覚悟を決め、指輪を渡す。肩に手刀をもらう   作:カンキツf

1 / 3
覚悟を決め、指輪を渡す。肩に手刀をもらう

「でねでね、長良姉さん。そのとき提督さんが疲れてたみたいだから、由良が支えてあげようと思って、提督さんと腕を組んだの」

「うんうん……」

「そしたらね! 提督さんちょっと緊張したみたいになっちゃって! 思わず、『どうしたんですか?』って言ったのね」

「うんうん……」

「そしたら提督さん今度は照れちゃって、顔を赤くして『由良みたいな綺麗な女性に抱きつかれると緊張する』って! 提督さん可愛かったわ〜。それでその後なんだけど……」

「うんうん……。由良そろそろ時間だから……」

「あ、ごめんなさい長良姉さん。すっかり話しこんじゃって……」

「……良いよ。由良は本当司令官のこと好きだね……。よく見てるよ……」

「だって長良姉さん。由良は提督さんとケッコンするんだし、これくらい当然でしょ?」

「ははは……」

 

 その会話を最後に由良の部屋から出た長良は重い足取りで目的の場所へ向かう。

 

「はぁ〜……」

 

 思わずため息が出てしまう。ちょっと前に由良が司令官のことが好きだということを長良が知ってから定期的にあんな調子の話を聞かされている。どんどん短くなっていく話の頻度と反比例して話の時間はどんどん長くなっていっている。由良には悪いけど最近は殆ど話を聞いていない。

 

(由良が司令官をね〜……)

 

 初めは驚いたけど長良としては全然構わない。司令官は良い人だし、司令官とケッコンすれば今みたいに話を聞かされることも多分少なくなる。何より最近は由良の話を聞いてると胃が重くなる感じがしてくる。だからケッコンするなら早くして欲しい……とは素直に言えない。

 

「…………」

 

 その理由が目的地である潜水艦寮にあった。

 

「はあ……」

 

 長良は再びため息を吐くとトボトボと潜水艦寮へと入っていき、目的の部屋へと向かう。

 

「あ、長良さん来てくれたんですね」

「迅鯨……さん……」

 

 ドアを開けると迅鯨さんが朗らかな笑顔で長良を出迎えてくれる。その顔を見ただけでうんざりした気持ちが首をもたげる。

 

「……どうでした? 由良さん、何か変わったところありました?」

「……いつも通りだったよ」

「そうですか……はぁ、提督も早く私とケッコンしてくれればいいのに……」

「…………」

 

 そう、これが由良と司令官が早くケッコンして欲しいと言えない理由。迅鯨も司令官のことが好きなのだ。

 

「提督さんもしがらみがあって言い出せないのは分かるんですが、これ以上待ってたら色々と拗れて来ちゃうと思うんですよね」

「…………」

「私のこと『好き』って言ってくれたし、後はいつケッコンするかってだけなのに……」

「…………」

 

 その『好き』っていつ言ってたの? 今日まで聞くことが出来ずに来てしまった。多分今日も聞けないと思う。

 

(何でこんなことに……)

 

 事の始まりは、剣呑な雰囲気になっていた由良と迅鯨の仲裁に入ったことだった。話を聞くと司令官絡みのことらしく、それが切っ掛けで二人が衝突しないように間に入る役を担当する役回りになっていた。

 実際、あの時の二人は殺し合いの前か何かと錯覚するほどに張り詰めていた。多分あのままだったら間違いなく流血沙汰になっていたと思えるくらいには。

 

「そういえば長良さん。この前提督が遅くまで仕事してたから、私、夜食を作って持っていったんです」

「……うんうん」

 

 最初の内はそれなりにちゃんと話し合ってたはずなのに、いつの間にか二人とも自分が司令官とケッコンするという前提で話すようになってきた。

 

「そしたらね! 提督が嬉しそうに笑ってて『ありがとう、悪いな』って! 思わず、『そんなことありませんよ。好きでやってるんです』って言ったのね」

「……うんうん」

 

 長良はあくまでも二人の話を聞くだけで、司令官の本心がどうとかは全く知らない。ひょっとしたら司令官は本当に二人のどっちかとケッコンしたいと思っているのかもしれない。

 

「そしたら提督、『迅鯨が居てくれて本当に良かったよ』って笑って! 提督のその笑顔可愛かったわ〜。それでその後なんだけど……」

「……うんうん」

 

 でも、それなら正直早く決めて欲しい。もう大分前から相談でも何でも無くて、二人の司令官との出来事を聞くだけの時間になってるから。

 

