マンハッタンカフェは動じない   作:むうん

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#033『仮説N』

 まだ6月だというのに、既にジリジリと暑い夏の日だった。トレセン学園の教室にはクーラーだってついているのに、アスファルトを溶かしてしまいそうな真夏の日差しはその冷気すらゆっくりと侵食して、外の陽気を無遠慮に持ち込もうとするさまは『北風と太陽』のそれとは真逆のようにも思えて、窓やカーテンを容易に突き破る早生まれのアブラゼミの声と相まって『私たち』……マンハッタンカフェ、アグネスタキオン、ジャングルポケット、エアシャカールらをうんざりさせていた。

 

……そしてその6月も終盤に入り、各々の夏合宿が近づく中。

 

「『ハートル・ホーキングの境界線』に"G"があった……この『ブルーマーブル』も"G"から始まり……"スフィーラ"の周りに"シンチレーション"が発生するのは”INTI"だからだね。『私』は……"CETI"は――。せめて、『扉』の先に『夏』が待っていますように」

 

「んあ? えーと、どーいうこった? ユニヴァースよォ~~~ッ? んなことよりさっきの授業のノート見せてくんねえ? いや、俺だって真面目にジュギョー受けなきゃなあ~とは思うんだけどさ。つい眠気が……へへ……」

 

「……ノートを見せてもらうのはいいがね。今日はテメーの狙ってた『パフェ風生クリームサンドコッペパン』の発売日だろ。チンタラしてると無くなっちまうぜ? あンだけ朝からランチが楽しみだの昼休みのベルと同時にダッシュだのなンだの騒いでたろーが」

 

「あ゛ッ!!! そうだった!!! タキオンは……あ~~~~! あいつ俺を置いてカフェテリアに先いきやがった!!! カフェもいねえし!!! すまねえユニヴァース! ノートはまた放課後でいいや!!!」

 

 午前中の授業が終わり、クラスメイトのポッケにノートを見せてくれと頼みこまれていたネオユニヴァースは、シャカールに言われ疾風のように去っていく彼女を見ながらぐう、と鳴る自らのお腹をさすりつぶやくのだ。

 

「”エントロピー"……そして"ネゲントロピー"。ネオユニヴァースは"保持"のために"GOAL"を『カフェテリア』に設定するよ」

 

 そう言って、彼女は席を立つ。『いつもの』なんの変哲もない、日常の風景。クーラーの風で揺れるカーテンが夏の光と影を踊らせる。本当に嫌になるほど、暑い夏だ。

 

 

 

◆◆◆ マンハッタンカフェは動じない #033 『仮説N』 ◆◆◆

 

 

 

 カフェはその日、運よくカフェテリアのテーブル席を確保していた。超巨大マンモス校かつ、食欲のすさまじいウマ娘が生徒として通うトレセン学園の昼休みはまさに戦場である。売店の弁当や総菜パン類はそれなりの量が用意されているのだが、人気のものを買おうとすると運が絡むほどだし、カフェテリアも広いにもかかわらずお昼時は混雑する。カフェはバゲットとサラダ、ソーセージ盛り合わせと目玉焼きというメニューを選んで、浅煎りのすっきりとしたアメリカン・コーヒーもインスタントではあるが用意した。午後からはトレーニングなので時間をかけてじっくりとコーヒーを味わえないのは少し残念だが、コーヒーをごくごく飲むのも昔のアメリカの映画俳優がやっていたように思えて、それはそれでいいのだろうか……などとぼんやりと考えつつ、手を合わせた時。

 

 ――がちゃあ

 

「ったく、いつもカフェテリアは混んでるな……たまに利用するとこれだよ」

 

 タキオンが無遠慮に隣に座る。小さなスパニッシュオムレツが添えられたミートソーススパゲティが載ったトレーがどんと卓の一角を占領した。

 

「しゃーねーだろ。例えば事前予約システムなンかを組んだところで、生徒の数が減るわけでもねえしな……工数のワリに合わねえ。それよか、例のデータをちゃんとよこせよな……」

 

 どうやらタキオンに用があるのか、シャカールも対面に座った。彼女のトレーには大豆ミートのハンバーガーとミネラルウォーター、ミニサラダ。

 

「あ゛~クソ……俺の手前で売り切れちまったよ~……楽しみにしてたのに……『パフェ風生クリームサンドコッペパン』……」

 

 そして落胆した様子のポッケ。当然の如く卓に置かれたのはカフェテリアのものではなく売店のコロッケパンとフルーツ牛乳。

 

