箱推し君逃げて、超逃げて   作:Plusdriver

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手入れの行き届いた洋館に、主の姿はない。


洋館

…こんなものだろうか。

 

私は独り、落葉を掃いていた。少し体重をかければあっという間に曲がってしまいそうなそれを柱へと立て掛け、階段に座る。既に日は沈み始め、夜風が吹いてくる。落葉を持って行く程の力は無くても、身に染みる寒さだった。

 

「…さむっ」

 

改めて寒さを知覚し、足早に掃除道具を回収し洋館内へと脚を進める。庭に植えられた樹の枝には蕾が複数存在していた。あの樹はなんの木なのだろうか?

 

「っと、急がないと」

 

掃除道具を片付けるため、物置へと向かう。館内のカーペットはとてもキレイだ。

 

「あ、ごめんね。起こしちゃったかな?」

 

扉を開けばそこには小さな同居人が。目を覆い隠し光を遮っている。サッサと終わらせてこの部屋を後にしよう。

 

「…」

 

見つけた。見つけてしまった。飲み終えたアセロラジュースの缶が部屋の隅で転がっているのを。

 

「…珍しい」

 

この館の主はこんなことはしないだろう。でも、私は運が良かったと思っていた。中身が既に無く、内側が乾燥しているのを確認してから、部屋から持ち出す。

 

「♪〜」

 

唐突に新曲の歌詞を思い付いた。『進捗ダメです』なんて曲名で作曲してみようかな?

 

「っと、ここだったや」

 

ドアノブに提げられた看板には『外出中』とデカデカと書かれている。ノックすることなく部屋に入り自身の鞄に空缶をしまう。

 

「さぁて、続き続き〜」

 

独りで掃除するには広過ぎる館内で、飛んだり跳ねたりしながら目的地を目指す。この館の主の部屋へ。

 

ノックを3回、ドアノブをガチャガチャ。反応はない。

 

「お邪魔しまーす」

 

部屋の中は真っ暗。2重の遮光カーテンが完全に太陽光を遮っているからだ。そして、彼女によって飾られた部屋には見慣れないものがあった。廊下の明かりすら吸収して反射が起こらない程に黒い棺桶がデカデカと置かれていたのだ。

 

「…」

 

無言でその棺桶を開ける中には鍵だけが存在していた。可愛らしい蝙蝠達が暗闇から棺桶へと飛んでくる。鍵を皆で持ち上げて、私に向って来た。

 

「…ありがとう。大切にするよ」

 

また(・・)貰い物が増えた。絶対に無くせない大切な物が。差し出した手に鍵を落とし、彼等は部屋から飛び出していった。役目を終えたと言わんばかりに。

 

「…」

 

分かってる。私が泣くのはダメだ。ホントに辛いのは選択した彼女自身と残された者達なのだから。だから、ここ(館内)では泣いちゃだめなんだ…。目頭が熱くなるのを無理矢理抑えて、足早に部屋を去る。もう、ここにはいられない。

 

ふと、廊下に飾られていた写真が目に入る。ホントに、ほんとに…。

 

「…残された者は、受け継がなければならない。去っていった者達の意志を」

 

自分を奮い立たせるために、口に出す。借りていた部屋に残された色んな物(彼女達の思い出)が目に入るが止まらず身支度を終える。鞄を肩から掛け、玄関へと戻る。部屋の看板はそのままに。

 

ガチャン

 

無機質な施錠音が響く。既に空には星が煌めいていた。

 

「…キレイだな」

 

何処までも残酷で、綺麗な夜空。それが少しずつ自身の涙で滲んで知覚できなくなっていく。アーチを潜り、最後の扉を閉めた。

 

「っ…んグッ……」

 

もう、限界だった。彼女の決断を尊重したい気持ちとまだ共に進みたい気持ち、そして、社員(仲間)としてファン(箱推し)として何もできなかった自身への怒り。それらが全て溢れてくる。あの日泣いていた彼女達に私は何もできなかった。可能性(if)を求めるのはもう辞めなきゃいけないのにッ。

 

金属が悲鳴を上げながら、その役目を果たす。今、洋館の扉は閉じられた。もう、中には誰もいない。

 

帰り道、何度振り返ってもその洋館に光が灯ることはなかった。




洋館の鍵

箱推し君が保管しているとある洋館の鍵。複数存在しており、フブキが持っている事が確認されている。
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