覚悟を決め、指輪を渡す。肩に手刀をもらう   作:カンキツf

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覚悟を決め、指輪を渡す。肩に手刀をもらう③

「はあ〜〜〜…………みんなそんなに司令官が良いの?」

 

 最近ため息ばっかり吐いている。もちろん理由は明白だ。今司令官に好意を寄せていて、ケッコンを狙っているのが由良・迅鯨・鹿島・浜風・アトランタ・曙・夕雲の七人。由良と迅鯨だけでも大変だったのに正直言ってもうとっくにキャパオーバーだ。そもそも何でみんな長良のところにくるの?

 

「まあ気持ちは分かるけどね……」

 

 そう漏らすと同時に思い出す。司令官に振り向いて貰おうと精一杯アプローチしていたときのことを、慣れないお洒落をしてみたり、モテるテクニックみたいなの調べたり、それを心臓バクバクさせてやってみて、司令官の反応に一喜一憂したり、思い切ってちょっと際どい水着とか着てみたり……

 

「ああ〜〜……」

 

 思い出したら急に恥ずかしくなってその場に蹲る。そう、長良は司令官のことが好きだった。今のみんなと同じでケッコンしたいとも思ってた。でも司令官はあんまり長良のことが好きじゃなかったみたい。

 当初は気づかなかったけど、長良のやることに司令官は無反応か、反応してもそれは決して魅力を感じているようではなかった。でもそれも続くと鈍い長良でも何となく分かってきちゃって、いつの間にか諦めてた。割と簡単に言う褒め言葉を長良は一回も言われたことがない。だから大好きだったことも今じゃもう過去のことになっていたと、思ってたのに。

 

「まだ好きだったんだ……司令官のこと……」

 

 消えた筈だった好きの気持ちが溢れてくる。顔が熱を帯びて心臓が高鳴っていくのが分かる。吹っ切れてなんか全然なかった。ただ我慢してただけなんだ。長良は今も司令官が大好きだ。

 

「嫌なこと気づいちゃったな……」

 

 でも、だからといってもうどうしようもない。だって司令官は長良のこと好きじゃないんだもん。それに、今更長良も司令官が好きなんて言ったら一体みんながどうなるか想像したくもない。曙にも違うって言っちゃったし。

 

「はあ〜〜〜…………」

 

 もう何度目かも分からない深い溜め息を吐く。疲れちゃった。司令官もさっさと決めて欲しい。そうすればきっと本当の意味で諦めがつく。そんなことを長良が思っていたときに事件は起きていた。

 

「ふふ……うふふ……♡しちゃった♡みんなの前で提督さんとキスしちゃった♡普通のじゃなくて深いやつしちゃった♡いきなりだから提督さんびっくりして顔真っ赤にしちゃってもうほんと可愛い♡ああまだ感触が残ってる♡」

「由良! 由良! 長良の目を見て由良! 長良の話を聞いて由良!!」

 

 恍惚な表情をする由良の肩を揺さぶって長良が必死に問いかける。だが由良には長良の声は届いていない。

 

「どういうことなのあれ? 昔の縁もあって今までずっと我慢してきたけどもう限界!!由良さんがあんな卑しいとは思わなかった……! 私の提督に手を出して……! 話をつけてこないと……!!!」

「迅鯨落ち着いて! これは違うから! 何が違うのか今は説明出来ないけどとにかく違うから!!!」

 

 瞳孔が全開まで開いたまま由良の所に向かおうとする迅鯨を長良は必死に引き止める。

 

「いや驚きました……なんであんなことするんでしょうね? そういうことは普通まず心と心で繋がりあって、繋がりあったことをお互いに確認してからじゃないですか? いきなり身体で繋がっても……いや待って下さい。愛の無い繋がりから始まってやがて本当の愛を深めていく……ありですね。これで行くことにします」

「何が!? 1人で納得しないで鹿島!!」

 

 話しかけてくるのに会話になっていない会話を繰り広げてその場を去ろうとする鹿島を引き止める。みんな司令官へのアプローチがより直接的で過激なものになっていっている。

 

「とりあえずおっぱい揉んできて貰います!!」

「やめて浜風!! 今やったらもっとややこしいことになるから〜!! 浜風にはおっぱい以外にも良いとこいっぱいあるから〜!!」

「離してください長良さん!!」

 

