ギアノスやらブランゴやらの素材をアイテムポーチの中に詰め込めるだけ詰め、詰め込み、えっちらおっちら運びながら下山した。
拠点のキャンプに戻るころにはすっかり陽は暮れており、ムカつくほど綺麗な星がきらめく夜になっていたから、仕方なく野営する事にした。
篝火に膝を寄せて座っている俺をはたから見たら、さぞ惨めに見える事だろう。
ハンターと言えばチームプレイが華だ。この世界でも例にもれず大体のハンターは臨時でもチームを組むことが暗黙の了解で決まっているらしく、俺が見てきたハンターは全て二人以上だった。彼らからすれば、やはりソロハンターは論外なのだろう。
当然と言えば当然だ。一人より二人の方が生存確率もクエスト成功率も上がるのだ。やらない方がどうかしている。
俺だってそうしたいのは山々だが、チームプレイをするという関係上、必然的に会話をしなければならず、それでぼろが出て俺の正体を知られると、確実に碌な事にならないのは明白である。
そうなるなら俺はソロハンターで結構だ。これ以上誰かに傷つけられるのは御免だ。
焚火に肉焼きセットを設置し、拠点に戻る途中で撃ち殺したアプトノスの肉をセットする。時折手元の手回しを回して焼き具合を調整しながら、ぼんやりと焚火を見つめていた。すると、降雪地帯特有の身が引き締まる様な一陣の風が吹いた。体を芯から凍らせるような冷たさに、思わず体を震わせる。
この風の冷たさが、俺は嫌いではない。
この風はいつも自分の立ち位置を思い出させてくれる。例えば俺が村のはみ出し者であるとか。例えば俺が弱虫のヘタレであるとか。例えば弾代で貯金がカツカツだとか、そういうの。
大して旨くない携帯食料と、なかなか旨いアプトノスの肉を腹に収めると俺は立ち上がり、テントの中に入り、おとなしく寝た。
夢を見た。大好きなハンマーを担いだ俺が坂にモンスターを誘導してごろごろ転がって頭を叩き割る、そんな素敵な夢を。
目が覚め、ギルド所属の『アイルー』と一緒に撤収の準備が終わると、乗り心地が最悪なうえにそこまで速度の出ないアプトノス車に乗り込み、帰路に就く。
俺は
日中だけあって少しは寒さが和らいだ風、陽の光を反射してきらめく草花、のんびりと草を食むアプトノスやステップを踏んで戯れる『ケルビ』たち。
そんな光景が俺の網膜に映り、気が付けば流れ去って行く。
美しい自然の原風景をずっと見ていると、荒んでいた心が洗われるような不思議な気分に陥ってきた。自分がこの風景の一部の様な気になってくるのだ。そんな事あるはずないのに。
「ハンターさん、もうすぐポッケ村に着くニャ! 下りる準備をして欲しいニャ!」
心地良い酩酊感に身を任せていたのだが、同行していたアイルーに声をかけられ、浸っていた素晴らしいトランス状態はドキドキノコでキマっていた時にウチケシの実を食わされたときみたいに消えてしまった。
「ああ、了解」
俺は返事をし、伸びをした。
外を見ると、整備された見慣れた道になっていた。窓から身を乗り出し、正面を見るとそう遠くない距離にポッケ村入り口にあるゲートが見えた。これを潜り、依頼を出した村長に報告すればクエスト完了だ。
ようやくクエストが終わると思うと嬉しくてたまらない。
「ハロー、ポッケ村」
アプトノスがゲートを潜る。麗しの我が故郷へ到着だ。
■
俺が戻ったと分かるや、村の連中がわっと群がってきた。相変わらず耳ざとい連中だ。
今日の成果はどうだったとか話を聞かせてとねだる子供たちをやんわりとなだめながら、のたのたと遅れてやって来た村長に俺は依頼の報告した。
「そうかい、やはりドスギアノスがいたか」
「えぇ、そこら辺をうろちょろしてたギアノスを撃ち殺してたら案の定湧いて出てきましたよ」
「どうやって倒した?」
「いつも通りこいつで」
俺はボウガンをポンと叩く。
「手下どもと一緒に穴だらけにしてやりましたよ」
「ひやはや、末恐ろしい童じゃ」
イヨイヨ~という奇妙な声を上げながら、村長は依頼の報酬の入った袋を渡してきた。
俺は受け取ると中身を改めた。
「1……500……900よし、きっちりあるな」
俺は袋を懐にしまい、それから狩猟の最中に取ってきた村用の素材を荷馬車から降ろす手伝いをしに行った。
