通常弾ぺちぺちマン   作:三流二式

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ちなみにですが、ケンジさんは妻であるフユコさんを庇って丸のみにされました。だから彼の遺品は無いんです。所持品装備もろともおなかの中に入っちゃいましたからね。フユコさんは仇に燃え、猛然とティガレックスにかかっていきましたが、結果はプロローグにある通りです。ショッギョ・ムッジョな。


怪獣たちの後始末

 うっ、という自分の呻き声で、不意に意識が覚醒した。

 

 

 目覚めたばかりという事もあって視界モザイクがめいてぼやけており、思考は霧の中に囚われたみたいに覚束ない。

 

 

 だから俺は目を開けたまましばらくぼーっと天井を見上げ、視界と思考の靄が消え去るまで待っていた。

 

 

 意識を取り戻してから30分程度といった所か。目覚めた当初はぼやけた視界と同じように靄がかっていた思考も、それ位の時間が経てば徐々に薄れ、今やこうして物事を考えられる程度にははっきりしている。

 

 

 どうやらまだ生きているらしい。

 

 

 天井の木目を数えるのに飽きが回ってきたころに、ようやくその事実が飲み込めた。

 

 

 しかしよくもまああんな怪獣を相手にして五体満足でいられたものだ。しみじみそう思う。

 あの威圧的なティガレックスの姿が脳裏によみがえり、ぶるりと身を震わせる。

 

 

 で、自分の状況を飲み込めて来ると、今度は自分の体調の方に意識が向いた。その瞬間に思い出したかのように体のあちこちから痛みの信号が送られ、クリアだった思考はたちまち痛みに塗り替えられた。

 

 

 その痛みときたら! 細胞の一つ一つに針を通されているんじゃないかっていうくらいの隙間の無い痛みだ。更に体は鉛のように重く、身動ぎ一つできない俺は甘んじてその痛みに耐えるしかなかった。

 

 

 あまりの痛みに視界が霞み、俺は再び意識を失った。

 

 

 次に目が覚めると、俺の眠るベッドのわきに複数人の人物が立っていた。

 俺は痛む体に鞭打って顔を横へと動かし、そいつらに顔を向けた。

 

 

「ほ、目が覚めたか。早いな」

 

 

 目が合った村長が俺を見るなり、何処か感心したようにそう言った。村長の横にはギルドマネージャー、その後ろにはシャーリーの奴が彼女の背から覗き込むようにして俺を見ていた。

 

 

「そんちょうか……」

「うむ、そうじゃな」

「ここは……」

「ヌシの家じゃな」

 

 

 俺の家らしい。

 

 

 いやはや何とかなってよかったよかった、と彼女は一人頷くと、俺が意識を失った後の事を説明してくれた。

 何でもギルドへの信号弾を撃ち、駆け付けたギルドの連中を目にした瞬間に俺は気絶したらしい。なる程、道中の記憶がない訳だ。

 

 

 で、急いでポッケ村に運ばれた俺たちは怪我の手当てを受け、自宅へと運ばれた、というのが昨日の話らしい。

 それからティガレックスの死骸の後始末についてはシャーリーとギルドマネージャーが説明した。死骸の殆どは研究目的で運ばれ、装備の製作に必要な素材はあとで送るとの事だ。

 

 

 後でティガレックスの素材で作れる物はすべて作らせるつもりでいたから、それを聞いて一つ肩の荷が下りた気分だった。

 

 

「ヌシがあんな大怪我をした事など一度としてなかったから、皆それはもうてんやわんやの大騒ぎだったぞ。ワシが止めていなければ今頃この家は押しかけた住民でそれはもう目も当てられぬ惨状になっていただろうな」

「そうか。ていうかあんたら避難してなかったのか? 何やってやがる死にたいのか?」

 

 

 俺からの指摘に、村長は肩を竦め、さも平然と言ってのけた。

 

 

「まさか! ちゃんと言った。しかし、みんなヌシが勝つと信じて疑わず、誰も避難しようとしなかったのじゃ」

 

 

 3の村人かよ。

 

 

