マンハッタンカフェは動じない   作:むうん

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#024『感染』

 あの素晴らしき1990年代。今ではもはや見なくなったものは多数ある。ポケベルは折り畳み式携帯電話にとってかわられ、それもスマートフォンに駆逐され。MDやフロッピー、使い捨てカメラは姿を消し。ビデオテープはDVDにとってかわられたかと思えばブルーレイディスクに置き換わっていく。

 

 インターネット黎明期の未来技術への期待はいつしか手あかに汚れ、人々は刺激を求めて日々、猥雑なSNSにアクセスする。

 

 今思えば科学、特に映像技術の進歩はある意味ではTVの娯楽を狭めた。誰でも――今となってはスマートフォン一つあれば素人でも映像加工アプリでいかようにも動画が作れる昨今では『ネッシー』『UFO』『心霊映像』などといった番組は下火になった。不明瞭であやふやであったからこそ……その存在を許されていたものにピントが合わされ、その神秘性……ある種の神話性を失ってしまったのだ。怪異や怪談はそうなれば、急速に廃れていく……

 

 だが……今回紹介するお話はそうした、時代のあだ花の話である。ある意味では回顧主義的な話かもしれない。かつてはTVで特集されたりレンタルビデオショップのホラージャンル内にいくらでも置かれていた『呪いのビデオ』の話であるのだから。

 

 これは『キタサンブラック』と『サトノダイヤモンド』が体験した……『恐怖』の物語のはずだった。

 

 

 

◆◆◆ マンハッタンカフェは動じない #24 『感染』 ◆◆◆

 

 

 

「ダイヤちゃ~ん! ごめん! 待たせちゃった!」

 

「キタちゃん! ううん、そんなことないよ!」

 

 その日、キタサンブラックとサトノダイヤモンドは府中駅前で正午に待ち合わせしていた。今日は所謂オフ日であり、トゥインクルシリーズを目指す過酷なトレーニングとレース漬けの日々の中で貴重な休息のための自由時間だ。

 

「じゃあえっと、さっそく行きましょうか、キタちゃん!」

 

「うん、えーとまずどこに行くんだっけ? 河川敷?」

 

「そう! 最近、河川敷の公園に『フライングヒューマノイド』が現れるんだって! 『ジンクス』とは少し違うけれど……面白そうだし行ってみようよ!」

 

 最近、トレセン学園の生徒の間でブームとなっているのは『90年代カルチャー』である。これはマルゼンスキーやシーキングザパールなどが『最新の流行』だと言ってやりはじめたのが発端なのだが、実力、人格、カリスマを備える彼女たちが火付け役と言う事もあり瞬く間に広がっていった格好だ。

 

 大抵のものはファッションにややレトロなそれを取り入れてみたり、マルゼンスキーから『イケてる』単語を教えて貰ったりなどして使っている程度だが、サトノダイヤモンドは1990年代の『怪奇』ブームに興味を持った。元々、決まった運命など存在しないという考えから『ジンクス』を破ることに並々ならぬこだわりを持つダイヤの事。例えば見たら呪われるとか、そうした怪奇ムービーを見てみたりしてそのジンクスを次々と破っていたが、それが高じて『UFO』『UMA』『心霊』『オカルト』といったものにも興味を持ったのだろう。ちなみにズジスワフ・ベクシンスキーの有名な『3回見たら死ぬ絵』のコピーを3枚並べて半日ほど眺めていたことすらあった。(ちなみに当然ながらダイヤは死んでいないのでジンクスは破られた)

 

「フライングヒューマノイド? フライングが飛ぶ……ヒューマノイドが人間。だから、飛ぶ人間!? すごい!!!」

 

 キタサンブラックは手を打ち合わせて驚く。しかしダイヤはくすくすと笑って。

 

「飛ぶ人間は実際にはたぶんいないと思うけれど、居たらすごいことだよね。楽しみだね、キタちゃん!」

 

「いないものを探しに行くの??? どういうこと?」

 

 頭の上に?を一杯浮かべたキタサンの手を笑顔で引きながら、ダイヤは河川敷を目指す。

 

 ……フライングヒューマノイドとはメキシコで2004年に警官が襲撃された事件を機に多く目撃されるようになった人型の未確認生命体である。目撃に関しては最初に事件が起こったメキシコを中心に多く発生しており、魔女のようなローブを着ていただとかの目撃証言もあり、この日本でも目撃証言は少数ながら存在する。

