K県Y市。人口370万人。東京のベッドタウンにして異国情緒漂うこの沿岸都市はプロ野球球団まで擁し、観光にしても遊ぶにしても人気が高い。すでに廃止されているが、かつては日本初の洋式競バ場があったのもこの街だ。トレセン学園の生徒も、たまには足を延ばしてここを訪れたことがある者もいるだろう。
その沿岸部に新たに4年の工期を掛けて建設された超高層タワーマンション『タワーレジデンシャルスイートホーム』が開業したのはつい最近のことである。全長200m、全54階+地下3階。商業施設、企業オフィス、会議場、住居などを擁する複合型施設である『スイートホーム』は全国のタワーマンションの中でも十指に入る巨大建造物であり、Y市の新たなランドマークの一つ……になるはずであった。
「露伴先生。ここですか……例の『連続失踪事件』の起こってるマンションというのは」
「ああ、警察への届け出ではこの三ヶ月で……既に4世帯7人が失踪しているらしい」
その『スイートホーム』を見上げるのは岸辺露伴、マンハッタンカフェ、そしてアグネスタキオン。彼らはご多分に漏れず、その『連続失踪事件』を漫画のネタとして調べるためにこのタワーマンションを訪れていた。
「ふぅン……それにしてもやたらに高いねこのビルは……」
そうボヤキながらビルを見上げるタキオン。露伴とカフェも、同じくビルを見上げた。これでもY市では2番目に高いビルなのだとか。
「4階まではブランド品を主力として、映画館なども併設された商業施設エリア……5、6階が国際会議場で……10階までが企業などのオフィスが入るエリア……それ以降が高所得者向けの居住スペースさ。フィットネスクラブやジャグジーまでついている……なんでも入居には一部屋3000万円以上かかるらしい」
「3000万円……どんな部屋なんでしょうか……」
カフェは露伴がパンフレットに載っていた情報を読み上げると、頬に人差し指をあてながら今までTVなどでみた高級ホテルの部屋の記憶を頼りに想像してみたが、やはり経験のない物は想像しにくい物でとりあえず広くて豪華なソファなどが置いてある……ぐらいしか思いつかなかった。
「では……そろそろ管理人の『砂川』さんと会う時間だ。もう一度釘をさしておくが、くれぐれも『連続失踪事件』の取材に来たなんて言うなよ。僕らは漫画家、そしてG1ウマ娘として友人間でマンションの下見に来た……そういう体でいく。さもないと、取材なんかさせてもらえるわけがないからな……」
「はい、わかりました……!」
「それは何度も聞いたよ露伴君。そんなことより、折角Y市まで来たんだ。取材が終わったら中華街でなにか奢ってくれたまえよ~」
◆◆◆ マンハッタンカフェは動じない #013 『スイートホーム』 ◆◆◆
三人は『スイートホーム』に足を踏み入れる。一般客の入る商業エリア入り口ではなく、入居者向けのエントランスホールから内部に入ると、そこはまるで高級ホテルか気品ある映画館のロビーのようで、応対カウンターには二人のコンシェルジュが控え……
「これはこれは、本日はご足労どうもありがとうございます! 岸辺露伴さま、マンハッタンカフェさま、アグネスタキオンさま!」
ロビーの豪奢さにやや圧倒されていた三人の機先を制し、カウンターテナーめいた高い声で挨拶をしてきたのは細身かつ長身のどこかキツネめいた雰囲気を持つ瀟洒なスーツの男。
「わたくし、この『タワーレジデンシャルスイートホーム』の総合管理人を務めております、『砂川是千代』と申します。本日は、僭越ながらわたくしが皆さまをご案内させていただきます」
「これは……漫画家の岸辺露伴です。初めまして」
「マンハッタンカフェです」
「アグネスタキオンだ。よろしく頼むよ」
まさしく平身低頭と言う風な遜った態度で露伴たちを出迎える砂川。露伴たちも、挨拶を返すと砂川はさっそく、と言う風に三人を十一階にあるモデルルームに案内する。11階以降の居住スペースに通ずる専用エレベータは最新のものを使っており、入居者は独自発行されるカードキーがないと部屋にはおろか、このエレベータにも乗れないのだそうだ。