「『納豆』はネオユニヴァースの"SSME"を動かすのに『不可欠』だよ。もたらされる"NORD"は『ニューロン』を活性化させる」

 

 さらにはネオユニヴァースが納豆定食を置いたので、カフェのバゲットたちはあれよあれよと隅に追いやられてしまった。

 

「……狭いです。何故、皆さんここに……」

 

「何時もながらつれないねえ。同じクラスのよしみじゃあないか? これだけ人がごった返してるんだから、相席するのが効率的だろ~?」

 

 そもそもカフェと私の仲じゃあないか? と笑みを浮かべながらタキオンはスパゲッティをくるくるフォークで巻いていく。たしかに、カフェも別に無下に断るとかではないし、別にいいと言えばいいのだが。親しき仲にも礼儀ありというやつで挨拶ぐらいは欲しい……とは思うも、そういうところも込みでタキオンは来ているのだろうな、とも思い。少し横にずれてタキオンらが座るスペースを空けた。既にシャカールなどはサラダにもくもくと口をつけている。

 

「それにま、『いつもの5人』ってことで。うい、ユニヴァース。醤油」

 

「ネオユニヴァースはジャングルポケットに"THNK"を言うよ」

 

 ネオユニヴァースは納豆や豆腐と言った大豆製品が好きでよく食べる。ポッケは気を利かせて卓上備え付けの醤油をネオユニヴァースに渡すと彼女も穏やかな笑みを浮かべて、礼を言った。その時だった。

 

「全く困ったな……」

 

 聞き覚えのある声をウマ耳が拾う。そちらにカフェが目をやれば、近くでトレーを手に呆然としているのは岸辺露伴だ。

 

「あ、露伴先生……」

 

 露伴もカフェテリアで食事をとろうとしたのだろうが、席にありつけなかったのだろう。トレーの上でむなしく湯気を立てるにんじんハンバーグ定食。とっさにカフェはさらに詰めようとしたが……さすがにもう、これ以上スペースを空けられそうにない。

 

「おや、カフェさんか……」

 

(それに小うるさいタキオンに、ロジック至上主義のシャカール君、声が無駄にデカいポッケ君もいるな……カフェさん以外はあまり波長が合わない連中だ。『いつもの』――ん?)

 

 露伴もカフェの声に気づいたが、ふと『見慣れないウマ娘』が『いつもの4人』と卓を共にしているのに気づく。パステルカラーの金髪に水色のインナーカラーが入ったとても目立つウマ娘。どこかぼんやりとした様子で、納豆を混ぜている。

 

「……クラスメイトかね? それとも『後輩』か? 初めて見る生徒だが……」

 

「……?」

 

 カフェは露伴の問いに疑問符を浮かべるように、首を傾げた。

 

「漫画家先生よォ、質問を質問で返すようだが……誰の事を言ってンだ???」

 

 シャカールも、露伴に対して逆に問う。なにか『噛み合わない』。

 

「……誰って、彼女の事だ。別段、君らの交友関係は好きにすればいいと思うんだが、繰り返すように初めて見る生徒なものでね。少し気になっただけさ」

 

そう言って露伴は、ネオユニヴァースを指さした。すると一同が、揃いもそろって何を言っているんだ? という表情を浮かべ、露伴を見る。

 

「ぇあ? 露伴センセ、何の冗談だよ。ユニヴァースは俺らのダチだぜ。知ってるだろ?」

 

「ははーん、さては何か企んでいるな露伴君。もしや今度はユニヴァース君を『本』にして読むつもりかね? 彼女は研究に協力的な私のモルモッ……ごほん、友人だからね。ちょっかいを出すつもりなら即刻、学園側に報告するからな……」

 

「……???」

 

ポッケとタキオンの言に、今度は露伴の側が疑問符を浮かべざるを得なかった。ユニヴァース、という名前のウマ娘らしいが彼女らと親しいらしい。別にタキオンらの交友関係をすべて把握しているわけではないが、こんなウマ娘はいただろうか……?

