「ヌシよ、雪山にG級の『ティガレックス』が出た」
「それはさっき聞いた。もっと詳しく話せ」
場所を移動し、現在俺たちはポッケ村の集会場の中にいた。
右からヨシツネ、俺、マサムネ。対面に座るのは右からギルドマネージャー、村長、そしてティガレックスの知らせを持ってきた黄色いギルドの制服を着た女、G級の受付嬢だ。
「あぁ……そうじゃな。主よ、頼む」
「はい村長さん。では初めまして、私はギルドのG級のクエスト専門の受付嬢、『シャーリー』と申します。お会いできて光栄です白雪鬼さん。あなたのお噂はかねがね」
「世間話がしたいなら帰ってもらって結構。仕事の話をしようぜ」
シャーリーはまだ何か言いたげな目をしていたが、俺は睨みつけて黙らせた。
こいつは人畜無害そうな面しているが、大陸でも数人しかいないG級クエストの受付を任されている奴である。隙なんぞ見せられるか。
「……分かりました。お話はまたあとで、という事で」
「あぁ、生きていたらいくらでも話してやるよ」
「ちょ!? 縁起でもないこと言うなニャ!」
俺の発言に苦言を呈すヨシツネに、憐みたっぷりに首を振って見せ、指を立てて懇切丁寧に教えてやった。
「あのな、相手はG級のモンスターで、尚且つ最上級ランクのG3のハンターが相手をするような奴なんだぞ? 上位のモンスター相手にひいひい言っているような俺が勝てる相手か? 少しは考えろ、このボケ」
「だからって死ぬとは……だったら逃げればいいニャ! こんな糞ったれな村何ぞ捨てて逃げればいいニャ!」
「そうやってどうなる? その後の俺の人生は? ギルドが任務を放り捨てて逃げた奴なんか使うと思うか? しかも俺は半端者だぞ? 退いても進んでも行き先が同じであるなら、だったら思い切って進んでパーっと終わろうや」
「──────」
ヨシツネは俺の説明に納得したんだかしてないんだかよく分からない顔をして口をつぐむと、黙って項垂れた。
俺は舌打ちしながら顔を正面に戻し、辛気臭い顔をしていた目の前の3人に身振りで話の続きをするように促した。
「……観測員から届いた情報によりますと、雪山に降り立ったティガレックスはエリア8付近でポポの群れを丸ごと捕食、その後騒ぎを聞きつけてやって来たドドブランゴがいましたが、これも従えていたブランゴもろとも捕食。それで満足したのか現在エリア6付近をうろついている、とのことです」
「サイズは?」
「観測員が遠くから測ったものなので正確なサイズではありませんが、おおよそ2400cmとのことです。これは今まで確認されたティガレックスの中でも最大級の個体です」
「そうか……」
報告を聞いて、思わず顔を覆った俺を誰が攻められる?
何時の時代もデカさは強さだ。G級と言われるほど強力な個体で、尚且つ最大金冠クラスの巨体。そこから繰り出されるパワーなど想像だってしたくない。
そんな俺の思いとは裏腹に、過去のティガレックスとの戦闘光景が忌々しく脳裏に蘇る。
猛烈なダッシュからの飛び掛り、突進してくると見せかけて急ブレーキからの回転攻撃。息つく間もない連続攻撃に狙いをつけてる暇も無い。さらにそのパワーときたら。シビレ罠にかけて通常速射で滅多打ちにしてたと思ったら前足で強引に地面をひっくり返して罠から逃れるという訳の分からない光景。
「クソが……」
俺は吐き捨てて、椅子から立ち上がった。マサムネとヨシツネも続いて立ち上がった。
「あ、あの話はまだ!」
シャーリーが去りゆく俺を止めようとするが、これ以上話を聞いても碌な情報はなさそうだったから、止まらず集会場から出て行った。
俺の姿を見るなり纏わりついてきて、何の話していただのなんだのと聞いてくる村人共を捌きつつ自宅へと戻る。
「ヨシツネ、準備しろ。マサムネは飯作り終わったらお前も来い」
「うぃ」
「は? 旦那さんマジで言ってるニャ?」
キッチンへと向かうマサムネの背を凝視しながら、ヨシツネが信じられないとばかりに呟いた。
「相手はG級だぞ? 使えるモンは何でも使わなけりゃ、勝てるもんも勝てねぇ。当り前だろ?」
「僕だけじゃ不安だっていうニャ!?」
ヨシツネの戯言をマサムネが作った猫飯を腹の中へ納めながら聞き流す。
「ぼ、僕だって回復笛くらいなら吹けるニャ! 囮役だってやる! お、お願いだから」
「お前さあ」
