものに期待をして。

 

 

「アストラルウィング。お前は、俺の暇つぶしに付いてくる気があるか?」

 

 

 目の前の彼女の意思を確認するかのような茶番めいた台詞で、俺の趣味探しに巻き込んだ。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 時は吹き飛びキングクリムゾンッ!!!

 

 紆余曲折色々あり、ウィングのデビュー戦まで話は進む。

 ああ、アイツの呼び方に関しては「言いやすい呼び方でいいよ」って言われたから下の名前で呼ぶようにした。

 いやあ、ここまで色々あったよ。

 

 効率的なトレーニング方法を模索するのにめっちゃ時間かけたし。(まだまだ改善の余地あり)

 孤児院で培った技術でウィングのメンタルケアも同時並行に進めてたし。

 

 他の趣味事があるからって、ウィングにトレーニングの顔出しは週3くらいにするって言ったら、めっちゃ怒って喧嘩になった。因みに、流石にこれだけは譲れなかった。俺の生き方ゆえに。

 まあその後、何とか言いくるめることに成功したからよかったよかった。(良いわけねぇだろ)

 

 

 いやーほんとここまで色々あったn

 

 あ? 御託はいいからデビュー戦の結果はよ言えって? 急かすなスレ民共。まあ言うけど。

 

 

 

 結果?

 

 負けたよ。

 

 

 

 詳細を言うなら、2000m 馬場良、ウィングは【逃げ】ての4着6バ身差。

 

 ご都合主義の物語じゃないんだ。俺みたいな新人のトレーナーが、序盤から輝かしい功績を立てられる保証なんてあるわけがない。

 いや、俺は俺なりに、んでウィングはウィングなりに全力を尽くしたさ。

 まあでも届かなかったってことで。それが結果だ。現実なんてこういうもんだろ。

 

 無論、デビュー戦のここまでのトレーニングで手を抜くことは俺もウィングも一切無かった。

 ……当たり前かもしれないがこれだけは言わせてくれ。技量が新人の俺が考えたトレーニングに、あいつは必死でついてきてくれたんだ。その努力を否定させたくない。

 

 だが、結果はこのザマ。

 俺はあいつの、ウィングの心の中に根付いている『鎖』を壊すことができなかった。

 

 正直、あれさえ何とかなっていれば身体能力的には勝ってもおかしくないレースだったはずだ。

 

 ウィングの心に絡みつく鎖の正体は単純で明解。

 

 

 「どこまで行っても平凡」という自分自身のやるせ無さ。

 ――いわゆる『こんな自分じゃ、勝てるわけがない』というある種の自虐癖に他ならない。

 

 

 無知の知という言葉がある。

 自分自身が全能でもなく、とんでもない無知であることを知って絶望するという言葉。

 

 あいつは、それを「平凡を知る」という形で体験したんだろう。

 流石に経緯までは知らないが。

 

 最強でもなければ、特段目新しい力も持たないただの凡人。

 主人公とはかけ離れた『脇役』であることをアイツは自分自身で理解している。

 

 ……スポーツとは、身体的な部分で競うところもあるが精神力で競うところも多々ある。

 

 負けたくないという気持ちが自分の限界を引き出したり。

 何か大きな目的が支えになって、最後の力を振り絞ることができる。

 

 そこが、アイツは異様に弱っていた。

 その内容はさっき言った通り『こんな自分じゃ、勝てるわけがない』という自信の無さになる。

 事実、今回のレースの最終直線。スタミナが残っていたにもかかわらず、逃げきれなかった。

 

 あれは『私じゃ勝てない』という思い込みが脚にブレーキを掛けることになった必然的な出来事だ。

 

 ……自分の担当にこういうことを言うのもなんだが、まあなんだ。

 

 ……本当に、くだらない悩みだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 場面はレース会場の控室。

 

 俺とウィングは、少々の反省会と話し合いを終えて別れたところだ。

 ウィングに「先に帰ってていいぞ」と告げて俺は今、控室の一室に立っている。

 

 

「ふう……」

 

 

 吐息を一つ。

 

 俺はある行動をするために、ウィングが待機室から出て行ったのをしっっかりと確認する。

 前方よーし。後方よーし。見られてる感じなーし。オールオッケー。

 ……あっここ室内か。前方も後方もなかったわ。

 

 まあいいか。おっし、もう慣れない我慢をする必要はないな。

 ということで。

 

