マンハッタンカフェは動じない   作:むうん

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#008『失せ物捜し』

 トレセン学園の校門近くに、異様な雰囲気を醸し出すテントがあった。『表はあっても占い』という看板が掲げられたそのテントの中で、水晶玉を覗き込みながらムムム~! と唸るのはマチカネフクキタル。占われている側であるサイレンススズカはその様子をどうしたらいいの、という風に見つめている。

 

「す、救いはないのですか~?」

 

 いつも以上に占いに時間をかけるその様子をおどおどしながら心配そうに、見つめるのは助手を務めているメイショウドトウだ。

 

「運気上昇☆幸福万来! 来ます! 来てます! 来させます!

 ふんにゃかハッピー! はんにゃかラッキー! センキューシラオキ!!! でましたッ!!!」

 

 と、ふいにフクキタルが水晶玉を覗き込むのをやめ、かわりにサイレンススズカのエメラルド色の美しい瞳を覗き込む。

 

「スズカさんッ!!!今日のあなたの運勢は末吉ですッ!!!

 ラッキーカラーはグリーン! ラッキーアイテムはトレーニングシューズッ!」

 

「え、ええ……わかったわ。ありがとうフクキタル……」

 

 なんとも微妙というか、どう反応したらいいのかわからない結果が出てしまった。スズカはそもそも、何か困っているとか悩み事があるというわけでもなくテントの前を横切ったところ、ばったりフクキタルと出くわし、たまにはスズカさんも占ってみませんか!?と誘われ断り切れずに入ってしまっただけなのだが……

 

「で・す・が!」

 

 昼食前の休み時間に少し走りたいしもういいかな……と席を立ちかけたスズカを押しとどめるように、フクキタルが声を掛ける。

 

「スズカさんのご友人に不幸が降りかかる……そういう結果が出ています。

具体的に誰とはわかりませんが……注意してあげてください!」

 

「す、救いはないのですか~!?」

 

 フクキタルの占い結果に、怯えたように涙目になるドトウ。

 

「そのご友人を救うには……スズカさんッ! あなたがキーになりますッ!

 あなたのラッキーを、困っている人に分けてあげてくださいねッ!」

 

 グッ!とダブルサムズアップで笑顔を浮かべるフクキタル。

 

「ラッキーと言っても末吉なのだけど……」

 

 こうしてスズカは、困惑しながら昼食前の軽いランニングに出かけるのだった。

 

「いやあ、占いで人の好いご縁や開運の助言をした後は、気持ちがいいですね~!」

 

 フクキタルもスズカを見送り、テントを片付ける。ドトウはオペラオーと約束があるそうなので一旦別れて昼食を取りに行くフクキタル。今日の午後は、トレーニングはお休みだ。新しい開運グッズを見に行くか……それとも神社に参拝して厄を落とし、開運パワーを授けてもらうのも良い……そんなことを考えながらカフェテリアを訪れたのだが……

 

「こら~! スペェ―ッ!」

 

「わあああ~っ!!! 私じゃないですよ~~~っ!!!!」

 

 カフェテリア前のスペースで、学園一の破天荒ウマ娘、立てば芍薬、座れば牡丹、一度歩き出せば核弾頭の異名をほしいままにするゴールドシップが変な乗り物(ゴルシちゃん号)にのってスペシャルウィークを追いかけていた。

 

「そ、そこどいてくださーい!!!! わあああ~っ!!!!」

 

「スペーーーッ!!! ウワッ! ギャーッ!!!!!」

 

「ウギャアーーーーーーーッ!!!!!」

 

 スペシャルウィークはゴルシから逃げるのに集中していたせいか、フクキタルを巻き込んでクラッシュ。そこにゴルシもゴルシちゃん号ごと突っ込んで大クラッシュし、一時辺りは騒然となった。

 

「あのたわけどもは何をしてるんだ……」

 

 その後、カフェテリアで昼食をとっていた生徒会副会長エアグルーヴに見つかり大目玉を喰らった3人はとぼとぼと生徒会室から退出する。もはや昼休みはほとんど残っていない。

 

「ど、どうして私まで……およよ~~~」

 

「すみません……」

 

 完全にとばっちりを受けたフクキタルに、スペシャルウィークは申し訳なさそうに頭を下げる。さすがのゴルシもなんかその……ごめん……とそれに続いた。

 

「お二人はどうしてあんなことを?」

 

 さすがにムスッとした表情を作りながら二人に問いただすフクキタル。

 

「よくぞ聞いてくれましたッ! スペが~! スペが私のタピオカミルクオーレを勝手に飲んだんだよォ~ッ!!! タピオカミルクオーレ早食い協会会長としてもう生きていけないよ~~~」

 

「飲んでませんよゴールドシップさーん!!! それにタピオカミルクオーレ早食い協会ってなんですか! 私も入りた……じゃなくて、犯人は私じゃないですよ!!!」

 

「いいや! スペ! あたしが目をそらした隙に取れるのはあの時スペしかいなかったッ!

