杜王町に吹き込む海風が熱したアスファルトに蒸されてじりじりとうだるような暑さを醸し出す。
夏合宿のためにこの街にやってきていた二人のウマ娘――マンハッタンカフェとアグネスタキオンは、たまらず駄菓子屋で棒状のアイスを買い、2人で半分に分けて齧りながら神社の石階段の影になっている部分に座りこんだ。
「フゥーッ、今日は一段と暑いな。海沿いの涼しい避暑地と聞いていたが、これではもうなにがなんやらだ」
「……熱中症にならないようにだけ、注意しましょう」
長距離走者としての適性があり、スタミナに自信のあるカフェですら休憩しないといけないほどの暑さ。優れたアスリートであるウマ娘であっても、水分や塩分を取らなければ倒れてしまう。
「で……ここがそうなのかい? カフェ。」
「ええ……『六壁神社』――件の『妖怪』が出ると噂の場所です」
◆◆◆ マンハッタンカフェは動じない #002 『六壁神社』 ◆◆◆
話は数日前にさかのぼる。
「『ジョニィ・ジョースターの呪い』ィ? なんだねそれは……カフェ、君も時折トンチキなことを言い出すものだねェ」
「いえ、私が言っているのではありません。夏合宿に来ているトレセン学園生のあいだで噂になっている、というだけです。タキオンさんはこういうのには、興味ないですか?」
「……いや? 興味はそれなりにあるよ」
貴方は夏と言って何を想像するだろうか?夏祭り。花火。海遊び。スイカ。サマーリゾートや田舎への帰省を思い出す者もいるかもしれない。だが、マンハッタンカフェの言う通り今、トレセン学園生にとってもっともホットな話題はとある怪談であった。
1901年。今からおおよそ百年以上前のこと。トレセン学園の夏季合宿用寄宿舎に近くにある『六壁神社』で一人の人物が死亡した。その名を『ジョニィ・ジョースター』。
世界初のアメリカ大陸横断サバイバルレース『スティールボールラン』のファイナルステージまで優良な成績で進出したウマ娘『スローダンサー』のトレーナーである人物。後にS市の名家東方家の女性と結婚して日本で死亡。ここまでは、ウマペディアを調べれば単独記事が作られているであろうただの史実だ。
だが、それに怪奇性を加えるのは彼の『奇妙』な死にざまである。
彼の死体は発見時首から上を落石によって潰されており、首なし死体として発見された。また、噂をまことしやかに語る人物によれば東方家にはその後『呪い』が降りかかったのだという。それは無念のうちに頓死したジョニィ・ジョースターの怨念のせいであるというのだ。ひいてはその怨念が今も死体の発見現場である六壁神社には渦巻いており、妖怪となって不用意に訪れた人物を呪い殺すだとか……あるものは夕方、近くをロードワークで通った際に首なしの幽霊の姿を見たと証言するトレセン学園生もいるらしい。
「ふぅン。たしかに妙な死に方をしているが、怪談としてはよくあるモノの域を出ないねェ。それにしても、怨念なんだか、妖怪なんだか、幽霊なんだか……呪いっていうのも具体性を欠くように思える」
「ですが、それがまるで静かに伝染する『病』のように……トレセン学園生の間に流行している。その『伝染』が深まるにつれ――私の『おともだち』が私に伝えてくるんです。これはよくないって」
「ふぅーーーーーーーむ……例の『おともだち』ね……」
マンハッタンカフェの言う『おともだち』という概念について、アグネスタキオンは積極的に否定もしないが、肯定もしない。
彼女は嘘吐きとは程遠い性質……というよりはかなり『真面目』なウマ娘であるとタキオンは認識している。もちろん、科学的か非科学的かといえば後者ではあって――むしろオカルトの領域に足を突っ込んでいるが……ウマ娘という存在自体が時折矛盾をはらむ存在であることを研究によって知覚しつつあるタキオンは、友人としてカフェの言動を信じることにしている。
「で、どうするつもりだい」