「そうよ~、皆言っても全っ然聞いてくれないんだもの。皆が避難してくれないんじゃあ、私達だけが避難するわけにもいかないわよね~」

 

 

 と、いつも通り飄々とした態度でマネージャーが続く。

 

 

「と、とにかく、結果的には白雪鬼さんがティガレックスに勝利したわけですし、き、杞憂で済んで良かったじゃないですか」

 

 

 とシャーリー。

 

 

「あのな、そりゃ結果論だ。俺がくたばる可能性だってあった。いや、むしろそうなる可能性の方が多かった。ふん、随分まあ分の悪い方に賭けたもんだ」

「そんな! みんなあなたが勝利すると信じていましたよ!」

 

 

 鼻で嗤ってやった。そのまま掛布団を剥ぐと、痛む体に鞭打って、アイテムボックスの方へ向かった。

 が、やはり体調は万全とは言い難く、途中でずっこけそうになった。

 

 

 慌てて駆け付けたシャーリーに体を支えられてアイテムボックスの方へ難儀してたどり着くと、俺は目当てのいにしえの秘薬を取り出し、口の中に放り込んで噛み砕いて回復薬グレートで流し込んだ。

 

 

「とにかく」

 

 

 口の中の地獄めいた混沌を意識しないように心がけながら、俺はシャーリーとギルドマネージャーを睨みつけた。

 

 

「俺は勝った。であるならば相応の報酬は貰うぞ。ワカッタカ!」

「勿論よ~。G級のモンスターが倒されたなんてここ最近なかった大事件だもの。それ相応の報酬と地位があなたに用意されるわ。……だからまずは体を休めてね。これでも私だって心配だったんだからね~」

 

 

 俺は舌打ちをすると、ヨシツネとマサムネの姿を探した。

 

 

「あ奴らはまだ寝込んでおる。……あぁ安心せい。命に別状はない。ただ覚醒にはまだ数日はかかるじゃろうがな」

 

 

 考えを読んだ村長が機先を制して俺に告げた。

 

 

「ふん、寝坊助どもめ」

「何を言うか。あれほどの怪物相手に生きているだけでも十分なのに、一晩で目覚めるヌシが異常なんじゃ」

 

 

 村長がジト目で見てくるが、俺は無視して出口へと向かった。村長たちも後に続いた。

 

 

 ドアを開けると、引き締まるような冷たい空気が体に叩きつけられ、俺は怯んでドアを半分ほど閉めて一歩引いた。

 

 

 舌打ちして、改めてドアを開けて外へと出る。

 

 

 陽は当に頭上高くあり、眩しさで目が眩む。手で光を遮って、目が慣れるまでしばらくそうした。

 で、目が慣れて手を下ろした瞬間、今度は爆音が耳を聾し、世界の音が塗りつぶされた。

 

 

 顔を顰めて音の出所を探ったが、全方位から聞こえてくるために何が何だかさっぱりだ。

 右を見ても左を見ても、顔、顔、顔。どいつもこいつも馬鹿みたいに大声を張り上げて何か言っているのだろうが、どいつもこいつも好き勝手にしゃべっているせいでさっぱり判別が出来なかった。

 

 

 まるでドスジャギィの群れにでも放り込まれた気分だ。これじゃあ聖徳太子だって聞き分けることが出来ないだろう。

 

 

 事情を聞こうにもどいつもこいつも狂竜症のモンスターみたいに我を忘れているようで、俺は話が出来そうなやつを見つけるのに酷く苦労した。後ろで佇む村長たちは他人事みたいに笑っていたが、こいつらには立場が上の者としての自覚があるのだろうか? こういう時にこそ黙らせるためのパワーがお前らにはあるだろうに。

 

 

 舐めやがって。

 俺は唾を吐くと、村人の波を難儀しながらかき分けて話が出来そうなやつを探した。

 

 

 誰かの手が腰に触れた……いない。

 

 

 誰かの手が尻に触れた……いない。

 

 

 誰かの手が胸元に入り込んだ……いない。

 

 