「ほらよ、欲しがってた『セッチャクロアリ』だ」
「お~ありがとう! 助かったぜ! これで家の建て替えを再開できそうだぜ!」
渡されたセッチャクロアリの入ったケースを掻き抱き、何ならキスまでしそうな勢いのこいつはポッケ村の『加工屋』だ。相棒のアイルーと一緒に武具屋を経営している。
モンハンをやっていた諸君なら、こいつらがどんなに有能な奴かよく知っているだろう。
だから俺はとにもかくにもこいつらにごまをすってはひいきにしていた。……もっとも俺は容姿が容姿だからこいつ以外にも平身低頭ごまをすりまくっているのだけれど。
コミュニティで過ごすには八方美人でいるのが一番だ。特定の誰かだけに比重を割くと、その他と大なり小なり態度は変わる。
村の人間はそういうのに敏感で、バレた瞬間に俺の人生は終わる。
だったら誰に対しても同じ態度でへいこらしていれば、これ以上良くなりはしないだろうが悪化することは無いだろう。自分に対して下手に出てくる奴に優越感を覚えるのが人間というものだ。
なら精々俺を下に見て優越感に浸っていればいい。俺が力をつけて出ていくその日まで、許してやるよ。
「もっともいつ出ていくかは未定だけど……」
「ん? 何か言ったか?」
虫籠に頬擦りしてにやけながら顔を向ける加工屋に、俺は肩を竦めて何でもないと伝えると、再び積み荷下ろしに戻った。
村という閉ざされた社会で生きていくにはとにもかくにも献上する事。加工屋なら鍬や鋤を。雑貨屋ならより安価で豊富な道具を。ハンターなら村人の要望する素材を。
とりわけ食料になる物だと特に喜ばれる。雪に囲まれたポッケ村は自給自足していくには厳しい環境だから、それも仕方がないと言えば仕方がない。
だからアプトノス一頭如きでまるで金塊を見つけた探検家みたいに大はしゃぎする村人を見るのはなかなか良い気分だった。まるで自分が凄い事をしたみたいで誇らしさの様なものを感じてしまう。
だが落ち着いて物事を考えてみると、だんだんと見えてくる物もある。
彼らが俺にこんなに感謝を送るのは、単にこの村にまともなハンターが俺しかいないから。
アプトノス一頭で大はしゃぎできるのは、今までこんなに多くの物資を見た事が無かったから。
XX辺りの時代になると、交通の便が発展してポッケ村にもハンターが良く来るようになる。それは5年後か10年後か。どっちにしろ半分竜人族の自分からすれば大した違いは無い。俺が不要になる日はそう遠くない内に必ず来る。
半竜人ですら白い目で見られるには十分なのに、ソロで活動し、
だから俺はこの村に献上し、自分から出ていった優秀な犬という印象でこの村から出ていかねばならない。それしか道は無い。
全くうんざりする。何だって父は竜人族の女なんぞを娶ってしまったのか。なぜ母は人間の男なんぞを夫として選んでしまったのか。
恋や愛の事は前世含め40年以上の月日が流れてもやはり理解できなかった。しかしそれが悪い事とは思わない。この世は理解できない事に溢れている。まあそういうこった。
俺は積み荷を降ろし終え、荷馬車から降りて物資に群がる村人たちに目を向ける。
どいつもこいつもバーゲンセール中の主婦みたいに目を血走らせて物資に手を伸ばしていた。
彼ら彼女らの必死さは、心の底から明日も生き抜いてやるぞという強い意志からくるもので、その熱気は見ているこっちまで熱くなってくるほどの力を感じた。
彼らこそ自然と共に生きる者だ。ハンターが自然と調和して生きてゆく最たる者というが、そんなのはこの光景を知らない連中の戯言もいいとこだ。
ここには自然界に勝るとも劣らない弱肉強食の摂理が確かにあった。自然界だけじゃない。人社会にだって確かに自然はあるのだ。
俺は彼らの生存争いを見届けると、踵を返し、家へ帰った。装備を外し、インナー一丁だけの姿になると俺は一息ついた。
さてと。明日はギルドの依頼で密林行きだ。なら精々英気を養うとしよう。
さっと体を拭くと俺はベッドに飛び込んでさっさと寝た。意識が消えるその時まで、村人たちの優しい生存競争の喧騒が聞こえていた。
加工屋の兄ちゃんってすごいんですね。