秘め事タキオン   作:ヤマ。tk

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タキオンの心配

「……という事で1週間程、研修でトレーナー室を空ける事になる。タキオンには申し訳ないが、1週間はこのメニュー通り自主トレを頼みたい。ストレッチは忘れずに。あと、並走の予定を組んでいる所もあるから、ペースを乱さずに相手に合わせる事。あとは怪我はダメだ。無理をしないように。あとは――」

 

「わかった、わかっているよトレーナー君。君は少々過保護が過ぎる」

 

 

明日から1週間、講義やトレーナー間での注意喚起、コミュニケーションや意見交換の場を設けるための研修が行われる。

 

研修とは名ばかりで、実際は多少の座学が行われた後は、忙しいトレーナー達の束の間の休息となる。

 

中々休みの取れないトレーナーが多く、一時はそれが問題に上がる事もあった。

 

なので学園側から、表立っては休みではないが実質休息の時間が幾日か確保される。

 

ただ、自分の担当する愛バから離れる事が辛いというトレーナーも少なくは無い。それは逆もしかりで、愛するトレーナーから片時も離れたくないと駄々をこね、少々生徒会の目に止まってしまうウマ娘もいる。

 

その為、この研修は1、2年目のトレーナー以外は参加は自由の筈なのだが、何故か今回は強制参加を命じられた。

 

URAファイナルズを制し、トゥインクルシリーズをアグネスタキオンと共に最高の形で走り終えた優秀なトレーナーに、是非とも講義を頼みたい。

 

そう学園側から通達され、殆ど強制的に研修に参加する事になった。

 

研修に参加する事は良いのだが、少々タキオンに不安を感じていた。

 

 

「食事もちゃんと取るように。一応トレーナー室の冷蔵庫には作り置きしておくけど、1日分しかないから」

 

「……それ以上何度も繰り返すようなら、少々物理的にトレーナー君の口を塞いでしまおうか。いや、以前のように拘束して薬を投与し続けるのもアリだな…いずれにしても、もう聞き飽きたよ。もう3日も同じ事を聞いているのだが? 何度同じ事を言い、同じ事を言わせれば気が済むんだい」

 

「いやいや、昨年の研修期間に散々言っておいて結局ミキサーを使ってたのはタキオンじゃないか。他にも、明らかにオーバーワークだと他のトレーナーから聞いていたんだぞ? 足の痛みが再発したって聞いた時は血の気が引いたよ。そうならないよう口酸っぱく言っている事を分かってほしい」

 

昨年、タキオンは俺が研修に行っている期間、決めた筈のメニューを消化する事なく、それに加えて食事もまともな物をろくに取らずに、ミキサーで食事を済ませていた。

 

レースが近くなかったからよかったとはいえ、何故こんな事になっているのかタキオンに問い詰めたが、タキオンは濁すばかりで教えてはくれなかった。

 

様子を見てもらっていたトレーナーに話を聞くと、何処か落ち着きがなかったと言う。常に疲れている気がして、話をしてみたがやはり濁されたそうだ。

 

並走をさせてもタキオンが飛ばしすぎて担当がついていけず、あまり練習にならなかったらしい。その後も一人でずっと走り続けて、こちらがやめろと言っても走り続ける日もあったそうだ。

 

その後タキオンが足を気にしている事に気づき、急いで病院へ搬送した……という事があった。幸い足に異常はなく、過剰な走行で足を痛めたのだろうと診断された。

 

タキオンは結局何があったのかを教えてくれなかった。ただその後、ちゃんと食事は改善され、無茶な走りをする事はなくなった。

 

「トレーナー君の言いたい事はわかるよ。ただそこまで何度も繰り返して言わなくとも理解している。私の事を理解している筈の君なら分かるだろう? 」

 

「まぁ……確かにタキオンが分かってないとは思わないし、信用はしているが。だけど前例が前例だから不安なんだよ。これで最後にするけど、本当に頼むよ? 」

 

「分かっているさ。そう心配せずとも、今年は秘策を用意している。昨年の失敗を繰り返し、また同じヘマをするようでは研究者として失格だからね」

 

そういうとタキオンは俺にいつも通り抱きついて来る。実験はいつも唐突に行われるらしく、いつ抱きつかれても良いように準備をしておいて欲しい、と言われている。

 

「とりあえずこの実験は今日を逃すと1週間できなくなるからね。いつもより長く実験させてもらうよ」

 

タキオンは更に身体を寄せてくる。何度も抱きつかれたせいである程度は慣れはしたのだが、タキオンの柔らかさを実感してしまうと理性が危なくなる。だから極力、何も考えずに心を無にする。

 

俺は1本の柱。タキオンは柱にもたれかかっているだけ。柱に感覚なんて無い。柔らかいなんて感じない。決してそんな事は無い。

 