 

 なお、未確認情報ながら1987年にもエジプト・カイロ上空で2体のフライングヒューマノイド? が空中で戦うような動きをしていたなどというものもあるが同日はカイロ市内で大規模交通事故やロードローラーの爆発横転など重大事故が多発しており、これは群集心理による集団幻覚ではないかとも言われているようだ。

 

「じゃあ、もうお昼過ぎだし……ごはんにしよっか、キタちゃん。ちゃあんとお茶、持ってきてあるから」

 

「やったあ! こうやってビニールシートの上でお茶を飲むのも久しぶりだね……!」

 

 ……そんなこんなをキタサンに解説しながら河川敷まで歩いてきたダイヤは、河川敷公園の一画にビニールシートを広げかつて、キタサンらと共に競バ場の列に並んだ時のようにお茶をコップに入れて。今でもレース前にはダイヤのいれたお茶を飲むのはキタサンにとってもルーチンのようなものだが、別段並ばずとも関係者として競バ場に入れるようになった今では、ビニールシートのうえでお茶を飲むというのもなかなか無い事となってしまった。

 

 河川敷公園はゲートボールのグラウンドとウォーキングコース、そしてベンチなどが整備されており人がごった返している……とはいかないがウォーキングを楽しんだりする人々の姿がまばらに見える。ダイヤのお茶。そして持ってきた自家製おにぎりをほおばりながらお目当てのフライングヒューマノイドを探そうと、キタサンが空に目を向けると……

 

「あ」

 

 空中を泳ぐ、人型の物体。くねくねと足を動かすその動きは軟体動物のようにも見えるが見た目は完全にワイシャツとスラックスのサラリーマンめいた人間の姿だ。頭はこけしめいてやや大きいがご丁寧にメガネまでかけている。

 

「ダイヤちゃん! いたよ! フライングヒューマノイド!」

 

 わあわあ、と慌てるキタサンだったが対するダイヤのほうは口に手を当ててふふっと笑みをこぼし、地上の一点を指してみせた。

 

「やっぱり。キタちゃん、あれを見て」

 

 そう言って、ダイヤが指さしたのは地上から何かを引っ張るような仕草をする男性の姿だった。よくよく見れば……その男性の手からは上空に向けて『太い糸』が伸びており……それは例のフライングヒューマノイドとつながっている。

 

「凧……」

 

「そう。やっぱり凧だったんだね。これでまた一つ、ジンクス……じゃあないけれどオカルトの正体を見破ったよ!」

 

 そう、日本で見つかったフライングヒューマノイドは人間型の凧であったのだ。類似の事例としてはフライング・ヘアー……空飛ぶ髪の毛というものがあるがこれは黒いビニールシートが強風で上空まで飛ばされたものを誤認したか、あるいは中国製の大型の黒い凧ではないか、という事で一応の決着がついているのだ。メキシコでの警官が襲撃された事例も、恐らくは大型の鳥類をパニック状態で誤認したのではないかとも思われる。実際これに関しても似た例を挙げると有名UMA『モスマン』も黒いビニールシート、もしくはイヌワシであろうという説があるのだ。

 

「幽霊の正体見たり枯れ尾花……ってやつなのかな。でもあんな大きな凧、売ってるんだね……飛ぶ人間が見られなかったのはちょっと残念だけど……」

 

「ふふ、そうだね。でも私はキタちゃんとこうやって久々にピクニックできて楽しいから満足かな。さ……そろそろお腹も膨れたし、『次』の所にいこっか!」

 

「うん! そうだね! でも次は何を探しに行くの……?」

 

「次はね……『呪いのビデオ』を探しに行こう!」

 

 こうして、フライングヒューマノイドの正体を見た二人はまだまだ遊び足りないと今度は繁華街の方に駆けだしていく。府中の駅前の中でもややディープな雑居ビル街の中に、ダイヤのお目当ての店はあった。いかにもサブカルチャー偏重と言った感じの個人経営ビデオ店で、本来なら日本では再生できないリージョン違いの海外のインディーズDVDだとかまでが置いてあるのだそうだ。

 

