マンハッタンカフェは動じない   作:むうん

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夏合宿・杜王町編
#001『トラサルディー』


 M県S市杜王町。町の花はフクジュソウ。名物は牛タン味噌漬け。少し古い人口統計では街の住人は47228人。古くは侍の避暑地として栄えた風光明媚なこの町は沿岸部に別荘地があることからわかるように、観光客が多く訪れる。

 

 近年では、日本中央トレセン学園――いわば超巨大スポーツ校の夏季合宿所が建設されたこともあって、一層の観光地化が進んでいた。

 

「カフェ~。おんぶしておくれよ~……私のガラスの足はもう限界だよ~……」

 

「……ウマ娘たるものがそんな調子でどうするんですか……」

 

 市街地中心部からやや西の山間にある道を赤いジャージ――件のスポーツ校のものに身を包んだ2人の少女が歩んでいた。彼女たちはウマ娘――人間とほぼ同じ姿かたちを持つが、動物めいた鋭敏な感覚を持つ耳と優れた身体機能を持ち、こと走力においては自然界の動物を含めても上位に位置する種族だ。日本中央トレセン学園は、そんなウマ娘のためのトレーニング施設なのである。

 

 この2人の少女。マンハッタンカフェ、そしてアグネスタキオンはトレセン学園の夏季合宿中。ロードワークに出たものの慣れない土地ということもあり、迷ってしまい途方に暮れているところでもあった。

 

「……はァ、だってねェ……トレーナー君が書類の提出ができてないとかで、1日こちらに来るのが遅れているんだよ。私の世話をするのがトレーナー君の役目だろ? ありえないことじゃあないか……おかげで久しぶりにミキサーで適当に挽いたものを摂取したが、慣れとは恐ろしい物で胃が受け付けなくてね」

 

「……いやそれは、タキオンさんが合宿直前に始末書を書くような真似をするからでしょう。アグネスデジタルさんを水色に発光させて……代わりに始末書を書くトレーナーさんの身になってください。というか、もしかして食事をとっていないんですか?」

 

「そういう事になるね……」

 

 これはまずい。タキオンは自分の身体回りの管理にややずぼらなところがあったが、ただでさえキツイ夏合宿練習を食事抜きで行っていたとは。もし倒れられでもすれば一大事だ。一刻も早くなにか食べさせなければならない。

 

(……といっても、この近くにあるのは……霊園ぐらいみたいですね。こんな繁華街から離れた場所にコンビニやレストランは――)

 

 カフェは途方に暮れた様子で周囲を見回した。せめて自販機の一つでもあれば……という思いからだったが……

 

「イタリア料理……トラサルディー?」

 

 道端にポツンと建てられた看板。そこには『イタリア料理トラサルディー ここ左折100M先』と書かれていた。

 

 

 

◆◆◆ マンハッタンカフェは動じない #001 『トラサルディー』 ◆◆◆

 

 

 

「……倒れられても私が困りますし、ここは何かおなかにものを入れましょう」

 

「トレーナー君の弁当がいいんだが……背に腹は代えられんか。かの文豪セルバンテスも腹が足を支えていると言っているし、ここはカフェと先人の言葉に従うとしよう」

 

 タキオンも内心、相当こたえているのかグズらずにカフェの言葉に従った。うう~とうめくタキオンを支えながら、カフェは霊園に続く道を上がっていく。

 

「……あった」

 

 洋風のこじんまりとした建物に『TRATTORIA』――イタリアの言葉で大衆向け食堂の意の文字。本当に霊園の隣で営業している。

 

「……営業中のようですし、入りましょう」

 

 こうして、カフェとタキオンは、トラサルディーの扉をくぐる。同時、からんからんとドアベルが鳴り来訪者の存在を知らせた。

 

 室内は外観よりもさらに小さく……いや、正直に狭いといったほうがいいだろう。テーブルは3人掛けのものが2つあるのみ。だが調度品の趣味はいい。どれもこれも海外のアンティーク……とまではいかないが、古く、温かみのある木製のもので揃えられている。

 

「ハイ! 少々お待ちくだサイ! すぐにお伺いしまス!」

 

 厨房から声。それ以外にもウマ娘の感覚は、新鮮なエシャロットやフェンネル、ルッコラなどの良い匂いとぐらぐらと煮える鍋の音を聞き取った。どうやら、仕込みを行っていた最中らしい。そしてすぐに、店の奥からいかにも人のよさそうな笑みを浮かべた外国人の男性シェフが顔を出した。

 