 

「……あなたもネオユニヴァースを『観測』している? ううん、違う。あなたは――"E.B.E"? いや、『奇妙』といえばいいのかな? それに、そもそもこの『世界』自体が"Unus"……『事象の地平面』の外なんだ。ネオユニヴァースは『理解』をしたよ」

 

「……君は何を言っているんだ?」

 

 ネオユニヴァース……彼女が露伴をじっと見つめ、言葉を発する。さすがの露伴も彼女が何を言っているかとっさに理解ができなかった。

 

「今更なことを言うねえ。露伴君どうした。なんか様子がおかしいぞ……まさか何かしらの『怪異』にでも取りつかれたのか?」

 

「……不思議な事はこの世界にたくさんありますものね。影の中に。夢の中に。でも、露伴先生からはそう言ったものは感じませんが……」

 

 冗談めかしてタキオンがいい、珍しくカフェもそれに同調する。怪異なんざロジカルじゃねえだろ、と既に食事を終えたシャカールがスマホをいじりながらぼやくと、怪異っておばけか!?とポッケが涙目になる。そう、『いつもの』光景なのだ。『いつもの』……

 

 ……その昼は、結局そのままカフェたちと別れ、露伴はなんとか空いた席に滑り込んで食事をとったのだが。

 

「……ふーむ」

 

 午後の理科室。今日はカフェもタキオンもトレーニングのため不在であり露伴一人である。今週分の原稿は既に終わっており、書き溜めなどは編集部にナメられるためしない主義の露伴はヒマを持て余し、ネタ集めも兼ねて何とはなしにスマホでネットサーフィンを行っていたのだが。その時、やはりふと思い出す。ネオユニヴァース。カフェさんやタキオン君とはそれなりの付き合いになったし、両者を『本』にして読んだこともあるが。別段彼女らの秘密を隅から隅まで知っているわけではない。最近親密になったのなら、自分が知らない交友関係もあるだろう。しかし……妙にあの金髪のウマ娘のことがひっかかるのだ。露伴は、何とはなしに検索エンジンに彼女の名前を入れてみる。すると。

 

「……妙だな……これは……」

 

 何だかんだ取材を通してウマ娘に関わるようになり、多少は界隈の知識だって増えたと自負している。カフェとタキオン――ひいてはウマ娘というものを描くにあたって、例えばシンボリルドルフやマルゼンスキー、ミスターシービーと言った既に実績を残している有名ウマ娘のことは徹底的にリサーチしたし、専門用語だとかファンの間のスラングなども学んだ。当然、どの重賞をどのウマ娘が勝っただとか……そういうものは意識せずとも自然に入ってくる程度にアンテナも広がったはずなのだが。

 

「ネオユニヴァース。ウマ娘の本格化の関係上、レース年代的にはカフェさんたちの後輩にあたる……が、『皐月賞』、『日本ダービー』を制し『菊花賞』を惜しくも3着で逃したクラシック二冠バ。その後も『ジャパンカップ』、『大阪杯』などで好走。『天皇賞(春)』では10着に沈むが、秋の古バ路線ではゼンノロブロイ君らと名勝負を繰り広げた優駿……」

 

 クラシック二冠。それだけでも立派な成績だし、以降も天皇賞での敗戦以外は戦績も安定して掲示板を外していない。立派なスターウマ娘。なのだが……おかしいのは、これほどの成績を出した彼女の話を、今までまったく露伴が『知らなかった』点だ。たとえメインで取材しているのがカフェとタキオンであったとしても。ある意味ではその年の顔とも言えるクラシック戦線の勝者を知らない、などということはさすがにトレセン学園内に居たなら『あり得ない』。しかも、彼女のファンサイトなどの情報からするに……どうやらカフェ、タキオン、シャカール、ポッケと『同じクラス』に所属しているという。ならばなおさら、彼女のことを今まで知らなかったのはおかしいのだ。

 

「……どういうことだ? 僕は『彼女』の事を全く知らない。が、周囲の反応からするに彼女は十分な知名度を得ていて、カフェさんたちも彼女とはそれなりに親しそうに見える……何故なんだ? 僕には『ネオユニヴァース』というウマ娘が『突然現れた』ようにしか思えない……なんだ? この『認知の歪み』はッ……!」

 

 若干のうすら寒さ……そして。

 

「……『面白い』ぞッ……格好の『ネタ』の気配がするッ……『ネオユニヴァース』……彼女の『秘密』を解き明かさなくてはッ!」

 

 『未知』の物への好奇心が、露伴の創作意欲を掻き立てた。

 

「……ネオユニヴァースは"Sign"を受信したよ。岸辺露伴は"コネクト"……ネオユニヴァースと『対話』を"求める"をする?」

 

 次の日。露伴はさっそく、ネオユニヴァースへのインタビューを開始した。本音を言えば『ヘブンズドアー』をさっさと食らわせて記憶を読んでしまいたいところではあるが。昨日の会話からか、タキオンがあからさまにそれを警戒しており、『おまえを見張っている』とばかりにネオユニヴァースの周囲に居たり、あるいは姿をちらりと見せてきたので露伴は逆に最もスタンダードに……ネオユニヴァースに対して、取材を申し込んだのだ。

