通常弾ぺちぺちマン   作:三流二式

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いい加減ガルルガじゃなくって先生をほんへに出してくださいませんか?(憤怒)


VSイャンガルルガ ~忍び寄る気配~

 薄っ暗く、じめじめしているうえに地面がぬかるんでいて不快極まりないのが、『沼地』という場所だった。

 

 

 踏みしめる度に足裏が浅く沈み込み、防具越しに伝わる不快な感覚に舌打ちを零し、さらに今回の依頼の討伐対象の事を考えてもう一つ舌打ちをする。

 

 

「ふざけやがって、よりにもよって沼地になんか出やがってあの戦闘狂が。死にたがりの癖にしぶとく生き残りやがって。さっさと絶滅してしまえばいい物を……なあお前もそう思うだろ?」

「……そうニャね」

「……」

 

 

 俺の軽口に、ヨシツネはどこか心ここにあらずといった感じでそう言った。いつもの軽口を期待した俺からすればとんだ期待外れな反応だった。

 

 

 そんな調子のヨシツネに話しかけたところで大した反応が返ってこないと早々に悟った俺は口を閉じ、黙々と目標がいる場所に向けて歩を進めた。ヨシツネは黙って俺の背について来た。

 

 

 歩きながら、俺はヨシツネについて考える。

 

 

 最近のこいつはずっとこんな調子だった。寝ても覚めてもどこか呆けており、動きもぎこちない。まるで狂竜症を発症したモンスターみたいな挙動は気味が悪かった。

 放って置けば治るだろうと高を括っていたのだが、数日たっても変わらないどころか壊れた機械みたいに急停止する頻度が増える始末だ。

 

 

 真面目に狂竜症の線を疑い、村在中の医者に見せたらなんでも精神的なショックによる心神喪失とのことだ。

 

 

 俺は首を傾げた。このウスラバカが心神喪失するようなことがこの数日間で果たしてあっただろうか? 

 隙間の多い脳味噌から記憶を絞り、それらしきものをひり出そうとしたものの、該当する記憶などとんと思い浮かばなかった。

 

 

 この一ヶ月でヨシツネにとって大きな事件なんてなかった。

 強いて言うなら俺が自分を偽らなくなったことくらいだが、こいつからすればそんなこと燃えないゴミくらいどうでもいい事に違いなく、だとするとやっぱり該当する様な事は思いつかない。

 

 

 マサムネの奴にそれとなく聞いてみたのだが「アイツにも色々あるのさ。まあ吹っ切れるまで放って置いてやってくれ」といまいち要領を得ない言葉ではぐらかされてしまった。

 

 

 マサムネの奴は役に立たず、肝心の本人は御覧の通りの有様なので手の施しようがない。

 釈然としない思いでしぶしぶマサムネに言われた通り放って置くことにした。

 

 

 そんな折にギルドから一つの依頼を任された。

 何でも沼地で『イャンガルルガ』が突如襲来し暴れ回っているらしく、それを狩猟してこいとのことだ。

 

 

 これがギルドマネージャーから言われた事じゃなければ、俺は回れ右してポッケ村から出て行っていただろう。

 

 

 何せあのイャンガルルガだ。生粋の戦闘狂。自然の摂理から逸脱した異常生命体。糞ったれのはた迷惑野郎。

 俺はイャンガルルガという生き物がとにかく嫌いだった。ゲームでもバインドボイスからのサマーソルトやノーモーション突進とこいつを嫌う理由を上げればきりがない。

 

 

 更に現実のこいつは下位の個体ですら腹立たしいほど狡賢い上に不利と見た瞬間に即撤退しようとするから質が悪い。もう正直な話俺の人生に一瞬とも関わってきてほしくない。ていうか絶滅してほしいと本気で願っている。

 

 

 上位担当の受付嬢からの情報では推定上位相当の個体らしいが、そのクラスとしては比較的小柄なので貴方からすればそう難しい話じゃない、とか何とかほざいていた。

 話を聞いていて、このガキはイャンガルルガという生き物がどういう存在か分かっていて、その上でそんな事をほざいているのかと正気を疑ったくらいだ。

 

 

 体格が小柄で、尚且つ上位の実力になるまで生き延びた個体なんて100%ろくでもない個体に決まっている。

 小さかったら弱い個体であるとは限らない。イャンガルルガというモンスターは特に。

 

 

 ハンターをやっていれば常識とすら言っていいこの警句を、あの受付嬢は知らなかったのだろうか? 

