ストライク・ザ・ポゼッション   作:風呂敷マウント

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一年以上も更新放置しててすみませんでした。最新話です、どうぞ。


少女

 彩海学園。どういう理由でそうなっているのか分からないが、理事長室よりも高い場所に設けられた一教員である那月の部屋。無駄に高価な椅子やらテーブルやらが置かれているそこでは那月が仁王立ちで辰成の前に立ち、彼を見下ろしている光景が広がっていた。心なしか、那月が酷く不機嫌な表情になっているのを辰成と古城は感じ取っていた。いや、実際には古城だけはその理由を知っている。

 

「あの、何で俺はあなたに会いに来て早々、正座させられているのでしょうか?」

「自分の胸に手を当てて聞いてみろ、馬鹿者」

 

 那月にそう言われる辰成だが、なんでだと言わんばかりの顔をしている。自分が那月に怒られる原因が本気で分かっていないようだった。

 

『そりゃあお前さ。俺が止めてんのにあっちこっち勝手に本屋だのアニメショップに出入りするからだろうが。そのせいで時間食い過ぎて待ち合わせに遅れたんだろ! つうかさ、ゲームはともかく俺はアニメだとか興味ねえーんだから、んなとこに入るんじゃねえよ!』

 

 古城の指摘通り、辰成が正座させられている原因はこれ以外に存在しないのである。だが、辰成は反省するどころか隙を見ては鼻をほじろうとする始末である。それを見た那月は呆れたと言わんばかりに頭に手を当てながら辰成を睨む。

 

「お前、私のこと舐めているだろ?」

「そりゃあ、那月をペロペロはしたいけど――なんだよ、そのすぐにでも俺に飛び蹴りでもしたそうな表情は」

「……もういい」

 

 彼の言葉に怒る気力も失せたのか、那月は頭を押さえると静かにそう呟いた。乱暴にソファーへ腰を下ろした那月。自分の隣を指差し、座れと辰成に合図してくる。正座の状態から

解放された辰成もソファーに座る。

 

「辰成、話の前に暁を下がらせろ」

「そうだな。古城、悪いが奥の方に行っててくれないか?」

『あ、あぁ。分かった』

 

 自分に聴かせたくない会話をこれからするのだと、二人の雰囲気から感じ取った古城は大人しく意識の奥へと引っ込む。

 

「下がらせたぞ」

「それで、魔族狩りの犯人は分かったのか?」

 

 急かしてくる那月に辰成は焦るなと言う。

 

「これはあくまで俺の推測なんだが、それでもいいか」

「よかろう。話せ」

「犯人はおそらく、西欧教会の殲教師だ」

「……やはり、か」

 

 那月は納得いったかのような声音で言う。那月の言葉を聞いた辰成は眉根を寄せながら彼女に尋ねた。

 

「殲教師が襲撃犯だったことを知ってたのか?」

「いや、確証はなかったが被害者が襲われた近くに設置されていた監視カメラの映像からそういう推測がなされていただけだ。……聞くが、その犯人はお前の目から見て本当に殲教師だったか?」

「……本物の殲教師かどうかは怪しいし、物証もないからなんとも。ただ、あの戦闘能力と武装は殲教師のそれに近いものだったよ」

 

 辰成は昨日戦った際の感覚を思い出しながら那月にそう告げる。あれは間違いなく場数を踏んだ経験からなされる戦い方だった。それは疑いようはない。だが、先程述べたように本当に殲教師なのかと問われれば言葉を濁すことしかできない点がかなり痛いのだ。那月は顎に手を当てながら続けて訊く。

 

「奴等の狙いはなんだ? 何故、この島で殲教師が殺戮を」

「多分だけど、あいつの狙いはこの島を支えているモノだよ。あれはあの教会の連中とって余程大切な物らしいからな」

 

 少しだけ肩を竦ませると、辰成は正座させられる前にテーブルへ無造作に置いていたコンビニの袋から缶コーヒーを取り出し、プルタブを開けて口をつけた。自分だけが飲むのもなんだと思い、辰成は那月に自分が買った紅茶をあげようとするがそんなもの要らんと言われ、断れてしまう。