 

 場所はいつもの理科室……タキオンも時折露伴とネオユニヴァースのほうをチラ見しながらも、カタカタとノートPCのキーを叩いて論文の作成をしているし、カフェも今日はトレーニングが休みなのでちびちびとコーヒーを飲みながらソファでカタログを捲りながら、次に取り寄せるコーヒー豆を選んでいる。

 

「では、質問だが……君は皐月賞と日本ダービーを獲った時の感情を覚えているかな? 詳しく教えてほしい。それと、こういうのはちょっと意地悪かもしれないが……菊花賞での3着。いわゆる三冠バを逃した時と言うのはどう思った? 当然、これについては答えたくないなら答えなくてもいい」

 

 露伴はまず、当たり障りのない質問……いかにも取材という風に、ウマ娘とは切り離せない競争成績の話から入った。

 

「……アファーマティブ。その時点での"CETI"については……『及第点』。あるいは、『既定路線』。"ゆらぎ"は『観測』できていない。『安定』している。『ネオユニヴァース』は時折"ゆらぐ"をするから」

 

「ふむ……」

 

(……この言葉遣い、『CETI』ってのは宇宙探査用語の『CETI』か? 観測、ゆらぎ……特徴的な言葉を選ぶが、これはなんらかの意図を感じるな)

 

 露伴はネオユニヴァースの難解な言葉遣いを前に、いつも以上に考察の時間を取りながらゆっくりとインタビューを進めていく。

 

「……では、そうだね。学生生活について教えてほしいんだが。カフェさんやタキオン君と君は仲がよさそうに見えるね。他にもシャカール君やポッケ君だとか。それは、『いつ頃』からそうなんだい?」

 

 前振りとして、ある程度レースについて聞いたところで私生活の話に持っていく。別段、彼女のプライベートなどはどうでもいいが、問題は彼女がいつから『居た』のかだ。この違和感は露伴だけのものなのか? それとも、ネオユニヴァース自身も何かしら知覚しているのか。それとなく踏み込んでいく。もしここで何かしら動揺したなら、彼女は絶対に『秘密』を抱えているはずだ。

 

「マンハッタンカフェ、アグネスタキオン、エアシャカール、ジャングルポケット、ファインモーション、そしてゼンノロブロイ。すべて、ネオユニヴァースと"INTI"。それぞれが、ネオユニヴァースの『心』を明るく照らしてくれる"アルファ星"なんだ。でも――岸辺露伴の"ANOI"はどこに? その"REQU"に対しては――場合によっては"Ping"できない。『検閲』されてしまうから」

 

 露伴はネオユニヴァースのどこか濁したようなニュアンスの返事に、内心『確信』した。この娘はやはり、何かしらの手段を用いてウマ娘たちの認知をゆがめ、日常に『入り込んだ』のだ。小うるさいが聡明なタキオンやシャカール、霊的な才能を持つカフェまでをも欺くとは……

 

「……だけど、そうだね。岸辺露伴には『観測』できない前提で、『対話』するなら。2023年2月22日に、『ネオユニヴァース』は『あなたたち』から『観測』できるようになったよ。"ローンチ"は2023年4月19日だね。どちらを"ファーストコンタクト"とするかは『あなた』次第かな。だから、岸辺露伴がネオユニヴァースを『奇妙』だと思うのは『必然性』があるよ。ネオユニヴァースは"スフィーラ"から"00"、そして"000"を経て『漂着』したから」

 

「君の言っている意味はさっぱり分からないが……なるほどね」

 

 露伴は、そういうとGペンを置いて取材用のメモ帳を閉じ。息を吐いて頭を大げさにぼりぼりと掻いた。絶対に『目的』をはっきりさせなければならない。カフェもタキオンも気づいていないのなら、彼女たちの安全のためにもここは泥をかぶってでも自分が。『スタンド』を発現させる。いつでも、彼女に『ヘブンズドアー』の能力を叩き込める状態。

 

「……ネオユニヴァースは『警告』をするよ。岸辺露伴がこれからやろうとする事は重大な『インシデント』を齎す。"WORR"。それは岸辺露伴のためにならない」

 

 ――瞬間、剣呑な雰囲気が理科室に満ちた。気づいているのか? 露伴のスタンド攻撃の予兆に。

 

