マンハッタンカフェは動じない   作:むうん

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#032『越えていけ』

 ツインターボは案外、インドア趣味である。ウマ娘である以上、身体を動かす事は好きだし、別に人づきあいが嫌いだというわけでもない。ただ余暇の使い方となると自室にいる間はPCに向かってちびちびと動画コンテンツを作ったり、ゲームをしたりといわゆる『今風』の過ごし方というのだろうか。そういう形をとることが多いのだ。

 

「あ゛~~~……ちょっと飽きてきたな……」

 

 その日、ツインターボはトレーニングを終えて自室に帰ったのち食事やシャワーなどを終えてから自身が最近はまっているオンラインゲームのいい感じのプレイ場面や笑える場面を切り抜き、継ぎはぎして動画を作っていた。とはいえ、飽き性でコロコロとやりたいことが変わるターボのこと。半分ほど動画作成作業を進めたところで、気力が切れてしまった。

 

「ハハッ、ターボらしいや! まぁ、根を詰めすぎても良いモンはできねえ。ちょっとばかし一息入れな」

 

 ベッドに寝転がって漫画を読んでいたが、その様子を見て快活に笑いながら一丁、茶でも入れてやるかねえ。といって立ち上がったのは同室のイナリワンである。面倒見のいいイナリはターボからも姉めいて慕われており、他のチーム・カノープスメンバーや終生のライバルであるトウカイテイオーといった特に仲のいいメンツが美浦寮ではなく栗東寮であることから、生活面に関してもかなりフォローしてもらっている。

 

「は~い……」

 

 ターボはイナリが茶を入れ、下町のおっちゃんから差し入れで貰ったみたらし団子があったかね……と冷蔵庫を探しているのをぼんやりみつつ、手持無沙汰だったのでウマチューブのトップページを開き、面白そうな動画がないかぼんやりと『あなたへのおすすめ』をチェックする。ゴルシちゃんのぱかチューブを皮切りに……DJヘリオスのぱかあげミックス……タイキシャトルのアメリカン日常動画やファインモーションのラーメン系チャンネルなど、人気のあるものがぱっと出てくるがどれもすでにチェック済みだ。何かないものか……

 

「ん~? 『世界のオカルト事件簿チャンネル』?」

 

 ふと、新着動画のほうにあった一つの動画になんとなく目が行く。これはたしか、そこそこ有名な『超常現象系ウマチューバー』が投稿しているシリーズだったか。聞いたことはあるが、見たことはなかったな……と思ったターボは何の気なしにその動画をクリックした。

 

「はいよターボ。みたらしはレンジで温めといたからお茶共々、ヤケドに注意しな」

 

「あっ、イナリありがとう! へへっ、ターボね。最近、和菓子のおいしさに気づいたんだ~。お茶と一緒に食べるとあまみとにがみ? なんかこう、その二つの正反対の感じが癖になるぞ~!」

 

「へっ、ターボも気づいたか! 和菓子はそれだけで喰うと甘ったるくていけねえが、それは茶と合わせて食べる事を前提にしてるからだからな」

 

 そういいつつ、イナリも何となく椅子を持ってきてターボの隣に座る。イナリは普段、あまり動画サイトなどを見るほうではないのだが、自分の分も茶を淹れたので、ターボと雑談がてらTVをなんとなく見るような感覚だ。そんなこんなで、動画が始まる。最初はお決まりの如く、超常現象系ウマチューバ―とやらの挨拶から始まり、軽いネタもそこそこに本編であろう『オカルト事件』の紹介が始まった。その名の通り、このウマチューバ―は世界中の怪奇現象や未解決事件、オカルト、UMAなどを手広く紹介しているらしい。

 

「では今回取り上げるのはこちら! 『死に続ける男』と『死神石』の二本でーす! 両方、けっこーマイナーな都市伝説だから知らない人も多いと思うよ」

 

「おお~なんかそれっぽいな……なんだろう、こういうのってちょっと怖いけど妙なワクワク感もある……」

 

「ほー、そんなのがあるんだねえ。番町皿屋敷やらは日本橋の演芸場で聞いたことがあるが、こいつはホントに全然聞いたことねえや」

 

 みたらし団子をかじり、熱い茶を啜りながら画面を見つめる二人。まず、解説が始まったのは『死に続ける男』のほうである。画面に、いくつかの写真が表示される。それらはおそらく、監視カメラ映像や街頭ビューなどのものであり、解像度はまちまちではあるが一様に『ピンク色の派手な頭髪をした、大柄な男』が写っているのが分かる。

 

「これはそれぞれ、2001年のアメリカ、2004年ブラジル、2009年と2011年に中国、2015年にスウェーデン、2018年にトルコ、最新のものは2021年にマレーシアと時代も場所もバラバラにカメラに写り込んでいたものですが……この特徴的なピンクの長髪や奇抜な服装、体格はどう見ても、同一人物ですよね。この人は、世界中を旅行して回っている……というわけではないんです。なぜなら……」

 

 解説とともに、一つの画像がアップで表示され続きと思われる映像が再生される……

 

「ぎゃっ!?」

 

「げっ!?」

 

 そのショッキングな映像に、ターボとイナリは思わずびっくりして声を出してしまった。何故なら、明らかに挙動不審……なんらかの物に怯えた様子の男はちょうど通りかかった通行人が連れていた犬に背後から吠え掛かられたことに驚いて……躓き、車道に倒れた。そしてそこに、高速で乗用車が通りがかったのである。さすがに映像はそこでストップしたが、この直後にこのピンク色の髪の男が車に轢かれたことは想像に難くない。そして、車の出していたスピードからして……

 