「Ecco, a lei お待たせしまシタ」

 

「すいません、連れがおなかをすかせてしまって……」

 

 カフェはその外国人シェフに申し訳なさそうに告げる。御誂え向けにタキオンのおなかの虫がぐぎゅう、と大きく鳴き声をあげた。

 

「Oh、これはいけない。おなかが減っていては何事にもうまく取り組めませんカラ。どうぞ。おすわりになってくだサイ」

 

 そういって外国人シェフは2人分の椅子を引き座るように促す。なるほど、小さな店だけあってこのシェフが一人で切り盛りしているのだろう。シェフとウェイターを兼ねるということで、このキャパシティが精いっぱいというところか。

 

「……君、この店のメニューはどこだい。はやくもってきてくれたまえよ」

 

 椅子に腰を下ろし、溶けるようにぐだあとテーブルにうつ伏せになりつつ話すタキオンはにこにこと笑みを浮かべるシェフにそう言葉をかけたが、シェフはもう慣れっこだ、という風に苦笑して。

 

「いえ、シニョリーナ……ウチには献立表(リスタ)はないンですヨ……」

 

「……というと?」

 

 カフェとタキオンがその言葉に困惑する。と、ふいにシェフはタキオンの手を取り手相を見るかのようにそれを観察した。

 

「な、何を――」

 

 さすがの2人も驚き、びくりと尻尾を振り上げたがシェフの次の言葉にはさらに驚かされることになった。

 

「フゥーム……あなた……慢性的な睡眠不足ですネ? それに疲れから胃腸がヨワってます……肩こりに眼精疲労。こういうのは研究職の人に多いのですが、若いシニョリーナには珍しいデス」

 

「どうしてそれを……!」

 

 アグネスタキオンが夜な夜な――時には二徹三徹してまで、怪しげな薬品研究に没頭しているのは学園関係者なら周知の事実。実際彼女のトレーナーとアグネスデジタル、ダイワスカーレットの3人以外はタキオンから受け取ったものを口にしたがらないし、よく一緒にいるマンハッタンカフェも細心の注意を払っている。

 

 だが、学園関係者以外が、一目掌を見ただけで『研究職』と言い当てるのはどうしたことか。

 

「私は両手を見れば肉体全てがワカるんデス。人を快適にする料理のために……中国の薬膳・漢方を習い、時にはアマゾン奥地の『薬使い師(メディシィンマン)』にも師事したこともありますし、アフリカの山野草も研究しましタ……その成果です」

 

 呆然と説明を聞く2人をしり目に、さらにタキオンの掌を観察するシェフ。

 

「そしてあなた……『脚』に特に問題がありマス。ウマ娘サンにとって『脚』は重要。このままではマズいですよネ?」

 

「…………ッ!」

 

「え……?」

 

 タキオンはその瞬間、背すじをたて目を見開いた。カフェにとっても、それは初耳である。タキオンは確かに体が強い方ではないが、『脚』に問題があるなどというのは、本当ならウマ娘にとっては死活問題だ。

 

「タキオンさん。足のお話は本当なんですか? ……タキオンさん?」

 

「………………」

 

 タキオンは口をキュッとつぐみ黙り込んでしまった。普段なら饒舌なあのタキオンが。なんなら、話されたくはなかったとばかりにシェフの方を恨めし気に見てすらいる。

 

「……申し訳ありません。ウマ娘にとって『脚』は『命』も同じ。お友達の前で軽々に喋るべきことではありませんでしたね……ですガ……大丈夫でス。」

 

「何が大丈夫である物か! 私の脚はいつ――」

 

 珍しく、タキオンは感情を爆発させた。そう、彼女の足はすでに限界を迎えていたのだ。既にその兆候を早くから察知していたタキオンは、一時はカフェに自身の夢を託そうとも思った。しかし、今のトレーナーに見いだされ――その狂気めいた瞳と情熱にほだされ、あきらめないと決意をした。

 

 しかし、現実は残酷だ。決意だけでは。根性や努力だけではどうしようもないこともある。タキオンの脚は、もはやレースに堪えるものではなくなりかけていた。それはカフェにも、トレーナーにも話していない、事実であった。

 

「『治り』マス」

 

 しかし、目の前の男は――自信をもってタキオンに言葉を投げかけた。

 

「……アペリティーヴォをお持ちしまシタ。いわゆる食前酒ですが……シニョリーナお二人は未成年ですので、ブドウジュースに蜂蜜やコショウ、シナモンなどのスパイスを加えたモノになります。それではワタシはアンティパストを作ってまいりますので……」