 背中に引っ付いてきて耳元で洗脳音楽みたく意味不明な文言を垂れ流す女を引き剥がしたところで*1、腹を抱えている加工屋の倅を見つけ、近づいてとりあえず挨拶の一発をくれてやった。

 

 

「アバーッ!?」

 

 

 左頬を押さえて訴える倅に、今度は右に同じものをくれてやる。

 

 

「ナンデ!?」

 

 

 俺は唾を吐き*2、舌打ちした。

 

 

 彼は唾を吐き、口をへの字に曲げて腰に手を当てた。

 

 

「オイオイ寝起きだってのに元気な奴だな!」

 

 

 おどけてみせるこいつだが、睨んでやれば観念した様に頭を振るい、口を開いた。

 

 

「お前が言いたいことは分かる。だが俺たちは残る事を選んだ」

「それで死んでもか?」

「あぁ、そうだ」

 

 

 倅は頷き、まっすぐ見つめてきた。その目に迷いはなく、揺らぎ一つもない。目を逸らし、周りの村人を見る。他の村人の目もそうだったが、今でこそ熱狂に飲まれてはいるが、どの目もこの倅と同じように迷いはなかった。

 

 

「はっ、大層な信頼な事で」

「それだけお前に対して信頼を寄せてるッて事だろ。俺含めてな」

「どうだか」

 

 

 倅は微笑んだ。俺は居心地が悪くなり、話題を変える事にした。

 

 

「で、ティガレックスの素材を使って装備を作る件とか、何か聞いてないか?」

「あぁ、それな。もちろん聞いてるぜ。後、その件とは別にお前に良い知らせがあるぜ」

「良い知らせだぁ?」

 

 

 訝しむ俺に、倅はにやりと笑った。

 

 

「ギルドの連中が装備の事でやって来た時に話してくれたんだが、お前の母親の荷物がな、見つかったそうだ」

 

 

 俺は目をしばたいた。

 

 

「へえ、そりゃまた」

「ほとんど凍り付いて駄目になっちまってたけど、その中で面白いものがあってな。後日修復してお前に渡すから楽しみにしてな」

 

 

 倅は意味深に笑いながら、そう言った。

 

 

 それから数日後、ヨシツネとマサムネが目覚め、かんどうのさいかいの後に、俺たちは散歩もかねて倅のもとへと向かった。

 

 

「で、その面白いもんとは何だ」

「どうせろくでもないもんに決まってるニャ。きっと体のいい実験台か、何ニャらかんニャらしようって魂胆ニャ」

「ヘッハハ! 死にかけりゃあ多少は改善するかと思ったがそうでもねぇな! おい倅、こいつの言う事なんか気にすんな! ハハハ!」

「へへ、元気なアイルーだぜ!」

「おい」

「へいへい、せっかちな奴だな。ほらこれさ」

 

 

 そう言って渡してきたのは、丁寧に畳まれた布……服か? 

 

 

「本来は鎧に匹敵する防御力があるそうなんだが、修復するにはここらじゃ取れないような素材ばかりでさ、だからそいつは多少頑丈な衣服って程度にしかならなかった。すまんな」

「これがお袋の荷物の中に?」

 

 

 渡された服をつまみ、広げてみた。無意識の内に眉間に皺が寄った。

 

 

「そういうこった。早速着てみてくれ」

「おい」

 

 

 俺は広げた服を凝視しながら言った。

 

 

「サイズはお前ように仕立て直してあるから大丈夫だと思うけれど」

「待てこらおい」

「なんだ?」

 

 

 俺は倅を睨みつけた。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 念をすようにもう一度言う

 

 

「そうだが……なんだよ?」

 

 

 まだ分からないようだから、俺は懇切丁寧に説明してやった。

 

 

「お前は間抜けか? じゃなきゃ馬鹿か? どこの世界に嬉々として男に()()()()を渡す馬鹿がいるんだよ」

「え、女物の……あ!」

「あ! じゃねえよあ! じゃ」

「「ブフーッ!」」

 

 

 ようやく察しがついた倅が信じられない程の間抜け面で口元を押さえた。ヨシツネとマサムネと武具屋のアイルーが同時に吹き出し、ひっくり返って笑い転げた。

 俺が広げた服。それはカムラの里の2人の竜族が着ている服を模した、所謂『依巫・神凪シリーズ』という女性用の防具だった。

 

 

 もう一度言う。女性用だ。そんなものを嬉々として渡してくるとは、こいつの目は腐っているのか? 俺の何処に女の要素があるというのか? 