 カフェも、タキオンも。その重苦しい空気感に気づき、タキオンなどは露伴君そこまでだ……といって二人を止めようと近づいてくる。……だが、この段に至ってなお、露伴はネオユニヴァースから敵意だとか悪意を感じ取れなかった。絶対にこの目の前のウマ娘はなにかしらの目的をもって、この学園に紛れ込んでいる。放っておけば、これまで経験したさまざまな『怪異』と同様、いきなり牙をむいてくる可能性がある……が、その鉄面皮めいた無表情からはむしろ、やめたほうがいいという『威圧感』の中に『親切心』や『哀れみ』のようなものを感じ取れる。本当に、露伴のことを心配しているような――それが異常に、露伴には不気味に思えた。真意が見えない。『理解らない』。

 

「岸辺露伴には、こういえば『理解』できるかな。『すべてが0になる』。『警告』、『Warning』、『avvertimento』、『Warnung』、『alerto』、『averti』――」

 

「……!」

 

 ネオユニヴァースは攻撃を戸惑った岸辺露伴に対して、さまざまな言語で『警告』を行った。日本語、英語、イタリア語、ドイツ語、タガログ語、エスペラント語。エトセトラ。エトセトラ。その光景は岸辺露伴にとって、ある一つの事件を想起させる。

 

「『検閲方程式』……」

 

「"Exactly(その通りでございます)"」

 

 露伴はまいったな、という風にスタンドを引っ込めた。瞬間、ネオユニヴァースも警戒を緩めたようで、重苦しい雰囲気は消え去りタキオンも何だったんだ? という風に歩を止めた。

 

「……『ネオユニヴァース』は『街を盗む』をしない。岸辺露伴は『引力』を『信じる』? 『ネオユニヴァース』は。ただ、『愛』のために来たんだ。あなたたち風にいえば、『重力の愛情』と言えばいいのかな。わからない。『ネオユニヴァース』は『奇妙な冒険』とは縁がなかったから」

 

「つまり、『信じろ』……というのかい?」

 

「……まだ『対話』が足りないから『世界5分前仮説』のように『懐疑』するのはわかるけれど、でも。『信じろ』という"要求"ではなく」

 

 ネオユニヴァースは地球のような青い瞳で、露伴を見つめ、言った。

 

「……『信じて』ほしいよ」

 

 ……露伴は再び、ため息を吐いた。

 

「……分かった、分かった。僕だって女学生に手荒な真似はしたくないからな。それにここが、これ以上踏み込んじゃあいけない分水嶺だってことはよく理解できたよ。せいぜい、"シンギュラリティ"が僕が生きているうちに起こるのを期待しておくさ」

 

 こうして、結局僕のネオユニヴァースに対する調査はここで打ち切りとなった。いつぞや、僕が『検閲方程式』に対して対策を取れたのは事前に多少なり仕込みをできたからであり、またこれ以上踏み込んで『目を付けられる』のはまっぴらごめんだからだ。なんともまあ、尻切れトンボな結末ではあるが……

 

「……ネオユニヴァースは『ピンクダークの少年』の『最新アップデート』を入手……『ワクワク』があるね」

 

 次の日。休み時間にネオユニヴァースは教室でおもむろに漫画雑誌を取り出す。トレセン学園の売店で入手したものだ。

 

「おっ、少年ジャンボの最新号じゃん! 売店で買えたのかよ~! いいな~!!!」

 

「今週号も面白かったですよね……すでに次回が楽しみです。特にあの最後の……」

 

 少年ジャンボは非常に人気のある漫画雑誌であり、売店にもいくらか入荷されるのだがポッケはどうやら買えなかったようで、逆に既にこれを買い、ピンクダークの少年を真っ先に読破した様子のカフェは笑みを浮かべて、感想を語りだす。

 

「おおっとカフェ! 私とシャカール君は単行本派なんだ……ネタバレ厳禁で頼むぞ。ユニヴァース君もな」

 

「おい、オレを巻き込むンじゃあねェ~ッ……ていうかタキオンテメェなんで知ってンだ!?」

 

 年相応にきゃいきゃいと騒ぐ『いつもの5人』。その喧騒にまかれながら笑みを浮かべていたネオユニヴァースはほんの少しだけ、『観測』をした。

 

「……これからも、無数の『可能性』が『私たち』を待っているよ。『断絶』は少しずつ埋まっている。これから来るいくつもの『超新星』は……きっと『ビッグバン』をもたらしてくれるから。いつか、あなたの心に宿る、まだ見ぬ『夢』が。『私たち』と一緒に走る日が来るといいな。だからネオユニヴァースは『質問』をするよ」

 

「……『あなた』の『夢』はなんですか?」

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