 

 

 全く、最近は碌な事が起きやしない。オトモはこの様。受付嬢は若く経験が少ないからアドバイスは役に立たないわ。

 糞ったれ。どいつもこいつもこの白雪鬼様の事を馬鹿にしやがって。

 

 

 自分の意識が変わったところで、世界が変わる訳じゃない。

 意識を変えようが価値観が変わろうがそいつが負け犬であることに変化はなく、そいつは結局そいつのままだし世界はいつも通りの世界のままだ。

 

 

 くそ、クソ、糞。

 

 

 毒づき、吐き捨てる。いつものように。

 

 

 世界というものはこの沼地のような物だ。

 ぬかるみ、じめじめして不愉快そのものの空気。足に絡みつく因果の鎖は泥沼のようで、ずぶずぶずぶずぶと沈みこむばかり。一度踏み出せば助かる見込みなど無い。立ち込めた霧で一寸先すらおぼつかず、おっかなびっくり進むしかない。霧の中には魔物が潜んでいる。困難という魔物が。俺たちはその影におびえながら過ごしていく他ないのだ。命が尽きるその時まで延々と

 

 

 うんざりする。

 

 

 頭を振って不要な考えを頭の隅に追いやり、改めて地図を広げた。こういう思考に入り込むと延々考えてしまうのが俺の悪い癖だ。

 

 

 今俺たちはエリア4辺りをうろついているのだが、イャンガルルガの姿は見受けられず、見られるのは奴が暴れたと思わしき痕跡だけだった。

 バラバラになったランゴスタの破片が至る所に散らばり、嘴で突かれたと思わしきブルファンゴの千切れた胴体が誰にも顧みられることなく放置されていた。

 

 

 暴れ回っているという話を事前に聞いていたが、実際に目にしてみるとすさまじい。聞きしに勝るとはこのことだ。

 

 

 さてどうしようかと思案しようとしたところで、強烈な『気』を感じた。

 

 

「ッ!? こいつは……!」

 

 

 どうやら向こうからこっちにやって来てくれるらしい。探す手間が省けた事に喜ぶ半面、不意打ちが出来ない事への落胆もあったが、狩りはいつでも臨機応変な対応を求められる。人生と一緒だ。

 

 

「おいオトモ!」

 

 

 担いでいたライトボウガン『キングエビィーガン』に水冷弾が入っているか確認しつつ、後方のヨシツネに呼び掛ける。

 ヨシツネはすでに小タル爆弾を両脇に抱えており、いつでも放り投げられるように身構えていた。どうやら仕事とプライベートを分けるくらいの分量はあるらしい。

 

 

 気にかけていた不安が杞憂であったことが分かると俺はヨシツネから顔を外し、正面へと戻した。

 丁度そのとき空から紫色の影が降りてきたところだった。

 

 

 見てくれはイャンクックのそれと近しいが背中や尻尾に生えた物々しい棘、毒々しい紫色の甲殻、そして纏う空気の鋭さから明らかに別種であると分かる。

 

 

『黒狼鳥イャンガルルガ』が、口から黒煙を吐きながら俺たちを睨みつけていた。

 

 

 イャンガルルガの体は生傷に溢れていた。別にイャンガルルガの体が傷だらけであることはいつもの事なので気にするようなことでは無いが、その傷は何というか明らかに戦ってできた傷というより一方的につけられた傷といった感じがする。

 そう思うのはイャンガルルガの纏う雰囲気に怒気の他に、多大な怯えを感じ取ったからだ。

 

 

 普通のイャンガルルガの二割り増しくらいに傷の多いイャンガルルガだが、その中でも一際目を引くのが背中につけられた巨大な爪痕だった。

 つけられてから時間が経っていないのか、治り切っていない傷跡からどす黒い肉が見えた。

 

 

「こりゃああまり長く持たんなこいつ」

 

 

 と俺。

 

 

「そりゃいい事ニャ。迷惑な奴がとっととくたばる分には大歓迎ニャ」

 

 

 ヨシツネが続けて言った。

 

 

「違いなし」

「クォオオオオオ!!!」

 

 

 俺たちの軽口が聞こえたか、それとも背中の痛みでか。何にせよ怒り狂ったイャンガルルガが何の予兆も無く突っ込んできた。

 

 

「狙う場所は言うまでも無いな?」

「ニャ」

 

 

 確認を終えると俺たちは二手に分かれながらイャンガルルガの突進を避けた。

 

 

「ニ゛ャ゛ー!!!」

 

 

 間髪入れずにヨシツネはイャンガルルガへ向けて小タル爆弾を放り投げた。

 

 

「クォオオ!」

 

 

 イャンガルルガは顔面に向けて投げられた小タル爆弾を仰け反る事で回避した。さらにその仰け反りは攻撃動作の準備も兼ねており、イャンガルルガは仰け反った姿勢からヨシツネに向けて勢いよく嘴を叩きつけた。

 

 

「イニャーッ!」

 

 

 そう来るだろうと読んでいたヨシツネはこれを危うげなく回避。

 

 

「クオーッ!」

 

 

 離れようとするヨシツネをイャンガルルガが追う。

 

 

「はっはっは後ろががら空きだ」

「クオッ!?」

 

 

 ヨシツネは完璧に仕事をしてくれた。見事に注意を逸らしてくれたおかげで、俺はイャンガルルガの無防備な背中に向けて水冷速射を浴びせることが出来た。

 苦悶の声を上げるイャンガルルガにもう一セット速射のプレゼントをしてやろうとしたが、奴は優先順位をヨシツネから俺に変更したようだ。

 

 

「クォオオオオオ!!!」

 

 

 その怒り様はまさしく怒髪天を衝くと言うが如し。翼を広げて咆哮するイャンガルルガから距離を取ろうとするが、こいつの突進の速度は凄まじく、俺は回転回避を強いられた。

 

