秘め事タキオン   作:ヤマ。tk

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タキオンの形

私が目を覚ましたのは、ある病院の一室だった。

 

白い天井、白い壁。いくつも私に繋がれた、細いチューブ。

 

私の心拍数や様々な数値を計測する機械が私に繋がれていた。

 

どうやら、一命を取り留めてしまったようだ。

 

 

「なんで……」

 

 

私は確かに眠り薬を使用したはずだった。あとは海が、私の存在を無かったことにしてくれる。そう思っていた。

 

何故まだ私はここにいる……?

 

決断をしたはずなのに、結果がこれでは意味がない。

 

私はもう一度、海に向かおうと体を起こしたその時。

 

 

 

 

「……た、タキオン……!!!タキオン、タキオン!よかった、目を覚ましたのか……!本当、本当によかった……!」

 

 

 

 

丁度いいタイミングで入室してきたのは、トレーナー君だった。

 

両手には沢山の果実やタオル、そして私のものであろう服が入った紙袋を待っていた。

 

トレーナー君は私が目を覚ましているのを見た瞬間、それらを全て落としてしまった。

 

それには目もくれず、私のそばに寄って私の手を握る。

 

「タキオン……タキオン、本当に、本当に……」

 

「……トレーナー、くん」

 

トレーナー君は、泣き出してしまった。なん度も何度もしゃくり上げ、私の手を強く握った。

 

「……っく、タキオン、タキオン!!なんで、なんでこんなことしたんだ!!君が、君の命が、失われてしまう所だったんだぞ……!!」

 

トレーナー君は、私に向かって怒っている。顔をぐちゃぐちゃにして、本気で泣きながら、私を叱っている。

 

「……っ!!タキオンは、バカだ、大バカだ!!こんな事をして、誰も悲しまないと思ったか?自分が死ねば、そこで終わりだと思ったのか?そんな訳ないだろう…!!残された人の気持ちを、俺の気持ちを……考えた事はないのか…!」

 

そういうとトレーナー君は私を抱きしめた。優しく、だけど激しく。

 

「……トレーナー君、ごめんなさい……」

 

「二度と……こんな事をするな!君がいなくなるなんて、もう考えさせないでくれ……」

 

そういうとトレーナー君は、私から離れて、もう一度優しく手を握ってくれた。

 

「タキオン……教えてくれ。何故、こんな事をした?」

 

胸がズキズキと痛む。思い出したくない感情が私を支配し、私の体を震えさせる。だが、トレーナー君が手を握って、優しく目を見てくれる。

 

私は、自然と口を開いていた。

 

「トレーナー、君。私は、君に捨てられるのだろう…?私じゃなく、他のウマ娘を担当するのだろう……?」

 

「なんで……そうなるんだ」

 

「だって、君はあの時契約を更新しなかったじゃないか。それどころか、私に隠し事までして……」

 

「タキオン、契約を更新しなかった事には理由があるんだ。君とこの先を走るため、生半可な覚悟ではこの印は押せないと思ったんだ。だから、あの時は更新しなかったんだよ」

 

「…じゃ、じゃあ……隠し事は?隠し事はなんだったんだい…?君は、私が問い詰めたら逃げたじゃないか。私はあの瞬間本当に、本当に悲しかったんだよ……?」

 

「あの時隠していたのは、タキオンの誕生日をサプライズする計画が、タキオンにバレるかと思ったんだよ。ほら、タキオンは感が鋭いから、もしかしたらバレたのかって思って。それで、慌てて嘘をついて、逃げようと思ったんだ」

 

それを聞いた瞬間、私は体の力が完全に抜けてしまった。

 

「……お、おい!タキオン!大丈夫か?」

 

「……君は、私との契約を解除したかったんじゃないのかい…?」

 

「なんでタキオンとの契約を解除するんだよ。あの時、あの海辺で約束しただろ。一緒に果てを見に行くって、可能性のその先を、共に見に行くって」

 

という事は……。

 

「……全部、私の勘違いじゃあないかい…」

 

よく考えれば、トレーナー君が私を見捨てるわけがない。

 

こんなに長く関わってきたのに、私はトレーナー君を信用する事ができなかったというのか。

 

こんなに私の事を思ってくれているトレーナー君を、私が信用していなかったというのか。

 

私は気付けばトレーナー君に抱きついていた。

 

「ごめんなさい……!ごめんなさい、ごめんなさい……!!私はバカだ、バカだよ、トレーナー君……君を信用せずに、君の事を疑ってしまって……君を、悲しませてしまった。本当に、本当にごめんなさい……」

 

私はトレーナー君の胸に自分の顔を擦り付け、泣きじゃくった。

 

全ては私の勘違いだった。その事で、自分の命さえ軽んじてしまった。

 