 それに、スペの食事スピードなら一瞬でタピオカミルクオーレを空にすることも……可能ッ!」

 

 名探偵ゴルシちゃんの眼はごまかせねえぜこの~! などとさけびながら、ゴルシはスペシャルウィークの頬をむにむにする。

 

「ひゃめへふみゃは~い!!!」

 

 それを聞いていたフクキタルはふふん、と妙に自信ありげな表情を浮かべ。

 

「つまりは『失せ物捜し』ということですねッ!

 わかりました! 私の『占い』で、どこにあるか占ってみましょうッ!」

 

言うが早いが、水晶玉をどこからともなく取り出しムムム~ッ!と念を込めるフクキタル。

 

「運気上昇☆幸福万来! 来ます! 来てます! 来させます!

 ふんにゃかハッピー! はんにゃかラッキー! センキューシラオキ!」

 

呪文を唱えると、水晶玉の中に一つの情景が浮かび上がってきた。これは……大量のロッカーが並んでいるのが見える。カフェテリアではない。どこかの……昇降口? 番号が見える7……7……7……。

 

「でましたッ!昇降口にある777番の靴用ロッカーに、『タピオカミルクオーレ』はあります!」

 

「しょ、昇降口だァ~~~!?」

 

 さすがのゴルシもいぶかし気に、スペシャルウィークのほっぺをいまだむにむにしながらフクキタルの占いの結果に反応する。

 

「ふにゃあ……なんでそんなところに……?」

 

 スペシャルウィークはむにむに攻撃から何とか脱出し、フクキタルに問いかけた。

 

「わかりませんッ! ですが! 私の『占い』の結果そう出ています!」

 

 自信満々に答えるフクキタル。実際、フクキタルの占いはよく当たると学園生との間で評判であり重要なレースを前にどうしたらいいか聞きに来る者もいるほどだ。

 

「昇降口のロッカーなんかに『タピオカミルクオーレ』が入ってるわけがないッ!

 が……だからこそ『おもしれーっ』!!! 『アタシの全財産』その『777番ロッカー』に賭けるぜッ!」

 

「いや~……そこまではしなくてもいいですけどぉ~……」

 

「とりあえず、そこにあるというのなら、行ってみましょう!」

 

 こうして、フクキタル、ゴルシ、そしてスペシャルウィークは例の『777番ロッカー』に行ってみることにした。『777番ロッカー』は高等部のとある寮の昇降口にあり、どうやら誰にも使われていないのか名札は貼られておらず、カギも特に掛かっていない。

 

「開けてみましょう!」

 

「応ッ!」

 

スペシャルウィークがごくり、とつばを飲み込み、ゴルシが勢いよくロッカーと扉を開ける。その中には……フクキタルの占い通り『タピオカミルクオーレ』が入っている。未開封でストローもビニールに入ったまま固定されており、新品同然だ。

 

「おひょお~ッ! アタシの『タピオカミルクオーレ』ちゃん!」

 

「ほらー! ゴールドシップさんの勘違いだったでしょう!!!」

 

 ごめんごめんとスペシャルウィークに謝るゴルシ。その姿を見ながらフクキタルは鼻の下をこすりつつどや顔をした。

 

「でも……なんでこんなカフェテリアから離れた場所にまで『タピオカミルクオーレ』が移動していたんでしょう……」

 

「さあ……」

 

「ハッ! まさかゴルシちゃん、サイキックに目覚めたのか!?

