マンハッタンカフェは動じない   作:むうん

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#011『目覚まし時計』

「……なんでトレーナー君が解任されるんだッ!!!」

 

 その日、生徒会室に呼び出されたアグネスタキオンは、生徒会長シンボリルドルフから言い渡された言葉に、顔面を蒼白にして叫んだ。

 

「悪因悪果というモノだよ……アグネスタキオン。

 私としても、秋川理事長としてもこうはしたくなかったが、もはや理事会を抑えきれない……すまない、私の力不足だ

 」

 

 アグネスタキオンの常日頃の行いは、普段から生徒会、そして学校理事会に問題視されていた。理事長秋川や生徒会長ルドルフはタキオンの行動を常日頃かばいだてしていたが、ついに理事会にて一部の理事から議題が提出されてしまう。いつまであのウマ娘を好き勝手させておくのか。他の生徒にこのままでは示しがつかない。彼女自身の『退学』もしくは、管理能力不足としてトレーナーの『辞任』……どちらかが迫られ、トレーナーは悩むことなくタキオンを守るために『辞任』を選んだのだ。

 

「そんなバカな話があるかッ!!!!」

 

 生徒会室を飛び出していくタキオン……一人取り残された部屋でルドルフは呟く。

 

「君に鰥寡孤独を味わうような結末を迎えてほしくはなかった……」

 

 

 

◆◆◆ マンハッタンカフェは動じない #011 『目覚まし時計』 ◆◆◆

 

 

 

――ジリリリリリリリッ!!!

 

――ジリリリリリリリッ!!!

 

――ジリリリリリリリッ!!!

 

――ジリリリリリリリッ!!!

 

「……ハッ!?」

 

 理科室の机で突っ伏して眠っていたタキオンは、けたたましい騒音で目覚めると同時にバクバクと高鳴る心臓の鼓動を感じながら冷や汗でじっとりと濡れた額を袖で拭った。

 

「夢……?」

 

 なんという夢だ。トレーナー君が『解任』されてしまう夢なんて。冗談ではない。縁起でもない。まったく心臓に悪い――。

 

「なんですか、この音……メチャクチャうるさい……

 いつもそんなに目覚まし時計かけてるんです……?」

 

 その時、理科室に入ってきたのはマンハッタンカフェ。入って来るなり顔を顰めた彼女は、タキオンの机に置かれた四つもの目覚まし時計を凝視する。タキオン自身もいつのまにこれほど目覚まし時計をかけたのか、理由が思い出せずとにかく四つ全部の目覚ましを止めた。

 

「す、すまない……」

 

「今日は妙にしおらしいですね……?」

 

 いつものタキオンなら、なにかしらの理屈をつけるのに……カフェはそう思いながら、いつもの席にいつものようにつく。

 

「いや、少し妙な夢を見てね……そういえば最近、トレーナー君にも寝不足気味だとたしなめられていたな……そのせいかもしれない……だが、最近研究がいいところまで進んでいてね……ふぁああ……」

 

「研究が進むのはいいですけど、目の下にクマができてますよ……そろそろベッドでちゃんと眠ったほうが」

 

「ああ……わかってる……」

 

 ……タキオンは寝起きで少しぼーっとする頭をキックするために、そしてそれ以上に、未だ早鐘を打つようにどくんどくんと脈打つ心臓を抑えるために、紅茶を入れる準備を始めた。今日は週のちょうど真ん中である『水曜日』だ……週末までもっとも待ち遠しくなる時間だからな……変な夢も見るかもしれない……などとタキオンは考えた。

 

 ……その日は、そのままいつもと変わらず過ぎていった。昼にはトレーナー君の弁当で腹を満たし午後にはトレーナー君には悪いが今日は研究完成までもう少し。トレーニングには出ずに、自身の研究を優先させてもらう。そして夕方……

 

「アグネスタキオン、ちょっといいか」

 

 生徒会副会長、エアグルーヴが珍しく理科室を訪れ。

 

「おや、副会長さんが私に何のようだい?」

 