 司令官の元に走り出そうとする浜風を羽交締めにして引き留める。浜風までそんなことしたらもう口じゃあどうやっても止められなくなってしまう。

 

「テンメェーーーーー!!!! ナガラァーーーーー!!!!」

「うぐっ!? 苦しっ!」

 

 アトランタが両手で長良の胸ぐらを掴んでグワングワンと揺さぶる。

 

「ついにやりやがったなテメェ!! ユラのあれはテメェの差し金だろ!!」

「えー!? 何でそうなるの!?」

「まず2人をケッコンさせて義姉になってからゆっくりと奪う計画なんだろ!! そうなんだろ!?」

「なにそれ!? アトランタの中で長良はなんなの!?」

「小賢しいんだよテメェ!! 自分は手を汚さずに周りを焚きつけやがって!!」

「な……長良に……」

「ああ!?」

「長良にそんなこと……考える頭があると思う?」

「……確かに!」

 

 そう言ってアトランタの表情がパッと元に戻ると同時に長良の胸ぐらを掴んでいた手が緩む。納得してくれたみたいだ。でも傷ついた気分になるのはなんでだろう。

 

「完全に私の戦略ミスですね……まさか由良さんがあんな行動に出るとは……もっとこう……トイレやお風呂に入るのも私無しじゃいられないレベルにしないと……」

「夕雲ー! それはもう甘えるとかそういうレベルじゃないよ!!」

 

 ケッコンを通り越して介護まで行き着こうとしている夕雲の肩を掴んで呼びかけるが夕雲はもう聞こえていない。

 

「な……長良さん……私どうしたらいいんでしょう……! 私はみんなみたいにスタイル良くないし……! みんなみたいに素直に気持ちも言えないし……! 好きって言えないの……! 酷いことしか言えなくて……! でもこのままじゃ……! うあ……長良さん……! 私どうしたら……!」

「泣くな曙!! 泣くな!! 大丈夫……とは言ってあげられないけど泣くな!!!」

「うう〜……」

 

 泣き出す曙を必死に宥めようとするが何分長良もどうなるのか全く分からないから何も言えない。泣いているところを見るのは凄く心苦しいんだけど長良には現状こうすることしか出来ない。

 

(ああもう!! 今のままじゃいつかはこうなると思っていたけどいくら何でも早すぎる!! なんとかしないと……! ああでもどうしたら良いのか……!! っていうかこうなったそもそもの原因は全部……)

 

 

 

「司令官がいつまでもグズグズしてるのが悪いんですよーーーー!!! 司令官!! 決めて下さい!! 今!! ここで!!!」

 

 執務室の机を両手で思いっきり叩きつけて長良は冷静な態度を崩さない目の前の司令官に叫ぶ。長良の後ろには司令官とケッコンしたがっている七人が並んでいた。

 『誰が選ばれても恨みっこ無し!』最初に強ーく念押しした上でみんなを集めて司令官に選んでもらう。半ばヤケクソ気味に提案したけど全員今の状況に思うところがあるのか、意外とすんなりと乗ってくれた。

 

「……今決めなきゃ駄目か?」

「駄目です」

「そうか……分かった、俺も覚悟を決めよう」

 

司令官のその言葉を聞くと長良は横一列に並んでいる皆から少し離れた場所へと陣取り腕を組む。

 

「ほんとお願いしますよ。司令官がはっきりしないせいで泣いてる子だっているんですからね」

「泣いてる?」

「誰が?」

「…………」

 

 長良のその言葉を聞いて由良と迅鯨が顔を見合わせて一言交わし合う。それと同時に二人以外のみんなも一体誰が泣いたのか確かめるように顔を見合わせ始める。顔を真っ赤にして俯いている曙を除いて。

 皆が顔を見合わせていると司令官がガタッと音を立てて立ち上がる。

 

「!!!」

 

 長良以外の全員に緊張感が走る。コツコツと足音を立てて近づく司令官の手にはケッコン指輪のケースが握られている。

 

「…………」

 

 司令官が無言のまま足を止めると皆の緊張がより高まり顔が強張り始める。なんのかんの言ってもいざ選ばれるとなると不安のようだ。長良はさっさと終わらせて欲しいけど。

 