 そのお世辞には広いと言えない店の中の『ホラー・オカルト』棚を漁る二人。

 

「えーと……『実録:宇宙人との邂逅録』……『監視カメラがとらえた!恐怖映像100』、『地上波発禁映像!呪いのフィルムは実在した』、『現役エクソシストが語る!霊的事件簿』、『NASAから流出した宇宙人解剖フィルム』……うひゃあ……」

 

 ダイヤがかごに放り込んでいくいかにもなタイトルのDVDやビデオテープ。どれもこれもがおどろおどろしく恐怖をあおるジャケットをしており、キタサンはさすがにちょっとビビった。が、同時にこれは作りものなんだな……という感じもひしひしと受けた。商業用に売るために作られたこれらは結局、フェイク感があり神秘性だとかそういうものに欠ける……というのだろうか。

 

「こんなところかな……キタちゃんはなにか、借りたいのある?」

 

 こうして、ダイヤは合計八本のDVDやテープをレンタルし、寮に帰った(キタサンは見ているだけでお腹いっぱいになったので借りなかった)。このご時世、ビデオデッキは珍しいように思えるかもしれないが古い時代の映像資料もトレセン学園には残されているためビデオデッキどころかLDだとかまで再生できる機材が整っており、視聴には特段の不便はないのだ。

 

「今の宇宙人の解剖ビデオ、どうみても怪しかったね……」

 

「たしかに言われてみるとこのところとか、なんか……作り物っぽいね……」

 

「でもさっきのビデオのえくとぷらずまー? はどうなんだろ……」

 

「あれも色付きの綿じゃあないかなあ……」

 

 二人は、寮の談話室のデッキ前に大量のスナック菓子を準備し、クッションを抱きながらだらだらとビデオを見続ける。ダイヤは真剣だったし、キタサンも興味はあったので八本、合計6時間にも及ぶ映像を突っ込みを入れながら一気に駆け抜けてしまった。

 

「ふうーっ……一気に見ちゃったねダイヤちゃん。でも久しぶりにだらだらした休日ーって感じで疲れが取れた気がするよ!」

 

 盆に残っていたスナックの最後の一つを口に放り込み、のびをするキタサン。少し出かけてから友達と一緒にだらだらと会話しながらTVを見て過ごす。とても贅沢な一日の使い方をした気がする。消灯時間ももうすぐだ。そろそろ、自室に戻らなければならないのだが……

 

「ダイヤちゃん?」

 

 ダイヤはビデオの貸し出し用バッグからひとつのビデオテープを取り出し、不思議そうにそれを眺めていた。特段タイトルの書かれていないそれ。

 

「九本目があるの。八本しか借りてないはずなのに」

 

「えっ?」

 

 たしかにダイヤが借りていたビデオは八本……バッグの中のレシートにもそうある。

 

「……前借りていた人のが取り出されずに忘れられてるんだよ!」

 

 キタサンは、個人経営のお店だしそういうこともあるよね、あはは、とあいまいに笑いながら席を立とうとした。しかしダイヤは興味深い……と言う風にそれをデッキに入れる。結局キタサンはそれに引きずられるような形でもう一度クッションを抱いて座った。

 

「………………」

 

 ほんの少しの白黒ノイズが流れてから唐突に本編が始まる。映像はハンディカムで撮影されたようなもので、どこかの田舎の市街地だろうか?画面右側には鉄道線路らしきものが見えるが、よく確認できないためそう断言もできない。ざく、ざくと砂利を踏みしめる音と共に、撮影者は鉄道沿線?を歩いていく。時期は夏だ。セミの鳴き声が聞こえる。

 

 しかし真昼間だというのに、重苦しい湿気がこちらまで伝わってくるような閉塞感がある……考え過ぎだろうか。それとも、撮影者が全く喋らない事も、田舎といっても町中であるのに人っ子一人見当たらない事もそう感じる一因なのだろうか……。

 

「………………」

 

 と、撮影者の歩みが止まり、見上げるようなアングルで錆や痛みがひどいほぼ廃屋と言ってもいいような2階建ての古い木造アパートが映し出される。その2階に階段を使って上がっていくが、恐らくもうこのアパートに住民はいまい。実際、新聞受けには朽ちた新聞の痕跡のようなものがあったり、曇った窓越しに室内にも蔦植物が繁茂している様などもうかがえた。