「生徒会長から重要な話があるという事だ。いますぐ生徒会室に顔を出してくれ」

 

 有無を言わさず、と言う風にタキオンに視線を向けるエアグルーヴ。その視線は厳しいが、同時に憐みのようなものも感じられた。どくん――ほんの少しだけ、タキオンの鼓動が早まる。なんとなく、あの夢を思い出して、嫌な予感がした。

 

「……なんでトレーナー君が解任されるんだッ!!!」

 

そして、生徒会室に呼び出されたタキオンは、生徒会長ルドルフから言い渡された言葉に、顔面を蒼白にして叫んだ。君のトレーナーは指導不行き届きで解任されることになった、と。

 

「悪因悪果というモノだよ……アグネスタキオン。

 私としても、秋川理事長としてもこうはしたくなかったが、もはや理事会を抑えきれない……すまない、私の力不足だ」

 

 

「え……?」

 

 ルドルフのその言葉には、聞き覚えがあった。一言一句、夢で見た言葉と変わらない。

 

「受け入れがたいだろうが、これは理事会の決定だ。

 今週中には、トレーナー君はトレセン学園のトレーナー免許をはく奪される。

 それ以降は、別のトレーナーを探すか――」

 

「こ、これは夢だ……そうなんだろう……夢の続きを見るなんて、珍しいな……はは……」

 

「信じがたい気持ちは分かるよ……一蓮托生……まさに君とトレーナーは強い信頼で結ばれていたから。こんな結果になって、私としても残念だとしかいいようがない……すまない……」

 

 ルドルフが、頭を下げる。しかしタキオンはふらふらと生徒会室を後にしようとしていた。これは夢だ。夢なんだ。夢に違いない。そうだろう。

 

――ジリリリリリリリッ!!!

 

――ジリリリリリリリッ!!!

 

――ジリリリリリリリッ!!!

 

「……ハッ!?」

 

 理科室の机で突っ伏して眠っていたタキオンは、けたたましい騒音で目覚めると同時にバクバクと高鳴る心臓の鼓動を感じながら冷や汗でじっとりと濡れた額を袖で拭った。

 

「夢……?」

 

 なんという夢だ。トレーナー君が『解任』されてしまう夢なんて。冗談ではない。縁起でもない。まったく心臓に悪い――いや、まてなんだこれは。おかしいぞ……タキオンは、言い知れぬ違和感を覚えながらけたたましく鳴る三つの目覚まし時計を止めた。

 

「タキオンさんッ……」

 

 と、カフェが血相を変えて理科室に飛び込んでくる。

 

「カフェ……すまない、今は君にいてほしかったところだ……」

 

「その様子だと、タキオンさんも気づいているんですねッ……!」

 

「え?」

 

 タキオンは、心細さからカフェにそばにいてほしいと思った。しかし、カフェは何か違う事柄で彼女なりに慌てている風で……

 

「どうしたっていうんだ……一体……」

 

「タキオンさん、私たちは『水曜日』を繰り返していますッ!」

 

「な、えぇ……?」

 

 タキオンはそう言って、論文を書くために開きっぱなしにしていたノートPCの日付に目をやる……『水曜日』。確かに日付は変わっていない。

 

「そんなばかなカフェ~……確かに私のノートPCも時計がくるっているようだが……こんなの……」

 

 そういって、タキオンは適当にブラウザを立ち上げニュースサイトなどをいくつか確認した。水曜日、水曜日、水曜日、水曜日、水曜日。どこのサイトも表記はそうだ……

 

「こ、これはどうなって……じゃ、じゃあ、あの『夢』は『実際』に起きていたのかッ!?」

 

「タキオンさんの『夢』の事は分かりませんが……私はえーと、便宜上『昨日』とします。全く同じ一日を体験したんです。同じ授業。同じ展開。同じ会話、同じレース……これは私たちがなんらかの『怪異』に巻き込まれたとしか思えないッ!」

 

 ほぼ一人理科室で過ごしたタキオンとは違い、真面目に授業に出ていたカフェはまざまざと『繰り返し』を見せつけられたのだろう。

 