「……この男性の名は『ソリッド・ナーゾ』。イタリア人。詳しい経歴はイタリアの当局にもほとんど残っておらず、このナーゾという名前もおそらく偽名。不明な点が多いですが、『ギャング』に関わっていたと言われています。これだけでもまさしくミステリアスなのですが、真にこの男が『奇妙』なのは……世界各地で『死ぬ』ところが目撃されている点です」

 

 2004年のブラジルでは路地裏で刺殺、2009年の中国ではバイク事故、2011年のほうでは落雷が直撃し死亡、スウェーデンでは射殺。トルコでは高層ビルから転落。マレーシアでは倒木の下敷きになったといい、最初のものと同様、『死』の直前でストップされたであろう動画が次々と再生された。また動画こそないが、噂ではなんと、ベーリング海をクジラの生態調査のため潜航していた小型潜水艦の乗員が深海でこの男が息ができずもがいているところを目撃。艦載カメラで撮影までしているらしいとウマチューバ―は語る。

 

「しかし不思議なことに、どのケースも『死体』が残っていないんです……確実に死亡したであろうに、いつのまにか死体が掻き消えている。当然、事件になったり、各国の病院や警察などに記録も残っていません。いったい、彼は何なのか? もしかすると、次に彼の『死』を目撃するのはあなたかもしれません!」

 

「う~……な、なんだかえらいのを見てしまった……」

 

「そうさね……これはあんまりおやつ時に見るもんじゃあなかったな……」

 

 ……何だかんだ見てしまったが、少々刺激が強くターボもイナリもちょっとげんなりしてしまった。さらにお茶をずるずると啜るが、みたらしはなんとなく手が出ない……

 

「では、次は『死神石』の紹介をしましょう。じつはこっちはあんまりネタがないんだよね。ぶっちゃけ、『死に続ける男』がけっこーインパクト強いんでそのおまけかな。ただ、映像はあるし……共通点があるので取り上げてみました」

 

 そう言って映し出されたのは、一抱えほどある大きさのまるっこい『石』であった。どこか、海外の街並みの歩道にでん、と置かれたそれには『凶』という漢字にも似た切れ込みが入っており、現代アート作品かなにかのようにも思える。実際、撮影者もそんな風にでも思っているようで……特に変わった様子などはないように思えたのだが……

 

「あ、動いた」

 

 と、ずず、と『石』が一人でに動いたのである。動画の撮影者も少し驚いたような声。しかし、動くだけならモーターだとかラジコンだとかあるだろう。これだけなら、現代アートの域を出ない、のではないだろうか? 結局、映像はそのまま何かしらの事件が起こることもなく終了した。

 

「えーこれについてはですね。動画はこれだけなんですが……この『死神石』もイタリアのネアポリスを中心に、各地で目撃例があります。で……なんでも、これに触ったら『死ぬ』という噂なんですが……2001年にこの『死神石』を持って飛び降り自殺をした女性がいるということは、警察などでもいちおー記録として残ってるみたいですね。ただ、それから半年後に同じくこの石らしきものを持って建物から飛び降りるも、アスファルトではなく車の屋根に落ちたことで偶然『軽傷』で済んでる男性の目撃証言があるんですよね。まったく『死ぬ』のか『死なない』のか……」

 

 例のウマチューバ―も半信半疑という風だ。結局そのまま動画自体も軽い感想を挟んで終了し、これまたお決まりの動画が面白かったら、ウマいね! とチャンネル登録おねがいします。という〆で終わった。

 

「はふ~……」

 

「うーん……」

 

 ターボとイナリは、最初の『死に続ける男』でだいぶやられてしまい、なんとも言えない表情でウマチューブを閉じる。結局、みたらし団子には手を付けなかったが、このままだともったいないのでもそもそと口に運ぶと、すっかりぬるくなってしまった残りの茶でそれを流し込んだ。

 

「寝るかー……」

 

「おうさ、妙なモン見ちまったが、一晩ぐっすり寝れば休息はバッチリってね」

 

 こうして、二人はその日はそのまま少しだけ早めに、床に就き……すぐに寝息を立て始める……

 

 

 

◆◆◆ マンハッタンカフェは動じない #032 『越えていけ』 ◆◆◆

 

 

 

 次の日。ターボは早く寝たこともありすっきりと目覚めると動画のことなどもはやすっかり忘れて、午後のトレーニングにもやる気を出した(なお午前の座学では普通に居眠りしたが……)。

 

「よーし、妥当スピカだーっ! ターボエンジン、全開ーっ!!!」

 

「うんうん、妥当スピカするぞ~!」

 

「ターボさん。タンホイザさん。おそらく、というか今更ではありますがニュアンス的に間違いがあるかと。正しくは打倒です」

 

「ターボ~、やる気出すのはいいけどそれじゃ体力持たないよー……ペース配分ペース配分。あとおマチさんも気合入れすぎると鼻血とか蕁麻疹出すからほどほどに……というか、ニュアンスの違いというのがネイチャさんにはよくワカンナイのですが……」

 

 ターボを先頭に、学園の周囲を流すチーム・カノープスの面々。おマチさんことマチカネタンホイザはむんっ、とターボに続いて気合を入れ、それの微妙なニュアンスをイクノディクタスが訂正して、ナイスネイチャもさらにそれにフォローやら突っ込みを入れた。いつも通りの、たわいないトレーニング風景……

 

「ハァーッ! ハァーッ! ……『スロー』だが、この『石』は、いったい!? だがッ! 『帝王』はこのディアボロだッ!」

 

「テイオー!?」

 

 と、ターボの鋭敏なウマ耳に『帝王(テイオー)』という単語が飛び込んできた。二冠ウマ娘にして、不屈のウマ娘。自身にとっての終生のライバル。未だ対決経験はないが……とにかく、トウカイテイオーの名を聞いてはじっとしていられない。

 

「おわああ~!?」

 

