ストライク・ザ・ポゼッション   作:風呂敷マウント

5 / 6
夜襲

 雪菜と古城は目的地であるコンビニへと近づいていた。その途中にあったゲームセンターの前で、雪菜が急に足を止める。彼女につられて、古城も立ち止まる。

 

「どうした、姫柊?」

「あ、すみません。なんでもないんです」

 

 ちらりと雪菜が凝視している店頭の筐体に古城も視線を移す。それはクレーンゲームだった。中には二頭身の猫ような姿をしたマスコット人形が入っている。その人形たちへと雪菜の視線は完全に吸い寄せられており、その瞳はキラキラと輝いていた。

 

「このクレーンゲームがどうかしたか?」

「クレーンゲームというんですか。ネコマたんが入っているのは」

「ネコマたん? ああ、このマスコット人形の名前か」

「はい。前の学校で人気があって……」

 

 古城に返事を返しつつも、視線を外そうとしない雪菜。そんな彼女に対する辰成の感想が古城には聞こえた。やっぱ年相応の可愛らしいところあるじゃん。と、妙な嬉しさを含ませた声で辰成は古城にある提案をしてきた。そのクレーンゲームの筐体の中に入っているマスコット人形を取ってやれと。

 古城も間を置かずに辰成の考えに同意すると、これくらいなら獲れそうだなと呟いた。古城の言葉を聞いた雪菜は彼に疑惑の視線を向ける。

 

「獲るってどういう意味ですか? 先輩、まさか……」

「いや違うから。別に盗むとかそういう意味じゃなくて、これはそういう機械なんだよ」

 

 そう言いながら古城は財布から小銭を取り出すと、クレーンゲームの機体に備え付けられているコイン投入口にお金を投入した。凪沙のやや強引なリクエストに付き合わされることが多かった古城は手慣れた手つきでレバーを操作していく。雪菜も先日の魔族との戦いの時よりも真剣な表情でそれを見ている。

 古城はあっという間に、招き猫モドキのマスコット人形を取り出し口へと落とした。それを見ていた辰成は上手いことやるもんだなあ、と古城の腕前に感心しており、古城が別にいいだろと人形を取り出そうとしつつ辰成と会話をしていたのだが、

 

「おい、そこのさん――二人。彩海学園の生徒だな。こんな時間に一体何をしている」

『うばああああああああああ!?』

 

 突如、悪魔の呼びが古城の耳に届いた。古城の中にいた辰成がその声を聞いた途端、悲鳴をあげてそんな辰成の悲鳴に驚いた古城は人形を取ろうとした手を引っ込め、何事かと周囲を見渡そうとするが背後から感じる異様な気配に体が硬直してしまった。隣にいた雪菜も同様に硬直して動いていない。

 声をかけてきた人物の正体など予想するまでもない。古城はそう判断した。何故ならその声は、自分の担任である南宮那月のものなのだから。

 

『あ、悪魔だ! サタンとかベルゼブブとかが裸足で逃げ出す悪魔の登場だ! あ、でもこんな可愛い悪魔なら別に問題ないか』

『いやいやいや!? そういう問題じゃねえだろ!?』

『うーん。生活指導の見回り中なのかなぁ。運がねえなおい』

『人の話聞いてんのか!?』

 

 自分の言葉を無視している辰成に突っ込みながらも古城は時計は店頭から見えるゲームセンター内の時計に目をやる。時刻はすでに午前零時を回っており、日付が変わってしまっていた。そんな時間帯にゲーセンにいたのでは言い訳なんて出来るわけもない。

 完全に条約違反だ。しかも、中学生である雪菜が同伴しているので状況は更に不味い。そんな古城と雪菜の様子が面白いのか那月は楽しそうな口調で言う。

 

「そこの白パーカーの男。どこかで見たような後ろ姿だが、フードを脱いでこっちを向いてもらおうか」

 

