幻影ME   作:星神777

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水底に灯すグロウフライ

 

「では僭越ながら、発表させていただきます…」

 

チャット欄に一枚の写真が送られてきた。

 

「今度の休みにここへ行こう!」

 

「これって…」

「まさか…」

「…?」

 

「北海道!!??」

 

「ふふん、すごいでしょ〜!MVの素材集めでサーフィンしてた時に見つけたんだ!ねえねえみんなで行こうよ!」

 

「簡単にいうけど北海道よ、北海道!そんなポンと行ける場所じゃないのよ!」

 

「北海道?えななん何言ってるの?」

 

「えななん、最後までちゃんと読んで」

 

「は?ちゃんと読むも何も……ん?"北海道気分を味わえるBBQ付きプラン!林間ペンション1泊2日コース"って都内じゃないの!」

 

「えななん、うるさい」

 

「うん、電車一本で行けるみたいだね」

 

「ね、いいでしょ〜!せっかく連休なんだし行こうよ!」

 

「まあ都内なら…って雪はどうするのよ、旅行なんて許してもらえるわけ?」

 

「その連休はちょうど両親が海外に旅行みたいだから大丈夫だと思う」

 

「私も、大丈夫かな。なにか曲のヒントになるかもしれないし、それにみんなで行ったミステリーツアーも楽しかったから、また行けて嬉しいよ」

 

「K〜〜!雪〜〜!なら決まり!仔細はまた送るね、それにしてもよかったねえななん」

 

「へ?なにがよ」

 

「まあまあ、きっとボクに感謝することになるよ」

 

「……っ!あんたねぇ!」

 

「?とりあえず私は作業に戻るね」

 

「私も」

 

「じゃあボクも。えななん、また後でね〜」

 

「あ、こら!待ちなさいAmia!」

 

○月◇日 ☁️→☂️

 

みんなで旅行に行く約束をした、絵名がうるさかった。

 

〜〜〜

 

「それじゃあ行ってくるわねまふゆ、勉強合宿頑張るのよ」

 

「うん、お母さんたちも気をつけて」

 

両親を見送り荷造りを始める、と言っても持って行くものは特にないので着替えを入れてタオルや救急セットを用意して終わった。

すると瑞希から一通メッセージが来ていた。

 

【やっほー!まふゆ、大丈夫そう?】

【うん、お母さんたちも出たし大丈夫】

【オッケー!よかった!じゃあまた後でね!】

【うん】

 

そろそろ出よう。

 

 

駅に着くと既にみんな揃っていた、珍しく絵名も遅れていない。

 

「おーい!まふゆー!」

 

「無事に来れたわね」

 

「みんな、お待たせ」

 

「ううん、お疲れ様、まふゆ」

 

「少し早いけどみんな揃ったならもう行きましょ」

 

「よーし!一番乗り〜!」

 

「瑞希、走ると危ないよ」

 

「へーきへーき!さあしゅっぱ〜つ!」

 

「もう…私たちも行きましょ」

 

「うん」

 

〜〜〜〜〜

 

「着いたー!」

 

「長かった…」

 

電車に揺られること約ニ時間、駅というにはあまりにも小さい小屋を後にして街というにはあまりにも山すぎる道を二十分かけて歩きようやく目的のコテージにたどり着いた。

 

「へぇ、案外綺麗じゃない」

 

「しかも結構広いね」

 

「足が、震える…」

 

「すこし休憩しよう、みんなコーヒーと紅茶どっちがいい?」

 

「さっすがまふゆ!ボク紅茶〜!」

 

「私も紅茶、甘いのにしてよね」

 

「私はコーヒーがいいかな」

 

「わかった、お湯沸かしてくるね」

 

「ありがとう、まふゆ」

 

バッグから必要なものを取り出しキッチンへ向かうと絵名がついてきた。

 

「絵名、座ってていいよ」

 

「いいの、私がやりたいからやるの。それに1人でカップ4つも持ってけないでしょ」

 

絵名が隣にいる、それだけなのになんだかふわふわして心地いい。

 

「絵名」

 

「なに?」

 

「ありがとう」

 

「そ、ちょっとは素直に言えるようになったじゃない」

 

「絵名…だから」

 

「へ?」

 

「絵名が嬉しそうにしてたり楽しそうにしてるとなんだかあたたかい気がする、それに絵名といると落ち着く。だから絵名と一緒にいたいと思う」

 

「あんた…それってーー」

 

ピーーーッ!!!

