酒場兼宿屋『歌う林檎亭』の入り口の前で1人の女性ワーカーが右往左往していた。
金髪に紅の瞳。金糸で蛇が刺繍されたシスター服…を動き易いように改造しているものを纏っていた。
そして
だが当の本人はそんなこと気にしている様子はなく、定期的に項垂れては通行人が奇怪な目を向けていた。
「マジでどう説明したもんか……。500年生きてるなんて言って信じて貰えるわけないし…。いっそのこと記憶操作の魔法でェッ⁉︎」
唐突に扉が開き、それはまあ見事なまでに顔面を強打していた。
「いっだぁぁぁ……」
「あっ!ご、ごめんなさい!ちょっと急いで…て……」
「あー大丈夫。私こそ考え事……を……」
扉から出てきたのは金髪の少女。
最初こそ申し訳なさそうに出てきたが、ぶつかった相手を見て固まってしまい、ぶつかった方も同じく固まっていた。
「ユーさん…?」
「や、やあ。アルシェ。心配…かけたネェッ⁉︎」
「ユーさん!ユーさんユーさん!ばかばか!心配した!」
アルシェと呼ばれた少女は、人目も憚らず、ユーと呼ばれた女性に抱きつく。ユーと呼ばれた女性も、自分が悪いことがわかっているからかアルシェの涙を見て何も言えなくなってしまっていた。
「悪かったね。心配かけた。私は大丈夫だから、ね?」
「グスッ……うん、うん…」
ユーはアルシェが泣き止むまで、時間にして10分以上頭を撫で続けた。
「(やっぱり、やる必要は無いと言われたけど、念には念を入れておいた方がいいよなぁ……あーあ、きっと軽蔑されるぞぉ。さてどうしたもんか)」
アインズさん誕生日パーティーが終わってから3日経った。
勿論パーティーの次の日からはいつもの日常に戻っていたわけで。
具体的にはバハルス帝国の皇帝たちを出迎えるための準備を整え、今日はその皇帝たちが来るらしい。
私の役目はプレアデスのユリ、ルプスレギナと共にお迎えして、第十階層の玉座の間まで連れて行くことです。
「それじゃ、あいんずさん。いってきます」
「はい。お気をつけてくださいね。万が一の時は…」
「戦闘せずに即撤退、ですよね」
アインズさんと最終確認を済ませ、言われていたポイントの草原に転移する。そこには既にユリとルプスレギナが待機していて、近場には簡易な小屋が建てられていた。その中には
正直言うと、開けた時ちょっとびっくりした。
どうやらバハルス帝国とナザリックを直線で結んだこの辺りが出迎えるのに丁度いいみたい。いつものNON装備(ゲームからまんまパクった見た目)のものを装備し、思い切り深呼吸する。
「はー、緊張する……」
「アテナ様、私たちがついております。ご安心ください」
「そうです!ユリ姉がいるから万が一もないですって!」
「あはは…ありがとう。……ちょっと台本もう一回確認しておこう」
アインズさんたちと作った台本をもう3〜4回読み直し、頭の中でイメージトレーニングする。
やっばい緊張から吐いちゃいそう。
「……あ、きたね。それじゃあ、頑張ろう2人とも」
「「ハッ!」」
遠くから馬車が数台走ってくるのが見え、しばらく待っていると私たちの前に1番豪華な馬車が止まる。
周りの騎士達にエスコートされながら、1人の王様っぽい人が降りてきた。
えーと…この人がなんだっけ。ジルクニフなんとかかんとか、だった気がする。
そんなことを思ってると、ユリとルプスレギナは片膝をついた。
えーと、私はこの時はちゃんと後ろで佇むこと、だったはず。
「お待ちしておりました。ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス皇帝陛下。私は皆様を歓迎するようお申し付けられました、ユリ・アルファと申します」
「ルプスレギナ・ベータと申します」
「貴女達のような美しい女性をつけてくださった、アインズ・ウール・ゴウン殿に、心からの感謝を。それとそちらのお方は…」
予想通り私の方を見て尋ねてくるので、背筋を伸ばして軽くお辞儀をする。
「お初にお目にかかります、ジルクニフ皇帝陛下。私はアインズ様より皆様の護衛を任せられた、『アテナ』と申します。以後お見知り置きを」
「ほう、貴殿は相当若いとお見受けする。しかしアインズ殿が信頼を置けるほどの御方なのだろう。しかしこの周辺はさほど危険と言うわけではない。私の手のものでも十二分に……」
「アインズ様曰く、『念の為』だそうです。特にこの近辺では私たちの元へ強襲せんと動き犇くモンスターが後を絶たないので」
「ほう。ならばありがたく受け入れさせて頂こう。それで…」
「失礼、ここからはユリ、ルプスレギナがご対応します。宜しいでしょうか?」
「無論、構わないとも」
よし、噛まずに言えた。頑張った!