「ほかの生徒に聞いても、怪訝な顔をされるだけでした。ですがタキオンさんはこの『繰り返し』に巻き込まれたことに気づいている……他にも、『繰り返し』に気づいている人物がいるかもしれません……探してみま……」

 

そこまで言って、カフェは気づく。タキオンが頭を抱え、がたがたと震えていることに。

 

「ど、どうしたんです……タキオンさん……!」

 

「じゃ、じゃあ……トレーナー君が……『解任』されるのは……本当の……!」

 

 荒い息をつき、熱病患者が如く滂沱の様に汗をかくタキオンの様子は尋常ではない。カフェはまず、タキオンを落ち着かせるべく、自身のソファに彼女を寝かせ、その手を強く握って大丈夫ですから、と声を掛け続けた。どうやら、彼女のブツブツと呟く言葉から察するにタキオンのトレーナーはこのままだと『解任』されてしまうらしい。

 

「大丈夫です……大丈夫ですから……きっと……

 ですから、この繰り返しを阻止しましょう。タキオンさん……

 そして、そんな未来もどうにかしましょう……」

 

「あ、ああ、そうだね……」

 

 しばらくして、いくらかタキオンは落ち着いたが、それでも大丈夫なようには思えない。今回に関してはタキオンの助言は期待できないかもしれない……だがこういう時こそ、自分がしっかりしなくては。カフェは一人で行動を開始する。とりあえず、カフェは『怪異』であるなら自分の霊感に何かひっかかるものがあるかもしれない……そう思って、精神を集中した。すると、すぐにおかしなものが感覚に引っ掛かる。

 

「目覚まし時計……?」

 

 タキオンのテーブルの上になぜか『三つ』おかれている目覚まし時計からすさまじい何かを感じる。確実に『怪異』の原因はこれだ。そういえばこんな目覚まし時計、いつからこの理科室にあった?

 

「これが……」

 

 カフェは目覚まし時計を手に取ってみる。外目には別段、変わった様子はない。

 

「それが……原因なのかい、カフェ……」

 

「ええ、ですがタキオンさんは体調がすぐれないなら少し横になっていてください」

 

「大丈夫だ……そう。行動。行動しなくては……」

 

「いえ、タキオンさん……休息すべきです。顔色が悪いです」

 

 カフェは明らかに無理をしているタキオンを気遣い、声を掛けた。

 

「うるさいッ!!!!」

 

 しかし、タキオンは押し問答の果てにヒステリックに声を荒げる。いつもの理知的な彼女には見られない、衝動的な怒り。瞬間、カフェは妙な気配を感じた。

 

「あ……すまない、カフェ……本当に、私は参ってしまっているらしい……」

 

「いえ、気にしてませんよ……とにかく休んで……」

 

 そういうと、タキオンはソファに戻って横になった……しばらくすると、すぅ、すぅと寝息が聞こえてくる。無理もない、このところのタキオンは研究づくめでほとんど眠っていない風であったのだから。カフェはタキオンの体が冷えないように、ブランケットを掛けてやった。

 

――ジリリリリリリリッ!!!

 

――ジリリリリリリリッ!!!

 

「……ハッ!?」

 

 理科室の机で突っ伏して眠っていたタキオンは、けたたましい騒音で目覚めると同時にバクバクと高鳴る心臓の鼓動を感じながら冷や汗でじっとりと濡れた額を袖で拭った。

 

「タキオンさん……」

 

 と、既にソファにいたカフェが声を掛けてきた。タキオンはテーブルに『ふたつ』あった目覚まし時計を止めるとカフェに話しかける。

 

「教えてくれ、カフェ。これは夢なのか? 現実なのか?」

 

「……わかりません。しかし、今日が『水曜日』であることは確かです……」

 

 カフェは、お手上げという風に首を振りながらぽつ、ぽつと話し始める。

 

「『昨日』はタキオンさんが寝入ってから、『怪異』方面でなんとかできることはないかと方々を走り回ってみました。図書館でそれらしき本を読み漁り、フクキタルさんの占いを受けてみたり……コパノリッキーさんの風水にも頼ってみたのですが……だめです。また、『水曜日』が来てしまいました」