「ターボさん!?」

 

「あ、ちょっと!? もう~!!!」

 

 ターボは突如、いつものトレーニングコースから外れ、市街地のほうへと駆け出していき……それにつられるように、カノープスメンバーもターボを追う。

 

「ハァーッ! 一体、『いつまで』逃げれば終わりが来るんだ……これもなんらかの『ヤツ』の能力なのか……!? し、しかし……なぜ急に『予知』し『躱せる』ようになったのだ……今までは我が『キング・クリムゾン』のいかなる能力も全くの無力だったというのにッ……」

 

 そして、行き当たったのは……妙な光景だった。『ピンク色の髪の男』が荒い息をつきながら、丸っこい『石』とにらみ合っているのだ。そしてその石は――まるで意思を持っているかのように動き、時にはラグビーボールか何かのような軌道で跳ねて男にとびかかっているッ! マチタンはあきらかに『普通』ではないそれに少しばかり『恐怖』を感じたし、イクノとネイチャは『なんだかわからないがヤバイ』と戦慄した。しかし――

 

「ッ……!」

 

 ターボは何を思ったか、いきなり男のほうへと走り出したッ! 何故!? 突然の行動に、カノープスの面々は静止する声すら出せなかった。

 

「しかし、『回避』できるぞッ! 我が『墓碑銘(エピタフ)』でッ! 『予知』し『回避』できるなら……俺はもはや『落とし穴』に二度と落ちることはないッ!」

 

 『ピンク色の髪の男』――ディアボロは過去に、『パッショーネ』という本拠地イタリア、ひいてはヨーロッパ全体にまで影響力を持つギャングの『ボス』であった。巧妙かつ偏執的なまでに過去を、自分の正体を隠し、裏社会の頂点にたどり着いたディアボロはその実、強力無比な天性の才能(ギフト)を持っており――

 

 その能力――『キング・クリムゾン』は……『数十秒程度のごく近い未来を予知し、さらにその中の不都合な部分を任意に消し飛ばす能力』。消し飛ばされた部分は『無かったこと』になり、その中を自由に動けるディアボロ以外の他の生物には認識できず、急に時間が進んだように感じるかそもそも時間が飛んだことに気づきすらしない、という無敵にも等しいものである。

 

 その予知能力――ディアボロが『墓碑銘(エピタフ)』と呼ぶそれは、さきほどから『奇妙』な『石』の攻撃を知らせていた。その『石』は『自身の顔』が彫り込まれた不気味な物で、予知によればそれに触れれば『死ぬ』。だが、スピード自体はさほどではない。もし、予知の中でいきなり妙な動きを岩が取り、触ってしまっていたとしても『死』という『不都合な未来』すら『消し飛ばす』事で、『無かったこと』にできる。

 

「『キング・クリムゾン』! 『墓碑銘(エピタフ)』ッ!」

 

ディアボロは、岩から距離を離しつつ間髪入れず『墓碑銘(エピタフ)』を発動させる。そこに映し出されるは、『飛び掛かってくる岩』を回避し――そして、横合いから突撃してくる『青い髪の毛』の『動物の耳』?が生えた小柄な少女にキング・クリムゾンで容赦のない一撃を加える自分の姿だった。

 

「まさかッ! これはッ!? この『石』は貴様のスタンドなのかァーッ……!」

 

 『墓碑銘(エピタフ)』の予知通り……というよりは『墓碑銘(エピタフ)』の予知は近い未来に確実に起こる『結果』なので、予知を受けて行動を変えたりすることはできず、その通りの動きしかできないのだが。ディアボロは岩を回避すると、ターボに対してカウンター気味に手刀を振り下ろすッ! キング・クリムゾンは格闘戦能力もすさまじく、人間の肉体をさながらバターにナイフを入れるが如く、容易く切断、貫通できるほどのパワーとスピードがある。ディアボロは、ターボがこの危険な『石』を操る敵ではないか、と判断し容赦なく攻撃を加えた……はずだった。

 

「うあああああぁぁぁぁぁーーーーーッ!!!!!!!!」

 

「うおおおおおあああああ!!?」

 

 まるでターボエンジンをアクセル限界まで踏み込み、空気を極限まで取り込んで燃焼させるがごとき叫び! ディアボロの『墓碑銘(エピタフ)』の予知の結果が生まれて初めて『外れた』。こんなことが!? あの『ゴールド・エクスペリエンス・レクイエム』の恐るべき『能力』のように、予知自体はできるが、行動をゼロに戻され結局何もできず、何の対策も打てない、というものとは違う。 何故!? ディアボロは、小柄な体とはいえまるで弾丸めいて突っ込んできたターボのタックルを受け……そのまま、担ぎ上げられるッ!

 

「『おっちゃん』ッ……その『石』に触っちゃあダメだーッ! ターボ詳しいもんッ! ウマチューブで昨日見たッ!!!」

 

「な、何……だァーッ!!!?」

 

 そのまま、すさまじい勢いで運び出されていくディアボロ。カノープスメンバーは、もはやそれを呆然と見ているしかなかった……。

 

「ぜはーっ……ぜはーっ……へっへへへ……疲れた……げほっ……いひひひ……」

 

「……これは……何なのだ……一体……?」

 

 少しだけ離れた公園の芝生の上。胸を大きく上下させながら大の字になり、笑顔を浮かべているターボと、その傍らで座り込み、状況を整理しようとしているディアボロ。とにかく、ディアボロにとってこんなことは何から何まで初めての経験だ。まずは情報がいる。ここはどこで、何が起きたのか。それを聞くにはこの『自分を助けた』少女に話を聞くのが手っ取り早いだろう。

 