 

 ――がちゃり。

 

 カギがかかっていないか、あるいは壊れて外れたのか……撮影者は2階最も奥の部屋へと入った。室内は荒れ放題であり、雨漏り跡が酷い。歩くたびに埃が舞い上がっているが……居間のようなスペースには床が完全に腐って抜け落ちており、一階の部屋に通じる穴ができている。

 

「はいはい、ポニーちゃん! TVを消して。もう眠る時間だよ」

 

「わっ!」

 

 と、妙に画面に集中していたところに背後から声を掛けられる。寮長フジキセキがまだ自室に戻っていないキタサンとダイヤに不意に声をかけたのだ。思わずウマ尻尾をびくりと震わせるキタサン。

 

「ご、ごめんなさいっ……ダイヤちゃん、早く部屋に戻ろ!」

 

「あ、う……うん」

 

 ダイヤは妙に歯切れが悪くキタサンの言葉に答えた。

 

 それから。自室に戻った二人は歯を磨いて寝る準備を整える。その時ダイヤが少し不安げに、キタサンに問いかけた。

 

「最後の女の人の顔、いきなり出てきてすごかったね。作り物っぽいけどびっくり映像系はちょっと苦手だな……」

 

「え? そんなのあったの?」

 

 キタサンはその場面を見ていない。フジキセキが声をかけてきたため咄嗟に振り向いたからか?

 

「あれ、キタちゃんみてない? そっか……最後に女の人の顔のアップが映ったの。それから『あなたの次』って言って……」

 

「うん?」

 

 画面から目を離したが、キタサンはそんな声は聴いていない。映像は最後まで環境音以外無言だったはずだ。

 

「『あなたの次』ってどういうことなんだろうね……とりあえずお休み、キタちゃん。また明日ね!」

 

「あ……お休み、ダイヤちゃん」

 

 ……結局、その日はキタサンもダイヤも、何事もなく就寝した。そして次の日。同級生であるキタサンとダイヤは午前中互角の授業を受けたが妙にダイヤの様子がそわそわしているのだ。時折、窓の外を眺めては顔をしかめている。なにかあったのか、と休み時間に聞いてみたものの『多分気のせい』としか言わないダイヤに、キタサンは困り果ててしまった。

 

「お助け大将キタちゃんにドーンと話してくれていいんだよ? ダイヤちゃん……!」

 

「ううん、本当に何でもないの。昨日一気にビデオを見たから逆にちょっと疲れちゃったみたい……」

 

「そう? じゃあせめて私が肩を揉んであげるよ! マッサージ得意だから、ね!」

 

「わ、わひゃあっ! キタちゃんくすぐったいよ! あはは!」

 

 その日は結局、それで終わったものの……ダイヤはそれから妙に不安げな表情を作ることが多くなる。特に一人で行動する事を嫌がり、必ず大浴場にはキタサンと時間を併せていくようになったし、例えば階段下のスペースのちょっとした暗がりや体育倉庫などにいくのも妙に怖がるようになった。キタサンはそのたび、ダイヤに何があったのか、と……自分でもしつこいかと思う程度には聞いて回り……そしておおよそ4日後にその理由を聞きだすに至る。

 

「ダイヤちゃんにだけ、女の人が見える?」

 

「そう……なの……この前借りたビデオの中にあった何も書いてないテープ……アレの最後に映った女の人が、いろんなところに立ってるの。最初は見間違いかとも思ったんだけど……」

 

 そう言って、ダイヤは力なく部屋の窓の外を指さす。

 

「覗いてるの。今も」

 

「そ、それって……」

 

 キタサンはぞっとした。窓の外には、たださあさあと雨が降りしきるばかりで遠くの街頭や街の明かりがぼんやりと雨粒に映るばかりだ。ダイヤはこんなことで人をからかったりするようなウマ娘ではない。これは……いわゆる、幽霊に『憑かれる』というやつではないのか。となればきっかけはどう見ても、あの名前のないビデオテープだ。

 

「だ、ダイヤちゃん……! 何か痛い所とかはない? なにかされてない? 大丈夫!?」

 

 キタサンは不安になりダイヤの肩を掴んでゆすってしまった。しかし、ダイヤは困ったようにあいまいに笑みを浮かべて。

 

「だ、大丈夫。大丈夫だからキタちゃん。あの『女の人』は立っているだけなの。何かされたとか、してくるとかはないみたい……さすがにずっと見られていると気疲れはしちゃうけれど……」

 

「う、うーん……」

 

 これはお助けキタちゃん史上最大の危機かもしれない。大親友が困っている。しかし、幽霊相手にどうすればいいのか。全く思いつかない。だが……なにかしなければ、なにか……!