「本当に『ジョニィ・ジョースターの怨念』が存在するのであれば。『害』を『学園の生徒』に与えているのであれば……私が、なんとかします。それができるのは、私だけですから」
こうして、アグネスタキオンとマンハッタンカフェの『奇妙な冒険』が始まり、時系列は再び、冒頭――六壁神社へと戻る。
「……こうしてみれば、どこをどう見ても普通の神社だねぇ。せっかくだし、お参りでもしておこうか」
タキオンは腕を組みながらふぅン、と息をつくと、綱を引っ張ってからころと鈴を鳴らし、それから律儀にお参りをしていた。一方のカフェは、『おともだち』と共に周囲を探るも……多少の『違和感』は感じたものの『怨念』だとかそんなものは感じられなかった。
「……うーん」
「おや、その様子を見ると空振りだったみたいだね。きっと杞憂だよ。知的好奇心を刺激するには有意義な時間だったがね」
その後も、くまなく神社周辺を見回ったが特段変わったモノは発見できず……むしろ、浮かび上がってくるのはこの神社の親しまれようだった。周囲にランドマークがないせいか、近所の小中学生がここを待ち合わせ場所にしたり、境内で虫取りをいそしむ姿が見られたほどだ。
結局その日は退屈し出したタキオンが寮に帰りたがった事もあり……帰りにもう一度駄菓子屋でアイスを買い、行儀悪く食べながらもどったのだが。
「で~……また、『ジオシュッターの呪い』かい? カフェ。それはこのまえ調査しただろ~」
「『ジョースター』です。タキオンさん」
それから数日後、再びマンハッタンカフェがその話題を口に出した。流石に閉口したアグネスタキオンは、若干嫌そうに彼女の話を聞く。
「あれから……合宿に来ているトレセン学園生の話題は、杜王町の花火大会だとか、恋人岬でプロポーズすると一生の愛を誓えるだとかカフェ・ドゥ・マゴのパフェがおいしいとかにシフトしていたんですが……」
「結構なことじゃあないか。『おともだち』も満足しただろ」
「いえ、また『ジョニィ・ジョースター』なんです。トレンドは」
マンハッタンカフェ曰く、一度は下火になった『ジョニィ・ジョースターの呪い』の怪談が再び勢力を盛り返していて、前よりも『おともだち』が騒いでいるというのだ。なんでも今回は。
「六壁遊歩道にある『ジョースター地蔵』って知ってますか?」
「……いいや」
ため息交じりに否定するタキオン。でしょうね、という反応と共にカフェは話を続ける。
「来日中に非業の事故で亡くなった『ジョニィ・ジョースター』の霊を鎮魂するために建てられたお地蔵様だそうなのですが、先日、事故で破損したそうなんです。で、『ジョースターの呪い』が発生したのは、その祟り――そういう話が蔓延しています。以前よりも強く」
「オイオイ待ってくれ。その『地蔵』が壊れる以前だろ? 例の『呪い』の話が蔓延ったのは……卵が先か鶏が先かなんて議論をするよりも因果関係は明確じゃあないか?なんだか、あべこべになってしまっているぞ……」
「ええ、ですが『蔓延』が強くなるという『結果』が残った。『怪異』や『妖怪』は……『出自』が補強されるとその力を増します。いわば、『伝説』が必要なんですよ……こういうお話には」
たしかに、祀られていた像が壊れたから呪いが降りかかる。よくあるどころか、ホラー映画のド定番すぎてもはや怖さすらないがたしかにカフェの説明は的を射ている。まことしやかに語られる都市伝説には、それらしい説得力が必要な物だ。逆に、フェイクだと証明されてしまった『怪異』はその怖さを失う。
「それにしたってなあ……」
「それともうひとつ。出自を補強する強力な『伝説』が出たんです」
といって、マンハッタンカフェがとりだしたのは漫画のコミックス本だった。奇妙なデザインのキャラクターがこれまた奇天烈な色彩と共に、巧みな筆致で描かれている
「ピンクダークの少年……これの『七曲坂村』編です」
さすがにタキオンはぷっと噴き出してしまった。『伝説』を補強するのがでたばかりの『漫画本』だって!?