「君……私を助けてくれた……ということは、あの『石』のことを知っているのか? あれはなんだ? スタンドなのか? そもそも、ここは何処で、君は何者なのか……質問を一気に浴びせるようだが、答えてもらうぞ。『次』が……どこから……いつ襲ってくるかわからないからな」

 

「ん? ん? んー……質問は一つずつにしてほしいな~! 一気にワッと話されてもな~……」

 

「…………」

 

 上体を起こし、顔を傾けて怪訝な顔をするターボ。それから、一つずつ。ディアボロは辛抱強く質問を行った。

 

「なるほど。ここは日本のトーキョー……か。で、君の名前は『ツインターボ』……日本人というのは最近じゃあそんな変わった名前を付けるのかね?」

 

「変わってるのかな~……? まあ、フフフ……ターボは『ウマ娘』だからね! 『ウマ娘』じゃない人とはちょっと名前はたしかに違う……?」

 

 ――『ウマ娘』。聞いたことがない存在だ。ディアボロは最初こそ、その明らかに作り物ではない獣の耳と、落ち着きなく揺れる尻尾は『肉体と同化したタイプのスタンド』かとも思った。でなければ、190cm以上ある大の大人の自分を容易く持ち上げ、しばらく走ることができるフィジカルをこんな少女が発揮できるはずはないからだ。が、目の前の少女はスタンドという言葉にもよくわからない、という風な反応を返したし、ブラフを警戒してキング・クリムゾンを発現させ攻撃するそぶりをさせてみたが、本当にスタンドが見えていないし、知ってもいないようだった。

 

「君はあの『石』のことを知っていたようだが、なぜだ?」

 

「また質問か~! ターボね、昨日ウマチューブで見たんだ。あの『石』に触ると死ぬって。おっちゃんのことも見た! えーと。なんだっけな……名前は忘れたけど……『死に続けてる人』! びっくりしたな~! ほんとに会うなんてな~!」

 

 そういうと、ターボはスマートフォンを取り出してウマチューブの例の動画を表示した。なるほど。どうやら『TV』のようなものらしい。あれから無数に死に続けていたが、時代は進歩しているようでこんな小さな端末でもTVが見られるのか……とディアボロは少し感心したが、同時に過去を隠し通してきた『自分』がこうも気軽に。こんな少女にまでアクセスできるような場所まで情報が転がっているとは……。

 

「理屈はわからんが、『死』の繰り返しからは『脱出』した……ならばあとは、再び『絶頂』に上り詰めるのみ……俺には頂点に返り咲ける能力があるッ……あの『新入り』も必ず『始末』するッ……!」

 

 ディアボロは……2001年。ローマ、ティベレ川沿いの広場で護衛チームの新入りであった『ジョルノ・ジョバァーナ』の『ゴールド・エクスペリエンス・レクイエム』に敗北した。しかし、一命をとりとめ……ローマに張り巡らされた地下道を通り逃げ延びようとした。はずだった。だが、もはや。ディアボロは『真実』に到達することはなくなったのだ。『レクイエム』の能力。それは『真実に決して到達させない』力。たとえ、一瞬早くヤツの脳天をブチ抜くという『真実』が『未来』にあったとしても……能力を食らったディアボロはそこへたどり着くことは『決してない』。

 

 それだけでなく、もう『死』という確定した『真実』にすら到達できなくなったディアボロはそれから無限に『死に続け』た。最初は地下道に住み着いた麻薬中毒者にナイフで刺された。疲労し、ダメージを負ったところの不意を突かれた、最初はそう思った。こんなところで、オレが、と。しかし、『死』が確定しているのに『死』にたどり着けないディアボロは、いつのまにか死体安置所で生きたまま解剖され、どこかの都会で車に轢かれ、次は恐怖とは無縁の牧歌的な大草原ですら――。無敵の『キング・クリムゾン』の能力で時間を消し飛ばし回避することもできない。何故なら、時間を消し飛ばすという『真実』にすら到達できないのだから。

 

「ねーねー、ところでターボも質問していい? おっちゃんの名前! ターボね! おっちゃんの名前知りたい! いつまでもおっちゃん呼びは失礼だからな~……!」

 

 腕を組み、ふふんと得意げになる少女。しかし情報を聞き出した以上、用はない……少なくとも、自分が『死に続け』から脱出した事をジョルノ・ジョバァーナに悟られてはならない。あの『レクイエム』は危険すぎる。対策を立てるまで、身を隠し力を蓄えねば……そのためにも、自分につながるものは今までと同様、『消し去らねば』ならない。

 

「…………」

 

 ディアボロは答えず、キング・クリムゾンを発現させターボを始末しようとした。

 

「でも、よかった。今回は『死ななかった』! ターボが助けたもん。ターボに感謝しろー!」

 

「…………!」

 

 振りかぶった拳が一瞬、止まった。今まで冷徹に過去を殺してきたはず。だが、できなかった。甘さだとか情にほだされたからではない。何故ならこの少女が『死に続け』からの脱出になんらかの『チャンス』を与えてくれたのではないか? そう思ったからだ。この少女は『墓碑銘(エピタフ)』の予知の結果を覆した。こんなことは例がない。そこに何らかのレクイエム攻略の『ファクター』がある気がしてならない。

 

 それに目の前の少女は、このディアボロが気分ひとつで人間を容易く殺せる能力を持つことなど知らないし、無数の人間を葬ってきた凶悪なギャングであることも知らないだろう。まったくの善意で、人助けをした……という風だ。なら……利用できる。

 

「……ク、これも『帝王』への試練……ということか……」

 

「え? テイオー!? やっぱりおっちゃんもテイオーなの!?」

 

「……?」

 

