休日、タキオンはマンハッタンカフェと共にショッピングモールに来ていた。
「ハァ…。カフェ、私にはファッションなんてわからないよ。君が好きな物を選びたまえ。」
珍しくカフェから誘ってきたと思ったら、どうやら洋服を買いに行きたかったらしい。
カフェは基本人見知りであり、一人でこういった、いかにも女の子らしい洋服店には入りづらいらしく、何故か私が誘われた。
「…タキオンさん、少しはこう言うものも、興味を持った方が良いですよ。…でないと、いざと言う時に、困るんじゃないですか?」
どうやらカフェは私にオシャレな服を着せたいらしく、仕切りに私に服を勧めてくるのだが。
「あいにく、私は困った事はないよ。それに私がめかし込んだ所で、何も変わらないさ。」
「……別に、私は良いんですよ。タキオンさんがどうなろうと。ただ、あなたの友達として、忠告しただけです」
カフェは私の数少ない友人の一人だ。基本サバサバしていてたまに毒舌だが、私が困った時は助けてくれる、なかなか良い友である。
「うかうかしてると、タキオンさんも危ない、ですよ。
……もしかして知らないんですか?」
「フゥン……?知らない、とはどう言う事だい?私は何も聞いてないが?」
カフェは一瞬しまった、と言う顔をしたが、すぐに「…いえ、忘れてください。別に知らなくていいと思います。…特にタキオンさんは」と、濁されてしまった。
「…?気になるじゃあないか。早く言いたまえ。それともなんだい。カフェとトレーナー君が、私の知らない所で楽しそうに喋っている事と関係があるのかい?」
「……別にタキオンさんに内緒にしようとはしてませんよ…。趣味がたまたま一緒だっただけです。ただ本当に、タキオンさんは知らなくていいと思います。…私も、言う気はありませんから」
そう言うとカフェは、一人でレジへ向かっていった。
……?何故カフェはあんなに隠したがる?私に知られたくないのは何故?
やはりトレーナー君か…?いや、カフェはその事は隠そうとはしていない。だが最近のカフェを見ていると、そんな気がしないでもない。
トレーナー君なら、何か知っているだろうか。
明日にでも聞いてみようか。それに明日は、試したい新薬もある。とりあえず今は考えないようにしておこう。
レジから戻ってきたカフェと共に、ショッピングモール内を散策する事にした。
「……タキオンさん、本当にお洋服、買わなくていいんですか?…折角来てるんですから、勿体、無いですよ。」
カフェはその後も、買っとけばよかったのに…と、あまりにもしつこく言うものだから、
「わかった、わかったよカフェ。全く、君も意外と頑固だねぇ」と、最終的には私が折れる羽目になった。
カフェは楽しそうにあれでもない、これでもないと私の洋服を選び始める。
…私がいくらオシャレをした所で、文字通り馬子に衣装ではないだろうか。私自身に魅力なんてありはしない。
トレーナー君が全く振り向いてくれないのも、私に魅力がないからだろうか。
だがこれでも毛並みには気を遣っているし、匂いも悪くならないよう努力はしているんだがね。
まだそれが役に立った事はないが。
…今度、化粧の仕方でも教えてもらうとするかな。
そんな事を考えているうちに、両手に抱えきれないくらいの服を持ってきたカフェに、「……タキオンさん、これ全部着てみてください。きっと、似合うものがあるはずです」と、試着室に連れて行かれてしまった。
……おいおいよしてくれたまえ。その、いかにも露出度の高い服はなんだい?カフェ、君は意外と…
何?トレーナー君の好み?フゥン…なら…いやまて、何故それをカフェが知っているんだい?ちょっと詳しく教えてもらおうか?
カフェ、これはあまりにも派手すぎやしないかい?