「こちらが我がマンションの誇る居住スペースのモデルルームでございます」
「わああっ……す、すごいです……」
案内された部屋のあまりの豪華さに、カフェは思わず声を上げる。品の良い調度品で揃えられた広い部屋には暖炉やバーカウンターめいた食卓、ミニ書斎などまでがあり窓からはY市の景色が一望できた。
「夜中にはコスモパークの大観覧車を始めとした夜景がきれいに見えるのが当レジデンシャルの自慢でございます」
一方露伴は部屋の調度品などを興味深そうに観察し、壁に飾られている絵画はアンディ・ウォーホルのシルクスクリーンか……などと呟いていた。
「ええ、開業に伴って各部屋の調度品には気を配ってあります。高所得者層向けのマンションではありますが、決して気取らず心落ち着けて安心できる場所……そうしたコンセプトで部屋づくりを行いましたから、照明ひとつとっても角度から光量まで計算されつくしているのですよ……ああ、もちろんお客様の好みに応じてカスタムは可能ですからお気軽にお申し付けください」
「ふーん……」
露伴は砂川の部屋についての説明を半ば聞き流すようにしながら、一通り部屋の造りを見て回って。
「気に入った。では『三部屋』契約させてもらおうか。『友人』である彼女たちの分も僕が払うよ……」
「「えッ!?」」
露伴の言葉に、カフェとタキオンは驚いた。一部屋3000万円する部屋を三部屋一律で。というか、自分たちもこのマンションに入居するのか!?
「素晴らしい。ですが現在空いているお部屋が……四十階以上の上層階になってしまいまして。この場合、さらに入居費用がお高く……具体的に言うと合計で……1億と800万円となってしまいますが……」
「……問題ないよ。この僕を誰だと思っている? 『岸辺露伴』だぞ」
そういうと、露伴は小切手を取り出し、Gペンでさらさらとそこに金額を書いて砂川に渡した。
「出過ぎた物言いでした。申し訳ございません。それでは入居の準備をさせていただきますので……」
「だが、一つ条件がある」
笑みを浮かべた砂川がさっそくと言う風に正式な契約書類を準備しようとすると露伴はそこで割り込むように無理やり条件がある、と切り出し……きょとん、とする砂川にこう言い放った。
「一括、三部屋借り上げる代わりに……『今日』から入居させてほしい。いいだろ? どうせ、この先住むんだから。家具なんかも最初から品のいいのがついているみたいだしな……」
「……わかりました。本来なら年収などの情報を含む書類をご提出いただき、ご契約完了までに一週間ほど時間がかかるのですが……露伴さま、カフェさま、タキオンさまは既に社会的な信用もありますし……いいでしょう。本日からお部屋の方にお入りいただきましょうか……さっそく、お部屋の方にご案内いたしますか?」
「ああ、頼むよ」
露伴がいうと、ではこちらに……と砂川が三人を案内する。
「……そういえば、言い忘れておりましたが一つ重要なことがあります」
と、エレベータに乗っている途中、砂川が切り出した。
「重要なこと、ですか?」
「入居者の皆様には全員に『当レジデンスのルール』の『厳守』をお願いしております。例えば喫煙は喫煙スペースで行う、ペット禁止ですとか……普通のマンションにもある『ルール』ですね。詳しくは、お部屋備え付けのパンフレットをご覧ください」
「ふむ……『ルール』ねェ……」
そうこうしているうちに、エレベータの表示は『45階』を指して止まった。
「こちらになります。皆さまご友人とのことですので……隣同士に三部屋取らせていただきました。もしご希望があれば、同じ値段の別の部屋にも転入できますのでお知らせください」
三人が通されたのは砂川の言葉通り『45階』の『4504』『4505』『4506』と隣り合った部屋同士だ。それぞれ露伴、カフェ、タキオンが契約することになり。
「では……『スイートホーム』の素晴らしい生活をお楽しみください」