 よくわからない空気が流れ……結局その日はそのまま、解散した。それから一週間。ディアボロはひさびさの穏やかな日常を満喫した。幸運だったのは、もし自分が何らかの窮地に陥った時のために作っておいた『隠し口座』のいくつかが手つかずで残っていたこと。ターボの持っていた携帯電話……『スマートフォン』とやらは自身がいた時代より格段に進歩しており、その隠し口座にネットを経由してアクセスできたのも運がよかった。これにより、当座の資金を確保したディアボロは府中駅前のホテルに偽名で部屋を取り、とりあえず『パッショーネ』についての情報を注意深く集める。

 

 ……進歩した『インターネット』というものは便利なもので……現『パッショーネ』の大まかな情報は手に入った。現在のボスはあの『ジョルノ・ジョバァーナ』。ディアボロが正体を隠していたという事実を逆手にとって、もともとボスは自分だったがカタギに大きな被害が出る抗争が発生したため、その収拾をつけるために正体を現した、という体で狡猾に後釜に座ったらしい。さらにはギャングにとってはご法度とされていた麻薬ビジネスを一掃。今では『ディアボロ』はその麻薬ビジネスを仕切っていた組織の裏切り者であり既に始末された……ということになっているようだが、向こうもこちらが完全に死んでいる。あるいは『無力化』されたと認識しているのは好都合だ。やつが『古きよき』ギャングを気取っている間に……かならず『弱点』を見つけ、『パッショーネ』をこの手に取り戻す。

 

 そのためには……

 

 ――とうおるるるるるるるる、とおるるるるるん! るるん!

 

 ふいに、ディアボロが手に入れた携帯電話が鳴った。その相手は……

 

「ボス~? ねえ暇? ターボは暇! 暇! 暇! ゲーセン! ターボ、ゲーセン行きたい! 今すぐ集合ね!」

 

「何? いますぐだと? 待て、ツインターボ。私は――」

 

 ――ぶつん。電話がほとんど一方的に切られた。

 

 そのためには。例の少女。ウマ娘のツインターボと言ったか。彼女の秘密を探らなければならない。何故、彼女は自分を『死に続け』から脱出させることができたのか? そもそも、決まったはずの未来……『墓碑銘(エピタフ)』の予知から何故逃れられたのかも興味深い。かならず、その理由を解明し……ジョルノ・ジョバァーナを始末する。そしてその後、あの小娘を始末することで自分は再び『絶頂』に返り咲き『帝王』となる……そのためには恥を忍び、媚を売ることも必要だ。これは『敗北』ではない。むしろ『勝ちの途中』なのだ。

 

「やっほー! ボス!」

 

「……ゲームセンター……ふむ、ローマにも当然、玩具屋はあったし、ゲームソフトもみたことはあるが……今ではこれほど進化したのか」

 

 ディアボロは、ツインターボには自分のことをボスと呼ばせることにした。ソリッド・ナーゾは既に割れた偽名だし、ディアボロと名乗るわけにもいかない。幸い、ターボは二十年以上断続的に死に続けていたディアボロに同情的であり、あれ以来、なにかと親身になって手助けしてくれている。いわゆる現代の様々な知識にもそこそこ詳しい。そして……なにより『純粋』で『まっすぐ』だ。こういう手合いは騙しやすい。

 

「ふっふーん、ターボね! ゲーム得意なんだ! まー見ててね! 今のゲームをボスに教えたげるから!」

 

 そうだな~と周囲を見回すターボ。そして、落ち着きなく駆け出すと……選んだのはダンスゲーム……ディアボロにとって初めて見たゲーム機であったが、少し観察するとリズムに合わせて画面に流れてくる矢印に対応するパネルを実際に体を動かして足で踏んでいき、リズムやタイミングがよければ得点が入る……というものだと分かる。

 

「はい、じゃあさっそく『対戦』だーっ! ボスは2Pね」

 

「……何だと?」

 

 チャリーンと二人分のクレジットが入れられる。ターボなどはもはや慣れた様子で、曲を選んでいく。これは……

 

「ボス! なにやってんの~! 曲はじまっちゃうよ~! 早くそっちに立って! ターボと勝負!」

 

「いや……待て……! しかし……!」

 

 そうこうしているうちに、人気があり、なおかつ大型で目立つ筐体であることもあってギャラリーが集まり始める。これはまずい。こんな場所とはいえ、不用意に人目を集めるのは……絶対に避けなければならない。こうなれば、ただゲームセンターで遊んでいるだけの外国人の男、という体で通すほかあるまい。

 

「クッ……何か分からんが……!」

 

「よーし! ミュージックスタートだーっ!」

 

 こうして、ディアボロは『彩ファンタジア』、『ぴょいっと♪はれるや!』そして『うまぴょい伝説』の3曲を衆目環視の中、踊ることとなった。最初こそ不慣れでミスが多かったディアボロだったが、鍛えこまれた190cm越えの肉体は、スタンドを抜きにしても運動能力には自信がある。『ぴょいっと♪はれるや!』の中盤あたりから調子を上げはじめ、『うまぴょい伝説』は初見ながら目を見張るようなステップも見られた。

 

「……やったーっ! ボスに勝ったーっ!!! 今からボスはターボを師匠って呼ぶことをゆるーす!」

 

「ハァーッ……ハァーッ……クソ、この俺が……!」

 

 ツインターボ、55万点。ディアボロ22万点。ディアボロは敗北してしまった。が、当然ながらウマ娘であるターボと人間であるディアボロの間には隔絶したフィジカルの違いがあり、むしろ、不慣れな中で大健闘したともいえる。そして、最初は無邪気に喜んでいたツインターボだったが。ネームエントリー画面になると神妙な顔をして。

 

「ぬうーっ、ワガハイちゃん99万9999点……さすが我が終生のライバル、トウカイテイオー……!」

 

帝王(テイオー)だと?」

 