「ピンクダークの少年はもう長いこと連載しているサスペンスホラーで、生理的に迫ってくるようなスリルが魅力の作品です。私も全巻持っていて『おともだち』も大好きなんです。特に私が好きなのは最新の八部でして……」
珍しく、若干興奮して早口でしゃべるマンハッタンカフェ。その様子を観察しようとすると、気づかれたのか普通の態度に戻ってしまった。
「で……そのマンガがどうしたって? 『七曲坂村』編? たしかに、名前は六壁神社とニュアンスが似るが」
「そうなんです。『七曲坂村』編のストーリーをざっくりと言いますと……七曲坂村には人間に寄生する『妖怪』が居て、うんぬんという感じなのですが……どうにも七曲坂村のモデルは『この杜王町の六壁地区だ』という考察がネットであるみたいなんですよ」
「だから、本当の『六壁神社』にも『妖怪』がいると……? ばかばかしいにもほどがあるよカフェ~」
流石のタキオンも付き合っていられない、という風ではあったが。
「……じゃあ、行こうか?」
「え?」
腕を組み、話を振ったのは君だろうとでもいいたげに眉を顰めてみせるタキオン。
「……ばかばかしいが、君を放っておくとそのうち本当に『怪異』だとかやらに攫われてしまいそうだからね。それにこういう『おはなし』には『科学的見地』から突っ込みを入れる『相棒』が必要だろう? 丁度、夕方のロードワークに出る時間でもあるし……」
「タキオンさん……」
とんとんとつま先で地面をたたき、靴を履くタキオンの後ろ姿を見てカフェは微笑を浮かべた。
「ということで、付き合ってやるからこの前のアイスの代金は返さなくていいね?」
「……台無しです」
それから、二人がまず向かったのは『六壁遊歩道』。支倉高校の北に位置するこの歩道に例の『ジョースター地蔵』があるらしく、とりあえず関係する場所は巡っておこう、という考えからだった。
「うわ、夏だって言うのに落ち葉だらけだよ……街路樹がビョーキかなんかなんじゃあないのか」
ゆっくりとロードワークをしながら、遊歩道に入っていく2人であったが早々に一人の少年に声をかけられた。
「うわあああーん!お姉ちゃんが!お姉ちゃんが!」
「うん……? どうしたんだい、君。いきなり大声をあげたりして……私が何か?」
「お姉ちゃんのせいだよォォォ―ッ……」
少年の手には、ソフトクリームのコーンだけが握られており、足元には無惨にも地面に落ちたストロベリーとチョコの二色ソフトクリーム。
「え、いや、私のせいじゃあないだろう? どう見ても離れたところを走っていたじゃあないかッ……」
突然自分がソフトクリームを叩き落した犯人であるとでも言いがかりをつけられて困惑気味のタキオンだが……
「タ、タキオンさん……その肘……」
「え……?」
カフェが指さしたタキオンのジャージの肘には、アイスクリーム――ストロベリーとチョコの痕跡がべったりついている。
「お姉ちゃんが!お姉ちゃんが!500円もしたのにィ―ッ!!!」
「ちょっと待ってくれッ! 私じゃあないぞッ! 本当にこの私は君には近づいてすらいないッ!」
狼狽え、反論するタキオンだが少年は余計泣きじゃくるばかり。さらには近くにいた老人たちがいぶかしげにタキオンを見ながらひそひそと話をし始める始末。間近にいたカフェも、タキオンが少年の方に近づいたようには全く見えなかった。
「わかった! わかった! 500円だな! 少年、今度は落とすなよッ! くそっ、全くなんて日だ――」
最終的にタキオンは、面倒だと思ったのか少年に500円を握らせその場を立ち去ろうとする。つぎの瞬間だった。
「おい、そこの若いの……」
今度は老人に声をかけられる。
「……で、今度は私に何の用だね?」
うんざりしていたタキオンは、ややぶっきらぼうに返事をしたが……
「ワシの『服』汚したろ。若い娘さんにタカるような真似はしたくないが。ワシも年金暮らしの身でな。すまんがクリーニング代……1000円くらいはだしてくれんかの?」
「はァ~~~~~ッ!?」
流石にイラつきながら振り返ったタキオン。老人には近寄りもしていないはずだ。それは確かな、はずだったのだが……老人の来ているシャツには、タキオンの肘についていたソフトクリーム汚れが擦りつけられたかのようにべったりとついている。