砂川は案内を終了し、去っていく。それから、とりあえず三人は露伴の部屋に集まり……
「おいおいおい露伴君、聞いてないぞッ……私たちまでこの『スイートホーム』に入居するなんてッ!」
「そうですよ……トレーナーさんや寮のほうに届け出もしてないのに……どうしましょう……」
タキオンとカフェは露伴の勝手な行いに声を荒げた。たしかにマルゼンスキーの様に寮ではなく自前で部屋を借りて住んでいる者もトレセン学園生の中にはいるが、当然そういう行為には許可が必要だ。それに、ここはトレセン学園からは遠すぎる。だが、当の露伴は特に気にした風もなく、お、冷蔵庫に冷えたワインがあるぞ……などと部屋を物色していた。
「待て待て、本当に『入居』する訳ではないよ。あれは中に入り込む方便さ……部外者には取材は許されないだろうが、入居者なら中を動き回れるからな……今日一日、君たちは門限ギリギリまで取材するだけでいい」
などといいつつ露伴はどっかとソファに腰を下ろし。あきれた様子のタキオン、カフェもとりあえず席に着く。
「……そのために一億円以上払ったんですか? 一日取材するだけのために?」
「カフェさん、以前漫画にはリアリティが必要だと言ったね。
リアリティを最高の形で描写するには、何が必要だと思う?」
それから、問いかけられたカフェは少しだけ考えて。
「…………実際に『体験』する事、ですか?」
「その通りだ。『体験』は何物にも勝る最高の『取材』なんだよ。インターネット全盛の時代、資料なんかはいくらでもネットで探せるが……この岸辺露伴が『取材』にこだわるのはそういう事だ。息遣いすら感じられるようなナマツバごくりの経験。その為ならいくらでもカネを払うさ……」
露伴の『リアリティ』に関する哲学は一貫しており、時に自分の身を危険にさらすことすらある。そうまでして、漫画を描き続けるというのは表現に対する一種の狂信にも思えた。
「漫画にそこまで情熱を傾ける姿勢は……さすがの私も尊敬には値するねェ……まァ……やってることは変質者とさほどかわりはしないんだが」
「全く……君は素直に人をほめることができないのか?」
「その言葉は君にそっくり返すよ」
「はいはい、やめやめ。とりあえずこうなったら『取材』に行きましょう。喧嘩してる時間がもったいないですよ」
相変わらず、すぐに喧嘩を始める露伴とタキオンをもはや慣れた調子で止めたカフェは露伴たちと共に取材に出かける。とりあえず、最初は失踪事件が起こった部屋の近隣住民からの聞き込みだ。
「……まず最初に起こった失踪事件から調べよう。X月X日。入居開始からわずか5日目にまず一人暮らしの『東拓海』という人物が失踪している。22歳。FX取引で大儲けしてこの『スイートホーム』の『32003』号室に入居したみたいだな……」
露伴たちはエレベータで32階に向かい、まずは隣の『32002』号室の住民から話を聞こうとした。
「はい……どなた……?」
現れたのは陰気そうな小太りの男で、明らかに露伴たちを不審な目で見ている。
「すいません、隣の東さんの件を取材しておりまして……彼の失踪について、何か知らないかと思い少しお話だけでもお聞かせ願いませんか?」
露伴はまず世間話から入るほど時間もなかろう、と単刀直入に男に切り出す。しかし男は、その瞬間血相を変えてドアを閉め、カギをかけてからドア越しに叫んだ。
「バ、バカ野郎! 『ルール』を知らねえのかテメェッ! 『ルール』その36、『マンションの風評に傷をつけるような論評の禁止』ッ!!!」
「ちょ、ちょっと……」
おもわずカフェはどうしたことか、と慌てたがもはやそれ以上男から反応が返ってくることはなかった。それから、『32001』号室および『32004』号室の住人にも話を聞こうとしたのだが、反応は似たり寄ったりで『ルール』がどうのと言ってすぐに中に引っ込んでしまった。だが露伴はおもしろい、と言う風ににやりと口元に笑みを浮かべて。