「はぁ〜……」

 

 疲れがドッと襲ってくる。ふと時計を見ると話を聞き始めてから一時間も経っていた。由良も迅鯨も、ほっといたら何時間でも話してるから。

 

「あの……長良さん……ちょっと良いですよ?」

 

 フラフラとした足取りで軽巡寮に戻ると後ろから声を掛けられる。振り返るとそこには鹿島がいた。

 

「……なに? どうしたの?」

「あの……ちょっと話したいことが……」

 

 そう言いつつも鹿島は中々話を切り出そうとしない。恥ずかしいのか頬を僅かに赤く染めてただモジモジとしているだけだった。嫌な予感がする。凄く嫌な予感がする。

 

「……その話したいことって……司令官のこと?」

「あっ……はい……何で分かったんですか……?」

「…………」

 

いきなり予感的中かもしれない。いや、でも司令官のことって言ってもまだ長良の想像してる内容と決まった訳じゃ──。

 

「私、提督さんのこと好きになっちゃったみたいで……。ケッコンしたいな……って……」

「そっかー……」

 

当たっちゃったよ。

 

「でも由良さんと迅鯨さんも提督とケッコンしたがってるんですよね……」

「うん……」

「でも私、何もせずに諦めるのは嫌なんです! だから提督さんに振り向いて貰えるように頑張ります! 進展があったらまた報告しますね!」

 

 そう言って鹿島がそそくさとその場を後にすると長良がポツンとその場に一人残される。

 

「……え?」

 

 何だったの今の。相談だと思ってたのに一人で完結してそのまま行ってしまった。

 

「はぁ……」

 

 とりあえず、今の長良に分かることは悩みのタネが一つ増えたってことだけだ。

 

 

 

「……よし」

 

 軽巡寮の玄関口、スニーカーの靴紐がキチンと結べていることを確認した長良はいつもの走り込みコースへと向かう。

 頭の中がごちゃごちゃすると長良は決まって一人で走り込みをする。何百回と繰り返し、身体と脳に焼き付いたこの動きは走り以外に不必要な物を長良の中から消していく、その感覚がまるで自分を悩ませる物を置き去りに走り抜けていくみたいで気持ちが良かった。

 

「長良さんお疲れ様です。走り込みですか?」

 

 そろそろ切り上げようかと思い、速度を落として歩きに移行したあたりで浜風に声を掛けられる。

 

「うん……ちょっと頭を空にしたくて……」

「何かあったんですか?」

「まー……ね……」

「スポーツドリンクありますよ。飲みますか?」

「ほんと? ありがとう」

 

 そう言って浜風からペットボトルのスポーツドリンクを受け取り勢いよく飲み始める。流れ込む液体が長良の火照った身体を冷やし、乾いた喉を潤していく。半分程飲んだあたりで口を離して息を整える。

 走る前と違って、頭と心がリセットされたのか今はとてもスッキリした気分だ。身体を撫でる風が心地いい。由良と迅鯨さんに加えて鹿島まで司令官を好きって言い出してどうなるかと思ったけど、今は案外なんとかなるんじゃないかなって思える。まあ根拠は無いけど。そう一旦区切りをつけることにした。

 

「飲み物ありがとう浜風。お礼は後でするから」

「良いですよ。私もちょうど長良さんと話したいと思ってたところですし」

「話? どんな?」

 

 そう聞き返すと残ったスポーツドリンクを飲みつつ長良は浜風の返答を待つ。

 

「長良さん、質問があるのですが」

「うん」

「私のおっぱい揉ませれば提督は私のこと好きになってくれますかね?」

「ブフゥ!?」

 

 浜風のその一言で飲んでいたスポーツドリンクを全て吐き出してしまう。鹿島と違って完全に不意打ちだった。

 

「何でそんなこと!?」

「だって……私……提督のこと……好きだから……どうすれば提督も……好きになってくれるかなって……」

「えぇ〜……」

 

 頬に赤を差し、ピンと伸ばした指を組んで恥ずかしげに口元を隠して目線を逸らす浜風と、そんな浜風を見て長良は頭を抱える。

 

「よく分かんないけど……それだけじゃ難しいんじゃ無いかな……?」

「……そうですよね。由良さんや迅鯨さんもいますし……。やっぱりそれだけじゃ厳しいですよね……」

「うん……だから……」

「ありがとうございます長良さん! もう少し色々考えてみます!」

「ちょっ……待って……!」

 

 そう言って浜風がそそくさとその場を後にする。

 

「え〜……」

 

 そしてまた長良一人だけがその場に残されたのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。