 

要石(キーストーン)、供犠建材……。絃神千羅の所為で私達は余計なツケを払わされているというわけか」

「あの時代の技術じゃそうでもしなきゃ絃神島なんて作れなかったからな。ある意味、天才と言えるとは思うぜ。絃神千羅は」

 

 それが人道的かどうかは別だけどな、と辰成は息を一つ吐きながら付け加える。那月は頭が痛くなりそうだった。以前辰成に聞かされたよくある噂話程度に捉えていたものが、まさかこんな形で現実味を帯びようとは予想だにしてなかったのだから当たり前といえよう。

 

「その殲教師は教会のバックアップを受けているように見えたか?」

「いや、それはないな。もしバックアップを受けているなら昨晩の戦闘時に潜伏している他の殲教師が助けに来ていたはずだ。でも、あいつの隣にいたのはホムンクルスだけだった」

 

 自信はなかったものの、辰成はそう言わざるを得なかった。確かめようにも本当に組織ぐるみで動かれていたら証拠も消されている可能性が高いからであった。那月は辰成がしれっと口にしたある単語に反応した。

 

「待て、ホムンクルスだと? 映像では殲教師が現れる際に必ず少女がいたが……まさかお前の依頼にあったやつか?」

「ありゃ? 知っていたのか。なら話が早いや」

「私の権限で調べたんだ。お前、わざと見つかり易いようにしていただろう?」

「まあね。どうせ那月ならそこら辺の問題を潜りぬけて見つけ出そうとするだろうしな」

「嬉しくない気遣いだな……」

 

 苦々しい表情をしている那月をよそ目に、時計を見た辰成はそろそろ用事の時間帯になっているのに気付いた。仕方ないと判断し、話を早々に切り上げようとする。彼が立ち上がる姿を見ながら那月が問う。

 

「これから何処かに行くのか?」

「待ち合わせしてんだよね」

 

 何故かドヤ顔をしている辰成を見た那月はなんとなくムカついたのか、待ち合わせしている相手がだれか適当に相手を当ててみることを思いついたような顔をしている。彼女は適当に相手の名前を口にしてみた。

 

「お前、いや暁が財布を届けたとかいう例の転校生とか?」

「何でバレたし」

「……なぜ獅子王機関の剣巫と仲良くしている。忘れたのか、あの機関は――」

 

 辰成の姫柊雪菜に対する態度に解せない那月は問う。口にも出したくない名前を出してしまったことへの不快感で顔を歪ませる。自分の言葉に振り向いた辰成の目をずっと睨んでいた。

 

「別に忘れてなんかいねえよ。別にあの子のことが個人的に気に入ったから仲良くしているだけだ。まあ、これを機に連中との関係が良くなるなら万々歳だが」

「連中は潰すと断言していた男の台詞とは思えんな」

「色々と疲れたんだよ。それに俺はすでにこんな状態だしな。元にでも戻らない限り、そんな気は起きねえよ」

 

 そう言い切ると辰成は手をひらひらさせながら、那月の部屋から出て行った。彼の後姿を那月はただ黙って見つめていた。小さく息を吐くと残っている書類やらの片付けに取り掛かり始めた。

 

「近いうちに辰成が何かをやらかすかもしれないな……」

 

 そんな、嫌な予感を頭の隅に追いやりながら。

 

 

 校舎を出て、校門を出ようとしている途中。辰成がおもむろに意識の奥から戻ってきた古城に聞こえるように心の中で大声を出した。

 

『あ、やべ』

『なんだよいきなり』

『家に仕掛けた盗聴&盗撮防止用の魔術トラップ、解除するの忘れてたわ』

『は?』

 

 こいつは何を言っているんだと言わんばかりに古城が言葉を漏らす。彼が明らかに機嫌が悪くなっていることに気づき、バツが悪くなったのか辰成は頭を掻きながら言い訳を始めた。

 