「君を、信用できなかった。……君は過去に担当の契約を、シリーズの途中で解除しているだろう?それであの時君が契約を保留したから、私は怖くなったんだ…。私も、前の担当のように解除されるのかと。

私はトレーナー君が逃げた後、現実を受け入れたくなくて、全てを無かった事にしようと思った。だから、あの薬を飲んで、海に私を消してもらおうとした。……君が、そんなつもりじゃなかったとも知らずに」

 

「それについては俺も悪かったよ。逃げずに、しっかりと話をすればよかった。契約も、しっかり自分の考えをタキオンに伝えていれば、タキオンは勘違いしなくて済んだのに」

 

「私が…考えすぎた事が悪いんだ。私も、あの時あの場でしっかり君に聞けていれば…本当に、ごめんなさい…」

 

また涙が溢れてきた。自分の勘違いで、取り返しのつかない事になる所だった。そのせいで、トレーナー君を深く傷つける所だった。

 

「うぅ……うぁぁぁぁ…ごめん、なさい……」

 

 

 

 

 

 

 

 

タキオンはいつまでも泣きじゃくっている。

 

もういいよ、大丈夫だよ、そう言って背中を撫でても、一向に泣き止まなかった。

 

どうすれば泣き止んでくれるだろう。

 

そのとき俺は何を思ったか、タキオンの耳を触ってみた。

 

「グスッ…ひぐっ……うぅ。……ひゃあぁ!うぅあ、くすぐったい、やめっ…はぅっ!!」

 

俺はタキオンの耳を触りつづけた。

 

「やめっ……やめるんだ、トレーナー君…!ひうっ!ふぅ、はぁっ!やめて、やめてくれぇ……おかしく、なるから」

 

タキオンのベンゼン環の耳飾りを外して、根本から撫でるように触っていく。時折内側も擦るように。

 

「んんぁぁっ、あぅっ!……ふぁぁ、あっはっ、あぁ……」

 

流石にやりすぎたか。タキオンは身体を全て預けて、ぐったりしている。

 

「タキオン、泣き止んだか?」

 

「……君は、最低だ」

 

タキオンは俺の胸を若干強く叩き、そっぽを向いてしまった。

 

よかった、なんとか泣き止んでくれたみたいだ。

 

タキオンは顔を真っ赤にして、そっぽを向いてしまっている。

 

怒ってるかな、だけど、これはタキオンの目を見て言わないとダメだ。

 

タキオンの顔を、こちらに向かせ、目を合わせる。

 

「……タキオン。俺は君以外のウマ娘を担当する気はないよ。君が走り続ける限り、俺はずっと君のトレーナーでいる。君が引退するその日まで、君についていくよ。そして、君の研究も、側で支えていきたいと思っている。君が可能性や果てを追い求める限り、君の側にいる事を約束する。

……これは俺のエゴだけど、君が誰かを頼りたいと思った時、君に一番に頼ってもらいたいんだ。それが試薬でも、検証でも構わない。君が求めるものは、できる限り俺が関わっていたい。だから……これからも、君の側で、君を支えさせてほしい。アグネスタキオン、君とどこまでも歩きたい。

そのためなら、俺は喜んでモルモットになるよ」

 

タキオンはずっと顔を真っ赤にして、口をパクパクさせていた。

うぅ、あぅ、と言葉になっていない言葉を発していた。

 

俺は、タキオンが答えてくれるまで待つ事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トレーナー君、君はずるいよ。

 

私はたった一つの勘違いで、ここまで思い込んで、あまつさえ命さえ捨てようとした。

 

正直、嫌われるかもしれないと思った。面倒くさい奴だと思われても仕方ない、これのせいで捨てられても仕方ないと思っていた。

 

なのに、私を支えたいとか、私と共に歩きたいとか。

 

君は、優しすぎるよ。ここまで君に心配をかけたのに、まだ君は、私をそんなふうに思ってくれているのかい。

 

……嬉しい、けど…

 

「トレーナー君…本当に、いいのかい?また今回のように、君に迷惑をかけてしまうかもしれない。それでも……いいのかい?」

 

「いいよ、タキオン」

 

「……私は、面倒くさいよ?」

 

「いいよ」

 

「わがままばっかり言うよ?」

 

「いいよ、それでいい。タキオン、もっとわがままを言ってほしい。面倒くさいとも思わない。今回みたいにいなくなったりするのは嫌だけど、迷惑だなんて思わないよ。だからタキオン、俺を連れて行ってほしい」

 

もう、私に不安は無かった。

 

「……わかった。わかった……これからも、よろしく。トレーナー君」

 

「よろしく、タキオン。……っと、そうだ、病院の先生を呼んでこなきゃ。まってて、タキオン」

 

そう言うと、トレーナー君は病室を走って出て行ってしまった。

 

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