 怖い……自分の才能が怖すぎるぜ……このままでは地球はゴルシ様のものになっちまうぞ。

 勇者スぺ! かかってこい! スピカの部室まで勝負だ!!!!」

 

「えっ! ちょっとゴールドシップさん! せっかく『タピオカミルクオーレ』あったのに飲まないんですか!?」

 

 等と言いつつ駆けだしていく二人を見送るフクキタル。

 

「……本当に、なんでこんな場所にあったんでしょうね?」

 

 

 

◆◆◆ マンハッタンカフェは動じない #008 『失せ物捜し』 ◆◆◆

 

 

 

「『必ず失せ物が出てくる777番ロッカー』……?」

 

 マンハッタンカフェは、深刻な表情をして自身に相談してきたフクキタルの言に首を傾げた。

 

「はい。私、開運以外に『失せ物捜し』の占いを請け負うこともよくありまして。

 トレセン学園の皆様のためになれればと! 粉骨砕身、努力してきたのですが……

 最近、その結果が『奇妙』なのです……」

 

 といって、フクキタルはカフェに手書きのメモを差し出した。それは最近請け負った『失せ物捜し』の依頼と、その『失せ物』があった場所の早見表。依頼人に関してはプライバシーの面からか黒塗りになっている。

 

「『タピオカミルクオーレ:777番ロッカー』、『数学のノート:777番ロッカー』『学生証:777番ロッカー』『替えのマスク:777番ロッカー』『図書カード:777番ロッカー』『お気に入りの靴下:777番ロッカー』『使いかけの消しゴム:777番ロッカー』『預金通帳と印鑑:777番ロッカー』『今日のお弁当:777番ロッカー』『いいかんじの木の枝:777番ロッカー』『ハンカチ:777番ロッカー』……」

 

 そのうちのいくらかを読み上げていくカフェ。まだ十数件あるが、とりあえずこの異常性については理解できた。

 

「……『失せ物』が必ず『777番ロッカー』で見つかる……そういうことですね?」

 

「はい……」

 

このところ、重要な物から、他人にはささいな物まで、とにかく様々な『失せ物』が『777番ロッカー』の中にいつの間にか入っており、流石にこの結果に不気味さを覚えたフクキタルは怪奇現象に詳しいと話題のカフェに相談するべく、理科室を今日訪れたのだ。

 

「ふぅン……動物の仕業じゃないのかい?」

 

 簡単な薬品調合を行っていた、タキオンがふいに口を挟む。

 

「ネズミやカラス、リスと言った動物は『貯食行動』といって自分の巣や特定の場所に食べ物を大量に集める性質がある。意外なところだとジャガーなんかもそうだし、犬猫だってたまに地面に骨などを埋めたりするだろう?」

 

「……つまり動物が無作為に物を盗んで、ロッカーに入れている、だけと?

 しかし、フクキタルさんの占った物だけがそこからでてくるのは、おかしいですよ」

 

 タキオンの言葉にカフェが答える。ウムウム、とフクキタルも頷いた。

 

「私は科学的見地からの意見を言ったまでだよ。とりあえず、まずはその可能性から潰してみるといいと思う。カメラを仕掛けてみるなり、動物が開けられないように鍵をかけてみたり」

 

「ふむむむ……」

 

「あとで、その『777番ロッカー』を一緒に見に行きましょう。フクキタルさん。

 なにか『霊的な物』が絡んでいるなら、私がおはなしをしてみます。タキオンさん、生徒会にはこちらで許可を取っておきますから、定点カメラを貸していただけますか?」

 

 

「あァ、好きにしたまえ……」

 

 タキオンは実験用器具を大量に持っているし、定点カメラ程度ならあるだろう、という信頼からカフェはタキオンに問いかける。当然のようにタキオンは、調合を続けながら、その辺にあると言う風に理科室の端に積み上がった段ボールを指さし。カフェはそろそろ整理しないといけませんね……とぼやきながら、段ボールを漁るが……

 

「ありませんよ、タキオンさん?」

 

「あれ~? どこにやったかな……?」

 

 タキオンも加わり、がちゃがちゃと段ボールを探し始めるが見つからない。

 

「…………出ました」

 

「「え?」」

 

 と、カフェのスペースのソファに座っていたフクキタルが軽く震えながら二人に言い放つ。フクキタルは、二人が定点カメラを探している間に、手持ちの水晶玉を取り出してもしかして、と『占い』をしていたのだ。

 

「……『777番ロッカー』に定点カメラは入ってます」

 

 それから、カフェとフクキタルは例の『777番ロッカー』に向かった。タキオンは馬鹿らしい、移動してるわけがないんだから部屋のどこかにあるはずさといって付いてこなかったが。いざ、カフェは『777番ロッカー』をその黄金の瞳で見つめると、確信を強くした。

 

「フクキタルさん……これ……『777番ロッカー』はなんらかの『力』が宿っています。これが悪しきものなのか? 善きものなのか? そういった『方向性』は特段感じ取れませんが……確実にこの『777番ロッカー』はなんらかの『怪異』です」

 

「ギョ、ギョワーッ……いきなり恐ろしい事を言わないでくださいよ!