『ちなみにだけど、発動すると誰かに見られている恐怖感に苛まれます。運が悪いと発狂します。SAN値直葬ってやつです』

『人の許可なくなんつーもん取り付けてくれてんだコラ』

 

 軽い感じで謝り始めた辰成に軽くイラつき始めた古城を余所に、見覚えがある人影が校門近くにいるのが見えた辰成は目を凝らす。その人物は紛れもない雪菜だった。彼女の表情から嫌な感じを覚えた辰成は恐る恐る雪菜へと声をかけた。

 

「や、やぁ、雪菜ちゃん。ここで何してんの?」

 

 何となく理由は分かっているが一応聞いておくことにした。

 

「い、いえ、その。何となく待っていられなくなったので、散歩ついでに来ちゃいました」

 

 散歩って距離じゃなくね。と雪菜の言葉を聞いた辰成はなんとなくだが確信してしまう。この子、間違いなく俺のトラップに引っかかった、と。

 

『あのさ辰成。これってアレだよな、間違いなくトラップ踏んでるよなこれ……』

『や、やっちゃったぜ』

『あとで謝っておけよ……』

『うん……』

 

 このまま戻って芝居するのも億劫になってきた辰成は、雪菜を待たせて古城に電話するふりをする。適当な芝居をした辰成は再度雪菜に話しかける。

 

「ごめん。古城のやつさ、重い物が入った段ボールを持ち上げようとしてギックリ腰になったみたい。だから俺が代わりに行くよ」

『お、おい。お前、幾らなんでもそんな嘘に騙される奴が――』

「それは大変ですね。暁先輩にお大事にと伝えておいてください」

 

 この子、もしかしなくても古城が第四真祖だってこと忘れてないか。と辰成は本気で頭を抱えそうになる。裏の方では古城も同じ考えをしているのか、苦笑いの声が聞こえてきた。そんな辰成の心情を知ってか知らずか、天然な雪菜は本気で心配している表情を浮かべていた。このまま固まったままでいても怪しまれるだけなので、いつも通り辰成は演技をすることにした。歩きながら辰成と雪菜は会話をする。

 

「お、オッケー。じゃあ行こうか、うん。それで買う物のリストとかあるの?」

 

 辰成にそう言われた雪菜はスカートのポケットから一枚のメモ用紙を取り出した。メモを手渡された辰成は一通り読んだ後に雪菜の方を見た。

 

「これなら近場のホームセンターで買えるよ。そこまで時間がかからないとは思うけど」

「そうですか。売ってないと言われたらどうしようかと」

「いやいや、それはないから。ここに書いてあるものを売ってなかったら商品を取り扱っている店として駄目だから」

 

 雪菜の天然発言に自然とツッコミに回っている辰成を見て、古城は珍しいこともあるもんだと他人事ように考えていた。そうこうしている内にホームセンターに着いた辰成と雪菜は入店し、カートを押しながら店内を歩く。冷房の効いた内部に辰成はだらしない声を出す。

 

「あ~、涼しい」

「お兄さん。顔がだらけていますよ」 

「え、そう?」

 

 自覚がないのか。裏に入っていた古城は内心溜息をついた。古城が考えていることを敢えて無視しているのか、辰成は雪菜と共に買い物を進めていく。工具売り場のところを通った雪菜の目にあるものが止まった。辰成も彼女に合わせて足を止める。

 

「チェーンソー? 雪菜ちゃん、チェーンソーに興味あるの?」

「昔、これを映画で見た事があります」

「……間違っても武器に使えるだなんて考えちゃ駄目だからね?」

 

 チェーンソーを見ている雪菜の思考回路が段々と手に取るように分かった辰成は冷静にそう忠告した。色々とスプラッターな光景が浮かんでしまい、思わず身震いした。だが、雪菜はまさか自分が考えていることを読まれると思っていなかったのか、驚愕した顔をしながら何かぶつぶつと言い始める。

 

「ま、まさか。お兄さんには人の思考を読む力が……!?」

「いやいや、違うから! そんな力ないから!」

 