「……この慌てぶり……おそらく『事件』について『マンション中』の人間は『何かを知っている』が……それをもみ消そうとしているに違いない」
「だなあ……きな臭くなってきたねェ……これは……」
露伴は次だ、と言って『32005』室へと向かい、呼び鈴を押して住人を呼び出すと……
「『ヘブンズドアー』ッ!」
今回ばかりは逃げられる前に先に手を打つ、とばかりに有無を言わさず本に変えてしまった。
「……さて、悪いが少し記憶を読ませてもらうよ」
「どれどれ……何か面白い記述は出てくるかな……」
「すいません、本当に……」
タキオンはもはや慣れたもので、露伴と共に本となり倒れた住人の顔の横に座り込むとぺらぺらとページをめくり始める。カフェもおずおずとそのページを覗き込む。
「吉田周治……三十歳、趣味はネットサーフィンで気に入らない野球選手の三振した瞬間の写真を探すこと……どうでもいいな、もっと他は何かないのか……?」
「お、露伴君、これ、それっぽいぞ」
ページをめくるうち、タキオンがそれらしい記述を見つけた。
「……『マンションのルール』を破るのが恐ろしい。あいつは『タバコ』を部屋で吸っていた。『ルール違反』だ……『ルール』は絶対だ」
「……随分と『ルール』を破るのを恐れていますね」
「そういや、砂川が言ってたな。このマンションじゃ『タバコ』は……喫煙所で吸わないといけない……と……」
カフェとタキオンがいぶかし気に記述を読み取る。ルール、ルール、ルール、聞き込みをしたどの住人もやたらルールを口に出す。このマンションは、一体……?
「……聞き込みはこんなものだろうね。一度部屋に戻ろう。試してみたいことがある……」
露伴はそういうと、邪悪な笑みを浮かべながらエレベーターホールへと歩き出した……
それから30分後。
「ちょっと勿体ないが……そーらよッ!!!
これで『ルール9、故意に部屋を汚損する行為』は破ったな」
ビリィッ!!!
シーツが無理やり破かれ、中に入っていた羽毛が散らばる。同時に、壁紙には落ちにくい油性ペンで落書きがされていた。そう、露伴は自発的に『ルール』を破ることで、何が起こるのか見極めようとしていたのだ。
「書き込み完了……いくつかのサイトに『タワーレジデンシャルスイートホーム』の悪評を書きこんでおいたよ。えーと、これはさっきの男が言っていた『ルール36、マンションの風評に傷をつけるような論評の禁止』に当てはまるかな……」
タキオンは部屋に備え付けられていたPCを閉じ、ぼよんぼよんとベッドの上で跳ねて『ルール5、騒音禁止』を破っていたカフェに合流して、二人して楽しそうに跳ね始めるのだった。
「ふぅ……これで『ルール』の1/3は破ったか……? と言うか多すぎるぞ……このマンションの『ルール』。みんなこれを律儀に守っているのか?」
露伴は手元のパンフレットの『ルール』のページを眺めながら呟く。とはいえ、かなり『ルール破り』をしてやったが、未だ何も変わったことは起きない。
「……ほらカフェ! スーパータキオンアタック!」
「わあー! タキオンさんやめてください!!!あはは!」
童心に帰り跳ねまわっていたタキオンとカフェ。その振動でがたがたと本棚が揺れ、中に入っていた本がばらばらと音を立てて床に落ち、開いた。その時だった。
「「…………!」」
露伴と、カフェの表情が変わりカフェはタキオンを護るように一歩前に出る。
「どうした、何が起こった?」
タキオンもその様子に気づいて、跳ねるのをやめて身構えた。
「でたぞ……カフェさんと僕にだけ見えるという事は……こいつは『スタンド』だな」
「そのようですね……タキオンさんッ……絶対に私のそばから離れないで!」
「あ、ああ……!」
露伴とカフェには、部屋の中心に直立不動で立つ『スタンド』が見えていた。それはブリキの古風なオモチャのロボットという風なみためで、シューシューと口から駆動音のような物を漏らしている。
「シューッ!!!」
その『スタンド』はまず、露伴に向けて一直線に突進を開始した!