 

 ……それから。最初に出されたのはワイングラスに入った深い紫色をした液体であった。当然、ただのジュースではなくいくらか手がかけられたモノらしいが。

 

「ふぅン……別段、何の変哲もないジュースじゃあないか」

 

「……タキオンさん。もし気分を悪くしたのであればすいません。今からでも、断りを入れて他のお店を探しますか?」

 

 カフェは先ほどのシェフの言動をやや不快に思った。たしかに、両手を見ただけでタキオンの体の状態をぴたりと言い当てたのは驚異的だが……

 

 本当にタキオンが故障寸前というのなら、一刻も早く彼女のトレーナーと相談して対処――一時休養に専念するなり、学園に帰って高度な医療設備で見てもらうなりするのがいいはずだ。あの男は治る、と断言していたがただの食事療法だけでどうにかなるほど、ウマ娘の体は雑なつくりをしていない。

 

「いや、いいよ。私も彼のあの自信に逆に興味が出てきた。どうやればあんな大口が叩けるものか、とね……試してやろうじゃあないか。それに、もし治らなければお代はタダ、らしいからねェ……」

 

 あのシェフは……アペリティーヴォのブドウジュースを持って来る前に、言い放った。もし、このレストランを出るまでにタキオンの体に良い兆候が見られなければお代はタダでよいと。

 

 意固地になったタキオンは、どうしてもその自信を打ち砕いてやりたくなったらしい。そうして、タキオンはくい、とグラスを傾け何気なくジュースを口に含んだ。

 

「……あ、おいしい」

 

 それに続いてカフェもジュースに口をつける。ブドウの酸味に蜂蜜の甘味、そこにコショウのスパイシーさが絡んだ複雑な味だが、美味だ。思わずおいしいと口に出してしまう程に。香りと風味付けのシナモンもよいアクセントになっている。

 

「…………タキオンさん?」

 

 と、カフェはタキオンの様子がおかしい事に気が付いた。もう既に空になったグラスがかたんと軽い音を立ててテーブルに転がる。そして……

 

「ハァーッ……はぁーっ……なんだ……これは……私に、何を、飲ませた……?」

 

 タキオンの全身から湯気が立ち上る。すさまじい勢いで体温が上がり、発汗しているのだ。概して体温の高いウマ娘はレース後で体が温まっているときなどにこうした状態になることもあるが……

 

「タッ、タキオンさん……一体、これは……!? シェ、シェフ……タキオンさんになにをしたんですか……ッ!」

 

「か、体が……熱い……ッ!」

 

 ちょうど前菜を運んできたシェフに血相を変えて詰め寄るマンハッタンカフェ。しかしシェフは特段驚いた様子もなく、ただ冷静に言い放った。

 

「アペリティーヴォは食欲を増進させる効果があるのでス。今、そちらのシニョリーナの体は代謝……とくに胃腸の運動が活発になり、次の料理を食べる準備が整ったのデスヨ。彼女はおなかぺこぺことはいえ、胃腸の調子がよくなさそうでしたからネ」

 

 貴方にそうした効果がないのは、胃腸が健康だからです、と説明しつつシェフはタキオンに汗拭き用の濡れタオルを手渡し……それから、二人の前にアンティパスト――前菜の皿を置く。

 

「お待たせいたしました。ハモンセラーノとマクワウリのピンチョスです。ハモンセラーノは本場スペインの物を取り寄せ、マクワウリは地元の東方フルーツパーラーのものを使用しておりマス」

 

 四角い小皿に乗せられて提供されたのは、こんがりときつね色に揚げ焼かれた小さなトルタフリッタ(バゲット)をスライスしたものの上に、ハモンセラーノ――いわゆる生ハムを薄く巻かれたウリの切り身がつま楊枝で留められた物だ。

 

「ハァーッ……ハァーッ、も、もう限界だ……たべものを……」

 

「あ!」

 

 タキオンは、カフェが止める間もなくピンチョスを口に運ぶ。さく、というバゲットの砕ける香ばしさを感じる音。彼女はそのまま小さなピンチョスを味わうように咀嚼してこくり、と飲み込み。

 

「うンまァァァァ~~~~い! なんだねェ、キミィ! この味はァ!? 塩気の強い生ハムをほんの少しだけ甘みがあり、滑らかなマクワウリの味が調えているッ! そこに香ばしく、食べがいがあるバゲットが食欲をそそる!腹が減っているとはいえ、いくらでも食べられそうだッ!!!」

 