 

甲高い音が私たちの会話を裂いた。

 

「お、お湯が沸いたみたいね。みんな待ってるし行きましょ」

 

「……うん」

 

絵名は何を言いかけたんだろう、気になるけれどとても聞けそうにない。

 

「みんな、お待たせ!はい、奏のコーヒー」

 

「ありがとう、絵名」

 

「これは瑞希の紅茶、少しだけ氷を入れたからすぐ飲めるよ」

 

「まふゆ〜!ありがとう!」

 

「はい、これは絵名の」

 

「あ、ありがと…。こ、これ、あんたの分ね」

 

「うん、ありがとう」

 

「あれれ〜?どうしたの絵名、アンドロイドみたいになっちゃって」

 

「うっさいわね!お湯が熱かったのよ!」

 

「絵名、溢れるよ」

 

それからは瑞希が持ってきたお菓子をつまんで談笑タイムだった。

 

「ねえねえ、そう言えばここって蛍見れるらしいよ!」

 

「蛍?まあこんな山じゃ確かにいるかもね」

 

「生きてる蛍は見たことないな、インスピレーション湧くかも」

 

「でも今は冬だから蛍はいないと思う」

 

「え?蛍って1年中いるわけじゃないの?」

 

「蛍の成虫は基本的に夏にしかいないよ、冬にも光る種類はあるみたいだけどここにはいないと思う」

 

「そっか…少し残念だな」

 

「何言ってんのよ、またいつかみんなで来ればいいじゃない。次は夏に花火とか持って」

 

「お、絵名名案!絶対行こうね!約束!」

 

「あんたも行くのよ、まふゆ」

 

「わかった」

 

またいつか、そう言った絵名の顔はなんだか寂しそうで。

だから、私は蛍が見たかった。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

散々遊んで陽も落ちてきた頃夕食の準備をすることにした私たちは役割分担をして炊事場へ向かった。

 

 

「まふゆ、私はなにをすればいい?」

 

「包丁は危ないから奏は米研ぎをお願い」

 

「わかった」

 

今日のメニューはカレー、瑞希曰く

「キャンプにカレーは付き物だよね!」

だそうだ。

 

あらかた具材を切り終えた後奏がやってきた。

 

「終わったよ、まふゆ」

 

「うん、ありがとう。飯盒が重いからお米は私が持っていく、奏は鍋のほうに具材を運んで欲しい」

 

「あのボウルだね」

 

 

火おこしは絵名と瑞希の担当だ、まだ火がおこせてないみたいで明らかに苦戦していた。

 

「火、着いた!着いたよ絵名!」

 

「あ、あつい…」

 

あれはまだ薪がいるな…

 

飯盒を置いて薪置き場へ向かう、そこそこの太さで乾燥してるものを見繕い一抱え分程を持って戻ることにした。

 

「絵名……」

「絵名ー!薪足りないでしょ!持ってきたよ!」

 

「気がきくじゃない!火が消えるとこだったわよ、ナイス瑞希!」

 

「ふふーん、ボクに任せてよ!」

 

絵名と瑞希が楽しそうにしてる、今までと同じなんでもない光景なのになんだかすごくモヤモヤする。

 

「あれ?まふゆ、もう終わったの?さすが!」

 

「え?あ、うん。お米…よろしくね…」

 

なんだか居心地が悪くてそそくさとその場を後にした。

 

「まふゆ…?」

 

 

 

 

 

鍋の方へ戻ると奏は既に全ての具材を運び終わっていたようで暇そうにしていた。

 

「あ、まふゆ。おかえり」

 

「待たせてごめん」

 

「ううん、大丈夫。さあ作ろうか」

 

「うん」

 

と言っても作るのはカレーなのだから具材を煮込むだけだ、特にすることはない。

 

「まふゆ、何を入れてるの?葉っぱ?」

 