「『ヘブンズドアー』ッ!」
露伴はそのスタンドを真正面から己の『ヘブンズドアー』で迎え撃つ。ガシッ!ガシッ!ガンッ!ドガッ!!!ブリキがへこむような音と共に、ロボットスタンドの装甲がへこみ、ついにはその場に倒れ伏す!
「……フン、スピードもパワーも大したことはないな……この岸辺露伴の『ヘブンズドアー』の敵じゃあない……」
ロボットスタンドのヴィジョンが消滅していく……本体が気絶し
「露伴先生ッ! 後ろッ!」
「な、何ィ―ッ!!!!」
シューッ!と駆動音を立てながら振るわれた拳が、咄嗟にしゃがみこんだ露伴の頭上数センチを通過する……!
「バカな、スタンドは一人一体のはず……『群体型』かッ!? あるいは……『遠隔自動型』かッ!?」
そのまま地面をゴロゴロと転がり、体勢を立て直した露伴はそのロボットスタンドに再び『ヘブンズドアー』のラッシュを叩き込む。ガシャアアアァッ!!! やはり、能力自体は低い! 撃破はできる、が!
「これではっきりしたな……この『マンション』で『ルール』を破ると……このスタンドが現れて『始末』しに来るというわけだ。今までの失踪者はこいつにやられたに違いないッ!」
「……ハァーッ……ハァーッ……ろ、露伴先生、大丈夫ですか!」
部屋の隅でタキオンを守りながら攻防を見守っていたカフェが露伴に駆け寄る。
「ああッ……だが、スタンド使いの『本体』がどこにいるかわからないッ!
敵もこの調子じゃ、まだまだ無数に出てくるぞ……もし『遠隔自動型』スタンドなら、『条件』を満たすごとにいくらでも出てくる可能性だってあるッ!」
「ならば露伴君、ここは脱出だ。命あっての物種だろ……それにもう、取材の目的は果たしたッ! 撤収だッ!」
そう言って、タキオンが部屋の入口に駆け寄り扉を開ける。
「『おともだち』ッ!」
「うわッ!?」
その瞬間だった。カフェの声と共にタキオンの身体がぐん、と後ろに引っ張られる!ずるずると地面を引きずられるようにカフェの元へと戻ったタキオンは、引っ張られる直前、なにかの『力』が自分の目の前を通り過ぎるような空気の動きを感じていた。
「……出口がふさがれたぞ……ッ!」
そう、タキオンが開けた入り口の先に居たのはあのロボットスタンドであった。カフェの『おともだち』が少しでも遅ければタキオンは凶悪なフックでその脳天を叩き潰されていたかもしれない。
ロボットスタンドは、部屋に入り込み後ろ手で扉を閉める。だがその動きは本当のゼンマイ仕掛けの人形のようにとろとろとしており……やはり露伴のヘブンズドアーの敵ではない。メキャアアァッ!!!
胴に強烈な一撃を喰らい、その場に頽れるロボットスタンド。
「一体一体出てくる……ということはおそらくこれは『遠隔自動型』だ。『群体型』ならそんなことをする意味は薄いからな……そして、やはり恐らくこのスタンドには『出現』に……『条件』があるッ!」
「さっきドアを開けようとすると、先回りするように現れた……キーはこの部屋、から脱出しようとする行動か?」
「いや、僕の後ろに現れた時はそんなそぶりは誰もしなかった……別の条件だ……何か別の……」
――Priririririririr
と、その時だった。露伴の携帯電話が鳴る。それは、砂川からのメールだった。露伴様、お部屋からの騒音がうるさいと別のお部屋の方から苦情が届いております。もう少しお静かにお願いします――そういった文面のメールだ。
「……チィッ、こんな時に……!」
露伴は反射的に、自動で開いたスマートフォンのメーラーアプリをタップして閉じようとした。
「露伴さんッ! またッ!」
その瞬間、露伴の目の前の例のロボットスタンドが現れる! 剛腕!