 確かに()()()()()()()()()姿()()()()()()が、まさかこいつ言外に俺の事を女々しい小心者とでも言いたいのだろうか? 

 

 

「マッタ! マッタ! ほら仕方が無いだろ! 友達の血縁の残したものだぜ! 直して渡さなきゃ男が廃るぜ!」

 

 

 俺はあらん限りに倅を睨み、それからひっくり返って笑い転げる馬鹿2匹を蹴り飛ばし、武具屋のアイルーを引っ掴んで地面に叩きつけ、倅の頭を掴んでカウンターに叩きつけた。

 

 

「「アバーッ!」」

 

 

 悲鳴を上げてのたうつ愚者の声を背に、俺は加工屋の中へと入っていった。

 

 

 加工屋の中には寸法を測るためや装備の着心地をはかるための試着室があり、俺はそこに入り込んだ。

 

 

 今着ている服を脱いで畳み、それから渡された依巫・神凪シリーズを鏡の前に広げで見せた。

 ムカつくことに倅の寸法は完璧で、この服は俺の体にぴったりと合うように仕立て直してあった。

 

 

 仕方がない。友達の頼みなのだ。

 

 

 自分に言い聞かせ、俺はため息を吐くと、ゆっくりと依巫・神凪シリーズに袖を通していった。

 

 

 全て着終わると、俺はあまりの着心地の良さに驚いた。まるで絹そのものを纏っているかのような滑らかさに、思わず唸った。

 しかし、あの倅のしたり顔がちらつき、俺は実に複雑な思いのまま外へと出て行った。

 

 

「お~痛て……お、戻った……おふっ」

 

 

 俺の姿を見るなり、倅は前かがみになって黙ってしまった。

 

 

「何だこいつ」

 

 

 俺は一瞥をくれてやると、集会場の方へと向かった。なんでも依頼の報告件ティガレックス討伐を祝って集会場で宴を開くそうだ。

 金が貰えるならどうでもいい。俺はマサムネとヨシツネを引き連れて、集会場への道をのんびりと歩いていく。

 

 

「お、トチノキ様、おは……おふっ」

「ああトチノキの旦那……おふっ」

「アババ―ッ!?」

「「アバーッ!」」

 

 道中いつものように住民共をあしらうために身構えていたのだが、なんだか様子がおかしい。どいつもこいつも話しかける途中で口ごもり、顔を赤らめ、そっぽを向いてしまうのだ。

 しまいには奇声を上げて*3、ひっくり返って痙攣する者がいる始末。

 

 

「何だってんだ」

「一過性の精神疾患ニャ。ほっとけニャ」

「そういうもんか?」

「ぷぷ、そういうもんだぜ」

 

 

 そういうもんらしい。

 

 

 途中で横切ったネコートさんの首根を引っ掴み、首筋辺りを撫でまわしながら集会場の中へと入っていった。

 

 

「あらあらまあまあ」

「「ワースゴーイ!」」

「ほわっ!?」

「おや、またずいぶん面白い恰好をしておるの」

 

 

 中にはすでに村長、ギルドマネージャー、シャーリー、上位下位の受付嬢が揃っており、俺を見ての感想は三者三葉だ。

 

 

「質問は受け付けんぞ」

 

 

 椅子にどかっと腰を下ろしながら、牽制の一言。続いてヨシツネが隣に座り、マサムネは厨房の方へ消えていった。

 

 

「えぇ、分かったわ~。じゃ、手短にいきましょ。まずはティガレックス討伐による、あなたの地位についてね。シャーリーちゃ~ん、お願いね~」

「はい、ではトチノキさん、こちらをどうぞ」

 