「…………」

 

 しばらく黙って突っ立ていた司令官がツカツカと歩き始めると全員が目で司令官を追う。やっと決めたのかなんて思っていると何故か長良の前で足を止める。

そしてケースを開けて指輪を取り出し長良の右手をとってその指輪を長良の指に通し、両手で優しく包み込むように長良の手を握る。

 

「ケッコンしてくれ」

 

 

 

 

 

「……え?」

 

 頭の中が真っ白だった。多分司令官以外のここにいる全員が。

 

「ずっと前からお前が好きだった」

「え?」

「でももし断られたらなんて思うとなかなか踏ん切りが付かなかった」

「え?」

「そんな俺の意気地の無さでみんなと長良を不要に追い詰めていたのを本当に申し訳なく思う」

「え? え? ……え?」

 

 さっきから全く頭が追いついていない。そんな長良の包み込むように握った手を司令官は力を入れて握りしめる。

 

「だから俺もいい加減覚悟を決めた! 俺はお前が好きだ長良!! ケッコンしてくれ!!!」

 

 司令官がそう力強く言い放つと握った手にギュッと力が入ったのが伝わってくる。

 

「司令官……ちょっと待ってください……」

 

 長良が手のひらを突き出してそう言うと司令官はするりと握った手を離す。自由になった指輪のはまった手で長良はこめかみを抑える。

 

「…………」

 

 状況に思考が全く追いついていない。だけど一つだけ分かることは長良は今針のむしろに立っているということだ。その証拠にさっきからここにいる全員の視線が長良に集中している。その内の何人かは刺し殺すような視線で長良を凝視している。慎重に言葉を選ばないといけない。

 

「……え? 司令官って長良のことが好きだったんですか……?」

「ああ」

「……何で?」

「何でってお前……。長良はこの鎮守府が小さかった頃からずっと支えてくれただろ?」

「確かに長良は大分前から居ますけど……」

「戦闘、遠征に出ずっぱりで駆逐艦や後進の軽巡の育成。戦艦や空母の随伴護衛。お前が居なきゃ今の鎮守府は無いんだぞ!」

「それは言い過ぎじゃ……」

「それにお前のいつも元気な姿は俺を奮い立たせてくれるし、お前の笑った顔は世界一可愛いと思ってる!」

 

 真っ直ぐに長良を見るその真剣な表情に思わずドキッとしてしまう。ヤバイ。顔赤くなってる? マズイよ色んな意味で……。

 

「……でも司令官長良がアピールしても全然反応しなかったじゃないですか!」

「あれは……その……俺も照れてたんだよ……それで……つい素っ気ない態度になってしまって……」

「え〜……じゃあ……あの反応は全部照れ隠しだったんですか……?」

「ああ」

「長良が柄にも無くお洒落したときも! ちょっと攻めた水着とか着たときも! 全部照れてたんですか!?」

「ああ」

「浴衣の時も!?」

「あれはヤバかった……兵器だと思ったよ俺は……」

「まあ……長良達は兵器ですけど……」

「いやそういうんじゃないんだよ」

 

 明かされた新たな真実に長良の思考はまた置き去りにされてしまう。そして、司令官とのやり取りを聞いたせいか長良を刺し殺すような視線が増えた。

 

「長良は……俺じゃ嫌か……?」

「え、あ、そんなこと無いです! 長良は司令官のこと……好き……です……大好きです……」

 

 勢いに任せてつい本心を言ってしまう。全然慎重に言葉を選べて無い。そのせいで司令官以外の全員が長良に刺すような視線をむけている。心無しか肌がピリピリする感じまである。

 

「それじゃあ……素っ気ない態度だったのは照れで司令官がケッコンしたい相手は長良だったと……」

「そうだ。受け取ってくれるか?」

「司令官……」

 

 司令官のその一言に長良の中からブワァッと気持ちが溢れ出してくる。どうしよう。凄く嬉しい。嬉しすぎて涙が出そうだし心臓がドキドキしてる。今絶対に凄く顔赤い。司令官に抱きついて長良も司令官が大好きって言いたい。言いたいけど……。

 

 

 

 

 

 

