店内に流れ始めた曲に耳を澄ませ、この場所での思い出に浸る。全ての始まりはこの店だった。フワモコの様に窓越しのカウンターに友達ちゃんと並んで座ったあの日。数席先でドリンク片手にタブレットを操作していた垂れ流しちゃんとの遭遇が私の人生をすっかり別物にしてくれた。
最後までいたら何かに耐えられそうになくて、軽い足取りで階段を下る。店員や客が皆往復した一段一段は、それぞれがさまざまな物語を持つように異なる味が出ていた。
店員の言葉を最後に退店し、歩道の端ガードに腰掛け片手に持ったままのポン・デ・リングの穴に目を通す。あれから色々あったな、と。コラボの時は友達ちゃんと走ったこともあったし、フワモコの姉妹が来てからあの席は皆の聖地になった。でも、今日で営業自体が終了する。
建物自体がいわく付きと言われるほど、事故や事件に巻き込まれてきたその建物は既に50年以上の月日をこの街で過ごしている。勿論、良いことも悪いことも全部だ。
道を挟んで向かいのアニメイトはここ数年で新しく、規模まで大きくなった。ビルの建て替えや店舗の移転、そんなことも沢山。すぐ隣のビルもまだ新しくなってからあまり時を刻んではいない。
スマホを操作し、配信を開く。フワモコが、2人並んで好きだった街の景色を見るその場所で最後まで楽しんでいる。BGMは彼女達の歌、ゆったりとした時間は最後を迎えようとしている。…この2人はこの店から見るあの景色が、あの景色を見ながら食べるドーナツが好きだったのだ。そんな、この国に来た理由の1つがアッサリとなくなってしまう。そんな呆気なさが…
ふと彼女達がここ2週間、事務所を訪れていないことを思い出す。それで困っていたスタッフがいたはずだ。
「…」
discordを開き彼女達に何かを伝えようとしたけど、私の頭はもう文章を打ち込む気がなかった。諦め画面を配信へと合わせ、彼女達の歌声を聴く。
「またね」
返事が返ってくることはない。それは人へと伝える言葉ではないから。ただ、また何処かで誰かの心に残る店が無くならないことを祈りながら。そう、たったのそれだけ。
「あむっ……美味いな…」
手持ちのドーナツを食べきる。ふわふわでモチモチとした食感を楽しみ、惜しみながら。一息着きながら駅へと向かう。もうここで立ち止まる必要はないから。17時丁度、フワモコの感謝の言葉共に配信が終了する。
「…また今度かな」
差し入れ用のドーナツを買いに別店舗へと足を運ぶことを考えつつも、振り返ることはない。私の思い出の中であの景色が変わることはないのだから。
推しは推せるときに推せ、というように好きな店がチェーン店だから無くならないといったことは決してないのだから、大切な店には通うべきだと私は思う。彼女達が愛したあの景色、その再現に関わった友達ちゃんに全てを投げて私は去ることにする。大丈夫、双子ちゃんは寂しがりやなだけだから。側にいてあげてね?ね?友達ちゃん?