 

 シャーリーに手渡された書類を受け取り、したためられた文を読んだ。

 

 

 内容を要約するとこうだ。

 

 

『G級のティガレックス討伐を称え、本日よりハンタートチノキのハンターランクを9とする』

 

 

「……冗談だろ?」

 

 

 バサッと書類をテーブルに置き、目の前のギルドマネージャーを見た。

 

 

「残念ながら冗談じゃないわ。あなたをG級に引き上げる話はね、実は前々からあったのよ。それで今回の件がとどめとなり、更に人手不足やら上の思惑やらが合わさった結果、異例の飛び級って事態になったのねぇ~」

「なったのねぇ~、じゃねぇよ。他人事だからって好き勝手言いやがって。糞……」

 

 

 先ほどまで死ぬほど暴れていたネコートさんを抱え直し、撫でまわしながら毒づく。

 

 

「えっと、トチノキさんは昇格があまり嬉しくなさそうですけど……」

「嬉しいわけ無いだろ。ランクを上げられるって事はそれ相応の危険なクエストをやらされるってことだぞ? 何が悲しくて自分から死地に向かわなくちゃいけないんだ」

「あ、あはは……」

 

 

 シャーリーは頬を掻き、答えに窮しているようだった。当然と言えば当然か。普通ならG級への昇格は選ばれし者の中のエリート。昇格の話を受ければ泣いて喜ぶものなのだろうが、生憎俺は金はあるし、別に上昇志向なんて物も無い。必要に迫られたからやってるってだけで、行かなくていいなら俺は絶対に行かない。

 

 

 許されるなら古文書を読み漁ったり、遺跡調査に加わったり、モンスターの生態を研究していたい。

 だがそれだけだと食いっぱぐれるし、何よりそれが俺の役割だから、仕方なくこなしているのだ。そこんとこをはき違えないでほしいものだ。

 

 

「ま、トチノキちゃんが嫌がりそうなお話はここまでにして、次はティガレックス討伐の報酬と素材についてね」

「はい、まずはこちらが依頼の報酬金額となっております。トチノキさんは一度力尽きておりますので、その分だけ差し引かれている事はご了承ください」

 

 

 そう言って、シャーリーは俺の前に小切手を差し出した。小切手には70000000の文字が書かれてある。

 

 

「……桁間違えてねぇか?」

「いえ、これで間違いないです。G級のモンスターの討伐にはそれだけ意味があるという事です」

「そうか」

 

 

 深く考えない事にした。小切手を受け取り、懐にしまった。

 

 

「次に素材についてね~。素材は貴方が装備に使う分、防具一式とライトボウガン、ヘビィボウガン、弓の分でいいかしら?」

「あぁ、それで十分だ。……言っちゃなんだが、研究分は残るのか?」

「えぇ、今回の個体は観測史上最大の個体だから、それ位渡したところで大したこと無いわ~」

「あそ、ならいい」

「分かったわ~。じゃ、この話はこれで終わりでいいかしら?」

「あぁそうしてくれ。これ以上は気が滅入る」

 

 

 顔を顰める俺に、ギルドマネージャーとシャーリーは顔を見合わせ、苦笑いを浮かべた。

 

 

「ほほ、なら堅苦しい話は終わりにして、宴にしようぞ」

 

 

 と村長はやおら立ち上がると、手をパンパンと叩いた。

 

 

 それを合図にマサムネが、その他のキッチンアイルー共が、料理を担いでぞろぞろと配膳を始めた。

 

 

「おいヨシツネ、村の連中を呼んで来い」

「うぃーっす」

 

 

 ヨシツネは気だるげに椅子から降り、外へと出て行った。そして大勢の村人を引き連れて戻ってくるころには、俺はすっかりと出来上がっていた。

 

 

「ぶっ! 旦那さんもう飲んでるニャ!? 早すぎニャ!」

 

 

 ヨシツネが何だか言っているようだが、ゆで上がった俺の脳味噌はすでに言葉を記憶するという機能がマヒしていた。

 俺は首を傾げ、いつの間にか隣にいたシャーリーが注いだ達人ビールを促されるまま流し込んだ。

 