「なーんで今言うんですかーーーーーー!!!! みんなにどーーーーーやって説明するんですかこれーーーーーー!!!!!」

「いやすまない!! 本当にすまない!!! だけどここで決めろって言ったのは長良だぞ!?」

「あーーーー!!!」

 

 鎮守府中に響き渡るんじゃないかと思う程の叫び声を上げて長良は由良達の方を指差す。長良の絶叫を皮切りに今まで沈黙を貫いていた全員が決壊したかのように口を開く。

 

「や、やられた……完全にやられた……考えてみれば提督さんに決めろって言ったときに自分のことを除いてなかった……! まさかアタシ達に見せつける為に最初から全部仕組んで……!」

「違う!! 違う違う違う!! そんなんじゃない!! そんなんじゃなかったでしょ!?」

 

 アトランタが言わんとしていることを激しく手を左右に振って否定する。しかし、その必死さが逆効果だったようだ。

 

「長良さん、提督のことが好きだったんですね……。私、全然知りませんでした……。最初から自分が選ばれるって分かっててみんなを集めたんですね……。私、これから長良さんに対する見方がちょっと変わりそうです……」

「だから違う!! 違うの鹿島!! 違うの!!!」

 

 早速鹿島がアトランタの言葉に感化され始めている。長良は逆効果と頭では分かりつつも否定の声を張り上げて首を左右に振る。

 

「あ……。長良さんが仕切りにおっぱいだけじゃないって言ってたのは自分がもう提督のことを落としてたから……そういうことだったんですね……」

「そういうことじゃない!! そういうことじゃないよ浜風!!!」

 

 見当違いな納得をしようとしている浜風に必死になって弁明する。だけどもう長良の抵抗なんて意味がない。

 

「え? え? え? だって長良さん違うって……私がひょっとしてクソ提督のことって言ったら違うって言ってたのに……。わ、私の話も色々聞いてくれて……励ましてくれたのに……全部嘘だったてこと……?」

「違う!! 違うの曙!!! これは本当に違うの!!!!」

 

 今にもこぼれ落ちそうな程に目尻に涙を溜め、声を震わせる曙に申し訳ない気持ちが溢れて止まらなくなる。けど今の長良には『違う』と連呼することしか出来ない。

 

「踊らされたんですね私達……。長良さんに弄ばれてた。でもまさか……長良さんがここまで鬼になれるなんて……私……ちょっと怖くなってきました……」

「違う!! 違う!! 違ーーう!!!」

 

 夕雲に至っては長良に恐怖を抱き始める始末だ。長良もそんな夕雲の反応にまるで駄々をこねる子供のように叫ぶ。

 

「みんなやめて」

 

 その一言に執務室内が一瞬静寂に包まれ、一斉に声のした方に振り返る。振り返った先には静止するように手を突き出す由良とその隣で微笑んでいる迅鯨がいた。

 

「長良姉さんはみんなが言うように嘘をついてた訳でも弄んでた訳でも無い。長良姉さんはそうやって人を騙すことは絶対にしないもの」

「そうですよ。長良さんはそんな卑劣なことしません。これは長良さんも想定してなかった不足の事態ですよ」

「2人とも……」

 

 冷静に、それでいて淡々とした由良と迅鯨の言葉に胸がいっぱいになる。目頭が熱くなるような感覚まである。正直、ずっと話を聞いてきたこの二人の反応が一番怖かったから尚更だった。

 

「だから早く真相を説明して姉さん。早くしてくれないと由良頭が変になりそう」

「私もさっきから手の震えが止まらないんです。早く説明してください長良さん」

「うわあああああ──」

 

 しかし、続く二人の冷たい怒りが滲み出たそれに長良は意味のない叫びを上げる。

 

「──ああああ!!! 司令官も何か言ってくださいよ!!!!!」

「ぐおっ! 肩に手刀が!?」

 

 完全に冷静さを失っていた長良は気がつくと司令官の首筋に手刀を落としていた。その後、司令官と長良の必死の弁明によりなんとか穏便に済ますことができた。

 

「そんなことがあったんだよ阿賀野……疲れた……本当に……」

「ふ〜ん……でも長良さんは提督さんから指輪貰えて嬉しかったんですよね?」

「まーね……えへへ……」

 

 そうはにかむ長良の手には銀色の指輪が光っていた。

 

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