 こ、こんなことなら大吉のお守りをもっと身に着けてくるんだった……」

 

 顔を真っ青にして、この世の終わりのような表情を浮かべるフクキタル。彼女はそれからシラオキ様お守りください~などとブツブツ言い始めて動かなくなってしまったので、カフェは例の『777番ロッカー』を開けてみた。

 

「……あった」

 

 やはり、中には定点カメラが置かれていた。その時だ。

 

「おーいカフェ~! 定点カメラがあったぞ。すまない、この前使った時に別の場所に置いたのを忘れていたよ……」

 

 自分たちをわざわざ追いかけてきてくれたタキオンの姿。その手には同じ定点カメラが握られていて……

 

「タ、タキオンさん……こっちにも入っていたんです! 定点カメラ!」

 

「な、なんだって!?」

 

 カフェとタキオンは、自分たちの手持ちの定点カメラを見比べた。全く同じタイプのものだ。そして決定的だったのは、使う際に金具などがこすれて付いたであろう『傷』や『擦れ』の位置。

 

「な、何ィ―ッ!? これは『同じもの』だッ! メーカー、型番、品番ッ!

 傷も、擦れも、汚れや、ケーブルのたわみ方の癖までッ!酷似しすぎているッ!」

 

「ギエーーーーーーーッ!!!!!!!」

 

 タキオンの言葉に、思わず声を上げるフクキタル。

 

「つ、つまりこの『777番ロッカー』……『失せ物』が実際にある、ないに関わらず……

 本人が『無い』と『認識』した物品が、出てくるということッ! おもしろいッ!!!

 理屈は分からないがおもしろいぞ、カフェッ!!! これを何かに『利用』できないものかッ!」

 

「や、やめましょうタキオンさん。こういうのは『利用』とかしようとすると必ず手痛い『しっぺ返し』を喰らうモノです。『怪異』はおもしろがって手を出す物じゃあないんですッ……!」

 

「……ええ~ッ! いいじゃあないかカフェ~!」

 

「だめです!」

 

 やいのやいの、と騒ぐカフェとタキオン。しかしフクキタルにはその喧噪が遠くのものに聞こえた。

 

「……………………」

 

(『無い』ものが『戻って』くる……)

 

 ――フクキタルは、ごくり、と唾をのんだ。

 

 次の日のお昼。

 

「………………」

 

 いつも底抜けに明るいフクキタルの表情は、物憂げであった。『福』が来るからといって好んで食べていた『福神漬け』大盛りカレーライスもあまり喉を通らず、といっても残すとバチが当たるので無理やりそれを掻きこんだ。

 

 フクキタルは考えてしまった。

 

(……『無い』ものが『戻って』くるのなら……『姉』は……?)

 

 フクキタルにはかつて優秀な姉がいた。自分とは比べ物にならない、優秀な姉が。だが……姉は。あんなに優秀で、大好きだった姉は。自分を置き去りにしてあっさりと帰らぬ人となり、そのことはフクキタルの心に大きな、大きな影となっていることは自分自身でも自覚している。姉を意識するたび、その大きな影が、むくむくと心の中で育っていく感覚は大嫌いだ。

 

 姉との数少ない、素敵な思い出が昏く侵食されていくように思えて――。

 

「い、いけない。ふんにゃかハッピー……はんにゃかラッキー……」

 

 フクキタルは、なんとかいつもの自分を取り戻そうと自分で考えた幸福招来の呪文を唱える。

 

「……………」

 

 だが、それを最後まで唱えることは、できなかった。ぽろ、ぽろ、と頬を涙が伝い、視界がぼやけていく。

 

「……姉さん、会いたいよ……!」

 

……気づけば、フクキタルは『777番ロッカー』の前に立っていた。

いつのまに、どうやってここまで来たのかは覚えていない。そんなことはどうでもいい。

 

「ハァーッ……ハァーッ……!」

 

(…………『神様』どうして姉をつれていったんですか……『戻して』ください! 姉を!)