 

「そーれイッキ♡イッキ♡」

「ちょ!? 何してるニャ―!」

 

 

 糾弾しようとしたヨシツネの声は、というかヨシツネ自体が津波のように押し寄せた村人たちに押しのけられてどこかへと消えた。

 そこからはてんやわんやの大騒ぎ。どいつもこいつもがグラスを、ジョッキを掲げてなにがしかに祈りの言葉を捧げながらそれを呷り、口の端の泡を拭いながらガハハと笑う。

 

 

 何処から湧いたのか。吟遊詩人が音楽を鳴らし、どこかの村に伝わる白き神の寓話を高らかに謳いあげた。割れんばかりの歓声。拍手。

 男集が肩を組み、足並みをそろえてどしどしと足踏みをする。アイルーたちが音楽に合わせて踊り、子供が歌い、女たちが笑う。

 

 

 俺は次から次へと注がれる酒を喉に流し込み、注ぎ足され、また飲んだ。

 

 

「どれだけ飲んでも大丈夫ですよ♡酔っても私が介抱してあげますからね♡」

「アー……イ」

「だから安心してどんどん飲みましょう♡」

「……」

 

 

 耳元に口を寄せ、囁くように紡がれるシャーリーの声が、少しずつ遠くなる。

 肩を抱く柔らかな温かさに、次第に瞼が重くなってゆく。

 

 

 音楽。笑い声。拍手。遠ざかってゆく。

 

 

 篝火の幻惑的な揺らめき。通り過ぎて行く人々の朧な影。縋りついてくる2匹の見知った顔。黒紫色の大きな影。

 

 

 暗転。

 

 

 

 

 気が付くと、俺は見知らぬ部屋で、素っ裸で横になっていた。

 目をしばたきながら起き上がると、堰を切ったかのように痛みの波が脳髄を揺らし、俺は頭を押さえてしばらく蹲った。

 

 

 痛みの波がマシになると、俺は改めて部屋を見渡した。

 

 

 部屋は小ぎれいに片付いており、そこかしこに小洒落た調度品が置かれていた。

 まず間違いなく女の部屋だった。オカマ趣味のホモ野郎の線も疑ったが、その心配は杞憂だった。

 

 

 隣へと目を向ける。そこには掛布団に包まる女がいた。やはり裸である。彼女のトレードマークたる黄色い仕事服はベッドの下の床に無造作に脱ぎ散らされていた。俺の服も同様に。

 

 

 俺は見知らぬ天井を見上げ、未だ不明瞭な頭で思案する。

 

 

 よく分からんが、やはりよく分からん。

 どうしてこうなったのか、まるで分らない。いつの段階で連れ込まれたのか記憶を手繰り寄せてみるが、それは沼地に立ち込める霧の様につかみどころが無く曖昧だった。

 

 

 昨日今日知り合った奴とヤッた事はそれなりにある。しかしいつも思うのは、女というものはどうしてこう突発的にヤリたがるのか。

 思うに、女というものは生粋のロマンチストであり、刹那的な快楽を尊しとなす享楽主義者なのだろう。

 

 

 再び視線を女に戻す。

 

 

 彼女も、きっとそうだ。

 

 

 そう結論付けると、どっと疲れが身を苛んだ。身も心も重ぐるしく、しいて言うなら吐きそうだった。

 

 

 俺は吐き気を堪えながら衣服を着こみ、刹那的な快楽の名残に別れを告げると、秘薬を求めて家路についた。

 

 

 ドアを開け、部屋を出て、外気を深々と吸い、心と体をキリッとした冷たい空気で覚まし、そして思い切り嘔吐した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
背中から地面に叩きつけられた彼女は悶絶している間も無く周囲の者に囲んで蹴られた

*2
スライディングしてきた女が顔面で受け止めた。彼女は恍惚とした顔をしていた。周囲の者は畏怖した

*3
これ自体はいつもの事




逆送り狼◇卑猥は一切ない◇
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