内心ガッツポーズをしていると、まず手始めにユリが合図を出し、曇り模様だった天気を晴れに変える。
「なん…と……」
「爺!一体何が起こっている!」
「これは!恐らく第6位階の魔法でしょうな!素晴らしい!」
えーと、あのお爺さん。めっちゃハイテンションになってるね。
さっきと人が違うじゃん。
「それでは、準備ができるまでは、細やかではありますがおもてなしをさせていただきます」
ユリの言葉を合図に小屋の扉を開けると、待機していたデス・ナイトが綺麗な隊列を組んで出てくる。
手にはいつもの大剣や盾ではなく、机や椅子を持っていたけど。
「ば…かな……」
「デス・ナイトを使役している⁉︎」
「嘘だ⁉︎」
「デス・ナイトとは何だ!魔法省の深部にいるという例の強力なアンデットと同じものか⁉︎爺、答えろ!」
「これだけの数の伝説級アンデットを支配しているとは!素晴らしいぃ!すばらしぃ!」
おおう、あのお爺さんまたテンションが爆発していない?
軽く聞いてはいたけど、本当にデス・ナイトって現地の人たちからしたら強いんだね。
「陛下、あれはやばい。本当にやばい。俺たち『四騎士』が束になって1体どうにかできるかどうかだ」
「……っ、逃げてもよろしいですわよね?」
「構わんさ。だが私たちとは無縁の戦士とさせてもらうぞ。ワーカー達と同じ結末をたどらないといいがな」
重鎧を纏った男や槍を持った女の騎士がそう話す中、ユリが再度手を叩く。それに呼応するようにデス・ナイトは慣れた手つきで机や椅子、日傘なんかをセッティングしていく。
「ご安心ください。このデス・ナイトはアインズ様がお創りになられたものです。その為絶対服従であり、決して皆様を襲うようなことはありません」
「デス・ナイトを…創った?」
と、ここで森の中から咆哮が鳴り響いた。
帝国の人間達は一斉に警戒し、皇帝の周りに集まっていた。
森の中からズシンズシンと音を立てながら走ってきたのは、一体の死の騎士にそっくりなアンデット。
たしか
「ふむ…」
「アインズ様のご懸念されていた通りですね」
「どうしますか」
さて、予定通り私が…
「陛下!すぐに避難してください!俺たちが…」
と、重鎧を纏った男が真っ先に先頭に立つ。
すごいな、逃げようとか考えないんだ。
「皆様、お下がりください。これは私の仕事です」
男の前に出ていき、周りから止められるが構わず槍と盾を構える。
確か本気で殺しにくるって話だけど、曲がりなりにもレベル100とレベル45の戦い。
負ける訳が無い。
たださ、アインズさん(とパンドラ)から「カッコよく決めてください!」とか言われてるんだよね。
どうすればいいの?
絶対あの2人遊び心入ってるでしょ。
いやまあね?別に良いですけど!がんばるけど!
デス・ウォーリアーが両手に構えた剣で滅多斬りを繰り出してくるので、その全てを一歩も動かずに防いでいき、わずかな隙を狙ってシールドバッシュで大きくノックバックさせる。
「遅い」
「グガァ⁉︎」
衝撃が抜けきったのか再び走ってきて、剣を振りかぶってきたが先に半身を槍で砕く。
デス・ウォーリアーは流石にヤバいと思える程度の知性はあったのか、大きく後ろへ跳んで距離を取ってきた。
「
掌を向け、アンデットやカルマ値が低い相手への特攻属性を持つ魔法を放ち、塵一つ残さず消し飛ばしてみせる。
どうでしょう。結構頑張った。
ユリとルプスレギナがめっちゃ褒めてくれるから失敗してないと思います。
たぶん。
「大変お騒がせしました皇帝陛下。それでは、ユリとルプスレギナからおもてなしがあるみたいなので、ゆっくりとお楽しみください」
一旦最後のセリフを言い切り、後はユリ達に任せて小屋裏に向かう。
そこにはヒルドがいて、両手を広げて待ってくれていたので遠慮なくダイブする。すると優しく抱き返してくれた。
なんかちょっと色っぽい声が出てる気がするけど、多分気のせいだと思う。
「はぁーーー。緊張したぁ……」
「お疲れ様ですマスター!カッコよかったです!」
「あり、がとう、ひるど。さて…あともう一仕事、あるから、がんばる」
「応援してます!」
しばらく経った頃、ユリ達に呼ばれたので改めて表へ出る。
あれ、なんかみんなジュース飲んでる。すんごい雰囲気がほんわかしてる、気がする。
「お待たせいたしました。アインズ様の準備が整いましたので、こちらへどうぞ。それではアテナ様。これより先はお任せいたします」