 

「………………」

 

 タキオンは、一瞬。今日という日がこのまま過ぎ去らなければいいと思った。そうすれば……トレーナー君が解任されるという未来は来ない。

 

「……?」

 

 その時、カフェはふと気づく。

 

「タキオンさん……目覚まし時計から感じる力が強くなってます。

 それに……おかしくありません? 目覚まし時計」

 

「え?」

 

 タキオンはカフェに言われて気づく。力云々はわからないが、確かに何か違和感がある。そうだ、目覚まし時計の数が減っている。『昨日』は三つあったはずだ。それが二つに減っている。たしか、その前は四つあったような気もする……

 

「そうだ……目覚まし時計が減ってるぞ……これは……何かヤバイッ……

 目覚まし時計がなくなると、いったいどうなる……理屈ではないが、全身が粟立つような戦慄を感じるッ!」

 

「……私もそう感じます。この目覚まし時計がなくなった時、なにか……何か取り返しのつかないことがおこってしまう……」

 

「……とするなら、すぐさま行動開始だ……考えろ……考えろ……この『繰り返し』を抜け出すにはどうすればいい?」

 

 カフェとタキオンは、額を突き合わせて考えはじめる。さすがのカフェも、今日は授業を欠席して対抗策を考えることにひた走った。

 

「量子泡ワームホール理論、素粒子タイムマシン、宇宙ひも理論……クソ……どれもまだ実用化できるような段階に達していない。どういう理屈なんだ? そもそもこの目覚まし時計は……」

 

 タキオンはいくつかの学術書を図書室からとってきてぱらぱらと速読したが、役に立たないとばかりにすぐに積んで、それからなんということか、目覚まし時計をばらし始めた。

 

「ええっ、大丈夫なんですか……?」

 

「大丈夫さ、たぶん……」

 

 だが、目覚まし時計をばらしたところで内部に妙な機構などは認められず、結局タキオンはそれを元通り組み立てるに至り。

 

「ッ……このままじゃ、トレーナー君が……!」

 

 タキオンが、いらついたようにドン、と机をたたく。その瞬間だった。カフェは、目覚まし時計から感じる力の強さがより増したように感じた。

 

(…………もしかしたら)

 

 カフェはそれを見て、一つの仮説を思いつく。が、それにはピースが足りない。決定的なピースが。カフェは、意を決してタキオンに対して口を開く。

 

「タキオンさんは……トレーナーさんの事をどう思っていますか?」

 

「……いきなりどうしたんだい、カフェ」

 

 少し戸惑ったように、タキオンが作業の手を止める。

 

「ですから、タキオンさんはトレーナーさんの事をどう思っているのですか、とお聞きしたんです」

 

 瞬間、タキオンは明らかに動揺したように目を伏せた。どうこたえるか、迷っているかのように。

 

「……彼は優秀なモルモットだよ。私に尽くすことがなんらかの――」

 

 タキオンは、ハッ、何を言っているんだいという態度を取りいつものように饒舌に話し始める。しかし、カフェはその言葉を早いうちに遮った。

 

「タキオンさん、ごまかさないで。本当のことを言ってください。

 トレーナーさんと離れ離れになることが、そんなに『怖い』ですか?」

 

「………………」

 

 短い沈黙。そして。

 

「ああッ! 本当のことを言ってやるッ! 恐ろしいさッ! トレーナーくんは、本当に『狂った瞳』で私を見出してくれた! 私は、そんなトレーナーくんに『狂わされた』んだよ……! 私の世話を見られるのはトレーナー君しかいない! 私は! トレーナー君と一緒に! トゥインクルシリーズを戦い抜くんだッ!!!」

 

 感情を吐露するタキオン。既に、彼女にとってトレーナーはただのモルモットではなく、カフェと同様の大切な存在となっていた。

 

「やっぱり……」

 