 この人、絶対に分かってて言ってるだろ。と古城は心の中で叫ぶ。筐体のガラスに移り込んだ那月の顔もどこか楽しそうだった。相変わらずの暑苦しそうな季節感を無視しているフリルが付いた黒色のドレスを身に着け、夜中なのに日傘を差しながらそんな顔をしているので、古城は一瞬だけ本気でイラっとしてしまった。

 

「どうしたんだ? 振り向かないというなら、こちらにも考えがあるぞ――」

 

 どうすればいいのかと頭を働かせている古城に那月がそう言いかけた時だった。突如、人工島全体を鈍い振動が襲った。そして数秒遅れて、爆発音が一回、二回と響き渡る。

 

『……っ!? 頭が……!?』

『辰成? まさか、魔力痛か!』

『ああ。どっかの馬鹿が魔力を放出しまくってるみたいだ。くっそ……』

 

 辰成の苦悶に満ちた声が古城の耳に届いた。未だ断続的になり続けている爆発音。辰成が頭痛を起こすほどの魔力の波動。事故や自然現象ではないのは明白だった。

 那月の注意がそちらに引き付けられたのを見計らい、雪菜の手を引いて走り出した。雪菜も古城の意図に気づいたのか、その手を握り返す。那月が何か言葉を発しているが、爆発音の所為で何も聞こえない。那月は咄嗟に張った結界も雪菜が気合を入れた一撃で粉砕した。そのまま走っていた古城と雪菜は人工島の岸壁で立ち止まる。古城は走っている間、今も絶え間なく起こっている爆発を引き起こしているものの正体に気付いていた。

 

「先輩。さっきのはまさか……」

「ああ。それにあの魔力……恐らくあれの宿主は相当な大物だろうな」

 

 古城が顔をしかめつつ上空を見つめていると、再び爆発が起こった。人工島の上空に爆発による炎を浴びつつ、黒の妖鳥が出現する。数日前。雪菜がショッピングモールで戦っていた眷獣とは比べものにならない、島を振るわせるほどの威力から貴族(ノーブルズ)長老(ワイズマン)までとはいわないまでも、名のある吸血鬼――旧き世代の使い魔であることは想像に難くなかった。

 

『古城。あれは間違いなくそこそこ強い吸血鬼の使い魔だ。ただ、問題はそこじゃない』

『なに?』

『吸血鬼が勝手に眷獣を顕現させたのはアレだが、恐らくは自己防衛の為に必要なことだったんだろう。……今もなお戦闘が続いている。これが意味することがどういうことか解るよな?』

 

 古城は辰成の言葉にハッとした。そう、敵は旧き世代の吸血鬼相手に未だ攻撃をしかけている。それが意味することは敵も旧き世代と同等の戦闘力か、辰成の対力弾(アンチブレット)のような特殊な力を持っているということになる。とてつもない非常事態になっているという答えに辿り着いた古城が更に顔を強張らせていると、

 

「――先輩。すみません、ここでお別れです。先輩は早く自宅に戻ってください」

「姫柊?」

 

 雪菜は一方的にそう言って、古城と繋いでた手を離した。

 

「私は何が起きているのか調べてきます。安全が確認できたらすぐに戻りますから」

「ちょっと待て。確認に行くなら俺も一緒に――」

「……先輩が行ってどうするんですか? 自分の立場を少しは弁えてください」

 

 雪菜に自分の立場を弁えろと言われた古城は少しの間呆けるが、すぐに頭を動かして見つけた。彼女が発した言葉の意味を。

 古城は第四真祖だ。その身に宿した力の所為で、下手に手を出せば様々な問題にぶち当たる事になる。他の血族の吸血鬼を攻撃すれば大問題になり、逆に攻撃されている吸血鬼の味方に付けばそれはそれで揉めることになるのだ。力が大きすぎるせいで身動きが取れないことに歯噛みしている古城を雪菜は見つめながら言う。

 