「わかりました。それでは皆様。私の後ろに付いてくるようお願い致します。身勝手な行動を取られた場合、命の保証は致しませんのでそのおつもりで」
小屋の入り口には
その先は玉座の間に続く通路で、私のすぐ後に皇帝が、そしてあのハイテンションお爺さんや秘書官らしき人たちまで続々と入ってくる。
「それでは皆様、こちらへどうぞ」
あの、ほんとうにやっばいです。
緊張で吐きそう。
しばらく歩き、ようやく扉の前に辿り着く。
そばにいたメイドに皇帝を連れてきたと話し、アインズさんへ連絡をしてもらう。
しばらく経ってメイドから入っていいと許可をもらい、振り返る。
「それでは皆様。私はここで失礼致します。アインズ様はお優しい方ですので、よほど不敬なことをしたとしても皆様を害することはないでしょう。しかし…控えている従者の方々はその限りではありませんので、身の振る舞いには十分お気をつけください」
と、ここからはメイドに引き継ぎをし、みんなの前から転移で消えてみせる。
転移先はもちろん……
「アッテナ様ッ!大変ッ!素晴らしい立ち振る舞いでございましたッ!」
「パンドラ様の仰る通りです!ほんと格好良かったです!」
「あ、あの、その。素晴らしかったですマスター」
「オルトリンデ達に言われてしまいましたが、本当に素晴らしかったですマスター。他の守護者様達よりも先に拝見することができ、幸せです」
「み、みんな、ありがとう」
転移した先は第九階層にある談話室。そこにはパンドラとワルキューレ三姉妹ことオルトリンデ、ヒルド、スルーズがおり、どうやら遠隔視の鏡を使って見てたみたい。
ていうかヒルドはいつの間にここに戻ってたの。
「パンドラ、これからの予定、どうなってる?」
「現在は帝国の皇帝がアインズ様への謁見しておりますので。計画に支障がなければ----」
〜玉座の間〜
あれから帝国の謁見が終わり、アインズさんに玉座の間に来るよう言われたので転移すると、守護者のみんな+セバスが集まっていたので、アインズさんの横に用意された簡素な椅子へ着席する。
「謁見、どうだったですか?」
「恐らくですが、予定通りに進んだと思います」
「おお、すごいです」
「いえいえ、凄いのは計画してくれたアルベドとデミウルゴスです。褒めるなら2人を褒めてあげてください」
すると2人は畏れ多いと言うもんだから、少し強引に私が褒めるとその場に跪いちゃった。
…ごめん。
「えーと、えーと。てことは!あの皇帝は裏でナザリックを倒すための同盟国を組むために動く……だったよね?」
「アテナ様の仰る通りでございます」
「アインズ様に敵う存在として我ら守護者、もしくはアテナ様に目をつけるでしょう。中途半端に賢い者の方が、愚者より読みやすくて助かります」
なるほど。つまり自分たちじゃ勝てないからバックアップの組織を作って、その頭に私か守護者の誰かを据える為に接触してくる、ってこと?
「私達がアインズ様やアテナ様を裏切るわけないじゃん!」
「え、えっと。先手を打って滅しちゃった方がいいのかな」
……アウラはともかくマーレ物騒だなぁ。
「問題ないわ。これらも全て計画に沿った行動に過ぎないから。ですよね、アインズ様」
「そ、その通りだっ!」
「「「「「おぉー!」」」」」
おぉー。すごいなぁその計画作った人。きっとデミウルゴスやアルベドなんだろうなぁー。
「アインズ様は常に数手先を見据えておられる。『英雄モモン』がいなければ、エ・ランテルを力と恐怖で支配するしかなかったでしょう。セバスから上がってきた情報を分析した通りの、いやそれ以上に面白い『人間』だったよ、彼女は」
彼女?誰のことだろ。
アルベドもデミウルゴスの言葉を受けて「会ってみたい」とかいってるから、現地の人とか?でも人間嫌いな2人から見てそんな好印象なら、私も会ってみたいな。
「さて、アインズ様、アテナ様。御二方がかねてから計画されていた通り、世界征服の第一歩として建国の準備が整いました」
「ま、まあな」
「そ、そう、だね」
あ、デミウルゴスたちの計画じゃないんだぁ。計画したアインズとアテナって人、すごいなぁ。
人はこれを現実逃避と呼ぶ。
「それに伴い、一つ決めなくてはならない事があります。
単なる『王』ではその辺りの虫ケラと同じ様ではありませんか!もっと相応しい御二方の呼び方を考える必要があるかと思います!」