「シューッ!!!」
「うおおおおッ!!!」
咄嗟にスタンドで防御するがパワーはそれなりにあるッ! 露伴はずざざ、と床を擦るように後ろに滑りバーカウンターにたたきつけられた。
「クソ、『ヘブンズドアー』ッ!」
反撃とばかりにヘブンズドアーの蹴りがロボットスタンドの頭部を叩き潰す。一体一体は弱敵だが、このままではじりじりと削られてしまうッ!
「わかったぞ……露伴君ッ! 『敵』の『出現条件が』ッ!」
「奇遇だなッ、僕もわかったところだッ! こいつらは……」
「「何かを『開く』と出てくるんだッ!」」
タキオン、そして露伴が同時に叫んだ。
「……最初は落ちた本が開いたから、次はメモ、そしてドア、お次には……スマートフォンのアプリを開いたからと来た。なるほどこいつは、かなり広い範囲の『開く』という行為をカバーして襲い掛かって来るらしい」
露伴は、動くなよ……誤って足でなにかページでも開いたらまた出てくるからな……とカフェとタキオンを制し、慎重に部屋の中心に移動する。
「ど、どうするんです……『開く』と出てくるという事は、ドアを開けばまた現れてしまうんじゃ?」
「だろうな。部屋の壁を破壊する……と言うのもダメか。出口を開くと解釈できる……」
カフェ、タキオンも慎重に部屋の中心に移動し円陣めいて露伴と背中を合わせる。これはかなり『追い詰められた』状況だ。窓をぶち破って飛び降りるのも不可能……ここは地上四十五階なのだから。
「無理やり突破するか……?」
「いや、それは避けたい……もし、敵本体に『防火装置』でも弄られて通路でシャッターに挟まれたら最悪だ。いくつ『開いて』逃げなければいいかわからなく……いや、待てよ……『防火装置』。これだッ!」
そういうと露伴は、部屋のキッチン方面へと移動し、『火災報知器』を探し始める。
「条例で一定以上の階層の建物にはかならず『火災報知器』『消火装置』がついているからな……よし、あったぞッ!」
「何をする気なんだ……?」
タキオンとカフェも、慎重に露伴の方に移動する。すると、露伴は火災報知器に火のついたライターを近づけていた。当然、次の瞬間火災報知機が作動し、けたたましい音が鳴り響く!
…………その光景を、十一階にある管理人室から『砂川是千代』は隠しカメラを通じて確認していた。そう、管理人『砂川』こそがこのロボットスタンドの本体であるスタンド使いなのだ!
「一体、火災報知器で何をする気だ……ああ、そうか、『消防』を呼んで……自分たちではなく『消防』にドアを開けさせるつもりなのか。なるほど考えたな……最新鋭の火災報知器は自動で消防に連絡を行うからな……」
砂川はワインと、クラッカーにカマンベールチーズをのせ蜂蜜を掛けたものを貪りながらほくそ笑む。
「だが甘いなァ……私は『管理人』だぞ……システムの制御ぐらいお手の物……貴様らが『ルール』を破った時点で……すでに外部への連絡経路はすべて遮断済みよ……『ルール』を破った貴様らが悪いんだ。私はこの『スイートホーム』の『神』だぞ。『神の制裁』をその身に受けるがいい!ハハハハハハハッ!!!!!!!!」
哄笑する砂川。そう、彼は『スイートホーム』の『管理者』として……『ルール』違反をしたものに対して制裁を行う事に憑りつかれていた。この三人は私と同じ力を使えるようだが……じわじわと追い詰めて始末すればいい……そう考えながら、砂川は画面をのぞき込む。その時だ。
画面の中で、男が空中に絵をかくような奇妙な手の動きをした。
「な、何をして……ア!!!!」
瞬間、砂川は自分の顔がバラバラと本のページの様に開く音を聞きながら、意識を失い事務机に突っ伏した。
「やれやれ……やはり、砂川さん。あなたが犯人だったか……」
次に砂川が目を覚ますと、目の前にはあの三人……露伴、カフェ、タキオンが立っていた。
「ヒッ……お、お前たち、なぜ私を……私が……私だと、気づいた?」