 

「チッ」

「クオオオ!」

 

 

 体勢を戻し、立ち上がった俺にイャンガルルガは急停止して急ターンして急接近、俺が狙いをつける間もなくイャンガルルガの連続攻撃が襲い掛かってきた。

 

 

 振り下ろされる嘴をステップでかわし、振り回される尾を飛び越え、空中にいる俺に向けて振るわれた翼の一閃をボウガンで受け止め、反動で後方へと飛んで距離を取る。

 

 

「……」

 

 

 ボウガンで防ぎ、後方へ飛んだことで衝撃を無くしたにも拘らず、受け止めた俺の腕はびりびりと痺れた。

 俺は腕を一瞥して戦闘に支障が無い事を確かめるとキングエビィーガンに水冷弾をリロードし、前方のイャンガルルガを見やった。

 

 

「クォオオ……」

 

 

 イャンガルルガは足で地面を掻き、吠えながら俺と同様隙を窺うようにじっとしていた。

 

 

 いやはやこんなに強いイャンガルルガと戦ったのは初めてである。

 下位、上位どちらの個体とも戦ったことはあるが、それでもここまで鬼気迫る強さを持った奴はいなかった。

 

 

 上位より上の個体。となると……。

 

 

「この強さ……さしずめG級に片足突っ込んでる個体って事か」

 

 

 言いながら、俺は閃光玉を放り投げた。

 

 

「クオッ!?」

 

 

 G級に片足突っ込んでる個体といえどもこれだけ唐突に閃光を受けた経験など無いだろう。

 俺の読みは的中し、イャンガルルガは咄嗟に目を瞑ろうと動こうとしたものの、間に合わずに閃光玉の光をもろに受けた。

 

 

「クォオオオオオ!!!」

「今だ! 行け!」

「ニ゛ャ゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」

 

 

 にらみ合いの最中、イャンガルルガの後方で待機していたヨシツネが俺からの合図を受けて大タル爆弾を持った特攻を仕掛けた。

 

 

「クエ~ッ!?」

 

 

 素面ならともかく閃光で目が眩んでいればさすがのこいつでも避けきれなかった。

 迫る危機を察知し、イャンガルルガは闇雲に動いたものの、結局は逃げきれずに大タル爆弾が直撃。紅蓮の炎が炸裂し、直撃した翼が吹き飛び、堅殻や鱗の破片がそこら中に散らばった。

 

 

「はっは―!」

「クエッ!?」

 

 

 その時俺はというと、ボウガンを背に戻し、全速力でイャンガルルガに向けて走り出していた。

 奴が向かってくる俺の姿に気づいたようだがもう遅い。振るわれた翼を潜り抜け、俺はイャンガルルガの背中に飛びついた。

 

 

 そして背中に跨るように座り込むとイャンガルルガが反応する前に、背中の爪痕に向けて水連速射を弾が無くなるまで撃ち込みまくった。

 

 

 ただでさえイャンガルルガの背中は水属性を良く通し、その上傷を負っているとなってはひとたまりも無かったようだ。

 全弾が尽き、跳び離れると同時にイャンガルルガはずしんと音を立てて倒れ伏した。

 

 

「クエ~……」

 

 

 イャンガルルガは弱弱しく鳴きながら、それでもなお立ち上がろうと藻掻いたが、誰の目から見ても討伐寸前の最後の足掻きでしかなかった。

 俺もヨシツネも、これで何事も無く終わりと思っていた。だが次の瞬間、そんな気分も吹っ飛ぶ様な事が起きた。

 

 

 〝畜生……糞ったれの轟竜……め……! 〟

 

 

「何!?」

 

 

 イャンガルルガの今際の際に聞こえた声に問いただそうとイャンガルルガへと詰め寄ったものの、すでに事切れていた。

 

 

 

「おい、今の意味どういうことか分かるか?」

「轟竜っていったらそりゃ、一つしか無いニャ」

「そりゃそうだが……」

「「……」」

 

 

 俺とヨシツネは互いに顔を見合わせ、たった今聞いたことの意味を考えた。しかし判断材料といえばこのイャンガルルガの傷跡ぐらいしかなく、呼び寄せたギルドの奴らにイャンガルルガの言っていたことを伝えると俺たちはポッケ村へと帰還した。

 

 

 道中俺たちの胸の中には不穏の影が差していた。その影はポッケ村へと近づけば近づくほど濃く、重さを増していく様な気がした。

 

 

 端的に言えば嫌な予感がした。それも物凄く。

 俺とヨシツネはアプトノス車の中で会話をすることなく、()()()()()()()()ただひたすら体力を回復させる作業に没頭した。

 

 

 そして俺たちはポッケ村に着き、いつものように群がってくる村人共を押しのけてやって来た妙に神妙な顔をしていた村長にそれ見た事かと顔を見合せた。

 

 

 逃げ出そうとする体を押さえつけ、心底嫌そうな顔をしているであろう俺たちの前にやって来た村長は、開口一番こう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヌシよ、雪山にG級の『ティガレックス』が出た」

 

 

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