 

 ――ゴガンッッ!!! と。

 

 

 俺は、自分が立つ真横にある鉄壁に、自分の拳を全力でぶち当てた。 

 

 

「――――……っ!!」

 

 

 脳の信号が、痛みという形で俺の全身に伝達する。

 

 いかんせん本気で殴りつけたため、クッソ痛いですはい。

 柔道有段らしく、体は鍛えているものの痛いものは痛いんだ。

 なんだったら拳から血が滲んてるよ。

 ああ、控室に汚れが付いちゃいけないから後で拭いておかないと。

 

 

「あぁくっそ……痛ってえ」

 

 

 FPSで沼プした際に台パンするより何倍も痛い。

 でもいい。その痛みに勝るほどの俺の中に渦巻く悔しさが、少しは霧散してくれる。

 

 ……俺は悔しかった。

 

 と言っても、別に勝負に負けて悔しかったとか、アイツに勝たせてやれなかったとかで悔しがっているわけではないのだ。なにせ、そんな思いは俺の中にはほとんどない。

 今の俺の中に渦巻く思いはただ一つ。

 

 アイツに、()()()()()()()()()()()

 

 その事実だけが、俺の心を激しく荒れさせる。

 

 だってよアイツ、レースが終わった後どんな様子だったと思うよ?

 

 

『やっぱり……ダメかぁ……』

 

 

 顔を下に向けて。

 目を伏せて。

 唇をかみしめて、泣きそうにしてんだ。

 

 そんな様子が、やり切ったように、楽しそうに見えるわけがねぇ。

 

 確かに、アイツを誘ったのは都合がよかったからだ。

 興味もあり、好奇心もあるアイツを誘ったのは、俺なりの気まぐれが働いたからだ。

 

 でもな。

 

 でも俺は、アイツと一緒に、この趣味探しを()()()()()と思ったんだ。

 

 それがどうだ。結果を見ればあの様子。最悪じゃねぇか。最低じゃねぇか。

 自分から趣味探しに誘っておいて、何を()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ……だからこの痛みは、俺自身への罰だ。

 

 そして痛みで冴えた頭が理解する。

 

 【トレーナー】の楽しみ方。

 親父が教えてくれたこの『趣味』の俺なりの楽しみ方を。

 

 

「……アイツを楽しませたい。つまらなさそうに、この趣味を味わわせたくない」

 

 

 決意とも呼べる独り言を、俺は口に出す。

 

 今回の経験ではっきりわかった。

 少なくともアストラルウィングは……レースに楽しみではなく、勝敗という『番付け』に執着している娘だ。

 敗北してしまえばこの『趣味』を楽しむようにはしてくれないだろう。

 

 だからこそ、俺がすべきことは――

 

 

「アイツを勝たせてレースが、この『趣味』が楽しいものだってことを思わせる、か。

はは、こりゃまた難易度が高い。今まで勝敗を度外視でゲームやらスポーツやら色々やってきた趣味人の俺が、今更()()()()()を重要視しろと。マジかよ」

 

 

 人生、何があるかわからんな、と。

 乾いた笑いで俺は失笑する。

 

 それと同時に、ブルリと震える俺の体。

 久しく感じる武者震い。

 

 

「親父の奴……マジでえらいもんを勧めてきやがって……。こんな難関でよ」

 

 

 そして俺は。

 

 

「前途多難で面白そうな『趣味』他にないなぁ……!」

 

 

 まるで新しい玩具を手にした気持ちで。

 新しい目的を見つけた高揚感で。

 

 それはもう楽しそうな、そして獰猛な笑みで笑った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 翌日、俺はとある河川敷で横になっていた。

 サボりではない。

 今日は一応平日だが、経理の処理は一昨日に終わらせているので業務自体は無いのだ。

 因みにウィングのトレーニングもレース後のため休みにしてある。

 

 晴天の空、心地よい日差し、吹き抜ける風は体の体温を程よく調節してくれる。

 

 うんうんこの感覚だよな。やっぱり寝るっていうのはいいもんだ。

 ()()()()()()()()()()()()()昔の俺じゃ睡眠なんて、ただ人が行う一種の行動原理なんて思っていたが、今じゃ趣味の一環に入るくらいにハマってる気がする。てか実際業務終わったら速攻あの木の上で寝てるし。

 

 睡眠は心の休憩と快楽を与えてくれる。最高だぜ睡眠。

 

 