「異論は無い。好きにしろ。アテナさんも、よろしいですか?」
「私自身の呼び名とか、てきとうで、いいんですよ?」
「それはダメです。アテナさんはこんなにも素晴らしいお人なんですから、アテナさんにも立派な呼び名が必要ですよ」
なるほど確かに……じゃなくて。
アインズさんの考えが今だけは読める。
『アテナさんだけ逃げるなんてずるいですよ!』
『あっ、はい』
と、考えた直後にアインズさんからこっそりメッセージが飛んできて、想像していた内容と一言一句違わない言葉を言われてしまう。
「それでは、何か案のある者はいるかしら?まずはアインズ様の呼び方から決めていきましょう」
「それでは私から!ここはアインズ様の美貌を讃え、『美貌王』がよろしいかと!」
「「(えっ……)」」
シャ、シャルティア?流石にそれは…恥ずかしいんじゃないかな。
「はいはい!私はアインズ様の強さをアピールして、強大な王で『強王』がいいです!」
「あ、あの。僕もいいですか?アインズ様はお優しい方ですから、あの、その、『慈愛王』とかは、どうでしょうか?」
どうしよう、美貌王に比べたらまだマシに聞こえてきちゃう。
「私としては、アインズ様の崇高なる賢知を讃え、『賢王』がよろしいかと愚行します」
「(け、賢王?それだけは…)」
「(あれ、結局デミウルゴス達から見たらアインズさんはより頭いい人って認識は変わって無い?)」
「セバスは?」
「私はシンプルに『王』でよろしいと考えていました」
「そう。ではシグルドにブリュンヒルデは何か案は無いの?」
「そうだな。だが…私もさほど良い案は思い浮かばないな。強いて言うならばアウラの強王、もしくはデミウルゴスの賢王辺りが良いかと思う」
「私は……あまり、思いつきません…。申し訳……ありません…」
「では私の番ね。至高の御方々の頂点に座する方なのですから、『至高王』がよろしいかと思いますわ!」
「(えぇー…)」
「(よくみんなぽんぽん出てくるなぁ)」
と、意見は次々と出てくるけどなかなか決まらない。
いやぁ、アインズさん大変だなぁ。ほんとう
「アテナ様は、何かございますか?」
「んー、不死王、とかかなぁ。コキュートスは、なにか、ある?」
「ムゥ……アインズ様ハ今後多クノ者達ヲ支配サレル事トナルデショウ。故ニ魔ヲ導ク王。『魔導王』ガ良イカトオモイマス」
その案が出た瞬間、私も守護者のみんなも「おぉー」と感嘆の声をあげた。
ほへーみんなセンスあるなぁ。
「よかろう!コキュートスの案を採用する!建国した暁には、私は『魔導王』アインズ・ウール・ゴウンと名乗ろう!」
アインズさんもノリノリだなぁ。
いやでも、確かにかっこいいなぁ。あれかな、コキュートスのセンスってタケミカヅチさん譲りなのかな。
と、こんな感じで今後細かな作戦内容を話して終わり…
「最後に、アテナさんの呼び名だが…」
ぎくっ。
『なんで忘れてくれなかった、ですか』
『1人だけ安全圏なんて許しませんよ!』
アインズさんにメッセージで苦情入れるも、ごもっともなことを言われてしまって結局私の呼び名も考える流れに。
あれ、でもさ。
表舞台には基本でない方針なのに、決める必要あるのかな。
『万が一がありますからね。それはそうと1人だけ逃げるなんて許しません』
『後半が、理由のぜんぶ、ですよね?」
メッセージで再度伝えても結果は変わらずでした
ま、みんな楽しそうだし好きな様に決めてもらおう。
結局、巡り巡って『ナザリックの守護神』、まあ長いので『守護神』に戻りました
いや戻るのね⁉︎ってツッコミしかけたけど頑張って耐えた。
ほめてください。
「アテナさんだけずるいですよ!」
「そ、そんなこと言われても…」
今日も今日とてナザリックは平和です。
ちなみにジルクニフ皇帝は「あのアンデットを一瞬で滅ぼした護衛の少女を味方につければ…」と思っていて、割とガチで狙われてたりする。
さてはて箸休めは終わり。
これから帝国vs王国の戦争あたりまでは頑張って突っ走りたい。
フォーサイトや英雄の集いに関してもおいおい出てきたら出てこなかったりする…予定です
多分
何はともあれ失踪しない様に(プロットの持ち主に見張られながら)がんばります
それでは読んでくださりありがとうございました
感想や評価をくださると嬉しいです