エレベーターの扉が開き、彼女はオフィスへと足を踏み入れる。彼女の名は箱推し君。スピードの為に軽量化された体を持つ彼女は今日も今日とて出社していた。
「…あれ?」
本日の最初の業務は収録である。防音室にてボイスの収録なのだが、彼女は違和感を覚えた。何故かいる筈の社員のデスクに人がいないのである。1人ではなく、出社予定の全員が。
事務所内にて何かが起きている。彼女はそれを理解し考えないようにした。したかった。今日収録のホロメン達のマネちゃんズに発見される事で平穏は崩れ去った。
「あ、いた!」
「待ってたよ箱推し君!」
「助けて!」
「ちくわ大明神」
誰だ今の。半ば強引に座っていた椅子から立たされ収録ブースへと連れていかれる。やっぱりここか、と思いながらも明らかに困り果てたマネちゃんズをほおって置くことは今後の業務に支障をきたすと彼女はブースの扉を開く。
「…」
彼女は思った。帰りたい、なんなら今からでもこの状況を見なかったことにして他の業務を処理したい、と。
彼女の視界に入ったのは手に負えない状況に困るスタッフ達とプラパネルを掲げて透明なガラス越しに収録部屋から抗議するホロメン達の姿である。内側から鍵が掛けられる事を良いことに立て籠もっているらしく、定期的にマイク越しに抗議の言葉が聞こえてくる。
『友達ちゃんをカエセ!』
『友達ちゃんに会わせろ!』
『友ちゃん吸いたい!』
いい笑顔でサムズアップした友達ちゃんの姿が脳裏を過る。彼女は逃げ遅れたのだ。入室してすぐにスタッフ達に囲まれ彼女達を説得するように言われる。このままでは今後の業務全てに支障をきたす、と。箱推し君はマイクを借りて収録部屋へと声を届ける。
『何をしているのか、という事はこの際問わないので結果から伝えます。友達ちゃんは長期休暇に今日から入りました。皆さんの願いを叶えることは出来ません』
バタリ、バタリとスピーカーを通して聞こえてくる。部屋の中では何人かが現実に耐え切れずに溶けていた。そして箱推し君は気がついてしまった。
あれ、この後のフォローとか私の仕事ですか?
出社早々にコレだと今後がヤバイ、マネちゃんズにホロメン達のケアを頼まなければ。彼女はそう考えながら自身のデスクへと戻る。事務所の窓ガラスが割れたりするよりかは大人しかったなぁと考えているあたり、彼女も十分この環境に適応しているのだろう。
後にスタッフは語る。あの日の箱推し君が目がいつも以上に死んでいる時があったと。
箱推し君
出社したらタレントが立て籠もっていた件。
友達ちゃん
休暇をエンジョイ。中華ウマウマ。
垂れ流しちゃん
実は一番最初に逃げ出し、机の下に引き籠もっていた。