 ふと、ターボが見つめるゲーム画面にディアボロも目をやる。するとそこには、高得点獲得者のランキングが表示されており。一位は『ワガハイちゃん:99万9999点』。ターボの叩きだした得点も高いほうなのだが、それをもってして圧倒的な差があるという点数。

 

「……いつかは絶対にターボがこれを越えてみせるんだーっ。なんてったってさ、テイオーはあきらめないんだ。だから、ターボも諦めない! でも今は別のゲームしたい! そだなー。何がいいかな~」

 

 と、ふらふらと落ち着きなく別の場所へと移動するターボ。結局ディアボロはその後、クレープを奢らされたり、クレーンゲームでぱかぷちを獲ろうとしてついターボと共に熱くなり、思った以上に小銭を浪費したりした。そしてゲームセンターを一周し、もう帰ろうかという時間になった頃……ターボは最後にテイオーともう一勝負!といって、例のダンスゲームに突撃していった。さすがにディアボロは疲れたので、後ろで休んでいたのだが……待ち時間に手持無沙汰になったので、おもむろにスマートフォンを取り出し、検索する。

 

 ……正直『ウマ娘』という種族はディアボロの居た時代には……少なくともヨーロッパには居なかった。が、wikiなどで歴史を調べるに古代エジプトの壁画だとかにも『ウマ娘』が描かれているだとかがいくらでも見つかった。これは一体? 死に続けているうちに世界に何があったのか……少なくとも、ディアボロは若いころにエジプトで発掘作業に従事した経験があり、考古学にウマ娘などという物が存在しないのは当然、知っている。そもそもウマ娘というのは、なるほど『馬』のようにレースをするらしい。むしろこの世界では『ウマ娘』が『馬』の代わりに存在しているようだ……なにかしらのスタンドの仕業なのか? が、今はそんなことはどうでもいい……検索するのは『ツインターボ』そして、『トウカイテイオー』。

 

「…………ふむ」

 

 レース映像を見つける。ツインターボ。チーム・カノープス所属のウマ娘。主な勝ち鞍は七夕賞、オールカマー。ある種破滅的なまでの『大逃げ』を常に敢行し、番狂わせを見せるか、終盤に失速してバ群に沈んでいく極端なレースは多くのファンに愛される……そして、トウカイテイオー。名誉あるレースであるらしい皐月賞、日本ダービー、そして有マ記念を制した『天才』あるいは……。

 

「………………」

 

 そのあと、すっかり遊び疲れたターボをトレセン学園の近くの公園まで送る。とはいえ、ターボは本当に疲れていたのかベンチに座りぐずっていたので、ディアボロは内心舌打ちをしながら、スポーツドリンクを奢ってやった。

 

「ぜはー……疲れた……遊びすぎた……」

 

 この少女は……なんにでも全力だ。遊びも、レースも。あの『大逃げ』は……素人目で見ても『全身全霊』と言っていい。アスリートとして、レースには自分自身の人生が懸かっているのだ。必死にもなるのはわかる。が、それを抜きにしても一戦一戦、まるで命を燃やすかのように走り、レース後には倒れ込んでしまうほど疲労している……

 

「……トウカイテイオーとやらに、勝てると思っているのか?」

 

「んお?」

 

 ふと、ディアボロは気になったことがあった。ターボは事あるごとにテイオーという単語に反応し、終生のライバルとして『トウカイテイオー』の名をあげる。が……あのウマ娘は……少し調べるだけで分かった。『帝王』だ。まさしく。このツインターボという少女とは『モノ』が違う。これまた、素人目に見ても……実力が違いすぎる。全力で勝負して、そのうえで言い切れる。勝てない。

 

「ターボが勝つ!」

 

 ツインターボは無邪気に答える……が。

 

「はっきり言わせてもらうが……ツインターボ。君はトウカイテイオーに『勝てない』。実力が違う。これは、少々助けてもらったからこその第三者目線からの『忠告』だ。誰が言った言葉だったか……『我々は皆運命に選ばれた兵士』……だが大半は、『ただの兵士』として死んでいく……無為にな……そして『運命』から『贈り物』を受け取った幸運な者だけが……『帝王』として、すべてを支配するのだ……君には残念ながら『帝王』の資格は……」

 

「なんで? やってみないとわからないじゃん。運命がどうとかよくわかんないけど、ターボはかーつ!」

 

 言葉を遮り、再び、無邪気な笑みを浮かべながら言い放つターボ。ディアボロはその何も考えていなさそうな受け答えに、イラつき声を荒げた。

 

「聞け! 例えば、『下っ端のカス能力』がどうあっても我が『キング・クリムゾン』に勝つことがないように! 運命は選ばれし者だけを『絶頂』に引き上げる……だが、そうだな、ツインターボ……君には言ってもわかるまい。疲れているところ悪いが、一つ『ゲーム』をしよう。『鬼ごっこ』だ。君は『ウマ娘』……身体能力は人間とは比較にならないと聞いている。少々疲れていたところで、本来は勝負にならない」

 

「『ゲーム』!? いいよ! ふっふーん、どれだけ疲れててもターボが勝つもんね!」

 

 ……ウマ娘は高い闘争心を持ち、レース以外にも勝負事に熱くなりやすいと調べは既についている。ディアボロは……そこを刺激して、ターボをうまく乗せたのだ。30分後。

 

「ぜはーっ……げほっ、なん……で? げほっ、げほっ……ハァーッ……ハァーッ……!」

 

「これが『運命』に選ばれた『帝王』と『兵士』の差だ……しつこいが、もう一度言おう。君は『勝てない』。潔く、身の程をわきまえたほうがいい……」

 

 ディアボロは……ターボを容赦なく、キングクリムゾンの能力を使って躱し続けた。見えている落とし穴をただ、粛々と回避し続けるだけの『作業』だった。ターボは、全力でディアボロに向かっていったが、既に地面に両手両ひざをつき、せき込むほど疲労していた。