「これはローズマリーっていうハーブ、香りがついてさわやかな味わいになる。カレーにはあまり使うことはないけどせっかくだから」

 

「へえ、そういえば望月さんも同じようなものを使ってた気がする」

 

談笑してときたま鍋を混ぜる、それだけの作業だが嫌な感じはしない。

 

「奏、少し味見してみて」

 

「うん、美味しい!ハーブの香りがいいアクセントになってるよ」

 

「よかった」

 

「こんど望月さんにも……絵名?」

 

奏の声に振り返ると苦い顔をした絵名がいた。

 

「絵名、お米炊けたの?」

 

「へ?あ、え、えーっと。うん、そろそろかな…わ、私!戻るね!」

 

そう言って絵名はさっさと戻ってしまった。

 

「どうしたんだろう」

 

「何も言わなかったってことは大した用じゃなかったんじゃない」

 

「うーんと言うよりはむしろ…」

 

奏はそれ以上はなにも言わなかった。

 

 

 

「それじゃいただきまーす!」

 

「てか凄く自然に買い出ししてカレー作っちゃったけど北海道気分のBBQはどうなってるのよ」

 

「ああ、あれね…」

 

フッと瑞希は笑った。

 

「いや説明しなさいよ」

 

「あのBBQ一人前で一万円もするんだよ!!流石に無理!!」

 

「げ、そんなにするの。ならしょうがないわね」

 

「でもこうやってみんなでご飯を作るなんて初めてだから楽しかったな」

 

「私も、良かったと思う」

 

「うんうん、これがボクの作戦だったわけですよ!それにしてもこのカレー美味しいね!」

 

それからカレーを堪能した私たちは洗い物をして交代でシャワーを浴びて部屋に戻った。

 

「いやぁ〜満足満足!」

 

「布団敷いておいたよ」

 

「ありがとう、まふゆ」

 

すると瑞希がバッグから何かを出してきた。

 

「ふふふ…修学旅行の夜といったらこれでしょ!」

 

トランプだった。

 

「修学旅行ではないけど」

 

「まあまあ、とりあえずババ抜きからね〜!今日は寝かさないぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……寝たわね」

 

「寝たね」

 

「早かったね」

 

午後22時瑞希は撃沈した。

 

「全くはしゃぎすぎなのよ」

 

「ずっと楽しみにしてたもんね」

 

「とりあえずトランプは片付けるね」

 

 

 

 

「じゃあ私たちも寝ようか」

 

「そうね、なんだか疲れたし」

 

「うん」

 

「おやすみ」

 

「「おやすみ」」

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

眠れない、他のみんなはもう寝ついてしまっただろうか。

 

蛍、か。

 

少し外に出てみよう、みんなを起こさないように慎重に。

 

 

コテージ前のベンチに腰掛ける、山なのもあって夜になるといっそう冷える、上着を持ってきて正解だった。

 

「やっぱり、見えないな」

 

「なにが?」

 

まさか返事が返ってくるとは思わなかったので大層肝を冷やした。

 

「…ッ!!絵名…びっくりした」

 

「驚かすつもりはなかったんだけど、ごめん。

隣、いい?」

 

「うん」

 

思わぬ形で2人きりの時間を過ごすことになったが予想していなかっただけに得をした気分だ。

 

「ごめん、出ていくときに起こしちゃった?」

 

「ううん、なんだか眠れなくて」

 

とりあえず目下で気にしていることは聞けた、が核心を突けていない。

 

「絵名、さっきー」

 

「ごめん!まふゆ!」

 

「え?」

 

「私あんたのこと、その、変に意識しちゃって避けてた」

 

「別に、気にしてない」

 

「私は気にするの!だって、それでせっかく一緒の時間が減っちゃったわけだし。それに…私まふゆと奏がカレーを作ってるのを見てそれがあまりに楽しそうだったからずるい、なんて思っちゃった。私が自分で離れていったのにね」

 

「私も、嫌だった。絵名と瑞希が2人で火を起こしてて、楽しそうにしてたからモヤモヤした」

 

「そ、そう」

 

「そう思うのは絵名だけなんだよ」

 