 

「と、言う訳なんです……トレーナーさん」

 

 翌日、キタサンとダイヤはトレーナーであるあなたにこのことを相談してきた。かといってあなたも幽霊が如何のだとか言われたところで、それをどうすることもできないし、寝耳に水と言ったところだろう。

 

「うーん、盛り塩とかすればいいのかな……六芒星の中心に立って迎え撃つ! とか……」

 

 頭を悩ませながらキタサンがあーでもないこーでもないと唸る。

 

「ダイヤの軽率な行動でご迷惑をおかけして申し訳ありません、トレーナーさん……」

 

 ダイヤもあまり寝られなかったのか、すこしぽーっとしているが申し訳なさそうに頭を下げてきた。だが、担当ウマ娘になにか問題があればそれに対処するのがあなたの仕事だ。ここはあなたが一肌脱がねばならぬ……のだが。とにかく、幽霊相手はどうしたものだろうか。ちなみに、ダイヤの言によれば今はどういう訳かいないらしい。

 

「ちなみに、これが例のテープなんですけど……」

 

 そういって、キタサンが差し出したのは何も書かれていないビデオテープだった。これが事件の元凶らしいが。

 

「……あたしは、その女の人の顔が映るシーンを見てないんです。本当に女の人なんて映っていたんですかね……? 危ないかもしれませんが……確認してみるのもいいかもしれません。あたしは、ダイヤちゃんが聞いたっていう声も聞こえなかったんです。何かの、思い過ごしかも」

 

 そういうキタサンは、何か解決策を見つけたいがゆえに焦っているように見えた。だが、例の映像を確認した方がいいのは事実だろう。なぜダイヤだけがその女の姿を見て、声を聴いたのだろうか。それを確かめるにはまず一度見るしかない……。

 

 こうしてあなたはそのビデオを見てみることにした。危ないと言って止めたのだが、キタサンも私も見ますと言って止まらず結局あなたとキタサン、そしてダイヤが3人でもう一度、それを確認する運びとなる……

 

「………………」

 

 ほんの少しの白黒ノイズが流れてから唐突に本編が始まる。映像はハンディカムで撮影されたようなもので、事前に聞いていた通りどこかの田舎の市街地だ。画面右側には鉄道線路らしきものが見えるが、よく確認できない。ざく、ざくと砂利を踏みしめる音と共に、撮影者は鉄道沿線?を歩いていく。時期は夏だ。セミの鳴き声が聞こえる。

 

「………………」

 

 撮影者の歩みが止まり、見上げるようなアングルで錆や痛みがひどいほぼ廃屋と言ってもいいような2階建ての古い木造アパートが映し出される。その2階に階段を使って上がっていくが、恐らくもうこのアパートに住民はいまい。実際、新聞受けには朽ちた新聞の痕跡のようなものがあったり、曇った窓越しに室内にも蔦植物が繁茂している様などもうかがえた。

 

 ――がちゃり。

 

 撮影者は2階最も奥の部屋へと入った。室内は荒れ放題であり、雨漏り跡が酷い。歩くたびに埃が舞い上がっているが……居間のようなスペースには床が完全に腐って抜け落ちており、一階の部屋に通じる穴ができている。その時、ふいに撮影者が振り向いた。

 

暗闇の中に、画面全体を塞ぐようにまで大写しになる女の顔。

 

「お前だ」

 

 女は目を見開き、そうつぶやいた。

 

………………

 

…………

 

……

 

 

「あれ? なんにもない? 確かにここで女の人が……」

 

「ほら、やっぱり! きっと気のせいだったんだよ! はーっ……」

 

 ダイヤは不思議がり、キタサンがほっと胸をなでおろしたかのようにため息をつく。そしてキタサンはこう言うのだ。

 

「トレーナーさんも何も見えなかったですよね! おつかれさまでした!」

 

 

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