 

「そのほうがよっぽど『幸せ』だ。『運命の奴隷』だということにも気づかず眠っていたほうがな……」

 

 正直言って……ディアボロは、あの『墓碑銘(エピタフ)』の真実を捻じ曲げてみせたツインターボを極限まで追い込むことで、もう一度『あの現象』が起こらないか試していたところはあった。が、それ以上に……『兵士』の分際で、『帝王』に勝てる、という無邪気なターボに対しての一種の哀れみがあった。

 

「これが『結果』だ。君は私を捕まえるという『真実』に到達できない」

 

「……『諦めない』。けひっ……げほ……えへへ……」

 

 だが、膝が笑うほど疲れているというのに、ターボは立ち上がる。薄ら笑いすら浮かべて。ディアボロは……

 

「何故『諦めん』のだ!? 俺のような『帝王』ですら――!」

 

「――ターボは『諦めない』ッ!」

 

 ディアボロが発してしまいそうになった言葉を力強く、ターボが遮った。

 

「……ターボね、ボスが『絶望』を感じてるのは……足を止めかけているのは……なんとなくだけど、わかるもん。だってあの時の『テイオー』と同じような顔してる。なんでかまでは、わかんないけど……」

 

 ……ディアボロは……内心ジョルノ・ジョバァーナに対して……勝てるとは思っていなかった。たしかに、ターボが見せた『あの現象』はなんらかの対抗策になる、かもしれない。が……それを加味しても。未来を見通す能力を持つ自分が、皮肉なことに勝てるヴィジョンが見えない。矢のパワーの先である『レクイエム』を手に入れ、パッショーネをも手中に収めたヤツは圧倒的すぎる……『現象』についても、能力を食らってそのうえで『ターボに協力してもらえば脱出できるかもしれない』程度の受け身のモノだ。結局のところ、ディアボロは『対抗策はある』『自分はいつかジョルノを倒し返り咲ける』という都合のいい、そして到達しない『真実』を見ていただけで……

 

「ボスは……『結果』だけを話すけどさ。『勝てない』『できない』って。でも『もう無理』とか……『諦める』っていうのは『帝王(テイオー)』らしくない……ターボは……そう思う」

 

 ターボは、ゆっくりと。言葉を選ぶというよりは適切な言葉をなかなか探せないという風に、唸りながらも諦めずに言葉を紡いでいく。

 

「あのね。『ウマ娘』って、たしか……『異世界の偉大な名前と魂を引き継いで走る』んだって。だから、ターボもきっと、そうなんだな。それは大切な物。とっても。とってもね。だけど、同じくらい大切なのは……『真実に向かおうとする意志』なんだッ……!」

 

 ターボは、その言葉と同時に、弾かれた様に走り出した。ディアボロは……無駄なあがきだと。半ば怒りを感じながら『墓碑銘(エピタフ)』を発動させる。しかしッ!

 

「……なん、だってェーーーーッ……!!?」

 

――ガゴ……ゴロ……ゴロ……ズッ……

 

 あの『石』だ。いつの間にか……近くに来ている。いや、さっきまでそんな気配はなかった。いつのまにか現れた『死』……! だが、ディアボロの見た未来は……『ツインターボ』がその石――『彼女の顔』が刻まれたそれに触れ、そして……

 

「………………」

 

 ディアボロは、敢えて能力を発動させなかった。時を『消し飛ばせ』ば……ターボは助かるかもしれない。が、この前は自分が狙われたのだ。触れば『死ぬ』かもしれない。せっかく『死』からの繰り返しを脱したというのに……むしろ脱したからこそ、もう『次』はないかもしれない。ディアボロは……無情にも自分だけ石を避ける様に距離を取る。

 

「この世界に『生きる』ウマ娘の『未来』は、まだ誰にも『わからないんだ』ッ!!!」

 

 ツインターボが、ぐんぐん伸びる……そして、最初のあの時のように! 飛び掛かる『石』を紙一重で潜り抜け、ディアボロをタックルしながら抱え上げたッ!

 

「!?」

 

 また、あの『現象』だッ! これは、いったい!? しかし、今回は『石』は……ゴロゴロと音を立てながら、追ってくるッ!

 

「ボスッ! 絶対に『逃げ切る』からねッ! ターボ、『逃げる』の得意なんだッ!!!」

 

 そういいながら、ツインターボは追いすがってくる『石』からひたすらに逃げる。100m。200m。300m。190cm以上ある大柄なディアボロをファイアーマンズキャリーめいて肩に担いだまま……レース用でもない、普通の靴、普通の服で、障害物や曲がり角だらけの街を、逃げ回る。

 

「ハァッ! ぜはぁっ! はぁっ!」

 

 600m。もう、ターボの息が上がり始めているッ!

 

「ツインターボッ! 俺を捨てろッ、『俺』は『キング・クリムゾン』でなんとかなるッ! それに、今ッ! 狙われているのは明らかに『おまえ』なんだぞーッ!!!」

 

「いやだーっ!!!! あっははははは!!!!!!」

 

 ツインターボは……獰猛に、そして楽し気に笑いながら走るッ! 坂を勢い任せに駆け上がり、放置自転車を飛び越え、藪を強引に突っ切り……!

 

 1000m! 1200m! 1400m!