 ……ま、それはそうとしてだ。

 

 

「ウィングの『鎖』か……だいぶ厄介だな。主に時期が時期だし」

 

 

 一人で思い(ふけ)る。

 考えるのは先日決意した新しい『趣味』の事。

 

 正直、子供の相談事とか悩みとかを聞き入れる能力が人一倍あるのは自覚している。そういうのは孤児院でよく鍛えられたからな。

 だがそれは結局孤児院での能力。

 

 未発達な孤児院のガキ相手なら優しく教えたりやらで何とかなるが、ウィングは現在中等部の2年生。

 成長した子供はそうはいかないのだ。

 

 いかんせん、一番の違いは会話の難度だな。中等部くらいだと成長期的に考えが深まる頃合いだから、孤児院みたいな小学幼稚な子供よりもっと慎重に心に入り込む必要がある。

 

 さらにウィングの場合は一世一代、【トゥインクルシリーズ】という大イベントの真っ最中だ。しくじったら後がない。

 ……いや難易度高けぇな、スペランカーくらい難易度高いぞ。

 なにせ残機が一機でしくじったら即終了の状況だ。……だとしたらスペランカーより難易度高いな。

 

 

「どうやってアイツの『鎖』を解こうかね……」

「……? 何のこと?」

 

 

 はあ、ホントにどうしようか……と腕を頭の後ろに置いて空を見る。

 ああ、流れる雲がきれいだなぁ。自由気ままでどこへでも流れていきそうだぁ……(現実逃避)

 

 …………ん?待て。

 なんか今頭の上で聞き慣れた声がしたような……

 

 

「ん。おはよトレーナー。今日はここにいたんだね」

「……ウィング? なんでここに?」

「ただの散歩だよ。気まぐれにここを通ったらトレーナーが居たから」

 

 

 制服姿のウィングがそこには立っていた。

 

 いや、散歩って……今朝の6時半くらいだぞ?

 今日は授業あるんだし、登校前に散歩っていうのはいかがなもんかと俺は思うが……

 

 

「…………」

「? なにトレーナー?私の事ずっと見てて」

 

 

 ……いや、うん。

 体勢を確認してみようか一回。

 

 俺は仰向けに寝っ転がっている。

 ウィングはその上に立っている。それもちょうど()()()()()()らへんに。

 さらに俺の寝っ転がっている場所は河川敷の下り坂。

 

 ということは? 視線を上げればその目が自動的にどこに向かうのかというと。

 

 

「その位置、俺の視線からだとスカートの中見えるぞ」

「踏んでもいいよね? 良いよねうん。踏むよ」

「悪いすまなかった。だから今すぐその降り上げた足を下ろしてくれ、じゃなきゃ俺の人生生命という大事なものが剥奪されかねn」

「わかった、下ろすよ」

「あぶねぇ!! 顔かすめたぞおい!!」

「下ろせって言うから。何か問題ある?」

「笑顔で首傾げんな!踏めって意味じゃねぇんだよ!! あーあっぶなぁ……俺顔潰れてねぇだろうな……」

 

 

 ズドンッという工業器具のような音が先ほどまであった顔の位置で鳴り響くのを確認して、思わず冷や汗をかいた俺であった。

 

 あれだな、ラッキースケベっていうのは基本的に自分に害しか与えねぇな。学んだわ。

 

 

 

 

 

 

 デリカシーの無さを散々説教させれても、なんとか生きてます俺。

 

 隣に居座るは俺の担当であるアストラルウィング。

 今日も体調は元気なご様子で。……やる気は不調にまで落ちてそうだが。

 

 

「トレーナーってさ」

「ん?」

 

 

 問われる。

 

 

「なんで私を誘ったの?」

 

 

 ……どこか遠くを見ながら、()()は俺に問う。

 その様子はなぜか、現実を直視したくない思春期の子供のようだった。

 

 

「言う必要、あるか?」

「トレーナーだって、()()()私の脚質とか聞いてきたでしょ。だから私もそういうのを聞く権利、あると思うけど」

「……まあ、そうだな」

 

 

 あの時。

 ウィングを俺の暇つぶしに引き込んだあの日の事だ。

 

 確かに、俺はコイツに一方的に質問をした。

 ならまあ……俺にそういうことを聞く権利はあるよな。

 うん、納得。

 

 一拍置いて、俺は口を開く。

 

 

「――俺はな、特段に尖ったものが好きなんだ」

 