「ちょ、ちょっと待て……なにかおかしいぞッ! カフェッ!」
「ええ、さきほどから『おともだち』もおかしいと言っています……なにかが、ここにはあるッ……これは『ジョースターの呪い』なのかッ!?」
「おや、アンタたちやっぱりここに来るのは初めてかね」
狼狽えるタキオンとカフェに、老人はにやりと入れ歯を見せながら笑みを浮かべて。
「お嬢さんたちは可愛らしいから特別に教えてやるが……ここは『カツアゲロード』。『カツアゲ』されるぞ。これからも……ここを出るまで。『誰か』にな……ここはそういう『現象』が起こるんだ。ほら、1000円だしなッ!!」
結局やった、やってないの押し問答の末タキオンはさらに1000円を取られてしまう。魔の『カツアゲロード』に入り込んだ二人は、一時その場から動かず、思案した。
「カフェ、君の『おともだち』で怪しい場所なんかがわからないか? 絶対にこういうものは『法則性』があるモノだ。さっきの老人は『現象』といっていた。『現象』な以上『再現性』『法則性』がある。現に、立ち止まっている今は『カツアゲ』にあっていない。つまり、我々が『動く』となんらかの『条件』で『カツアゲ』にあうッ!」
「まってください……ええ、わかりました。『おともだち』は落ち葉の下に何かいると言っています」
といっても、視界には一面の落ち葉。落葉のシーズンでもないというのに、すでに大量の『イチョウ』が今まさにぱらぱら降り積もっている。
「ど、どの落ち葉だッ!?」
「『すべて』ですッ……!」
全ての落ち葉の下に何かがいる……つまり、今のタキオンとカフェは謎の『現象を起こす敵?』に完全に囲まれたという形になるが……
「なあんだ、カンタンじゃあないか……私たち『ウマ娘』にとってはッ……!」
「やってみましょうか……」
とん、とん、と脚を確かめるように一つ二つ跳ねてから、ニトロ点火ゼロワンカーめいて走り出すタキオン。マンハッタンカフェもタキオンの考えを心得ているようで、間髪入れずそれに追随する。
タキオンは、ウマ娘のスピード、そしてレースでの針の穴を縫うような身体コントロールを活かして、『落ち葉がわずかに積もっていない場所』のみを踏みしめトップスピードで駆けていく。時にはフリースタイルレースめいて、障害物を飛び越え、時にはウマ娘のパワーに物を言わせて落ち葉を衝撃で吹き飛ばしながら……
「『タネ』がわかればなあんてことはないなァ~~~……『法則性』があるのならば……『突破』は簡単だ」
そのまま、ジョースター地蔵のところまで駆け抜けた2人。
「さぁて、これが例の……」
「『ジョースター地蔵』。たしかに壊れてますね。しかも史実通り、頭の所がぱっくりとれちゃったみたいに……」
行政がおいたのであろう、近づかないでくださいとかかれた黄色と黒の車止めの外から、ジョースター地蔵を眺める。件の『ジョニィ・ジョースター』は頭を潰されていたそうなので、たしかに、伝説の補強という点では『同じく頭がとれた』というのは大きかったのかもしれない。
「やれやれ、たったこれだけを確かめるために1500円も取られてしまったな……」
「ほんと、災難ですね……もうこないようにしましょう『カツアゲロード』……」
幸い、カツアゲロードの奥には六壁神社方面へと通じる狭い階段通路がある。二人は夕方というには、既にだいぶ日が傾いた中を神社へと向けて走った。
「さて、問題の六壁神社だが……何か変わりは? カフェ」
夕方の境内。いわゆる『逢魔時』の神社は静寂に包まれていて、確かに何か、人知の及ばないモノがでてもおかしくなさそうな雰囲気を湛えていた。タキオンは古代の人々はこうした時間のさあさあと揺れる木々の木漏れ日の中に天狗の影を見たり、木の洞の中の見通せぬ暗闇の中に、鬼を見たりしたのか。と想像を巡らせる。
「カフェ……?」
アグネスタキオンが振り向いたとき、マンハッタンカフェはじっとりと汗をかきながら神社の境内のとある一点を凝視していた。
「居ます」
それだけを言うと、カフェはタキオンを守る様に前に出る。タキオンは、カフェの視線の先に目を向け目を凝らしたがそこにはアリが群がった、力尽きたセミの死骸が転がっているだけだったがそれが死を暗示するようで、タキオンには異様に気味が悪く見えた。
「あなたは……なあに……?」