 

 フクキタルは……『777番ロッカー』の取っ手に勢い良く手を掛け、それを、開いた。

 

「………………」

 

中には、何もない。

 

「どうしてッ!!!!!!!!!」

 

 ――ドカッ!!!

 

 フクキタルは両手をロッカーにたたきつける。ウマ娘の怪力を受けたロッカーは容易くひしゃげた。

 

「『神様』……もう一度、もう一度だけでいいから……姉さんに会わせて……」

 

そのまま、崩れ落ちるようにロッカーに縋りつく。しかし、無情にも『777番ロッカー』はなにも答えない。

 

「フクキタル」

 

 その時、声がした。優しく、戸惑うような声。

 

「……スズカさん?」

 

 振りむけば、そこには心配そうに自身を見つめるスズカの姿。フクキタルは鼻水と涙でぐちゃぐちゃになった顔を乱雑にごしごしと拭くと、ぱっぱと膝についた砂を払って、あはは、と作り笑いをした。

 

「い、いやー……私ったらドジですねえ。こんなところでロッカーにつっこんじゃうなんて!

 今日の運勢は大凶だったみたいです! へ、部屋に戻ってお守りを取ってきます~」

 

 フクキタルは未だ目の端から滲み出す涙を隠すようにスズカに背を向けて、去っていこうとする。しかし、フクキタルを背後からスズカが慈しむように抱きしめた。

 

「あ……」

 

「フクキタル……つらいことがあったのね。そういう時は無理しなくていいの」

 

「スズカ……さ……うわああああぁぁぁぁああぁっっ!!!」

 

 フクキタルは大声で泣いた。姉に会いたい。姉に会いたいと。叫びながら。スズカはただ、それを聞きながら、フクキタルの背中をさすってやりいくらでも辛抱強く、フクキタルが落ち着くのを待った。

 

「…………見苦しい所を、お見せしました」

 

 いつまでそうしていたのかわからないが、フクキタルはようやく涙声で、そういった。

 

「フクキタルは……お姉さんのことが大好きなのね。きっと、お姉さんは……

 あなたの心の中に『忘れられずに一緒にいる』わ……」

 

「『忘れられずに』『一緒に』……」

 

 フクキタルは、スズカの言葉を反芻した。『777番ロッカー』は『忘れ去ったもの』を出してくれる魔法のロッカーだ。ならば、『忘れられずに一緒にいる姉』が現れないのも、当然の道理だ。なんたって『一緒にいる』のだから。

 

「ふええええええ……スズカさんーーーーっ!!!!」

 

 フクキタルは、スズカの言葉に再び涙を流し抱き着いた。

 

「………………」

 

(大丈夫、みたいですね……)

 

 その光景を、ロッカーの影から隠れてみていたカフェは静かにその場を去る。昨日のフクキタルは明らかに様子がおかしかった。もしかしたらなにかよからぬ事であのロッカーを使おうとしているのではないか……そう考えたカフェは、何かあればフクキタルを止めようとしていたのだ。

 

「それに……『お姉さん』は一緒にいますよ。いまも」

 

 それから。

 

「運気上昇☆幸福万来! 来ます! 来てます! 来させます!

 ふんにゃかハッピー! はんにゃかラッキー! センキューシラオキ!!! でましたッ!!!」

 

 今日も校門前に張られた怪しげなテントの中で、フクキタルの元気な声が響く。あれ以来、『777番ロッカー』はひしゃげてしまったせいかその力を失い、フクキタルの『表はあっても占い』テントはまた『失せ物捜し』の客で大繁盛……とはいかずとも、そこそこ繁盛していた。

 

「フクキタル、今日の私の運勢はどうなのかしら?」

 

 フクキタルは椅子に座ったスズカの運勢をこう告げる。

 

「『大吉』ですッ! スズカさんは最近お友達にいいことをしましたね? そういうのは巡り巡って、良い結果をもたらします! ええ! スズカさんは『大大大大大吉』ですよッ! あなたの周りには、笑顔があふれる……そうでています!」

 

「そうね、私もフクキタルが笑顔になってくれて、うれしいわ」

 

占いの結果に笑みを浮かべる、スズカとフクキタル。

 

「ええッ!なんたって私は!笑う門にはフクキタル!ですから!」

 

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