腹ごしらえが済み、防具を着込んで鏡でチェックしている最中に足に縋りついてくるヨシツネに顔を向ける。
「これから未だかつてない強敵を相手にするっていう時に、何が悲しくってお前の我がままなんぞに付き合ってやらなくちゃいけないんだ?」
「でも、だって……僕……ぼく……」
涙声で肩を震わせるヨシツネに、俺は心底うんざりしながら、言葉を選んで口を開く。
「お前がマサムネの奴と一緒に狩りをするのが嫌いなのは嫌って程知ってる。で、その上で聞くがお前がマサムネと狩りすんのと俺がくたばるの、どっちが嫌か?」
「……」
問いかける俺の顔をヨシツネはしばらく凝視し、それから諦めたように首を振り、こちらに背を向けて自分用のアイテムボックスから装備を取り出し始めた。
小タル爆弾やらを自分のポーチに杖込んでいくヨシツネを眺め、俺は大きくため息を吐いた。全く、面倒な事だ。
そうこうしている内にマサムネも合流し、俺たちはしばらくの間無言で装備の点検を始めた。
俺は再び鏡に向き直り、改めて自分の装備の点検を再開した。
頭、腕、腰、足をリオソウルUで固め胴だけをヒプノSにし、装飾品で高級耳栓とランナーが発動するようにしている。さらに増弾のピアスを耳に着ければ装弾数UPがつく。この世界がゲームじゃないからこそできる小細工だ。
そして武器はソニックボウⅢで、増弾のピアスの効果で溜4の拡散矢が放てる。ティガレックス相手なら拡散矢が撃てなきゃ話にならんからだ。
「よし」
装備に不備が無いことを確認し、背後を見ると、丁度二人も準備を終えたようだった。
ヨシツネはいつものボマースタイルで、マサムネは普段の割烹着姿から鎧武者めいた防具を身に纏っていた。背中にはアイルー用の小太刀に、さらに大型のブーメランを背負っている。
「その恰好を見るのはずいぶん久々だな。腕は鈍ってないだろうな?」
「ふふん、私を誰だと思ってんだ? その腑抜けと一緒にされちゃあたまらんよ」
とマサムネ。
「あ゛ぁ゛?」
煽られて辛気臭い雰囲気が直ちに怒気へと変わり、ヨシツネは憤怒の形相でマサムネを睨みつけた。対するマサムネは余裕しゃくしゃくといった面持ちで、不敵に鼻で嗤ってみせた。
今にも殴り合いを始めそうなバカ二人に声をかけ、俺たちは外へ出た。
外に出ると、待ち構えていた村人共が一斉にこちらを見た。
俺は肩を竦めて見せ、ヨシツネとマサムネを従えてそのままゲートの方へと歩いて行った。
ゲートにはすでに村長たちが待ち構えており、ゲート前に待機していたアプトノス車に乗り込む俺たちを不安そうな面持ちで見つめていた。
「ヌシよ、あまり無茶はするなよ」
「俺の事より村の心配をした方が良いんじゃねぇの? 俺がクエストミスったら多分アイツこっちに向かって来るぞ?」
俺の言葉に、村長の顔はますます険しくなった。
鼻を鳴らし、村長から顔を逸らして傍に控えていたギルドマネージャーとシャーリーの奴へ顔を向ける。
「じゃ、そういう訳だから住民共の避難頼むわ」
「……えぇ、了解したわ。でもできれば生きて帰ってきてほしいわねぇ~」
「随分楽観的な話だな」
「わ、私は白雪鬼さんの事、信じていますので! どうか無事に帰ってきてくださいね!」
俺は唾を吐き捨て彼女たちから顔を逸らすと、そのまま乗り込んだ。後から続いてマサムネとヨシツネが乗り込み、扉を閉めるとすぐさまアプトノス車は動き出した。
地獄行きの超特急は、あっという間に俺たちを雪山へと運び込んだ。
キャンプから離れ、麓から聳え立つ白き山を見上げた。
空は曇天に覆われ、それに伴ってか美しいはずの雪山をどことなくおどろおどろしいものへと変えていた。
風が吹いた。冷たいはずの風が、やけに生暖かく感じるのは、この山に潜む恐るべき魔物の放つ気のせいだろう。
「……」
無意識の内に生唾を呑んでいた。対峙してすらいないのに、こめかみから冷汗が流れ落ちる。
だが臆したところで何になる。すでに賽は投げられた。後は進むほかないのだ。
俺はヨシツネとマサムネに目配せした。2人は頷いた。
俺は正面に向き直り、目を閉じ、一つ深呼吸した。
意識が切り替わる感覚。肺に流入した冷たい空気が脳を冷やし、全身の感覚が研ぎ澄まされる。
息を吐き出し、目を開ける。動揺は消えた。
さぁ~てと。仕事開始だ。
俺たちは雪山へと乗り込んだ。