 

 だから、話す義務も俺にあるということ。

 

 

「尖った、もの?」

「ああ。極端に甘いものが好きだし、極端な性格の人間も好きだ。酸いも悪いも、滅茶苦茶面白かったりするなら俺はなんだって好きになれる。ま、昔からそういう性分でな」

 

 

 よく舐める氷砂糖は、極端に甘いから好きになった。

 俺の知り合いは、性格が色々おかしい奴が多いが、そんな奴が面白くて好きだ。

 

 俺の生きる目的でもある様々な『趣味』は、全部面白いから好きだ。

 

 

「口では『自分の努力なんて……』とかお前はよく考える癖がある。違うか?」

「いきなり何を……。そんなの……無いって言ったら噓にはなるけど……」

「消沈するなよ、ここからが本題なんだから」

 

 

 顔を伏せるウィングに、俺は罪悪感を()()()()()()

 これも俺がどこか普通とはズレてる故か。いや、十中八九そうだな。

 こういう展開も()()()()()()()

 

 罪悪感など感じる暇もなく、どこか楽しんでいる自分がいるのだ。

 

 

「自分を認められない、自分じゃあの頂に届かない。当たり前の考えだ、なんて言うつもりはないぞ。それはお前の心の弱さからくるものだ」

「…………」

 

 

 さらに顔を伏せるウィング。その目尻には何か光るものがあり、今にも溢れそうだ。

 

 泣きそうになってるところ悪いが、今言った事はまだ本質ではない。

 

 コイツの。

 ウィングが持つ本当の強さは、この先にある。

 

 

「けどな。矛盾してんだよ」

「…………え?」

 

 

 目元に水滴を貯めたウィングが顔を上げ、俺に視線を向ける。

 俺も同時に、寝ている体を起こして、座るウィングに向き合った。

 

 

「『自分の努力なんて……』なんてお前は考える。けど実際にそう言った後、お前は教官が開催するトレーニングに率先して参加してんだ。誰よりも早く、誰よりも頑張って、誰よりも全力に、だ」

 

 

 思い出すのは一度だけ見た模擬レースが終わった後のあの日の光景。

 

 レースの結果に落胆し、肩が重い状態であっただろうその夕方。

 

『まだ、だめだ……こんな努力じゃ足りない……』

 

 滝のような汗をかいていた。

 遠目で見ても痙攣しかけているのが分かる状態の脚だった。

 アストラルウィングは、そんな脚で、震えながらも立っていた。

 

 輝かしいとはとても思えない、傷だらけの姿。

 だが、その傷だらけの姿から研がれたトケトゲしさは、俺の体に見えない衝撃を与えた。

 

 その時からだ。

 

 ――――俺がコイツを……アストラルウィングが欲しいと思い始めたのは。

 

 

「そんなの、当たり前じゃ……」

「当たり前なわけねぇだろ。挫折ってのは行動の抑制と同義だ。自分にはたどり着けないと理解しているから、その努力を惜しむ。それが普通の人間にある思考なんだよ」

 

 

 自分の実力じゃプロには届かない。

 そう思って、人はその道を諦める。もしくは努力を惜しんだまま突き進み痛い目を食らう。

 

 子供の頃に正義のヒーローに憧れる。

 けど、大人になるにつれてそんなものになるのは難しいから。そう考える思考が追い付き、なりたいと願っていた憧れを忘れる。

 

 誰もがそうだろ?

 

 けど、こいつは違う。

 

 

「『脇役でいることを甘んじて受け入れた』『主人公にはなれない』そう言っているお前はその後に、誰よりも頑張って努力をしようとする。これが当たり前? そんなわけないだろ。

 ――これはなウィング。お前だけが持つ心の強さなんだよ」

「――――っ!」

 

 

 これがアストラルウィングの本質だ。

 

 誰よりも自分では理想には届かないと理解していながら、誰よりも頑張り、努力し、理想に手を伸ばし続ける『矛盾の癖』で出来た存在。

 

 『絶対の自信』なんてものが無いくせに、自虐心を抱えながら前に進もうとする泥まみれの頑固者。

 

 そんなもの、俺の興味が湧かないわけないだろ?