 そんなタキオンの様子を見て、カフェは二重の意味で頷く。一つは当然、彼女の感情が自分の推測するそれと同じだったこと。そして、もうひとつ。

 

「この目覚まし時計に込められている『情念』は……おそらくタキオンさんのものです」

 

「何……何を言って……」

 

 タキオンが感情を吐露したとき、カフェは目覚まし時計の力が強くなるのを感じた。

 

「きっとこの目覚まし時計にはタキオンさんの『トレーナーさんと離れ離れになりたくない』。そういう『情念』が込められているんです! だから、『未来』に進むのを嫌がってなんども『水曜日』をループしている……」

 

「そ、そんな、ことが……」

 

「ですから、この『繰り返し』から脱出するには『未来』に進む意志がなければならない。

 つまり、『トレーナーさん』が『解任』されなければいいんですよ」

 

大真面目にカフェはそういうと、タキオンの耳に解決策を囁いた。

 

――ジリリリリリリリッ!!!

 

「……ふわぁ~~~~~~、もう朝かぁ……よく眠ったなあ……」

 

 理科室の机で突っ伏して眠っていたタキオンは、けたたましい騒音で目覚めると同時に大きく伸びをした。時刻は7:00ジャスト。制服のまま眠っていたタキオンは、ぱっぱと傾いたリボンやだぶついたソックス、寝ぐせのついた髪を直し身だしなみを整える。

 

 それから、お気に入りのサバラガムワの茶葉で紅茶を入れ朝食として適当にエナジーバーを齧ると、授業へと向かった。

 

「あれ……今日タキオンさん来てる……珍しいね」

 

「ほんとだ。珍しいねえ……」

 

 ひそひそと同じクラスのウマ娘が噂するのをしり目に、タキオンは授業から10分前にクラスに姿を現した。一限目は数学、二限目は国語、三限目レース論、四限目英語……それら午前中のカリキュラムを、ごくごく真面目に受けていく。

 

「優秀ッ! どうです、タキオンくんは。たしかに若干の素行不良はありますがッ! 勉学の成績は優秀で、彼女の論文はすでに海外で高く評価されているぞッ!」

 

 そんなタキオンの姿を理事会の数人にみせているのは、秋川理事長だ。そしてその午後……

 

「トレーナー君、今日は調子がいい。模擬レース、あと何本でもいけるぞ」

 

「ちょ、待って……無理……速すぎ……」

 

「タキオンさんの『流し』に遅れずついていくので精いっぱい……」

 

トレーニングトラックに姿を現したタキオンは、まさに絶好調といった風で同学年のウマ娘たちを撫で切りにぶっちぎっていた。

 

「どうかな、まさに彼女は光速のプリンセス……

 生半可なウマ娘では鎧袖一触、蹴散らされるだけの実力を兼ね備えている」

 

 そういって、理事会に解説を行っているのは生徒会長ルドルフ。そう、カフェは理事長たちに協力を仰いでいかにタキオンが優秀な生徒かを実際に説明しようとしていたのだ。

 

その結果……

 

――ジリリリリリリリッ!!!

 

「ふぅわああああ……朝かぁ……ハッ」

 

 己のベッドで目覚めたタキオンは、スマートフォンを使って日付を確認する。日付は……『木曜日』。

 

「どうやら、最悪の未来は回避されたらしいな……」

 

 タキオンは、寝床から出るといつものルーチンを開始する。制服に着替え、髪を整え、朝食をとって……授業に出る。タキオンは、以前よりもかなり『自己管理』に気を付けるようになった。とはいえ多少はまし、といった程度でまだまだ授業に欠席も多いし、徹夜研究もしょっちゅうだが……

 

「まったく、私も『狂わされてしまった』ねえ……本当に……」

 

 その日の一限目の授業を受けながら、タキオンはふと、窓からグラウンド端にあるトレーナー室の方を見て呟く。

 

「どうか君も色あせることなくあの日の『狂った瞳』のまま私を見つめてくれよ……トレーナー君」

 

 あの日の誓いがある限り、私は君に『解』を返し続けるから。

 

←To Be Continued?


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