「やめてよ、私なんてなにもない。まふゆにすればなんてこともない出来損ないよ」

 

「どうして絵名がいつもそこまで自分を卑下するのかわからない、少なくとも私は絵名が出来損ないなんて感じたことはないし自分の下だとも思わない」

 

「まふゆ…」

 

「どうしたって生まれ変われはしないんだから絵名

は絵名でいればいいと思う、そのためにニーゴがあるんじゃないの?」

 

「….まさかあんたに”在り方”を諭されるとはね」

 

「別に、思ったことを言っただけ」

 

「うわでた、お得意のやつ」

 

「…今のは不愉快だった」

 

「あーはいはい、って。………?まふゆ?あれ、なにかしら?」

 

「どれ?」

 

「あれよあれ!なんか光ってるじゃない!」

 

目を凝らして見てみると確かになんだか…玉?のような光が浮かんでいるような。

 

「行くわよ!まふゆ!」

 

「え、ちょっと、絵名!」

 

絵名は私の腕を掴んで走り出した。

 

「絶対蛍よあれ!まふゆ早く!見失っちゃう!」

 

「待って!絵名。暗いから気をつけて!」

 

聞こえないのか聞く気がないのか絵名は私の腕をつかんだまま走り続ける。

25時、全てが止まった世界の中で私は今誰よりも蛍に近づいていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「見失っちゃったわね」

 

キョロキョロとあたりを見渡していると何やら銀色のモノを見つけた。

 

「絵名、これ」

 

「なに?缶詰めのゴミ?それがどうしたのよ、汚いから捨てなさい」

 

「そうじゃなくて、見て」

 

「だからなに…って、もしかして」

 

「あの光、街灯がこれに反射しただけじゃない?」

 

「えぇ〜!そんなオチなの!?嘘でしょ…」

 

「昼間蛍はいないって言った」

 

「いやでもあれは期待しちゃうでしょ!あーあバカらしい」

 

「でも、楽しかった気がする」

 

「そう?ならまあいっか。と言うかなんだかんだ私まだあんたが探してたものを聞いてないんだけど」

 

「それ、今聞く?」

 

「しょうがないでしょ今思い出したんだから」

 

「蛍を、絵名に見せたくて」

 

「蛍を?私に?」

 

「うん、蛍が見れないってなって絵名少し寂しそうな顔してた。だから見つけてあげたかった」

 

「あんたねぇ…」

 

呆れながらも絵名は笑っていた。

 

「ありがとう、まふゆ」

 

「蛍はみつかってないよ?」

 

「その気持ちが嬉しいの」

 

「そっか」

 

「そうなの」

 

すると絵名は少しだけ先に行くなり振り返って

 

「次は絶対蛍見るわよ!みんなで!」

 

そう言って、笑った。

 

その笑顔があまりにも眩しくて、温かくて、消したくなくて、でも隠しておきたくて。

 

「蛍は、ここにいた」

 

私だけが知っているこがねの輝き、心の水底まで照らしてしまうような、そんな光。

 

「え?どこどこ!」

 

「……鈍感な絵名には、見えないかもね」

 

「ちょっとあんた!それどういうことよ!」

 

できれば何も知らないでただ笑っていて欲しい、心からそう思っていた。

 

 

『東雲絵名、か』

 

 

強すぎる光ほど濃い影を生むなんて知らずに。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

それからなんとか眠りにつき、朝ごはんを食べるともう電車の時間だった。

 

運良くボックスシートにつけて喜んだ瑞希はいざ知らず絵名と奏は早々に寝てしまった。

 

「2人とも体力ないね〜」

 

「そうだね」

 

「ま、絵名はちがうかな?ね、まふゆ?」

 

「なんの話」

 

「またまた〜ボク知ってるんだから、2人が夜出かけてた事!」

 

昨日の夜を、大人になるまで

 

「そう」

 

「でさ、何してたの?ねえねえ教えてよ〜!」

 

心にしまっておくよ

 

「はぁ…」

 

「ワクワク!」

 

聞かれたならば

 

「瑞希」

 

 

 

 

こう答えるね

 

 

 

 

 

「蛍はいなかった」

 

 

 

 

 

 

 


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