「あなたは何もしなくていいです。先輩に危険な事をさせない為にわたしがここにいるんですから」

「姫柊が無理に行く必要もないだろうが。大体、魔族特区の治安維持は警察や特区警備隊の仕事だろ。俺が手を出さないように監視してろよ。なんのための監視役だ!」

 

 古城が死地に踏み込もうとする雪菜を睨みながら叫んだ。だが、雪菜は迷わずに首を横に振り、

 

「先輩は本当に大人しくしてくれるならそうしますが……。それは無理ですよね。もしかしたら、先輩の知り合いが戦闘に巻き込まれでもしてたら――」

 

 雪菜の指摘に古城は口を閉ざした。

 彼女の言う通りだ。大規模な戦闘が起きたのだ。戦場が市街地から離れている無人の工業地区であるアイランド・イーストの倉庫街だとしても、民間人が巻き込まれていないとは断言できない。この島には古城の知り合いも多い。彼らの安全が確認できれば、古城も大人しくしていられるのだが。

 

「それに、よほどの攻魔師でもない限り眷獣が暴れ回っている戦場になんて入れませんよ。でも、私にはこれがありますから」

 

 雪菜はそう言って、背負っているギターケースを開いて武器を抜いた。小気味の良い金属音と共に銀の槍の刃が展開される。

 

「これは真祖と戦う為に与えられた武装です。あのくらいの眷獣ならば、私と雪霞狼の敵ではありません。……ですから、先輩は凪沙さんやお兄さんの傍に居てあげてください」

 

 優しげな笑みを浮かべる彼女の意図が解らず、古城は戸惑う。

 

「姫柊。お前、何を言って――」

「聖域条約にも魔族の自衛権は明記されています。自分の家族や庇護すべき領民を守るためになら、先輩が力を行使してもなんの問題にもなりませんから」

 

 姫柊は何を言っているんだ。古城は動揺する。何故そんなことを今言いだすのか。だが、答えはすぐに見つかった。

 彼女は、雪菜は自分のことなんて気にしていないで妹や辰成を守れと言っているのだ。その事に気づいた古城は雪菜を止めようとするが遅かった。彼女の腕を掴む前に雪菜は駆け出し、人口島の断崖から飛び降りた。その下には貨物運搬用のモノレールが走っている姿があった。走行中である車両の上に雪菜は危なげなく着地する。自動運転されているモノレールは今も戦闘が行われている絃神島東地区へと向かっていく。

 南地区の岸壁に取り残された古城は無言のまま右手で拳を握ると、荒々しく目の前にあるフェンスを殴りつけた。右手に軽く痛みが走るがそんなものを気にする余裕など古城にはない。

 彼女は凪沙や辰成の傍にいて力を振るっても問題ないと言った。だが、それを行うことなど古城には土台無理なのだ。先代の第四真祖から力を受け継ぐ前の古城はただの人間だった。第四真祖の力を行使するには誰かの血を吸う必要がある。だが、誰かの血を吸うということは相手に性的興奮をすると同義である。加えてただの人間であったことも加え、吸血するのに躊躇いがあったのだ。

 どうすることも出来ないのか。古城が髪を乱暴に掻いていると、二人の会話中あまり言葉を発さなかった辰成が口を動かした。

 

『馬鹿が……』

 

 背筋に冷たい何かが走るのを古城は感じた。誰に対して言ったのか判らないが、その声はとてつなく冷たい何かが包まれており同一人物が出したものとは思えないくらい鋭い言葉だった。

 

『おい、古城。お前は『雪菜』を助けたいか?』

「あ、ああ。助けたいさ。だけど、俺が下手に手を出せば……」

『ああそうだな。『第四真祖』が手を出せば大問題になるな』

 

 辰成が雪菜のことをちゃん付けしないで呼び捨てにしたことに目を丸くする。そして第四真祖という部分を強調する辰成の言葉に古城はまさかと呟いた。

 

『――けど、俺が行けば問題ないだろ? 俺は第四真祖じゃないんだし』

「……いいのか?」

『いいんだよ、俺は元々島で起きたこういった荒事を処理するための権限を持ってるんだし。……あの子を一人なんかにさせてたまるか』

 