 

「げほッ……げほッ……! ぜひゅっ……ひゅーっ……!!!」

 

 ディアボロは……この娘を侮っていたと、改めて思った。ターボの肺は既に限界だ。呼吸というよりは、ひゅうひゅうと気道という『穴』に風が通るような音を発しながら。口の端から涎を垂らして。不格好に髪を乱れさせて、汗まみれで……なお、笑う。石は未だしつこく追いすがってくる。だが……差が、縮まっていない。ディアボロは……『墓碑銘(エピタフ)』で未来を見た。ずっと、発動できる限り発動して、ずっと、見ていた。その未来では……いつも、力尽きて倒れたターボに『石』が追いついていた。

 

「どうして……なのだ……なぜ『諦め』――」

 

「あき……がぼっ、『あきら……め……ない』ッ……!」

 

 呆然とつぶやくディアボロに、苦しみ、もはやしゃべることすらしたくないだろうに、どうだとばかりにターボが言うのだ。

 

1600m……! 1800m……! 2000m……!

 

 もはやターボの眼はうつろだ。本来ウマ娘の全力疾走に耐えるモノではない靴は、ボロボロになっている。さすがのターボももう……

 

「たー……ボ……ターボ、はね……がふっ、ひゅっ……ひゅーっ……ターボはッ……『運命の奴隷』じゃないッ……『運命が立ちふさがるなら』……」

 

 精神は肉体を凌駕する。古臭い精神論。笑わばバカと笑え。だがッ!

 

「『限界』なんて……『ない』……『運命』にだって『喧嘩』を……」

 

 2200m……ターボは、力尽きた。無情にも、後ろから『石』が迫ってくる。

 

「『キング・クリムゾン』」

 

 ――バグオッ!!!!!

 

 破砕音がした。『石』は……まるで横合いから殴りつけられたかのように、砕けながら吹き飛んだ。……が砕けた『衛星』が自分の重力で引き合うように。まるでターボに向けて『引力』でひきつけられるように。破片を一体化させ不格好に再生しながら、ターボへと飛んでくる。

 

「なるほど。その『石』の表面に顔が刻まれた人物以外は……触っても『死なない』というわけか。生き残るのはこの世の『真実』だけだというなら……そうだな、試してみよう……」

 

――メキャアッ!!!!!!

 

 再び。アスファルトに叩きつけられ……地面をえぐりながら破砕した『石』は、なおゆっくりと形を変える。

 

「そう、小娘に教えられるまでもなくッ! 『帝王』はこの『ディアボロ』だッ! 依然変わりなくッ!」

 

 ――ドゴ!グシャ!ドゴ!ドゴ!バギッ!ガオッ!ドグシャァッ!!!

 

 一撃だけで『致命打』となり得る『キング・クリムゾン』の『突きの連打(ラッシュ)』を食らった『石』は見る間に姿を変えていくッ!

 

「『運命』に『喧嘩』を売り……時に『結果』すら『変えてしまうパワー』があるのであれば……俺はそれを『見てみたい』ッ! 『邪魔』をするんじゃあないぞッ! 『石ころ』如きがァーッ!!!」

 

――ガゴッ……

 

 『石』が……動いた。もはや、何度も破砕し、再生を繰り返し、『帝王』の力で削られていった『石』は……ツインターボの顔面を形どっていなかった。

 

「『これ』でいいんだ……『これ』でな……俺は……『帝王』は『運命』を超越した。『自分』で『選んだ』のだ。この『ディアボロ』が……」

 

 ディアボロは……『石』を拳で削ることで『自分の顔』を彫ったのだ。キング・クリムゾンの拳は……その最後の一撃で、当然『石』に触れている。

 

………………

 

…………

 

……

 

 

「ネイチャ~……」

 

「あ~もう、動くな動くな! まったく、蹄鉄もつけてない通常のシューズで町中走り回ったって? ほんと、大事にならずによかったよ~もう」

 

 それからほんの少し。町の一角で倒れていたターボは、通りがかった人によって病院に運ばれ精密検査を受けたが、結果は、脚やひざといった関節には異常はなく、極度疲労のため数日トレーニングを休むように、というものだった。まったく、いったいどういうことなのか? ネイチャをはじめとしたカノープスメンバーは、ターボの奇行に呆れつつも胸をなでおろす。

 

「ターボね。ボスと一緒に逃げ切ったんだよ。『運命』から……! 次は『テイオー』にも勝てるはず!」

 

「お、おう……」

 

 ネイチャはまーた訳の分からんことを……と思いつつも、その身にみなぎる『覚悟』のようなものを感じる。本当にいったい、何をやったのやら。だが、それが微笑ましかったし、こりゃ次はいよいよテイオーとG1の舞台で激突か~? などとおどけ半分、だが……もう半分は本気で問いかけた。それを聞いたツインターボは早く対決したい! と言って何度も頷く。そして。こうつぶやくのだ。

 

「ターボは……『ウマ娘』だから……『運命』を『継いで』、『越えていく』んだ……!」

 

 かつて『令和のツインターボ』と呼ばれた者が、人々の夢を。想いを『継いで』――そして『世界から追われる逃亡者』となり、『越えていった』ように……この世界に生きている『ウマ娘』の未来は誰にもわからない。運命を越えていけ。限界なんて、ない。




【スタンド名】キング・クリムゾン
【本体名】ディアボロ

破壊力:A スピード:A 射程距離:E
持続力:E 精密動作性:? 成長性:?

ごく近い未来を予知し、その未来のうち、任意の時間を消し飛ばし飛び越えさせる能力。

【スタンド名】ローリング・ストーンズ
【本体名】スコリッピ

破壊力:無し スピード:B 射程距離:A
持続力:A 精密動作性:E 成長性:無し

一般人にも見える特殊なスタンド。近い将来、死亡する運命の人間のもとに現れ、その人物の死相を浮き上がらせて追跡する。対象の人物が触れた場合、その人物を安楽死させる。本体のスコリッピにもまったく制御ができない。

ジョジョの世界では『運命』は決まっているものとされているが、ウマ娘の世界ではむしろ『運命』を覆す事例がいくつかあり、能力がやや不安定になっている。
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