いけない……あまり意識しすぎると自分がバカになった気がする。こういうのはフラットに、いつも通りいれば良いんだ。タキオンの体温はかなり暖かく、まだ肌寒いこの季節には丁度いい。湯たんぽくらいに思っておけば、なんとも無い。

 

それにしても、やっぱりタキオンは美人すぎる。ウマ娘とはいえ、その中でも突出している気がする。特にタキオンの目が凄く魅力的で、この目に惹かれてタキオンの事を見始めたんだよな……顔の造形も好きすぎる。ずっと見ていられるな……

 

 

 

 

「トレーナー君」

 

「ん? どうした? 」

 

「その……顔が、近いよ」

 

「……えっ? 」

 

気づいたら俺は、抱きついているタキオンの肩を掴んで、自分の顔をタキオンに近づけていた。

 

「……っ! す、すまないタキオン」

 

「いや……構わないよ。少々、暑くてボーッとしていたのだろうねぇ。トレーナー君、頭を冷やしてくるといい」

 

「あ、あぁ。そうさせてもらうよ」

 

「トレーナー君、随分と熱心に私の顔を見ていたが……どうかしたのかい? 」

 

「いや、いやいやなんでも無い。……多分、タキオンが暖かいから、眠たくなったのかもしれない。顔を洗ってくる」

 

「眠たくなった……か。それにしては……」

 

タキオンは何か小声で呟いていたが、一刻も早く顔を洗いたくてトレーナー室から洗面所へ向かった。

 

 

 

 

 

バカか俺は……。いくらタキオンの事が好きだとしても、あれはさすがに……。相手はまだ未成年、子供だ。下手をすればセクハラにもなるし、タキオンの未来も壊してしまう可能性がある。

 

気づかない内にとはいえ、それは言い訳に過ぎない。完全に理性が飛んでいたかもしれない。大人の男として、本当に終わっている。俺のためにも、何よりタキオンのためにも、こんな気持ちは抱いてはいけない。絶対に。

 

……だけど、タキオンの事はやっぱり好きなんだ。この気持ちには嘘はつけない。例え間違っていても、俺はタキオンを一人の女性として見てしまっている。

 

せめてタキオンも俺の事を好いていてくれればと以前も思ったが、そんな訳は無いだろう。

 

彼女は担当ウマ娘、俺はトレーナー。

 

それ以上でも、それ以下でも無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ドキドキした。

 

一瞬トレーナー君にキスされるのかと思ったが、彼はどうやら無意識だったそうだ。

 

だが急に肩を掴まれ、顔をジッと見つめられた時、本当に彼の目から目が離せなかった。

 

あんなに熱心に見つめられては、さすがに私は期待をしてしまう。もしかして……トレーナー君は、私を好いてくれているのだろうか。

 

そんな筈は無いとは思っているのだが、どうしても期待してしまう。なんとも思わない女の顔を、あそこまで熱のこもった目で見つめられるものなのだろうか。

 

やはり感情というものは分からない。トレーナー君には、本当に感情面で揺さぶられる事が多い。

 

昨年、トレーナー君が研修で不在の時。私は、トレーナー君がいない事が寂しくて仕方がなかった。

 

トレーナー君がいない事になんだか落ち着かなかったし、誰もいないトレーナー室は酷く寂しいものだった。

 

寂しさを紛らわすためにコースを走り続けた。オーバーワークなのは分かっていたが、走らずにはいられなかった。

 

いつもはトレーナー君が用意してくれるご飯も無く、それに気づいて私はミキサーを久しぶりに使ってしまった。

 

味は酷くて、とても食べれたものではなかった。

 

足を痛めたのは完全に失敗だった。元々ガラスの足、それがトレーナー君によって保たれていただけで、トレーナー君がいなくなるだけですぐに壊しかけてしまった。

 

今年はそれらを繰り返すような事は絶対したくない。という事である秘策を用意したのだが、肝心のトレーナー君がいないせいで何もできない。

 

秘策というのは、今日満足するまでトレーナー君を抱きしめ続けること。

 

だがそれでも足りない場合を見越して、すでに私の研究室にトレーナー君のジャージが保管されている。トレーナー君が一日着続けて洗濯していない、匂いの染み付いたジャージが。

 

変態ではないぞ?断じて変態などではない。しっかり考え抜いた結果、トレーナー君のジャージを回収する事になったのだから。カフェにこの事を伝えたら顔が引き攣っていたが。

 

 

 

 

いずれにせよ、トレーナー君には研修に行ってしまうのだから、寂しくはなるだろう。トレーナー君には毎日電話するよう伝えているし、ある程度は紛らわされる。しかし、トレーナー君の暖かさ、匂い以上に私を安心させるものは無い。

 

なるべく早く、帰ってきてくれよ? 君の愛バが、君を求めて待っているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日、研修から帰ってきたトレーナー君は、違う女の匂いを纏って帰ってきた。

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