 真顔でそんなことを言い始めた雪菜に対し、辰成は右手をぶんぶんと振って違うという意思表示をする。辰成とて流石にそんな能力など持っていない。ゆえにそれは雪菜の勘違いでしかないのだ。

 ――まあ、違う能力を持っているけどね。その言葉だけは口に出さず、心の中にしまう。ここで言う必要もないし、余計な猜疑心を持たれては困る。

 

「それよりもさ、早く雪菜ちゃんの買いたい物買いに行こうよ」

「そ、そうでした……」

 

 すっかり忘れていたのか、顔を赤らめながら歩を進める雪菜。だが、すぐ彼女はまた足を止めた。そこは洗剤売り場。彼女は塩素系漂白剤と酸性の洗剤を両手に取り、何やら考え事をしていた。コロコロと表情を変える雪菜を可愛いなと思いつつも、何か物凄い嫌な予感を覚えた辰成は遠慮がちに、声を掛けた。

 

「ゆ、雪菜ちゃん。そんな顔をして何を考えてるのかなあ?」

「前に習ったことがあります。これとこれを混ぜると毒ガスを――」

「それ絶対にやめようね!? 物凄く危険なやつだからそれ! つうか、それ教えたの誰!?」

 

 ちょっとそのやり方を教えた人間と話合いをしたいと思った自分は悪くないと辰成は言い聞かせる。本当に買い物をちゃんと終える事が出来るのだろうか。軽く天然が入っている彼女との買い物は前途多難の予感がして仕方がない辰成であった。

 その後の結果を言えば、なんとか買い物を終わらせることが出来た。辰成は荷物持ちとなり、雪菜が購入した品物。特に重そうな物を両手に抱えている。軽い物も持つと言ったが、彼女が「それではお兄さんに悪いです」と言って聞かなかったので素直に重い物だけを持つ事にした。

 

「そういえば、雪菜ちゃん。これだけ買いこんでたけどお金は大丈夫なの?」

「はい。必要経費等を前払いしてもらった支度金がありますから」

「不躾な質問だけど、いくら貰ったの?」

「えっと、一千万円くらいです」

『いっ、いっせん!?』

 

 雪菜の言葉に辰成が固まった。幾ら攻魔師とはいえ、雪菜は中学生だ。学生の身分がある彼女に一千万円を簡単に渡した獅子王機関に溜息を吐きかける。古城に至っては、辰成の裏で口を金魚のようにパクパクさせていた。だが、次の瞬間、辰成の発言により古城の驚きの矛先が彼女から辰成に変わってしまう。

 

『一千万か。安いな』

『は?』

『だから、安いなって言ったの』

『……』

 

 金銭感覚が狂ってやがる、と古城がぶつぶつ言い出したのに構わず、辰成は雪菜との会話を続けた。

 

「獅子王機関の経理のおばさまには、相手が第四真祖だからいつ死んでも悔いがないようにと言われて……そのための支度金だそうで」

「あー、やっぱり古城の所為か。うん、何となく察してた」

『俺なのか? 俺の所為なのか!?』

 

 そう彼女の支度金の大元の原因は古城である。第四真祖とかいう危険因子に対して用意された金がその金額なのだ。どちらかというと迷惑しているのは古城の方なのだが。元々胃を痛める存在だった変態に加え、監視をしてくる彼女が加わった所為でストレスが更に加速しているのだ。

 

「獅子王機関は馬鹿なのか?」

「お兄さん?」

『辰成……?』

 

 いつになく真面目な声音でそう呟く辰成に対し、自分のことを心配してくれたのかと淡い期待を抱いた古城だったが、

 

「なんで一千万なんだよ。一億くらい雪菜ちゃんに渡せよ。ケチだなあいつら。こんなに可愛い美少女が傷物になったらあいつらどうするつもりなんだよホント」

 

 全然違った。辰成は、古城のことなど一ミリの心配もしていなかった。古城は数秒前の自分を殴りたい衝動に駆られるが手足の主導権は今、辰成の手にあるのでどうにもできない。軽く泣きたい気分になる古城であった。

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