 いつも以上に騒がしく、早口で言うが早いがピンチョスをすさまじい勢いで平らげていくタキオン。カフェはその様子をちょっとヒイた眼で見つめて……それから自分の分を一口食べてみた。

 

「……ほんとだ。おいしい……」

 

 実際、タキオンの言う通りいくらでも食べられそうなほど軽く、まさしく前菜という風。食感も面白く、食べ飽きない工夫がされている。

 

「生ハムは古代ギリシア時代から作られ、『医聖』として知られるヒポクラテスも『消化にもよく、栄養源としても最適』として推奨するほどですカラ……もっというと、先ほどのアペリティーヴォ――フルーツジュースにスパイスを混ぜたものもローマ時代から飲まれていた物なのですヨ……!」

 

「それに、日本ではフルーツもしくは甘味に肉という組み合わせは一般的ではないですが、海外ではそれなりに存在する組み合わせなのデス」

 

「カフェ、私はおなかがすいているんだ。君は朝ごはんもちゃんと食べたんだろう? 少しくれないか? これは私の大好物なんだ。今大好物になった」

 

「嫌ですけど……」

 

 食べる様子をにこにこと笑みを浮かべてみていたシェフの蘊蓄を完全に無視しながらタキオンなどはカフェの分まで取って食べようとしていた。

 

「フフ……完全に胃腸の調子を取り戻したのでは? あなたは内臓にも負荷がかかっていましたカラ、いつも疲労感があったはずでス」

 

「そ……そう言われればッ! 体が軽いぞッ! まるで羽根か何かがついているみたいにッ! 天才かッ!? あのシェフはッ!」

 

 小皿を平らげただけだというのに……タキオンの体に慢性的にたまっていた疲労感が掻き消えた。タキオンはトレーニングでの疲労には気を配っていたが、研究となるとどうしてもソレに没頭してしまいそちら方面で体力を消耗していたのだ。

 

(…………この料理、一体? いえ、現状は一応、説明は理にかなっていますし、『おともだち』も料理や、あのシェフから悪意を感じ取ってはいないようです……でも、何かおかしい。一体……)

 

 おおー! と声を上げるタキオンと打って変わって、マンハッタンカフェはシェフへの疑念をより濃くした。

 

「さ、料理を続けましょうか……!」

 

 怪しんでいるうちにいつのまにやら、次の料理が運ばれてきていた。

 

「プリモ・ピアット――杜王町野菜たっぷりのミネストローネになりマス」

 

 プリモ・ピアット。日本語では主菜と訳されることもあるが、スープやサラダなどが供されることもある。今回もその例にたがわずミネストローネ……野菜入りのスープが二人の前に供された。

 

 見た目は、完全に普通のミネストローネである。トマトに玉ねぎ、じゃがいも、にんじん、ズッキーニ。アレンジと言えばベーコンではなく、ごろっと大きめのボロニア・ソーセージが入れられている程度か。それに削りたてのチーズが振りかけられており、立ち上る湯気が鼻腔を通るたび、これはおいしいぞ、と感覚に訴えかけてくるよう。

 

「ほう、なるほど野菜スープか……精査したわけではないが栄養バランスには問題なさそうだし、彩りもいい」

 

 当初とは違い、すっかり上機嫌になったタキオンは運ばれてくるなりそれを口に運ぶ。だがカフェはやはり疑念を払しょくしきれず、残ったブドウジュースを口に含みつつ少しだけ様子を見てみることにした。

 

「……うぅううううんまァアァアァァい!!!! トマトとチーズはイタリア料理に欠かせないファクターではあるがッ! それは逆説的にこの2つの食品の『相性のよさ』を証明しているッ! 例えるなら『カチオン-π相互作用における陽イオンとπ電子』ッ!」

 

「カチオ……なんですそれ?」

 

 やはり料理はすさまじくうまいらしく、スプーン一杯を口にするだけでテンションが上がり切ったタキオンはよくわからないことをわめきながら残りをすさまじい勢いで掻きこんでいった。

 

(……やっぱり私の思い過ごしで――)

 

 カフェは、そう考えて自分もスプーンでミネストローネを口にしようとした。その時だった。

 

「あ……ぐ……!?」

 

 タキオンが突然、弾かれたように立ち上がる。その顔には脂汗が浮かび……がくがくと震える自分の左脚の膝を抑えていた。

 

 ――異常だッ! タキオンに痛みはないようだが、まるで骨格自体が組み替えられているかのように肉が膨れ上がり皮の下で動き回っている!