私が作る薬品の方が派手な色をしてる?あれは意図して作り出してる色ではないのだよ。
…なんだいこのヒラヒラは。まるで実用性がないじゃないか。動きづらいったらありゃしない。オシャレに見える?…私にはわからないな。
これは身体のラインが出過ぎではないかい?私はこういった服は好きでは…これもトレーナー君の趣味かい?全く…あのムッツリトレーナー君め…
「ハァ…疲れた。」
結局、悩みに悩んだ挙句、カフェが選んだ数着を購入する事になった。
私はいらないといったのだが、なかなか際どい洋服も買わされた。
あまり色仕掛けは好きじゃないんだがね。
……まぁ、トレーナー君の趣味というのなら仕方ない。
その後、モール内のカフェに移動し、一息つく事にした。
「タキオンさん、それ…一度着たらちゃんと洗濯、してくださいね」
「君は私をなんだと思っているんだい?私だって最低限の生活はしているんだよ?」
「…タキオンさんは、研究とレースとトレーナーしか、頭にない人だと思っているので。私生活なんて、タキオンさんがまともにしているとは、思えません」
「えー!君とは割とながい時間を過ごしたつもりなんだが。そう思われているのなら心外だなぁ。」
「…最後にタキオンさんが洗濯したのは、いつですか?」
「え?いや、私の服はほとんどトレーナー君に洗濯してもらっているからね。ジャージに体操着に白衣に制服に…私服は、あまり着ないからねぇ」
「……もしかして、今着てる服も…洗濯してないんですか?」
「さすがにそれは無いさ…変な匂いでもするかい?」
「…いえ。ですが、もしそうだったら、嫌だな…と」
どうやらカフェの中では私はダメ人間らしい。
私生活についてはあまり言い返す事はできないのだが、私だって洗濯ぐらいするさ。少しだけだがね。
「まぁ、そんな事はどうでもいいのさ。突然だがカフェ、本当は今日何故私を誘ったんだい?何か別に理由があるだろう。」
カフェは一瞬驚いたように体を強張らせたが、すぐに目を伏せ、俯いてしまった。
「…もしかしてだが、さっきの知らなくていい事と関係があるのかい?」
反応なし…か。まぁ予想していたさ。
「カフェ、君は基本私をこういった場所には誘わないだろう。なのに珍しく私を誘った時点で、何かあると踏んでいたのさ。君は私と違って交友の幅も広い。私は最初、トレーナー君絡みで何かあると踏んでいたのだが…違うかい?」
「…違います。けど、言えません」
「フゥン、まいったね。けど君は最初は私が知っていると思っていたのだろう?ならば、私が知っていて、なおかつ君も知っている事。それは、トレーナー君以外あり得ないんだよ、カフェ」
カフェは唇を硬く閉じ、こちらを見ようとしない。
「そろそろはっきり言ったらどうだい。…トレーナー君の事が、好き…なんだろう?」
「…え?」
「とぼけても無駄だよ。君はトレーナー君と仲良さそうに会話をしているのを何度も見かけたし、君はトレーナー君の趣味も知っている。君がトレーナー君を…好きだったとしても、おかしくはないのさ。」
「ちょ、ちょっと待ってください。…なんで私が、トレーナーを好きだなんて事に、なるんですか?」
「…え?違うのかい?」
「…タキオンさんは、誤解してます。私はトレーナーの事は、趣味の合う友人程度にしか思っていません」
「…じゃあ何故私には言えないんだい。何故、私は知らなくていいんだい?」
「それは……」
カフェは躊躇っている。
「………確かに、トレーナーは無関係ではありません。その事で、タキオンさんが心配になって…。ですが実際会ってみて、全然元気そうだったので、無理をしているのか、それとも気にしてないのか、と思って。…まさか、知らなかっただけとは思いませんでした」
「私が心配になるくらいの事なのかい?それもトレーナー絡みで?」
「はい…。けど、知らないのなら、私からは何も言えません。私は、言いたくない…」
「…わかった。それだけ聞ければ充分だよ。ありがとう、カフェ。…少し行く所ができたから、今日はここで失礼するよ」
一刻も早く、トレセン学園に行かねば。トレーナー君に会いに行かねば。そう思い、私は気づいたら飛び出していた。
「タキオンさん…服…忘れてますよ…」
私の嫌な予感は的中している。それがなんなのかはまだわからない。
だが、私とトレーナー君の最悪の事態、それを想像はしたくなかった。
学園に向かう間、私はずっとそうであってほしくない、そう思い続けていた。