 こんな普通じゃない、尖りまくった異常が、俺の好奇心を沸き立てない?そんなわけないだろ。

 

 だから欲しいと願う。

 周りがコイツの弱いところを否定しようとするのなら、俺はコイツの強いところを肯定する。

 

 

「まあこの際だから言っとくか」

 

 

 そうして、俺はこう締めくくる。きっと、漫画のような情熱的な話し方で。

 

 今のうちに言いたいことは全部言っとくべきだと考えたのだ。

 だから俺は、できるだけの感情を込めて、この好みの展開を締めくくるように一人の女の子に語りかける。

 

 

「ウィング。お前はな、諦めが異っっ常に悪い娘だ」

「――――っ」

 

「お前自身を認められない卑屈さ、認めながら頑張り続ける頑固さ、お前のそんな尖った性格に、俺は惹かれた」

「お前の持つ全部に俺は惹かれた」

「弱いところも許容できる。強いところも……まあお前はそういうのは自分じゃ認められないと思うが、そんな卑屈なところも正直言って俺好みだ。なんだったら好きだ」

 

「卑屈でいいじゃねぇか、そんなお前を俺は許すよ」

「頑固でいいじゃねぇか、お前のその頑張りがたとえ報われなかったとしても、俺がその軌跡を見ていてやるよ」

 

「だからよウィング。お前はお前のまま、ただがむしゃらに、子供のようにさ」

 

「俺と一緒に楽しいことをしようぜ?

 俺も全力を持って退屈はさせねぇからよ」

 

 

 俺はそう言い切って、目の前の女の子の瞳をじっと見る。

 その瞳は芝色で美しく、その奥に隠れていた夜のような闇も少しは薄れている……様に見えた。

 

 ふう、言い切った言い切った。

 いい汗かいた。ほどんど冷や汗だけど()

 こんだけ情熱的に慣れないことをするって意外と変な汗かくもんだな。

 

 ほら、ぽたぽたって感じで地面に生えている草にも水滴が落ちてるし……。

 …………ん? これ俺の汗じゃなくねぇか?

 

 これもしかしてウィングの――――

 

 

「……ぁ。うん、あれ、やだ。なんで、こんな。私、そんな自分を変えたかったのに……」

 

 

 その瞳からは、大粒の水滴がポトポトと流れ落ちている。

 その勢いは止まらない。ウィングが必死に両腕で目元を擦るも、どんどん流れる。

 

 瞳の奥から抑えていたものが溢れ出していた。

 

 

「そんなこと言われたら……私は……っ」

 

 

 諦めていたはずの願望が、願いがとめどなくこぼれ落ちる。

 

 一つ苦笑する。

 俺はその様子を微笑ましく眺め、ウィングを胸の中に引き寄せた。

 

 

「いいんだよ。在りたい自分でいればいい。『脇役』らしく泣きじゃくるだけ泣いたってんなら、あとは立ちあがればいいんだ。それが『()()()』の1歩目になるんだからよ」

 

 

 いきなり胸元に引き寄せられたことに、少しの戸惑いを見せるウィング。

 しかし、俺が言った言葉で()()が限界点に達したのだったのだろう。

 

 

「――そんな、の……っ……、ぅ……!!」

 

 

 胸元の衣服が引っ張られる。 

 

 彼女は静かに。『脇役』だからと押しとどめていたはずの、諦めてた願望を吐き出した。

 

 数か月も貯めこんだであろうその思いは、収まるまでに数十分を要した。

 俺はその間、手慣れた手つきで彼女の頭をそっと撫でる。

 

 不思議と苦はなかった。

 

 

 

 

 

 

 一か月後。

 

 未勝利戦 2000m 天候は晴れ。

 

 逃げに徹したウィングはその勝利を掴み取った。

 

 その走りは以前のような重い走りではなく、どこか大きな重りが外れて軽くなった小鳥のようで……

 

 ゴールインした後のウィングはその場で立ち止まり、空を眺めている。

 その表情は遠くからではよく見えなかったが。

 

 どこか、それが楽しそうにしているように感じ取れたのは、俺の気のせいではないと思う。

 

 

 

 さあ、ここからは脇役の下剋上だ。

 精々、楽しみながら成り上がっていこうじゃないか。

 

 

 

 

 





 誰よりも自分を認められないウィングは、そんな自分を認められるように頑張り続ける。
 それができる人間は限りなく少ないだろう。

 胸に手を当ててみて、自分はどうなのかを考えてみるのもいいのかもしれない。


10話記念ということで活動報告に色々書きました
活動報告直リンク
育成するほど暇がある人は見てみてね



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