しかし、マンハッタンカフェは恐れず『なにか』に話しかける。あなたはなあに、と。繰り返し、繰り返し。
「…………これは。」
だが、それから少ししてマンハッタンカフェは怯えたようにその身を震わせた。
「……これは、だめだ。いけない」
平時、マンハッタンカフェは『あの子』やほかの『なにか』について語るときに決してそれらを否定せず、受け入れるようなスタンスを取っていた。時には、自分が何らかの『被害』を受けても、優しく包み込むように。それはタキオンも知っている。
――そのカフェが『これはだめだ』と言っている。
「こいつは……ヒトに寄生するんです……『六壁坂』から来たんだ。おなじ『六壁』であることを利用して、『うわさ』の蔓延を利用してッ……『侵食』しようとしている……! だめだ、だめだ、だめだ、こんなのが世に出たら……!」
がくり、と力が抜けるように膝からその場に崩れるマンハッタンカフェ。
「か、カフェ……?」
「タキオンさん、今から、絶対に後ろを振り返らず逃げてください。『子供』に気を付けて。『怪異』の『子供』に――」
「ハッ……」
『子供』というワードと共に、タキオンは目の前にいる影に気づいた。いつのまにいたのか。それは先ほどのソフトクリームでひと悶着あった、子供だった。
「お姉ちゃんが……お姉ちゃんが――」
子供が、タキオンに触れようとするように手を伸ばす。
瞬間、タキオンは『カフェの手を引いて』逃げた。カフェの言葉は言外に『自分を見捨てろ』というニュアンスを含んでいたが、決して手を離さないように……無理やりに引っ張る様に、とにかく走った。背後からは待って、という声が聞こえたような気がしたが、もう、そんなものを気にする余裕もなかった。
走って。走って。走って。転んで。すりむいて。たちあがって。はしって。はしって。はしって。
気がついた時には、私たちは『寮』の布団で寝かされていた。なんでも、二人して熱中症で倒れていたところを保護されたらしい。夕方の比較的涼しいときに出たことが幸いし、もし、昼間なら危険な状態だったかもしれないそうだ。それから翌日の精密検査でも異常がなかった我々は夏季合宿に再び合流した。
「カフェ、ロードワークにでも行くとするか。『熱中症』で倒れない程度に」
「はい、タキオンさん」
しかしもう、我々の間で『ジョニィ・ジョースターの呪い』のことが話題に上がることもなかった。上げたいとも思わなかったし、周囲のブームはもうすぎさってしまっていたからだ。
なんとも、我々は無駄な骨折りをしたものだ。
……だが、結局あれがなんだったのか。私はその後、少しだけ調査を行ってみた。カフェがあの時口走っていた『六壁坂』という地名は、実在する。なんでも、元々はリゾートの開発計画が持ち上がっていたところをどこぞの富豪が買い取ったせいで、リゾート計画がご破算、地価が暴落し今は、山間の味噌づくりの名家があるくらいらしい。
そして、その『六壁坂』には『妖怪伝説』がある。
その妖怪伝説の内容こそはわからなかったものの、民俗学的な一つの仮説が立てられる。それは『感染』だ。たとえばジェームズ・フレイザーの『金枝篇』でふれられているように『呪術』の中には病気めいて他人に『感染』していくものがあるという。最初はおそらく、たわいのない噂だったのかもしれない。しかしそれが『怪異』や『妖怪』をひきつけやすい空気感を蔓延させ……『六壁坂』という場所から、『なにか』が何らかのゆかりを持つ『六壁』の地に悪意を持ってその触手を伸ばそうとしたのではないか……
わたしは非科学的ではないかと思いつつ、そう結論付けた。
「あ、タキオンさん。大丈夫でしたか? カフェさんも。大変でしたね。熱中症なんて――」
と、同じタイミングにロードワークに出ようとしていたとある後輩ウマ娘が、声をかけてきた。
「いや……我ながら自己管理が甘いと痛感したところさ。カフェももうちょっと注意してくれないと~」
「……私の責任ですか?」
「半分はね」
と、後輩ウマ娘がそんな先輩たちに体を冷やすためのいいお話があるんですよーと話しかけてきて。
「――『六壁坂』ってしってますか?」
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