「あまりにもタイミングのいい『メール』でね。それだけでは半信半疑ではあったが……」
そう、露伴に送られた砂川のメール。あれはアプリが開くことを誘発する目的であのタイミングでおくったものだが、それで逆に露伴たちは砂川が怪しいと感づいたのだ。
「……で、もしあなたがアプリが開くことを狙ってメールを送ったとするなら、一つの仮定が成り立つんだよ。通常『自動操縦型』とか『遠隔自動型』とか言われるスタンドは、本人になんら関係なく、一定のルールに従って自動で動く。やられようが敵を始末しよーが……それはあなたには分からない」
露伴は、数々のスタンドを見てきた経験からこうした法則性には詳しい。
「それじゃあ、あなたは困るんだよなァ。始末した後に死体が残ってしまうから隠蔽工作をしなければならないあなたには。それにあんなに都合のいいタイミングでメールが送れるという事は……隠しカメラか何かで、私たちを監視している可能性が高い。実際、この部屋の設備を見るにそうだったみたいだねェ……」
タキオンは管理人室に設けられた無数のモニタを見渡しながら、よくこれだけ揃えたものだ、と逆に感心した。
「ですから……露伴先生は火災報知器を発動させてあなたの耳眼を確実にこちらに向くようにしたんです。十中八九監視しているでしょうが、露伴先生の能力を確実にあなたに食らわせるには見ていることが必要ですからね……」
露伴が火災報知器を作動させた目的は、砂川が確実に自分を『見る』ようにするためであった。そして後はヘブンズドアーを発動し、そのサインを砂川にカメラ越しにみせればいい。とにかくスタンドの出現が止まれば、本体が砂川でなくとも後は悠々とマンションから脱出すればいい、というわけだ。
「フ、フフ……だが、俺は、俺は裁けんぞ。どう警察に説明するつもりだ?
この能力を。今日は貴様らの勝ちだ。見逃してやる。だが俺はこの私の『スイートホーム』で『神』であり続ける。お前たちは、それを指をくわえてみているしかない!!!」
「……フン、別に警察を気取るつもりはないさ。勝手にするといい」
「……ですね。そんな権利も私たちにはありませんし……」
そういうとタキオンは疲れた、と言う風に先に管理人室から出ていき、カフェもそれに追随した。
「ああ、ぼくたちは『承太郎さん』とか『クソッタレの仗助』のような正義漢じゃないからな……あんたが『神』をきどろーと、ハーマン・ウェブスター・マジェットをきどろーとどうでもいい」
露伴も、そういうと踵を返す。
「ハ、ハーマン? 訳の分からんことを……見下しやがって!」
砂川は怒りを発露させ、ワインの入ったグラスを地面に投げつけ、かんしゃくを起こしたようにテーブル上のものをぶちまけた。バタバタバタバタ。メモ帳が地面に落ちて開く。
「シューッ」
その瞬間だった。
「え?」
ロボットスタンドが、砂川の眼前に現れる。
「おォッと……『ルール9、故意に部屋を汚損する行為』を『破った』な……砂川さん、これはあなた自身が課した『ルール』だぞ……『ルール』を破ると……『制裁』があるんだろう?」
露伴は一度振り向いて、完全に砂川を『見下しながら』言い放った。勝つときと言うのは相手を見下しながら勝つものだからだ。
「スデに『ヘブンズドアー』で書き込んでおいたよ。あなたは『ルール』を『破る』とね……」
「バッ、バカな……違う! これは! 違うんだ! ギャ、ギャアアアアアッ!!!!」
スタンド名:<|°_°|>(ロボットフェイス)
本体:砂川是千代
――
←To Be Continued?
スタンド名:<|°_°|>(ロボットフェイス)
本体:砂川是千代
破壊力:C スピード:C 射程距離:C
持続力:B 精密動作性:B 成長性:C
『ルール』を破ったマンションの住人が、なんらかの物を『開く』と発現する遠隔自動操縦型スタンド。特別な能力は持たないが対象を機械的に追い詰め抹殺する。