 最後の言葉に引っ掛かりを覚えたが、わかったと辰成の言葉に頷いた古城は目を閉じて辰成と入れ替わる。狼を思わせるような色彩だった髪の毛はカラスを彷彿させる黒へと変わった。

 

 

 古城と入れ替わった辰成は目を見開く。頭が痛むのを堪えながら、即座に虚空から対力弾が装填されたリボルバーとオートマチックのハンドガンをホルスターごと呼び出して取り出すと銃を一丁ずつ両足の太腿に装着する。保険としてもう一つ武装を呼び出し、それをいつでも取り出せるよう準備を整えた辰成は空間掌握でアイランド・イーストの倉庫街へと向かう。

 能力を全力で回転させた辰成の視界に、アイランド・イーストの倉庫街が見えてくる。移動し始めてから三分も経たない内に辿り着くことに成功した。彼の視界に巨大なワタリガラスのような眷獣が見えた。吸血鬼が出現させてただろう眷獣は次の瞬間、虹色の巨大な腕が妖鳥の翼を根本から引きちぎり、鮮血が飛び散った。そして、体勢を崩した妖鳥をその腕は貪り喰らうように引き裂く。だが、腕からの攻撃が止むことはなく妖鳥は容赦なく蹂躙されていた。

 眷獣の魔力を喰らっているのか。頭に走る頭痛に苦しげな表情を浮かべながら、攻撃が届かない距離にある倉庫の屋根に着地した辰成はそう分析し、驚愕していた。だが、辰成が驚いている理由はそれだけではなかった。あの虹色の腕に見覚えがあったからだ。自分の予想が外れていなければ、この騒ぎの原因はあの殲教師とホムンクルスの少女であろう。

 早く雪菜を見つけなければ。と辰成は思うが、頭痛が止むことがない。無理をした所為か余計頭痛が悪化している有様だ。

 

『古城、頼む』

『わかった』

 

 ホースとホースが繋がり、水が通るイメージを思い浮かべると辰成の頭痛は治まっていく。頭痛が治まっているの内に探しだすために辰成は跳び上がって倉庫の上を移動していく。辰成の視界に雪菜の姿が映る。雪菜は雪霞狼を手に、あの眷獣を操っていた少女に向かっていくようだ。

 

「……やっぱり!」

 

 辰成は苛立ちを隠さず、露骨に顔を歪める。

 ――間違いない。と辰成の中の疑念が確信へと変わる。辰成の視線の先にいたのはあの時の殲教師と、眷獣を顕現させたホムンクルスの少女だったからだ。あんな風貌の男と少女を見間違うことなどあり得ない。間違いなく本人達だろうと辰成は結論付ける。

 ホムンクルスの少女の背中から生えている彼女の眷獣である虹色の腕に雪菜の雪霞狼が突き刺さる。普通ならこれで勝ったと思うところだろう。だが、辰成はそんなことは考えず、対力弾が籠められているリボルバーを構え、撃鉄を起こす。

 少女が裂帛すると彼女の背を引き裂くように、もう一本の腕が出現した。その腕が雪菜へと向かっていく。それに合わせて、辰成は照準を定めるとリボルバーの引き金を引いた。ホムンクルスの少女が顕現させたもう一本の腕が、雪菜の体を横殴りに叩きつけようとした瞬間、放たれた対力弾は彼女達の頭上で弾け、ホムンクルスの少女が出現させていた薔薇の指先を消滅させる。

 

「――これって、まさか……!」

 

 そう呟く雪菜の前へと辰成は空間掌握を使って現れた。彼女を庇うように。これ以上手出しはさせないといった覚悟を含ませた視線を雪菜と戦っていた殲教師とホムンクルスの少女にぶつけながら。

 




今回の話に中央寄せの特殊タグを使用していますが、うまく反映されてますかね?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。