 

「な、なんだァ―ッ!?」

 

「やっぱり……!」

 

 カフェは、立ち上がりシェフの方を見た。シェフはこの異常状況に表情を変えず、さも当然であるかのようにこの光景を見ている。

 

「……これまででそちらのシニョリーナの体を『回復させる』準備が整いました。ですカラ、まず最も重要な『骨』が組み代わっているのです。今回使用したパルメザンチーズはモッツァレッラやエダムといったほかのチーズの2倍の――」

 

「うるさいッ……タキオンさんに何をしたッ……!!!」

 

「ッ……!?」

 

 シェフはまるでごう、と暴風に晒されたような威圧感を覚えた。目の前の少女――マンハッタンカフェは、あきらかにただの少女ではない。スタンド使い……!? いや、違う……なにかがッ……!

 

「……厨房を改めさせてもらいますッ!」

 

 漆黒の猟犬めいて加速したカフェは、一瞬気圧されたシェフの脇をすり抜け、厨房へと入っていく。そこでは既にメインディッシュ――何らかの魚料理の準備が行われていたが、野菜にまぎれておかれていた『モノ』にカフェは目を見張った。

 

「メッシャアーッ!!!」

 

 まるでプチトマトに怪物が如き奇怪な腕と、顔がついた小さなそれは、ボウルの中でカフェを威嚇するように奇声をあげながら跳ね回った。間違いない、タキオンは『コレ』を食べさせられていたのだ。

 

「こ、こんなもの……食べさせられたらどうなるか――ハッ!」

 

 カフェの背後から強烈なプレッシャー。しまった、もう彼が。あのシェフが自分に追いついたのか。振り返りざまに、カフェは思った。間に合わない! やられる――!

 

「あのォー……困りますッ! いくら調理場が気になったからと言ってッ! ココに入ってこられるのはッ! 調理場は清潔が第一ですからねッ!」

 

 そこにいたのは、にっこりと笑みを浮かべたシェフの姿。

 

「な、なんですか……『コレ』はッ!」

 

 カフェは、てっきりシェフに悪意があり捕まる物とばかり思ったが、シェフは特段そういった様子を見せない。むしろ、困惑という風ではあったが、なんとなく、理由がわかっていそうにも見えた。

 

「Oh、貴方も見えるのですか? 『パール・ジャム』が!」

 

 そういうと、シェフはその奇怪な小さなトマトのバケモノめいたものをひとつつまみ、ひょいと自分の口の中に入れて咀嚼し、ニカッと笑った。

 

「あ……」

 

「時折『見える』お客サンがいらっしゃるンですが……あなたもそうなのですネ! しかし、私の『(スタンド)』とは少し違う気もしますガ」

 

 その時。

 

「カフェ~! このレストランは最高だッ! 足が! 調子が最高にいいんだッ!まだ精密に検査をしたわけではないが、私の脚の強度は確実にあがっているッ! これなら! これならたどり着けるかもしれない! すべてのウマ娘が熱望する果て! スピードの地平線の果てにッ!」

 

 溌溂とした声で半ばスキップしながら厨房に飛び込んできたのはアグネスタキオンだ。その脚はタイツの上からでもわかるほど、以前の彼女の物とは見違えて筋肉量が増え力強くなっている。とても故障寸前のウマ娘のものとは思えぬほどに。

 

「ええ~~~ッ!? じゃあ、これは……?」

 

「『パール・ジャム』は食べ物と混ぜて摂取することで病気やケガを治したりするんデス。私の願いはお客様に快適になって帰っていただくこと。料理人にとってそれ以上の幸せはありません」

 

「……本当にタキオンさんを治そうとしていたなんて……」

 

 こうして、健康になったタキオンはトレーナーの指導も相まって、完全に足のもろさを克服。後にマンハッタンカフェと共に競い合いつつ偉大な記録を成し遂げることになる。なお、トラサルディーの料理に感動したタキオンが、トレーナーに住み込み修行でトラサルディーの味を覚えるように無茶ぶりしたのは、また別のお話。

 

←To Be Continued?




スタンド名:パール・ジャム
本体:トニオ・トラサルディー

破壊力:E スピード:C 射程距離:B
持続力:A 精密動作性:E 成長性:C

料理にパール・ジャムそのものを混ぜることで食した者の病気やケガを治すスタンド。

スタンド(?)名:『おともだち』
本体:マンハッタンカフェ

破壊力:? スピード:A 射程距離:?
持続力:? 精密動作性:? 成長性:?

詳細不明。スタンドではない。
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